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六花は雪とともに
作者/ 火矢 八重

第十章 明かされた生い立ち その壱 page2
「そこまでするのか!?」
「あくまで噂だ。けれど、私らみたいなバッタもんは帝のせいで散々な目にあってる。住処を奪われたり、誇りを傷つけられたり。恨んでいる奴は妖でも多いだろうな」
「芙蓉……」
芙蓉の言葉に、思わず雪乃は呟いた。
「そいつらを集めて、革命を起こせばいいと思う」
「そんなこと、出来るのか?」
「言ったろ。憎んでいる奴は沢山いるって。三日もあれば大勢集まる。帝と、その他少数の上部の首さえはねてもらえばそれで充分」
「そんな芙蓉! 殺して何とかしようなんて、どうにかしてるわ!!」
雪乃が言うが、芙蓉は冷静な声で言った。
「かと言って、説得が通じる相手ではないだろう」
その言葉に、何も言い返せない雪乃。
「雪乃、この世は綺麗事じゃ通じないんだ。人を傷つけなきゃ、守れないモノもあるんだ」
そう言って、芙蓉は真剣な目を雪乃へむける。その視線に耐えきれず、雪乃は俯いた。
頭の中で、理想と現実がぐるぐると駆け巡る。
(芙蓉も、帝を憎んでいる。ナデシコも、そして杏羅さんも――)
その感情は、たしかに雪乃の心にも在った。
白龍の命を握っている帝。弱いモノを虐め楽しんでいる帝。芙蓉たちの居場所を奪った帝。芙蓉たちの誇りを傷つけた帝。そして、ずっと雪を降らし続けている帝――。
(私も、帝は間違っていることをしていると思うよ。でも――)
そう思う度に、雪乃の脳裏に浮かんでしまうのだ。
一人ぼっちだった雪乃を、温かく受け入れてくれた、帝の姿を。
帝は仮面を被っていたけれど、微笑んでいるように雪乃は感じたのだ。
(だから、私は、帝を憎むことなんてできない。帝を心の中からそんなこと、思えない)
雪乃は目を閉じた。
けれど――もし、白龍を失う事になったら?
判断を間違えて、白龍を失う事になったら――。
暫くして目を開け顔を上げた。そしてハッキリした声で言う。
「……判った。けれど、最初に帝に逢わせて欲しいの」
「何? 説得させるのか?」
芙蓉の言葉に、雪乃はフルフルと首を横に振った。
「違う。……帝の心境を聞く為よ。私、知りたいの。どうしてあの日私を拾ってくれたのか、どうしてここまで酷いことをするのか。……話が終わったら、合図を送るから。その時襲えばいい」
「けれど雪乃、部下たちの目に留まれば帝に逢う事は不可能だぞ?」
杏羅が言うと、雪乃は苦笑しながら答えた。
「王室にはほとんど帝しかいないんだ。私、何でか知らないんだけど、こっそり王室に行ける道順知っているのよ。……何でかな?」
「気のせいじゃなくて?」
ナデシコが聞くと、雪乃は頷き、首をかしげながら言った。
「うん。子供の頃一度こっそり行ってお兄ちゃんに大目玉喰らったことあるし。大人には黙って貰ったから、私が王室に行けるってこと、バレてないハズだよ」
何でかなー、おかしいよなー、と雪乃は呟く。
「……もしかして、雪乃、君は……」
「ん? 何か言った、杏羅さん?」
雪乃が聞くと、杏羅は笑みを作って何でもない、と答えた。ふうん、とかえし、雪乃は芙蓉とナデシコに見取り図を描いて教える。
しかし、杏羅の胸の中には驚愕と嫌な予感がうずまいていた。

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