二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.155 )
- 日時: 2013/08/28 16:10
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
「へ、え…!?偽物!?」
風呂敷の中身を確認した慎司は驚いた。現物を知っている慎司はそれを凝視する。どこから見ても本物の封具とそっくりだ。
「この時代の玉依姫に会ってきた。そこで俺と玉依姫とある作戦を実行したんだよ」
「玉依姫と…?作戦…?」
遼は笑みを絶やさず、火鉢の炭を広げる。火花が爆ぜて、手元が一瞬明るくなった。室内の温度が徐々に上がる。
「偽の封具を使って風間を騙し、封印をやり直す」
「封印をやり直す…?」
慎司は信じられないというように言葉を反芻する。封印をやり直す、とはどういう意味なのか。
「この時代の玉依姫は体が弱い上に幼い。加えて守護者は一人。どうやったって力不足で…次の世代の玉依姫に負担をかけたくない、と封印を強固なものにしたいそうだ」
「…だから僕たちが呼ばれたんですか…そんな、どうやって未来から僕たちを呼んだんですか…」
玉依姫の願いは理解できないことはない。その想いはいつだっていつの世の姫や守護者が痛切に願ってきたものだ。
だが、いくら力不足だからといってそんなことができるのだろうか。
「お前はわかってたのか。この時代の玉依姫が俺達をここへ呼んだってこと」
「何となく…だったんですけど…珠紀先輩達と会って気付いたんです…誰かの何らかの意図で僕等はここにきたんだって…」
「この時代の姫は恐らく珠紀より力がある…が、体が弱いために無理ができない。だから珠紀を呼んで再び封印することを願った…どうやって俺達をここへ呼んだかは俺も知らねぇがな」
遼は何の力も持たない封具を見つめて呟いた。
「やっぱりどの時代の姫も強情だったよ。その魂の本質は変わってない」
遼は呆れたように言ったが、どこか嬉しそうだった。今でも思い出すだけで口元が緩む。珠紀と同じ、真っ直ぐとした瞳。己の決めた意志は絶対に覆さない。その意志の強さは変らないのだ。
「…じゃぁ貴方が今やっていることは…」
「そう。風間が鬼斬丸を盗んで我が物にしようとしている。俺はそれを止める。そのためにはこの偽の封具を使う。『これを壊せば封印は解ける。けど簡単には壊れない』そうやってあいつに嘘の情報を教えて、時間を稼ぐ」
「時間を稼ぐ?何のために…?」
慎司は小首を傾げる。そこまで策を巡らせる時間があるのなら風間から刀を奪取すればいいのでは、と慎司は思った。
「この時代の玉依姫がいずれこっちへ、京に来る日まで」
「ここに?」
「そう。姫がこっちに来て鬼斬丸を封印する。それまで俺は風間に鬼斬丸を持たせてやる。
無理に奪ってしまうと事態が悪化するかも知れない。あの男は独占欲が強い上に執念深い…少し厄介な男だ。時間を穏便に稼ぐ方法を俺と玉依姫で考えた」
つまりその大役を遼と不知火は任せられた。
璞玉が京に赴くまで、風間の時間稼ぎをしてほしい、と。風間には封具を完全に破壊しないと封印が解けないと嘘を教え、その封具は偽物を使う。本物だと勘違いさせ、封具の破壊に手間取っている演技をして時間を稼ぐ。そして璞玉が京に辿り着いたときに風間から刀を奪い、封印を完成させる。これが璞玉が考えた策だった。
遼は芝居をうつために、この偽物の封具を作っていた。そのために風間のところへ戻ってくるのが遅れたのだ。
「でも姫がこっちへ来ても…本物の封具がなければ封印できないはずでは?」
慎司は逡巡してから遼に尋ねる。その問いに遼は少し困ったような、疲れたような曖昧な笑みを浮かべた。
「もちろん。本物を使う。“京へ来て本物の封具を使って封印する”」
「…っそ、そんなことをしたら、本当に、封印がっ…!!」
封印域から出したら最後、封具はその力を失う。そうなれば鬼斬丸は復活してしまうのだ。
「姫は一度封印を解いてから再び封印を試みると言って聞かねぇんだ。そうした方がより強固な封印ができるってな…」
「でもれは、賭けじゃないですか…!!」
慎司も経験したことだ。解放された鬼斬丸を破壊することにどれだけの時間と労力を要したことか。慎司はその苦労を味わっているため、姫の考えが無謀に思えた。
「もし、封印できなかったらどうするんです!?本物の封具があっても、京都にも同じように封印域がないと封具は…その役目を果たさない…っ!!」
慎司はとんでもない策略を聞かされて気が気でなかった。この時代の姫は大胆なことをする。それは一種の賭けだ。封印できる可能性は二分の一。一度解放した鬼斬丸は信じられない勢いで暴れ回るのだ。
「だから俺達がいるんだろ?」
焦る慎司とは反対に遼は落ち着いていた。だが、遼自身その作戦を実行できるか不安が残っているのだろう。苦笑しながら言葉を続けた。
「姫ひとりと守護者ひとりでは力不足だ。だから俺達が呼ばれたんだろ」
「そ…それは…」
珠紀と守護五家に加えて遼がこの時代に集えば、この時代の姫と守護者を合わせて行えばできるだろうと言っているのだ。
考えればできないこともない、と思うが鬼斬丸を破壊することは出来たからと言ってその自身はない。
「封印域も、ちゃんと準備できてる」
「え?ど、どこにそんな場所が…?」
遼の言葉に慎司は目を丸くした。封印域は玉依姫が力を注いで作り上げる空間だ。それは玉依姫の力でしか完成しない。
「新撰組」
「えっ…!?……あっ」
一瞬言葉を理解できなかった慎司はしかし、何か思い至ったのか声を上げた。
「その通り。今珠紀たちは新撰組にいるらしい。新撰組の屯所は方角、気流ともに封印域に適している。そこにはずっと珠紀がいる。あいつは無自覚だろうが、姫がその場にいるってだけでも封印域はできる。まして封印域を作るには抜群の場所にあいつはいるんだ。その心配はねぇだろ」
「…すごい…だからこの時代の姫は珠紀先輩達を新撰組に集めさせたんですね…」
慎司の呟きに遼は深く頷いた。慎司が珠紀と再会したあの夜。ずっと気になっていたことがあった。どうして珠紀達が新撰組にいるのか、という疑問だ。
珠紀の一向が店に来店した際に、他の芸者達が騒いでいた。それは騒然、という意味ではなく、新撰組はこの色町で色男としてもてはやされている。なかでも土方という男は芸者たちの間では人気の色男らしい。そんな連中が来店すれば店の芸者達は浮き足立つのだ。
そんな話を横で聞いていた慎司は首を傾げた。
その新撰組という組織に珠紀がいるのだろう。ついそこで知り合って酒を飲もうと店に入った、そんな浅い関係には見えなかった。和気藹々という感じで来店していたように思う。
どんな経緯があって新撰組とともにしているのかずっと気になっていた。
「封印域を珠紀先輩に作ってもらうために…」
「はじめは社の方に連れてこようとしたらしいが、姫が気付いたらしい。その新撰組は最高の条件が揃っていて、そこを封印域として使おうってな」
「…だから先輩は新撰組にいるんですね」
納得した慎司を遼はじっと見つめる。その視線に慎司は首を傾げた。
「何か?」
「何か、じゃねぇだろ。お前はどうするんだ」
「どうするって…?」
「この作戦に参加するんだろうな」
遼が確かめるように問うと、慎司は顔を曇らせた。
「…わかりません」
「わかりません?」
その答えに遼は顔を顰めた。てっきり参加すると思っていたからだ。全ての守護者が揃って何とか完遂できる作戦だ。それに加わらないとなると、封印が完成する可能性は低くなる。一人でも力があった方がいいのだ。
「…参加したいのは山々なんですが…僕はここから離れられない」
「何でだ」
遼の鋭い視線が突き刺さる。慎司は口ごもりながら言葉を紡いだ。
「僕は…薫君から離れられなし…この色町からは出られない…」
「…言っている意味がわからねぇな」
「だから、僕は———っ!!」
遼は薫を見据えたまま慎司の腕を掴み上げた。突然のことに驚く慎司は遼の行動の意味を悟った。
「じゃぁこの痣は何だ」
「ちょ、っと…!」
遼がしっかりと掴んでいる腕には痣が点在していた。どれも生々しく、最近つけられてものが多い。だがその痣は決して着物から見えないような位置に痣がつけられている。
「この痣と何か関係あるんじゃねぇのか」
「っ…」
慎司は顔を背けて唇を噛む。遼は構わずその腕を引くと慎司を押し倒した。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.156 )
- 日時: 2013/08/29 22:50
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
「なっ…に、して…っ!!」
慎司の前掛けに手をかけ、その間から素肌を見る。燭台の火がゆらゆらと揺れる。その淡い光に照らされた痣は浅黒く、肌に戒めとしてついているようにも見えた。
遼は慎司の両手を彼の頭の上で拘束し、片手で慎司の体の傷を確認する。慎司は押しのけようと体を捩ったが、遼の力には敵わない。
「ここにも…ここにも痣がある…どれも着物に隠れて見えない場所だな…お前、あの薫って奴に何されてんだ」
「放してして下さいっ…!!」
遼は慎司の拘束を解くと、距離をおいた。慎司は自分の着物を直すと遼を睨んだ。
「どうしても話す気はねぇのか…」
「…これは、僕の問題です…!!」
慎司は前掛けをぎゅっと握って苦しげに呟いた。
「どうでもいいが…」
遼は慎司との間合いを詰めると、その胸倉を掴んで顔を引き寄せた。
「お前が守護者であることを忘れるな…!」
「…っ」
そう言うと突き飛ばすようにして慎司を放した。
「そんなの、わかってます…!!貴方に言われなくても…!」
「だったら……!!」
遼は急に口を閉ざして襖に視線を走らせる。慎司も気が付いたのか慎司と同じように襖を睨んだ。
「随分と長いお話をされているんですね。私達の方はもう終わりましたけど、こちらはどうですか?」
襖を明けて現れたのは薫だった。にこやかに部屋に入ってくると遼の目の前まで移動する。
「お話はもう済みましたか?そろそろお暇しないと…この子も仕事がありますので…」
「仕事…ねぇ。あんたはこいつが男だってわかって色町に潜入させたんだろ。その理由は何だ」
「いえ、特に理由は。私に恩返しをしたいと仰ってくれたので、だったら情報を集めてほしいと、この仕事を…」
「ふぅん…どうかな…」
「何を仰りたいのかわかりません。志之。帰りますよ」
薫が慎司を見つめると急に彼は顔を引き攣らせた。そしてあの人形のような顔つきに戻ってしまう。薫が立ち上がると慎司も黙って立ち上がった。
二人はそのまま部屋を後にしようとする。
「おい、慎司」
遼の声に慎司は振り返ることなく、立ち止まる。
「珠紀はお前を待っている」
「……」
薫は遼に視線を投げ、次に慎司を見る。だが何も言わずに襖を開けると、そのまま出て行った。慎司も黙ったままその部屋を後にした。
「…何を隠してやがる…」
遼は静かに立ち上がると火鉢の炭に灰をかけてその火を消す。そして燭台の火も消して、その部屋を出て行った。
そして風間の部屋に戻ると愉悦に満ちた笑みで風間に迎えられた。天霧は湯飲みを片付けるために遼と入れ違うように出て行く。部屋には風間と寝転んでいる不知火がいた。
「何だよ」
「いや…それよりお前、見たんだろう」
「見た…?」
遼は部屋の出窓に腰掛けると風間を振り返った。
「あの慎司という男の体には痣があった…」
「気付いてたのか」
「体を庇うような動きがあったからな」
風間はうっそりと笑うと遼を見つめた。その楽しむような笑みが遼の勘に障る。
「お前とあの慎司という男…どういう関係だ」
「…ただの知り合いだ」
「未来からの、か?」
風間の言葉に遼は眉を顰めた。その言葉の含みに違和感があった。遼は風間の言葉を促すように押し黙る。
「俺がお前を拾ってもう三ヶ月…俺は別に構わんと思っていたが…そろそろ話してもらおうか…」
「何をだよ」
風間は立ち上がると壁に立てかけていた鬼斬丸を掴むと、それを遼に向ける。二人の流れを黙って不知火は見守った。
「お前は…どこから来た…何の目的で、ここに来た」
風間の赤い瞳が光る。遼はその鋭い眼光に怯えることなく、風間を睨み返した。
「お前の妙な気配…ずっと気になっていた…お前は何者だ」
「ふっ…」
「何が可笑しい」
遼に詰め寄った風間は眉根を寄せた。目の前で肩を揺らして笑う遼を怪訝そうに睨む。
「今まで俺のことを詮索しなかったあんたが、ここに来て気になるってことは…あんた、俺を信用してないのか」
「…」
不知火は黙って遼に視線を送る。何ともいえない空気が漂って、遼はくすりと口端を上げた。
「それとも俺が怖いのか。何者かわからない、未知という存在は恐怖だからな」
「誰に向かって言っている」
少し怒気を孕んだ風間の声が部屋に響く。侮辱されたとまではいかないが、矜持を傷付けられたのだ。風間は持っている鬼斬丸の切っ先を遼の首元に寄せる。いくら鞘に収まっているとはいえ、力を込めて首元に押し付けられているのだ。抜き身であれば確実に遼の喉仏を貫いている。遼は痛みと苦しさを覚えながらも風間を睨みつけた。
「お前のような人間を俺が恐れる?笑わせてくれる。所詮お前は人間にすぎんのだ」
「だったらそれでいいじゃねぇか。俺は人間だ。それ以外の何が必要だ?」
遼が不敵な笑みを浮かべる。その笑みに風間は一瞬声を失ったかのように何も言えなくなった。
二人を見守っていた不知火は内心で笑っていた。あの風間が一本取られた。刀を向けている風間の方が優勢に見えるが、実際そうではない。遼に上手く言い包められた風間が自分の失言に舌を巻いている。形勢は遼の方が優位だ。
「俺が何者か、そんなこと知る必要があるのか?俺はあんたの、鬼斬丸の封印を解いてやる。それで十分なはずだろ?俺はあんたに拾われたんだ。それくらいのことはしてやって当然だしな」
遼の言葉に今度こそ風間は押し黙った。
遼の言っていることは正しい。無理に正体を知る必要はない。ただ少し気になったから問うたまでだ。風間は興が失せたと言わんばかりに、鬼斬丸を遼の喉元から離した。
「…駄犬でなければいいがな」
風間はそう吐き捨てると鬼斬丸を持って部屋を出て行った。残された不知火と遼はしばらく経ってから小さく息を吐いた。
「あいつもそこまで馬鹿じゃねぇってことか」
風間が頭の回転が速い上に目敏い。遼と不知火が組んでいることには気が付いていないようだが、何かを感じ取ろうとしている。遼もそれに気づいた上で上手く風間の問いをかわしたのだ。
「しっかしお前、風間によくあんなこと言えるな。いやーあの、風間の顔。そうそう見られるもんじゃねぇぜ」
不知火はよくやったと称賛して笑った。だが遼は喉元を抑えながら不機嫌極まりない顔で不知火を睨む。
「お前もいたなら助けろ。あいつは勘が鋭い。今バレため面倒なんだよ」
「悪い悪い。お前のお手並み拝見だよ。風間にあれだけの口がきけんだ。大丈夫だろ」
不知火は飄々として笑った。ちっとも楽しくない遼は溜息をついて傍らに置いた偽の封具を見つめる。
「あとは…これであいつをどこまで騙せるか、だな」
「あぁ…気付かれずに、どうにかして時間を稼がないと…あの姫さんが来るまで」
二人は互いを見つめて苦笑する。本当に大変なのはこれからだ。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.157 )
- 日時: 2013/09/01 09:15
- 名前: アゲハ (ID: db3Hcctt)
- プロフ: 昨日、島根から帰ってきました!
お久しぶりです!
昨日まで、島根に行っていたのでその分今日まとめて見ました!
慎司君のあざ何があったのか気になります!
更新、がんばってください^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.158 )
- 日時: 2013/09/01 12:02
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
アゲハさん
おかえりなさい^^
島根へは旅行へ行かれたんですかね?
その慎司君にもまた色々あったりするんです
また読んであげてください
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.159 )
- 日時: 2013/09/01 12:03
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
光に溢れる色町をたくさんの人が往来している。昼のように眩しいその通りを慎司は黙って歩いていた。
先を歩く薫から離れてはいけないとその歩調は少し速い。薫はふいに後ろを歩く慎司を振り返った。
「何か余計なこと話していませんよね?」
「…はい」
念を押すような、有無を言わせないその剣幕に慎司は首を縦に振るしかなかった。
薫はそれでも納得していないのか、慎司の腕を引くと小さな道に入り、人々の死角に入る。薄暗く、人々の喧騒が遠のく。そこで慎司は息を呑んだ。
「僕の目がないからってあんまり油断しないほうがいいよ?」
「っ…薫君…い、た…っ」
薫が腕を掴む手に力を込める。慎司は顔を歪め、薫を見つめた。彼も女装していて、それなりに美人だ。二人並んで歩いていると人々が振り返るほどだ。
だが、今はその顔には鬼のような形相に彩られている。さっきまでの精錬さがなくなり、感情を剥き出しにしたような、そんな顔。
「僕から逃げようとした?あの遼って男に助けでも求めたの?僕から逃げられると思った?」
「違、…っ痛…!そん、なこと…」
薫の握る手に力が篭る。徐々に慎司の骨が悲鳴を上げていく。外見とは想像がつかないほどの怪力で慎司の腕を握る。
「逃がしてあげないよ。君は僕の駒だ。一生、僕からは離れられない…」
「ぁ…く…っ!!」
薫を見ると憎悪と独占欲の色が双眸に滲んでいた。慎司はそれを見て何も言えなくなる。
ふっと薫の手がゆるんだ。慎司は痛みに耐えていると今度は頬に手を添えられる。
驚いて慎司を見るとさっきまでの形相はどこへやら、うっそりと微笑して慎司の瞳を覗き込んできた。
「さぁ…わかったなら仕事へ行っておいで…慎司」
「……」
優しい声。優しい微笑。けど違う。瞳の色はさっきと同じ。慎司はそんな薫を見つめてぽつりと言葉を零す。
「僕が…いつか助けてあげるから…」
「まだそんなこと言ってるの?ふふっ。そんなこと君なんかにはできないよ。さ、店にお前がいなかったら店主は驚くだろ。さっさと行っておいで」
慎司はしばらく薫を見つめたあと、潜伏先である角屋に向かって一人歩き始めた。薫はその背中を見送ってから呟いた。
「君と僕は違う…」
人々の雑踏から離れた薄暗い小道に薫の声は静かに消えていく。一人佇む薫はふいに空を見上げた。色町には光が溢れすぎて、星の光が見えない。黒く塗りつぶした空だけが広がっている。一方足元を見ると、町の明かりは裏路地まで届かない。上を見ても、下を見ても自分は暗い闇のなかだ。
「こんな僕を君はどうやって助けるの…」
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