二次創作小説(紙ほか)

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薄桜鬼×緋色の欠片
日時: 2012/09/26 13:48
名前: さくら (ID: cPNADBfY)



はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです


二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要


二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい

それではのんびり屋のさくらがお送りします^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.89 )
日時: 2013/06/23 14:39
名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)

一方屯所では闇を縫うように動く影が二つ。
静まり返る屯所内を無駄の無い動きで捜索していた正彦は後ろに続く清次郎に声をかけた。

「伊東達も今夜は飲みに行くと言っていたな」
「えぇ、恐らくは夜半までは戻らないと思うわ」

清次郎の返答に正彦は頷くと振り返った。

「じゃぁお前は伊東派の部屋を調べろ。俺は近藤派の部屋を探る」

清次郎は首を縦に振るとそこで解散となった。正彦は清次郎の背中を見送って、再び静かに廊下を歩く。
目指しているのは西の部屋。端の部屋から順に幹部達の部屋を探るつもりだ。
正彦は西端の部屋に着くと息を殺してそっと襖を開ける。
誰もいないのは当たり前だ。この部屋は斎藤の部屋。今頃は角屋にいる。

「さて、それじゃ失礼しますよ」

捜索を開始する。新撰組に関して多くでも情報が欲しい。ここで珠紀達を見張るためならまずは敷地内を熟知する必要があった。人間関係から新撰組内の事情。知っておけばいかなる状況に陥っても打開の策を講じることができる。
それが潜入した者の役目だ。

「ふぅ…特に情報はないみたいだな…」

斎藤の部屋には私物が少ない。文机に衣装箪笥。押入れには布団があるだけで、捜索にさほど時間はかからなかった。

「次だね」

捜索された痕跡に気付かれないためにあったものは元にしっかりと戻して正彦は斎藤の部屋を後にした。




「だーっ!!やっぱ高い酒は違うなぁ!!」
「喉がきゅうっ!ってなるよな!きゅうって!!」

座敷に入るなり慣れた様子で酒を注文した藤堂と永倉はさっそく酒を口に運んだ。
次々に座敷には料理や酒が運ばれ、鮮やかな創作料理に珠紀は目を奪われていた。

「じっと見てるのもいいが、冷めないうちに食えよ」

向かい側の席に座っていた原田が苦笑して料理を勧めてくれる。珠紀は頷くと箸を手に取って前菜に手をつけた。

「…おいしい!これ、すっごく美味しいよ、千鶴ちゃん」
「本当?私も食べてみるね」

二人のやりとりを微笑ましく見守っていた原田の肩に肘が置かれ、体重がのしかかってきた。

「何だよー。女の子二人見つめてー」

完全に酒が回りはじめて永倉は原田に茶化すように絡んできた。

「別にそんなんじゃねぇよ。ただ、千鶴も珠紀がきて女らしく過ごせてるなって思っただけだ」

原田の台詞に永倉は盛大に噴いた。

「何だそら!お前は千鶴ちゃんのお父さんか!」

駄目だ。完全に酔っている。序盤から度のきつい酒を頼んだせいだろう。すきっ腹にもかかわらず貧乏性から先に高価な酒を注文したから瞬く間に永倉の顔は赤くなっていく。
潰れるのも時間の問題だな。原田はやれやれと溜息をつく。

「おい、真弘。それは…」
「何だよ、祐一」

隣に座っていた真弘の手元を覗き込んで祐一は声を上げた。

「酒ではないのか」
「酒だぜ?ひっく…ちょ、お前も飲んでみろって。すっげぇ美味いから」

ほんのり頬を染めてほろ酔いの真弘に祐一はその手から杯を奪った。

「あー!何すんだよっ」
「未成年は飲酒禁止だろう」
「ふふーん。お前ここは江戸時代だぞ?飲酒禁止は現代の話。今は江戸。というわけで酒飲んでもいいんだよー」

祐一から杯を奪い返して真弘は酌を開始する。呆れた。屁理屈もいいところだ。
再び杯を奪おうとすると後ろから腕を回されてそれもできなくなった。

「何だよー。お前等酒飲めねぇの?」

同じく頬を染めた藤堂が祐一の肩に腕を回す。

「俺達は二十歳を超えないと酒は飲めないんだ」
「はぁ!?二十歳!?何だそれ!俺なんか十四かそこらで飲んでたってのに!なぁ、今の聞いた!?左之さん!」
「へぇ。それはまた何で…」
「法律で決まっている。二十歳で成人式を迎えてからしか酒は禁じられている」
「いいじゃん!ここはあんたらの時代じゃないんだし!その、法律?よくわかんねーけど別に今日くらい飲んだって誰も怒らないって!」
「しかし…」

藤堂から杯を差し出され戸惑う祐一に真弘は横から茶化した。

「祐一は子供だから酒が飲めねぇんだよなー?」
「何、酒飲めねぇの?」

真弘と藤堂の茶化しに祐一の眉がぴくりと動いた。

「へぇ、下戸じゃしょうがねぇようなぁ。何だ飲めないのかぁ」
「飲めないのではない。飲まないだけだ」
「じゃぁ一杯くらいいいじゃんかー。飲めよー」

二人に迫られ祐一は渋々杯を受け取った。そして一気にそれを煽る。

「おー。良い飲みっぷり!」
「な?美味いだろ?」
「…確かに。ほのかに甘い味がする…」
「もう一杯、もう一杯」

三人で酒盛りを開始した。それと同時に襖が開いて、灯篭の光を浴びた妖艶な女性が姿を現した。

「おばんどすえ。旦さん達のお相手をさしていただきます、君菊どす。今夜はゆっくりしていっておくんなまし」
「おおー!!舞妓さんだ、舞妓さん!やっと京都にきたって感じだな!」
「真弘君。彼女は舞妓さんではなく芸者さんですよ」

君菊の登場に相当嬉しかったのか真弘は声を上げた。

「先輩飲みすぎですよ。鼻の下伸びてるし」
「馬鹿言え!鼻の下なんか伸びてねーよ!!」

美人には目が無い真弘の視線は君菊に釘付けだ。呆れた珠紀は幻滅の表情を浮かべる。

「お姉さん!俺にも酒注いで!」
「はい」

真弘は杯を掲げて君菊を呼びつける。
宴もたけなわとなり、座敷は盛り上がる。そうして話題はあの夜の話となった。

「なぁ左之さん。こんだけ報酬が貰えたんならもっと捕まえてればたんまり報酬貰えたんじゃねぇの?どうして取り逃がしたんだよ?数人は捕らえたんだろ?」

新八の言葉に面々は同意の様子で原田を見つめた。

「あー…その…一旦は全員捕まえたんだけどよ…」
「けど?」
「一人乱入してきて捕らえていた浪士を逃がしたんだよ…」

言葉を濁しながら原田は視線を泳がせる。その様子に一同は首を傾げた。珠紀だけはその場にいたからわかっている。どうして原田が口ごもっているのか。
そうして隣に座る千鶴にそっと視線を移す。

「…千鶴ちゃん、あの晩。どこにも行ってないよね?」
「え?」

突然話をふられて困惑した。千鶴は何のことだと目を丸くする。

「本当に?あの晩、お前は屯所にいたか?」
「…?はい。三条になんて行ってませんよ。第一、私一人で三条まで行けませんし…」

原田の疑心の視線にたじろぎながらもきっぱりと千鶴は言い切った。それを聞いて原田は安堵したように笑った。

「そうか。悪かったな。疑ったりして」
「いえ。でも、その逃がした人が私の顔に似てたんですか?」
「あぁ。あの晩は月も明るかったし、見間違えるはずがねぇ」

そんなことがあるのだろうか。千鶴は考え込むとひとつの声が上がった。

「あの子じゃない?ほら、前に巡察のときに町で会った…南雲薫だっけ?平助も居たよね」
「え?あ、あぁ。そうかなぁ?総司は似てるって言ってたけど、俺はそうは思わなかったんだよなぁ」
「何だそれ」
「何せ向こうは娘さん姿だったしなぁ」

藤堂が千鶴に視線を投じて思案しているのか首を傾げる。

「何の話?」
「あ、あのね。前に町で浪士に絡まれて困ってた人を助けたんだけど…その人が私とそっくりだって沖田さんが…」
「もしその者が浪士を逃がしたのなら、目的は?」

斎藤の問いには誰も答えられない。何だか不思議な話だ。

「まぁ、そう気に病むなよ、千鶴。別にお前のせいじゃないんだからな」
「はい」

原田の言葉に千鶴は頷いた。そこでその話題は打ち切られた。摩訶不思議な話だが、誰も答えがわからない。浪士を取り逃がしたことは残念だが、今は宴会の席だ。
時化た話はなしだ。再び座敷が盛り上がりをみせる。
原田が恒例の腹芸を始め、座敷は一気に盛り上がった。
土方が酔い醒ましに座敷を離れたのを見止めた千鶴は、腰を上げて土方を追う。
隣の部屋で出窓に腰掛けていた土方は千鶴の登場にさほど驚くこともなく、どうしたと視線だけで問うた。

「良かったです」
「何がだ」

急に安堵の表情を浮かべる千鶴に土方は首を傾げた。

「宴会、楽しんでいるみたいで…無理に休息をとっているんじゃないかって思ってしまって…」
「たく、お前も心配性だな。休息のときはちゃんと休んでる。それに、昔じゃ試衛館に居た頃じゃ宴会なんてしょっちゅうだ。あの頃は金もなくて、でも毎晩のように酒を飲んで盛り上がって…あの頃が夢みたいだ…」
「夢、ですか?」

冷たい夜風が火照った今の体には心地よい。土方は目を細めて色町の光景を眺めながら優しい口調で続ける。

「薬箱背負って商売していた昔の自分が、今こうして刀を差してお上からも頼られるようになっている…長くて幸せな夢を見てる気がしてならねぇんだ」
「土方さん…」

懐かしい過去を思い描く反面、これまで辿ってきた苦しくも困難を越えてきたからこそ今の自分が信じられないようだ。努力したその分が今成果として表れている。辛く苦しんだ過去をようやく懐かしむことができる。これはなんという幸せなのか。
幸福を噛み締めているのは酒の力もあるだろう。今まで仕事に追われてそんなことを考える暇さえなかったのだ。余韻に浸ることも今は必要だ。
千鶴はただ微笑んで土方を見つめた。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.90 )
日時: 2013/06/23 14:43
名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)

座敷の面々も酒が回り、宴席は大盛り上がりだ。珠紀は視線をぐるりと座敷の中を見渡す。原田と永倉、藤堂を中心に騒いでいる。それを近藤は微笑んで眺め、寡黙な斎藤は静かに酒を飲み進めていた。君菊は真弘に付き添い、祐一は酒を飲みすぎたのか黙りこくっている。大蛇はたしなむ程度にしか酒を飲んでいない。
沖田はつまらなそうに料理も手をつけず、一人で酒をゆっくりと飲んでいる。
珠紀は意を決して自分の席を立った。そして開いていた沖田の隣の席に座る。

「…何?」

人を寄せ付けない空気を纏っていた沖田に一瞬挫けそうになったが、珠紀はめげずに口を開いた。

「あの、怒ってますか…?」
「何のこと?」

きっぱりと切り返してきた沖田に珠紀は気が付いた。回りくどい言い方がこの人は嫌いなのだ。珠紀は思案してからもう一度言葉を紡ぐ。

「私達がいつまでも素性を話さないことについて、怒っていますか…?」
「どうしてそう思うの?」

沖田は杯を膳に置いた。珠紀は一度もこちらを見てくれない沖田にまたもめげそうになるが、ぐっと堪えて言葉を考える。

「あの、何となく…」
「何となくで僕が怒ってると思ったの?それっておかしくない?」

確かにそうだ。ちゃんと考えて答えなければ意味が無い。
加えて沖田は相手が返答に困ることを平気で突いてくる。わかってはいたが、やはり一筋縄ではいかない人物のようだ。
珠紀は冷たい沖田の横顔を見つめた。

「すみません…でも沖田さん、あの日から何だか怒っているように見えたんで…」
「そうだね。正直僕は君達が好きじゃない」

沖田の隣に座っていた斎藤がちらりと視線を向ける。珠紀は瞳を揺るがせ、沖田の言葉の続きを待った。

「勝手に現れたと思ったら勝手に入隊して…面倒ごとを押し付けてきたのに、自分達のことはだんまりだし。それってどれだけ勝手なことか、わかってるの?」

沖田の言葉は正しい。だから珠紀は何も言い返せない。黙って並べられる言葉を聞く。

「近藤さんは優しいから…困ってる人がいれば助けちゃうから。今回君達を受け入れたことは認めても、僕は君達を信用してないからね。だって僕たちを信用してないから素性を話さないんでしょ?」

ようやくこちらを見た沖田の目には失念の色が見えた。珠紀は何も言えなくなる。珠紀の沈黙を肯定と受け取った沖田はさらに続けた。

「それってどうなのかな?世話になってる人にそれって失礼になるんじゃないの?」

ここにきて珠紀はようやく理解した。沖田が怒っている理由を。

「…私達が信用してなかったから…」

沖田の眉がぴくりと動く。珠紀は沖田を見つめて確認するように言った。

「私達が信用していなかったから…だから…」

沖田は以前言っていた。どうして素性も知らない者を信用しろというのか、と。
あれは珠紀達のことを言っていたのだ。信頼すら寄せない者達と生活を共にできない。
沖田は自分達をもっと信用して欲しいと言葉の裏で言っていたのだ。

「すみませんでした…」
「謝られても困るんだけど?」
「それでも…すみません…」

珠紀は目を伏せた。自分達の都合で迷惑をかけないように素性は明かさないでおこうと思っていたことがかえって迷惑をかけていたのだ。

「…どうしても言えなかったんです…もし言ってしまえば危険な目に遭わせてしまうかも知れません。もっと迷惑をかけるかも知れません…だから」
「言えなかったんでしょ?それって傷つくなぁ…迷惑とか考えてたの?僕たちは壬狼だよ?多少の危険や困難には慣れてるから」

その時、珠紀は気付かされた。信用できない、と言っていた沖田の口からそんなことを聞けるなんて。
信用していなかったのは珠紀達の方だった。沖田は信を置いてくれていた。少なくともそれは確かだ。
でなければこんなことを言わない。まるで迷惑をかけてもそれは仲間だから仕方が無い、と言っているようで、珠紀は嬉しくなった。

「はい…っ!ありがとうございます」
「…君ってさ」
「はい?」
「いや…千鶴ちゃんと似てるなぁって思って。特にそうやって大げさに喜ぶところとか」
「嬉しいんだから喜んじゃだめですか?」

珠紀は徳利を取って沖田に突き出す。

「男の子に酌してもらうなんて思っても無かったなぁ」
「失礼ですけど、私は女です」
「あぁ、そうだったっけ?」

意地悪い笑みを浮かべて沖田が笑った。珠紀の不機嫌な顔を見てさらに笑っている。
沖田はすっと杯を差し出しそこに酒を注いでやった。一気にそれを煽って沖田は一言呟いた。

「美味しい」





その後も宴会を楽しんでいた珠紀は厠に席を立った。
それを見計らった沖田は杯を膳に戻す。そうして口を開いた。

「心配性の女の子達もいませんし、今なら話してもらえるかな?大蛇さんだっけ?」

沖田の声にその場が水を打ったように静まり返る。
指名を受けた大蛇は微笑すると居住まいを正した。

「そうですね。珠紀さんも今はいませんし…お話しましょうか。私達のことについて———」

大蛇はすっと目を閉じて、一呼吸の間口を閉ざした。緊張が一気に張り詰める。
次に大蛇が目を開けたときに、空気は一変した。

「昔、遥か昔。気の遠くなるような昔です。神がというものが存在していた時代。私達の運命はそのときから因果を刻んだのです———」





中庭を望みながら廊下を歩いていた珠紀はふっと息をつく。どうも最近緊張した日々が続いて肩に力が入っていたらしい。こうして楽しむことができて気が少し楽になった。

「後で原田さんにお礼言わなくちゃ」

彼の配慮のおかげだ。大蛇も同席を許してくれたことも後であわせて礼を伝えなければ。
口元に自然と浮かんだ笑みに幸せを感じながら珠紀はそっと視線を上げた。
中庭はきちんと手入れされ、季節の花々が咲き誇っている。箱庭状の構造になっている角屋は中庭から、どこの部屋も客が入っているのか部屋が明るい。爛々と光に満たされた中庭の一階に珠紀はいる。
視線を上げれば二階、三階と部屋が並び、どこからも楽しげな声が聞こえてくる。
三階の部屋に芸者が呼ばれたらしい。数人の芸者が一室に向かっていた。

「綺麗だなぁ…」

豪奢な着物に負けないその容姿に珠紀は同じ女でありながら感嘆してしまった。

「特にあの子。身長は私と同じ位かな…可愛いなぁ。あのぱっちりした目なんか、慎司君にそっくり…」

直後、珠紀は目を瞬いた。今私———。
もう一度芸者たちの中にいる一人を見上げて目を凝らした。間違いない、あれは———

「慎司君!!」

鮮やかな着物で着飾ってはいるが、見紛うはずがない。あれは慎司だ。
だが珠紀の声に反応しない。珠紀は部屋の喧騒に掻き消されて聞こえないのだと思い、もう一度息を吸い込んで叫んだ。

「慎司君!!!慎司君っ」

ようやく慎司がこちらを見下ろした。あぁ、やっぱり慎司だ。珠紀が安堵した同時に胸騒ぎがした。
慎司の瞳には何も映っていない。珠紀を見ているはずなのにまるで心がないような———

「慎司君…?」

珠紀も男装しているためわかって貰えないのかと不安になった。だが、慎司は何も聞こえなかったかのように再び前を向いて部屋に入ってしまった。

「え、え?慎司君…?」

いつもの愛くるしい表情はどこにもない。凛として清ましたあんな顔など初めて見た。

「人違い…?」

そんなことはない。化粧をしていたとは言え、あれは慎司だ。
どんどんと不安が胸に広がる。
どうして慎司は女装をしているのか。どうしてここにいるのか。どうしてさっきの呼びかけに応えなかったのか。
珠紀は不安になって駆け出していた。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.91 )
日時: 2013/06/23 14:50
名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)

しばらく夜風で酔いを醒ましていた土方はゆっくり立ち上がると隣の部屋に視線を送った。

「土方さん?」
「急に隣の部屋が静かになったと思ってな。何だ?」

そう言われれば先ほどまで騒いでいた声は静まり返っている。千鶴も気になって立ち上がろうとしたとき、窓から景色が見えた。
色町を明るく照らす提灯は幻想世界のように淡く照らす。軒を連ねる店の前の道を人々が行き交っている。
その人垣の中に見覚えがある人物を見止めて息を呑んだ。

「…風間さん…っ!!」
「どうした、千鶴」

千鶴の様子に異変を感じた土方は駆け寄って彼女の視線の先を追う。
往来の中に風間の姿を見つけ出し、土方は目を丸くした。

「まさかお前を追って来たのか…!?」

向こうはこちらに気がついていない。単に酒を飲みに来たのか千鶴を狙って来たのかは定かではない。
土方は千鶴の手を取ると隣の部屋に飛び込んだ。

「おいお前等、宴会はここまでだ。ややこしいことになる前に帰るぞ」
「え、え?どうしたんだよ、土方さん」
「ちょっと土方さん何ですか。折角今から話が———」
「風間がいる。面倒くせぇことになるまえにずらかるぞ」

風間という名前に幹部たちの表情が険しくなる。土方の言葉に頷いた幹部は立ち上がり、宴会を仕舞いにした。

「“かざま”って…」

以前お千が危険な男のことか。新撰組の面々も知っているのだろうか。思案する真弘はその男の顔を拝みたいと思ったが、それはどうやらできないらしい。幹部の表情が嫌に険しいのだ。真弘は仕方なく席を立った。
ふっと周りを見渡して大蛇が声を上げた。

「珠紀さんは?」
「え、あれ?厠に行ってそれっきり…」

突然。上階から喧騒が角屋に響いた。何事かと部屋を出て確認すると、三階の部屋で誰かが揉めている。それを確認した一同は目を丸くした。

「珠紀!?」

騒動の中心に珠紀がいた。




「慎司君!!」

三階まで続く階段を駆け上がり、目的の部屋まで急いだ。そして部屋に着くと勢いよく襖を開けた。

「何だぁ?お前」

部屋が霞んで見えるほどの煙霧のなかには男女がひしめき合っていた。芸者は男の胸に抱かれ、男達は思わぬ人物に鋭い視線を送る。全身に痛いほどの一瞥を受けてもなお、珠紀は自分を奮い立たせ、部屋に入った。

「慎司君…」

中肉中背の髭面の男の太い腕のなかに、慎司がいた。男にされるがまま、その腕の中に収まっている。その様はまるで醜い獣にさらわれた姫のようだった。

「慎司君、こんな所で何してるの?どうしてこんな格好…」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!!」

慎司を抱いていた男が腕を振りかざした。

「っ———!!!」

突き飛ばされた珠紀は隣の部屋を仕切る障子にぶつかり、激しい音を立てて崩れた。

「おい、こいつ一体何なんだ」
「人様の部屋にずかずかと入ってきて人の女を横取りしに来たのか、あぁ?」

男達が刀を手に立ち上がる。肘をついて上体を起こす珠紀は男達に取り囲まれた。珠紀は男達の隙間から慎司を探した。
芸者達は騒動に血相を変えて部屋から出て行こうとする。そのなかに慎司の姿を見止めて珠紀は声を上げた。

「待って、慎司君!!ねぇ、私が誰かわからないの!?慎司君!!!」

立ち上がって慎司を追うとするが男達に阻まれてそれも叶わない。珠紀はそれでも腕を伸ばして慎司に触れようとした。

「慎司君!!」
「さっきからうるせぇな。こいつはここの芸者だ。お前みたいなガキが触れていい女じゃねぇんだよ!」

またも男達に突き飛ばされて畳の上に倒れる。背中を強く打ちつけ、肺腑を痛めた。一瞬呼吸が出来なくなる。
痛みに耐えながら珠紀は視線を泳がせた。慎司君。慎司君。

「それに、こいつの名前は慎司じゃねぇぞ、糞ガキ。こいつはお志之だ。なぁ、志之。こいつはお前の知り合いか?」

男が嘲笑うかのように珠紀を眼下に見て、注いで慎司ならぬ志之に視線を投じた。
声をかけられた志之は襖に手をかけ、退出する間際だった。

「慎司く———」
「いいえ。このようなお方、会うたこともありまへん」

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.92 )
日時: 2013/06/23 14:52
名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)

「いいえ。このようなお方、会うたこともありまへん」

きっぱりとした声。その声は慎司そのものなのに、その表情は別人だ。感情をなくした人形のように冷め冷めとしていた。
地に突き落とされたような感覚が珠紀を襲う。やっと出会えた。そう思って嬉しかった。一人守護者をあちら側に残っていた慎司はさぞ心配していたに違いない。だがここに来ることは間違いなかった。守護者が四人も会したのだ。きっと慎司もこちらに来ている。
そう思っていた矢先に見つかったのだから珠紀はこの上なく安堵していた。

「しん、じ…くん?」

今目の前にいる人物は誰だ。顔は慎司だというのに、その凛とした出で立ち、纏う空気が違う。
人違いなのか。否、そうではないはずだ。珠紀の本能が非と唱えている。
だのにどうしてこんなに不安になるのか。あの優しくてちょっと不甲斐なくて、それでも一生懸命なあの可愛い姿はどこにいったのだ。
唐突に悲壮感に襲われて珠紀は一瞬放心する。そんな珠紀を気にする様子もなく志之は部屋を出て行ってしまった。はっと我に返ったときには部屋に志之の姿はなく、珠紀は慌てて立ち上がった。

「慎司君っ!!」
「っ懲りねぇやつだな!!」

立ちはだかる男達を押しのけようと珠紀は部屋を出ようともがく。男の手をすりぬけて廊下に出るが、もうそこに志之の姿はなかった。
やっと会えたと思ったのに。あれは人違いだったのか。悲しみと困惑に暮れる珠紀に、酒に酔い、宴席を邪魔されたこともあり、男達は一斉に刀を抜いた。

「何やってんだ、あいつ!!」

真弘は三階にいる珠紀から目を離さないように駆け出した。
それに続いて大蛇も駆け出す。祐一は別の方向に視線を投げてそちらに走り出した。

「トシ…」
「近藤さんはこいつを連れて先に帰ってくれ。他の奴等もだ」

千鶴を近藤に渡して、土方は下知を飛ばした。
三階を見上げて土方は舌打ちする。

「何をやってんだ、あいつは…!!」


「このガキ!人が楽しんでるところを邪魔しやがって!!」
「斬ってやらぁ!!」

男が両手で刀を握り、珠紀に詰め寄った。逃げ道を探そうとしたが、男達に囲まれて退避する場所もない。珠紀は目の前に迫る男を見つめることしか出来なかった。
刀の切っ先が珠紀に迫る。
ひゅっと軽い風切音が他の部屋にいた芸者たちの悲鳴によって掻き消された。

「誰に手を上げたのか…わかってんのか、おっさん」

刀を素手で受け止めた真弘は流れる血に目もくれず、男を睨み据える。

「こ、こいついつの間に…!!」
「知人が失礼を致しました。どうか刀をお収めいただけないでしょうか」

大蛇が優雅な足取りで男達の前まで歩く。

「はぁ!?何言ってやがんだ!こいつは俺達の酒を不味くしたんだぞ!!」
「確かに。私からもお詫びします。ですが易々と抜刀し、年端もいかないただの少年に男が何人も…というのは聊か笑いを感じますね」
「何言いたいんだ、この!」

一人の男が大蛇に刀を振り上げる。だがその刀は大蛇に触れるほんの手前で弾かれた。まるで見えない壁に阻まれたように跳ね返ってきた刀に男は目を丸くする。

「恥を知れ、と言っているんですよ。たかが少年一人に大人が群がって刀を抜くなど、笑止千万。それにここは仮にも飲み屋です。他の客や芸者のことも考えずに…いい迷惑です。それ以上刀を振るというのなら私もお相手いたしましょう」

何も言わせない覇気に満ちた笑みに男達がたじろぐ。淡々と正論を並べられ、酔いもすっかり醒めた男たちは別が悪そうに互いの顔を見合わせた。

「…ちっ!!胸くそわりぃ!!」

男達は次々と毒を吐いて部屋を後にしていった。真弘も男の刀を解放してやると男達が退出するまで構えを解かなかった。
騒動が収まると真弘はつかつかと珠紀の元まで歩くと拳で軽く頭を叩いた。

「馬鹿かお前は!一人で何やってんだよ!!お前自分が何したのかわかってんのか!!」

怒鳴る真弘に珠紀は反論することも忘れて呆然としていた。へなりとその場に座り込むと珠紀は理解できない、と言うように首を振る。

「どうして…慎司君…」
「大丈夫ですか、珠紀さん。真弘君の言うとおりですよ。一体どうして…」
「慎司君がいたんです。さっき、ここに…だから私…」

大蛇が珠紀の肩を抱いて彼女の姿勢を保ってやる。珠紀は困惑しきった様子で大蛇を見つめた。

「犬戒君が?何故ここに…」
「私、何度も慎司君って呼んだのに…あの目は…まるで…」

珠紀を拒絶しているようだった。珠紀の存在すら知らない。そう言っていたようで、珠紀は困窮した。どうしてそんな顔をするの。どうして私を覚えていないの。

「人違いじゃねぇのか。顔だけ良く似てるとか」
「違う…あれは慎司君だったの…私の、玉依の血がそうだって言ってる…だから、余計にわからないの…」

男達に囲まれ珠紀が危険に陥っても慎司の表情は何一つ変わらなかった。あれは本当に守護者の慎司だったのか。

「俺も珠紀の意見に同意だ」
「祐一」

駆けつけた祐一は静かに言った。

「珠紀が誰かを呼び止めていると思って、その人を追いかけてみたんだ。そうしたら…」

慎司がいたという。だが慎司は珠紀同様、祐一の存在に気づく様子もなくそのまま芸者しか入れない部屋に姿を消したというのだ。

「どういうことだ?慎司だけと向こうは俺達を知らない?」
「わからない…だが慎司に間違いはない」

一体何だというのか。一同が顔を見合わせて考えていると土方の声によって遮られる。

「お前等!早く降りて来い!さっさと帰るぞ!!」

店に迷惑をかけたのだ。それが新撰組の身内だと知れると何かと厄介だ。加えて風間という男が近くにいるらしい。面倒ごとになる前にずらかるという話のようだ。
珠紀を立ち上がらせ、四人は足早に階段を下りる。

「何があったかは後で聞く。今は店から出るぞ」

土方と合流して、四人は店を後にした。珠紀は何度も角屋を振り返りながら色町を出て行った。

「慎司君…」

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.93 )
日時: 2013/06/24 22:37
名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)

「こんなもんか…」

正彦は立ち上がって呟いた。
幹部の部屋は今居る土方の部屋が最後だ。文机の上に並べられている資料や文に一通り目を通してそれらを元に戻す。
土方という人物は新撰組の核とも言える人物らしい。他の幹部より多くの情報を持ち、会津藩との掛け合い、隊の管理、政の変動などを一任されている。
膨大な資料をあらかた記憶した正彦は今新撰組がどのような状況なのかを理解した。

「何だこれ…」

文机の引き出しに隠されたように仕舞ってあった帳面を見つける。手にとって中を確認すると、正彦の口端がどんどんと吊り上った。

「なるほど…副長はどうやら繊細な方らしい」

帳面にはいくつもの詩が綴られており、どれも見ているこちらが恥ずかしくなるような詩ばかりだった。意外な一面も知れて、正彦はほくそ笑んだ。

「よし。次は…」

痕跡を残さないようにして土方の部屋を後にして今度は北の方角に目をやる。
屯所の部屋の配置を確認したときからきになっていたことがある。
それは北の方角に倉のようなものがいくつも点在していたことだ。その倉の数はかなりある。寺だったこの場所を改造して使っていると知った正彦は更に違和感を覚えた。
夕刻になるとそこから異様な気配を感じる。まるで隔離されているようなその倉からは只ならぬ雰囲気があった。聞けばその倉には近づいてはいけないという御触れも屯所内で出されているらしい。

「きな臭いな…」

正彦は懐に仕舞ってある札を確認してから北の方角に歩き出す。
夜半を過ぎていることもあって辺りは静寂に包まれている。だが、北の倉に近づくにつれ、微かだが音が聞こえた。
忍び足で正彦は一つ目の倉に近づく。入り口は頑丈な錠前で封鎖されていた。

「これは何かあるね…」

耳を清ませば物音がその倉から聞こえてくる。正彦は一歩下がって周囲を見渡した。
近くに太い木を見つけそこに登る。背の高いその木に登ると、倉にある一つだけの窓から中が見えた。

「…っ!?」

正彦は息を呑んだ。もう一度目を凝らして確認する。
小さな窓から見えたのは白い髪の男達だ。三人、いや四人部屋の中を徘徊している。その目は赤くまるで何かを求めているようにうろついていた。
その赤い瞳はどこも見ていないというのに強い意志だけは感じられて、その光景に正彦は戦慄した。ぞくぞくと悪寒が背中を走る。

「何だ、こいつらは…」

次の倉は更に酷い惨状だった。中にいたのは三人。正確には五人だが、そのうちの二人は床に倒れ血を流していた。その死体に群がるように三人は蠢いている。

「っ…人が、人を…」

どの倉も白髪の男たちが赤い目を爛々と光らせ彷徨っているようだった。酷い蔵は見るに耐えないものもあった。

「一体ここは何だ…」

地獄絵図。まさにそんな言葉が似合った。
わかったことはいくつかある。
まずは何らかの理由で白髪の男達を隔離する必要があった。そして厚い壁で作られた倉は防音となり、外には倉に人がいないと思わせその存在を隠蔽している。
倉によって様々だが、その白髪の男たちは何かを欲していることがわかった。恐らくそれは———

「血…」

中に居る白髪の男達同士で血肉を貪っている倉もあった。
それは倉によって様々でただ彷徨っている場合もあれば、違う倉は既に地獄と化している場合もあった。
そこでこの症状の重度に合わせて倉を割り当てられていることがわかる。

「…どうなってるんだ…ここは…」

新撰組という組織に底知れない闇を感じる。世間には決して知られていない、別の顔。
正彦は最後に大きな倉に着いた。他の蔵とは違い、扉には錠前がない。
そっと気配を殺して扉まで近づいてみる。音は聞こえない。無人の部屋なのだろうか。
扉を少しだけ押してみると開いた。僅かな隙間から中を確認する。
誰も倉にはいないらしい。正彦はするりと倉に入った。
倉を改造して造られたその部屋は生活感が感じられた。畳を敷き、障子で部屋を仕切っている。
奥の部屋に近づいてそっと障子を開ける。中には誰もいないが、その光景に正彦は目を丸くした。

「…何だ…これ…」

その部屋は窓からの月光で明るく十分に見渡せた。だが異様なものまで照らし出していた。
机の上には硝子瓶に入った赤い液体がいくつもの管につながれ、またその管の先には硝子瓶があり、異様な空気が漂っていた。
沸騰しているのかはたまた化学反応か、ある液体は泡を出し、ある硝子瓶の中の液体は煙を出している。
どれも血のように赤い液体だ。
壁には所狭しと文字が綴られている紙が貼ってある。床は書物でいっぱいだ。

「何だ…ここは…」

部屋を見渡して正彦は近くにあった書物を手に取る。
始めの頁にはこう綴られていた。

『綱道さんの変わりに私が変若水を研究することとなった。私にできることはこれしかない。羅刹に身を落とした私はこれしかできないのだ。綱道さんもまだみつからない。私は変若水を正常なものにするための研究を今日から行う』

次の頁をめくる。

『慶応二年三月十二日。昨日作った新薬を試験管に移し、変若水を投入。見た目に変化はない。人間に試飲させた。泡を噴いて卒倒したが、そのまま羅刹化。凶暴な人格へと変貌。適用しなかった。次も同じく———』

「何だって…?おち、みず?らせつって何だ…」

正彦は更に読み進める。

『慶応二年五月三日。薬液を変若水に溶解。見た目に変化なし。それを人間に投与。無事適応。羅刹化しても吸血衝動はしばらくでなかった。血の臭いを嗅いでも吸血衝動は起こらなかった。成功したかに思ったが急に血を吐いて倒れた。薬液が内臓を破壊してしまっていたようだ。薬液を溶解することで羅刹としての治癒能力が低下し、その後死亡が確認される。吸血衝動は起こらずとも治癒能力はなくなってしまった。これでは失敗といえる。そのため改良の余地があり———』

「まさか、これが…」

顔を上げて部屋に並ぶ赤い液体を見渡す。
この液体が変若水で、今までの倉に閉じ込められていた男達はその実験に使われた者たちなのか。
戦慄を通り越して眩暈が起こる。

「一体ここは何だ…」

正彦は床に散らばる資料を漁った。この変若水についてはたくさんの情報がほしい。変若水とは何なのか。一体なぜこんなものを研究しているのか。
正彦はこの部屋の主の日記を見つけた。

「…これ……」

その日記は毎日つけられており、昨日綴られたばかりのものもあった。
日にちを遡り、正彦はある頁を開く。

『慶応二年九月八日。副長が少女を町から連れてきた。見た目は異様で髪も結わず、変わった衣装を着ていたという。その少女は気を失い、山崎君が処置に当たった』

『慶応二年九月九日。早朝に二人の男が捕獲される。町で暴れ回り、武士に反抗したらしい。その者達の話によれば、未来から来たという。昨日の少女同様、異様な格好をしている。彼らは興味深く、何かの役目を持っているという。加えて人を探しているようだ』

『慶応二年九月十日。彼らは入隊し、配属が決まった。春日という少女は原田君の隊に。鴉取という少年は藤堂君。鬼崎という少年は沖田君の隊に。土方君の監視の下、彼らは隊士として働きながら元いた場所に帰ろうとしている』

『慶応二年九月十三日。彼らが探していた人物が見つかった。松本先生に拾われたというその男も未来から来たという』

『慶応二年九月二十日。屯所内の大掃除。私は今日は外に出ないつもりだったが声がしたので外へ出てみる。そこには雪村君と鬼崎君の姿があった。わたしは鬼崎君に大変興味がある。土方君の話では彼らは人ならざる血が流れているらしい。彼らについてもっと知りたい。同日春日君が屯所を勝手に出て行った。帰って来たときには彼女は意識が無かった。どうやら外で倒れたらしい。雨が降っている』

『慶応二年九月二十一日。三条の制札警護にあたっていた原田君が夜に警護へと向かう。そこで浪士を数人捕獲。動向していた春日君がまたも未来から来た少年を連れてくる。彼も入隊することとなった』

そうして昨日の日付まできて、正彦の顔が凍りつく。

『彼らには異形の血が流れている。私は彼らの血を採取して実験に活かしたい。その特異な血を用いれば研究は発展するだろう。今度土方君と近藤局長にかけあってみることにする。了承が得られない可能性が高いため、そのときは別の策に出る』

ばたん!
正彦はその日記を勢い良く閉じた。
これは何だ。この日記の主は誰だ。何が目的でこんなところに———

「そこに誰かいるのですか?」

ひとつの気配が正彦に近づいていた。


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