コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
日時: 2015/03/15 09:40
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 基本毎週日曜日に更新!


 ※追記

 実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
 やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
 ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
 とってものんびりと、更新する予定です。


 Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
 イラストとか宣伝とかを呟いてます!



 ※注意事項

 ・荒らし・中傷はお控え下さい。
 ・チェンメなんかもお断りしてます。



●目次

prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052 
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071

第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224 
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274

第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417

第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508

第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623

第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772

第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858

第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908

第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964

第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997

※第301次元〜は新スレにて連載予定


       ●おまけもの●

●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58

●番外編 
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945

 
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944


●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304 
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460

●キャラ絵(複数) 
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737

☆奏様には毎度ご感謝しております!!
 すごく似ていて、イメージ通りです
 キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
 これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙


●お知らせなど

* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998

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Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.950 )
日時: 2014/02/02 22:08
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: I69Bg0jY)


えー。こんな時間にこんばんわ。
作者の瑚雲です。


ただいまですね、ちょっとこの小説の初めの方から修正を行ってまして。
あまりに幼稚な文が羅列している上に今更になって矛盾点が幾つも見つかってしまうという事態に……。

ただ修正したのはパソコンに保存してるだけなので、
また新しく完全版として、別スレに載せるかもしれません、という事です。


はい。
たったそれだけです!



ではでは〜。

Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.951 )
日時: 2014/02/10 20:29
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: WKDPqBFA)
参照: すっかり忘れてました

 第257次元 勇姿をその瞳に焼きつけて

 (こ、これは一体……!!?)

 言葉を発した途端、2人は喉の痛みに襲われた。 
 掠れた視界の向こう側に、リリアンが得意げに微笑んでいて。

 (まずい……早く、どうにかしないと……! 然し今は喋ることが……!)

 「お、ぃ……エン……だいじょ—————」
 「!!? 馬鹿か貴様は!!! 喋っては—————!!!」

 悲劇は、繰り返された。
 2人の言葉は、紡がれる事なく真っ赤な色に染まった。
 どくん、どくん、と。
 心臓の音と紛れて、体の中で血が暴れ出していた。
 苦しい以外の、感情が失われたかのように。

 「ちょっと倒れてくれるだけで、良いんだけどなー……」
 「まあそこらへんは流石蛇梅隊って感じだけどなあ」

 打開策が、見つからない。
 次元技を発動するのに、必ず言葉を発する事が前提的な条件となっている。
 然し今エンは次元技を発動できない上に、声が出せない。
 声を出したら体中が痛みに襲われるこの次元技の意図に、サボコロが気付いているとも思えなかった。 
 そしてこの次元技は魔法型。どうしたって、砕く事はできない。
 仮にこの次元技を破壊できたとしても、待っているのは下に這い回っている縄。

 空間を支配し、次元技が最も必要とする声を、支配する次元技。
 これ程のコンビネーションを、2人は見た事がなかった。
 完全に勝算が断たされた時、2人は莫大な音をその耳にする。

 「「————————!!?」」

 音が遮断されたこの空間の中でさえ、その音は響いた。
 煙が、晴れきった。そこにいたのは。

 「おいおいそんなもんかキールア!!! ——————本気出して良いんだぜ!!!」
 「じゃあそうさせてもらうわ————!!!!」

 槍を天高く伸ばし、少年が飛ばした太い氷柱を見据える、少女。
 突き刺さる、その瞬間に、槍は大きく牙を向く。
 華麗に全てを弾き、落ちた少年に、その切っ先を向けた。
 地面が、割れた音が鳴る。
 突き刺さった刃が、太陽の照り返しで真っ白に光る。

 「氷弾————!!」

 弾かれた少年は、真っ直ぐ手を伸ばした。
 少女は、ぐっと強く、また強く銀槍を握る。
 雨が降るように襲いかかる氷の塊をしのぎながら、彼女はくるりと回った。

 「旋輪の舞————!!!」

 まるで車輪が地面を滑るように。
 斜めに廻る槍は、風を巻き込んで大きく舞った。
 それを、少年はしなやかな体つきで鮮やかに空を跳んで交わす。
 地面を、踏み殺して。
 少女は、少年の目の前で槍を翳した。

 「————何!!?」
 「狂乱蓮舞————ッ!!!」

 体の周りで、槍を素早く何度も旋回させる。
 速く、それでいて何より力強く風を斬り舞い続ける槍が、少年の体を派手に弾き飛ばした。
 少年は、ぐんと顔を前へと突き出した。

 「氷柱————!!!」

 硬く凸凹した地面に手を突き刺す。
 地面から突如出現した氷は、長い柱を作るように天へと伸びていった。
 その中心にいたのが、キールアだった。

 (キール……————!!?)

 サボコロが、そう心の中で叫ぶのと、ほぼ同時。
 決して低次元級の技ではないその氷の柱に、
 ひびが、入る。

 「戯旋風————!!!」

 砕け散った氷を浴びて、たった一瞬動けなかった少年の前には、

 「堕陣————————必撃ィッ!!!!」

 誇り高く天高く。 
 銀の槍を振り下ろした少女が、いた。

 鳴り響く轟音は、サボコロやエンの耳にもしっかりと届いた。
 本来ならば届くはずもないその激しい音が、2人の心を駆り立てた。
 決して、一歩も退かない彼女の意思が、彼女の心が。
 一切の偽りを彩らず、ただ鮮やかに2人の瞳に焼きついた。

 (す、すっげえ……)

 一度だけ見た事があった。シャラルの戦う姿を。
 彼も決して、弱くはない。
 それどころか、蛇梅隊に所属していても可笑しくないくらい強い次元師だった。
 そんな彼相手に、キールアは退くことをしなかった。
 つい最近百槍という次元技を手にし、つい最近になって戦闘を知った彼女は、恐れる事を知らず。
 まるで随分と前から次元師だったかのようなその戦いぶりに、誰もが驚かざるを得なかった。

 (……そう、か)

 エンは、ぐっと弓を掴む。
 右手に、めいいっぱいの力を入れる。
 戦闘嫌いなあのキールアでさえ、あんなに一生懸命戦っている。
 傷ついても転んでも、何度だって立ち上がって。
 彼女のその懸命さは、エンとサボコロの心を、突き動かした。

 「……え……っ!」

 エンの名前を叫ぼうとしたサボコロに、キッ、と睨みを返すエン。
 慌てて口を塞いだサボコロは、エンの右手に目がいった。 
 ぐっと、力を入れているのが遠くからでもわかる。

 「……? もしかしてエン君、八次元級の技を、普通の弓矢で打ち砕く気?」
 「は? それマジかよ」
 「無駄だよーっ!? だって一次元にもならないそんなものじゃ、可能性はゼロだよ?」
 「……」
 「良いから、そこで大人しくしてなって」

 リリアンは、鈴片手に歩き出した。
 リリエンも、エンとサボコロに笑いかけ手を振った。
 双子が向かった先には、レトヴェールよりも先に、キールアだった。
 まずい、と2人が思った時。

 「ごめんねシャラル——————ちょっと、邪魔させてもらうよ?」

 リンと響く微かな音を、キールアは聞き逃さなかった。
 氷の塊を防ぐ彼女は、くるりと回しながら持ち方を変え。

 「鈴め——————!!!」

 リリアンの言葉は、最後まで紡がれなかった。
 全ての氷を弾き終わったキールアは、右手に持った槍一つだけで、空間を思いきり叩いた。
 ガラスを割ったかのような、鋭い音と飛び散った次元技の中で、
 双子は、どちらも驚きを隠せずにいた。

 「邪魔を、しないで」

 落ち着いていて、決して無駄のない一撃と、その言葉。
 次元技を使うこともなく、キールアはリリアンの鈴鳴を打ち砕いた。
 相手にならないと、そう言われているようで。
 リリアンの表情は、途端に変わる。

 「ふざけないでよ————!!!!」

 リリアンの叫びが、エンとサボコロにも届く。
 またしてもキールアの強さを見た2人は、今度こそ本当に、拳を、心を、構える。
 決心したその思いは、形となる。 

 「第七次元発動——————っ!!!」

 その時リリエンは、咄嗟に振り向いた。
 目の前にあるその光景に、血の気が引いていくのが分かった。

 「やめろリリアン————!!!」

 気付くのが、遅すぎた。


 「狩流奥義————————砕拳烈火!!!!!」


 指に込めた、全身に込めた思いが、形へ。


 「————ッ!!?」

 硬い壁を打ち破り今、迷わず空を駆ける一撃。
 鋭い牙がリリアンの体を貫いたその時。
 リリエンは、またしても気付くのが遅れた。

 「第八次元発動————」

 少年は、拳一つで、地面を強く叩く。

 「——————炎柱!!!!」

 地面から湧き出た炎の柱が、双子を呑み込んだ。
 エンが、サボコロの後ろからゆっくりと歩いてきた。

 サボコロの中で、どくんと響くその音は
 本人にさえ、届かなかった。

Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.952 )
日時: 2014/02/16 23:11
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)

 第258次元 睨み合え

 「げほっ! ……ごほっ、ごっ……!!」
 「おい、エン大丈夫か?」
 「流石にやりすぎたか……」

 音疵という次元技を打ち砕く為に、その次元技の中で叫んでしまったエン。
 その後効果がなくなった時サボコロは次元技を使った為、彼には被害がなく。
 最初の犠牲となったエンは、激しい吐血を繰り返しながらも立っていた。

 「つうか、さっきのアレ……一体何だよ?」
 「ん……ああ、あれは我ターケルド家に代々伝わる狩猟戦法の一つでな……単なる普通の弓技だ」
 「普通……ねえ……」

 サボコロは、ちらっと辺りを見回した。
 つい先程エンが放ったあの技は、単なる、という言葉の領域を超えていた。
 次元技を打ち砕ける程の技術。流石は千年続く狩猟一族の末裔という事なのだろうか。
 2人がそんな話をしている間に、ゆらりと影は揺れる。
 青い双子は、厚い煙の中で立っていた。

 「……へ、へえ……やっぱそれなりに、やるみたいだな……」
 「咄嗟の事で動けなかったけど……つ、次はそうはいかないんだからねっ!」

 鈴のついた紐をしっかりと引っ張って、リリアンは煙から姿を現した。
 リリエンもまた、腕を顔の前で構えて衝撃を殺し立っていた。
 2人とも、まだ傷は浅い。

 (サボコロさん……頑張って……!)

 胸の前できゅっと手を握るセルナは、そう心の中で呟いた。





 「く……ッらぁッ!!」

 下から上へと。
 力いっぱいに切り上げた双剣は聖剣を弾いた。
 レトはすかさずシェルと距離をとる。
 ぐっと構えた双剣に、汗が伝う。

 「……なあレトヴェール」

 シェルは、何かを話しながらレトの許に歩み寄ってきた。
 レトは彼と一定の距離を保ちながら、一歩一歩、確実に下がっていく。

 「お前……剣術サボってただろ?」

 僅かな、動きを。
 彼は、見逃さなかった。

 「分かるんだよ……お前らを見てるとさ。次元技に頼りすぎっていうか、何ていうか……」
 「……何が言いたいんだよ」
 「俺も、お前も、他の奴らも——————今よりもっと、強くなれるってことだ」

 左手を風に遊ばせて、シェルは右手で軽く剣を握った。
 長く美しいそれは、シェルに遊ばれてくるくると回されていて。
 ぐっと、握った時には、

 「—————こういう風になッ!!!」

 彼は地面を、勢いよく蹴り飛ばしていた。
 突如加速し、レトの体の正面にまで一気に距離を縮めた。
 レトは咄嗟に、双剣を体の前で重ねる。 
 鋭く高い音が、彼の耳に痛く突き刺さる。

 「う……ッ!!」
 「おいおい……こんなもんじゃねーぞ!!」

 剣の柄に力を入れた時、双斬が跳ねた。
 大きく懐が空いたレトはバランスを崩して。
 シェルは、にっと笑った。

 「ほらよッ!!」

 風を、薙いだ。
 隊服を着ていたから直接攻撃を浴びる事はなく。
 然しその胸には大きく斜めに斬り傷が生まれた。
 派手なその傷から、どす黒い血が溢れ出る。

 「い……っつぅ……っ」
 「おっとすまねえなあ。お前の大事な隊服、斬っちまってよ」
 「……いや……謝ることねえよ……」
 「……?」
 「こいつはずっと……俺を護ってくれてた……だから今のも、それの内の一つにすぎねえ」
 「……へえ、ご立派なこった」

 何度も綻んでは、何度も直して。
 何度も汚れては、何度も洗って。

 幾度となく傷つけられても、それを拒むことはなかった。
 隣にいた、あの義妹だって、一度も代えを着た事がない。
 2人はいつだって、ボロボロで汚れきった隊服を、その身に纏っていたのだ。
 入隊した時の綺麗なものは何処にもなくても。
 その時にしか得られない、大事な疵が沢山刻まれているから。

 「……一つ教えておいてやるよ、シェル」
 「何だ?」 
 「俺は結構——————意地が悪いんだよ!!」

 レトが伸ばした足は、シェルの足を引っ掛けるようにぐっと伸びた。
 思わず重心が前へ出るシェルは、見た。
 闘志に滾る、その目を。

 「——————うらぁッ!!!」

 右にあった短い剣が、同じようにシェルの体の表面を滑る。
 切り上げられた双剣は、そのままレト自身の回転によっていつもの姿勢に戻る。

 「てっめ……」
 「生憎、昔から下衆いやり方しか知らないんでね」

 たった2人で鍛えてきた体は、しなやかに動く。
 血に滲んだ隊服は、脱ぎ捨てられない。

 「はっ……おもしれえ……やっぱお前は面白いよ——————レトヴェール!!!!」

 再び駆け出したシェルは、レトの双斬と対峙する。
 突き放しては、切り刻んで、それを避けて、隙を狙って。 
 距離を取りながら、それでも相手の懐に一気に飛び込んで、機会を窺う。
 一対一の、真剣勝負は、次元技ではない2人の剣術のみによって繰り広げられていた。
 酷く純粋な、実力勝負。



 鋭く尖った氷を、銀の槍が弾く。
 氷で凍った地面を、銀の槍が砕く。
 華麗に戦場を舞いながら氷と対峙するキールアは、すたっと着地。 
 目の前にいる敵を見て、間もなく槍を構えた。

 「流石1、2回戦共勝ち抜いてきただけはあるみたいだな……」
 「……そっちこそ、流石“シード”なだけはあるみたいね」

 キールアは、そっと乱れた呼吸を正す。
 1、2回戦共に相手が女の子だったが故に、男の子を相手にするには厳しく。
 力強さが、女とは違う。腕っ節も、豪快な戦い振りも。
 キールアの細い腕では、氷を弾き壊すので精一杯。
 その先にある、敵本体へ直接的な攻撃ができない。

 「まさかキールアと戦うことになるなんて思ってもみなかったからなあ」
 「それは私も一緒よ」

 ぐっと槍を握る手に力を入れる。
 太陽を浴びて熱を帯びる槍。
 それを掴んだ手も、焼けるように熱くて。
 ふふんと楽しそうに笑うシャラルは、そんなキールアを見据えて。

 「まあ折角の機会なんだ——————楽しくやろうや!!!」

 そんな怒号と共に、冷たく光る氷の刃を放った。
 キールアの眉が一瞬ぴくりと動いた後に、彼女は顔を覆うように槍を両手で掴んだ。
 防いでは距離をとっての繰り返し。前方から物凄い速さで迫る氷を弾いては退く。
 またこれの繰り返しかと、そう思った時だった。

 「第七次元発動——————」

 全ての氷を弾いたキールアが、そっと左手を槍から離す。

 「——————氷柱!!!!」

 地面に掌をつけたシャラルが、彼女には見えなかった。
 氷の渦に巻き込まれ、キールアは空で跳ねる。
 背中を強く強打し、くるりと宙で廻った途端。

 「——————氷撃ィィッ!!!!」

 鋭く尖った幾つもの大きな氷柱が折り重なって、彼女の体に勢い良く突き刺さった。
 瞬間飛び散った鮮血が、氷の上で小さな結晶を化す。
 思わず手放した銀の槍は、氷柱に突き刺さったまま。

 「おっと……傷つけるつもりは、なかったんだけどよぉ」

 ふざけたように頭を掻く彼は、にっと笑って。

 「——————でもしょうがねえよな? これが“決勝戦”なんだから」

 自分が放った氷の山を、拳を握って砕き散らかした。
 大地に叩き付けられた少女の体は、動かない。

Re: 最強次元師!! 【定期更新】 ( No.953 )
日時: 2014/02/23 09:08
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)

 第259次元 氷の刃、槍の矛先

 自分の周りで仲間が戦っているのが分かった。
 熱い炎の音が聞こえる。
 必死に矢を引く音が聞こえる。
 聞き慣れた、刃の競り合う音が聞こえる。

 自分の武器は、もう少し手を伸ばしたところにあって。
 でも、届きはしなくて。
 彼女は小さく息を吸っては、また小さく荒く息を零した。
 目の前に転がった自分の血の向こう側に、百槍がある。
 怖くて大嫌いだったものの奥に、自分を支えてくれた英雄がいる。

 ほんの一瞬、高鳴った心臓は。
 彼女の体を、無理やり突き動かすように。
 大きく、跳ねる。

 「……? おーい大丈夫かー? 悪いなー女相手にちょろっと本気が出ちまっ——————」

 腹部に、鈍い感触。
 臓器が口から漏れ出す程の強い衝撃が、彼を襲った。

 「……は……っ?」

 瞬間。

 「——————ぐはァッ!!?」

 風を裂いて、彼は一直線状に遥か後方まで跳んだ。
 口から派手に、血が飛び散った。
 その勢いもまるで止まらず、遠くで金属を掴む音が聞こえた。


 「ん……な、ァ……!?」


 シャラルは、この状況を上手く理解できなかった。
 突然腹部に痛みが走ったかと思えば、今度は強く背中を打ちつけていて。
 加えて腹部の痛みであるそれは槍の矛先が刺さったようなものではなくて。
 足だけで、蹴り込まれたかのような、そんな痛み。

 「……」

 キールアは、槍を掴んだ。
 虚ろなその瞳は、太陽を強く浴びる。
 シャラルは、言葉を失った。

 (……——!!?)

 陽炎に揺らめく、その瞳を。
 彼は確かに、自身の目に焼きつけた。
 太陽が、じりじりと燃える。

 「へえ……」

 体を起こした彼は、腕を構えた。
 どうやら、さっきの言葉一つで彼女の心を駆り立ててしまったらしい。
 そう気付いた彼は、彼女の目を離す事はせずに一歩、踏み出した。
 彼女の瞳は、金に輝く。


 「お前——————本当に“キールア”か?」


 彼女は何も、語らない。


 「今の蹴り、ありえねえだろ……誰だか知らねえけどさ……」
 「……」
 「さっさとモノホンのキールアさん……返してくれよなァッ!!!」

 駆け出した彼は、腕をぐっと後ろへ引っ張る。
 彼女は、片足を退いた。

 「第六次元発動————氷砲!!!!」

 氷が一瞬にして集い、それを砲撃として放った。
 鋭い氷の矢が、幾重にもなってキールアの目の前にまで迫った。
 すっと、腕を伸ばす。

 「————ッ!!?」

 彼女は、槍で氷の砲撃を払い飛ばした。
 砕け散った氷の先に、シャラルはいない。

 「こっちだよ————ッ!!!」

 遥か頭上に、彼はいた。
 掌を強く、強く花開くように。
 力の限り、めいいっぱい開く。

 「氷撃ィィ————!!!」

 今度はバラバラの氷の刃を、キールアの頭上から降らす。
 腕で防ぐ彼女は、もう片手に持った銀の槍を握り締めて。

 「第五次元発動————」

 小さく、口を開いた。

 「————戯旋風ッ!!!!」

 氷も風も全てを巻き込んで。
 彼女は槍を旋風の如く旋回させて、氷を凌いだ。
 自身の放った氷と、旋風の衝撃がシャラルを襲った。

 「うわぁぁ————!!」

 彼は地面の上を派手に転がった。
 まるでカマイタチのような風を直接受け、肌には斬り傷が幾つも見られた。
 いてて、と目を細めていた時。

 「第五次元発動——————衝砕!!!!」

 振り上げた槍の矛先が、しっかりと彼の目に突き刺さった。

 「うぐ……っ!! こっちだって!!!」

 砕かれた瓦礫の中で、彼は手を伸ばした。
 指に乗せたコインでも弾くかのようなその身構えに、キールアは咄嗟に槍を構えたが。

 「氷砲——————!!!!」

 さっきまでとは全く違う細い氷の棒が、彼女の腹部を綺麗に貫いた。
 まるで銃弾でも撃ち込まれたかのような痛みに、彼女は思わず腹部を腕で抑える。
 口から、盛大に血を吐き出す。

 「へへ……まだまだ本番はこれからだぜキールア!!!」
 「……ッ!!」

 金色の瞳が、ギラリとシャラルを睨み付ける。
 彼女と距離を取るシャラルは、ふぅと息をしながら口元を拭った。
 ぺっ、と血を吐き捨てて、彼はそっと腹に手を添える。

 (一番初めの攻撃で肋骨が何本かいってる……慎重にやらねえとな……)

 キールアが再び槍をその手に掴む。
 然しその手もまた、じんわりと汗で湿っていた。
 熱い掌で冷たい槍の柄を掴んでいると妙に気持ちが悪い。
 それでも、離しはしないと。
 ぎゅっと、力を入れる。

 「第七次元発動——————氷撃ィッ!!」

 拳を思い切り地面に叩き付ける。
 その衝撃を伝うように、地面が薄い氷に追われていくのが分かった。
 自分の足元にまで氷が迫った時、キールアは迷わず宙に跳んだ。
 そこで。

 「かかったな————!!」

 跳んだキールアの真後ろに、いつの間にか彼がいた。
 シャラルは彼女の目の前で手を翳す。

 「氷砲————!!!!」

 キールアは、そんな一瞬の出来事を。
 まるでものともせずに。

 「戯旋風————ッ!!」

 氷の砲撃を、見事に砕く。
 こんな容易い作戦なんて、と思っていた。
 その時。


 「だから、“かかったな”って言ったんだよ」


 景色の中に、氷の塊が幾つもあって。
 彼女にとっては、それが死角となっていた事に、本人は気付かず。
 氷と共に宙にいた彼女は、下を見た。

 シャラルは、にっと笑って地面に手を置いていた。

 「氷柱——————ッ!!!」

 地面に這う氷のプレートを派手に打ち砕いて、氷の柱はキールアを包む。
 これは本当に拙いと、ぐっと更に銀の槍を掴んだ時にはもう遅かった。

 「————!!?」

 どすんと、体が地面に落ちる。
 周りには、氷の壁。


 「……っ!?」


 そう。
 ぽっかりと、まるで筒のような空間の中で。
 彼女は咄嗟に思考を失った。

 それが、仇となるとも知らずに。

 「そこならもう、逃げることもできねーよな?」

 聞こえたのは、そんな挑発的な声で。
 その声は、ずっとずっと、上の方から響いていた。

 「第八次元発動——————」

 ふわりと金の髪を揺らして。
 上を見た。

 「——————氷砲!!!!!」

 真上から迫る氷が、自分を包んで轟音を奏でた。
 太くて硬い氷の槍が自分目掛けて降ってくると共に、彼女は咄嗟に目を瞑った。


 「ふぅ……天才ってのは辛いねえ……」


 すたっと空中から落ちるシャラルは、そう呟いた。
 目の前には、大きく冷たい氷の柱が聳え立っていて。
 中で凍っていると思われる金髪の少女は、出て来ない。
 シャラルはやりすぎたか、と言葉を零した。

 (あ……れ……わ、私……)

 冷たい感触が肌を伝ってきた。
 そっと目を開けると、そこには少しだけ歪んだ景色があって。
 周りには、不透明な氷しかない事に気付いた。
 自分は、氷付けにされているのだろうか。
 半分働いていない脳で必死に考える。

 (……よく、思い出せない……でも……)

 動かない体が、どんどん冷えていく全身が。
 自分に力を、与えてくれない。
 心臓の音が、遠ざかる。


 (ああ……私……や、っぱ……り……)


 目を、閉じようとした。
 冷えて遠ざかる意識も、全く動かない体も、まるで死んでいくように。
 ゆっくりと、ゆっくりと、消えていくみたいに。
 すっと、何かが頬を過ぎった。

 その時。


 「ん……——————……はっ?」


 何気なく、シャラルは振り返った。
 そこに、あったのは。


 「寝るにはまだはえーんじゃねえか————————なあキールアッ!!!!」


 橙に光る、炎の景色。

 「何だと————!!?」

 双子と戦っていた筈の紅い少年は、炎を放つ。
 真っ赤に燃え滾るそれは。

 キールアの心に、小さく火を灯した。



Re: 最強次元師!! 【定期更新】 ( No.954 )
日時: 2014/03/02 10:45
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
参照: 2話同時更新!

 第260次元 戦い方

 じわじわと氷が溶ける。
 溶けたソフトクリームのように本来の形を崩した氷の柱。
 水塗れのキールアは、ぱたんと力なくその場に倒れ込む。

 「ちょっとちょっとーっ!!! 仲間助ける余裕なんてあったわけェーッ!?」
 「うるせえ!!! 仲間が危ない時に余裕もクソもあるか!!!」
 「余所見すんなよ————お坊ちゃん!!」

 伸びる縄は、サボコロの足元で踊る。
 軽快のステップを踏んでそれを避けるサボコロの横顔を、キールアはちらと見た。
 助けて、くれた。

 「良いお友達がいるんだな……キールア」

 水を含んだ口から、赤の薄い液体が飛び出た。
 細めた目で、潤んだ瞳で、シャラルを睨み返す。

 「サボコロは……大事な仲間だから……」
 「んっ!? それはどういった意味での“ダイジ”なんだ!!?」
 「……もう突っ込み入れるのも面倒臭いよ」

 よろっと、キールアは立ち上がる。
 氷の水でびちゃびちゃの体は、それでもしっかり地に足をつけて天へ伸びた。

 「……ありがとう、サボコロ」

 自分だって、強い相手と戦っているのに。
 ボロボロになって、戦っているのに。
 きちんと他の仲間に目をやって、周りをきちんと見て。
 彼は本当に、変わったと思う、と。
 キールアは呟いた。

 「今の氷のおかげで目が覚めたわ——————ここからが本番よ!!!」
 「おもしれえ——————流石俺の惚れた女だ!!!」

 氷と槍は、再び競り合う。
 動き始めたキールアをサボコロは横目で確認した。
 キッ、と彼は向き直った。

 「あまり無茶をするなよ」
 「わあってるよ。今のは、借りを返したにすぎねえ」

 2人の周りを未だに這い回る縄。
 これをどうにかしない限り話は進まない訳で。
 サボコロはじっと縄を睨んだ。

 「……これ、どうしたら解けるんだ?」
 「さあな……少なくとも、この中でしか貴様は次元技を使い切れない……何とかしなくては」
 「おう……、っ?」

 ちらっと、サボコロはエンの手を見た。
 血が、ぽたぽたと垂れている。
 驚いた彼は、思わず声を上げた。

 「ちょ、お前その傷……!」
 「ん? ああこれか……心配には及ばん。最も貴様に心配されるなど気色悪いだけだが」
 「はァ!? 人が折角っ!!」
 「今は目の前の敵に集中しろ。……悔しいが奴らが受けたダメージは少ない」
 「あ、ああ……」

 エンの傷に、もう一度目をやった。
 きっと弓を引く時に無茶でもしたのだろう。
 八次元級の技を次元技も使わずに打ち破った彼のその執念は、見事なものだった。
 どうすれば彼らに決定打を食らわせられる、と真剣に彼の瞳は滾る。

 金髪の少年は、その少し前の光景を目の当たりにしていた。

 「すっげえーじゃん、エン君。————お前と違ってな!!」

 双剣はまた弾かれた。
 勢いよくタイルの上を滑るレトは、呼吸を整えるのに必死だった。
 睨み合う2人は、まだ次元技を使わない。

 「そろそろギブアップした方が良いんじゃないのか?」
 「それは……できねえ相談だな」
 「そうか……————じゃあこうするまでだな!!」

 シェルは駆ける。
 レトは同時に剣を構えた。
 長い剣の切っ先が、鋭くレトの双剣に突き刺さる。
 一瞬、弾かれた。

「隙だらけだって————言ってるんだよ!!」

 ぐっと剣を握る手に、力を入れる。
 その力強さに、重さに、レトの剣は弾かれた。

 「ぐっ————うわァ⁉」

 剣は止まらない。
 レトの肩から溢れる血飛沫を纏い、レトは体ごと押された。
 ふっとシェルは剣についた血を払い落とす。
 そうして、剣の切っ先を、今度はレトの喉に突き立てた。

 「さっきみたいな小細工は、もう効かないぞ?」

 肩を、抑える。
 溢れる血は止められず、ただそれはどくどくと地面を這う。
 べっとりと、手のひらに血が纏わりつく。

 「体力には自信あるみたいだが……実践向きかどうかは別なんだよ」
 「……」
 「お前の甘さじゃ、代表になんかなれない——————諦めろ」

 シェルは、冷たい瞳でそう言った。
 レトは顔を上げない。じっと、項垂れたまま。
 地面に転がった双斬が、彼のことを心の中から見ていた。

 「エン君は次元技が使えない上サボコロ君は元力の使い方が荒い。更に今は一次元級しか使えない」

 シェルは淡々と語りだした。
 楽しそうに、口元を歪ませたまま。

 「まあキールアちゃんはシャラルと競ってるみたいだけど————相手が悪い」
 「……相手?」
 「ああ……悪いけど、お前たちに勝ち目はないよ」

 シェルは、剣を上に上げた。
 降参をしろと、鋭い目が強く訴える。
 レトはやっと、顔を上げた。


 「諦めろ————————大事な奴らが傷つく前に」


 その言葉を聞いていた少年は。
 ぼそっと何かを呟いて、動き始めた。

 次の瞬間。

 「————!!?」

 レトが、握っていた剣が。
 レトの周りに壁を張るように、振り下ろされた剣を見事止めた。
 剣は競る。金属音は、僅かに響く。
 短い双剣は、今まで脅威だった光剣を、弾き退いた。

 「……!? なんだ……まだやる気はあったってのか」

 レトの虚ろな瞳は何も語らず。
 ふらっと、不安定な足元で立ち上がった。
 そして。

 「なッ————!?」

 今度は、双斬が光剣に振り掛かった。
 今までの動きとは全然違う。
 力を込め、ふとした隙を逃さない。
 ただ競り合っているように見えて、互いが互いの力量を懸命に探っているとも周りは気づかない。
 鈍く光る剣の刃が、シェルには恐ろしいものに見えた。
 今までのレトとは違う。
 誰か別の人が、彼を操っているように感じた。

 「く……っ!」

 シェルは力を殺す。
 この時初めてシェルは身に危険を感じ飛び退いた。
 距離をつくる。

 「隠し玉ってわけか……? 出し惜しみはするなよな」

 意識が半分飛んでいたレトに、その声は聞こえなかった。
 ただ心の奥底で、何か熱のようなものが疼いていて。
 彼本人にも、それが何なのか分からなかった。

 その時。

 (——————レト)

 それは聞き慣れた幼い声だった。
 心の中で、或いは現実で。
 何度も言葉を交わし、心を交わしてきた。
 レトの、剣の声。

 「そ、う……ざん……」

 (僕が分かる? ……ねえレト)

 「……ん……」

 (僕は、君に英雄になってほしい。そして僕を————超えてほしいんだ)

 双斬の声は、真剣そのものだった。
 レトは、何も言わない。

 (ねえ……一度だけ)

 「……?」

 (その場所で……僕を見ていてくれる?)

 「え……っ?」

 (本当はダメなんだけど、君はまだ何も知らないから)

 「そ、れって……」

 (ここでもう一度、君に“戦い方”を教える————じゃあ、いくよ)

 双斬が、そう告げた次の瞬間。
 体中に流れていた元力の雰囲気が、変わった。
 粘土が人の手によって形を変えるように、元力もまた形を変える。
 レトの握っていた剣は、重く彼の手に圧し掛かった。

 「……? 何ブツブツ言ってるんだ? かかってこないんならこっちが————」

 その声は、剣が空を斬る音に掻き消された。
 周りの風を抱き込んで、その切っ先は勢いよく、無駄なくシェルの目前に迫る。
 彼の頬が薄く切り裂かれた。

 「——ッ!? またか!!」

 彼も負けじと剣を出す。
 然し双斬は、剣の軌道に乗って滑らかに刃を受け流した。
 空いていた左の剣が、天へ向けて振り上げられた。
 下から斜めに切り込みを入れるように振られた一太刀が、シェルの視界に赤みを差す。
 よろめいた体で、もう一度態勢を立て直そうとした時。
 既にぐるんと回っていたレトの右手にあった短剣の柄が、シェルの腹部に押し込まれる。
 鈍い音は、大きく響いた。
 会場に溢れ返る歓声など、両者の間には聞こえない。

 観客どころかレト本人でさえ、深く固唾を飲み込んだ。
 自分の力ではないことを、痛感させられる。
 ここにきて改めて、“英雄”の名の重たさを知った。




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