六花は雪とともに

作者/  火矢 八重


小話 繋がる絆


 兄妹のゴタゴタが片付いて、ついでに白龍も村に住むことになった日から、七日後。
 杏羅の家の前で白龍が土下座するという何とも奇妙な光景があった。


「……どうしたんですか? 白龍さん」

「頼むッ!! どーか俺に餅の調理法を教えて欲しい!!」


                             ◆


 白龍に頼まれて一時間経過。杏羅の家では土器で餅を作っている青年たちの姿があった。


「で、ここで炊いたもち米をよくこねる」

「ほーほー」

「……というか、何でいきなり料理を?」


 今までずっと疑問に思っていたことを聞くと、白龍は気まずそうに答えた。


「あ、えっと……雪乃の負担を減らそうと、俺が料理当番を引き受けたのは良いが……あいにく俺、餅しか作れなくてな。七日間餅作ったら雪乃キレちゃって……」

「……えーと、もう雪乃に任せちゃえば?」


 バッサリと言い捨てる杏羅に、白龍のグサッと何かが刺さる効果音が出る。


「……お前、言いたいことはホントに情け容赦なく言うよな」


 白龍が目から滝のように涙を流し、いじけた。髭は剃ったため、妖の威厳も感じられない。


「え、そうですか? そのつもりはこれっぽちも無いですけど……というかなんで餅は作れるんですか?」


 杏羅の質問に、白龍はいじけるのを止めて、質問に答えた。


「あ、いや……小さい頃な、元旦の時雪乃と一緒に人間の村へこっそり出かけたんだよ。その時に雪乃が餅を指して、『アレが食べたい』って言ったんだ。その時に神に祀る鏡餅をこっそり、盗んで食べたんだ」

「へ、へえ……」


 若干引いている杏羅。それに構わず白龍は懐かしそうに目を細めた。


「その時の雪乃の笑顔が忘れられなくって……絶対に食わせようと、努力したら餅だけは作れるようになったんだ」


 優しそうに微笑む白龍は、まるで無邪気に笑う少年のようで。それを見ると杏羅も顔が綻んだ。


「……さて、続きを作ろうか。もうすぐ完成だしさ」

「お、すまんな」


 また作業を開始する青年たち。


 作っている間、ふと杏羅の脳裏にあの光景が浮かんだ。


                               ◆


『ごめんなさいッ!!』


 あのゴタゴタの後、雪乃が手紙を読んだのか颯爽と帰ってきて、三人同時で謝った。


『ごめんなさい、黙っていて……白龍義兄様にはもっと迷惑をかけて……本当に、ごめんなさいッ……!!』

『私こそごめんなさい……ッ!! もっと、雪乃のこと考えてやれなかったッ……!! 何時も自分の事ばかりで、ごめんなさいッ……!!』

『いや、俺が悪いんだ!! 頭が固いばかりに、村に損害与えちゃって……ホントにゴメン!!』


 それぞれ謝る雪乃たち。いや私が、いや俺がと言い争いになった。


『ちょーと落ちつけ雪乃たち!!』

 そこに芙蓉が止めに入った。


『一応私と杏羅にも迷惑かけているんだが!? 私たちには感謝も無しかよ!!』


 杏羅の肩を持ちながら主張する芙蓉。その様子に、騒いでいた三人は思わず沈黙した。


『……おい、何だこの沈黙』


 芙蓉が言うと、沈黙していたメンバーは思わず腹を抱えて爆笑してしまった。


『お、オイ!! なんだよ怒ったり笑ったりしけた顔したり!!』


 賑やかな輪の中、芙蓉の声が木霊した。


                               ◆


 杏羅はその様子を線だと思った。

 人は一人一人歩く速さも道も違っていて、平行のように歩く。
 けれど、それは決して平行では無くて、曲がったり、くねったり、時には垂直のように交わる。

 兄妹も、親友も、家族も。
 皆それぞれ行く道は違うけれど、ちゃんと交わっている。


 ちゃんと、深い絆で結ばれている。


 餅を作りながら、杏羅は一人微笑んだ。