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六花は雪とともに
作者/ 火矢 八重

第十三章 最後の六花 page2
◆
しばらくブラブラと歩いていると、簪が雪乃の目に止まった。
金の簪だった。小さく、白い六つの花がちりばめられてある。その花は、角度によっては白銀のようにも見えた。
「……綺麗」
簪の美しさに、思わず呟いた雪乃。その様子を見て、杏羅が意外だな、と呟いた。
「雪乃って、そういうの興味無いかと思っていた」
「失礼な。妖とはいえ、私も女ですよ?」
頬を膨らませて反論すると、杏羅は苦笑して、
「だったら素直に欲しいって言えばいいのに」
と、言った。
へ? と雪乃が返すと、杏羅は店の人に、すいません、これください、と頼んだ。
「ちょ、杏羅さん!? いいですよ!!」
思わず固まってしまった雪乃だが、即座に杏羅を止める。
「え? もしかして嫌だった?」
「いや、とても嬉しいんですけど!! 杏羅さんにこんな高い物買わせちゃあ……」
「大丈夫。持ち前ちゃんとあるから」
笑顔で言う杏羅に、雪乃はついに負け、おねがいします、とかき消されそうな声で言った。
大金と交換し、簪は杏羅の手に渡った。
ありがとうございます、と杏羅の手から簪を取ろうとすると、杏羅がこう言った。
「俺に、簪差させてくれないか? 勿論、雪乃には触れないようにするからさ」
その言葉に、初めは戸惑った雪乃だが、はい、と力強く答えた。
そろり、と杏羅の手が雪乃の頭に触れないようにかざした。ス、と簪は素直に雪乃の髪に通る。
触れられていないのに、雪乃には杏羅の体温が伝わった。
「有難うございます、杏羅さん」
「……触れられたらいいのにな」
杏羅の一言に、雪乃は、え? と聞き返した。
「触れられたら、もっと良かったのにって。……欲張りなのは判っているけど、でも、そう思わずにはいられないんだ」
そう言って、杏羅は寂しそうな笑顔を浮かべた。
その言葉を聞いて、雪乃は俯くしかなかった。
(……本当に、そうだといいのに)
思わずそう想ってしまった。
(貴方に、触れたいんです。暖かい物に、そっと寄り添ってみたいんです。自分の体が溶けてしまうとしても)
貴方に頭を撫でて欲しい。私を抱きしめて欲しい。
無理だと判っても、そう想わずにはいられない。
手を伸ばせば届くのに、怖くて触れられない。これ以上傍にいられないと思うと、雪乃は胸が張り裂けそうだった。
雪乃は想いをとどめるかのように、そっと簪に触れた。

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