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六花は雪とともに
作者/ 火矢 八重

第一章 優しい雪女 page2
雪乃は両親の顔を知らない。物心を着いた時には、誰も居なかった。
身内は誰も居なくて、時々死にかけたことが多々あった。妖に襲われ、日に当たって溶けそうになったこともあった。自分から火に飛び込むと言った、単なるドジもかました(つまりおっちょこちょい)。
まあ、そんなこんなの時――一人の村娘に助けられたことがあった。
雪乃は大けがを負った。足が動かなくなり、どうしようも無く一人で泣いていた。そんな時、山菜摘みに来た村娘が通りかかった。
娘は大けがを負った雪乃に、すぐに手当てを受けさせた。優しい娘で、家まで来い、とも言われたが、その頃の雪女である雪乃には人の家にある暖炉が天敵の為、丁寧に断った。
彼女は雪乃が雪女であることは知らなかったけれど――それでも、あの娘の暖かさを、笑顔を、雪乃は何百年経った今でも忘れられないのだ。
その後、水の妖を纏める帝に拾われた。独り身である雪乃を、帝は快く人の世では『貴族』と呼ばれる高貴なるものたちの中に、入れたのだ。
両親の顔を知らない雪乃に、知恵を与え、力を与え、存在理由を与えた。家族も血は繋がっていないが、皆優しかった。
白龍も優しい。時々意地悪をするが、とても優しい義兄だった。
だから、帝には恩義を感じている。それを仇で返そうとは思っていない。帝は、雪乃にとっても大切な人だから。
それでも。
(帝の考えには、賛成出来ない……)
人も帝も妖も――私は好きだ。
雪乃は優鬱な気持ちを抱えたまま、住処に戻った。
◆
人々は自分たちが助かりたい一心で、巨大な仏像を何年もかけて作った。
仏にすがり、苦しみから逃れようと。
だが、それは大きな自然破壊へとつながった。
骨組みを作る為に、木々が伐採され、水銀が使われたせいで多くの命が奪われた。それは、動植物だけではなく、妖もだ。
それなのに、人々は命を奪ってまで出来あがった大仏を、崇めている。
帝はそのことに激怒した。自分たちの利益の為に、多くの命を奪った人間たちを。しかも、それを神々を敬うと称して。
人や獣が生きているのは水のお陰。妖は人間の為にも水を作ってきたのに、恩を感じず仇で返すとは。
怒り狂った帝はある命を下した。――それは、大雪を降らすこと。
憎き人間どもを、地獄にさらして死なせる為に。
◆
――妖と人は相いれない存在だ。陽と陰が相いれないように。
だから、意見が違うのは当たり前だろう。立場が違うのも世界が違うのも当たり前だろう。
雪乃は、自分が妖だということは重々理解している。だから、最初からこっちの世界に住むと言う事も。
自分が思っても、こっちの世界に従うしかない。
けれど――そんな人しか居ないのだろうか。
人間は愚かで、弱いものだろうか?
妖や帝が言っているのは――全て正しいことだろうか?
考えれば考えるほど苦しくなる。辛くなる。
はあ、とため息をついた。
布団を頭まで被り、目を閉じる。湿っぽい匂いがした。
(もう、考えることは止めよう)
そうだ、どうせ自分は何も出来ない。何をどうしようとしたって、何も出来ないのだ。
雪乃はそのまま、寝ることにした――。

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