コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
日時: 2015/03/15 09:40
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 基本毎週日曜日に更新!


 ※追記

 実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
 やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
 ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
 とってものんびりと、更新する予定です。


 Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
 イラストとか宣伝とかを呟いてます!



 ※注意事項

 ・荒らし・中傷はお控え下さい。
 ・チェンメなんかもお断りしてます。



●目次

prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052 
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071

第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224 
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274

第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417

第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508

第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623

第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772

第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858

第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908

第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964

第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997

※第301次元〜は新スレにて連載予定


       ●おまけもの●

●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58

●番外編 
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945

 
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944


●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304 
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460

●キャラ絵(複数) 
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737

☆奏様には毎度ご感謝しております!!
 すごく似ていて、イメージ通りです
 キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
 これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙


●お知らせなど

* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998

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Re: 最強次元師!! ( No.985 )
日時: 2014/10/12 12:37
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dz78gNY2)

 第288次元 伸ばした手の先

 「————!?」

 伸びたのは、長い長い蔓。
 鋭く尖った刃物のようにそれは、荒れ切った切っ先でキールアの視界を潰す。
 世界は暗転した。

 「キールア!!」

 僅かに逸れたか。グリンは、顔を抑えるキールアを見て不機嫌そうに。
 暇もなくもう一本。剣の矛先が如く忠実に向かってくる蔓は——少女の足元を叩いた。

 「大丈夫!? キールア、目、目が……っ」
 「だ、いじょぶ……! 瞼の上、切っただけ……」
 「お願いキールア! 私に元力を貸して!」
 「!」
 「私が……グリンと戦うわ!」

 細い視界から洩れ出して、聞こえてくるは英雄の声。
 然し、遠のく意識に、返事をする余裕もなく。
 キールアは、声が出せない代わりに、首を横に振った。

 「ど、どうし————」
 「——次は外さない」
 「! ————次元の扉、発動!!」

 精霊の姿から、一転して。
 キールアの声に応えるように百槍は、姿を変えていく。

 「——百槍!!」

 銀の槍は、現れたと同時に、蔓を弾き飛ばす。

 (キールア!! 聞いてるの!?)

 「まだ戦う気? 甚振られて、虐げられて、心地悪く死んでいきたいの?」
 「……」
 「もう、意識もないの。残念だけど、本当にこれが——最後」

 地面から沸き上がる、幾つもの木の根が。
 アーチを描いて、ぼこぼこ大地を割り生まれてくる。
 その中の、大きな一本の根が、伸びる。

 「——ぐッ!」

 槍を倒す。衝撃と共に地面を滑るキールアが、殆ど力の残っていない腕で、槍を握っている。
 それを離す事はしなかった。

 「無理。貴方は一本の槍で————“全ての根”とは対峙できない」

 まるで人間の拳に似た、横からのストレート。
 荒れた断面で削り損ねたような、木の根の、狂ったような刃先が。
 キールアの横腹に、凄まじい程の、痛撃。

 「——がはァッ!?」

 心臓を握り潰されたかのような、気持ちの悪い感覚で、彼女は一瞬意識を飛ばしかけた。
 然し、跳んだのは。
 彼女の意識ではなく、細くて軟弱な肢体。
 空を舞うように、スローモーションの世界の中。景色が真逆になるのを細い視界の中で見た。
 夜色の空の中に溶け込むように赤黒い何かが、世界に過ぎる。
 次の瞬間、水を割るような音。

 (——キールア!?)

 槍の中から見えていたのは、キールアが跳んで、真っ直ぐに湖に落ちていく光景。
 舞うように金の色の髪が、闇に良く映えていたのだけ、綺麗に見えて。
 湖面を砕く。音と共に、金色の月がブレる。
 動けない体を、鉄の塊である自分を、今ほど呪った事がない程に。
 声が出ない。

 「英雄だなんて、大層な称号に……——精々溺れ死ねばいい」

 自然の神が呟いた。言葉は、溶けるみたいに消えていく。



 沈んでいくのが嫌という程分かる。
 自分の体が、重たくなっていくのも。
 上からの不思議な力に、押し潰されていくようだった。
 涙も流せず、ただ彼女は息苦しい中で死んだように堕ちていく。

 (苦しい……息も、できない……体も動かない、目だって……やっと、開け、ら……)

 自分の体から流れていく血が、わっと広がって、漸く目の前にした。
 血が浮かんでいる。自分の血を置きざりにして、今自分だけが沈んでいる。
 こんなに黒かったっけ。こんなに赤かったっけ。
 こんなに、痛かったっけ。
 そういえば、痛いなんて感覚。死ぬ程の、平和を恋焦がれる程の、痛い、なんて。
 自分の家族が、地面に転がったまま動かないあの光景を目にした時は。
 確かに痛いと感じたけれど、それ以来だと思い出した。

 (……私、何で……ここまで……執、着……して……)

 他人の血の色を見るのは平気だった。
 それが仕事だったから。他人が痛い痛いと、叫ぶのだって慣れていた筈なのに。
 どうしても自分の痛みは、次元師になるまで知らなかった。気にもしなかった。

 (ごめ……ね……百、槍……)

 百槍は、千年前の英雄は。あれ程必死に、止めていたのに。
 もうやめてっていう言葉に、どうしても従えなくて。
 後悔する。無茶苦茶になって今、声も出ないのに。
 ごめんね。ごめんね。キールアは、涙を流したような気がした。

 百槍に護ってもらえば良かったのだろうか。
 命だけは、永らえれば良かったのだろうか。

 (……ご、め……ごめん……ね……っ)

 手を伸ばしてみた。流れた血が、また指の隙間を、手を、拒むように揺れていく。
 第二覚醒なんて、捨ててしまえば良かった。
 望まなければ良かった。
 今、確かにキールアが、思うのは。


 (あ……いた……、会いた、いよっ……————百槍……っ!)


 手の届く距離に、槍はない。
 手の届く距離に、医療器具もない。

 あるのは流れていく血と、残酷な水で。
 槍も、医者としてのプライドも何もない。
 キールア・シーホリー。彼女は、目を閉じる。



 「……そろそろ死んだかと、思ってたのに」

 グリンはちらっと、湖を見た後すぐに。
 地面の上で置き去りにされている、無残な槍を目にした。
 この様子だと、キールアはまだ次元の力を、失っていない。
 次元の力は、本人の体力が極端に消耗すると発動を止める筈。
 然しそれもない。未だに動き続けているというのか。
 次元の力も、彼女の心臓も。

 (試してみる価値は……ありそう)

 グリンは大きめのポンチョのような布から、細い腕を出した。
 小さな指先は、くるりと。
 目の前にある何かに、魔法をかけるみたいな仕草は。

 「——とどめを」

 広く美しい湖面を——————粉々に砕くように現れる、“木の幹”

 (あれは……!)

 百槍は、そのあり得ない程の大きさに驚いた。
 人間界には決してない。高層マンションを遥かに凌ぐ、太くてがっしりとした幹が。
 一瞬の滝を描いて、湖の底から這い上がってくる。
 柔軟な木の枝は、小さな体を掴み上げていた。

 (——キールア!!)

 水と、少々の泥と。
 黒い隊服に溶け込んだ血を被って、ぐったりとした姿勢で。
 金の髪の隙間から覗く顔は、ぴくりとも動かない。

 (キールア!! 聞こえる!? キールア——応えなさいよ!!)

 「……びゃ……く、そう……?」

 (!? キールア!!)

 「ご……め、ね……百、槍……ごめ……っ」

 (どうして貴方が謝るの……っ——ホントバカなんだから……!)

 涙混じりの声が、重たいキールアの体の中に、すっと入り込んでくる。
 心地の良い凛とした声。胸の中を叩く叫びは、いつもの憎まれ口であったとしても。
 聞きたかった。会いたかった。
 水の中にいた、永遠にも感じられた時間は、終わる。
 キールアの顔はぐったりと項垂れた。

 「さあ、今度こそ本当に死んで————キールア・シーホリー!」

 グリンは、目の当たりにする。
 妖精の言っていた言葉の意味を。それは景色となって。

 “再び”————自然の神に“恐怖”を教えた。

 (————!!?)


 それはそれは、“悪魔”みたいな————————毒々しい“闇色”の瞳。


 (な、に……————あれは!?)

 キールア・シーホリーの瞳に浮かぶ月は。
 暗雲の中に隠れてしまったように。
 消える、光。

 「百槍……今度こそ、私を」

 (ええ……——分かってるわ)

 「うん。ありがとう……————でも、本当にごめんね」

 (まだそんな下らない事言ってるの? シメ上げるわよ)

 「……うん————ねえ、百槍」

 もう動かない筈の体に戻る、力と温度と、情熱が。
 一層、毒々しく。禍々しい程に美しく。
 彼女は、笑って。

 「ありがとう————————もう一度、会えて良かった」

 貴方に、もう一度。
 いくら手を伸ばしたって届かなかったのに。
 今だって、あんなに遠くに、転がっているのに。
 不思議だね。彼女は微笑む。

 今は————こんなにも。

 (ええ、キールア——————私もよ!)


 近くに、感じる。


 「“第二覚醒”————————!!」


 いくよ、百槍。何だか、できる気がするの。
 今度は、私達の番だ——って。
 心を、紡ぎ合う。


 「————————“百樂槍”!!!!」


 少女の手元に、漸く槍は、戻ってきた。
 一層大きくなって。
 一層強く逞しく、なって。

 月光下、輝き煌めく槍を握るのは。
 悪魔の血を引く————“呪われた”少女。

Re: 最強次元師!! ( No.986 )
日時: 2014/10/19 09:15
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dz78gNY2)

 第289次元 妖精は歌う

 人間界の時刻でいう、午後11時半。今日が終わるまで残り30分という所で。
 英雄の一人、キールア・シーホリーは次元の力を、その先へ持っていく。
 第二覚醒。その響きは、形と成って彼女の手元で輝く。

 鋭く、尖とした銀の刃。
 獣の如き先鋭の牙は、剥きだしに威嚇する。

 「……危なっかしい、娘」

 グリンはやっとか、と呆れ安堵したような息を零した。
 自然に。自然の神は。穏やかな動きで指を起こす。

 「見せてよね……——英雄の力」

 キールアを掴み上げている崖のような樹木。
 それはぐぐぐ、と動き出し、枝をぐるんと伸ばして。キールアに迫る。
 彼女は、見上げない。

 「——!」

 百樂槍。銀の槍は、まるで雲に触れるみたいに。
 優しく、一瞬だけ、強く空間を叩いた。
 枝が衝撃で、引き千切れる。

 「遊んでいる暇、なんて……————ないよ」

 体中が悲鳴を上げ始めてから、何時間が経ったというのだ。
 普通の人間なら痛みで昇天してしまいそうな程、体はボロクズのようで。
 指一本動かしても激痛の走る、全身に。彼女は——迷いなく力を入れた。

 「第七次元発動——————堕衝砕!!」

 槍を————樹木の天辺から、突き刺す。

 「——ッ!?」

 衝撃を連れて、硬く重く太く、大きな木の幹が。
 いとも容易く————ボロボロに崩れ裂いていく景色。

 「そ、んな事——!」

 グリンの表情は、ここに来て漸く変化を見せた。
 自慢の技が、キールア本人の何千倍もある、大型の木が。
 人間界には決してない筈なのに、その戦い方をまるで知っているように。
 今度はキールア・シーホリーの、涼しい顔が落ちた。

 (キールア! このままだと——!!)

 「——大丈夫、私を信じて」

 再び、落ちる体は。今度はその手に、槍を持った形で。
 切っ先は、素直に湖を刺す。

 「第八次元発動——————戯旋轟風!!」

 一瞬、ぐるりと回った槍が生み出す、豪なる風の一陣。
 台風が如く、キールアを中心に吹き荒れる風は——水を裂いた。

 見えた大地。飛び跳ねる湖の“全ての水”が————雨のように降り注ぐ中を。

 「——着陸、成功」

 信じられない。キールアという一人のか弱い少女にはもう、弱いなんて言えない。
 いや、不釣合いな言葉となってしまったのだろうか。たった一夜にして。
 彼女は手に入れる。絶対な力と、次元師としての自信を。

 「お見事……キールア・シーホリー」

 (キールア! は、早くしないと水が……!)

 「うん!」

 槍を大地に突き刺した衝撃で、器用に飛び跳ねた彼女は。
 湖沿いの、元の場所まで帰ってきた。
 地面の上にいなかったたったの数分が、嘘のように永遠だったのに。
 また、嘘のように現実に帰る。
 既にグリンの姿はなく。研ぎ澄まされた心は気配を捉えもしなかった。
 いつの間にいなくなってしまったのかと。また見えない景色の隅から。
 狙ってくる、事もしないだろうと。キールアは不思議と確信した。

 「……」

 (……キールア、大丈夫?)

 「うん……多分、ね」

 (もうボロボロね……良く戦ったわ)

 「……う、ん」

 (……帰りましょう、皆待ってる)

 キールアは、それ以上何も言わなかった。何も、言えなかった。
 フラフラと、力なく体を、心のままに引きずって歩いていく。
 途端に彼女を襲う、急激な眠気と、痛みが。
 全てを思い出すように、彼女の足元を縛り付けた。

 (——キールア!?)

 森の中。明かりもない、暗闇だった。
 映える金の髪が、ぶわりと揺れたと思ったら。
 その顔は、腕は、胴体は、脚は。
 地面にへばりつくように、全く動かなくなってしまった。

 (……——ロ、ク……)

 その名は、魔法の呪文のように。
 キールアを、深い深い夢の中へ誘うように、紡がれる。
 今何をしているのだろう。傷ついていないだろうか。
 泣いて、いないだろうか。
 独りぼっちで、何も言わずに出ていってしまった彼女を。
 自分は、仲間達は、いつでも待っているのに。



 月明かりは、その草原を照らす。
 光り輝く草が踊る。花弁が、それに合わせて跳ぶように舞う中。
 金色の少女は、確かにその耳にした。

 永い永い、麗しい程の旋律を。

 (だ……れ……?)

 水のように澄んだ声。良く通る、風に溶け込んだ息の音。
 その声だけが自然だった。天使の歌声でも聴こえてくるような。
 天国か、夢の園か、自分が何処にいるのかさえ錯覚させる程の、それは。
 何度も何度も、耳にしたもの。


 「ろ……ロ、ク——————?」


 自然の緑に溶けるは、光輝く黄緑の風。
 舞う。声も、花も、草も————“髪”も。

 「い、るの……? ろ、ロ……ク——」
 「今は動いちゃダメ。じっとして」
 「何、で……ここ……に……」
 「安心して。きっと、良い夢を見ているんだよ」

 素敵で、素晴らしくて。
 ずっとずっと、会いたかった友達の出てくる。
 そんな幸せな夢を。
 叶えてあげる。見せてあげる。
 だから、今は何もしないで。じっと聴いていて。
 妖精は歌うように言う。

 「……い、行かないで……ロク、もう……どこ、にも……」
 「……行かないよ」
 「ホント、に……?」
 「ここにいるよ。だから大丈夫。ずっと、傍にいる」
 「……ロク……私、ね……」
 「——大丈夫、あたしが、守るよ」

 ずっとずっと、守ってきたんだもの。
 だから今度も大丈夫。
 絶対守ってみせるから。今だけは。
 どうか素直に、心地よく眠っていて、良いよ。って。
 妖精の言葉は、優しく雪が降り積もるように、少女の中に響いていく。
 気が付いたら、景色は真っ暗になっていた。
 眠ってしまったのだ。まだ、沢山彼女と、話したい事もあったのに。
 聞きたい事もあったのに。

 歌声は、淡々と響いていく。
 深く、時に浅く、夜を駆けるように、優しく撫でるように。
 まるで、涙も零すように。
 ぽろぽろと、音が空を跳ぶと同時に。
 彼女の中で微かに、“それ”は静かに堕ちていく。



 「キールアー!! 何処だー!?」
 「キールアちゃーん!?」
 「おおーい!! キールア出てこおーい!!」
 「キールアー!!」

 早朝の光に混じって、声は森の中を彷徨っていた。
 レトヴェールは、体中に汗を滲ませ走り探す。
 大事な幼馴染である、キールアの事を。
 昨晩幾ら待っても、彼女は帰ってこなかった。
 グリンとの戦闘で疲れ切ってしまったのか。それとも。
 嫌な予感をどうしても切り捨てられない彼は、不安を抱えたまま走る。

 「……!? き、キールア!!」

 どんなに遠く離れていても、分かる。
 見慣れた金の髪は、横たわっていた。
 急いで駆け寄ると、林立つ、狭くて小さな草原の中で。
 死んだように、眠っていた。

 「キールア!! どうしたんだよ!! ——おい返事しろ!!」

 そっと、頬に手を当ててみる。
 心臓に耳を傾けた彼は、驚いた。

 「……!」

 とくん……と、それは。
 あまりにも、小さすぎる心音。

 「な、んだよこれ……おいキールア!!」

 頬はまだ赤い。体温はある。
 然し、心音が、理不尽に遠ざかっていく。

 「レト!! キールアを見つけたのか!!?」
 「キールア!! しっかりしろよ、おい!!」
 「……キールアちゃん!?」
 「どうした事か……早く、連れて帰らねば……っ」

 駆け寄ってくる仲間の声も聞こえなかった。
 レトは込み上げてくる不安と共に。
 小さな小さな心音が、まるで時を止めてるみたいに。
 死んでも可笑しくはない状況で、心臓は動き続けていた。
 体中に漲る熱も、可笑しいとは思っていた。
 誰かが、その体に、命の灯をくれたのだろうか。
 弱り切ったキールアの表情は至って、苦しそうなものではなかった。
 単純に眠っている。安心し切って、体を自然に委ねている。
 それが、レトにとっては妙な違和感に感じ取れた。

 その一日。誰もキールアの傍を離れようとはしなかった。
 静かに鼓動を奏でる彼女は、依然として目を開けず。
 当然のように、痛々しい程体中も傷で溢れていた彼女は今全身包帯状態で。

 誰も口を開かず当然、何も言わず。
 細やかな息の音だけが、沈黙という名の空間を、静かに支配していた。

Re: 最強次元師!! ( No.987 )
日時: 2014/11/09 10:58
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: qsVr6ycu)

 第290次元 少女が見たもの

 自然の神であるグリンとの対戦から、約3日目の朝。
 キールア・シーホリーは激戦を終え、彼女の弱り切っていた体は目を覚ますように意識を取り戻した。
 晴れていく空みたいな、浮かんでふわふわとした雲みたいな。
 曖昧でマーブルな景色。起きて初めて熱を感じたのは、右手だけだった。

 「……れ、と……?」

 その手は暖かく、優しく。見守るように握られていた。
 固く強く、今まで築いてきた絆を見るように。
 レト以外には誰もいないのだろうか。人の気配はしなかった。
 自分の手をしっかり握ったまま、彼はベッドに傾れ込み幼い顔をしていた。

 「ごめんね……また、無理しちゃって」
 「……」
 「でももう大丈夫だよ……ねえ、レト」
 「……」
 「起きてない、よね……ごめん」
 「謝ったって許すかバーカ」

 突然の返事に、声も出せずにキールアは。
 むっくりと不機嫌を飾って顔を上げるレトとぱっちり目が合った。

 「ぬ……盗み聞きなんて、タチの悪い」
 「ボロ雑巾みたいな体で帰ってきたお前なんか心臓に悪い」
 「……ごめんってば」
 「無茶するな、なんてもう言わねーよ」

 つうか、言えない。
 続けるレトの言葉に、今までとは違う。
 幼馴染としてではなく英雄としての彼を見た気がした。

 「お前も俺も、認められた英雄だから、弱音なんて吐いて良い立場じゃない」
 「……うん」
 「人族皆の期待背負ってんだ。神と戦う覚悟がなきゃ」
 「分かってる……ごめん」
 「だから無茶するなら、俺の目の届く距離にしてくれ」
 「……え?」
 「あと、手な。言っとくけどこれは英雄としてじゃねえぞ」

 小さい頃から何度も何度も。
 家族を亡くした、誰もいない。守ってくれる人がいない少女に。
 俺が守ってやる。そう言い続けた少年がいる。
 数え切れない程守ってもらった過去がある。
 自分で言っておいて、ぽかんとしたキールアからなんとなく目を逸らすレトの。
 昔から何も変わらない。不器用で直球な、優しさが身に深く沁みていく。

 「キールアちゃん? 目を覚まし————っと、あらら……?」

 フェアリー・ロック。天女の如く麗しい声で。
 2人が現実に引き戻された。

 「お、お邪魔……だったかしら?」
 「「そんな事ありません!」」
 「否定したってダメよ。ほーら、手、手!」

 フェアリーが部屋に入ってきた時。一番初めに目に入ったのが。
 レトとキールアの手が、ベッドの上で優しく繋がれていた事。
 本人達も違和感なく。傍から見たら本物の恋人同士みたいに。
 慌てて2人とも、バッと手を離す。

 「もう……相変わらず仲が良いのね」
 「そういうんじゃないですから」
 「か、からかわないで下さいっ」
 「ふふ。キールアちゃん、体はもう大丈夫?」
 「あ、はい! すみません、迷惑かけちゃって……」
 「良いのよ。無事に帰ってきてくれたんだから……それに」
 「?」
 「その様子だと、手に入れたみたいね——“第二覚醒”」

 グリンと戦って生きて帰ってきた。
 彼女はアニルほど優しくはない。言っても、アニルも優しい訳ではないが。
 人を嫌い恨んできた、千年という時間は消えたりしない。
 然し確かに今、アニルやグリンの言葉に突き動かされ。
 レトヴェールとキールアは第二覚醒を手に入れた。
 グリンは特に感情を持たないが故に、人を殺す事に躊躇がない。
 殺しても心が動いたりはしない。
 そんな彼女が、英雄であるキールアと一戦交えても尚。
 危険因子にとどめも刺さず、殺す事をしなかったのは。

 それが、できなかった以外に理由はなかった。

 つまりは第二覚醒を持ったキールアに少しでも恐れをなした事。
 戦っても無駄だと、判断した事。それがキールアの現状から読み取れる。
 心の神であるフェアリーは、キールアの心の変化から、そう確信した。

 「何だか不思議な元力ね。百槍と、心の奥底から分かり合えてるみたいな」
 「え? わ、分かるんですか?」
 「……少しだけ、ね。レト君のもそうよ」
 「へえ……」
 「さて。キールアちゃんも起きた事だし……レト君は、修行に行ってきても良いわよ」
 「……。あ、じゃあ、キールアの事頼みます」
 「ええ。勿論よ」
 「キールア、お前は暫く動くんじゃねえぞ」
 「うん。分かった」
 「じゃ」

 レトは椅子から立ち上がって、部屋を後にする。
 遠ざかる足音を最後まで聞いていた。音も立てずゆっくりとしていた。
 少しでもキールアの体に響かせない為だろうか。
 何気ない優しさに、いつも助けられている。キールアは微かに笑う。

 「それにしても本当に良かったわ。皆凄く心配してたのよ?」
 「本当に、後で皆にお礼を言わなきゃ、ですよね……——あの、フェアリーさん」
 「? 何かしら」
 「どうして、レトを追い出したんですか」

 綺麗な笑顔は、ぱっと失われた。
 部屋の明かりを消すみたいに、忽然と。

 「私と、2人で話したい事でも?」
 「……」
 「……フェアリーさん、何か、隠してるんですか?」
 「違うの……言いだし、辛くて」
 「ロクの事ですか?」
 「!」
 「もしかしてフェアリーさんは、この世界で————ロクに会ったんですか?」

 鋭すぎる。心の神が、神でもない誰かに。
 見透かされている。
 金の瞳は揺らぐ事なく真っ直ぐに、神の目に刺さる

 「……そうよ」
 「どうしてですか!? 何でロクがいる事、言ってくれなかったんですか!!」
 「言ったでしょう、言い出し辛かったのだと」
 「ロクが神として、神族についていってしまった事を、私達が悔やんでいると?」
 「だって、貴方達は彼女と……!」
 「仲間です。幼馴染です。私の……私の大事な————“親友”なんです」

 悔やんでいるなんて事はないと、キールアは続けて言う。
 何故なら、心の底からロクアンズを信じているから。
 今までずっと隣にいてくれた、守ってくれた。
 レトと2人で、戦う後姿を。どれ程見てきたと思っているのですか、と。
 とうの昔に受け入れている。そう、ロクが自分の真実に気づく前のずっとずっと前に。
 レトとキールアは、ロクが神である事を知っていたのだから。

 「ロクが人であろうと神であろうと関係ありません。ロクはロクです」
 「落ち着いて聞いて。彼女は今、“ロクアンズ”ではないの」
 「!」
 「【FERRY】という————心の神なのよ」
 「そ、そんなの」
 「アニルやグリンを大使にして、彼女は貴方達を試している」
 「違う!」
 「違わないわ。彼女は、フェリーは————“ロクアンズ”を棄てたのよ」

 迷わないと言った、心の神は一体何を考えているのだろうか。
 分からないから心苦しい。お互いが心を読もうとして、力は相殺するばかりで。
 無邪気で無鉄砲だった、ロクアンズ・エポールはもう。
 元の世界にはいなくなってしまった。

 「……」
 「フェリーが貴方に掛けた力は、“迷命の園”と呼ばれる、治癒の魔法」
 「ち、治癒……?」
 「心の神の鼓動と、対象の鼓動をリンクさせる事で微かに心音を保たせるの」
 「それじゃあ……私」
 「不思議なくらいに心臓が動いていたのは、彼女の歌声のおかげ……って事よ」
 「……ロクアンズを、棄てたとしても……ロクはロクって事じゃないですか」
 「さあ。夢だったのかもしれないでしょう」
 「! フェアリーさん!!」
 「“迷命”、と言ったでしょう。それは神が持つ、夢幻の魔法とも呼ばれるものよ」

 彼女の実態はいつも不確かだ。思い出すだけで、心に時折。
 響くだけのシルエット。
 いつになったらまた、ロクアンズは戻ってくるのだろう。
 キールアの心と体だけが、彼女の歌声を覚えている。

 「夢——なんかじゃ……」

 体を抱えて、支えて。流れる黄緑の風が、優しく抱きしめてくれるみたいに。
 髪の色も、声も、その閉じた右目も。
 偽物だったというのだろうか。
 この世界にロクがいる。この場所に、失った筈の友がいるのに。
 届かない。
 キールアはそれ以上何も聞けず、何も言えなかった。

Re: 最強次元師!! ( No.988 )
日時: 2014/11/30 01:05
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: フライング更新!(※作者は期末試験中)

 第291次元 創造世界へ

 「なあ炎皇—第二覚醒ってどうやってやんだよー」

 (いちいち俺に聞くなよ……その質問何度目だー?)

 「出来そうで出来ないよなあ……ちくしょー!」

 相変わらず白いバンダナを頭に巻いて、ぴょこんと覗く紅い毛は目立つ。
 周りが緑や蒼といった自然に囲まれているせいだろう。
 この広い有次元の世界で、サボコロ・ミクシーは雄叫びをあげた。

 「お! 元魔はっけーん!!」

 (ちょサボコロ無暗につっ……)

 「第一次元発動————炎撃ィ!!」

 心の声を掻き消して炎は唸る。薙ぎ倒されていく自然の先で、元魔は炎に包まれた。
 最弱の一次元級といえどその威力は、元魔程の巨体を地面に倒し伏せるくらいに。

 「うっしゃあ!!」

 (ほどほどにな……、——!? サボコロ前見ろ!!)

 元魔の太くて大きい腕が、サボコロを潰すように空を覆う。
 ——刹那。

 「——ッ!!?」

 怪物の体は、無残に引き千切れ空を斬る。
 細い一閃は空を駆け、その一瞬。
 元魔の巨体が横にブレ伸びる景色だけが目にはっきりと映った。

 「……全く貴様は、命を落としたいのか阿呆」
 「へいへいそりゃ悪うございましたー」

 エン・ターケルド。弓術に長けた彼は、大樹の枝の上、器用に幹を掴んで立ちサボコロを見下ろして言う。
 相変わらずの涼しい顔を落として、エンは軽々と地面へ着地。

 「それでどうだ、第二覚醒の方は」
 「さっぱりだ! 正直キールアがどうやって第二覚醒したんだかも……」
 「フェアリーの言う事にまず、間違いはないだろうな。キールアに一体何故……」
 「ああー! 考えたって分かんねえ!!」
 「我武者羅な実践に、これ以上意味はないようにも————」

 ザッ、と。それは足を揃える音。土を削って奏でられるその音は、あまりに小さく。
 元魔ではないと確信した二人は、振り返る。

 「「——!!?」」

 それは、想像もしていなかった光景。


 「はは! そんな驚くなよ————まあお前らは初めましてだけどなあ?」


 明るい色のサングラス。頭を覆う、大きめのヘッドホンを静かに首に掛ける、彼。
 チャラチャラと笑う緩んだ顔は、確かにエンとサボコロの両者を見据えていて。
 この世界に人間はいない。そしてレトヴェールは、アニルという動物の神に出くわしている。
 つまり。

 「お、お前……!」
 「お? 俺の事知ってんのか意外だわー」
 「“世界の神”——————“ワルド”だろう?」

 嘗て、レトとロクの義兄妹が街中で遭遇し、初めて二人が倒した神族。
 それが世界の神【WOLD】——今正に目の前で飄々と立つ彼は、世界情勢を監視する神様の一人。
 一見人間臭い外見で、ゴッドや他の神族と一緒にいるよりは一人で放浪としている印象が強い彼。
 ワルドはヒューと一つ口笛を鳴らす。

 「アニルはレトヴェールに、グリンはキールアに……んで、次がお前らって事よ」
 「!? き、キールアとグリンが!?」
 「貴様、レトの話を聞いていなかったのか……キールアがグリンと戦り合っていたと」
 「瀕死状態らしいなあ? だいじょぶか?」
 「てめえらに心配される筋合いなんかねえよ!! 神族は引っ込んでろってんだ!!」
 「……生憎、下衆と語り合う口は持ち合わせていない」
 「厳しいねえー! 流石は“英雄様”方だ……ま、昔に比べりゃ変わったんでねーの?」
 「皮肉込めて言いやがって……やいやい! 俺達に何の用だってんだよ!!」
 「分かんねーの? ————“修行”だよ」

 アニルは、レトに修行に付き合ってやると言った。第二覚醒を完成させた、今でも。
 キールアはまだ目を覚まさないが、彼女も起きたらグリンとの修行を望むだろう。
 つまり、神族と。戦う事によって“第二覚醒”を得ているという事実は、覆らない。
 神族が人を、それも人族・次元師代表たる彼らに修行をつける、その意味を、


 「しゅ、修行って……!」
 「貴様らの目的は何だ? 俺達にそんな事をして、貴様らに何の得がある!」
 「怖い顔すんなよ“英雄”……好意は素直に受け取るもんだぜ?」
 「いまいち信用ならねーんだよ!! だってお前ら神族だろ!?」
 「ああ、神族さ……この世を統べる為に、俺達は存在する」
 「その“統べる事”の本当の意味が……人を制圧する事であろう?」
 「おっと……そこから先は“立ち入り禁止”だ————もし、どうしても知りてえんなら」

 ——突如、揺れる大地。

 「「!!?」」

 驚きを隠せない二人は、空に真っ直ぐ手を伸ばしたワルドに目を向ける。
 揺れたままの景色と、歪んだ彼の顔は今も尚笑っているように見えて。
 最後に、聞こえたのは。

 「俺の創った“世界”で——————“真実”を見つけだしてみろ!!」

 サングラスの奥に潜んだ鋭い目が——今、世界を反転させる。

 「「うわああああ!!」」

 歪んだ景色、見えた先に、笑う神はいた。
 恐ろしい程の笑みを孕んだその顔が見えたのも一瞬。
 二人は、何処までも堕ちてゆく。

 「……ふう」

 完全に英雄が見えなくなり、ワルドはたった一人で、その場に立ち尽くす。
 胸ポケットからタバコを取り出し、慣れた手つきでそれに火を灯した、次の瞬間。
 感嘆の声を漏らして、少女は長い髪と共に姿を現した。

 「やってるやってる」
 「……早速のお出ましかよ、【FERRY】」
 「どう? 二人とも」
 「ま、初対面だから色々気になるところだが……お手並み拝見さ」
 「決勝戦、見てたと思うけど……レトヴェールやキールアに、負けず劣らず、強いよ」
 「“元仲間”ってのは、贔屓目に見えちまうもんなのか?」
 「いや? ……ただ」
 「あ?」
 「……強くならなかったら、“処分”しても良いよ」
 「はっ……——承知の上だ」

 踵を返し、歌い奏でるように去る、妖精の。
 気丈なまでに美しい後姿を、ワルドは見ていた。

 (“処分しても良い”……か)

 風と共に消えた彼女に、届かないようにふっと。
 笑った。彼は、サングラスの奥の目を一瞬、瞬かせて。

 (————大層な自信、だな)

 彼の言葉は、誰にも届かずに消えた。



 (ん……っ)

 薄く開けた視界が霞んで、良く見えない。
 寝ていたのか、それも随分と。
 然し頭を打ってしまったのか後頭部は痛みを覚え、その反動で彼。
 サボコロは、むくっと起き上がった。

 「いってて……ここ、何処だ?」

 見回すと、そこは元の場所とは違うようだった。
 ただ景色は違わない。木々は立ち並び、低い草木が足元で揺れているのも分かる。
 唯一、違うのは。


 (気味が悪ぃな……————何で“夜”になってんだ?)


 それも、酷く気持ちの悪い夜だった。
 淡い緑の、深い蒼も交えていた筈の木々達は、“赤紫色”で。
 良く見えないがどの木の幹も、見事な“漆黒”を飾っているよう。
 元の場所だ。景色自体は変わらず、その色彩は酷い程に歪んでいる。
 ここは、一体何処なのだろうと。

 「おい炎皇、ここ、どうやら元の世界じゃねーみた……」

 突然の、違和感。
 何故だか、心にぽっかりと穴が開いているような、不思議な感覚が襲う。
 思わずぎゅっと心臓の辺りを掴むサボコロは、再び問いかける。

 「……? おい、炎皇?」

 何度名前を呼んでも返事はない。それに加え、妙な心の空洞。
 まさか、と核心に近づいた、次の瞬間。

 「……サボコロ?」

 草を踏み分けたような音。木の幹に手をついて、“少年”は現れた。
 振り返るサボコロは、言葉を失う。

 「……!?」
 「やっぱりサボコロだ! 探したんだぜ、サボコロー!!」

 声も知ってる。然し知っている声より、少し低い。
 そしてその顔にも見覚えがある。然し知っている顔より、少し大人びていた。
 赤茶の髪は無造作に跳ね、ぎゅうっとサボコロに抱き付く、少年は。

 「え、炎皇————!?」

 精霊ではない、炎皇の“本来の姿”が。
 そこにあった。サボコロは目を見開いて、体は固まったまま。
 喜びを表現する等身大の炎皇の、明るい声だけが闇夜を照らす。

 (ど、どうなってんだよ……!!)

Re: 最強次元師!! ( No.989 )
日時: 2014/12/07 10:37
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)

 第292次元 涸れた英雄は重なる

 (な、何だこれは……っ!?)

 鬱蒼とした、森の中はざわめきで溢れ。目の前にいる“彼ら”に、エン・ターケルドは。
 我だ我だとまるで人形。全てを振り切って迷いなく、駆け出した。
 考える、時間が欲しい。

 「——エン殿!」
 「!?」
 「こっちです——早く!!」

 体が本能的に、いつも通りその声に反応してしまう。
 影に身を潜め、恐る恐る声の方へ向くと。
 そこには何も変わらない、“顔”があった。



 等身大のそれは、無害な笑みでサボコロ・ミクシーへと向けられていた。
 自信に満ちたいつもの紅髪も、今は闇夜の下、濁った色を示している。
 普段の精霊サイズはどうした。デフォルメ化されていた、本来の次元。
 炎皇は、目の前で確かに存在している。

 「お、おおおお前……!」
 「へ? ああ、この姿の事か? 気にすんな! これが本当の姿さ」
 「本当の……姿ぁ?」
 「ああ。千年前の……“生前”の姿なんだよ」

 生前。つまり神と人、代表して次元師との全面戦争。
 第一次神人世界大戦までの、炎皇がまだ生きていた頃の姿だと言う。
 流石のサボコロもそこまでは理解できた。
 何せ炎皇含め他の英雄大六師達は、確かに千年前生きていた英雄。
 メルドルギース戦争において華々しい成績を残した彼らの、英雄時代がそこにあった。
 然しそれがどうして今、ここに現実となって現れるのか。
 生きている筈のない英雄が、いるのか。

 「俺も分からないんだけどさ、でもこんな嬉しい事ねえよ!」
 「? そ、そうなのか?」
 「だってサボコロに————この姿で会えたんだ!」

 精霊として、次元の力として。
 今までずっと傍にいた炎皇は、絶えなく笑う。
 身長はサボコロより少しだけ低め。当時の年齢は、15歳程だったと炎皇は言う。
 今となっては同じ目線で語り合える。地に足をつけて、近い場所に顔があって。
 それが嬉しい事なのだ、と。炎皇は実に無邪気だ。

 「さあサボコロ! 早く俺と次元の扉を開いて——“外”へ出ようぜ!!」
 「は……? そ、外?」
 「何だ知らねえのか? この世界から出るにゃあ次元の力と一緒に次元を開く事なんだぜ?」
 「はあ!? そ、それだけで出られんの!?」
 「ああ、だから俺と早————」

 暗がりの世界の中、サボコロの景色に、光が差した。
 それは良く知る————“熱い光”。


 「——“偽物”だ!! 騙されるなサボコロ!!」


 サボコロの傍にいた炎皇に、容赦なく“炎”は降り注ぐ。
 腕で覆い、たじろいだ炎皇が、空を睨んだ。
 向いたサボコロは、その目にする。

 「……は?」

 右手を突き出し、全身を微弱な炎が包む。
 急いで来たのか息も荒く、よっと捕まっていた木から降りると近づいてくる。
 その姿は、まるで。

 「え、ええええ炎……!!」
 「——サボコロから離れろ“偽物”、こいつの次元は俺だ!」
 「はっ……正義ぶっても意味ねえぜ? ————お前が“偽物”だ!!」


 ——炎皇に、良く似ていた。


 「え、炎皇お前……!」
 「騙されるなよ……俺が本物だ」
 「お前双子だったのかあ!?」
 「……相変わらずバカだな」
 「本当にな」
 「おいお前ら」

 声も、背も、顔もそうして全身が。
 似すぎている。鏡が挟まっているのかと疑う程に。
 “二人”の炎皇は、サボコロを中心に、互いを強く睨み合っていた。

 『はいはーい。仲良く殺し合ってるかー? お前ら』

 「「「!?」」」

 『世界創造主ことワルドだ。この世界について説明すんの忘れてたわー』

 ちゃらちゃらした口調に、間違いなくワルドだと判断を下すサボコロ。
 彼の声は遥か上空から響き降りてきた。
 確かにこれでは何が何だか分からない。次元の扉を開くだけで出られるとも言うし。
 加えて、その対象が二つに分かれているではないか。

 「やいやいやい! てめーこれどうなってんだよおい!!」
 『だから説明してやるって……よーく聞いとけよ? お前達がいるとこは俺が“創った”世界だ。元いた有次元の世界と外観は同じだが、ここから出るには幾つか条件があってだな』
 「次元の力を使って、扉を開く事だろ!? んなのはさっき炎皇から聞い——」
 『——ああ、“第二覚醒”を、な』
 「!? なッ!!」
 『そして今、お前ら二人の目の前には“複数”の次元の力がいる……当然、その中で一人だけ“本物の次元の力”がいる。そいつを探し出して、第二覚醒を成功させた時元の世界に帰れるって訳よ』
 「もし偽物の奴と次元を開いたら……どうなるんだ?」
 『偽物と次元を開いた場合……————“別世界”へ飛ばされるぜ』

 それは何もない世界だ。そう、強いていうなら魂の還る世界、“無次元”のような。
 加えて言う事には、その別世界からここへ戻ってくる事もましてや元の世界へ帰る事も出来ないと。
 ワルドは淡々と語る。静かに響く声に、恐怖さえ覚える。
 世界を創り出すワルドなりの——第二覚醒を得る為の“修行”が今正に。
 サボコロとエンの、景色に残酷さを連れて広がっていた。

 『それが嫌だったら本物見つけだして、見事第二覚醒をするんだな』
 「な、何だよそれ……おいワルド!!」
 『ああ因みに、偽物とも本物とも第一覚醒なら出来るからな。上手く活用してくれや。それと次元の力偽物本物含め全員にゃ俺が施した“核”が備わってる。偽物を虱潰してくのも良いんじゃね?』
 「それ本物だったらやべえんじゃ……!! っておいワルド!!」
 『文句は受け付けねえ、制限時間はそうだな……俺はグリン程辛くねえ——“100”時間だ』
 「ひゃ、100時間って……何日だ」
 『はは! 安心しろ、真っ白な月が見えるだろ? あれは時間が経つにつれ徐々に光を失って……つまり“欠けていく”んだよ、それを見りゃあ良い————って事で俺からは以上だ』
 「はあ!? 訳分かんねえし!! つか降りて普通に戦えよコラァ!!」
 『暴れる暇はねえぜ“英雄共”————グッドラック、幸運祈るぜ』

 そこから声は聞こえなくなった。虚空を見つめたままだったサボコロは、視線を落とす。
 目の前には二人の炎皇。本物と、第二覚醒をしなければ。
 二度と帰っては来れない。

 「そ、んなの……っくそ!!」
 「サボコロ、分かっただろ? 俺と第二覚醒を——」
 「ふざけるな! 偽物は引っ込んで——!!」

 次の瞬間。サボコロと、取り巻く二体の、炎皇の周りに。
 沸き立つ——“轟炎”。


 「サボコロ————迎えにきたぜ!!」


 炎の先にいたのは、もう一人の。
 見慣れたツンツン頭の、赤い髪が炎と揺れた。
 全く同じ容姿。同じ声を同じ様に轟かせて。
 “三人目”の————炎皇がいた。

 「また……!」
 「くそ! これじゃあサボコロと第二覚醒出来ねえ!!」
 「炎皇……」
 「俺だサボコロ! 俺の手を取れ!」
 「いいや俺だ! ——サボコロ!!」
 「う……うわああ!!」

 サボコロは、走り出した。
 足は何処となく、目的地もなくただその場から遠く、より遠くへ。
 複数の炎皇の中から本物を見つけ出し更にはやった事のない第二覚醒を成功させなければならない。
 考えるのが究極に苦手なサボコロは、そこで放棄し。
 目の前に、在らぬ事実に、驚愕する。

 「ぁ……あ……っ」
 「——! サボコロ!! お前こんなところにいたのか!?」

 明るい表情が今となっては、厳しい現実だった。
 離れてきた筈。必死に走って逃げてきた筈なのに。
 笑う炎皇の無邪気さに、吐き気すら覚えた。

 「く、来んな!!」
 「! な、なんだよ……偽物だと、思ってんのか?」
 「だ、だってお前……!!」
 「「「————傷つくなあ、サボコロ」」」

 何重奏もの、それは一斉に奏でられた。
 調和だ。一寸の狂いもない声の、調和は。
 折り重なって——紅い少年に、恐怖を植え付けた。


 「「「「「俺達は————仲間だろ?」」」」」


 何体、何十体。下手をしたらそれ以上の。
 暗闇の中残酷に映える、その赤さが今は。
 心臓が、急速で涸れていく音。

 「な、ぁ……う、うわああ——!!」

 一体何処まで逃げれば良い。何処まで走れば良い。
 何処へ行けば、“炎皇”に。
 今まで苦楽を共にしてきた“英雄に”————出会う事が、出来るのかと。

 少年にとっては今までにない恐怖だった。心に空いた静寂が。
 こんなにも憎らしい。
 汗を振り切って、黒い地面に差す滴。
 サボコロは人生で最高かというくらいの、全速力で風を切る。


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