コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
- 日時: 2015/03/15 09:40
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/
運命に抗う、義兄妹の戦記。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
基本毎週日曜日に更新!
※追記
実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
とってものんびりと、更新する予定です。
Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
イラストとか宣伝とかを呟いてます!
※注意事項
・荒らし・中傷はお控え下さい。
・チェンメなんかもお断りしてます。
●目次
prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071
第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274
第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417
第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508
第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623
第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772
第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858
第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908
第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964
第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997
※第301次元〜は新スレにて連載予定
●おまけもの●
●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58
●番外編
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944
●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460
●キャラ絵(複数)
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737
☆奏様には毎度ご感謝しております!!
すごく似ていて、イメージ通りです
キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙
●お知らせなど
* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998
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- Re: 最強次元師!! ( No.900 )
- 日時: 2013/03/24 17:19
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
>>そらモ
えーっとあれです。
正直今一瞬だけ心臓止まったかと思いますた。
本当に久しぶりだね! 物凄い勢いでびっくりした!!←
お互い受験終わったねー。私も春から高校生((((ドヤ
今日制服届いたという^q^
ありがとうーっ!!
あの時は本当に信じられなくて一人で挙動不審になってた←←
3年くらい前から書いてるから、とっても恥ずかしいけど……。
ちょww冬眠てwww
そうなんだー……。
もしできたら速攻で遊びに行く!!
……じゃなかった……読みに行く!!!(笑)
じゃ、今から更新するのでっ!
- Re: 最強次元師!! ( No.901 )
- 日時: 2013/04/02 11:18
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第233次元 “2人”を追って
幼い頃の、義兄妹。
まだ次元技も使い慣れていない2人は師匠について行った為、キールアは一人取り残された。
僅か1年足らずで戻ってきた2人は、蛇梅隊に入隊したいと言った。
2人を引き止められないキールアは唯、2人を見送った。
そうしてどうだろう。
一度だけ、レイチェルで元魔が出現した時があった。
蛇梅隊の隊服を着た2人は、自分の前に立って戦ってくれた。
その時、どれほどその背中を大きいと感じたのだろう。
まだ子供だった頃の2人とは訳が違う。
洗練された動き、多様な技術、身のこなし。
少し見ない間に、2人は心も力も強くなっていたのだった。
本当の意味で、次元技と強く深く結ばれた2人になっていた。
キールアはその時から、2人に負い目を感じていたのかもしれない。
当たり前だが、自分より全然強く逞しいレトとロク。
昔からずっと一緒だったのが、幼馴染なのが、嘘みたいに。
まるで別人のように、キールアの瞳には映っていた。
いつか2人の隣を歩きたいと願った。
それが例え無理でも、可能性なんかなくても。
(……————キールア?)
アシュラン・チームとの戦いを控えた前夜。
キールアは、冷たい廊下を一人歩いていた。
眠れないのか、他の男子3人を部屋で寝かせたまま。
そうしてぴたりと足を止めたところで、心の中で声が響いた。
「どうしたの? 早く寝ないと、明日まともに戦えないわよ」
ぽんっ、という音が鳴ったかと思ったら、目の前に百槍がいた。
千年前の英雄。たった一本の槍で戦国の時代を生き抜いた少女。
百槍は、少し首を傾げた。
「ごめん……すぐ寝るよ」
「……何かあったの? 相談になら乗るけれど」
キールアは、壁に手をつく。
そしてくるりとまわって、壁にとんと背を任せた。
凭れる彼女の目が、少しだけ細くなる。
「私ね……自信がないの」
自然と、口から漏れた言葉。
それは決して冗談ではなかった。
キールアは話を続ける。
「勝てる自信、じゃなくて……次元師として、やっていける自信」
「……」
「元々戦いとか向いてないの……分かってるんだ……」
その手で、人々の命を救ってきた。
親の姿に、自分の先祖の姿にずっと憧れてきた。
医師として、人々を救う為の存在として今まで生きてきた自分が、
まさか自ら人を傷つける事になるとは、思ってもいなかった。
「レトも、サボコロも、エンも……ロクも……皆、あんなに強いのに……」
「……キールア……」
「私……皆と一緒に戦える自信……ないの……」
迷惑ばかりかけているような気さえした。
途中で元力を失って、皆に心配かけて。
サボコロとエンに頼って、最後の最後でまた、レトに頼って。
いつになっても弱いままの自分が嫌で嫌で、仕方がなかった。
キールアは、そう語る。
「……」
「百槍も……呆れる、よね……こんな私……」
少しだけ笑って見せたキールアの瞳は、笑っていなかった。
苦しくて悲しくて、今にでも溢れ出る涙を必死に堪えているような。
そんな、瞳。
「そうね……——————呆れるわ」
百槍の冷たく鋭い言葉が、キールアに突き刺さる。
百槍は眉毛一つ動かさない。唯、口を開く。
「今の貴方には……分からないでしょうね」
「……えっ?」
「貴方が気付いていなくても————————私はずっと貴方を見てきたのよ」
心の中から、ひっそりと。
キールアが百槍の存在に気付く事がなくても、
百槍はずっと、ずっと。今までずっと。
キールアの心の中から彼女を見守ってきた。
「諦めるのは、戦ってからにしなさい」
そう言った百槍はすっと消える。
キールアは体を起こす。
一瞬動きを止めると、また歩き出した。
冷たい廊下を、少女が往く。
昨日の会話が鮮明に思い出される。
兎破の牙を、刃を、その槍で抑えながら。
槍が重たく非情なまでにキールアに乗りかかる。
今まで皆が味わってきた苦しみの分、彼女の上に。
「……ぐ、……ッ!!」
ずしんとまた重力がかかった。
銀の槍が震える。
不安定な心の上で、不安定になる腕の力。
キールアの白い腕が、ぎゅっと槍を掴む。
『諦めるのは、戦ってからにしなさい』
百槍の言葉が脳裏に過ぎた瞬間、
キールアの腕に、更に力が加わった。
「第六次元発動————————」
小さな声が、
大きな思いを紡ぐ。
「————————戯旋風ッ!!!!」
ガキン!! と響いたのと同時。
自分をも巻き込んだそれの衝撃で、兎破もキールアも全くの別方向に吹き飛んだ。
戯旋風の衝撃を利用して、兎破を弾いたのだ。
「第七次元発動————————紅刃ッ!!!!」
煙の中から飛び出した兎破の手から、鋭く太い爪が伸びた。
紅みを帯びたそれが、キールアを襲う。
「ぐ……————はァッ!!」
紅い爪が弾かれる。
大きく仰け反った兎破の腹部が空く。
キールアは槍を地面に突き刺し、体を浮かせた。
「はァァ——————ッ!!!!」
槍を利用しぐるんと回ったキールアの足が、兎破を蹴飛ばした。
前方へ飛んだ筈の兎破は空中で一回転し、その衝撃を使って全く逆の方向へ。
つまり、キールアの許へ跳ぶ。
兎破が、大きく振りかぶる。
「キャァァ————————ッ!!!」
兎破の高い鳴き声が耳を過ぎた時、キールアは槍だけで防ぎきれず少しだけ浮いた。
頬に、小さな傷が入った。
そこから僅かな血が垂れる。キールアはもう一度回って槍をぐるんと振り回す。
彼女も兎破も、一度も動きを止めなかった。
激しい攻防戦に、レトの表情も苦しくなっていく。
「何で、あんな……」
「……え?」
「キールアの奴……やっぱりおかしい……」
ミルは、もう一度下を見る。
跳び回る兎破と、走り続け槍を振り回す少女の姿が瞳に映った。
心優しいキールアだった筈が、あんなにも戦う者の表情を露にする。
本当に本当の、次元師のような。
(キールア、ちゃん……?)
ミルの頬に一筋の汗が伝う。
すうっと零れたそれは、やがて地面に吸い込まれるようにして落ちた。
息を、呑み込む。
「あーあ……あんなに頑張っちゃってー……」
一人、戦わない少女はそう呟く。
つまらない。皆皆、一生懸命で馬鹿らしい。
そう、その表情が訴える。
——————————然し。
(————————ッ!!?)
一瞬、自分の心が、寒気を帯びた。
妙な殺気。ぬるい風が、何故か冷たい。
リランは、振り返った。
「第七次元発動————————」
それは、たったの一瞬だった。
「————————、一閃ッ!!!!!」
リランの瞳に突き刺さった槍の先。
リランの心に突き刺さった、彼女の瞳。
(————————ッ!!!?)
全てが、残酷な色に染まっていた。
- Re: 最強次元師!! ( No.902 )
- 日時: 2013/03/26 20:41
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第234次元 不屈の心、不屈の想いを
キールア・シーホリーの瞳が強く輝いた時には、既に遅かった。
兎使いのリラン・ジェミニーの腹部に大きく槍が突き刺さる。
その衝撃と共に地面で這うように勢いよく滑った。
転がる彼女の体が、震えた。
(い、今のは……——————!?)
ほんの数秒前の映像が綺麗に思い出される。
殺気を感じ振り向くと、そこには金髪の少女がいた。
恐ろしく光ったあの瞳が、深く彼女の心に刻まれていて。
そしてゆっくりと体を起こす。
「……」
キールアは槍を片手に歩いていた。
一歩一歩確実に。例えるなら、鬼が子供を追い詰めるように。
リランは少しだけ目を細めた。
(さっきのは——————気の、せい……?)
彼女は後方で転がる兎破の許へ走る。
速さを変えず歩くキールア。
何よりその姿は、恐ろしく綺麗だった。
リランは傷ついた兎破を優しく撫でた。
白い毛並みが揺れる。兎破を撫でていた彼女の手の動きが止まった。
「凄いね……あたし、怒っちゃった」
「……?」
「やっぱ君は————————全力で倒す事にするよ」
途端に、嫌な風が吹いた。
ぶわりとキールアの髪で遊ぶそれは、リランのフードをも脱がす。
リランの口元が歪む。
「第八次元発動————————」
小さな声をあげた時、
選手席に座っていたロティ・アシュランが驚いた。
まさか、と言葉を紡ぐ。
「————————兎装ッ!!!!」
リランの大きな声が、会場を圧倒した瞬間だった。
(あいつ……——————本気であの女を殺す気かよ)
ロティはふっと笑った。
そして終わったなと、続ける。
リランの隣にいた兎破の姿が薄くなり、白い気のようなものがリランを取り巻いた。
まるで水蒸気をその身に纏う様に。
「————っ!?」
兎破が消えると同時。
リランの頭にぴょこんと耳が生え、加えて手や足に兎の手足のようなものが付いた。
最後に、頬から数本の長い髭が伸びる。
兎の格好させたような、そんなリランの姿に、キールアは声が出なかった。
例えるなら兎の格好をした可愛い少女のようだが、
隣の兎破が消えたところを見ると、唯のコスプレではなさそうだ。
人間と兎を足して二で割ったような、そんな姿。
「さぁー……始めようっ?」
ぐらり、と、一瞬だけ景色が歪む。
キールアは片足を浮かして前のめりになる。
と、その時。
「———————ッ!?」
遥か前方にいたはずのリランが、目の前にいた。
「きゃぁ——————ッ!!」
リランの白くてふわふわした兎の爪が、キールアの頬を切り裂く。
思わず体が後ろへ飛び、尻もちをついた彼女の首に、爪が突きつけられた。
キールアが震える。爪が少しだけ動き、首から血が溢れた。
「あはは……! そーっれっ!!」
思い切って、リランがその位置から振り下ろす。
キールアの首から血が舞った。
彼女は下半身に力を入れて、
「う……りゃぁ————ッ!!!!」
そのまま一回転するように、足でリランの腹部を蹴り上げた。
キールアは流れに沿って後方に綺麗に滑った。
蹴り上げられたリランも地面に爪を立てて同じように滑る。
2人の呼吸が、ぴったりと重なった。
「ぴょーっん————————っとォッ!!!!」
たった一度足に力を加えただけで、跳ねるようにキールアの許へ跳ぶリラン。
そのジャンプ力も並ではなく、ただの人間がひとっ跳びで跳べる距離ではなかった。
キールアが驚くのと同時、リランの爪が大地に突き刺さり、大理石のようなものが砕けた。
キールアが咄嗟に避けるのと、リランが笑うのはほぼ同時。
リランの爪が、キールアの体を裂くように薙ぎ払われた。
「う、く……————ッ」
閉じていた黒いコートが開く。
大きく舞う中、キールアはもう一度回って避け、爪を伸ばすリランに対し槍で対抗した。
金属音が鳴り響き、キールアの槍もリランの爪も、カタカタと揺れた。
「あたし、負けられないん、だよ……ッ!!」
「……わ、たし……だ、って……!!」
銀の槍も白い爪も、揺れるだけでそこから動かない。
双方が力を加え、少しだけ火花が散った。
負けられないと、そう瞳が訴える。
「————————とりゃァッ!!!」
「————————!!!?」
華麗に一回転。
リランの蹴り上げた足がキールアの腹部に命中した。
大きく仰け反ったキールアがボロ雑巾のように勢いよく転がり回った。
けほけほと、咳を吐く。
体から力が抜けていくように、全身に力が入っていかない。
キールアの口から、血が吐き出される。
「う、ぁ……がッ!」
「おっもしろいねーっ? まぁ初心者にしてはよくやったんじゃないのー?」
リランの可愛らしい声が届く。
キールアの視線には、そんな彼女の足が映った。
堂々とした足取りが、その瞳に焼きつく。
霞む視界の奥に、リランが立つ。
「そろそろ限界でしょ? 君、体力なさそうだもんねっ?」
「……ぁ、……はぁ……っ」
リランはしゃがむ。キールアの苦しげな顔を見て、卑しく笑みを浮かべて。
彼女は、口を開く。
「ねぇ、向いてないんじゃないの? ————————次元師の、戦いに」
キールアの心臓が跳ね上がった。
彼女の放ったたった一言で。
向いていない。そういった彼女の声がキールアの頭の中で反芻する。
吐き出した血が、急に恐ろしく、見えた。
「一回戦から思ってたんだよねぇ。あれはよくやった方だけど……所詮付け焼き刃でさ」
「…………」
「そろそろ気付けよ——————————、“格が違う”ってさ」
冷たく鋭く、尖った言葉が発せられた。
元々戦闘に向いてないキールアと、戦闘センス抜群の経験者、リラン。
リランだけと限らず、参加した次元師達は皆そうであっただろう。
皆皆、戦いに慣れている手練ばかりで、正直焦りもあった。
自分で本当に良いのか、と。
キールアの中にはいつも不安があった。ただそれを、レト達に言えなかっただけ。
怒られるのが、責められるのが、怖くて。
彼女は呼吸を繰り返す。荒い息を何度も吐いた。
と、その時。
(——————————キールア!!!!)
彼女の心の中で、大きく誰かが声を張り上げた。
凛とした大人びた声。声の主は、キールアがあまり聞き慣れない声だった。
(もう、やめていい…………諦めていいの、キールア)
「……」
(あんたは頑張った……だから、これ以上はやめて————————!!!!)
地べたに這う、キールア。
彼女は何も答えなかった。
ただ、百槍の泣きそうな声が、響いていただけ。
然しキールアは……優しく笑みを浮かべて。
「はは……優しい、ね……百槍……」
(……——————!!?)
「私ね……貴方ともっと……繋がっていたい、んだ————————」
戦闘に向いていないのも、優しいキールアにそれは無理なのも。
自分自身、分かっていた。
ただ、そう。彼女はただ。
「それに……貴方の、あの言葉——————————信じてみたいの」
百槍という一人の存在と歩いていきたい。
百槍という少女の言葉を信じていきたい。
たった、それだけの願い。
(…………キール、ア————————)
百槍の小さな声。それはきっと、キールアには届かなかった。
ただキールアのひとりごとを聞いていたリランは途端に微笑み出した。
「良く分かんないけど……。あたし、楽しかったよっ!」
「…………」
「だから次は——————————地獄で会おうねっ?」
リランの腕が持ち上がる。
キールアが未だ顔を上げない。
兎の少女は、その白い腕を、振り下ろす。
ぶん、と————————————音が響いた。
- Re: 最強次元師!! ( No.903 )
- 日時: 2013/03/27 10:57
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第235次元 砕かれた力と想い
————————————然し。
「————————————ッ!!!?」
もう既に全身が悲鳴を上げていた。
体力もない。握力も、根気も。
次元師として足りないものが多すぎて、ありすぎて。
それがどれだけ彼女にとって重荷になっていたのだろう。
ただ彼女は、幼馴染の背中を追っていただけ。
ただあの後ろ姿に——————————憧れていただけだった。
「な、ん……————————ッ!!!」
銀の槍の奥には
鋭く光る、淡い眼光。
金髪の少女は力の入っていない腕で——————————銀の槍を掴んでいた。
「言、った……でしょう……————————?」
「…………ッ!!!」
「“負けられない”……——————————ってッ!!!!!」
またあの鈍い瞳が——————————リランに突き刺さった瞬間だった。
力が入って、銀の槍が揺れて、白い爪が弾かれて。
そう、刹那の時間がゆっくりと時を刻む。
瞬く間に、呼吸をするのも忘れてしまう程一瞬の間で。
キールアはその槍で力強く空を斬る。
諦めない心。全ての力を今この瞬間の全てに賭ける彼女。
その気高き姿があまりに綺麗で。
その気丈な姿があまりに繊細で。
この会場にいた全員がその儚く美しい姿に心を奪われた瞬間だった。
それは選手席にいたあのロティ・アシュランも同じ。
彼女の全身が、震え上がる。
(う、嘘だろ……あのリランの兎装が——————————ッ!!?)
先程の一撃から、景色が一瞬にして変わった。
防戦一方だったキールアの瞳が、姿が、先程までとは違う。
第一試合のエンの姿を連想させるその光景に、誰もが絶句した。
リランの方が、押されているように見えるのだから。
「……“向いてない”なん、て……知ってるよそんな事!!!」
「——————ッ!!」
「戦闘とか大嫌いだもん!! 誰かを傷つけるなんて——————本当はしたくない!!!!」
キールアの持つ百槍が、リランの腕を豪快に振り払った。
弾き飛ばされるリランは一度転がったが、また跳ね上がる。
キールアは迫り来る爪に即座に反応し、槍で抑えた。
弾かれても尚、リランは足や手、爪、全身でキールアに襲い掛かる。
「でも私————————諦めるのだけは嫌なんだよ!!!!」
また、リランが引き剥がされた。
何度食いついても、何度も弾き跳ばされる。
鉄壁の守り。そして反応の速さ。
それは次元技を手にして間もない次元師の動きではなかった。
「届かないって、分かってる……——————でも、諦めたくない!!!!」
「ッ!!?」
「絶対——————————限界なんて自分で決めない!!!!」
キールアの槍が空を舞う。
彼女の身のこなし。ここに来て火がついたように加速する力。
リランは自分を守る事に精一杯で、手を出す事ができなかった。
いや、手を出す暇さえ、なかった。
「“諦めるのは”——————————」
キールアが地面を蹴り上げる。
綺麗に高く空を舞う彼女は、百槍を地面に向けた。
リランが、咄嗟に空を見上げる。
「——————————“戦ってから”よ!!!!!」
大地が大きく揺れ、地面が割れる。
激しい衝撃に、リランは対応しきれず吹き飛んだ。
キールアの眩しい程の情熱が、リランをここまで追い込んだ。
次元師が最も頼り恐れる矛盾の力。
眩しく光る心の力が、今ここで証される。
「そう……百槍は言ってくれた」
キールアの口調が、急に穏やかになった。
昨日、百槍に言われた言葉。
最後に放った彼女の言葉が、ずっとキールアの胸の中で痞えていた。
冷たいように見えて優しい彼女の言葉が、態度が、やっと分かったような気がしたのだ。
そうして今やっと、百槍と繋がれた。
「いくよ百槍……必ず勝ちにいこう」
(——————ったく……)
貴方と繋がりたい。
その言葉が、百槍の全身に伝わった。
彼女らの間に、最早壁も不安も存在しない。
この時リランには、勝てる気というものがなかった。
生物型次元技な為、一般の次元師よりかは次元技と深く繋がれる。
然し相手は言葉を喋る元霊で、見たところ本当に信頼し合っている。
絶望という言葉を、初めて知るような気持ちだった。
リランは力なくふらりと立ち上がる。
(まずい……————リランが、負ける)
選手席のロティ。
彼女は足を組んで、苦しい表情でそう思った。
キールアを前に、戦意を喪失しているのが目に映る。
このままでは負ける。想いの強さで、執念深さで、負ける。
ロティは組んでいた足を、解いた。
「これで……——————本当に終わりにしよう」
「っ!?」
キールアは、瓦礫の山を往く。
銀の槍を片手に、威風堂々と足跡をそこに残す。
彼女の眼光が、再びリランの心を射抜いた瞬間。
「第七次元発動——————————ッ!!!!!」
大地に轟く声。リランの全身に響き渡る怒号。
この時敗北を感じたのは————————リランだけではなかった。
「滅紫——————————烈衝!!!!!」
キールアが槍を振り上げる。
大地に突き刺さる銀の槍。
空間が一瞬だけ、歪んだ時。
パキン、と。
キールアの腕にあった力が、そんな音と共に全て抜け落ちた。
リランはその時既に気絶していて、
急に力を失ったキールアも、崩れるようにして倒れた。
誰もがその時驚きの表情を隠せず。
そう。
たった一人の女性だけが微笑んでいた事に——————————微塵も気付かずに。
「な、なん……だ——————?」
レトヴェールも目を見開いたまま動かなかった。
体に半分ブレーキがかかったように、ぴくりとも動かない。
会場には倒れている2人。
さっき、キールアは確実に勝てる瞬間だったのに。
不自然にも、彼女は急に倒れた。
その事実がどうにも受け止められず、時が止まったように観客席も静まり返っていた。
『え、えーっと……? これはどういう事でしょう……?』
アナウンスもおろおろとし始め、その奥で審査を抗議していた。
急に倒れた少女2人。片方は気絶だろうが、片方のキールアはあまりに不自然で。
そんな事をあれこれ考えているうちに、マイクテストの声が響く。
『えー、ただいまの結果を————————————“引き分け”とします!!!!』
そう、会場中に響き渡ったとき。
誰もがブーイングをし始めてレトヴェールさえも手に汗を握ってぐるんと振り返る。
今彼は、今の試合を引き分けと、そう言い放ったのだから。
「待てよ!! じゃあどうやって勝敗決めんだよ!!!!」
「そうだそうだァ!!! 次にアシュランの方が勝ったらどうするつもりだおい!!!!」
「何とか言えよ運営!!!!」
怒りに震え上がる観客達を見る間もなく、レトヴェールはふらっと席に座った。
引き分け。引き分け。では本当に次負けたらどうなるというのだ。
アナウンスは申し訳なさそうに小さな声を絞り出す。
『次にアシュランチームが勝った場合————————両チームにはもう一度試合を行ってもらいます!!!』
「「「「「——————————ッ!!!?」」」」」
『その場合は選手ランダム形式にし————————4人のうち1人が代表として最終戦に臨んでもらいます!!!!』
- Re: 最強次元師!! ( No.904 )
- 日時: 2013/04/06 10:40
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
第236次元 主将対決、レト対ロティ
信じられない声が、事実が、レトの脳内で繰り返された。
つまり、次の試合に負けてしまった場合。
ボロボロで動けないエン、サボコロ、そして元力的に不利なキールア。
加えて次の試合で更に戦えない状態になるであろうレトのうち誰かがもう一度試合する事になる。
それは向こうも条件は同じだが、あまりに酷すぎるのではないだろうか。
死ぬ気で、出せる全力をぶつけ叩き出して戦ったのに。
もう一度試合をするという事は、自殺行為に近い状態になる。
そんな事をしたら、死んでしまう者もきっと出てくる。
生死に関わるデスマッチ。レトはそれを、決して認めたくはなかった。
彼は強く拳を握る。隣にいたミルが、震えながらそれを見ていた。
そしてまた、放送が響く。
「それでは第3試合————————レトヴェール・エポール対ロティ・アシュラン!!!!」
レトは振り返った。
担架で運ばれていくキールアの姿が見える。
傷ついて、ボロボロになって、そんな体で何度も立ち上がって。
彼はふっとキールアから視線を外し、奥歯を噛み締めた。
彼は、一度そこで止まった。
「れ、レト……?」
「……ミル……俺」
「……っ?」
「必ず証明する————————、お前の強さも、ハルって奴への想いも」
そうして、力強く歩き出す。
静かな声、落ち着いた口調。
ミルはただそんな彼の背中を目で追う。
ああ、あれがレトヴェール・エポールという一人の人間なのだ。
何故かその後ろ姿が、あの義妹と重なった。
「へぇー……? お前、ミルと知り合いなのかよ?」
綺麗な足取りと、余裕のある男性口調を重ねて彼女は現れた。
長身にだぼだぼした服装の彼女。
レトより少し高めのロティは、遠くにいるレトを見つめる。
「にしてもあいつよえーよなぁっ? マジでちょっと期待外れだったわ」
「……」
「あれで蛇梅隊? だっけかぁ? で有名な次元師……ねぇ」
彼女は笑い飛ばすように、嘲笑うように。
ミルの心の奥底に、言葉を突き刺すように言い放つ。
「大した事ねぇなぁ——————————蛇梅隊って奴もよォッ!!!!」
ビクン——————ッ!!、と。
レトヴェールの体が、心が、無意識に反応する。
彼の心臓が、忙しく脈を打つ。
「……おい」
いつもより低い声。凍える声。
レトは一歩、踏み出した。
「……はァ?」
「てめえなんかにゃ絶対分かんねえよ」
「……?」
「俺達がどれだけ戦ってきたか、どれだけ涙流してきたか————————」
たった一瞬だけ。
時が、止まる。
「どれだけ“自分”と————————————向き合い戦ってきたかァッ!!!!!」
レトは双剣を思い切り横へ薙ぎ払った。
空間が、斬り裂かれる。
たったの一太刀で、ロティは激しい衝撃に巻き込まれ吹き飛んだ。
一直線場に、ブレる事もなく綺麗に前方へ向かう彼女。
景色の全てを砕くように、激しい打撃音が轟く。
痛さも苦しさも、その速さも感じる事なく、ただ気付けば瓦礫の中にいた。
激しく舞う土埃の中で、苦しく笑う。
「……っ、へぇ……やるじゃん、少年」
会場にいた誰もが絶句する。
ミルも当然驚き、その場から暫し動けなかった。
一発目で、あのロティを吹き飛ばした。
空間を斬り、その衝撃だけで彼女を。
思い出しただけで、小さな震えが止まらない。
「あんたに教えてやるよ——————————俺達の強さを!!!!」
「へぇ……————————そいつぁ面白えッ!!!!」
ドン——————ッ!!!と、空間を気の波が伝う。
2人ともいつの間にか戦闘態勢に入っていて、お互いの力をぶつけ合う。
ロティは踊るようにレトの攻撃を避け、レトは避ける間を与える事なく剣を振るった。
矛盾の勝負。どちらも攻撃している、どちらも避けている。
然しどちらの体にも、傷はつかない。
「第六次元発動——————————十字斬りィィッ!!!!」
剣を重ね、外側に思い切って振り払う。
描かれた十字の真空波が、空間を伝う。
然し。
「————————……え……っ!!?」
真空波は、ロティの体に当たる直前で、砕け散った。
何か固いものにぶつかって割れるように、真空波は跡形もなく風に流れる。
ロティの表情から笑みは消えない。
「おいおいそれだけか? 武器型なんだからもうちょっと楽しませろよ?」
「……?」
「じゃねーとあたしに——————————勝てねえよ!!!!!」
ロティが足に力を入れて加速したのは刹那の間。
気付けばレトの腹部には蹴りが入り、レトもまた遥か後方にある壁へとぶち当たった。
もの凄い速さで、もの凄い威力で。
レトの腹部に痛みが残る。少しだけ血を吐き捨てた。
彼は、立ち上がる。
「見せてやるよあたしの力——————————、第八次元発動!!!!」
ロティがそう叫び、レトは不安定な体を起こす。
「——————————心操!!!!」
ほんの刹那の間。
彼女の声に応えるように、大地が、空が、小さく揺れた。
それは本当に一瞬で、観客は殆ど気付かないまま。
レトは会場で唯一人、その微妙な震えに感づく。
然しロティは変わらぬまま微笑んでいて、
可笑しいと思っているのが、自分だけのようで。
レトはただ、もう一度双斬をその手にした。
「さぁ——————————遊んでやるよ、少年」
妙に自身ありげに微笑む彼女。
レトは一歩、ギュン、と足に力を入れる。
そして。
「第七次元発動————————十字斬りィィッ!!!!」
大地を蹴り上げたレトは、加速し、派手に双斬を振り払った。
横一文字で、十字を斬るように。
真っ白な真空波が、ロティ目掛けて地面を駆ける。
「だから言ったじゃん————————」
然し。
「————————んなんじゃ勝てねえって!!!!」
真空波は、またしても砕け散った。
バラバラと、音を立てて崩れる欠片。
ガラスの破片のように、それは割れるような音を奏でて消え去った。
レトはもう一度驚きの表情を作り上げる。
どうして、効かないのだと。
「学ぼうぜ? 少年。仮にも代表者候補だろ?」
「……く……ッ」
「さて……——————今度はこっちの番だぜ!!!!」
ロティは駆け出した。
そして右手を開き、ふっと横へ、空気を薙ぎ払う。
そして。
「————————ッ!!?」
床にあった、大きな岩の破片が、浮かんだ。
「うぁぁ————————ッ!!!!」
咄嗟に腕で身を守るが、その衝撃は強くレトは突き飛ばされた。
岩が物凄い速さでレトの懐に飛び込んできた。
まるでおもちゃのように、自在に方向まで操って。
ロティは、右手で面白そうに岩を宙に浮かべていた。
ふわふわと遊ばせるそれは、残酷非道な岩の塊だけれど。
レトは掠れる視界の中で、その岩を睨んでいた。
「お前はもう逃げられねえーよ、レトヴェール」
男口調で、すらっとした体。
ロティの楽しそうな姿を、
レトの苦しそうな姿を、
ミル・アシュランは、ただ眺めていた。
自分の体が、無意識に震えているのにも気付かずに。
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