六花は雪とともに

作者/  火矢 八重


第九章 蛮勇と勇気の違い page1


 雪乃が山を降りて、二月以上が経った。
 ナデシコたちに自分の正体を明かし、白龍に意見を認められたことで、雪乃は幸せな日々を送っていたが、ある深刻な悩みを持っていた。


「もうすぐ春、か……」

「ん? どうした、雪乃」


 なんでもない、と雪乃は返したが、本当は不安で心が押しつぶされそうだ。
 雪乃は熱に弱い。それは直に触れれば人間の体温でさえ溶けてしまう程の。


(もし、春が来れば私はどうなるのだろう。……溶けて、消えてしまうのだろうか)


 雪が降り続けるならば、溶けることはないかもしれない。……けれど、解らない。
 まだ、やり残していることがあるのに。ここの村に来たのは、とある目的があるのに。
 帝の命を止めさせること。その目的を、私は果たしていない。


(けれど……どうすればいい? 帝に直接訴える? でもそれだったら死刑にされるのが関の山。……どうすれば、帝の命令を止めることが出来る?)


 雪乃は考えるが、いい案が浮かばない。
 そんなこんなで、もう三日が経とうとした。


「うーん……やっぱ思い浮かばない」

「本当にどうしたんだ?」

「だから何でもないって」


 夜、雪乃たちは何時も通りに薬草の粥を食べていた。勿論、雪乃は冷まして食べる。
 晩飯を食べている間も、雪乃は考え続けた。白龍には相談していない。何故なら、自分が溶けてしまうかもしれない事も、話さねばならないからだ。
 もしかすると溶けないかもしれない。それだったら余計な心配は掛けさせたくないのだ。

 その時、ガタガタと外が騒がしくなった。


「……風―?」

「それにしては騒がしいねー」


 精霊たちが口ぐちに言う。だが、白龍と雪乃の様子だけ違った。雪乃は青ざめ、白龍も冷や汗を流している。


「……白龍義兄様、まさか」

「……そのまさかのようだな」


 そう告げ、白龍は雪乃を物陰の方へ移動させる。


「ちょ、義兄様!?」

「絶対動くなしゃべるなよ!! 見つかったらもうお終いだ!!」

「白龍義兄様も見つかったら危ない!! 義兄様が隠れてよ!!」


 そう言うと、白龍は声を荒げた。


「駄目だ!! 絶対にだめだ!!」

「でもっ!!」


 言い募る雪乃を、白龍は静かな声で制した。


「……これぐらいのこと、兄としてやらせてくれよ」

「義兄様!! ダメだって!!」

「おい、向こうから声がするぞ」


 図太い男の声が聞こえた。ビク、と雪乃は肩を震わせた。
それに合わせ、白龍が素早く動いた。
 月光に照らされていた白龍の顔は、何処か寂しげに儚く見えた。


「……ナデシコには、絶対に伝えるなよ」


 そう言い残して、外へ出た。