コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
日時: 2015/03/15 09:40
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 基本毎週日曜日に更新!


 ※追記

 実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
 やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
 ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
 とってものんびりと、更新する予定です。


 Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
 イラストとか宣伝とかを呟いてます!



 ※注意事項

 ・荒らし・中傷はお控え下さい。
 ・チェンメなんかもお断りしてます。



●目次

prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052 
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071

第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224 
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274

第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417

第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508

第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623

第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772

第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858

第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908

第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964

第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997

※第301次元〜は新スレにて連載予定


       ●おまけもの●

●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58

●番外編 
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945

 
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944


●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304 
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460

●キャラ絵(複数) 
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737

☆奏様には毎度ご感謝しております!!
 すごく似ていて、イメージ通りです
 キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
 これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙


●お知らせなど

* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998

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Re: 最強次元師!! ( No.980 )
日時: 2014/10/19 09:39
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dz78gNY2)
参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/


 みなさんこんにちわ。作者の瑚雲です。
 今日学校で提出の課題を終わらせようにも物理的に不可能だと知って絶望している瑚雲です。

 最近本編の更新が疎かなのですが、実は別サイト“小説家になろう”様にて、

 最強次元師!! を第001次元から“完全版”として更新開始しました!

 色々な矛盾点や時間差の問題など、修正しながら少し本編の内容も変えて書かせて頂いてます。
 上記のリンクから飛べますので、もしご興味のある方がいらっしゃいましたら覗いてみてやって下さい。

 他の作品もリメイクしていきたいと思っているので、宜しくお願いします!


 

Re: 最強次元師!! ( No.981 )
日時: 2014/09/17 13:14
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Va4IJVQE)

 第284次元 第二覚醒をする為に

 普段からまるで感情を示さない表情が、変わる。
 あり得ない。そんな事。
 だってキールアは、百槍の次元師としては半年も経っていない未熟者。
 然し妖精は語るのだ。下手をしたら、彼女が一番強いのだ、と。

 「冗談はやめて……笑えない」
 「冗談なんかじゃないよ、割と本音」
 「……ふざけてるの? 彼女は、次元師として未熟すぎるわ」
 「戦闘センスは?」
 「は?」
 「まあいいや……グリンが“悪魔”に喰われないよーに、祈ってるよ」

 よいしょっというように、妖精は太い木の枝から軽々と地面へ着地。
 ぽつんと我が身、取り残されたグリンは不機嫌なままで。
 クールな彼女が、ピキッと青筋の浮かんだのを見る間もなく、妖精は消える。

 「……あり得ないわ、絶対」


           *


 「「「————第二覚醒ができたァ!?」」」

 夜。音もない小屋の中で、少年達の声は高らかに響いた。
 フェアリーもコーヒーカップを持ったまま固まってしまう。
 まさか。こんなに早く?
 嬉々とした表情で、英雄達は驚く。

 「ああ……なんとか、アニルのおかげでな」
 「あ、アニルって……神族の!?」
 「ああ」
 「おいおい、まさかお命頂戴ってんじゃ……」
 「ちげーよ。分かんねーけど、手伝ってくれた。ヒントもくれたし」
 「……ヒントだと? 神族が人間に力を貸すとは……裏がありそうだ」
 「俺も最初そう思ったけど……なんか、雰囲気違ったんだよなあ」

 案外良い奴かもしれんと言うレトに対し全力否定をかます一同。
 然し、レトの言い分も理解できない訳ではない。
 あのアニルと会って、それも一戦交えて、身なりはボロボロではあるが生きてここにいる。
 致命的な傷も負っていない。はしゃいで泥んこになった子供のようにも見える。
 不可解な現象に、レト以外の3人も首を傾げてみせた。

 「なんつーか……丸くなってたよ、あいつ」
 「レト、騙されてるんじゃ……っ」
 「だとしてもあいつのおかげで第二覚醒できたんだ。結果オーライだろ」
 「襲われても第二覚醒で対抗できるってか」
 「そういう事」
 「それでそれで? どうやってできたの!? 第二覚醒!」
 「ん〜……多分だけど、キールアは厳しいかもな」
 「へ?」
 「どういう事だよ、レト!」
 「勿体ぶらずに教えたらどうだ」

 ああ、それは。
 アニルの言葉に導かれるようにして、第二覚醒を成功させたレト。
 彼は言う。


 「————“両次元”だよ」


 一同は、言葉を失ったように動かない。
 口元も、体も、思いもよらない言葉に動作を失った。

 「は……? りょ、りょうじげ……」
 「何故、そうだと言い切れる?」
 「アニルが言ってたんだよ、『お前はあの時何て言ったんだ』ってな」
 「あの時って……決定戦の決勝の時?」
 「そう。突然だったから、何の事だか分かんなかったけどな」
 「レト君は、何て答えたの?」
 「『次元の扉発動』って言ったら惜しいって言われたんだ、最初」
 「結局答えは?」
 「……——『俺の事も、信じてくれ』」

 レトは、あの時確かにそう言った。
 それが誰に向かって言った言葉だったのか、言わずともアニルには分かっているような口ぶりだった。

 「その言葉は、さ……確かに、丁度ロクの事を考えてたから、ロクに向かって言ってるみたいだったけど……」
 「ち、違うの?」
 「でも、“誰かと心を重ねているような”、まるで……——“両次元”を開いてるみたいな感覚がした」
 「!」
 「それが、懐かしさは感じなかった。ロクと両次元を開いたような感覚もしなかった」
 「じゃあ……だ、誰と?」

 それが、この第二覚醒の大きな秘密であり、大切な鍵となる証。

 「『俺の事も信じてくれ』————あの言葉は、紛れもなく“双斬”に言った言葉だったんだよ」
 「「「「!?」」」」

 双斬が、教えてくれた事。
 剣術、双剣である意味、戦う意味。
 君は君自身に負けてしまうのと、震えた声もまだ覚えている。
 背中を押してもらってここまで来た。自分を信じて、ついてきてくれた。
 千年前の、憧れの大英雄。

 「じゃあ……もしかして……」
 「ああ、俺——————双斬と、両次元を開いたんだ」

 レトの心の中に棲む英雄は、顔も出さずそこでじっとしていた。
 心と心が重なり合う瞬間。溶け合って、認め合って、信じあった証。
 それが正に、“双天斬”という剣に形を変えた。
 一人じゃダメだった。元霊持ちである彼だからこそ、誰よりも早くできた。
 そして、双斬に、小さな英雄に、後押ししてもらったから。
 全てを委ね合える、相棒がいてくれたから。
 レトはそう語る。

 「双斬にも次元を使う力がある。現に俺、あの日双斬に一瞬貸してたし」
 「元力を?」
 「うん……フェアリーさんの修行も、多分次元と次元師の距離を縮める為だと思うんだけど……」
 「え!?」
 「次元と、次元師の距離を……縮める?」
 「……よく、気が付いたわね」
 「第二覚醒が出来た時に、気付いたんだよ」

 本来、次元師と次元の力には距離がある。
 その間に流れているのが、元力。
 元力の使用を経由する事で、次元の力が使える仕組みになっているのは知っているだろう。
 それが今回のように、“元力が全く使えない状態”にあったら?
 自力で、己が信じる精神のみで、次元の力と向き合うしかない。
 つまりはレトで言う、双斬という個体と向き合う事。
 剣術を磨き、体力の向上を図り、元力も上げると共に次元の力との距離を縮める。
 より圧縮された関係下、元力は密度の濃いものとなって技の強度も威力も増す。
 フェアリーが英雄達に諭したかったのは、実はこういう事だったのだ。

 「上出来だわ。流石はメモラの……」
 「え?」
 「……! あ、ああ、ごめんなさい……何でもないわ」
 「?」
 「じゃあさ! 俺だったら、炎皇と両次元できりゃいいってか!?」
 「そうなるな。俺達みたいな元霊持ちは、次元の力に感情が宿ってるからやりやすいと思うけど……」
 「困ったなあ……私だけ、両次元やった事ないから……感覚とか全然分かんないや」
 「大丈夫だって。心配すんなっ」
 「う、うん……」
 「然し、大収穫だな……レト、俺達もすぐに追いついてみせる」
 「おう。あんま焦んなよ?」

 千年。人類が次元の力をその身に宿してから、随分と時間が経った今日。
 一人の少年が、次元師の時代を変えた。
 次元師は強くなれる。思えば思うほど、溢れてくるように、加速する力。
 母なる神に託された、世界を揺るがす程の想いで、一体どれほど人間は強くなれる。
 心の神は、確かに一歩ずつ、進み続ける英雄を見て思うのだ。
 彼らなら、きっと。
 この因縁を、千年間の闘いを、終わらせてくれる。

 「……」
 「……どうしました? フェアリーさん」
 「え?」
 「浮かない顔ですね……具合でも悪いんですか?」
 「大丈夫よ。心配しないで」

 昨晩。出会った妖精の、瞳の強さを、体が覚えていた。
 彼女は何を考えている。神族を動かして、我々を助けるような真似までしているようで。
 自分と同じ神様であるのに、全く違う生き物に見えた。
 自分と同じ想いであった、はずなのに。
 突き止めなくては。彼女は、焦る鼓動を隠した。

 「さあ皆、もう寝ましょう。レト君以外の3人は、明日からまた頑張らないと」
 「へーい」
 「頑張りますっ」
 「……精進せんとな」
 「あ、俺また明日アニルと修行するんだった」
 「え?」
 「大丈夫なの? レト」
 「修行に付き合ってくれてんだ、死線彷徨うようなやつだけど」
 「危ねーじゃん!」
 「……」
 「大丈夫だって」

 不安だけを残した月明かりが、湖を照らし出す
 幾日も幾日も、単純に世界は、廻っていく。
 少しずつ確実に戦争の日へと近づいていくのが、恐ろしくて堪らない。
 月光差す水面は揺らぐ。薄暗い景色は、満点の星空の下、広がっていった。

Re: 最強次元師!! ( No.982 )
日時: 2014/09/20 21:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dz78gNY2)

 第285次元 キールアと、自然の神

 鬱蒼とする森。駆けて、裂いて。振り回る槍の矛先は、まるで空を薙ぐよう。
 キールア・シーホリー。彼女の一突きが、目前の巨体を派手に薙ぎ倒した。
 地面も揺らぐ重たい体が砂のように空に舞うのを、ただ見ていた。

 「流石ね、キールア」
 「わっ、百槍」
 「まだ次元技を持って間もないにしては、上出来よ」
 「そ、そうかな……へへ」
 「でも油断は禁物。どこで誰が狙っているか、分からないものよ」

 小さな精霊と化した百槍の言葉に、こくんと一つ頷くキールア。
 昨夜、レトヴェールは第二覚醒を完成させたと言った。
 そのスピードもセンスも、流石は何年も次元師をやってきただけの事はある。
 それに比べてキャリアのないキールアには、両次元の感覚もまだ知らない。
 とは言ってもこの千年の間、両次元を開く事ができた次元師はたったの6人。
 感覚を知っている方が可笑しいのかもしれないと、自分に言い聞かせる彼女だった。

 「ん〜……両次元かあ……」
 「両次元の感覚は昨日、レトヴェールが言っていた通りだと思うけれど……」
 「“互いの心を深く理解し尊重し合う。心の底から、相手を信じる事”……でしょ?」
 「簡単そうに聞こえて……とても難しい事を言われているのね、きっと」
 「レトはロクとも、双斬とも開いてるから……簡単に言えるんだよ」

 百槍は、その言葉を聞いて少しだけ驚いた。
 何故だかキールアの口ぶりが、尖っているようにも聞こえたから。
 初めてレトの事を悪く言う彼女を見た。

 「……な、なんか私、嫌な奴かも……」
 「焦らないで、キールア。私もついてる」
 「うん」
 「医者の卵だった貴方が、今は次元師として戦ってる……それは不思議な事かもしれない」
 「……うん」
 「でも、大丈夫——慎重に、一緒に強くなれば良いわ」

 流石は、千年前の英雄だと思った。
 それも自分と同じ百槍を使っていたのだから、余計に重なる。
 凛々しく強く気高く、百槍が何だか大きく見える。
 キールアが、目を伏せた。

 その時。


 「————そんな弱音吐いてるようなら、貴方は死ぬ」


 ずっとずっと上の、木の太い枝の方から。
 聞こえたのは、人間とは少し違う声色。
 見上げたキールアは目の当たりにする。

 「!?」

 嘗て自分も、会った事がある。
 まるで無感情。歪まない顔と、揺るがない声色を、微かに覚えている。
 目の前で仲間を殺されて、驚愕の表情で、妖精に怯えていたのも。

 「どうしたの……——英雄大四天」

 自然の神————【GRIN】はそこにいた。

 「ぐ、グリン……!」
 「覚えていたの。まあ……会ったことがあるから、当然かもしれないけど」
 「あ、貴方何で……っ」
 「貴方の担当をする事になったの。光栄だと思って——死にもの狂いでついてきなさい」

 途端、地面は今までにないくらい、大きく揺れ出した。
 隆起する大地を割って出てきたのは————縄のよう捻る“木の根”。

 「わあっ!?」
 「ぼさっとしてると————死ぬけど」

 幹より遥かに太い根っこが、鞭打ってキールアに迫る。
 彼女は、一瞬の考える間もなく。

 「次元の扉発動————百槍!!」

 ——銀の槍は、姿を現した。

 「うぐ……!」
 「そんなもんなの? やっぱり女には腕の力がない」
 「……ッたあ!!」

 弾き返す、木の根は大きく反り返して、キールアは同時に走り出した。
 グリンの表情は全く変わらない。その場から動く事もなく、指で空に描いた。
 その指に合わせて、木の根が踊り走る。

 「……楽しませてよね————“英雄”なんだから」

 短い黄緑の髪の上に被る、三角帽子が揺らぐ。
 対するように長い前髪の隙間から覗く金色の瞳は、ただキールアだけを見ていた。
 英雄最弱の少女、キールア・シーホリー。
 下手をすれば彼女が一番だなんて、あり得ない。
 証明してやると、グリンはその場に居もしない妖精に、向かって言う。

 「ど、どうしよう……!」

 (落ち着いて。焦らずに正確に……動きは妙だけど、必ず読めるわ)

 「で、でも……っ」

 (“諦めるのは戦ってから”————そうでしょキールア!)

 はっと、我に帰るキールアは。
 思い出す。百槍の、冷たくも無限大に優しい、言葉の数々を。
 いつだって冷静な彼女が、キールアを支えてきた。
 きっと今もそれの一部。キールアは、槍を握って。

 「? へえ————真正面から、突っ込んでくる気?」

 振り返ったら、幾重にも重なった、木の根がうねうねと渦巻いていた。
 大地を叩いて、まるでキールアを呑み込むように——陰る。

 キールアは、一瞬足に力を入れて。

 「はア————!!」

 跳んだ。飛躍する力が——突き刺す。 

 (——!?)

 たったの、一撃が。根を思い切り大地に叩きつけた。
 まるで弾丸。凄まじい威力に弾かれ、太い根は動かなくなる。
 グリンは、目を細める。

 (なるほど……確かに、ケタ違いね……)

 「はあ……はっ……」

 (キールア!! ——次が来る!!)

 横から伸びた根が地面を叩くと同時に、キールアは跳んだ。
 僅かな土埃で視界は遮られるが、彼女は。
 その場で回って、かなり近くまで迫っていた根を——槍で止めた。

 「う……ぐぅ……ッ」

 (視力も良い……それに、気配を完全に感じ取ってる……)

 「たァッ!!」

 (最初は単純に弱いと思ってたけど、腕力もいつの間にか……体も、柔軟みたい)

 「第五次元発動——、一閃!!」

 (次元技の威力はそこそこだけど——戦闘センスはある)

 「はァ——!!」

 (元力は少なめ、でも——いつも最小限で戦うよう無意識に制御してる……?)

 グリンは考える。キールア・シーホリーが何故恐怖の対象になるのか、と。
 懸命に戦う彼女はまだ槍術も荒削りで、元力の微々の乱れもある。
 安定したレトヴェール・エポールやエン・ターケルドとは全然に違う。
 辛うじてサボコロ・ミクシーと似ているかとも思ったが、彼の場合は性格上そうなっているだけ。
 では、何故彼女には元力を無理やりに制御しているような現象が起こっているのか。
 それと大会の決勝戦で見せた、別人のような彼女の全力。
 無自覚で無意識に、彼女は全く違う自分を持っているというのか。
 それに気づく術も隙もない。彼女は、何かに踊らされているかもしれない。

 「確かに、謎の多い次元師だけど……普段があれじゃ、話にならない」

 ぐんぐんと前方から迫る、木の根を懸命に弾く。
 旋回させ、或いは突いて、半歩下がった反動で、太い図体に突き刺す切っ先。
 見るともう、キールアの体中に擦り傷のようなものが浮き出ていた。
 隊服も解れ、頬には細い切り傷が見える。下がって呼吸を整えるのに、必死だと言った顔。

 (キールア前を向いて、逸らさないで、一瞬の隙は——命を落とすわ!)

 「分かってる——!!」

 どうして、あそこまで。
 グリンが疑問を持っていたのは、別にキールアの英雄としての実力云々ではない。
 医者として、他人を思いやる、か弱い少女として。
 普通に生きてきた筈の彼女が持つ、火が滾る程の魂の強さが。
 グリンには理解できなかった。
 次元技を捨てる事もできた筈なのに、そうしなかったのは。
 次元の力に、何の未練があったというのだ。
 何があそこまで彼女を、変えたのか。
 心の神でもない自然を司る神、グリンは考える事を遂に放棄した。

 「……やっぱり、荒療治しかない」

 単純に彼女を苛める為に来たのではない。
 彼女を、強くする為に来ただなんて。
 絶対言わないけど。グリンは立ち上がった。

 「キールア・シーホリー!!」
 「!? ぐ、グリン!?」
 「私はぐずぐずしているのが嫌い————だから“今日中”に第二覚醒してもらう!」
 「——え!?」
 「拒否権はない——できなかったら殺す!!」

 無表情無感情。貫いてきた筈の自分が、ここまで奮い立つのには。
 きっと理由がある。
 その理由が、何故か。

 ————キールア・シーホリーの中に、ある気がした。

Re: 最強次元師!! ( No.983 )
日時: 2014/09/27 23:07
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dz78gNY2)

 第286次元 強くなりたい

 「第四次元発動————戯旋風!!」

 旋回する槍が、太い木の幹無残に裂き落とす。
 銀が輝くと、応えるように地面が割れ、再び。
 大地から溢れる——“自然”の力。

 「ったく……——何なのよっ!」

 “今日中に第二覚醒をする事”。
 条件をクリアできなければ死が待っているというグリンの言葉を思い出した。
 当の本人は、蠢く木の上でしれっとした顔。
 両次元もロクにした事のないキールアにとって、あまりに酷い条件ではないだろうか。
 今日中に、なんて。半ば諦めている彼女に余裕は与えない。
 大地を這う木の根を、突いて砕く。

 (キールア! 右から来るわっ!)

 「うん!!」

 百槍と出会ったも、ほんの少し前の事。
 まさかずっと自分の中に英雄がいるとも知らずに過ごした、医者としての彼女は。
 今、正に英雄として。矛先は空を駆け大地を砕く。

 (百槍の事、考えないと……心の底から、信頼して、それで————)
 (——!? キールア前を見て!!)

 「!?」

 僅かに動けず、金髪の少女は。
 木の根が大きく跳ねると同時に、遠い空へ跳んだ。
 手離した銀槍と、距離が開く。

 「う、ぐ……っ」
 「余計な事考えていると、すぐに命を落とす」
 「——うあああっ!?」

 一本の厚く太い根が、キールアの体に巻き付く。
 締め上げるように、縄で縛るように、そのまま空へ出た少女は。
 痛みと苦しみの入り混じった顔で、眩んだ視界の隅に槍を見た。

 「びゃ、く……そうっ……」
 「女特有の、細い体ね……へし折っても良いの」
 「百、槍……!」
 「……貴方は“次元”を——まるで分かってない」
 「!」
 「キャリアが浅いのは分かってる。でもそれは、甘えて良い理由には——ならない」

 決定戦から見ていた。慰楽を失い、次元師ではなくなったキールアは。
 戦闘中に、新たな力を手に入れた。
 百槍を使う次元師としては赤子に等しい彼女は、そんな事実もひっくり返す程、強く凛々しく。
 まるで遥か昔からその使い方を知っているみたいに。
 正直、上手ではないが、強い。
 然し見ていると、どうやら百槍という英雄に助言を貰っている場面が多いと分かった。
 百槍に引っ張られている。幼い力を早く焚き起こす為だとは分かっていても。
 それは、次元師ではない。

 「次元師が、次元の力に導かれてどうするの。泣きついて頼っても……意味はない」
 「う……っ、そ、んな……の……!」
 「貴方が導くの。次元の力も、仲間の意思も————“英雄”になったのなら」

 青ざめていく全身が、意識を奪おうとする。痛くて、苦しくて。
 それでも、目だけはしっかりと、神を見ていた。
 自然の神は笑わない。真剣な眼差しが刃物みたいに突き刺さって抜けない。

 「————まだ、死にたくないでしょう?」

 締め付けられた体が、記憶が。
 少女に、思い出させる。
 紅い景色も、凍り切ったあの目も。
 キールアは、笑った。

 「……私、は……」
 「……?」
 「もう……“一度”————死んでるよ」

 あの時、自分を棄てた。
 拾う事もない。取り戻す事も。
 悪魔だと恐れられ、たったそれだけの為に。

 失った、家族と共に。

 「何を言うかと思えば……」
 「……ち、からが……欲しい……」
 「……」
 「強、く……——なりたい!」
 「……そう……——じゃあ」

 小さな指を、ゆっくり持ち上げて。
 自然の神は紡ぐ。

 「もう一回————死んでみる?」

 痛みを、感じなかった。
 たったの一瞬、駆ける音が————漸く。

 「う……わあああ——!!?」

 ————脇腹を、喰い殺した。

 (キールア——!?)

 するすると木の根は解ける。
 思い切り叩きつけられた、体が、地面とくっついたまま離れない。
 どくどく溢れるは、赤くて心地の悪い、色で。
 真っ黒く見える。まるで、絶望みたいな色彩が語る。
 体中を駆け巡る、凄まじい程の痛み。

 「がはッ……い、つぅ……っ!!」
 「痛いでしょう、苦しいでしょう。さあ、どうするの英雄」
 「……う、ァ……ッ」

 痛い。頗る痛い。刃物でぐりぐりと傷口を抉られるような、えげつない痛みは。
 苦しさを連れてくる。次いで、思考能力を、持っていく。
 口からごぽりと吐き出した深紅の塊で、何も言えなくなった。

 「————キールア!」

 そんな、彼女の耳に。刺さった声で、我を取り戻す。
 幼い頃からずっとずっと、優しくて強い、頼りになるその声に。
 一度だって、忘れた事もない。
 自分にとっても——“英雄”の声。

 「れ……と、……っ」
 「どうしたんだよお前!? すっげえ傷……元魔にやられたのか!?」
 「ち、が……」
 「……? ——!?」

 レトヴェールは振り向いた。
 遥か高見から、冷めた表情で見物する小さな体は。
 緑色に輝いて、彼は思い出す。

 「グリン……! ——てめえ!!」

 アニルに引き続き自分を襲った、自然の神を。
 忘れる訳がないと、レトの表情は厳しいものへと変わった。

 「久しぶり、か……レトヴェール・エポール」
 「てめえ何でこんな事しやがった!!」
 「……命令よ、“とある神”からの」
 「……は?」
 「知る由はない。さあ、どいてレトヴェール」
 「どかねえよ!! てめえは俺が————」
 「————てめェの相手は、この“アニル様”だろ?」

 轟音。響いた激しい音に、咄嗟にレトはキールアを庇うように抱き寄せた。
 出血は止まらず、息の荒さも深まっていく。汗が、傷口に流れ込んで痛い。
 そんな2人の目の前に現れた“動物の神”————アニルがにやりと、笑う。

 「……アニル」
 「よォグリン! てめェヌルい修行してんなー」
 「一応、急所は狙ったつもりだけど」
 「そーかよ……おいレトヴェール!」
 「!」
 「別の奴にちょっかい出す暇があんなら……遊んでくれよなァ?」
 「ああ————上等だ!!」

 光る、手元が。
 キールアには、あまりにも。眩しく見えて。
 これが、強さの差なんだろうと。
 思って、見えた。

 「“第二覚醒”——————!!」

 今、英雄は————形を変える。

 「——————“双天斬”!!!!」

 紅く紅く、染め上がる刃が、燃えるみたいに。
 キールアの視界に、深く深く、突き刺さった。

 「これ、が……っ」
 「……第二覚醒、初めて見た」
 「へっへー!! そうじゃなくちゃなァ————面白くねェ!!」
 「……キールア、早く行け」
 「……っ」
 「そんな重症じゃ、戦うのは無理だ……だから——」
 「——逃げないよ、私」

 キールアは、駆け出した。
 転がっていた百槍を、掴んで地面に。突き刺さった力を——呼び覚ます。

 「第六次元発動————傷消止血!!」

 キールアの体全体を包むように現れた“泡”。
 薄く膜を張ったそれは徐々に、ゆっくりと、キールアの傷口を治し始めた。
 痛みこそ消えない次元技だが、今はこれに頼る以外にない。
 多少残った傷痕は、完全に血の流れを止めてみせる。

 「ヒュー! すっげェーな、その技!!」
 「き、キールア……!」
 「ごめん、レト……私、もう大丈夫だから」
 「大丈夫なわけねえだろ! フラフラじゃねーか!!」
 「私……まだ戦えるよ!」
 「それで死んだら元も子もないだろ! 文句言ってねえで早く————っ!」

 キールアの目は、それを見逃さなかった。
 時折見せる、信じられない程の観察眼。
 彼女は、レトの肩を掴んで——跳んだ。

 「——!?」

 そして、彼の背後に回っていた————“木の根”を薙ぎ払う。

 「……気づかれてた」

 キールアは、レトの背に自分の背を、預けるみたいに。
 お互いの温度は、微かに震えたまま、そこを動かなかった。

 「私……大丈夫だから」
 「キールア……で、でも……」
 「お願い——邪魔、しないで」

 知らない声だった。確かにそれは、キールアのものであった筈なのに。
 良く見えない顔は、どんな風になっているのか。
 冷え切った声に応えるように、レトは。
 真っ赤になった双斬を強く握って、キールアから離れる。

 「分かった……でも」
 「……」
 「無理はすんな。お前は俺が————絶対、護ってやるから」

 キールアに、その時。
 まるで人間の感情を、取り戻すかのように。すっと流れ込んできた。
 その言葉に、うん、って。
 答えるキールアは、再び前を向く。

 「グリン——待たせたね」
 「遅い。殺したくなる程遅い」
 「……ははっ……————いくよ!!」

 金の瞳が、もう一度。
 力強さを————取り戻す。

Re: 最強次元師!! ( No.984 )
日時: 2014/10/05 09:10
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dz78gNY2)

 第287次元 アニルに続くは

 日は刻々と、迫るように落ちていく。
 傾く太陽を背に、地面を駆け槍を振り回し続ける彼女は。
 掌に、体の至る所に、掠れた傷や切り傷を増やしては、また走り出す。
 既に満身創痍。全身が痛いと叫んでも、決して彼女は、それを口にしない。

 「早くしないと————今日が、終わる」

 キールア・シーホリーは続ける。そんなの、分かっていると。
 然しこれ以上の戦闘を拒むように、体はガタガタと震え出しているのも。
 彼女には分かっていた。
 昼間に塞いだ脇腹の傷口が開き始めているのも、何もかも。

 (もう無理よキールア! これ以上は……っ)

 「でも……でも今日中じゃないと」

 (逃げましょう。じゃないと、貴方の体が——)

 「——第六次元、発動」

 英雄の、百槍の。声を遮るように、冷めた響きが。
 また燃えるように、槍全身に熱を齎していく。
 キールアは、跳んだ。

 「堕陣————必撃ィ!!」

 唸る木の根を元から切断するように。
 自分の体より遥かに大きなそれが、空へ跳ね飛んだ。
 地面に突き刺さった衝撃で、大地が揺れる。

 「まだ……そんな力があるの」
 「はぁ……はっ、は……ァ……!」

 (——キールア!)

 「……百槍、お願い」

 (!)

 「……私の、事……——信じて」

 それは、レトヴェールが。双斬という英雄に向けて放った言葉だった。
 次元の力との両次元を発動するという事は、次元師と次元の力を切り離した確立が重要。
 一体となっていた今までを突き放して、改めて向き合う事。
 違う存在なのだと、互いに理解し合う事。
 出会って間もないキールアと百槍がそれを果たすのに必要なのは。
 もう、互いを。手探りな今の状態をぶち壊して、信じ合う事。

 (キー……ルア……)

 「……私、だめだめだけど……百槍に、たくさん……たくさん、支えてもらったから」

 自信がないと言ったあの夜。
 戦うのは諦めてからにしなさいと、冷たい口調の奥の、暖かすぎる言葉に。
 キールアの胸がどれ程強く、打たれた事か。
 もうやめて、これ以上戦わないで。
 時に厳しく、キールアの体を一番に気遣って。
 英雄への道を切り捨てて、生きろと言ってくれた百槍に。
 キールアの心がどれ程深く、彼女に感謝しているか。

 「私は……——最後まで諦めたりしない!!」

 驚かされているのは自分の方だと。
 百槍は言うに言えなかった。
 か弱い少女が胸に抱く、魂の強さを。こうして今、次元の力として感じている。
 駆け足で強くなる主に、シーホリーの血を引く彼女に。
 恐怖まで感じていたなんて。それはとても、言えないけれど。

 (日没が近い……荒療治とは言ったけど……——既に、彼女は)

 見ても分かる、傷だらけの体が。若い体に赤い筋と青い痣が。
 汗を振り切って、前だけ見ている少女は。
 本当に今まで医者の卵として人々に手を差し伸べていたのか。
 その手にメスを持つでもなく槍を握っているのは、何故なのか。

 自然の神は漸く決する。
 辺りは暗くなり始めていて、景色も見えたものじゃなくなって。

 (————残念だけど、“ゲームオーバー”みたい)

 有次元に広がる自然界のような。青緑の髪が僅かに揺れる。
 対するように、神様として感情の失った軽い心が。
 微かに揺れもせず、闇に溶け込んで。
 目を、細めた。

           *

 「キールアちゃん……ちょっと遅くないかしら」
 「は? そうか?」
 「うぬ……確かに。もう辺りは真っ暗だぞ」
 「レト君、何か知らない?」

 フェアリー・ロックの別荘で、いつも通り身を寄せ合っていた英雄達。
 毎晩のように疲れた体を癒しに、また朝を迎える為にも全員揃っているのが当たり前だったのに。
 何故だか今日はキールアがいない。帰りが遅すぎると一同も違和感に気付き始めた。
 ただ一人、何かを考え込むレトを置いて。

 「れ、レト君?」
 「え?」
 「キールアちゃん、遅すぎじゃないかしら? 戻ってきても良い頃なのに……」
 「……ああ、そうだな」
 「んだよレト、お前いっつもキールアの事になると躍起になるくせに!」
 「珍しく大人しいな。学んだのか?」
 「何言ってんだか全然分かんねえけど……ちょっと、な」
 「何か知ってるの? キールアちゃんの事」
 「……知ってるっつうか、違和感っていうか……」
 「どういう事?」

 実は、と。レトは静かに語り出す。
 アニルとの修行中、視界の端にキールアを見た。
 それも、腹部から大量に血を噴き出した残酷な姿で。
 まさか元魔にやられたのかと彼女の許へ急いだレトが、そこで見たのは。
 小さな指先で大きな自然を操る、自然の神様。
 グリンを見た時、無意識に背筋が震え上がったと。レトは言う。

 「グリンまで……!?」
 「お、おい待てよ! それじゃあマジで神族とマンツーマンで修行してんのか!?」
 「レトの場合はアニルで、キールアの場合はグリン……一体何が起こっている」
 「……そんな、何で……」
 「分かんねえ。でも多分、今キールアはグリンと戦り合ってて、それで……」

 フェアリーの中に沸き上がる、異常なまでの違和感と恐怖感。
 あたしはもう迷わない。彼女は今更になって、あの時妖精に言った事を、酷く後悔した。
 それにキールアの容体を聞くと、かなり損傷している可能性が高い。
 グリンは、キールアを殺そうとしている。
 どくん、どくん。確かに胸打つ心音が、心地悪い。

 「た、助けに行こうぜ! もしかしたらキールアの奴、マジで死……っ」
 「不吉な事を言うなサボテン! それはもしもの話だろう!」
 「でも、おかしいじゃねーか今更! 神族達が俺達の、手伝いなんて……」
 「……まんまと、騙されてるっていうのか?」
 「信じて、待つしかないわ」
 「! おい何だよそれ!!」
 「ここで死ぬなら、それも彼女の“運命”……そこまでって事よ」
 「……流石にそれ、聞き捨てならねえな」
 「グリンに手間取っているようじゃ、どうせ戦争で死んでしまうわ!」
 「……っ!」
 「貴方達が戦おうとしているのは、グリンやアニルの遥か高みにいる化け物よ。分かっているの?」
 「そ、そんなの俺らだって……!」
 「信じて待ちなさい。今貴方達にできるのは、たったそれだけよ」

 然し、たったそれだけの事が。
 どれ程大事で、どれ程戦う者へ、意味を齎すのか。
 知らねばならない。それを教える為にも、決定戦の最終トーナメントはあの形式だったのだから。
 レトは思い出す。一人一人、或いは二人で、仲間の助けなく戦っていた日々を。
 ただ後ろから応援するだけの、焦って心配で、仕方のない。永遠に感じた一戦一戦が。
 今ここで生きる。
 キールア・シーホリーというたった一人の少女の帰りを信じて、待つ。

           *

 少女は震える足取りで、不確かにただ歩く。
 追いかけられて数時間。既に造られた月が、神々しく夜空の上で瞬いて。
 街灯のない闇だけが広がる道を、我武者羅に走って、転んで立ち上がって、走り続けて。
 これ以上ない程、体は正直に鉛へと変わってしまった。
 重たくて動かない、思うように歩けもしない。考える力も残っていない。
 水の匂いにつられて、ふらふら光差す方へ来てみただけに。
 見えたのは、湖の向かい側にある、小さな小屋。

 (あんな……遠く、なの……? ……ああ……もう)

 二度と、辿り着けないのではないだろうか。
 これだけ歩いて、漸く見つけた細い光が。
 指の間をするすると抜けていって、また消えるように。
 掴めない。どうしても届かない。
 声もまともに、出せない。

 「キールア……貴方は、良くやったわ、だから休んで……」
 「だ、ダメ、だよ……だって、まだグリン……が……」
 「いざとなったら、私が貴方の元力を使って、グリンと戦うわ」
 「……びゃ、くそう……が……?」
 「ええ」

 双斬が嘗てそうしたみたいに。レトを護る為に、千年のブランクを物ともしないで。
 今度は私が護るから。百槍が、小さい体で、確かな声でそう言った。
 次の瞬間。

 「何甘い事言っているの」

 感情のない。温度のない。
 決して変わらない声色が、次いで紡ぐは。


 「第二覚醒が出来なければ——————“殺す”と言ったでしょう」


 今日が終わるまで、残り三時間程度。
 自然の神は決して、人間に、英雄に——少女に。
 甘くはなかった。


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