コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
日時: 2015/03/15 09:40
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 基本毎週日曜日に更新!


 ※追記

 実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
 やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
 ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
 とってものんびりと、更新する予定です。


 Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
 イラストとか宣伝とかを呟いてます!



 ※注意事項

 ・荒らし・中傷はお控え下さい。
 ・チェンメなんかもお断りしてます。



●目次

prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052 
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071

第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224 
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274

第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417

第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508

第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623

第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772

第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858

第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908

第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964

第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997

※第301次元〜は新スレにて連載予定


       ●おまけもの●

●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58

●番外編 
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945

 
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944


●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304 
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460

●キャラ絵(複数) 
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737

☆奏様には毎度ご感謝しております!!
 すごく似ていて、イメージ通りです
 キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
 これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙


●お知らせなど

* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998

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Re: 最強次元師!! ( No.780 )
日時: 2011/03/28 12:44
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

>>零兎
 いやぁ、何か進んじゃったね((
 だよね、久しぶりじゃないかもwww
 
 しっくりくる?
 ロクは結構ガンガンタイプだからどうかなぁーと思ったんだがw

Re: 最強次元師!! ( No.781 )
日時: 2011/03/29 17:36
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第186次元 心の歌姫Ⅱ

 小さなランプのみで照らされた薄く明るい廊下を、少女は歩く。
 その先にある扉を目指して、ただ只管歩いた。

 「…お爺様」

 少女は綺麗で、それでいて大人びた声で扉に言った。
 いや…扉の先にいる、“お爺様”という存在に言ったのだろうか。
 返事や応答が聞こえてこない、それにも関わらず、少女は扉を開けて足を踏み入れた。

 「…良く来たな、レイナ」
 
 “お爺様”という老人は、椅子に腰を下ろし、前傾体勢で少女を迎える。
 少女…いや、レイナと呼ばれたその少女は、1度老人をじっと見つめると、再び口を開く。

 「私にはまだ、分からないのです」
 「…」
 「お爺様は、私の歌に何の不満があるというのですか」

 強気な口調で、お爺様に向かって言い放つレイナ。
 老人はゆっくりとした口調で笑うと、椅子から立ち上がった。

 「…それはお前が見つけなさい」
 「ですが…、私には分かりませんッ!!」
 「…お前の歌には足りない何かがあるという事を、お前自身で見つけねば意味がない」
 「…で、ですか……」
 「案外近くに答えはある…3日後が楽しみじゃ」
 「…ッ!!」
  
 甲高く笑いながら、老人は部屋を後にする。
 杖をつくその音がレイナの耳に伝わらなくなるまで…レイナは1人、部屋に取り残されていた。

 「…一体何が足りないというの」

 たった一言、そう呟いた。


 

 「ふっふふっふふーんっ♪」

 陽気に鼻歌を歌いながら、ロクアンズは廊下を往く。
 練習をしている訳ではなさそうだ。何と暢気な少女だろう。 
 推測だが、食堂に向かっていると思われる。

 「…?」

 だが、食堂に向かう途中で、1人の少女が休憩所にいる場面を目にする。
 昨日レトが見た、5年連続優勝を誇る少女こと、レイナだ。
 ロクはレイナの視線に違和感を感じて、ひょこっと顔を出す。

 「何見てるの?」
 
 少女は一瞬驚いた表情を見せ、ロクの視線にびくついた。
 だが再び溜息をついて、ふいっとそっぽを向く。
 
 「…別に、何でもいいでしょ」
 「へー…可笑しな人」
 「可笑しくて結構。貴方に関係ないでしょ」
 「…ねぇ」
 「何」
 「もしかして貴方が5年連続優勝の少女!?」
 「…そうだけど?」
 「うっはぁーっ、すっごいなぁ、やっぱりそうかーっ!!」

 感激に浸りながら飛び跳ねて喜ぶロクの姿を見て、少女は瞳を動かした。
 何でこんなに喜んでるの…と、瞳がそう語っている。
 ロクは目を輝かせて、レイナの事をじ…っと見つめる。

 「…な、何?」
 「やっぱ歌う人の目って違うなぁーっと」
 「どうして私だと?」
 「一目見て、ああ、この人かなって」
 
 (あれ…?)

 この台詞は何処かで聞いた事がある、と少女は頭を抱えた。
 自分の記憶を辿っていくうちに、1人の少年の顔を思い出す。
 あの時自分に声をかけてきた、金髪の少年を。

 「貴方がまさか、ロクアンズ・エポール?」
 「え?あぁ…そうだけど」 
 「ふーん…やっぱり」
 「やっぱりって…」
 「…歌に自信のある義妹、ね」

 ぼそっと呟いたレイナの声を聴き取る事ができず、ロクの脳裏には疑問が浮かび上がる。
 レイナはじろじろと、まるで見定めるようにロクの事を見ていた。
 何の変哲もない、普通の顔。雷の傷によって閉ざされた右目。
 目はそこまで凛としていない、寧ろ天真爛漫な性格の目。
 身長は自分より低い。何歳なんだと疑う程、低い。
 見つめられているロクは1人おどおどしながらも、その視線にやっと開放される。

 「言っておくけど、私は負けないわよ」

 驚く程しっかりとした、逞しい目つき。
 強気なその少女の台詞に、ロクは口元を緩ませて笑った。

 「うん、あたしだって負けないっ!!」

 無邪気なその笑顔に、レイナの表情は少し変わった。
 再び鼻歌を歌い始めて、ロクは食堂へと軽い足取りで足を運ぶ。
 不思議な奴だ、とレイナはちょっとばかりの息を漏らす。
 ただ…負けないという感情だけをロクに抱いていた。

 


 「〜〜♪〜♪」

 小さくて若干狭い、部屋の中。
 ロクは先程までの空腹感を満たし、部屋へと戻ってきた。
 笑顔で、それでいて楽しそうに歌い続けるロクを…扉の外で誰かがじっと見つめていた。
 その人物は一通りロクの声を聴くと、音も無く颯爽と消える。
 ロクは何も気付かないまま、ただ笑顔で歌い続けた。
 
 


 「…!?」
 「ふむふむ…此処にいたのか、レイナ」
 「何故此処へ?部屋で休まれた方が…」
 「いいや、見つけたんだよ、お前の足りない部分を持っている奴を、な」

 薄暗いステージの上、レイナは1人、ぽつりとその上を歩いていた。
 だが…ゆっくりと近づいてくる老人により、虚ろな瞳を持ち上げる。
 朝、レイナが部屋を訪れた時にいた、あの老人だ。

 「私の足りない部分を持つ…人!?」
 「そうだよ、レイナ」 
 「だ、誰ですか!?私、今からその人に会って…ッ!!」
 「そう焦るな、名前は教えてやろう」
 「…」
 「さっき部屋を覗いて、一通り聴いただけだが…未知の可能性を、彼女は秘めている」
 「彼女…?」
 「お前にないものを、持っていたんだ」

 老人は1度咳をし、レイナの真っ黒な瞳を見つめる。
 レイナは教えて欲しい焦りと緊張に、額に汗を掻く。
 そして…、レイナの喉元がごくりと音を鳴らしたとき、
 老人は口を開けて名前を言った。

 「…————、ロクアンズ・エポールだ」

 そう、老人が言った直後、レイナの全身が凍るように固まった。
 先程あったばかりの、あの黄緑の少女だ。
 まるで子供のような、歌い手の欠片も感じられない少女が、何故。

 「ろ、ロクアンズ・エポール…って……」
 「左様。現在人から冷たき視線を喰らっている…あの神族」
 「それはいいのですが…何故あの少女が?」
 「何故と言われても…持っているのはその少女だ」
 「でも、私が見た限りだと臨機応変で、ただの元気っ子で…まるで子供のような…」
 「そう、そこだよレイナ」
 「…!?」
 「…君の足りない部分を、あの子が持っているんだよ」

 老人はそれだけ言うと、また笑いながらステージを後にした。
 ライトのないこのステージの上に取り残されたレイナ。  
 その顔は…納得いかない、と言わんばかりの表情を作っていた。
 だが、レイナは自分を冷静な心で沈ませた。

 (負ける筈がない…だって私は5年連続の優勝者だもの————、誰にも負けないわ)

 キッっと何かを睨み、振り返ると同時にふわりと黒髪を靡かせる。
 少しでも歌わなければ。
 少しでも勝機を勝ち取らなければ。
 レイナの心には…そんな感情しか生まれなかった。
 ロクに対して、怒りと嫉妬の感情しか、生まれなかった。

Re: 最強次元師!! ( No.782 )
日時: 2011/03/31 16:36
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第187次元 心の歌姫Ⅲ

 「うっはぁー…っ」
 
 ロクは思わず口を開けて、唖然としてその場で立ち尽くした。
 言うまでもない、観客の人数であろう。
 会場中いっぱいにいた観客の人数は数えられないというレベルではない。
 立って隣の人達と話している人もいる、遠くから見ようと必死に飛び跳ねている人もいる。
 ロクはあまりの人の人数に目をぱちぱちと開閉していると、レトはロクの肩に手を置く。

 「お前…大丈夫か?」
 「イヤ…ダイジョウブジャナイデス」
 「…あぁ、そう」

 まさかこれ程の人が集まるだなんて、やっと理解をするロク。
 大規模な大会とは聞いていたが、これは壮絶だ。
 良く見ると、蛇梅隊の隊員達も集まっているようだった。

 「皆…」
 「お前の歌、聴きに来たんじゃねぇーの?」
 「うっひゃー…任務ほったらかしー…」
 
 10人全員居るという事は、戦闘部隊は今、誰1人として任務へ行っていないようだ。 
 ロクは嬉しさが胸に染みていく事を実感して、優しい顔で微笑んだ。
 皆がロクの為に集まった。任務も放って、集まった。
 普通なら副班長も許さぬ事態が今此処に…と感動しようと思った、が。
 何と、副班長達までもが、ロクの応援に来ていたのだ。

 「やる気でるなぁー、頑張って来いよ」
 「うん…絶対頑張る!!」

 レトはロクの肩をもう1度叩くと、さっさと観客席へ戻って行った。
 高鳴る胸。止まらぬわくわく感。ロクは既にもう体が疼いていた。
 その顔は、生き生きとした、ロクのそのものの素顔。
 楽しみでしょうがないという、やる気満々の顔だ。
 
 「あ、ガネスト!?」
 「何か、僕がピアノやるみたいですよ?」
 「そうなの…?」
 「はい、一応隠れて練習してましたけど」
 「…ッ!?、ホント!?」
 「え…ま、まぁ…」

 ガネストの手を上下にぶんぶんと振り回し、ロクは感激の意を表した。
 とても嬉しそうに笑い、飛び跳ねるロクを見てガネストもふっと笑う。
 ガネストはもう1度練習すると行ってピアノの置いてある部屋まで行ってしまう。
 ロクはその場…出場者用の席に残って主催者の話を聞いたり、他の人の歌を聴いていた。

 「すっげぇーなぁ…レベル高いんじゃねぇの?」
 「そうだな。何たってセンターだから」
 「…何だよレト、やけに冷静だな、おい」
 「お前の近くにいると熱くなるから冷静なの」
 「…あぁそう。あ、でさ」
 「ん?」
 「ロクの出番いつな訳?」
 「最後。エントリーナンバー12番だ」
 「へぇー…」
 
 サボコロとレトは2人でひそひそと、妨害にならない程度に話していた。
 出場するのは全員で12名。この街の各施設から参加者が集まるのだ。
 主に病院や役場だが…他にも花屋、魚屋、鍛冶屋…等、店を経営している所も参加しているようだ。
 それで、今回は蛇梅隊という戦闘施設に参加状が送られてきた、という訳らしい。
 審査員は10人。それぞれが1〜10点までを決め、それを合計し、点数を出している。
 審査員の席を見ていると…あの老人もどうやら審査員らしい。
 誰もが真剣に各出場者を観察し、幾度と悩み、結果を出している。
 
 そして…次々と自分の自慢の喉を振る舞い、歌う人達が現れる。
 誰もが個性的で、楽しむにしては丁度良いが、皆が待っているのはその人達ではない。
 すると、レトとサボコロの前の席の人がひそひそと小声で呟き、話しているように聞こえた。

 「皆凄いなぁー」
 「ねぇ…、でもやっぱ足りないわよねぇ」
 「そうそう、俺達が待っているのは何たってレイナちゃんなんだからっ!!」
 「うんうん、レイナちゃんの歌を聴きたくて来ている人の方が寧ろ多いものね」

 誰もがレイナの歌声を聴く為に集まっているのだ。
 他の人は可愛そうだが、レイナが出場するまでの楽しみの一つでしかない。
 その残酷な運命と呼べる冪この会場で…ロクは歌う事ができるだろうか。
 レトは心底そんな思いで前の席の人達の会話を聞いていた。

 「では続いてエントリーナンバー9番———————、レイナ・ウェイヴェスです!!!」

 その時、その瞬間に————————、人々の歓声が甲高く鳴り響く。
 此処に集まってきた殆どの人の声が高くなり、誰もが会場に集中していた。
 待っていたのだ、この少女の出番を。
 この街中の人々を魅了して来たその歌声を持つ少女が今…舞台に上がってきた。

 「う、そだろ…」

 噂には聞いていたが、実はレイナ・ウェイヴェスはレトやサボコロと同い年らしい。
 だが、そんな筈がない。
 舞台に上がってきたレイナと思われるその少女は、14歳という壁を越えていた。
 整った顔立ちが更に引き締まり、メイクをしたせいか、まるで20歳前後の女性のよう。
 細くて長い腕や足も見るも眩しい程輝いていて、それはそれは言葉に出来ない美しさだった。
 レトはレイナの変わりぶりに思わず感嘆の声を漏らす。
 紫色で透き通るようなドレスを纏い、レイナは真っ黒な瞳を皆へと向ける。
 これこそ、本物の“美人”という奴だろう。

 


 
 レイナが歌っている間、人々の胸の高鳴りは消える事はなかった。
 美しい声を持ち合わせ、その姿はまるで触れる事さえ許されない遠い星のよう。
 この街の人々が聴き惚れる訳だ。とても麗しい声で、レイナは見事歌ってみせたのだから。
 堂々の100点でも可笑しくはない…筈だった。 
 だがレイナは、この大会で100点を取った事がない。

 取れる訳がなかったのだ。

 「点数は————————————、96点です!!!」

 再度鳴り響く、人々の甲高い黄色い声援。いや、歓声だ。
 審査員の札も殆どが10を示していたが…たった1人。
 殆ど、というのは、レイナと話していた老人だけが6点という数字を叩き出したからだ。
 老人はさも当然のようにその札を出していたが、その点数に向かってレイナは1度睨み付けた。
 何がいけなかったんだ、また今年も96点だ。
 と、レイナの心には、幾つもの疑問まで過ぎった。

 後にも先にも、レイナを抜く点数の出場者は現れなかった。
 この大会もそろそろ終盤に近づく…誰もがこの時、レイナの勝利を確信していた。
 絶対彼女が優勝だ、と。これで6年連続、無敗の記録が伸びる、と。
 既に勝利の余韻に…浸っていた。
 ただ、この時はまだ誰も知らなかった。
 
 まさかこの点数を打ち破る少女が、現れてしまうなんて、とても——————。

Re: 最強次元師!! ( No.783 )
日時: 2011/04/01 10:06
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第188次元 心の歌姫Ⅳ

 「これでレイナちゃんの優勝は確実だなっ!!」
 「うんうん、最後の人には悪いけど…レイナちゃんを抜ける人なんていないもんっ!!」

 五月蝿い程騒ぐ会場内。老若男女問わず、皆が皆、レイナの勝利を確信しつつあった。
 だが、まだ残っている。
 まだ…あの黄緑の少女が登場していない。

 「さて…次はロクだな」
 「逃さず聴いとけよサボコロ、あいつ、ホントに歌だけはマジで上手いから」
 「へぇー…でも勝てんのか?あんな歌見せつけられちゃぁ、流石のロクも…」
 「ロクの性格、お前だって知ってんだろ?最後まで全力尽くして燃え上がる、そういうバカなんだよ、あいつ」
 「あぁ…そうだったな」

 もう誰もロクの事なんて気にしてはいない。
 ロクはさっさと服を着替えると、ガネストと共にステージに向かう。

 「ちょ…その服で良いんですか!?」
 「うん、だってさ、普段の自分を見せなきゃ意味ないじゃん」
 「そ、そういうものですか…?」
 「そうだよっ!!歌っていうのは…ありのままの自分を全て曝け出して歌う方が…絶対良いんだもんっ!!」
 
 ガネストは納得のいかないまま、それでも苦笑いで溜息をつく。
 ロクの格好は紛れも無く…隊服だ。
 いつもの自分、変わらない自分を、全て曝け出してこそ意味がある。
 そう、ロクの顔は物語っていた。

 「さ、さぁて最後の出場者です!!エントリーナンバー12番————————、ロクアンズ・エポール!!!」

 その名前を聞いた瞬間、人々の顔が曇り始めた。
 そうなるのも無理は無い。この街でロクの名前を知らぬ者は殆どいないのだから。
 ロクは顔を曇らせる事なく、晴れ晴れとした表情でステージに出てくる。
 
 だが、レトのサボコロも…蛇梅隊の隊員達は皆がっくりと肩を落とした。

 「「「「「た…隊服ーーーー——————ッ!!!?」」」」」

 叫んだのは、蛇梅隊隊員の皆だけ。ただでさえ期待されていないロクが…まさか此処で隊服を選んで来るだなんて。
 蛇梅隊隊員達の中で絶望感が自然に湧き上がる。
 そんな訳はない、と一部の人はごしごしと必死に腕で目を擦る。
 だが何度見てもロクが着ているのは蛇梅隊戦闘部隊の隊服だった。
 黒いコート、胸に蛇梅隊のエンブレムのついたその蛇梅隊の象徴を、堂々と見せている。
 あーあ…と、レトも再度肩を落とす。キールアも苦笑いでそれを受け止めているようだ。

 「何だあいつ…確か蛇梅隊の、ロクアンズ?」
 「ええ…あの神族よ神族…」
 「あ、あぁ…」

 誰もが複雑な気持ちでロクを迎えていた。
 本当に信用していいのか、こんな奴に拍手等できるのか。
 人々の不安は積もる一方。だが、ロクはそんな事気にもしなかった。
 それどころか…ロクは未だ晴れた表情でマイクを握り締める。
 一度深く深呼吸をすると、ロクはガネストに合図を送る。
 『少し待って欲しい』、と。

 そして…。

 「こんにちは皆さん、あたしはは紛れもなく神族のフェリーです」

 マイクを握り締めたかと思うと、今度は何かを語り出した。
 その声に一瞬でしん…となる。観客は皆、ロクへ視線を向ける。

 「何で此処に立っているのか、とか、不安はいっぱいあるかもしれない。
  でも、あたしは此処にいたいんです。その為にこの大会に参加しました。
  これからも冷たい目であたしの事を見てもいい。でも、この歌だけはどうしても聴いてほしい。…お願いします」

 迷いの無いその瞳でそう告げたロクは、再度くるりと振り返り、うん、と頷いた。
 ガネストは少し戸惑ったか、指を鍵盤の上に乗せる。
 自分の思いに狂いはない、この人に自分は救われたんだ。
 そう、ガネストは心の中で呟いた。
 ロクは呼吸を整えると、すぅっと息を吸い込んで…—————。



 『いつかまた花開く 遠い遠い 夢の世界で

  どんなに困難でも いつかいつか 叶うから…————』

 
 「…———!?」
 「思ったより上手いなぁ…ロク」
 
 (何今の声…!?それにあの笑顔って—————————!!?)
 
 

 母は言う 夢なんて諦めなさいよと 心にもない言葉で
 皆は言う 希望なんて信じるものじゃないと 大げさに笑いながら

 夜の道怖くたって 街の明かり 照らしてくれる
 どんなに挫けたって 心負けない限り進む

 いつかまた花開く 遠い遠い 夢を探して
 どんなに困難でも きっときっと 叶うから
 

 兄は言う 花なんて咲いて枯れていく 残酷な運命だと
 夜の星 綺麗だなんて届く訳でもない 過ぎた幻覚の夢

 心の奥傷ついたって 閉ざすのは あり得ないよ
 諦めても諦められない それが本当の貴方でしょう

 いつかまた夢開く 遠い遠い 未来の世界で
 どんなに険しくても きっときっと 辿り着くよ


 汚れた暗い道 出口見えなくても
 光のない道はないよ さぁ 手を伸ばして


 いつかまた夢開く 明るい未来の 道標指して
 強くなくたっていい それが私の目指すものだから

 いつかまた花開く 遠い遠い 夢の世界で
 どんなに困難でも いつかいつか 叶うから…——————。


 
 「う…そ…—————————ッ!!!」

 歌っている間、ずっと笑顔で歌い続けたロク。
 他にも歌う技術、息遣い、声の音程の調節…、全てロクはやってみせた。  
 笑っているだけではないその少女の虜になってしまった観客達は、一斉に今まで以上の声を張り上げる。
 正に、“心”そのものを歌に取り込んだ————、最良、最高の演技である。

 「何で…どうして……」

 レイナは思わず感嘆の声を上げる。 
 その瞳に涙が浮かんでいるなんて、まさか心の底から感動してしまったなんて…思ってもいなかった。
 老人は愉快に笑って、歓声の止まらない会場に目を向けた。
 
 (これが真実だ、レイナ——————————)

 審査員自ら盛大な拍手をし、観客の歓声も鳴り止まない。
 観客達から盛大なるアンコールまで出てしまったロクは、嬉しくも涙を零さなかった。
 ああ、なんて心地良い瞬間なんだろう、と。
 ロクはこの時初めて多くの人を目の前にして微笑んだ…————。

 「点数は……堂々の100点だァァァァ——————————ッ!!!!」

 再度盛り上がる観客席、そして街中。
 最早、此処にロクに反発の言葉を述べる人はいない。
 寧ろ、ロクに向かって最高の笑顔が浮かべられる。
 レトもサボコロも、2人で笑っていた。

Re: 最強次元師!! ( No.784 )
日時: 2011/04/04 11:57
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: jBQGJiPh)

第189次元 心の歌姫Ⅴ

 「そっか…これが真実だったのですね…お爺様」

 レイナは笑顔に満ち溢れた観客席に向かって、そう呟いた。
 審査員は皆、10点の札を持っている。あの老人もまた、うんうん、と頷いていた。
 アンコールの言葉が飛び交う中、レイナは老人の元へ歩み寄る。

 「これが真実ですね、お爺様」
 「分かったか?レイナ」
 「はい、貴方が私に足りないものとして指摘したのは—————————」

 レイナは1度口を閉じて、ロクの方にちらっと目を向けた。
 喜んで跳ね上がっているロク。その姿に、もう1度口を開く。

 「————————、“感情を込めて歌う事”」

 レイナはそう、言葉を紡ぐと再び老人へと顔を向ける。
 老人は頷いていた。レイナのその答えに、ふむふむ…と。

 (…そう、大事な感情。“感情を込めて歌う事”。
 
  私は、歌にはいつも絶対的な自信があった。

  上手く歌えるようになりたいって…そう願ってずっと練習してきたから。

  でも、私はそのせいで今までずっと気付けなかった。

  何の為に歌っているのかさえ、分からない程に。

  それを教えてくれたのは貴方ね…ロクアンズ。

  笑顔で歌い通したあの逞しい姿は、きっと人々の心に刻まれる。
 
  私の歌は…あの子には適わなかった。

  出会ったあの時から…そう、薄々感じていたのにね…)

 レイナは作る事のなかった笑顔という表情を…初めて表した。
 一体何の為に歌っていたのか…その真実はロクによって知った。
 大切なのは上手に歌いきる事じゃない。完璧な歌を歌うのではない。綺麗な服や姿で歌う事じゃ、ない。
 そう…レイナはロクに教わったのだ。絶対に忘れないと、心に誓って。

 「ど、どうしよう…アンコール…が…?」

 ロクはふいにちらっとレイナの方に振り向いた。
 レイナは驚いて頬を赤く染め、そっぽを向く。
 だが近づいてくる足音に気付いてしまい、レイナは仕方なくまた、ロクに顔を向けた。

 「ねぇ、一緒に歌わない?」
 「…!?」
 「アンコールが出てるけど…1人で歌うのつまんなくてっ」
 「わ、私…歌詞知らないし…」
 「大丈夫!!さっき聴いたでしょ?それに歌詞の紙貸すから!!」

 屈託のない、その笑顔に一瞬レイナは見惚れた。
 初めて自分の認めた少女だ、初めて自分を抜いた少女なんだ。
 レイナは嬉しさを紛らわせて、ステージに戻ってきた。
 ライバルとも呼べるその存在と—————、肩を並べて。

 「それじゃあ皆さんーーッ!!今からレイナと一緒に歌いまぁーっす!!」
 「…勝手なのね、貴方って」
 「いいじゃんいいじゃん!!歌うの好きでしょ?あんなに上手いんだからッ!!」

 素直な気持ちと裏腹に憎まれ口を叩いてしまったレイナは、そんなロクの言葉にまた乗せられてしまった。
 だが、悪い気分じゃない。
 先程まで点数を競い合い、懸命に歌ったこの2人が。
 正に今は、友達と化している。
 
 今まで以上の盛り上がりと歓声に満ちた会場内は、2人の歌声を聴くべく立ち上がった。
 大声を上げて、皆で叫んで楽しんでいる。
 ロクとレイナは独自の技術を絡み合わせて、最高の歌を歌い続けた。
 元気で良く通る声を持つロク。
 高くて透き通る声を持つレイナ。
 今この街で、2人の歌い手が声を合わせ、歌う。

 正にセンターに君臨する—————————、歌姫と呼ぶに相応しい2人が。

 


 
 「ありがとう…ロクアンズ」
 「え?な、何が?」
 「大切な事…教えてくれたから」
 「そう、だっけ?何もしてない気が…」
 「いいの、私は感謝してるから」

 大会の表彰も終わり、片付けに取り掛かっていた時、レイナはロクに話しかけた。
 いまいち状況が把握できなかったロクに対して、レイナは微笑みを浮かべる。
 昨日とは違って表情が穏やかになっていて、あの恐怖感ギンギンの目つきは消えているようだった。

 「来年は、絶対負けないからね」
 「…うん、望むところだいッ!!」

 ロクは自信満々に笑ってみせたが、レイナの気迫も負ける気がしなかった。
 丁度通りかかったレトはそんな2人の会話を聞いて、溜息を零した。

 「お前…来年は歌っている場合じゃねぇだろ…」

 来年…そう、今から1年と1ヶ月後には、あの忌まわしき戦争が始まる。
 正式名称は『第二次神人世界大戦』。
 神族と次元師100名がぶつかり合う…魂と精神をかけた戦争である。

 「あ…お爺様」
 「ふむふむ…来年のお前には期待してるぞ」
 「…はい!!」

 レイナは1度ロクと握手を交わすと、そのまま会場内に残って片付けを始めた。
 ロクはぼんやりと空に溶ける夕日なんかを眺めながら、夕方の道を歩く。
 帰った時には皆でロクを胴上げし、共に喜びを分かち合っていた。
 …ただ1人、膨れっ面でその姿を覗いていた女性を除いて。

 その人物が六番隊の副班長とは…言うまでもない。

 「あぁー…今日もつっかれたーっ」

 ロクは露天風呂に浸かりながら、今日の疲れを癒していた。
 空に浮かんだ金色の月。思い浮かぶのは、レイナの顔だった。
 素晴らしい歌を披露し、そして自分と共に歌ってくれたあの天才少女を。
 ロクはふっと笑みを零すと、風呂から出てパジャマに着替え、首にタオルをかけて歩き出した。
 火照った体は次第に夜風によって冷えていき、自室に戻る頃にはぶるぶると震えていた。

 ロクはそっとドアを開けて部屋に入る———————、だが。


 
 「…え…——————」



 ロクが目にしたのは、月をバックに窓に座っている、少年だった。

 見た事のない少年で、身長はさほど高くない。長い黒髪を低い位置で縛り、こちらを見つめている。
 まるで黒曜石のような、黒ずんだ瞳。だがその瞳から優しさは一切感じられない。
 一瞬時が止まったように、ロクの汗は頬を伝う。
 沈黙の中、始めに口を開いたのは少年の方だった。

 「やぁロクアンズ・エポール…、いや」

 「……」

 「———————フェリーと呼ぼうか?」

 その高くもなければ低くもない声で、自分の名を呼んだ。
 神の名を、少年はロクに向かって言った。
 少年の言葉にびくりと肩を震わせたロクの冷や汗は止まらない。
 普通の少年ではない、そう思ったからだろうか。
 
 「いやぁ、探すのは簡単だったんだけど、迷っちゃってねぇーっ」
 「……」
 「僕は君を探してたんだ、会いたかったよ…フェリー」
 「どうして…?貴方誰…?」
 「ん…これ見れば分かるかな?」

 少年は自分の右手の掌を、ロクに見せ付けるように突き出した。
 ロクの目は、酷く開く。
 その掌に描かれた…あの紋章を見て。
 
 「月と太陽と星…それは1日、1年、一生を表す。つまり神は———この世界の滅びるまで生き続けるという事だ」

 少年は、“神章”の刻まれた右手を引っ込めて、改めて説明をする。
 この少年の掌には神章が刻まれている、それも本物だ。
 もし人間が神に成り済まそうとして神章を描けば、その人物は神の掟に背く事になり、原因不明の死を遂げる。
 だから人間には神章が刻まれる事はない。
 そうすれば結論はただ1つ。

 ————————————この少年が、神族であるという事。


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