コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
- 日時: 2015/03/15 09:40
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/
運命に抗う、義兄妹の戦記。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
基本毎週日曜日に更新!
※追記
実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
とってものんびりと、更新する予定です。
Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
イラストとか宣伝とかを呟いてます!
※注意事項
・荒らし・中傷はお控え下さい。
・チェンメなんかもお断りしてます。
●目次
prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071
第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274
第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417
第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508
第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623
第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772
第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858
第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908
第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964
第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997
※第301次元〜は新スレにて連載予定
●おまけもの●
●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58
●番外編
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944
●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460
●キャラ絵(複数)
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737
☆奏様には毎度ご感謝しております!!
すごく似ていて、イメージ通りです
キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙
●お知らせなど
* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998
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- Re: 最強次元師!! 【終盤間近の為ハイスピード更新】 ( No.960 )
- 日時: 2014/03/10 23:02
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
- 参照: 今回は、本作の大きな節目になるのかな。
第266次元 新たなる力
歓声は、一斉に上がる。
その声は止まないまま、ただ会場に高らかに響いた。
セルナはただ一人、涙を零していた。
「さ、ぼこ……ろさ……っ」
いつもと違って白いバンダナを巻いていないサボコロは、笑っていた。
もう立っているのもやっとのはずの彼が、レトに向かって声をかける。
「お前も縄かよ……それ、態勢が辛いだろっ?」
「はは……経験者は語る、ってか」
サボコロに続いて、キールアとエンも、歩み寄ってくる。
思わぬところで邪魔をされたシェルは、笑った。
「嘘だろ……流石、エポールチームは底知れねえな」
「本気……出させるんじゃなかったのか?」
「まあな……ちょっと先延ばしになっただけだ————今からやってやるよ」
会場内の、雰囲気は変わる。
縄に縛られたままのレト。目の前に立つ、3人の仲間。
誰もが傷を抱えて尚、そこに立つ。
英雄になる、たったそれだけの想いの為に。
「フィナーレだ————————シャラル!!」
「おうよ!! ——————氷撃!!」
氷の塊が、一斉にエポールチームを襲う。
迷わずキールアが出た。
「戯旋風————!!」
「炎撃————!!」
氷を弾いて、破片は溶けた。
既に弓を引いていたエンの指が、離される。
「——複閃!!」
何本もの矢が、4人に迫る。
鈴の音色は、激しく響いた。
「第八次元発動————————鈴鳴叫!!!」
放たれた矢が、壁に当たって弾けた瞬間。
3人は、全員地に伏せた。
何が起こった、とレトが驚く。
「い、いた……ぃ、つ……!!」
「んだ、これ……いってえ……ッ!!」
「く……!!」
今までとは違う音。
そう、誰かの“叫び声”が————頭の中で叩くように響いていた。
「元力たくさん使うから、嫌、だったんだけど……」
「ここまできたら、もう関係ねえ!!」
「レトヴェール————どうだ? 仲間の苦しむ姿は」
エンが、弓を落とした。
キールアは握っている。然し手は震えていた。
サボコロも、苦しみながら膝をつく。
「ふざけんな!! 今すぐ止めろ!!」
「降参、してくれるんならな」
レトの口から、言葉は洩れなかった。
縄は解けなくて、でも仲間はどんどん傷ついていって。
意識を失いかけた3人が、それでもと。
「何を……言っているの……?」
「降参なぞ……——端からするつもりはない!」
「俺たちが必ず————レトを代表にするんだよ!!」
掴み上げた弓で、荒々しく矢を引き絞った。
「————真閃!!!」
力強い矢が、放たれる。
「炎砲————!!!」
炎が渦を巻いて、4人に襲い掛かった。
速すぎたのか、鈴を広げる間もなく。
槍の切っ先が—————4人の頭上に向いた時。
「言っただろう——————————“フィナーレ”だ」
刹那。
その全てが——————無に還った。
「え……——っ」
シャラルが、地面を叩いた。
見事に空間は、凍る。
氷が作り上げた“山”が————3人を勢い良く突き刺した。
「————!!」
跳ね上がる、3つの体。
血は溢れ出す。刹那の間に起こった惨劇は、今地に堕ちた。
誰も動く者はいなかった。
シェルは……ゆっくりと歩く。
「降参、しないのか?」
「!?」
「お前のせいで……仲間は傷ついていくんだぞ」
「や、やめ……」
「これ以上、何を代償にして————お前は“英雄”に縋ろうとする?」
倒れた3人は顔を上げなかった。
槍も弓も、無造作に転がっている。
隣にいる双斬も何も言わなかった。
「お前を守るもんも、もういねえよ」
「……」
「もう、降参しろ」
仲間が、これ以上傷つく前に。
3人とも倒れているのに、相手の4人は立っている。
勝てる状況じゃない。
それはレト自身、痛いほど分かっていた。
もう諦めるしかないのだろうかと。
俯きながら何度も何度も、考える。
(俺は……————)
小さい頃から、英雄になるのが夢だった。
その夢を、キールアに語ったこともある。
正義を証明してやるって。俺が絶対守ってやるって。
そんな彼女も今、自分のせいで倒れている。
ロクは言った。
諦めるなと。
彼女は、言った。
(……——レト)
心の、響く声。
幼い声は、レトの中で暖かく広がった。
(英雄になりたいって……今の状況でも思う?)
「……」
(僕は言ったよ。“僕を超えてほしい”って……君は)
「……」
(君は……——“君自身”に、負けてしまうの?)
彼女が言った言葉。
たった4文字の、幼い言葉。
誰でも言える。安直で簡易な言葉を。
彼は、真っ直ぐ受け止めることができなかった。
「終わりにしよう……——レトヴェール」
振り上げた。剣は空を伝う。
たった一人で、この場に取り残された彼。
たった一人で、義妹に取り残された我が身。
彼女の言葉を、信じたかった。
裏切られた今でも、彼女を信じていたかった。
そんな感情が交差する。
何度も何度も、きっと何度でも。
胸の中に残り続けるもの。
剣は、振り下ろされる。
「————なっ!?」
レトは、避けなかった。
避けることができなかったのではない。
敢えて半歩だけ、後ろに下がった。
縄が、切れる。
「お前……頭使うよなホント」
然しだらんと下がった腕は、双斬を掴まなかった。
諦めたように、項垂れる頭。
レトは、顔を上げた。
次の瞬間。
「————!?」
レトの金の瞳が、シェルの中に入り込んでくるようだった。
諦めることを、諦めた瞳。
「双斬……俺、できるかな」
ぽつり、と。
呟いた、言葉。
シェルは、顔を顰める。
この時。
彼の心臓は、確かに一度、高鳴った。
「諦めたくないし、否定したくない————ロクの言葉を、」
「……っ?」
「信じて———みようと思う」
双斬を、拾った。
彼はそっと、それを撫でた。
これで最後にするから。
これで、弱音を吐くのは最後にするから。
だから。
『——————“負けんな”!!』
彼女は、笑っていたんだ。
「俺の事も————————信じてくれ!!」
心臓が————思い切って跳ね上がった。
「次元の扉——————————発動!!!!」
聞いたことのある言葉だった。
それは、次元師が、次元を発動する時に放つ言葉で。
双斬を、ただ両手で握りしめて、彼はそう叫んでいた。
風が、荒れた。
新しい何かが————————今、蠢き始める。
「——————————“双天斬”!!!」
双斬の形が————変わった。
(————何!!?)
風が、一斉に彼の許へと集まった。
双斬が、形を変える。
銀の刃が、一層鋭く、伸びる。
紅く紅く、柄は染まる。
“双天斬”————確かに彼はそう叫んでいた。
「……っ!」
「な、んだこれ……」
レト本人も、酷く驚いていた。
剣の形が変わった。然しそれだけではなくて。
今までとは違う、重みがずしりと彼の手に乗る。
双斬ですら得られなかった、至高の剣。
彼はそれを手にして、ぽかんとしていた。
「隠し玉ってわけじゃ……なさそうだな」
「……!」
「面白そうじゃねーか……受けて立ってやるよ!!」
シェルの切っ先が向く。
レトは咄嗟に、双天斬を構えた。
瞬間、光剣は弾き飛ばされる。
「ぐ……!?」
「……!!」
「なら……こうだ!」
剣を、横にして。
彼は叫んだ。
「第七次元発動————真空斬り!!!」
気を溜めて、一気に距離を縮めた。
刃の先には重たいほどの気を込めて、それをレトに向けた。
レトは、双天斬を縦にする。
綺麗に、受け流した。
「——————八斬乱舞!!!」
八斬切りよりも、速く激しく。
目にも止まらず、疾風の如く吠える剣は、シェルの真空派を難なく打ち砕いた。
「こっちだって————鈴鳴!!」
鈴を広げる。声を張り上げる。
レトは、ぐるんと振り返った。
「————うらァ!!」
パリン、と響く、空間を壊す音。
鈴鳴は、一瞬にして砕けてしまった。
「嘘……!」
「絡縛————!!」
細くて小さい縄を、レトの腕を目がけて飛ばす。
レトは、リリエンの方を見向きもしないで。
「————させねえよ!!」
左手一つで、縄を引き裂いた。
豆腐を斬るように、軽い力で縄を払った。
違う、と思った。
今までの双斬とは、今までのレトとは。
まるでさっきのサボコロのように。
(本気……出させちまったみたいだな————)
双天斬は、舞う。
胡蝶のように、まるで踊っているように。
力強くも美しく、振るわれる力。
その刃が、次元師の“限界”に希望を与える鍵となることを。
彼らは、少しだけ後に知ることになる。
- Re: 最強次元師!! 【終盤間近の為ハイスピード更新】 ( No.961 )
- 日時: 2014/03/16 09:17
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
第267次元 今、英雄となれ
「真斬————!!」
シェルの剣が牙を向いた。
レトは一歩だけ、下がる。
ぶん、と空振ったシェルは咄嗟に剣を引く。
レトは既に、剣を振り上げていた。
「ぐ……!!」
上からの力と、下からの力。
レトに押し潰される前に、隙を見てシェルは抜け出した。
息が、異常なまでに上がっている。
「はあ……はあ、っは……っ」
「どうした? 息上がってんぞ」
「うるせえ!」
剣を払った。
彼は、双天斬を構えた。
「第六次元発動————鈴鳴叫!!」
レトの頭の中で響く激しい音。
誰かの叫び声にも聞こえるその音は、彼の脳内で暴れ回った。
「う……ッ!」
「リリエン! 今のうちだよ!!」
「おう!!」
リリエンが、縄を手にぐっと握った時。
レトは、腕を伸ばした。
「じゅ、十字斬り————!!」
双剣を重ねて、真空波が唸りを上げた。
リリエンとリリアンを、勢いのある風が吹き飛ばした。
シャラルは既に、頭上に跳んでいた。
「氷砲————!!」
反応が遅れる。
咄嗟に顔を上げて、顎を引いて、横へ跳ぶ。
氷の砲撃が地面に突き刺さって、レトはぎゅんと足に力を入れた。
「八斬乱舞————!!」
疾風。
シャラルとの距離は僅か数センチ。
彼の双剣は、シャラルを斬りつけた。
「うわぁぁ!!」
シャラルがどさっと倒れ込んだ。
勢いのある剣術。
その刃の先が怖くて、立ち上がるのも躊躇するほど。
レトは、4人を相手にまるで怯むことをしなかった。
「すっげ……」
「なんだ? あいつ……」
観客もざわめきながら、歓声を張り上げていた。
決勝戦の大舞台で、奇跡を見せるレトヴェール・エポール。
国内でも名が通っていたエポール義兄妹の兄とは、誰も言わなかった。
ただ一人、彼だけの実力を初めて認めることになる。
「くっそ……」
「もうこっちは……ボロボロだっつの……」
フィナーレだ。
あの時の言葉を、思い出す。
もう立つのもままならない。
レトは、ぐっと手に力を入れて、シェルを見据えた。
先に大将を討った方が勝ち。
「終わりになんか……させないって顔だな」
「俺が、終わらせてやる」
「でも忘れんなよ————お前の敵は4人なんだぜ!!」
その言葉を、“彼ら”は聞き逃さなった。
「氷砲——————!!」
氷の刃は再び飛んでくる。
レトが、一歩下がって双剣を構えた時。
炎を纏った弓矢が——————その全てを溶かし尽した。
「「————————炎節!!!」」
会場は、再び歓声に溢れた。
準決勝で見せた、奇跡の両次元。
千年前の英雄2人と、とある義兄妹にしかできなかった業。
エンは、誇らしく立っていた。
「エン、サボコロ————!!」
「敵は4人? ————ならばこちらも“4人”で討ち合おう」
「は……? 何言っ————」
シャラルの、リリエンの、リリアンの。
頭上に舞う——————“百夜の槍術師”。
「堕陣——————必撃ィッ!!!」
彼女は堕ちた。
衝撃は、会場中を巻き込んで揺れる。
金髪は————靡いた。
「キールアまで……!?」
「私だって戦える!! ————皆と一緒だよ!」
彼女は笑って言った。
戦うのなら、今ここで、英雄になるのなら。
皆、一緒だと。
「くっそ……!!」
炎を纏った矢が舞う。
銀の槍が、大地を打ち砕く。
紅い双剣が————大将の瞳に深く刻みを入れる。
「俺が英雄になる!! ——お前なんかには渡さない!!」
「奇遇だな……俺も同じ気持ちだよ!!!」
シェルは、剣を弾いた。
退いて、呼吸を整えて、レトと対峙する。
「剣術もサボっていたような奴が……英雄になんかなれるかよ!!」
双天斬は、ここで初めて弾かれた。
レトが手を大きく広げて、足元を滑らせる。
お互いが、睨み合う。
「剣術なんて関係ねえよ! 想いの強さが大事だろうが!!」
「想いの強さ? そんなの————神には通用しねえだろ!!」
再び競り合い、鬩ぎ合う剣。
金属音が低く響いた。ギギギ……と嫌な音を奏でる。
「俺が憧れる英雄は言ったよ————その剣に想いと誓いを乗せろって!!」
レトが、シェルを突き放した。
剣が離される。
呼吸は乱れたまま、シェルの剣は震えていた。
「俺の憧れる——————義妹は言ったよ」
静かだった。
レトとシェルの周りだけ、2人を囲む世界だけが、音を無くしたように。
「————————“負けんな”って!!」
紅い刃が、シェルに迫った。
彼は、それを必死に防ぐ。
力一杯剣を握って、レトから距離を取ろうとした時。
背中に、何かが当たった。
「————は?」
トン……——、と。
シェルは思わず振り向いた。
そこには。
「「「「————!!?」」」」
デルトールチームの4人が
お互いに背中を預けるように————立っていた。
(しまった————!!!)
もう遅い。
シェルは離れようと、前を見た。
それは他の3人も一緒で。
然し。
「“言っただろう”——————?」
4人を、囲むように。
レトも、キールアも、サボコロも、エンも。
皆、武器を片手に————その瞳に闘志を灯していた。
「——————“フィナーレだ”!!!」
敗北は、決まっていたのか。
そうではないと。
ただ彼らは信じていた。
お互いを。
他人ではない————“仲間”を。
「双天——————魔斬!!」
「螺炎閃——————!!!」
「滅紫——————烈衝!!!」
誰もがこの時胸を躍らせたことだろう。
例え一人だけ、取り残されても。
例え自分がどれ程傷つけられても。
諦めなければ、決して挫けなければ。
必ず奇跡は起こるものだと。
必ず奇跡は、起こせるものだと。
『こ、今大会、英雄に選ばれし優勝者は————……っ』
倒れる4人。
立っている4人。
彼らは————勝ち鬨を上げた。
『エポールチームだァァァ——————!!!』
頭の中にまで響く痛い歓声。
観客達は、レト達の優勝に怒号、雄叫びを上げていた。
溢れる観客は、立って、騒いで、泣いて、皆が祝福の言葉を会場に響かせる。
レト達4人は腕を上げて振って、苦笑いのまま立っていた。
「レト……」
「……? キールアか」
「おめでとう……おめでとう、レト!」
「はは……つかお前もだろ」
「へへ、そうだね……——でも本当に良かったっ!」
何年もずっと。
ずっと、憧れ続けてきたもの。
未だに彼の手は、震えたままだった。
「やったなレト!」
「いでっ! お前ケガしてんだろ……早く医務室行けっての」
「お前もな! ホントすげーよ!」
「ありがとな」
「ここまでくると清々しいな」
「エンもありがとな……次元技使えなかったのに」
「ふん……俺には貴様と違って由緒正しき戦法がだな……」
「あ、エン照れてるーっ」
「きさ……キールアか!! お、俺は決してそのような……っ」
「エン……ぷぷ……お前も照れたりすんだな……」
「死ぬかサボテン」
「おいおいキールアとの扱いの差が広いぜ?」
4人は高らかに笑い合う。
傷だらけで、もう動けない体なのに。
お腹を抑えて笑い合っていた。
「……よくやったな、お前達」
聞いたことのない声が、突然4人の耳に入ってきた。
振り向くと、そこには綺麗な女性が立っていた。
黒髪を高く一つに束ねたポニーテイル。長身と、スタイルも良い。
彼女は、口を開いた。
「お前達は今日から晴れて“英雄”になる……大戦では楽しみにしていよう」
「あ、ありがとう……ございます」
「ところでお前は?」
「こらサボコロ! 年上に向かって……」
「私はチェシア・ボキシス……今大会の運営委員でもある」
「? ……ボキシス?」
レトは首を傾げた。
そして、どこかで見たことがあるような、とも思った。
「お前達には……英雄としての“称号”を与えよう」
はっとするレト。
称号とは……と思っていた時。
双斬がポンと音を立てて具現化した。
「僕らでいう“英雄大六師”みたいなやつだね!」
「そうそう!」
続いて炎皇も現れて、チェシアは驚いた。
それも一瞬で、すっとレトを見据える。
「レトヴェール・エポール……貴様が大将か?」
「え? ああ、はい……」
「そうか……————ならば」
それは、一瞬のことだった。
彼女は小さく、何かを呟いた。
「——————次元の扉、発動」
その掛け声を、彼らは知っていた。
次の瞬間。
長い刃のようなものが————レトの目の前にまで迫った。
- Re: 最強次元師!! ( No.962 )
- 日時: 2014/03/25 20:05
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
第268次元 英雄大四天
「レト!!」
「——!?」
咄嗟に、双斬に戻った双剣を、構えて出した。
良く見ると長いその刃は————“刀”だった。
「ちょ、何すんだよ!!」
「今殺す気で……——!」
「……なるほど」
双剣で抑えられていた刀を、彼女は離して引いた。
空間に消える。
間違いない————彼女も次元師だ。
「“人族代表”に……相応しそうだ」
「……!」
「人族……代表って……」
レトは息を呑む。
そして自分も、双斬を空間の中へと消した。
「この4人の中で————最も強い次元師に“人族代表”の名を背負って貰おうと思ってな」
「最も……」
「強い……次元師」
「皆心は決まっていると見た————名を上げよ」
会場も、静まり返る。
もう、心は決まっている。
レトは、顔を上げた。
「俺が————————俺が背負ってやる!!」
キールアも、エンも、サボコロも。
顔を見合わせて微笑んだ。
彼しかいないと。
4人で組んだその時から、そうずっと思っていたのだから。
「良い心意気だ……忘れるな」
「お、おう」
「そしてここに誓え————お前達“英雄大四天”に、人類の未来を全て託す!!」
“英雄大四天”
説明されなくても理解することができた。
それは、英雄としての“称号”なのだと。
「誓うよ————英雄として、絶対に守ってみせる!!」
力のある目だった。
弱冠16歳にして、闘志に滾る瞳を持つ少年達。
チェシアは、うんと頷いた。
「良かろう……今は、心身ともに休めるのが先決だ」
「ありがとうございます」
「私はただ……お前達の覚悟を見に来ただけなのでな」
「次元師……なんですよね?」
「ああ……次に会うのは————戦場だな」
彼女は、踵を返して歩き出した。
歓声の舞う中で、レト達はもう一度誓う。
守ってみせる。
この人類を、この世界を。
必ず、神の手から。
「よし……俺達も帰ろう」
「そうだな! 久々に食堂の飯が食いてえっ」
「そんなことより体中が痛いんだけどね……」
「医務室に向かうが先か……」
4人は歩き出した。
その時、観客席にいた蛇梅隊の隊員達の群が、だだーっと近づいてくるのが目に見えた。
やばい、と逃げようとしたが、見事に囲まれてしまう。
「レト—!! やったねーっ!!」
「うっわミル! やめろって痛い痛いっ!」
「キールアちゃんも、サボコロちゃんもエンちゃんも、凄かったねえ!」
「本当に感動しました……おめでとうございます!」
「ありがとう、ルイル、ガネスト」
「み、みなさんおめでとうございます……っ」
「リルダもさんきゅーなっ」
「あ、あの……」
十数人が一斉にレト達4人を喜びに囲む中。
セルナは、一人俯いていた。
喜んでいる。とても嬉しいのは彼女も同じ。
然し。
「……——セルナ」
サボコロの声に、セルナは顔をあげた。
彼女はずっと心配していた.
ずっとずっと、心配をしていたのだ。
「わりい……使っちまったよ、ごめん」
「いえ、そんな……っ」
「でもセルナのおかげで、俺勝てたんだ……すっげえ感謝してる!」
わっ、と。
彼女も、周りも、驚いた。
サボコロは、軽々しくセルナを持ち上げる。
「さ、サボコロさ……っ!」
「さんきゅーっ!! お前のこと本当に見直したぜ!」
セルナを下して、サボコロは意外な行動にでた。
そしてその姿に、誰もが驚きを隠せなかっただろう。
サボコロは、ぎゅーっとセルナを抱きしめていた。
「さ、さささ……っ!!」
「お前すっげーよ! ——やっぱ自信持てって!」
あーあ……といった表情。
ルイルの目を伏せるガネスト、それに加えて口笛を鳴らし始めるロティまで。
本人は決して深い意味はなくてセルナに抱き付いているのだろうが。
女性陣が恥ずかしくて目を伏せていた時。
「こらっ!」
「あいで!!」
コールド副班に拳骨を下されて、一同はどっと笑いに溢れた。
その後、傷口の痛みが再発した彼らは急いで医務室へ。
長かった、と口々に選手たちは言葉を漏らしていた。
レトも、あの時の義妹の言葉を思い出して一人、皆と同じ事を思っていた。
本当に長かった。
彼は、自然にも瞼を落とし眠りについた。
今日も蛇梅隊本部は騒がしかった。
レトヴェール達が代表者に選ばれた事、英雄としての名を手に入れた事。
決定戦翌日は国中どころか海外までもがその話題で持ち切りだった。
新聞で大々的に記事が載り、本部への問い合わせは後を絶たないという。
にも関わらず、白い病室はまるでそこが違う世界かのように静寂であった。
レトは体を起こして、ぼーっとしていた。
結んでいない金髪が、だらっと下ろされていて。
一見ただの女の子にしか見えないその姿は、体ごと別の方へ向いた。
「起きたみたいだね」
「おう」
同じく金髪を持つ、ツインテールの彼女は笑った。
キールアは片手にバインダーを持って椅子に腰をかけた。
「髪の毛結んでいないと、女の子みたい」
「うっせ」
「冗談だよ」
「冗談かよ」
「ふふ……レト、体は大丈夫?」
「おかげ様で。お前は?」
「心配してくれるの?」
「……」
「嘘だよ。大丈夫」
ほら、と腕を広げてみせる。
包帯を巻いてはいるが、ぶんぶんと振り回す程度には回復しているようだった。
「一応レントゲンとっておこうか? 骨バッキバッキだったでしょ?」
「女の子がバッキバッキとか言うもんじゃありません」
「……珍しく説教口調だね」
「良いよ、面倒だし」
「そう? じゃあ良いとして……あ、なんか班長から休暇命令出てたよ?」
「休暇命令?」
「私達はしばらく任務行かないこと、だってさ」
「だろうな……」
いつもよりも病室生活が長引きそうだ、とレトは息を吐いた。
久しぶりに自室に戻ってゆっくりしたかっただろうに。
分かりやすくレトの表情は落ち込んでいた。
「それより食堂行かない?」
「俺動けないけど」
「じゃあおん……」
「歩きます」
おんぶしようか、と言い終わる前に彼は言葉を挟んだ。
少し前にエンとサボコロに酷く笑われた事を思い出したのだ。
同じ過ちは犯さないとでもいうような顔。
キールアは笑う。
「そう? じゃあ行こう?」
「あ……キールア」
「? なーに?」
レトは思わず呼び止めた。
聞きたい事が、と彼は続ける。
「しゃ、シャラルの件だけど……」
「へ? シャラル?」
「……お前、もし負けてたらどうするつもりだったんだよ?」
ああ、とキールアは納得した。
結婚がどうとか言っていたあれか、と。
彼女はまた笑う。
「さあ? 結婚したんじゃない?」
「お前なあ……」
「でも、負ける気なんて端からなかったし……それにね」
「?」
「やっぱり自分の認めた相手と、そういう事したいじゃない?」
彼女は悪戯っぽく笑った。
シャラルは圏外です、と一言付け加えて。
なんじゃそりゃとレトもずっこける。
「何か拍子抜けしたら腹減ってきた……」
「何それっ」
「さっさと食堂行くぞー」
「久々に食堂の料理食べられるね」
「何食おうかな……」
仕方ないので、レトは松葉杖を使って歩いていた。
隣でキールアが歩幅を合わせながら声をかける。
大丈夫? おう。といった、いつも通りのやり取り。
キールアは、食堂の扉に手をかけ、そのまま押した。
「うっわ今日も大盛況……」
「昼時ってのもあるか」
広い食堂には、何百といった隊員達が料理を乗せたトレイを持ってざわめき合っている。
木のテーブルに腰をかけ、昼間から飲んでいる男性も見受けられた。
レトとキールアは、空いている席に2人して並んで座った。
そこで。
「ん……なんだレト、キールアと一緒に来たのか?」
同じく包帯を巻いていた少年、エンが声をかけてきた。
英雄として共に戦ってきた彼は、レトの前の席に座る。
両手でトレイを掴み、その上には冷たそうなうどんが乗っている。
カタン、と机の上に載せた。
「さっき起きたからな」
「そうか。聞いたか? 休暇の事」
「ああ。ま、当然の判断かとは思ったけど」
「あと半年か……長いのか短いのか、分からないな」
あと半年。
今は夏に入っているから、もう半年はきっているのかと思う。
まだ胸の中は、緊張と不安で溢れていた。
英雄になった。まだまだ強くなれる余地はある。
緊張と不安は、いつの間にか躍動感へと変わる。
- Re: 最強次元師!! ( No.963 )
- 日時: 2014/03/25 20:18
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
第269次元 最も嫌いな人
キールアとレトも食事を運んでくる。
キールアはスパゲティを、レトはシチューだった。
トレイを机に乗せ、改めてエンと向き合う2人。
「エンはもう大丈夫なのか?」
「俺はな。あのバカは起きていないらしいが」
「そうなのか?」
「うん……倒れたっきりでさ。今はセルナが看病してくれてるんだ」
「へえ……もしかしてあの2人って……」
「あーいや、そういうんじゃないと思うけどなぁ……」
そんな事を話し合いながら、和やかな時間は流れていく。
つい最近まで生死を彷徨っていたとは思えない程の平和を感じる。
レトは、騒がしい食堂を見渡してそう思った。
これが当たり前になる世界は、きっとやってくる。
自分が必ず、守ってみせると。
そう、誓ったのだから。
食事を終えて一息入れようと、レト、キールア、エンは休憩所に向かっていた。
任務室の隣に設置されている休憩所。
淹れたてのコーヒーでもあるかのような、苦くて甘い仄かな香りが漂っていた。
パステルカラーの丸い模様が描かれたテーブルも、無造作に部屋に散りばめられている。
明るい花もテーブルに添えてあり、小さな本棚も奥にある。
部屋を照らすランプを過ぎて、レトは椅子に腰をかけた。
「ホントやる事ねえよなあ……」
「まあまあ、これからどうするか決めなきゃいけないし」
「あと半年。神族に受けて立てる次元師にならねば」
サボコロを除いた、英雄大四天の3人は唸る。
代表になれたのは良いが、それは神族と戦わなければならないという事で。
必ず、彼らを討つ力が欲しいと願うのもその筈だった。
レトは、自分の腕を見つめていた。
「強く、ならなきゃな」
「うん」
「そうだな」
レトが、コーヒーの入ったコップに手をかけた時だった。
休憩室の扉が、開いた。
「おやや? ——奇遇だね」
短い髪に眼鏡。陽気な口調と口元の笑み、そしてこの声は、と。
レトは少しだけがっくりする。
戦闘部班班長の、セブン・コール班長だった。
「班長かよ……」
「見るからにがっかりしてるねレト君。私の実験体になりたいのかな?」
「それは女装しろって事ですか?」
「き、君も学ぶね……」
「図星かよ! 否定しろ否定を!」
「まあまあ今日はちょっとお祝いの言葉を、ね」
探したんだよ? と班長は言った。
真剣な瞳に戻る。レトも、口を閉じた。
「おめでとう————君達英雄に、お祝いの言葉を心から送るよ」
優しく、彼は微笑んだ。
調子が狂う、とレトは息を零した。
「それはどうも」
「おや? 不服かな?」
「そうじゃねえけど……」
「何度死にかけても生ききったって? コールド副班が笑いながら語ってくれたよ」
「副班……」
「という事で、今日は、そんなレト君にプレゼントがあるんだ」
「は? 俺に?」
班長は楽しそうに笑っていた。
すっと、休憩室の扉の方へと体を向ける。
3人の視線が扉に集まった時。
班長は、言った。
「ほら、入ってきなよ——————“数年ぶり”のご対面だろう?」
レトの口から、小さく言葉が吐き出された。
彼は————驚いた。
「おっとと……————ここ、天井低いな相変わらず」
キールアも、あ、と声を上げた。
エンは誰だか分からないといった表情で。
レトは、ただじっとその人物から目を逸らせないでいた。
「お、やじ……————」
思わず、そう呟く。
エンはレトの方へ向いた。
「親父? 貴様の父親か?」
「……表面上はな」
「ちょっとレト……っ」
「嘘は言ってねえよ」
冷たい瞳に戻るレトを、親父と呼ばれた男性は見ていた。
短い金髪。眼鏡の奥の金の瞳は、レトと良く似ていた。
がっしりとした体つきと、長身なのが特徴的な彼。
私服に身を包んで、歩み寄る。
「レト————、久しぶりだな」
「ああ、お元気でしたかこの野郎」
彼の名前はフィードラス・エポール。
正真正銘、血の繋がったレトの父親である。
ピキッ、と。レトの顔には青筋が浮かんだ。
親子であるにも関わらず両者の間に流れる不穏な雰囲気。
キールアとエンは完全に置いてけぼり状態だった。
「何しに来たんだよ、こんな所まで」
「ん? 息子に会いに」
「今まで一度だって来たことがあったかよ?」
「ないけど」
「……ああもうっ! じゃあ何なんだよ!」
「お前が成長してるところを見て驚いたよ……あんなに小さかったのに」
「科学者が何言ってんだよ……当たり前だろ」
「いや、そういう意味じゃなくて……——強くなったな」
レトは、それ以上何も言い返せなかった。
むず痒くて、大嫌いなのに、何故だか心の中が気持ち悪くて。
無理矢理彼は話題を変えた。
「んで? ……結局何しに来た」
「ちょっと野暮用でな……色々やりたい事もあって」
「ふーん。つか早くここから出ていけ、そして二度と来んな。気味悪いから」
「ここって……休憩室?」
「違う、本部だ本部。ここを何処だと思って……!」
「それは俺に職を失えって言ってるのか? 最近の若い子は口が悪いな……」
「……はい?」
レトは我が耳を疑った。
彼は確かに言ったのだ。“職”、と。
「知らなかったかい? レト君」
「え……ちょっと待っ……」
「彼は正式な————蛇梅隊の隊員だよ」
ガシャン、とコーヒーの入ったコップを落とすレト。
幸い低い位置から落としたそれは、音を鳴らしただけだった。
だらだらと、彼の口からコーヒーが漏れる。
「こらレト、コーヒーが口からこんにちわしてるぞ」
「聞いてねえぞっ! そんな事!!」
「だって言ってないし」
「はあ!?」
「因みに班長階級だから、フィードラス」
「……つうことは科学部班?」
「まあな。色々バタバタしていて言うのが随分遅くなってしまったがな」
その言葉に、レトは父から視線を逸らした。
忙しかった。バタバタしていた。
そんな言い訳は、聞きたくないというように。
「キールア……レトは何故実の父親と仲が悪い?」
「さあ……昔からお父さんの事、良く思ってなかったみたいだけど」
「おおおお義父さん!? キールアちゃんいつの間にうちのレトとそういうカンケイに!?」
「ち、違いますよ! そういうんじゃなくて……っ」
「何だ違うのか……」
「何でがっかりすんだよ」
キールアもエンも、何となくだが、親子のやり取りを楽しんでいた。
外見もそうだが、中身も若干似ているところがある、と。
仲が悪そうに見えて実はそうでもないのかもしれないとキールアは再確認した。
「そういえばレト」
「ああ?」
「ロクはどうした?」
その一言で、休憩室の雰囲気はガラリと変わった。
レトの目つきも、一層鋭いものになる。
「いねえよ」
「そうか? 戦闘部班にいるって聞いたが」
「それ、何ヶ月前の話だよ。ここにはいねえ」
「死んではいないよな? じゃあ怪我でも——」
「……——いい加減にしろよ!!」
机を叩いて、レトは勢い良く立ち上がった。
震える手が、拳をつくる。
フィードラスを、見上げる。
「第一てめえ、ロクの事嫌いだったんじゃないのかよ!!」
「……!」
「え……っ」
「そんな事言っていないだろう。大事な娘だ」
「血の繋がってない、だろ? 目に見えて分かんだよ」
「……」
「ロクはもう、俺達とは一緒にいない。噂で聞いてないのか?」
レトは、続けた。
「ロクが————神族だったって」
フィードラスは、軽く眼鏡の淵を上げた。
溜息を、少しだけ吐いて。
「ああ……その事か」
「知ってんなら聞くなよ……もう用はねえだろ」
「ロクは、ゴッドについていく事を選んだのか?」
「……は?」
「そうか……何を考えてるんだか、ロクは」
何も知らないくせに、というようにレトは彼を睨んだ。
あの時の記憶が、今でも鮮明に脳裏に浮かぶ。
「ロクはゴッドに脅しをかけられたかもしれない可能性があるんだ」
「脅し?」
「ゴッドは普段、能力を使わないだろ? でも突然それを……」
「ああ、それはないぞ」
「……は?」
「ゴッドは————能力が使えない」
破壊も創造もな、と。
彼は至って冷静な口調だった。
然しその事実は、レト達にとってあまりに残酷なものであった。
部屋が、氷ついたように動きを止める。
誰もが息を呑んだ。信じたくないと心の中で叫んだ。
事実は、語られる。
- Re: 最強次元師!! ( No.964 )
- 日時: 2014/04/01 10:05
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: E29nKoz/)
第270次元 数年間の、
「は……?」
「ゴッドは、千年に一度、たった一日しかその能力を使えないんだ」
「な、んだよ……それ……」
「強大な力を持つ彼に、マザーが残した唯一の策というか……まあそんなとこだ」
「そんなデタラメ信じられるかよ!! じゃあロクは何で……っ」
そこまで言って、これ以上は、言えなかった。
ロクはきっと、神族として目覚めたその時から。
神族達の事を、良く知っていたはずだから。
勿論、ゴッドが能力を使えないという事も。
つまりロクは————自ら神の仲間になる事を、選んだという事になる。
「そんな、事……って……」
「ロクは自分から、その道を選んだ……神になる事を、心の底から望んだ結果だろう」
「……」
「レト、俺はロクを嫌いじゃないし、ロクもまたそうだと思うぞ」
「……!」
「大事な娘だ……あいつの望む通りに、協力してやりたいと思う」
「それは神族に肩入れするって言ってんのか?」
「ロク限定、でな。お前もそうだろ? ——今でも、ロクを信じてるんだろう?」
レトは、肯定しないが、否定もしなかった。
それは、分かり切った事だったから。
父親である彼にも、そんなレトの気持ちは手に取るように分かった。
「じゃあ軽く挨拶も済んだし……キールアちゃん」
「あ、はいっ」
「ちょっと良いかな? 君に用があるんだ」
「へ? わ、私にですか?」
ガタンと彼女は席を立った。
フィードラスと、共に部屋を出ていく。
その瞬間、全ての緊張が解けたようにレトは勢い良く机に頭を落とした。
「!? れ、レト!?」
「あーっもう……! だから嫌いなんだよォ……」
「まあまあ、久々で、緊張したでしょ?」
「うっせ……大嫌いだっつの」
テーブルに置かれた透明な花瓶を、彼は睨んでいた。
そこにフィードラスがいる訳でもないのに。
訳もなくイライラして、突っ伏していた。
蛇梅隊本部、廊下。
背が高いな、と思っていた。
キールアがフィードラスを見上げる。
相変わらず顔も整っていて、女性は放っておかなさそうだ。
そういう点に置いては、レトと良く似ている。
喧嘩はしていても(一方的)、親子なんだなと感じさせられる。
「キールアちゃん」
「あ、はい!」
「君、誕生日は?」
「へ? た、誕生日、ですか?」
キールアは、続ける。
「6月の、28日ですけど……って、あっ!」
とっくに、過ぎていた事に気付いた。
大会に気合を入れ過ぎて、自分自身でも忘れていた。
とっくに16歳になっていたのかー、と彼女は名残惜しそうに笑う。
「そうか……もう16歳か」
「はい……」
「じゃあ、ちょっと遅れちゃったね」
彼は、足を止めた。
懐から、細長い箱を、優しく取り出す。
「16歳の誕生日おめでとう——————君の“両親”から君へ、最後の誕生日プレゼントだよ」
風は、一斉に窓から吹き込んでくる。
キールアの2つに束ねた髪が、揺れた。
「え……っ」
時は、止まった。
大嫌いな数年前のあの季節から。
彼女の時間は、止まったままで。
ゆっくりと……それが動き出しているとも、気付かなかった。
細長い箱を、キールアに差し出す彼。
フィードラスは優しく微笑んだ。
「君が16歳になったら渡してくれ、と……生前彼らに頼まれていたんだ」
「どう、して……?」
「きっと剣闘族から逃げ切る事ができないと、分かっていたんだろう……」
「な、ん……っ」
「次元師である君に、最後に託した想いだよ」
ほら、と。
キールアの両手に、それをぽんと乗せた。
箱を、ゆっくりと開く。
入っていたのは————菫色のリボンだった。
「これ……」
「本来シーホリー家の瞳は菫色らしいね……とても綺麗な色だよ」
「お……お父さん、お母、さん……っ」
「長いリボンが何かの理由で2本に分かれてしまったらしくてね……元々は1本だったらしいんだ」
彼は語り始めた。
このリボンは、千年前、シーホリー家の先祖が髪につけていたものだと。
名前はアディダス・シーホリー。
綺麗な金髪に良く映える、見事な菫色だったと当時の人間は語っていた。
然し戦争の最中、敵の剣によって真っ二つに斬り分けられてしまったらしい。
「でも君は二つ結びだし丁度良……って、聞いていないか」
泣きじゃくる彼女の頭に大きな手を乗せる。
くしゃくしゃっと、撫で上げた。
「遅れてしまってすまなかった——————誕生日おめでとう、キールアちゃん」
たった数回しか、祝ってもらえなかった誕生日。
もう、二度と、誕生日プレゼントは貰えないのだと。
泣いた日もあった。辛くてしょうがない日もあった。
然し今、何年も経った後で。
未来の自分に、託してくれた贈り物があった。
最高のサプライズだよ、と彼女は心の中で感謝の言葉を述べる。
何度も、何度も。
「ここ数年……辛かっただろう?」
「……」
「あの事を……レトにも言っていないんだろう?」
彼女は、頷いた。
リボンを綺麗に箱にしまって、顔を見上げる。
「言ったら絶対……心配するから」
「はは、そうだろうな……」
「いつか自分で……決着はつけたいと思っています」
「無茶はしない事だ。君はお母さんによく似ているからね」
「母に……?」
「冷静で大人しく見えて、超無鉄砲お姉さんだったから」
キールアは、笑った。
小さい時の記憶しかない、母の面影。
フィードラスは、そんな母の若い頃も知っている。
とても不思議だと思った。
「よし……それじゃあ私はこれで」
「どこか行くんですか?」
「まあね……——可愛い後輩の所に、行ってくるよ」
彼は、体を回して歩き出す。
キールアは箱をぎゅっと握りしめて、天井を見上げた。
大丈夫。絶対、大丈夫。
最後の誕生日プレゼントは、彼女の手の中で揺れる。
元にいた場所へと、歩き出した。
「……」
セルナ・マリーヌは、病室にいた。
紅い髪にさらりと触れる。
彼はまだ、目を覚まさなかった。
「ごめんなさい……私の、せいで……」
こんな事になるなら、教えなきゃ良かったと。
セルナの悲痛は体中に駆けまわるようだった。
勝ったとは言え、それは自分の身を滅ぼす罪の行為で。
最後まで立っていたのが、非常に不思議なくらいだった。
ベッドの脇に添えた花の水を変えようと、立ち上がった時。
病室のドアは開いた。
「……!」
「やあ、久しぶりだね————セルナ・マリーヌちゃん」
見覚えのある、端正な顔立ち。
短い金髪と、しっかりとした体。
元彼女の上司、フィードラス・エポールはそこに立っていた。
「お久しぶりです……フィードラス班長」
「顔色が悪いみたいだけど……大丈夫?」
「あ、はい……」
科学部班にいた時の、苦い思い出が彼女の脳裏を駆け巡った。
次元師だから、と好き勝手に追い掛け回されていた記憶。
外へ逃げ出しても、無名の機関が自分を狙っていて。
どうして。どうして。どうして私なの?
次元師なんて、他に幾らでもいるのに。
なんて他人のせいにしたくもなる程、辛い日々を送った彼女。
フィードラスが一歩踏み出すと、彼女はびくっと震えた。
「戦闘部班は……どうだい?」
「え……」
「急に異動しただろ? 居心地は?」
「え、と……素敵ですよ、ここは」
「そうか。なら良かった」
彼女は知っていた。
自分が急に戦闘部班へ異動が決まった時。
何故だか一緒だったミラルも共に戦闘部班へ配属が決まった。
2人同時、しかも次元師である彼女らにそんな対応ができるのは、彼しかいないと。
科学部班の班長、フィードラス・エポール。
後々になって、戦闘部班の班長にその事を教えてもらった時には驚いた。
まるでセルナを、別の居場所へ逃がすような行為だったから。
「どうして……私を異動させたのですか?」
「?」
「そんな……罪滅ぼしみたいな……っ」
彼は、彼女の肩にそっと手を置いた。
空いた方の手で、頭を優しく撫でる。
「罪滅ぼし、か……そうかもしれないな」
「……え?」
「科学部班の連中に、純粋に研究しようって奴は正直いない。非道な人材が多いんだ」
「そ、れは……私も……」
「君が身をもって、体感しただろう?」
よしよし、とセルナの頭を優しく撫でまわすフィードラス。
小さい子供を、愛おしく思うように。
彼の掌は、とてもとても、暖かかった。
一筋の涙が、自然に溢れてくる。
誰にも言えなかった辛さや痛みが今————止めどなく流れ出した。
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