コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
日時: 2015/03/15 09:40
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 基本毎週日曜日に更新!


 ※追記

 実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
 やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
 ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
 とってものんびりと、更新する予定です。


 Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
 イラストとか宣伝とかを呟いてます!



 ※注意事項

 ・荒らし・中傷はお控え下さい。
 ・チェンメなんかもお断りしてます。



●目次

prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052 
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071

第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224 
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274

第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417

第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508

第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623

第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772

第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858

第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908

第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964

第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997

※第301次元〜は新スレにて連載予定


       ●おまけもの●

●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58

●番外編 
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945

 
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944


●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304 
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460

●キャラ絵(複数) 
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737

☆奏様には毎度ご感謝しております!!
 すごく似ていて、イメージ通りです
 キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
 これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙


●お知らせなど

* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998

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Re: 最強次元師!!【外伝(!?)不定期更新中!!】 ( No.945 )
日時: 2014/01/13 23:42
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: iaPQLZzN)
参照: 本編の更新ができない代わりにちょこっとサイドエピソード書きます。


うぉぉぉおおぉぉぉお!

本編を進め隊ですが今すごく我慢中なんです。
なのでやっぱり他の方を進めていきたいと思います。
今回は本編に関わりのある番外編を書きますよ。

では!



 【英雄と妖精】

 妖精をご存知だろうか。
 その存在はとても美しい歌声を持ち、とても美しい心を持った‘‘神‘‘であった。

 深く生い茂った森を連想させる、深緑の長い髪。
 肌は生まれたての赤子のように艶やかに月夜に照らされていた。
 何より潤んだような緑の瞳は、全ての人間の心に真っ直ぐ光を灯すほど優しい色をしている。
 
 彼女の名前はフェアリー・ロック。
 今より遥か昔、千年前の時代に生きた儚き神の一人である。

 
 

 既に辺りは暗くなっていた。
 青年は、気晴らしにと思って黙って外へ出た。
 聞こえるのは虫と、風と、草木の音。

 そして、聞き惚れるほど嫋やかに流れる何かの‘‘音‘‘。

 青年は驚いて、その音の元を探し回った。
 奥の方から聞こえてくる。自然に混じった、可憐な音色が。
 青年は、広場へ辿り着いた。そこで見たのは。

 「————え」

 一目で、心を奪われた。
 てっきり誰かが音楽を奏でているものだと、疑っていた。
 そこには人がいた。
 とても美しく、とても妖麗な女性が。

 「……————う、うわッ!?」

 女性の顔が見てみたい。
 長い髪が風と舞い、うまく人物を把握できない。
 もどかしくて、足を踏み出す。
 図らずも————木の根に引っかかってしまった。

 「!?」

 虫が、風が、鳥が、自然が。
 一斉にして音を失った。
 自然が奏で織りなすオーケストラが、一瞬にして砕け散る。
 曲の中心にいた女性が、はっとして音のした方へ顔を向けた。
 青年は、転んでいた。
 
 「は、はは……今宵はとても良い満月、ですね……はは……」

 上手い言葉が見つからない。言い訳はどうしたら良いのだろう。
 だらだらと流れる汗に、冷たい風がよく響く。
 女性はすっと歩き出した。

 「……大丈夫、ですか?」

 青年は、その時はっきりと彼女の顔を見た。 
 透き通った肌。その上に浮かんだ緑の瞳が、じっとこちらの様子を伺っている。
 どくん、と心臓が激しく高鳴ったのと同時に、青年は後ずさりをしてしまった。

 「え!? あ、はいぃ! だ、ダイジョウブです!」

 思わず言葉が裏返る。何て言ったら良いのか分からない。
 どんな男性も一目で恋に落としそうなほどの笑顔に、心をまるごと貫かれたようだった。
 紅潮した頬を隠すように、青年は顔を腕で覆った。

 「……それは良かったっ」

 まるで天使のようだと思った。
 微笑んだだけで、考えていることや思っていることを全て洗い流されてしまうようで。
 気がついたら青年の瞳には、彼女しか映らなくなっていた。
 
 「き、君は……どうして、ここへ?」
 「実は少し……迷ってしまって」
 「迷ったの?」
 「ええ。そしたら、周りの自然の音が溢れ出してた……気がついたら、唄っていたの」

 恥ずかしい、というように彼女も照れ笑いをする。
 そうだったのか。と青年は思った。
 つられて彼も笑った。

 「そうだったんだ……」
 「……あの……もしかして」
 「?」
 「どこかで、お会いしませんでしたか……?」

 青年は首を傾げた。
 もしもどこかで会っていたら、こんなに綺麗な女性を忘れるはずはない。
 彼は否定した。

 「え? もしそうなら覚えていると思うけど……」
 「そうですか……すみません、変な事を聞いちゃって」
 「あ、ううん。気にしないで! ……その」
 「……?」
 「歌声、とても綺麗だった……。な、名前を聞いても、良いかな?」
 「……えっ」                          
 
 女性は目を丸くする。
 いきなりすぎて言葉がでてこないのか、口を噤んで。
 ただその間は短く、女性はそっと、声を漏らした。

  
 「……フェアリー————————‘‘フェアリー・ロック‘‘です」

 
 青年はその名前を耳にした。
 そして、その名がいずれ世界を動かす鍵となることを、知らずにいた。
 特別な名前のように思えて、心が弾む。

 「ふぇ、ありー……」 
 「……貴方は?」

 はっと驚く青年。
 彼は自身の持つ、サラサラした金髪を少し掻き上げた。
 彼も、恥ずかしそうに笑った。
 
 「僕の名前はポプラ。————‘‘ポプラ・エポール‘‘さ」

 木々が大きくざわめいた。
 そして彼女の心も。
 女性は信じられないという表情で、震えた唇を必死に動かした。

 「え……ぽ、プラ……? あの、‘‘ポプラ・エポール‘‘王子……————!?」

 そうして開いた口を、さっと両手で抑えた。
 青年、ポプラはにっこりと笑う。
 
 間違いはない。
 彼はメルギース最大の権力保持国家、‘‘レイチェル王国‘‘の王子であった。
 国民なら誰もがその英雄たる彼の姿に憧れる。誰もがその勇姿に夢を抱く。
 紛れもなく、メルギース最強の英雄と謳われるほどの人物。
 それがこの金髪の青年であった。

 「う、嘘……その、ごめ、ではなくて……申し訳ありませんっ!」
 「へ?」
 「貴殿のようなお方に、か、軽々しく接してしまい……その、あの……!!」
 「気にしないでおくれよ。僕はそんな事、全然気にしないし」
 「ですが……!」
 「良いって! 僕はただ————君と友達になりたかっただけなんだ」
 
 ちょっと嘘だけどね、と心の中で呟くポプラ。
 彼は自分の身分にあまり実感がない。そして彼の周りにいる人々も。
 明るくて優しくて、誰よりも強い彼には、たくさんの友人もいた。

 「私、と……友……達……?」
 「うん。良ければもっと聴かせてよ————君の‘‘歌声‘‘を」

 こうして一人の妖精と、一人の英雄は出会う。
 然し絶対に出会ってはいけなかった2人が、こうして向き合い笑っていられていたのも。


 あと、数年の話。

 


 *



 ちょっと短かったですね。
 なんか2800字オーバーしないのは珍しいのかな。でも頑張りました。
 本編では本当にほんの少ししか触れられなかった2人の出会い。
 楽しんで頂けたら幸いです。

 後に本編でも書くかもですけどね。一応変なタイミングで書いてみました。
 では。

Re: 最強次元師!!【外伝(!?)不定期更新中!!】 ( No.946 )
日時: 2014/01/17 20:49
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: iaPQLZzN)
参照: ただいまHIGHテンションでお送りしております。


*お知らせ


 皆さんこんにちわ。
 作者の瑚雲です。


 さて、9月1日から早4ヶ月とちょっとですね。
 個人的には本当にとてつもなく長い時間でした。が。

 ぶっ壊れたパソコンからなんとかデータを救出し、取り戻しました。

 今まで書き溜めてきたものと、設定資料集の数々……。
 本当に無くなってしまったものだと当時は嘆き続けましたね。いやマジで。
 

 と、いうわけで、ですね。
 早速今週の日曜から更新を再開したいと思います!
 まだ自分のパソコンがないので、毎週更新は難しいかもしれませんが
 気合と根性と愛嬌で乗りきろうと思います。ん? おかしな点はありませんよ。


 えーでは。
 以上、近況報告でした!

 
 

Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.947 )
日時: 2014/01/25 00:08
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: I69Bg0jY)

第254次元 サボコロの修行事情Ⅱ

 「……」
 「……」
 「……〜〜〜ッだーっ!!!」 
 
 大きく手を広げ、サボコロはばたんと倒れた。
 その音に驚いたセルナが、片目だけ開いた。

 「も、もう……次元技解いて、いいか……?」
 「あ、はい。お疲れ……様、です」

 ぱきんとサボコロを纏っていた気が解ける。
 具現化した炎皇は、上からふわふわと倒れているサボコロを見て笑っていて。
 そう、あれから4、5時間という時間が経っていた。

 「流石に、疲れたぜ……」
 「大丈夫ですか? あ、あんまり慣れないことすると……疲れます、よね」
 「あ、ああ……うぐ……っ、は、腹、減った……」

 セルナは、何かを思い出したように素早く立ち上がって去っていった。
 サボコロはそれを不思議に思っていたが、気にせず空を眺める。
 汗だくになった体に触れる風が、物凄く気持ち良かった。

 「元力に集中するって、疲れんな……なあ、炎皇」
 「さぁ〜? 今の俺にゃ分かんねーけど。サボコロはどうだ? 何か掴めそうか?」
 「んー……どーだろ」

 ぼーっと過ぎ行く鳥や雲を眺めていたサボコロの視界が、急に陰る。
 光を遮られた視界は、びっくりして一瞬閉ざされ、サボコロはがばっと起き上がった。 
 
 「わ、私、お昼ご飯作ってきてたんです……よ、宜しかったら……っ」
 「いっただきまぁぁーっすゥゥッ!!!!」
 「……へ?」
 
 セルナの声も気にせずに、お弁当にがっつくサボコロ。
 籠を開けると、そこにはサンドイッチがぎっしり詰まっていた。
 多彩な具材と少し焼けたパンの表面がカリカリしていて、充分に食欲を誘っている。
 色とりどりなトマトやレタスに魅了されたサボコロは我も忘れてサンドイッチを頬張っていた。
  
 「……ど、どう、ですか?」
 「ぷめえ!!! ほんくはんへへーよ!!! めひゃめひゃぷめえッ!!!」
 「そ、それは良かった……」

 最早何語を喋っているのか、それは本当にこの国の言語なのか。
 サボコロが伝えようとしていた事が上手く理解できずとも、彼の表情からして気持ちは十分伝わった。
 とても嬉しそうに、楽しそうに、子供みたいに食べる彼に、ふふっと笑みが零れる。
 サボコロは、ごくんと頬張ったパンを強引に呑み込む。そしてがばがばと飲み物を口に放り入れた。
 
 「お前は食わねーの?」
 「あ、え……え、と……」
 「遠慮すんなって! つうかお前が作ってきたんだし、一緒に食おーぜ!!」
 「……はいっ」

 はむっと、小さく口の先でパンを齧ったセルナ。
 味がちょっと薄いかな、など考えながら、彼女もまたサンドイッチを小さく食べていく。
 サボコロ程の勢いでは食べられない彼女は、楽しそうに彼を見ていた。

 「ぷはーっ! 食った食ったー!!」
 「喜んで頂けたようで……その、う、嬉しいです……」
 「ああ、めちゃめちゃ上手かった!! お前良い嫁になるぜ絶対っ!」
 「……へっ?」
 「え、あ……っわ、わりい……その、無神経なこと、つうか、ふ、深い、意味はなくて……」
 
 セルナは顔を真っ赤にして俯いた。
 ぎゅっと自分の体を抱き込むように、足を寄せる。
 サボコロも、思わずセルナから視線をずらしてしまった。

 (まずい……俺、あんまりセルナと喋った事なかったし……変な事言っちまったし……)

 同じ蛇梅隊の、同じ戦闘部班と言えど。
 なかなか喋った事のない人、交流を交わした事のない人は沢山いた。
 サボコロもセルナも一緒に話すようなタイプではなかった。
 それが今、2人きりで修行して、急に話す事になってしまって。
 まさかこんな事になるとはと、両者とも同じ事を思っていた。
 
 「……サボコロさんは、ロクさんに、似てますね」

 その一言が、ざあっと風を連れてくる。
 草が揺れた時、セルナはお弁当を片付けながら、自然にそう呟いた。
 
 「正直なところとか、真っ直ぐなところとか……私、なんだかサボコロさんといると安心します」
 「……そ、そうか?」
 「はい……サボコロさんも、ロクさんも、元力量多いですしっ」
 
 考えた事もなかった。
 自分とロクが、似ているだなんて。
 同じ部隊になって、何度か任務へも出向いたけれど。
 自分自身で気付かない事もあるもんだとサボコロは妙に納得した。

 「俺は、セルナはもっと暗い奴だと思ってたけどな!」
 「……そ、そこは正直すぎるの……では……?」
 「でも、すげえよな。もっと皆のこと、知りたくなった!」

 だって、気付けない事もあるんだろ? と。
 サボコロは、にかっと笑った。
 さっきまで涙目だったセルナの表情は自然と綻んだ。
 
 よいしょと、セルナは立ち上がった。

 「では……そろそろ実践をやってみますか?」
 「おっ! 待ってましたあ!!」
 
 少し離れたところになる木に、寄り掛からせるようにして弁当箱を置くセルナ。
 漸く修行の成果を試せる、と内心わくわくのサボコロはまだ、知らなかった。

 「では次元技を発動して下さい」
 「おうよ!」

 先程と同じように、サボコロは一瞬目を瞑って次元技を発動。
 セルナは、またも確認して口元を歪ませた。

 「じゃあ、いきますよ?」
 「? ちょ、ちょっと待てよ! お前まだ次元技……!」
 「私、もう次元技発動してますよ?」

 はい? というサボコロの表情に、セルナは笑う。
 すっと、腕を構える彼女。

 「“最初”からずっと————私は次元技を発動したまんまなんです」
 
 え、という小さな声は。
 セルナの足が、空を切る音に、遮られた。

 「うぉあッ!? ちょ、ちょ……!!」
 「因みに技を使うのは禁じます。どれ程元力を制御し切れているか、見極める為に体術で戦ってもらいます」
 「え!? それじゃあお前も……!!」
 
 ぐんと伸びる彼女の腕が、彼の顔を綺麗に横切る。
 顔を殴られそうになった、そこまでは理解できる。然し彼には、咄嗟に目を瞑る刹那さえ与えられず。
 気が付けば、自分の顔の横に、セルナの白くて綺麗な腕が伸びていた。

 「私は技を使うまでもなく……次元技を発動した状態だけでも、貴方と戦えます」
  
 今の攻撃で、それはサボコロも理解できた。
 肉体強化の次元技。
 腕から足、胴体や頭。体ならばどの部位も強くする事ができるセルナの次元技。
 技を使わずとも多少肉体が強化される彼女を相手に、サボコロは正直戦いたくないとさえ思った。
 彼女の強さは、本物であったから。

 「う、ぐ……!!」
 「どうしました? サボコロさん。さっきから……避けてばっかりですよ!」
 「わ、っかってらあ!!!」
 
 セルナの旋回を、しゃがんで避けるサボコロ。
 そのまま空を跳び、セルナは彼と対峙。
 ぐっと拳を握り締め、すっと、サボコロの視界から消えた。

 「え!!?」
 「こっちです、サボコロさん」

 気が付けば。
 後ろから、彼女の声が響いていた。
 腕を引く彼女の比例して、サボコロは咄嗟に顔だけでも後ろへ引いた。
 伸びた彼女の腕が、彼の顔の前まで迫る。
 視界が、彼女の拳に埋め尽くされた。

 (つ、つれえ……次元を発動したまま動くのも、次元技使わないのも……神経使うなぁおい!!!)

 セルナの一撃が、当たった時点で終わる。
 彼女の一撃は生身の人間が受け止められる程弱くはない。
 それこそ、建物の壁など、少し蹴っただけで崩れてしまうような。
 常人の身体能力のそれを遥かに上回る彼女の次元技は、真っ向から受け止められるものではなかった。
  
 「はあ……ぁ、はあ……!!」
 「大丈夫ですか? 私はまだまだいけますよ」
 「……だ、大丈夫だ……っ」

 元力は使っていない。
 それなのに、サボコロは衰弱し疲弊しきっている。
 元力の体の流れに集中しているのと、セルナの動きを見ているのと。
 あっちにもこっちにも集中力を散漫している彼は、最早視界すらぐらつく程の体力で。
 まさかこれ程とは、とサボコロがそう感じた時。
 それを最後にして、彼は遂に倒れ込んでしまった。

Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.948 )
日時: 2014/01/26 11:29
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: I69Bg0jY)

 第255次元 サボコロの修行事情Ⅲ

 (約30分とちょっと……やっぱり、サボコロさんにはまだ…………)

 すっと、構えていた腕を下ろすセルナ。
 彼女はよいしょとサボコロを抱えると、滝つぼのもっと近くまで寄った。
 横たわらせ、湿ったタオルで彼の額を覆う。
 彼女はゆっくりと手を伸ばし、彼の髪にそっと触れた。




 今の時刻は、いつだろうか。
 すっと体が力を取り戻していくように、綺麗な空気が体中を循環していて。
 サボコロは、心地の良い風に当たったまま、目を開いた。
 目に映ったのは、目を瞑ったままのセルナだった。

 「あ、れ……俺、何して……」

 
 はっとして彼は気付く。
 セルナとの実践中に、集中切れで倒れてしまったことに。
 体内の元力の流れ、そしてセルナの動き一つ一つに細かく集中を回す。
 目まぐるしくもなるそれの繰り返しに、彼の体はついていけなくなり、限界に達してしまった。
 そしてその強い反動で倒れ、今に至った訳で。

 いや、そんな事よりも。
 今のサボコロには別のことが気に掛かっていた。
 そう。このやわらかく気持ちの良い感覚はなんだろう、と。

 「ん……っておぅわッ!!!?」

 
 セルナの膝に、自分の頭があった事に気付いた彼は飛び上がった。
 気付かないうちに膝枕なんてされていたのかと、サボコロの心臓が忙しく音を奏でた。
 途端、くすくすと、小さく笑う声が聞こえてきた。

 「ぷぷぷ……もう傑作ーっ! そんなに慌てちゃって……純情だねー!!」
 「てっめミル……お前いつからそこに……」
 「ん。今来たばっかだよっ?」

 笑いが堪えられませんと言うようににししと笑ったままのミル。
 サボコロは、彼女からわざと視線をずらしぷいっとそっぽを向いた。

 
 「どう? セルナとの修行の方は」
 「ん……何かダメだ。集中力が足りてないし、制御ってのがこんなに難しいとは……」

 唸るサボコロを余所に、ミルは立ったまま、彼を見た。
 何だ、ちょっとは変わってるじゃん、とでも言うように。

 「セルナ、元力の扱い方が上手いでしょ?」
 「っ! それな!! なんかずっと次元技発動しててもバテなくて……」
 「多分蛇梅隊で一番上手いよ、あの子。何たって肉体強化の次元技だしね」

 
 サボコロは、驚きを表情で表現した。
 目を見開く彼に、逆にミルはすっと目を細める。

 「元々生と死の境界線の中でセルナは戦ってきた……それも理由の一つだね。
  そしてあの次元技は直接体に負担がかかるから、どうしても体内の元力に集中がいく。
  ……強くなる為に、生きる為に……必死に頑張ったんだよ、きっと」

 サボコロは、じっと眠るセルナを見た。 
 普段はあまり戦闘を好まない彼女は、ロクに助けられる前までほぼ人間の扱いを受けていなかった。 
 それを世の中の言語で例えるなら、そう、“奴隷”のような。
 研究者に追い掛け回され、ろくに蛇梅隊支部に帰る事もできず。
 傷つけられ蔑まれ、家族まで殺された彼女はきっと、強く、生きる為に必死になったのだろう。
 だからあんなにも強く凛々しい。
 サボコロは、自分が何だか小さく見えてきた。

 「ロクに救われて……嬉しかったんだろうな……」

 自然に、彼の口からそう言葉が漏れた。
 嘗ては自分も、そうだったから。
 ミルもサボコロも、同じ神に、助けられた身だったから。
 セルナの気持ちも、ロクに助けられた者達の気持ちも、当然分かった。
 仲間だと言ってくれたあの言葉に、優しさに、笑顔に、どれ程救われたのだろう。

 「じゃあね、サボコロ君。仲良くやったげてね!」
 「ちょ、もう暗いし俺もそろそろ帰……!」
 「送ってあげてよ。男でしょっ?」

 
 ミルは大きく伸びをすると、さっさと歩いていってしまった。
 眠ったまま起きないセルナを背負って、サボコロは立ち上がる。
 伸ばした背中がぐきりと音を立てたが、それも気にせずに。
 朝からずっと、サボコロの面倒を見ていた上に、彼の看病を何時間もしていた彼女。
 サボコロは、ぐっと腕に力を入れて、会場に戻った。
 片手に、軽くなった弁当箱を忘れず。





 毎日のように同じような修行を繰り返して迎えた数日後。
 サボコロは今日も座禅を組んで、じっと集中していた。
 明日に迎えた決勝戦まで、もう24時間は切った。
 それでもまだ、元力の制御は上手くいってなかった。

 「……」
 「……」
 「……」
 「……サボコロさん、チャック全開ですよ?」
 「ぶふッ!!?」

 サボコロは、何かを思い切り噴き出した。
 そして、重力に従順に、がつんと地面とご対面。
 強く打ちつけた頭を摩りながら、ゆっくりと体を起こす。

 
 「せ、セルナさん一体何を……」
 「だ、ダメですよ……集中力を途切らせては……」
 「今のはちょっとアカン……」
 「……そ、そうですか?」

 いってー、と頭を掻き回すサボコロ。
 セルナの顔は、途端に陰った。
 小さく、息を吐く。

 「サボコロさん、私ではきっともう……貴方の力にはなれません」

 そう、小さな声で強く言い張る。
 サボコロは、頭に巻いていたタオルを解き、顔を拭っていた。

 「え……」
 「これ以上は、多分できません……私には、貴方に“道”を作ることしかできないんです」
 「み、道……?」 
 「渡るのは、貴方自身です……これ以上は、もう……お役に立つことが……」

 
 ここ数日、ずっと思っていた事だった。
 サボコロの成長は、然程良くはなく。
 徐々にしか、彼の元力の制御は伸びを見せなかった。
 震えるセルナの頭にぽんと、サボコロは自分の手を乗せた。

 
 「お前は充分やったって! できないのは俺のせいだし……すっげー助かった!!」
 「サボコロ、さん……」
 「役に立つとか立たないとか……んなんじゃねーって。お前が作った道、絶対渡ってやるから!!!」

 ぐりぐりと、セルナの頭を撫でくり回るサボコロ。
 見上げたサボコロが、セルナには大きく見えた。
 もうこれからは、彼自身の努力にかかっている。
 実践でないと、次元師は伸ばす事ができないのも事実。
 セルナは、きゅっと自分の手を握った。

 「……サボコロさん」
 「ん?」
 「最後に、貴方に教えておきたい事が、あるのですが……」
 「え……」

 セルナは、苦しそうに俯いた。
 涙を零すのを、まるで誰にも見られたくないかのように。

 「これは……非常に危険な技です。本当に……どうしようも、なくなった時に、使って下さい」
 「え、それって……」

 ぎゅっと、更に強く握った手を、そっと下ろして。
 上を、見上げた。


 「瞬間的に“全元力を圧縮”する——————————“禁忌”の技です」


 彼女の言葉が、サボコロの胸に強く刺さった。
 抜ける事のないそれは、次の日にまで、ずっと彼の脳裏に焼きついた。

 ここ数日。
 然程仲の良くなかったセルナに触れて、彼女の色々な一面を見る事ができた。
 笑った顔も怒った顔も、悲しそうな顔も、全て。
 でも、最後に放ったその言葉だけには、何故だか全ての感情は当てはまらず。
 何故だか、今までで一番苦しそうで儚そうな、そんな表情だった。 

Re: 最強次元師!! 【※お知らせがあります】 ( No.949 )
日時: 2014/02/02 22:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: I69Bg0jY)

 第256次元 音と空間の連携

 「炎撃ィィーッ!!!」

 
 轟と響くそれは、勢いを増してリリエン達双子に襲い掛かる。
 炎に包まれた2人は、またもリリアンの次元技によって炎を掻き消し現れた。

 「おいおいどうしたんだ? 1、2回戦の勢いはどっかいっちまったのか?」
 「凄かったのになぁー……残念ねーっ」

 ぎゅっと、拳をつくるサボコロ。 
 彼は、頭の片隅でセルナとの1週間を思い出していた。
 長くて、あっという間に終わってしまった儚い時間を。
 それでも、今まで生きた中で一番長く深く、元力と関わり向き合った。
 あの時間は、決して無駄にはなっていない。

 
 「どうしたサボコロ。貴様らしくないぞ」 
 「ああ……分かってるよ」

 無駄な元力を省く為に努力をしているつもりだが、それは元力を減らす事にしか繋がらない。
 圧縮も制御も、元力を扱うにあたって大事なものは何一つ完璧にこなしていなかった。
 どうしたら、出来るようになれる。
 レトヴェールもエンも、周りの人間は皆出来ているのに。
 そんな疑問ばかりが、サボコロの脳裏を埋め尽くした。

 「じゃあこちらからいきますか————!!」

 長い縄が、景色を覆い尽くすように空へと広がった。

 
 『——————————お前はもう、次元技を使うことが“できない”んだよ』

 エンは、しかと上を見た。
 あの言葉は、はったりではなかった。
 次元技を使えないとなると、試合の流れが悪くなるのが目に見える。
 一人、サボコロだけに戦わせる訳にもいかない。 
 エンは、矢を引く。

 
 「——————ッ!!?」

 彼の矢は、広がった縄に突き刺さり、ばさっと縄が更に天へと山をつくるように跳ねた。
 不覚にも次元技に手を出されたリリアンの元力は、一瞬不安定にざわめいた。
 武器型次元技で助かったと、エンは言葉を零す。

 
 「ちょっとー? 何してんの、リリエンっ」
 「……へえ……次元技無しでもそんな威力が出せんの? こりゃすげー」
 「誰かのせいで次元技出せんのでな。……それとも何だ? 怖気づいているのか?」

 いや、とリリエンの口元は緩む。
 彼は、腕を伸ばした。

 「でも忘れんなよ——————次元技がねーと、次元師は無力だ!!!」

 縄が、円を描いて再び空へ放たれる。
 大きな丸を象るそれは、エンとサボコロを余裕で囲った。
 地面に、べたんと張り付いた。

 「第七次元発動————縛限!!!」

 キュイィィンという何かを巻き取るかのような音が辺りを覆う。
 丸い縄は、その場で急回転すると、滑るようにして止まる。

 
 「けっ! こんな縄……——!」
 「待てサボコロ!! 迂闊に手を出……!!」

 紅蓮の炎が、エンの声を遮った。

 「炎柱————!!!!」

 エンとサボコロの周りを、炎の柱が包んだ。
 ずっと上の方まで火は上り、2人の景色を焼き尽くす。
 然し。

 「な……!!?」

 地面にはまだ、縄があった。

 「ははは! お前達は、その縄の中でしか“普段の”力を使う事ができねーんだよ!! つまり……」
 「外へ次元技を発したところで、それは私達の足元にも及ばない“一次元級”になるってこと!」
 「分かってるとは思うけど、縄の外に出る事はできねえよ? そいつは絶対条件だ」

 その縄の中でしか、普段の力を使う事ができない。
 つまり、外にいるあの2人には攻撃は届かないという事。
 並大抵の力ならば、外に力を加える事はできない。 
 そう、並大抵の力であれば。

 
 「小細工使いやがってちくしょー……俺の修行の意味がねーじゃねえか」
 「……? それより、早くここから脱出する方法を————」

 サボコロの腕が、途端炎に包まれる。 
 にやっと微笑む彼は、拳を力強く前へ押し出す。

 
 「炎砲————!!!!」

 炎の砲撃が、渦を巻いて縄の外へ出た。

 
 「だから効かねえって————」
 「!!? 避けてリリエン——!!!」
 
 そう吐き出された言葉は、目の前を過ぎる炎に掻き消された。
 リリエンを大きく喰らうように、炎は彼を包んだ。

 「“技の威力は一次元級”? ——————知るかよんなこたぁッ!!!」

 その一撃は、まるで一次元の威力ではなかった。
 厚い煙の中から姿を現したリリエンは、口元に手を当て咳を繰り返す。

 
 「す、すっげーな……マジで見縊ってた……」 
 「あぁんもう!! 勝手なことばっかりしないでよぅッ!!」
 「……分かってるってっ」

 
 (にしてもあいつ……何て元力量だよこんにゃろう……)

 リリエンの視線の先に、少しばかり息を乱すサボコロがいた。 
 無理やり一度に多量の元力を消費したせいか、息が上がっているのが見てとれる。
 ただ、と彼は思う。

 「お前の次元技……雑だな」
 「……!!?」
 「元力増やしゃ良いってもんじゃねえ……その量は認めるが、使い方はまるでダメだな」
 「わ、かってるよ、んな事!!」
 「せいぜいそれで頑張んな……宝の持ち腐れになる前にな」

 サボコロの眉間にしわが寄ると、リリアンはふっと呆れたように息を漏らした。 
 転んだリリエンの背中を叩き、じゃらっと鈴を手に取る。 

 
 「でも忘れないでよ! その次元技はいくら頑張ったって普段の半分以下の力なんだから!!!」

 鈴が盛大に音を奏でる。
 幾つも重ねて、びんと鈴のついた紐を伸ばす。
 
 「鈴鳴聖——————!!!!」

 キーンという金属音が、2人の耳を突き抜けていく。
 2人は咄嗟に構える。
 然し、頭が痛くなったり、体に害が加わる訳ではなかった。 

 
 「な、なんだこれ……」
 「……おい、サボコロ……様子が可笑しくないか?」

 音が、無くなった。
 まるで不屈の試練で洞窟に放り込まれたときのような感覚が、また2人を襲う。
 ぴちゃん、と、サボコロの頬を伝う冷たい滴が、地面に打ちつけられた。

 「一体何が——————んぐぅッ!!?」

 腹部に、妙な感覚が走る。
 突然、思い切り腹を締め付けられたような痛みが顕れ、サボコロの体は綺麗にくの字に曲がった。
 自由になった腕が無気力なまま空を泳いだ時。
 
 耳に、その声は届く。

 「——————締砕!!!!」

 サボコロの体が、まるで魚が大きく跳ね上がるように反り返った。
 びたんと、体の表面が地面の上で滑り転がる。

 
 「が、ぁ……!!」

 エンは、背後にいたリリエンの笑顔に、顔をしかめた。
 無力な右手が、拳をつくる。

 「だから……俺ばっか見てても、勝てねえーよ?」

 鈴の音が、伝う。 
 その音は、2人の耳には届かない。

 
 「さっさとレトヴェール倒しにいきたいから……あんた達、そこでおねんねしててくれる?」

 リリアンが、鈴を広げた。 
 彼女の青い瞳は、ゆっくりと開かれる。

 「第八次元発動——————音疵!!!」

 動物が雄叫びを上げるかのような轟声。
 然しエンとサボコロには未だに音が何も聞こえない。
 因みにいうと、エンとサボコロには今さっきリリアンが叫んだ次元技も聞こえていない。
 何をされたのか、分からなかった。

 (この空間だけ、外の音が遮断されている……のか……?)

 その時、サボコロが酷く咳を吐いた。
 一緒に吐き出された真っ赤な血を睨みながら、口元を拭って立ち上がる。
 
 
 「ちっくしょ……体がいて……————ぐはァッ!!?」

 
 それは、本当に途端のことだった。

 「どうしたサボコロ!!? 何があっ————んぐぁッ!!?」

 
 2人とも、派手に血を吐き捨てた。
 口を開いていると自然に血が溢れ出てくるような、そんな喉の痛み。
 焼き切られる程の熱い痛みが、じわじわと喉を締め付ける。
 エンは膝と手をつき、サボコロはまたしても地面に伏した。

 そんな2人の姿を見て、双子はとても楽しそうに笑ってみせる。
 並んだ瞳が——、絶対的な勝利を確信させるようだった。



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