六花は雪とともに

作者/  火矢 八重


第十一章 明かされた生い立ち その弐 page1


 雪乃はとある山の洞窟のような所を通っていた。
 王室からすぐ出て中庭がある。そこの、防空壕のような縦穴と、この山の洞窟は繋がっているのだ。


(昔、一緒に抜け出して遊んだよね……)


 フフ、と昔の想い出を思い出しながら進む雪乃。
 しかし、あることに気づいた。


(――あれ? 誰と一緒に?)


 雪乃は足を止めて考えた。
しかし、思い出せない。もやがかかったように、ぼんやりとしか思い出せないのだ。


(……というか私、一体何処から『抜け出そう』と……?)


 思いだそうとすればするほど、疑問が湧いてくる。
 しかし、立ち止まっている訳にはいかない。白龍の命が懸っているのだ。


(待ってて、お兄ちゃん……!!)


                          ◆


 帝の素顔と話を聞いて、白龍は驚いた。
 ただ、驚いた。
 ポカン、としている姿を見て、帝は「開いた口がふさがらない」とはこの事なんだなあと呑気に思っていた。


「じゃ、じゃあ、『死刑』っていうのは……」

「それは表。じゃないと、お前たちを捕まえることなど出来るわけ無かろう。仮に、私が『実は反逆者に話がある』何て言っても、お前たちは絶対逃げるだろ」

「ま、まあその通りですが……」


 言葉を濁す白龍。それに、と帝は続けた。


「こんな茶番はもう終わらせないといけない。……飾りである、帝など、終わらせなければならない」


 その言葉を聞いて、白龍は黙ってしまう。

――帝の覚悟を、知ってしまったからだ。
帝の意図を、決意を、白龍は全て彼の口から聞いてしまっている。
 だから、黙るしか他無かった。――不器用な白龍は、彼を傷つけないように、そんな方法しか取れなかった。

 しばらく、沈黙が続く。言いたいことを飲み込んでいる白龍は、何か他の話題を探そうとしているが、中々見つからない。
 沈黙があまりにも重すぎたので、帝が何か言おうとしたその時だった。
ガラガラガララァァァ!! と、凄い音がたった。


「うわああ!? 何だ」

「……中庭の方だな」


 慌てる白龍とは裏腹に、冷静な帝は大きな窓際から中庭に行く。
 広い中庭を見渡すと、松の木の下から、土で汚れた雪乃が這い上がっていた。


「痛たたたた……何この穴、滅茶苦茶狭いじゃない、まったく……」

「ゆ、雪乃!? どうやってここに……」


 王室の仲庭でも何時も通りぶつくさ文句を言っている雪乃の姿を見て、白龍は色んな意味で慌てる。
 白龍の声に、顔を上げ、その姿を確認して、驚く雪乃。


「お、お兄ちゃん!? 何で帝の元に!?」

「それはこっちの台詞だ!!!」

「わ、私はお兄ちゃんが強制終了所に居るんじゃないかって……」


 ワーワーギャーギャー騒いでいる兄妹。唯一加わっていない帝は、もはや空気になっていた。


「……なあ、話してもいいか?」


 遠慮がちに帝が言うと、雪乃は騒ぎを止めて、申し訳ありません、と頭を下げた。
 帝は穏やかな声で言った。――それは、雪乃にはどこか懐かしく思える声だった。


「……まさか、そこの穴から来るとはな。その穴は、私と、もう一人の継承者しか知らないのに……」


 その言葉に、え? と返す雪乃。
 帝はそっと、般若の仮面を取る。仮面を取ると、何処か笑いを堪えているような、帝の表情が見えた。

 素顔を見て、雪乃は呆然とした。