六花は雪とともに

作者/  火矢 八重


第八章 沢山のカケラ その参 page1


「おいッ!! 話は終わっていないぞ!!」


 白龍が慌てて止めようとしたが、雪乃は構わず走った。
 白龍も後を追おうとしたが、杏羅が物凄い速さでそれを制した。


「今は、一人にさせてやってください」

「お前に妖の何が判る!!」

「じゃあ貴方は少しでも雪乃の価値観に折りあおうとは思わないんですか!!」


 白龍は声を荒げたが、負けず杏羅も声を荒げる。その様子に、ナデシコも白龍も周りの村人も驚いた。白龍は口をつぐみ、何も言い返せない。
 杏羅は今度は落ちついた声で、ナデシコに言った。


「ナデシコ。お前も少し頭を冷やせ」

「ッ、お兄ちゃんは、悔しく無いの!? 雪乃は、私たちを騙していたんだよ!!」


 ナデシコが同意見を求めるように言ったが、冷たく杏羅は言った。


「お前は興奮しすぎているだけだ」


 ナデシコは顔を真っ赤にし、涙を零した。まさかこんな風に言われるとは夢にも思わなかったのだろう。


「……ッ! お兄ちゃんの馬鹿!!」


                     ◆



 それから数日。雪乃は村に帰らなかった。フラフラと山の中を歩き、もう何がなんだかよく判らなくて、ボーとしていた。


「雪乃」


 不意に、後ろから暖かな声をかけられた。振り向くと、そこには佐保姫が居た。


「佐保姫様……どうしてここに?」

「それはこっちの台詞よ。ここは私の祀られている山だし。何をぼーとしているの? 貴方確か村へ行ったんじゃ……」


 佐保姫の言葉に、雪乃はまたボロボロと涙を零した。顔をぐしゃぐしゃにして、雪乃は言った。


「さ、佐保姫さまッ……!! 雪乃、は、これか、ら旅へ出ますッ……!!」

「何判らないこと言っているの!?」


 佐保姫の突っ込みが、山に響いた。




 一通り説明すると、佐保姫は苦笑いで相槌を打った。


「ああ、成程……やっぱそういうことだったのね」

「や……っぱ、その、とおりって……?」

「それで?貴方はどうしたいの?」


 雪乃の質問を無視し、佐保姫は訊ねた。


「だからッ……旅をするって……ッ」

「仲直りしようとは思わないの?」

「だってもう、あそこには居場所ないんだしッ………! もう、何をやったってダメなモノはダメだしッ……」

 涙をぬぐいながら雪乃がいうと、佐保姫が懐から紙を取りだし、雪乃に渡した。
四つ折りになっており、開くと少し桃の匂いがする。


「これは……?」

「良いから読んでみなさい」


 佐保姫に促され、雪乃はゆっくりと読む。
差出人は、白龍とナデシコだった。手紙には、こう記されていた。