コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
日時: 2015/03/15 09:40
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 基本毎週日曜日に更新!


 ※追記

 実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
 やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
 ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
 とってものんびりと、更新する予定です。


 Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
 イラストとか宣伝とかを呟いてます!



 ※注意事項

 ・荒らし・中傷はお控え下さい。
 ・チェンメなんかもお断りしてます。



●目次

prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052 
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071

第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224 
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274

第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417

第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508

第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623

第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772

第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858

第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908

第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964

第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997

※第301次元〜は新スレにて連載予定


       ●おまけもの●

●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58

●番外編 
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945

 
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944


●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304 
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460

●キャラ絵(複数) 
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737

☆奏様には毎度ご感謝しております!!
 すごく似ていて、イメージ通りです
 キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
 これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙


●お知らせなど

* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998

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Re: 最強次元師!! ( No.915 )
日時: 2013/06/02 17:51
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第244次元 捜し求めて

 壊れた会場の、改修工事が行われていた。
 どうやら決勝戦は別の場所で行われるらしいが。
 それでもこの会場は、今後別の事に利用するのだとか。
 観客や選手の控え席も、もう原型は留めておらず。
 そんな荒れた大地と化した会場で、ミルはまだ立っていた。
 然しそこに、ロティ・アシュランが現れる事はなかったが。

 「……」

 彼女は身を翻す。
 シェルによって連れて行かれたレトヴェールを最後まで見送っていた。
 それでも彼女は、そこから一歩も動けなかった。
 彼の言ってくれた言葉が、優しく心に積もったまま。
 動く事も泣く事も、何もできずにずっとそこで立っていた。

 

 
 漸く、彼女は動いた訳だが、どうにも宛はない。
 レト達の見舞いに行こうにも、全員爆睡していて。
 起きる気配もないので、彼女は廊下に出た。
 レトに、言いたい事が山程あるのに。
 
 歩き始めて、少し経ったところ。
 飲み物売り場に行った彼女は、両手でコップを持って俯いた。
 ごくんと全部飲みほして、コップを置いてそこから立ち去ろうとする。
 然しそこで、彼女の全身にブレーキがかかる。

 目の前に、ロティが立っていた。
 
 「あ……」

 あの時の恐怖が、蘇る。
 傷だらけで包帯を巻いていた彼女は、悠々と立っていて。
 とても自分と戦っていた時の、余裕の外見をしていなかった。
 戦い果て全ての力を消失寸前の彼女は、寄り掛かっていた壁から体を離す。

 「よう、ミル・アシュラン」

 そこに憎しみの声色はなかった。
 ロティの顔は、笑ってはいなかったが、怒っている訳でもなかった。
 
 「……はっ、びっくりしたか? あたしがこんなんになっちまって」
 「え……ぁ、い、……いや……」
 「それとも、ざまあみろって、思ってんのか?」

 違う。
 ミルはそう言いたかったが、そう言えなかった。
 喉に引っかかったままの言葉が、妙に息苦しくて。
 声に出せないミルは、ぎゅっとスカートの裾を掴んだ。

 「なぁミル……お前何で黙ってた?」
 「……っ!」
 「あたしが“不正行為”を働いてたって……お前だけは気付いてたんだろ?」

 彼女の唐突な質問に、彼女は応えられず。 
 それでも、否定はしなかった。
 ロティの犯した、不正行為とは。
 ミルはその真実を知っていた。

 「リランとあの金髪が戦ってる時……あの女の次元技にちょっかい出したのは、あたしだ」
 「……」
 「まぁわざと圧縮して微弱な技にしといたから、あの女は気付かずぶっ倒れちまったがな」

 準決勝の第2試合。
 リラン・ジェミニーとキールア・シーホリーの試合の、最後の勝負の時。
 確実にキールアに勝機が傾いていたその瞬間に、ロティはキールアの次元技に細工したのだ。
 
 そう、“心操”で。

 突然操られた百槍は対応できず、自分と次元技のバランスを崩し次元技が発動不可能となった。
 その時気合を入れていたキールアも、勿論その反動で倒れてしまい。
 そう、あれは自然現象ではなく第三者による不正行為だったのだ。
 まさかロティがそれをやったとは、誰も気付かなかったのだろう。
 そう、ミル・アシュラン以外は。

 「人の罪に強く反応するお前の次元技は、一瞬であたしの行為を見抜いたんだろ?」
 「……よく、気付きましたね」
 「こっちは次元技を仕掛ける側だ。同じように反応はするさ」
 
 ロティは、俯くミルの方へ目をやった。
 そう、彼女は疑問に思っていたのだ。

 「どうして——————黙ってた?」

 そう、どうして。
 ミル・アシュランは、彼女の不正行為に気付いていたのに。
 どうしてそれを、誰にも、レトにも運営にも、言わなかったのか。
 一人で気付かないフリして、あの場にずっと立っていたのか。
 
 「レトヴェールに、あたしをこてんぱんにさせる為か? そうして喜ぶ為かよ?」
 「……ち、ちが……!」
 「じゃあ、どうして黙ってた」

 ミルが全てを打ち明ければ、強制的にロティは負けとなった。
 そうすれば、レトが大怪我をする事もなかった。
 それでも彼女は何も言わず、2人を戦わせたのだ。
 
 「ずっと……本当は、迷ってたの……」
 「……迷ってただと?」
 「言うべきか、そうじゃないか……ただずっと……貴方に負けたあたしには、その資格はないんじゃないか、とか……」

 彼女はそれを言うのが恐かった。
 ロティの反感を喰らう事を、恐れた訳ではなかったのに。
 そうやって迷っていた時、彼は言ったのだ。
 彼女に、こう言ったのだ。

 “『必ず証明する————————、お前の強さも、ハルって奴への想いも』”

 と。
 強く言い放った彼の言葉に、言おうと思っていた言葉を全て忘れた。
 迷っていた心が、震えていた喉がぴたっと、止まったのだった。
 彼ならば、自分の言えなかった言葉を、言ってくれるのではないか。
 彼ならば、自分が伝えられなかった想いを、届けてくれるのではないか。
 そう、思って。

 「……資格だぁ?」
 「ハルへの想いの強さで、貴方に負けた……それは、変わらない……——でも」
 「……?」
 「きちんとした形で……こうして……貴方に言いたかった事が、あったから」

 だから、レトヴェールと戦わせる事を、自然にも選んでしまった。
 心の神を義妹とする彼ならば、ロティを本当の意味で負かせる事ができる。
 そうしたら、自分に憎しみを募らせる彼女に、本当の事を言えるから。

 「——————世間から見たらあたしは、紛れもなく“367人の子供を殺した犯人”だったから」
  
 彼女がどう反論したところで変わらない事実。
 それは、彼女が367人もの人間を一斉に殺したという、あの事件である。
 あれはそう、主犯の博士が計画を練り実行したのだが、
 最終的にその実験に成功した当事者は、実験番号ML368のミル・アシュラン。
 つまり彼女である。
 主犯に同意し協力して、己が十一次元を得る為に子供達を殺した。
 こういう事実だけが、上手い具合に世間に流れるのである。
 だからハルの故郷にいたロティの耳にも、その名前と噂が届いたのであろう。
 
 “ミル・アシュランという少女が主犯者に協力して、十一次元を得た”と。

 アシュランという名前を聞いて、ハルと関係が深い事を知った彼女はミルを捜し求めた。
 その時に、ロティ本人にも次元技が覚醒したのだが。
 全く勘違いをしたまま、ミルだけを恨んでミルだけを探し歩き、そうして、見つけた。
 蛇梅隊に所属している事を、彼女は知ったのだった。

 「でも——————あたしがハルを愛していた事だけ、勘違いをしないで欲しかったんです」

 恨まれても構わない。一生蔑まれ責められ何度傷つけられても。
 それでも彼女は、親友の姉に、妹の本当の姉に、勘違いをして欲しくなかった。
 親友を騙し殺したのではなくて、ずっとずっと愛していて、突然目の前から消えた事も。
 今までずっとロティに何も言えずに、誤解させたまま年月は経ち。
 苦しんできた本当の姉に、何の挨拶もできなかった彼女は、今ここで頭を下げた。
 震えた体を、きちんと低く下げて。
 
 「……ごめ、んなさい……、ごめんなさい……!!!」
 「……」
 「ハルを、親友を……護ってあげられなくて……ごめんなさい……!!!!」

 今初めて、彼女はロティに全ての想いを告げる。
 ずっと言いたかった想いを全部吐き出す。
 謝りたくて、ミルも本当は探していたのだ。 
 いつか何処かで出会えたら、心から謝ろうと。
 そう思っていたのだ。
 
 「……」
 
 頭を下げて謝るミルの目の前で、ロティはただ立っていた。
 泣きじゃくる彼女を見て、ロティの腕がすっと上がる。
  
 「……っ!」

 ミルの頭の上に
 その大きな掌を乗せた。

 「……バッカじゃねーの」

 そう、彼女は言った。
 憎しみも怒りも込めずに、ただそう言った。

 まるで姉が、妹を叱るように。
 まるで姉が、妹を慰めるように。
 
 同じ名前を持ち、同じ妹を背負った2人が
 初めて、心を通わせた瞬間だった。

 “血”ではない“繋がり”。

 それはきっとミルとハルの間にあっただけのものではなく。
 ずっと捜し合っていた互いにも、小さく芽生え始めるものだったのではないだろうか。
 然しそれを互いが自覚するのは、ほんの少し後の話だった。

Re: 最強次元師!! ( No.916 )
日時: 2013/06/09 22:57
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第245次元 本当の姉妹 

 本当は、ずっと前から2人には見えない繋がりがあったのだ。

 それに気付くのが遅れただけで。
 それに気付くまで、一方的に片方が恨み続けていただけで。
 勘違いがまた誤解を呼び、恨みや罪を重ねてしまった為に、最悪の立場で出会ってしまっただけ。
 もう少し、良い形で出会う事もできただろうに。
 
 「ホントお前バカだよな……つくづく思うわ。……ほら、顔上げろ」

 すっと、目に涙を浮かばせたミルが顔を上げる。
 ロティは相変わらずの無表情で、ミルの頭から手を離した。
 少しだけ温もりを帯びた頭から、全身へ。
 ミルは、何かが全身へ流れ込んでくるような感覚に包まれた。
 暖かくて、大きな掌だった。

 「お前があいつを、ハルを……愛してた……それを、誤解すんなだって?」
 「……あ……は、はい……」
 「……知ってたさ、んな事」

 え……、と。
 僅かに声を漏らしたミルは、そこで言葉を失った。
 そして。


 「悪かったな、ミル・アシュラン」


 続けて彼女は、ミルにそんな言葉を告げた。
 ミルは、都合の良い夢でも見ているのだろうか。 
 あのロティが、軟らかな声でそう言ったのだから。
 ミルに、謝ったのだから。

 「あたしは多分、お前が羨ましくて、自分を恨んでただけなんだ」
 「……」
 「あの男にそう説教されちまったよ……ったくこのあたしがんな事されるなんてな」

 レトが放った言葉が、何とロティの心にきちんと届いていた。
 あの戦場で彼女は何度もレトに反抗していたが、それでも。
 彼は諦めず、彼の思う事を全て彼女に投げかけた。
 そうしてどうだろう。
 ロティは、その時から既に気付いていたのだ。
 自分と向き合い自分と戦う彼に、勝てる訳がないのだと。
 ただ何も出来なかった非力な自分を、恨んでいただけなのだと。

 「なあミル、あたしを恨むか?」 
 「っえ?」
 「仲間を傷つけお前を傷つけ、挙句お前を殺そうとしたあたしを恨むか?」

 ここでロティは不敵に笑う。
 ミルの答えは、決まっていた。
 彼女はやっと、ロティと向き合った。

 「いいえ、恨みません」

 強い口調で、そう言った。
 迷いのない瞳は、嘘をつかず。
 はっきりとそう答えた彼女は、続ける。

 「ハルを、ずっと想ってくれていたのに……どうしたら恨めるのですか」

 彼女の視界が、再び霞んだ。
 歪んだ景色に、ロティがいて。
 彼女にずっと会いたかったミルが、彼女を恨む筈などない。
 分かりきった事を聞かないで下さいと言うように、ミルはほんの少し微笑む。
 僅かな涙を浮かべて、懸命に笑ってみせた。
 
 「……————そうかよ」

 ミルは涙していたので気付かなかったが、
 この時確かに、ロティは優しく笑っていた。
 憎悪の欠片もない、綺麗な笑顔で笑っていた。
 彼女は、すっとミルの横を過ぎる。

 「これからは足引っ張んじゃねーぞ、ミル」
  
 振り向きもしないで、彼女はそう言った。
 その表情は分からない。どういう顔をしているのか。
 それでもロティは確かに、軟らかな笑みを、浮かべていた。


 「————————同じ“アシュラン”の名を背負うなら、覚悟しとけよ、“妹”」


 強い夏風が、窓から吹き込んできた。
 揺れる桃色の髪が、忙しく踊っているようで。
 彼女の耳に届いた言葉が、何より温かかった。

 ミルは、咄嗟に振り返る。

 そこにロティはいなかった。そして突然、じわりと涙を浮かんできた。
 自然にぽろぽろと落ちる雫が、熱を帯びた頬を過ぎてく。
 熱を帯びた心に、溶け込んでいく。
 彼女はまた、小さく笑った。






 「ロ゛ディ〜〜〜っ!!!!!」

 廊下から消えたロティの目の前にいたのは、ぐしゃぐしゃのリランだった。
 溢れた涙でもう表情が凄い事になっている。
 そんな妖怪みたいな顔をしたリランに、ロティは凄く驚いた。

 「ちょ、おま……なんつう顔してんだよ、妖怪みたいだぞ……」
 「ずっごい感動じだぁっ!!! ロティがぁ、ロティがぁぁっ!!!」
 「はぁ? 感動? 何言って……ってうぉっ!?」

 突然、頭にチョップを喰らったロティ。
 レトに散々ぶっ飛ばされたので、ちょっと小突いただけでぐわんぐわんとくる。
 ちょっとだけ眩んだロティの後ろにいたのは、必死に背と手を伸ばしたセシルだった。
 彼女も少しだけ、涙を浮かべて背伸びをしていた。

 「ロティ……貴方という人は、本当はあんなに優しかったのですね……っ!」
 「驚天動地……まさかあんな展開にまでなるとは」
 「お……お前らなぁ……!!!!」

 少しだけ頬を赤めたロティが、3人を追いかける。
 今まで仲間にも非道な性格っぷりを振り撒いてきた彼女。
 それが今、本当に初めて素直になってミルに謝り笑っていた。
 優しく微笑んだロティがあまりに魅力的すぎて、若干2名は泣いていたのだ。
 あのテシルまでもが驚いたくらいだ。相当今回の件は3人にとって衝撃的だっただろう。

 「良かったですね、ロティ……どうやら貴方も人間だったらしい」
 「けっ! ……皆してバカにしやがって……てめえらマジで覚えとけよ」
 「はいはい。ではこれからどうしましょうかリーダー?」
 「はぁ? ——————んなの、決まってんだろ!」

 楽しそうに笑うロティに続くように、4人は歩き出した。
 何をするのか、そんな事決まっている。
 少なくとも、エポールチームの見舞いなど行かないだろうが。
 4人は広い廊下を、ただただ真っ直ぐに突き進んだ。
 何の迷いもなく、真っ直ぐに。


 
 レトヴェール達が、準決勝で激戦を終え、医務室で眠っていた頃。
 蛇梅隊本部内の班長室で、エポールチームが決勝へ進んだと報告を受けたセブン戦闘部班班長。
 彼はがしゃんと受話器を置いて、じっと怪訝そうな目で書類に目を通していた。
 今までの彼とは違い、何かに悩み耽ったような真剣な眼差しで。
 
 「……」

 その時。
 コンコンと、心地の良い音が鳴り響いた。
 失礼します、と良く通る声が聞こえて、続いてドアが開く。
 入ってきたのは、片手に書類を携えたコールド・ペイン副班長だった。

 「セブン班長、隊員の今回の任務に関して、依頼主から感謝状が……」
 「コールド副班、今、少し良いかな」
 「届いてって……へ? あ、ええ……構いませんが」
 「まぁほんの2、3分だ」

 コールド副班は、何でしょうか、と聞いた。
 いきなり鋭い声で言われたものだから、本人もびっくりする。
 何時になく真剣なその表情に、少しだけ背筋が凍った。
 
 「ここ最近になって更に、なんだが……神族の動きが妙でな」
 「神族の動き……ですか?」
 「ああ……元魔の被害情報が半年に渡ってゼロ、というのがどうも気になるんだ」
 「はぁ……確かに、妙ですね」

 そして、と。
 そう彼は続けた。
 セブン班長は、じっと机上の紙を睨み、顔をあげた。

 「ここ数年————————【運命】による被害さえも、なくなっているんだ」

 静かにそう告げた班長も、そしてそれを聞いたコールド副班長も。
 この事実に、驚かざるを得なかった。

Re: 最強次元師!! ( No.917 )
日時: 2013/06/16 10:00
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 5PvEL/lW)

 第246次元 副班のお仕事

 淡々とした口調でそう告げたセブン班長に対して、コールド副班は声も出なかった。
 彼が放った、衝撃の一言。
 【運命】による被害が、数年に亘って全くと言って良いほど無くなっている。
 極悪非道な彼の事だ、そんな事態は在り得ないと言って良かった。

 「そんな……あの“デスニー”による被害が、ですか……!?」
 「ああ……被害にはあったが、それを免れている“例外”なら、存在するのだがな」
 
 え、と。
 コールド副班は聞き返す。
 
 「蛇梅隊戦闘部班、一番隊の2人と【妖精】……いや、ロクアンズ・エポールの3人、だがな」

 セブン班長ははっきりとそう告げた。
 ここ数年の中で被害に遭ったのはこの3人のみ。
 レトヴェール・エポール、エン・ターケルド、そしてロクアンズ・エポールである。
 彼らは偶然にも、【運命】に命を奪われなかった。
 その代わり、体の一部を貰い再度挑みに来る事を要求していた。

 「……レトヴェールとロクアンズの2人なら、なんとなく想像はつくのですが……」 
 「問題はエン、か……」
 「そうですね。……3人共、元霊持ちではありますが……」
 「……それだけの理由で生かす事はまずない。他にも理由がある筈だと、私は思っている」

 デスニーだけではない、最近の神族の妙な動き。
 深い意味があって行われている事だとすれば、それに対して恐怖さえ感じる。 
 そう班長は思っていたのだ。
 真剣な面持ちだった班長の顔が、少しだけ綻ぶ。

 「すまなかったね、呼び止めてしまって……もう下がっていいぞ」
 「え、あ……はい。では、失礼します」

 ぺこりと頭を下げたコールド副班は、持ってきた資料だけ置いて部屋を後にした。
 ぱたんという音が響く。
 その時、班長の顔は既に険しく変わっていた。


 
 ただ広い、寂しげな廊下。
 真っ白で汚れ一つない綺麗な廊下を、コールド副班は歩いていた。
 手ぶらになった手は、頭を掻いていて。
 彼は溜息を吐く。

 「……? どうかしましたか? コールド副班長」

 この綺麗な声色は、とコールド副班は振り返った。
 藍色を連想させる髪色は、目の前でふわりと揺れる。
 子首を傾げたその声の主、フィラ副班長の肩には相変わらず蛇が乗っていて。
 小さな蛇、蛇梅もまたフィラ副班の動作と連動して首を傾けた。

 「フィラ、お前こそこんなところで何してんだ?」
 「え? 私は今、談話室でミラルの愚痴を聞いていたんです」
 「はは……あいつも相変わらずだな」
 「ええ。序に提出しなきゃいけない書類があったので、自室に取りに戻っていました」
 
 フィラ副班は、幾重にも重なっている書類をひょいと上げる。
 そこには“器物損害賠償金の請求 及び当事者の処分概要”と書かれていた。
 コールド副班の口は苦しそうに歪む。

 「これ……もしかして」
 「あ、はい。……ちょっと、というかかなりセルナが暴れてしまって……」
 「処分関連の書類なんて、レトとロク以来だな、おい……」
 「はは……本当ですね」
 
 ここで、コールド副班はつい数分前の会話を思い出した。
 班長が言い放った、神族の奇妙な動向。
 今神族は何を考え、神族に何が起こっているのか。
 それすら分からないもどかしさと焦りで、本当はいっぱいいっぱいだった。
 コールド副班がまた、髪をくしゃりと乱した。

 「……何か、あったんですか?」

 心配げに聞くフィラ副班。
 然しコールド副班は、笑って誤魔化した。
 別に、何でもないよと。

 「ところで、さ……フィラ」
 「あ、はい! 何でしょうかっ?」
 
 ぱあっと明るくなったフィラ副班に、少しだけ微笑んだ彼。
 先輩であるコールド副班に頼られる事が、きっと嬉しいのだろう。

 「班長って……俺達に何か、隠してるように思えないか?」

 衝撃的な一言に、フィラ副班は一瞬だけ時を忘れた。
 そう言ったコールド副班も、視線をずらす。
 驚きに満ちた彼女は、うっかり書類を落としそうになって慌てて支える。

 「そ、それ、って……っ?」
 「俺の推測だ。絶対とは言えない……でも何か、班長と俺達の間に距離があるな、って」
 「距離、ですか……?」
 「時々班長が本当は誰なんだか分かんなくなるんだよ……可笑しいだろ?」
 
 笑った顔は、笑っていなくて。
 フィラ副班の目が曇っていたのに、コールド副班は気付かなかった。
 彼女の藍の髪が揺れて、顔が隠れる。

 「……、長は……」
 「……?」
 「班長は……セブン君は……昔から、リーダーシップの取れる人だったんです……」
 「昔から、そうなのか?」
 「ええ……責任感強くて頼れる人で、でも……」

 フィラ副班の発言が、止まる。
 ぎゅっと書類を抱え込んで、すっと綺麗な顔を上げた。

 「痛い時、苦しい時……「痛い」って、「苦しい」って、絶対に言わない」
 「……」
 「秘密主義で、我侭でもあって……人一倍正義感強い、そんな人なんです」
 「……フィラ……」
 「班長が何かを隠しているのは、きっと今……凄く苦しいからだと、私は思います」
 
 へへ、と笑った彼女の顔はとても苦しそうだった。
 コールド副班は、そんな彼女の頭にぽんと手を乗せる。
 そしてくしゃくしゃに撫で、振り返って一歩、前へ踏み出した。

 「バカだな、俺も……」
 「……?、?」
 「班長が出してるサインに気付くのは、いつ何時であれど、俺達の役目なのに」
 「……コールド、副班……」
 「班長がもし苦しいって言ったら、その時は俺達で支えてやろう、フィラ」

 それがきっと、副班にとって最も大事な仕事だ。
 最後にそう言って、広い廊下を突き進んで行く彼の背中。
 何故か、とても広くて温かそうだな、とフィラ副班は思う。
 そして書類片手に、談話室で待ちぼうけを喰らっている親友の許へ戻って行った。
 
 この時確かに、2人は知らなかった。
 この2人だけでなく、他の副班長も、研究部班も、援助部班も。
 そして戦闘部班隊員でさえ。
 
 班長は椅子から立ち上がり、険しい表情のまま、班長室を後にした。
 向かった先は、隊長室。
 蛇梅隊全体を仕切る、最高責任者。
 その男は、こんこんと鳴り響いた音に反応して、くるりと椅子ごと回る。

 「……どうしたのかね、セブン班長」
 「ええ、少し————隊長殿に、お話が御座いまして」

 向き合うのはいつ以来か。
 緊張の糸が走る中、2人は言葉を紡ぎ合う。
 まだ誰も知らない事実を、明かすように。

 
 「……? どうしたの、蛇梅?」


 ぶわりと強く流れ込む風。
 蛇梅は、震えていた。
 温い風は、フィラ副班のいる部屋を、和やかに吹き抜ける。

Re: 最強次元師!! ( No.918 )
日時: 2013/06/30 18:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 5PvEL/lW)
参照: 先週は胃腸炎に襲われていました。

 第247次元 それぞれが
 
 「納得いかん」

 ぴしゃり、と。
 エン・ターケルドは言い切った。
 彼の目の前には、はぁ、と溜息を吐くキールア・シーホリーがいる。
 彼女はじっと、彼の足を見て言った。

 「納得いかない、って……無理だよまだ、その足じゃあ」
 「然し俺達には、そんな時間はないだろう。早く鍛錬に行きたいんだ、許せキールア」
 「……ダメったらダメ! 第一、まともに歩く事もできないくせに」

 めっ! とキールアが言った隣にはまだ、サボコロ・ミクシーが寝息を立てていた。
 一向に目を覚まさない彼に目をやったエンは、キールアの方へ顔を向きなおす。
 
 「奴には、借りがあるんだ……起きた時に無様な姿を見せたくない」
 「……無様な姿? 何を言ってるの、本当に死ぬところだったのにっ」
 「……っ!」
 「お願いだから、生きてる事に感謝して。その傷は、全然無様なものじゃないわ」
 
 医者の娘としてのプライドか、千年続いてきた医師一族としての誇りか。
 彼女の目はとても真剣だった。
 エンは、諦めたのか、息を吐く。
 分かったと、言わんばかりの顔で。

 「分かった、だからせめて歩かせてくれ」
 「歩く? できるの?」
 「杖を使えばなんとかな。飲み物を取ってくるだけだ」
 「……ふーん」

 あまり信用していない目でじっとエンを見つめるキールア。
 目を細めた彼女は次に、こう告げる。
  
 「ダメ」
 「……!?」
 「私が取りにいく。今は安静にしてて」
 「……俺が行く」
 「ダメ」
 
 今度はキールアがはっきりそう言った。
 彼女はくるりと回って、一歩踏み出す。
 何の飲み物が良いかを聞こうとし、顔だけ振り向いた時。
 白くて細い腕に、冷たい感触が走った。

 「……えっ?」

 彼女の腕を掴んでいたのは、エンだった。

 「俺が……行く」
 「……エン」
 「これだけは譲れん。頼むから、俺に行かせてくれ」

 エンの瞳もまた真剣なもので。
 キールアは、そんな真っ直ぐな瞳に驚いた。
 綺麗なその瞳に、ほんの少し見蕩れて。
 
 「分かった……分かったから」
 「……うん」
 「そのかわり、私も一緒に行く」

 エンは素っ頓狂な声を上げる。
 あまりにも無表情で、キールアがそう言ったから。
 思わず彼は、キールアの腕から手を離した。

 「エンが倒れたら、誰が手助けするの? まさか光節には無理があるし」

 (き、キールア殿……)

 「だから私も一緒に行く。私にだって、シーホリー家としてのプライドがあるもの」
 
 エンは諦めて、分かったとまた呟いた。
 そうして松葉杖に捕まったエンの隣で、キールアが歩き出した。
 2人は、同時に部屋を出る。
 
 勿論、取り残されたのは眠ったままのサボコロと
 2人の会話を、一部始終どころか全部聞いていたレトヴェールの2人な訳だが。
 激しい応酬に一言も口を挟めなかった彼は、やっと大きく息を吐いた。
 まるで今までずっと息を止めていたかのように。
 緊張の糸が急にぷつんと切れ、彼は肩を竦める。

 「? どうしたの? レト」
 「え? あぁ双斬か……いや、すげえなって」
 「何がー?」
 「2人とも……一歩も退かねーんだもん」

 お互いにプライドもあり、珍しく長い間喋っていた2人。
 言い合いをしているところは本当に珍しい、というより初めてではないだろうか。
 一見大人しく温厚に見える2人だが、実はそういった事には妙に熱くなる。
 サボコロとエンが言い合っている姿が、急に浮かんできた。

 「何だよレトかっわいいなーっ!」
 「はぁ?」
 「妬きもち、でしょっ!」
 「……お前の思考回路はどうかしてんのか」

 違うよ、とレトは言った。
 最早双斬以外この場で話す相手がいないレトは、すっと前を見る。
 向こう側にある白い壁を、じっと見つめたまま動かない彼。
 弱りきったその手は、ぎゅっとシーツを掴んでいた。

 「なぁ、本当に……本当に、ロクは、いたよな?」

 静かな声は、広い病室の中ですっと消えゆく。
 聞こえている筈もないサボコロは、気持ち良さそうに眠っていて。
 双斬は、思わぬ一言に言葉を失った。

 「俺、見たんだ……笑ってた、ロクを見たんだ」
 「レト……それ、って……」
 「分かってる……いる訳ないって、分かってんだけど……」
 
 固い決意が紐解かれた瞬間と言っても良かった。
 淡い空の上には笑った彼女がいた。
 長い髪を風に遊ばせ、右目を閉じた彼女は、無邪気に笑っていた。
 最後に見た彼女とは違う、皆が信じた彼女の形。
 昔と違わぬ姿だったロクアンズは、レトの目の前に現れ消えた。

 「ごめん……僕、あの時は何も見えなくて分かんなかったんだ。レトが叫んだから、気付いたんだけど」
 「そういえば俺、お前の事置き去りにしてたっけ」
 「そうだよ……僕を無視して走っちゃうんだもん、何があったか心配だったよ」

 悪かったと言わんばかりの顔で苦笑いを作る。
 この決定戦で、何度かレトの目の前に現れていた彼女だが、本当にそれは本物だったのか。
 あまりにもロクに会いたがっていたレトが見た、幻覚だったのではないだろうか。
 今思うと、どれも確かなものはなく、不安定なものにしかならなかった。
 レトは、伸ばしていた背中を曲げる。ぼふっと上半身を倒す。
 ずっと上にあった蛍光灯が、眩しく見えた。





 それから、1週間経った日の事。
 1週間後を決勝戦に控えた3人は、朝から外へと足を運んでいた。
 3人、というのはレトとエンと、そしてサボコロである。
 5日ほど前にサボコロは目を覚まし、驚異的な回復力で徐々に良くなっていった。
 キールアもその再生力を奇妙に思っていたが、本人がぴんぴんしていたので良しとした。
 そうして男子3人は場外へ、キールアもどこかへ消えていた。
 最近までもの静かだったのが嘘のように、騒ぎ鍛錬に力を入れる彼ら。
 その姿が、外で見受けられる。

 「う……くっ!?」
 「反応が遅いぞレト!! それでは奴らには勝てん!!!」

 遠距離を得意とするエンの攻撃に、レトは双斬で対抗していた。
 ここは外、と行っても郊外で、周りには木々自然しかない。
 何処から敵が現れるか分からない緊迫とした空気の中で、エンとレトは特訓していた。
 サボコロは起きるのが遅かった為まだ不安定だが、それでも一人で練習をしているようで。
 元気になった途端に動かれて、正直キールアは何度溜息を漏らした事か。
 そんな3人は、良くも悪くも動き続けていた。
 
 「そっこだぁーっ!!」
 
 ざッ!! と一本の木を切り払うように、ぶんと剣を薙いだ。
 木の影にいたエンが、驚いて木から落ちる。
 どでん! と大きな音が響き、木の葉が舞った。

 「へへーん、やっと見つけたぜ」
 「良く分かったな……不特定に矢を放っていた筈なのだが」
 「結構俺も場数踏んでっからなぁー……ロティもこういう感じだったし」
 「なるほどな……して、あのバカは?」 
 「へ? あぁサボコロの事か? あいつは多分、川にいるんじゃないかな」
 「川だと?」
 「ああ……多分、精神集中の修行だな。あいつが一番冷静保ってられないタイプだし」
 「……奴なりに、弱点は克服しようとしている訳か」
 「ま、そういうこった」

 もしかしたら、エンに迷惑をかけない為なのかもしれない。 
 レトは密かにそんな事を思っていた。
 さっさと土を払って、エンは立ち上がる。
 きっと彼にも、サボコロの考えている事が分かるのだろう。
 バカめ、と小さく言葉を零した。

 2人は、休む間もなくもう一度練習に戻る。
 形は違えど同じ思いを抱く4人は、そうして1週間後を迎えた。

Re: 最強次元師!! ( No.919 )
日時: 2013/07/07 12:57
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 5PvEL/lW)
参照: アメブロ、Twitter、skypeなど多様な面で活動中。

第248次元 高みへ向かえ 

 これは、ほんの少し前の話である。
 ミル・アシュランとロティ・アシュランが、和解した後。
 ミルは、試合会場には残らず、一人列車に揺られていた。
 ガタンゴトンと鳴り響く喧しい音など、彼女の耳には届いておらず。
 ただぎゅっと、小さな紙を握り締めていた。

 時間は少し遡る。
 ロティと別れたミルは、涙を拭って歩き出した。
 レトヴェール達の体調も気になると思い、医務室へ向かった彼女。
 然し何かに躓いて、派手に転んでしまったのだ。
 立ち上がった時、何かが落ちているのに気がついた。
 ミルは、それが小さな紙と分かる。
 中が気になるので、拾って、優しく畳まれた紙を開いた。
 
 そこに、書いてあったのは。

 『フェーツァ村 天の恵み 高みを目指せ』

 意味不明な言葉の、羅列だった。
 ミルは少しの間考えたが、やがて紙を畳んで走り出した。
 元々コートの中に、こんな紙は入ってなかった。
 だとすれば、誰かの策略か、自然に入ったもの。
 彼女は、迷いもなく前者を信じた。

 何故なら、ハルの故郷がそのフェーツァ村だったから。

 そんな話を聞いた事のあるミルは、迷いもせずそこを目指す。
 決勝戦まで3週間足らず。充分帰ってこれると踏んで、ミルは会場を後にした。
 そうしてフェーツァ村の隣、シェンランド王国行きの列車に乗っているのが現在。
 溢れる自然風景なんかを眺めながら、彼女はぼーっとしていた。
 目の前には、ファイがいる事に気付かずに。

 「……」
 「……」
 「……あの」
 「ふぇいッ!!!?」

 静かに響いた声に、一瞬の寒気を感じるミル。
 びっくりして声の響いた方を向く。
 そこに、ファイがいた。
 
 「え……あ、確か、君って……」
 「ファイ……です……」
 「あ、あぁ……ファイちゃん、だったねっ?」
 
 正直本当に心臓が飛び出るかと思ったミルの鼓動は速く。
 それとは対極に、ファイの表情は至って無を示していた。
 ミルも落ち着いて体ごとファイの方へ向き直る。
 
 「ていうか……どうしてファイちゃんも乗ってるの?」
 「……私も……少し、シェンランドに……用がありまして……」
 「へ?」
 「私の……故郷、なので……」

 その話を聞いて、ミルは驚く事をしなかった。
 それは、ファイの背中に刻まれた焼印が試合中に見えたため。
 焼印を入れる習慣があるのは、シェンランド王国ぐらいのものだったから。
 然しシェンランド王国に出向く事は、ファイにとっては辛いのではないだろうか。
 ミルは少しそう思う。

 「そう、だね……」
 
 自分の肩を、ぎゅっと支えるミル。
 ミルの肩にも、焼印のようなものが刻まれている。
 それは“ML368”という、実験番号だった。
 今ではそれが誇りに思えるまでになったが、当時の彼女にとってそれがどれ程憎いものであったが。
 思い出しただけで憎しみの込み上げる点においては、ファイと同じだった。
 
 

 シェンランド王国に着いた彼女は、ファイと別れた。
 ミルの目的はそこではない為、そこから少し歩く。
 噂によるとフェーツァ村はとても小さく、村自体はあまり有名ではない。
 然しその村に聳え立つ山が、世界中に知れ渡っているのである。
 世界一高い訳でも、世界一低い訳でもない。
 その形が特殊なもので、誰もが観光に訪れる場所なのである。
 
 「ふぅ……ここ、かな……」

 村に入り、村人に挨拶を交わしていくミル。
 然し村に入っただけでは良く分からない為、彼女はもう一度紙を開く。
 出てきたのは一目みただけでは理解がし難い、単語の羅列。
 
 「天の恵み……高みを目指せ……か」
 
 紙を畳んで、少しの間だけ考える。
 この村に来ても、観光する場所はなく、珍しい景色も大してない。
 つまり、あるのはあの山だけで。
 ミルは、くるりと回って歩き出す。



 深く生い茂る草木を掻き分ける。
 熱い日差しがミルを襲い、固い土がミルのブーツを汚していく。
 どれだけの時間が経ったのかも分からない。彼女はただ、歩いていた。
 何度も草を超えては、背の高い木々に手をついて。
 足が悲鳴を上げている事にも気付かずに、ただ只管前へ向けて行く。
 冷たい汗が、土に染みていく。
 真っ白な肌は日の光を受け白さを増す。
 輝いた汗と、潤んでいく瞳は、じっと太陽を見つめる。

 そうして漸く、辿り着いた。

 「ん……はぁ……は、あ……っ」

 忙しく息を吸っては吐いて。
 ミルは澄んだ空気を深く吸い込む。
 自然に体の中で満ちていく新鮮な空気は、とても美味しかった。
 目の前に広がるのは、真っ平らな地平線のような景色。
 そう、山の頂上には綺麗な程平らな地が広がっているのだ。
 嘗てメルドルギースの戦争に巻き込まれ、山が上半分飛んでしまったのだとか。
 出来上がった山は大きなプリンに似て特徴的な為、あっという間に有名になった。

 然しその山頂に何があるのかは、知らない人が多かった。



 「……え……————っ?」


 
 霞む景色の中で、ぼんやりと不確かな何かがミルの目に飛び込んできた。
 まだはっきりとはしないが、それは板のような形状のもので。
 灰色のそれは、幾重にも連なり地面に突き刺さっていた。

 彼女は漸く、それが何なのか分かった。


 「う、そ……」


 そこにあったのは、何百にも及ぶ“墓石”だった。


 一つ一つ丁寧に手入れされていて、綺麗に並べられていた。
 その墓に、小さく名前が彫られていて、序に番号が隣り合わせに刻まれている。
 
 「“PT012”……? ——————パト!!?」

 それは、ミルの友達の、名前だった。

 「“FO222”……“RE165”……”AS007”……皆、皆……研究所の……っ」

 嘗て共に過ごし、共に苦しみ、共に生きた仲間達の名前が、
 そこに、刻まれていた。
 ミルは小走りになってその場を駆け巡った。
 墓を一つずつ確認していく。一人ずつ名前を見て、思い出していく。
 確認してい上で、自然に足はまっすぐ前へ進んでいた。
 彼女は、一番奥にあった墓を、見つけた。
 足を、ぴたりと止める。


 そこには、“HL124 ハル・アシュラン 此処に眠る”————そう、書かれていた。


 白くて、短い髪。
 赤い眼鏡が似合っていて、よく笑い、よく喋る、そんな女の子。 
 ミルに初めて、“愛”を伝えたのは、その子、ハルだった。

 そっと墓石に手を伸ばした。
 熱を帯びたそれは、ミルの手をすんなりと受け入れて。
 冷たい滴が、じわりとその温度に溶けていく。

 「な……ん……何、で……誰が、こんなこ、と……っ」

 悲劇が悲劇を呼んだあの実験後。
 そもそも実験被害者の名だけは、世間に晒されていなかった。
 つまり、誰が実験に巻き込まれたのかを知っていたのはミルだけだった、という事になる。
 然し誰も知らない筈の実験犠牲者の子供達の墓が、ここにはある。
 

 「……————あら? どちら様でしょうか?」


 聞こえたのは、女の人の声だと思われた。
 背後から聞こえたその声に、ミルは咄嗟に反応する。
 コートの裾で涙を拭うと、目の前には。


 「こんにちわ。良いお天気ですね」


 目の前には、誰かに良く似た婦人が佇んでいた。


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