コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
日時: 2015/03/15 09:40
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/

 運命に抗う、義兄妹の戦記。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 基本毎週日曜日に更新!


 ※追記

 実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
 やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
 ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
 とってものんびりと、更新する予定です。


 Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
 イラストとか宣伝とかを呟いてます!



 ※注意事項

 ・荒らし・中傷はお控え下さい。
 ・チェンメなんかもお断りしてます。



●目次

prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052 
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071

第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224 
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274

第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417

第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508

第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623

第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772

第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858

第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908

第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964

第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997

※第301次元〜は新スレにて連載予定


       ●おまけもの●

●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58

●番外編 
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945

 
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944


●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304 
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460

●キャラ絵(複数) 
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737

☆奏様には毎度ご感謝しております!!
 すごく似ていて、イメージ通りです
 キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
 これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙


●お知らせなど

* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998

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Re: 最強次元師!! ( No.905 )
日時: 2013/04/14 11:45
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

 第237次元 操られた、

 「十字斬りィィ——————ッ!!!!」

 双剣が、思い切って空を斬る。
 然しその真空波は、ロティの体に触れる直前で、見事に砕け散る。
 レトはその真意を探る為でもあるが、先程からずっと色々な技で色々と試していた。
 然しどの技も、ロティには跳ね除けられてしまっている。
 八斬切りも試みたが、彼女の優れた身体能力がそれを悠々と交わす。
 そうしてレトは、やっとぴたりと、攻撃を止めた。
 向こうで佇むロティは、嬉しそうに口元を綻ばせている。

 「おいおいどうしたァー? もうギブアップかよォー?」
 「……ち、っくしょ……ッ」
 「そんなんじゃ……代表になんかなれねーぞ————!!!!」

 ロティが腕を振るう。
 それに応えるように、会場からどすんと音がなり、無数の大きな岩が現れる。
 彼女が意を下すまでもなく、岩はレトの目の前に放り投げられた。
 彼は咄嗟に腕で顔を庇う。
 岩が、彼の全身を叩きつける。
 響き渡った衝撃音と共にレトは地面に体を打ちつけた。
 試合が始まって間もないのに、体が痛みを覚える。
 
 「ぅ、ぐ……!!」

 不安定な足取りで、レトはまた立ち上がった。
 荒い呼吸のままで、レトはまた前を向く。
 彼はもう一度双斬を握り締めた。

 (あいつの技……“心操”、とか言ったか……? 一体、どういう技なんだ……?)

 岩が宙に浮いたり、攻撃してきたり、地面が勝手に盛り上がったり。
 先程からずっとロティの攻撃を防いできたが、攻撃の方法が大胆この上ない。
 自然を使っての攻撃、という事だろうか。
 では、何故“心”という単語が入るのだろう。

 「……ちょっとばかし危険だが、試してみるっきゃねーよな」

 レトが双斬を握り、ロティがすっと腕を構えた。
 そして、そのまま。
 彼は、大地を蹴り上げ飛び出した。

 「うりゃあ————————ッ!!!」

 なんと、何も技を唱える事なくロティの許へと駆けていったのだ。
 その行動に一瞬対応しきれず、彼女は思わず右腕で顔を防ぐ。
 レトは、掛け声と共に双剣で薙ぎ払う。
 
 「うッ————————ぐぅッ!!!」
 
 (————————!!?)

 ロティが技を使わなかった事に、レトは驚いた。
 そのまま吹き飛ばされたロティが前方へ飛ぶ。
 その勢いを利用して彼女は空中で一回転し、ずささーッ、と足を滑らせ止まる。
 切れた右腕の傷口から、容赦なく真っ赤な血が漏れていた。

 「お前……」
 「ぐ……ッ……流石に油断しちまった……」
 「……」
 「……まぁ、次はそうはいかねーけどな」

 彼女の不敵な笑みにどんな考えが込められているのか。
 そこまでは分からずとも、彼には少しだけ分かった事がある。
 きっとあの心操という技には、条件がある。
 ごく僅かだが全ての次元技の中で前提条件をクリアしていないと発動できない技もあるという。
 エンの真閃でいう、正確に位置を把握しないと何処かすっとんきょうな場所へ弓が飛んで行く、といったような。
 然しそこまで分かって、肝心の条件内容が分からない。
 厄介な敵だと、冷や汗を一つ零す。

 「お前面白いなぁー? 次元技なしに突っ込んでくるなんてさぁ……」
 「……?」

 長い足を動かして、静かにレトの方向へと歩み寄るロティ。
 レトは一歩下がる。双斬を構えて、ロティから遠ざかるように、一歩ずつ。

 「でも……お前じゃあたしには勝てねえ」

 彼女は、言い切った。
 すかした表情で、そう言った。
 彼女は一度だけ目を閉じて、そうしてもう一度。

 「“悲劇”を見せてやる————————————、覚悟しろよ」

 覚悟しろと言った時。
 彼女の瞳が大きく見開いた。
 小さく息を吸い込む彼女は、自身に溢れた表情だった。

 「第八次元発動——————————」

 
 (——————————ッ!!?)


 レトの心の内にいた少年が
 大きく酷く、反応する。

 まるで今から、全てを取られるかのように。

 「——————————心操!!!!!!」

 ロティがそう叫んだのと同時。
 ガシャン!!! という激しい音が、レトの耳まで届いた。 
 急な事に反応できず、恐る恐る自分の手を見た。

 そこに、双斬はなかった。

 
 「え……————————っ」


 自分の手から滑り落ちたように、
 自分の足元に、双剣が転がり落ちていた。
 カタカタと震えるそれは、次の瞬間何かに引っ張れるように前方へと飛んでいった。
 その先には、ロティ・アシュランがいた。

 「遊ぼうぜレトヴェール……————————てめぇの大事な“これ”でなぁッ!!!!」

 ロティが腕を上げる。
 宙に浮いた双斬が、震えたまま。
 今、この時瞬間で一体、何が起こっているのか。
 レトにさえ、分からなかった。

 (レト————————————ッ!!!!)

 幼く大きな怒号が、
 フリーズしていたレトを起こした。
 この声の主を、彼は良く知っている。

 (逃げるんだレト!!! 君は無事に助からない————————ッ!!!!!」)

 「双……斬……」

 (早く……ッ、レトォォ——————————!!!!!!)

 何かを切り裂くような音が鳴り響く。
 それが聞こえるまで、一体何秒かかっただろう。
 いつの間にか、レトの目の前には赤い何かがあった。
 散っているようにも見える。自分の視界を赤いものが遮るように。
 然しそこには全く別の、“物”まで見えた。

 「う……ぐはァ——————ッ!!?」

 片目だけで、視界を探る。 
 必死になって、霞んだ景色に目を凝らす。

 僅かな光の先にいたのは————————血に塗れた双剣だった。

 「ふ……ははははは!!!!! 良いぜその目!!! その表情!!! ——————————最高に楽しいなァおい!!!!」

 「……ぅ……え……——————っ?」
 
 今やっと、しっかりとした情景を目の前にする。
 腹部から血が溢れて止まらず
 目の前にはぎらりと輝く双剣の矛先があった。
 血の滴るそれが、自分に向けられた時。
 レトはやっとそれを、理解した。


 (双、斬を————————————“操ってる”!!?)

 
 と、次の瞬間。


 「いっけェエ——————————ッ!!!!」


 彼女が腕を振り下ろす。
 2本の短剣が、容赦なく自分の体を突き刺し貫いた。
 未だ震えたまま、双剣が自分を裂く。
 今まで共に戦ってきた英雄が、主人である次元師に、歯向かった瞬間。
 こんな状況、見た事もなければ聞いた事すらない。
 第三者の次元師の介入によって起こった————————“次元師”と“次元技”の“悲劇”。

 「う、ぐぁ……ッ……げほッ……ぐ、双……ざ……ッ」
  
 吐き出した血を睨む。
 目の前でそれを見ていた双斬が、叫ぶ。
 
 (今の僕には僕を止められない!!!! お願いだから逃げてレト—————————!!!!!)

 レトは、傷だらけの体で、立ち上がる。
 血に塗れた体で、それでも尚。

 目の前の英雄に、何かを訴えるように。

 「今この次元技はあたしのもんだ!!!! 次元の扉を閉じる事なんざできねーよ!!!!!」
 「……」
 「んだよ無視か? ……あぁ、なるほどな」

 何も言わないレトに、ぽんと手を打つロティ。
 にたりと、彼女は笑った。

 「“死にたい”なら、そう言えよ——————————“トモダチ”の手で、殺してやるからさァッ!!!!」
 
 彼女は声を張り上げ、腕を振り下ろした。
 双斬の声がレトの中で響いた時にはもう、遅かった。
 酷い傷口を更に抉るように、不安定な体を大きく揺さぶるように。

 今まで共に闘ってきた“英雄”の矛先が、少年の眼に焼き付いた。
 


Re: 最強次元師!! ( No.906 )
日時: 2013/04/21 13:28
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

第238次元 ずっと、昔から

 もう一度、双斬が体の一部を貫く。 
 そしてもう片方の双斬が、左腕に突き刺さって。
 まるで連続でパンチをくらうように、双斬が突き刺さり抜けて、また突き刺さる。
 黒いコートが、赤黒く染まっていく。

 (レト——————!!!! もうやめろって言ってるじゃないか!!! どうして……どうして君は……!!!!)

 涙交じりの、震えた声がこだまする。
 それとは裏腹に、2本の剣が自分に襲い掛かって来る。
 レトは、何も言わなかった。

 「う……ぐ、ぁ……ッ」

 痛いとも、やめろとも、何も。
 今双斬を動かそうにも、まるで糸で繋がれているように誰かに引っ張られている。
 そう、自分ではどうしたって動かせない。
 それなのに必死に、数千本の糸から、たった一本の糸を手繰り寄せるように。
 たった一本の希望を、掴み取るように。
 
 「は、はは……」

 彼は、小さく笑いを零した。
 ロティが眉をひそめる。
 
 「何が可笑しいんだてめェ? それともあれか、刺されすぎて可笑しくなっちまったのかァ?」

 いや、とレトはまたそう言う。
 ぐらりと不安定な足取りで、ふらふらしながらも立ったままで。
 その顔にも、金色の髪にも、赤いものをべったりと塗りつけたままで。

 「“死にたい”、か……普通なら、この状況でいっそ殺してくれ、って言うん、だろうな……って……」
 「……何が言いたいんだよ」
 「俺は……死にたいなんて、思わねーよ」

 彼は、前を、向いた。
 俯いていた顔が、起き上がる。
 閉じていた瞳が、力強く現れる。

 「やれよ、好きなだけ」
 「……!?」
 「そのかわり俺は————————それを数千倍にして返してやる!!!!」

 絞り出し張り上げた声に、全ての力を込めて。
 言い放たれたその言葉に、双斬の震えた声が響いた。

 (……れ、と……、ぼく……ぼ、くは…………ッ!!!!)

 泣き出しそうな声が、目の前にある双剣から、或いは自分の中から聞こえたような気がした。
 その弱弱しい訴えに、レトは優しく微笑みを浮かべて。
 自分の血に塗れた双斬を、掴んだ。

 (……!!?)

 「や、っぱり……しっくりくるな……お前」

 それを見ていたロティの顔が、一変する。
 憤怒に溢れた表情は、余裕の色を一切感じさせず。
 腕を、勢いよく振り上げる。

 「ふ、ざけんな…………“それ”は、あたしのもんだァ——————————ッ!!!!!」

 レトが握っていた右手の短剣が、自らぐるんと捻じ曲がった。
 その先にあったのは、レトの脇腹で。 
 レトが双斬を掴んだまま、自分で自分を刺したかのような景色が広がる。
 左の手は、ぶらんと提げられていたまま。

 「お前の……もんじゃねーよ——————————!!!!!」

 レトが、腹に刺さった短剣を抜く。
 同時に散った、鮮血。
 痛みの限界まできているのに、彼の怒号に力が入っていた。
 彼の瞳に、力が、入っていた。

 「双斬はお前のもんでも、俺のもんでもねえ……」
 
 (な、……なん……————!!?)

 「双斬は……ッ!!」

 右にも、左にも、血が煮え滾る程の強い力を。
 絶対離さないと、絶対渡さないと、そう訴えるような強き瞳で。


 「ずっと前から俺の“憧れ”で——————————俺の“友達”なんだよッ!!!!!!」

 
 その瞬間。
 レトが放った声が、空気をも砕くように。
 ロティの次元技が、崩れ落ちたように。
 たった一言の思いが————————八次元級の次元技を打ち砕いた。

 「何で……お前……今何して……!!!?」
 「てめえに言った筈だ、ロティ・アシュラン——————————」

 彼が握り締めたそれは、
 彼の憧れで、彼の友達で。
 昔、一度だけその英雄に助けられた、その時からずっと。
 
 
 「——————————俺達の“強さ”を、教えてやるって!!!!!」

 
 双剣に、全ての想いを乗せて。
 双剣に、全ての強さを乗せて。

 まるでその剣に、双斬に……“友達”に————————全てを、伝えるように。

 (まずい……くる————————!!!)

 景色の全部を巻き込んだ一撃。
 風を纏って、光を乗せて。
 渾身の力をその右手に、全て託して。
 今、一体となる。

 「……ぁ……は……ッ、あ……」

 レトはがくんと膝を落とした。
 流石に暴れすぎたな、と。
 昨日の戦闘で負った傷もまだ残っているのに。
 彼は薄ら笑みを浮かべて、煙漂う方へ、ロティの方へ目を向ける。
 灰の煙から現れたロティは、けほっ、と一つ咳を零した。
 先ほどまでの狂った様子はなく、いつになく落ち着いた面持ちで。

 「……」

 彼女は何も言わずに、ただ立ち上がった。
 肩に乗った小さな瓦礫や土を払う。
 そうして漸く、口を開いた。

 「…………何で……全部、取られなきゃいけねーんだよ……」 
 
 (…………?)

 ロティの落ち着いたような、それでいて怒りの滲み出た台詞が聞こえてきた。
 レトは双斬を構えて、ロティから目を離さずにいた。
 然し彼女は攻撃をしかけてくる様子はなく、ただのらりと、くらりと歩いていた。

 「家も……友達も……全部、全部……!!!!」
 「お、おい……お前!!!」
 「何で……何でだよ……!!! あたしが、何したってんだよォ……!!!」

 怒っているようで、泣いているようなそんな声。
 怒りに震えているのか泣いているから震えているのか分からず、ただそこで。
 ぴたっと、足を止めた。

 「何で全部————————————奪われなきゃいけねーんだよ!!!!!!」 
 
 ロティの叫びがレトの遥か後方まで響き渡る。
 彼女は、何を言っているのだろう。
 狂っているのか、まるで周りの景色が、声が彼女の中に入っていっていない。
 多分、きっとレトの姿すら見えていない。
 では一体彼女の目には、何が映っているというのだ。

 「お前、何言って……」
 「うるさい!!! お前に分かるかよ!!!! ————————“妹”さえ取られたあたしの気持ちなんて!!!!!!」

 ミル・アシュランの心臓が跳ねた。
 きっと彼女は、レトヴェールに言っているのではない。
 選手席にいる、ミルにそう訴えているのだ。
 こっちを向いていなくとも分かる。彼女の声が、そう言っている。
  
 「い、もうと…………?」
 「そうだよ、あいつが悪いんだ……全部、全部……!!!」
 「……っ」
 「そうだろ——————————なァミル・アシュラン!!!!!」

 びくっ!!、とミルの体が震え上がった。
 レトもその台詞に驚き、不覚にも震えてしまった。
 彼女の握った拳が、妙に恐ろしく見えて。

 「お前は知らねえだろ? あたしがどんな思いで毎日毎日怯えながら暮らしてたか……」
 「……っ?」
 「それなのにあいつは……ミル・アシュランは……あたしの知らないところでハルとずっと一緒にいた奴なんだぞ!!!!」
 
 ミルの震えは止まらず、額からは汗が滲み出ていた。
 ロティの言葉の数々が、一つ一つ、ミルに突き刺さっていく。

 「あたしはあいつを絶対許さねえ……!!!!」

 ロティが、両腕を上げた。
 天に向かい咲く向日葵のように、その手を大きく開いて。
 俯いたままの彼女が今どんな表情をしているのか、分からずに。
 
 「あたしと、ハルと……同じ名前を持つ資格なんて、あいつにはねえ!!!!」

 景色が歪む。
 ずどんと、大地を揺るがす怒号が鳴り響く。
 すると、会場に亀裂が出来始めた。
 何だ何だと、誰もが戸惑い観客が動揺していた時。
 
 「ハルの“姉”は————————————あたし1人で十分なんだよォッ!!!!!」

 途端、広いこの会場が崩れ始めた。
 大きな瓦礫が降ってくる。席に、地面に、大きな亀裂が入る。
 観客が怯え叫びながら避難している中で、たった1人だけ。
 桃色の髪を持つ彼女だけは、そこから動けずにいた。

 



 蒼い空。
 壊れた会場。
 割れた大地の上で、佇む2人。
 それを見守る、たった1人の少女。

 誰もいなくなった会場で——————————今、それぞれの想いが交差する。

Re: 最強次元師!! ( No.907 )
日時: 2013/04/28 15:08
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)

第239次元 姉はどちらか


 「第九次元——————————発動ッ!!!!!」

 
 長身の女性、ロティ・アシュランの怒りは止まる事を知らず。
 周りの景色どころか、彼女にはもうレトも声も届かない。
 怒りと哀しみが入り混じった声が、レトの両耳をぶち抜くように響いた。

 「——————————心操!!!!!」

 蛇梅隊戦闘部隊の、六番隊所属。
 セルナ・マリーヌの次元技は、“強加”の一つだけある。
 きっとそれと同じ型なのだろう。ロティも“心操”一つだけの次元技。
 然しそれは逆に、相手の行動次第で勝機がどちらに向くか大きく変わってくるのだ。
 それに毎度毎度技を考える時間も大きく省ける。
 彼女は他の人と違って余裕を持って戦場に出てくる事ができる、という訳で。
 きっと彼女自身の強さの理由の一つとして、それがあるのだろう。

 (……っ?)

 今までとは、違うのだろうか。
 レトヴェールの体には何の変化もない。
 また周りには動かし易そうな瓦礫が転がっているのに、全く微動だにしていない。
 何が起こるか分からない。境界線の淵際にいるような、そんな気分。
 レトの頬を一つの汗が過ぎると、同時に。

 「ぃ————————————ッ!!!?」

 小さな声が、喉にまで来て詰まった。
 苦しそうに痰を吐くが、それ以上何も出されなかった。
 喉がジリジリと焼けるように、心臓が唸りを上げるように、
 急にレトはそんな痛みを襲われた。
 その衝撃で思わず地面に膝をつく。
 
 「はは……は……そうだよ、この技はなァ」
 「うぇ……あ……ァ……ッ!!」
 「“人間の心”さえも、操る事ができんだよォ——————ッ!!」

 レトの脳裏に、一部の記憶が蘇る。
 あれは、蛇梅隊アシュランチームの試合の時。
 主将、ミル・アシュランはロティと戦っている時、妙に苦しく藻掻いているように見えた。 
 喉元を抑え、びくんと体を唸らせ、遂には何かが砕け散ったように彼女は崩れ落ちた。
 あの時の様子が、今になって鮮明に蘇る。
 そういえば、ミルもこんな状態だったと。
 彼女もこんな風に、藻掻き苦しんでいたな、と。

 「あいつとおんなじ方法でこの舞台から降りてもらうぜ、レトヴェール!!!!!」

 ミルが、俯いた。
 震えながら、涙を溜めながら、上を向く事なんかできないというように。
 苦しく散っていった自分に重ねて、レトを見るのが怖くて。
 そんな時だった。

 「あい、つは……舞台、から……降り、ちゃいねーだろ、が……ッ」

 掠れたような声。
 既に喉は潰れていても可笑しくないのに。
 喉を焼き切ったような痛みがまだ、そこで渦を巻いているのに。
 彼はまた、口を開いた。

 「……何だと」
 「ま、だ……ぃん、だろ……そこに、さ……」

 左手で腹部を抑え、右手で、ミルを指し示した。
 ゆっくりと、まるで釣り上げられているかのように、だらんと腕を動かして。

 「……お前も、あいつの味方なのかよ」

 ぼそっと、ロティが言葉を零した。
 彼女は一瞬気だるそうな顔をする。
 恨みも憎しみも、全部込めたような表情で言い放った。

 「人の妹をとっておいて、姉面して今更なんだってんだ!!! 勝手にハルを奪い殺したのはあいつじゃねーか!!!!」

 それと同時に、レトの口から血が勢い良く吐き出された。
 体がガタガタと揺れている。悲鳴をあげているのが、声に出されなくとも分かる。
 落とした双斬を苦しそうに、細い目で見ていた。
 掴む事は、できない。

 「ハルを、殺……したの、は……あい、つじゃあ、な……ッ!!」」
 「分かってる!!! どうせ研究の責任者である博士だって言いたいんだろう? でもそんな事言ってんじゃねえ!!!」
 「う……ぁッ……!!」
 「何も知らないまま10年近くハルと一緒にいて、急にハルが死んだ途端にあれだ!!! 
  十一次元なんて大層なもんぶら提げて、あいつは笑ってんだぜ!!? そんな非道な事が他にあるかよ!!!!!」
 
 幸せに満ちた毎日の先にあったのは、哀しみに満ちたあの情景だった。
 誰一人動かない。真っ白な部屋一面に塗りたくられた真っ赤な色。
 でも、あの時。
 ミル・アシュランは確かに思ったのだ。

 “何故自分だけ生かした?” と。

 仲の良かった友達が、皆、367人全員が一斉にして亡くなった。
 いや、殺された、という表現の方が正しいのかもしれない。
 自分が十一次元を得る為だけに、罪のない友達は全員逝ってしまったのだ。
 自分は何も知らなかったのに。

 「ハルを殺した挙句十一次元を手にしたあいつに、ハルの姉妹を語る資格なんてねえんだよ!!!!」
 「……ィ、ぎ……ぁ……」
 「血も繋がってないあいつが、“アシュラン”の名を背負う資格なんて、ねえんだよ——————!!!!」

 レトは未だ藻掻き苦しんでいた。
 視界が不安定で、双斬が何重にも見える。 
 確かなものを掴む事が、今の彼にも、そしてミル自身にもできはしなかった。
 彼は体の奥底から、じりじりと焼ける痛みに襲われる。
 それは、ミルも同じだった。

 「……い……か、よ……」

 震えていたミルに届いたのは、
 とても小さく弱りきった声だった。
 
 「姉妹、に……兄妹に……血の、繋がり……なんて……い、るかよ……!!!!!」

 レトの体は既にもう動かない。
 限界を超えた先にある、声を出す事さえ困難な状態なのに。
 彼の強い響きが、ミルの心にまできちんと届いた。

 「……な、ん……だと……!?」
 
 レトは、今度こそ手を伸ばした。
 届け届けと、何度心の中で唱えたか知らない。
 然し彼の指先には、冷たく光る、友達がいた。  
 ほんの少し、触れる。

 「本当の、姉がどっちか、だと……? んな、もん……もう、分かりきって……んじゃ、ねえか……」
 「……」
 「ずっと一緒に、いて……守ってくれて……まるで“姉妹”みたいに過ごしてきたのは、どっちだよ……?」

 ロティの表情が変わる。
 ミルの震えも、止まった。
 2人は同じ人間の上にいた。 
 然し片方は、血の繋がりなんてどこにもなかった。
 それでもミルとハルには、確かに繋がりがあっただろう。
 それは。


 「もう分か、んだろ……?」

 「……っ!」

 「大切なのは血じゃ、ねえ……——————————“絆”の繋がりだろうがっ!!」

 
 赤の他人。
 血の繋がりなんてどこにもなく。
 偶然にも、必然にも、出会ってしまった。
 そこから、“キョウダイ”になった。

 「…………俺だって、同じなんだよ」

 レトは双斬を掴んだ。
 動かない体を、自分を、必死に動かして。
 もう既にボロボロの体で、立ち上がった。
 彼の心はまだ、負けてはいない。

 「俺にも……——————————」

 心臓と、心の跳ねが一致する。
 この時何故かレトには。
 誰かと両次元を開く時の感覚が、不意に蘇った。

 
 「——————————“絆”で繋がった、兄妹がいんだよッ!!!!」

 
 彼の放った怒号と同時に、放たれた渾身の一撃。
 思い切り空を切る。先程とは比べものにならない程の真空波が生まれた。 
 その紅き刃は牙を剥く。
 唸りを上げて、まるで空間さえ切り裂く程の強い風を纏い。
 ロティは、動かなかった。

 「——————————ッ!!?」

 いや、動けなかった。

 彼の言葉があまりに強くて。
 分かってはいても、ずっと無視してきた気持ちを言われて。
 彼女は動く術を、一瞬にして忘れてしまったのだ。


 『アシュランっていうのは、あたしが此処に来る前のお母さんの姓……だったかな? 

  ——————ほら、“姉妹”みたいでしょっ!』


 彼女は、そんな言葉を、思い出した。


 同じアシュランの名を背負い
 同じ人物と接してきた2人は
 
 全く別の形の、“姉”だった。

 どちらも同じ、姉なのに。
 どちらも違う、姉だったのだ。

Re: 最強次元師!! ( No.908 )
日時: 2013/05/06 11:15
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
参照: 遅れました。

 第240次元 契りを果たして

 心操が解けたのか、と思わせる程の動きに思わずミルは目を見開いたまま動かなかった。
 九次元級の、あの技に。
 自分でさえ手も足も出なかったあの技を、たった一撃で。
 彼女は気付かなかった。
 自分の頬にはもう何粒もの滴が伝っている。
 熱を帯びた頬に、冷たいものが何度もそこを過ぎる。
 気付かぬうちに、彼女はずっと泣いていたのだ。

 「相手が悪かったな、ロティ・アシュラン」

 情景さえ破壊してしまいそうな一太刀で、ロティは会場さえ越えた。
 既に第2試合の時から壊れていたこの会場だが、更に会場すら消し飛んでいたのだ。
 彼の放った想いが、一撃が、そうさせたと言わんばかりに。

 「悪いけど……てめえに負ける訳にはいかねえんだよ」

 それは、人族代表になる為ではなく。
 ミルと同じ、血の繋がっていない妹がいるから。
 そしてそこには、他人では計り知れない絆があるから。
 それを証明する為に、彼は戦い続ける。
 レトは少しだけ血を吐いた。
 体中から溢れ出ていた血が、今やっと止まった。

 (れ、レト……大丈夫っ!?)

 「あ、あぁ……まぁ、お前の切れ味は最高だったけどな」
 
 身をもって体験したわ、と笑うレト。 
 双斬もばかーとか言いながら笑っていた。
 立ち込める煙の向こうにまだ、きっといる。
 そう思ったレトのへらへらしていた顔が、変わった。
 負ける訳にはいかない。
 あの言葉に、嘘なんて一つもなかった。
 
 「……」

 そんな事を思っているうちに、一人の女性が歩いてきた。
 長身にすらっとした体型。間違いなく、ロティである。
 彼女の体中に多数の傷が見えた。
 あの一撃を受けて尚立ち上がる事ができるだけで凄いというのに。
 彼女は、それでも歩いていた。
 妙に冷たいような、静かな空気が壊れた会場を包み込む。

 「……は、は……っ……“相手が悪い”だ、と……?」

 彼女は笑い出した。
 ゆらっと、体が揺れて、傷だらけで立ち上がる彼女。
 自分の血で汚れた体を起こし、立ち上がる彼。
 両者共、序盤程動ける体ではない。
 それなのに、序盤より、今までで一番と言って良い程。
 2人の腕には、全身には、力が漲っているように見えた。

 「それはこっちの台詞だぜ、レトヴェール」
 「……っ?」
 「お前に——————————勝ち目なんてねえよッ!!!!」

 ぶんッ、とロティが腕を振り下ろした。
 その時周りに転がっていた2つの岩が浮き上がり、猛スピードでレトへ向けて放たれた。
 然しその岩はレトの顔ではなく、両肩辺りにぶつかる。
 そのまま勢いで後方に押し戻され、そして。

 「——————ぅぐぁッ!!?」
 
 後ろに佇んでいた、大きな瓦礫で背を打った。
 まるで瓦礫が磁石で、岩が砂鉄の役割を果たすように。
 引き合わされた2つによってレトは背中を打ってしまった。
 それも岩は彼のシャツを挟んで瓦礫に突き刺さっている状態。
 抜け出そうにも、抜け出せない。

 「図に乗るなよ、ガキが。黙って聞いてりゃ、ガキが説教ばっかしやがって」

 悠々と歩く彼女は、手に小さな岩をまた2つ持っていた。
 びゅんという音に乗せて、その岩は丁度レトの腕辺りに飛んだ。
 小さな衝撃音が響き、レトは薄く目を開いて腕を見た。
 強い引力のようなもので、全く腕すら動かなくなってしまった。
 必死に動かそうとするが、怪我をしている上並の次元級ではないのだろう。全く動く気配がしない。
 
 (“心操”……————やっぱり、こういう次元技か)

 レトは今ここで、やっと理解した。
 心操とは、つまり心を操ると読んで字の如くな訳だが。
 心のない岩や真空波を打ち砕く所を見ると、心を操るだけではないらしい。

 つまり、心を“加える”。

 心を加えられた岩は自由気ままに動くだろうが、その岩の心を操れば後は簡単。
 その心を操り、今度こそ自由に使う事ができる。
 多分これは継続効果を持つ次元技なのであろう。

 最初にレトが次元技無しで攻撃を仕掛けた時、ロティは太刀打ちできなかった。
 それは多分、次元技には心がない事を知っていて、心を加えるという手間を取っていたから。
 そして心のある英雄大六師に直接攻撃を仕掛けられ、戸惑ってしまったという訳である。
 真空波は物質だが、ただ斬るだけなら物質ではなくそれ自体の“動き”になる。
 だからその後に、いっそ双斬自身を操ってしまえば良いと考えたのだろう。
 それは、レトと双斬の間にあった絆によって打ち破られてしまったが。
 そうこうしている内に、ロティはレトの前でぱったり足を止めた。
 
 「遊んでやるよ————————冥土の土産にな!!!」
 
 と、その時。
 ロティの長い足が、レトの腹部をまるでボールを蹴るように蹴り飛ばした。
 彼の口からまた、血が吐き出される。
 ただでさえ双斬にやられた傷口がぱっくり開いているのだ。
 その傷口に痛みを超えた衝撃が加えられ、彼は声さえ出せなかった。
 
 「苦しいかァ? そうだよなァッ!!? ——————それがあたしの苦しみなんだよッ!!!!」

 そしてもう一発、二発と弾丸をぶち込むように蹴りを入れる彼女。
 レトの頭がだらんとしたまま動かず、耐えられない痛みに襲われていた。
 開いた傷口から、だらだらと血が流れる。

 「……ぅ、ぐ……!!」

 彼の体から出るそれは、やがて地面に流れそこを真っ赤に染め上げていく。
 額から漏れた血が、頬を伝って、ぽたり……ぽたりと、落ちた。

 「あァ? おいおい死んだのかよ」

 「……」

 レトの口から、否定な声は出ず。
 溢れるのは、止められず零れた血の塊ばかりだった。
 ロティは、調子が狂ったようにわざとらしく肩を大げさに竦める。
 この時彼女は、気付かなかった。
  
 「つまんねーなぁ……もう少し遊ばせてく————————」


 レトの足元に、双斬が転がっている事に。


 「————————何ッ!!?」

 
 レトは足で、それを蹴り上げる。
 宙に浮くそれの柄を、噛み砕くように口で挟んだ。
 そうして。

 「————————うぁあッ!!!?」

 ロティの体を思い切り横薙ぎするように。
 口で掴んだ双斬を、大きく振り切った。
 勢いに乗って斬り飛ばされた彼女は、あまり遠くには飛ばず。
 然し首から少し下、胸に近い辺りに大きく切り傷が刻まれていた。
 
 (あ、あんな力……ど、こに……ッ!!?)

 彼女は飛び散った自分の血を睨む。
 中盤辺りから、既に体はもう動かない程ボロボロで。
 神でもない限り、あのような体力や精神力の保持は在り得ない。
 傷だらけの彼のどこに、そんな力があったというのだろうか。

 ガラン!! という音が響く。それは双剣の落ちる音だった。
 乱れた呼吸で、レトは自分の血溜まりに落ちた双斬を見た。
 共に闘ってきた英雄を、その剣に重ねて見た。

 「ぁ、は……ぁっ……はぁ……っ」
 
 何度息を吸い、何度息を吐いても、楽になる事はなかった。
 苦しく呼吸を繰り返す彼は、ふっと顔を上げる。
 血が滴る顔で、にっと笑ってみせた。

 「負け、ねえよ……」

 自信に溢れた声が、ロティの耳に届く時。
 レトは、拳に力を入れて言う。


 「“あいつら”との……————————約束、だからな」

 
 綺麗な青空を仰ぐ彼の顔は、とても涼しげに見えた。
 まだ温い夏風が彼の頬に当たって、体に溶け込むように纏い離れていく。
 彼はとっくに契りを交わしていたのだ。
 負けはしないと。
 
 遠くにいる彼女へ、或いは隣にいた大事な人へ。
 彼の微笑みは、心地の良い夏風に溶ける。

 
 
 
 そんな、時だった。




 「——————————————っえ?」




 蒼い空の上に
 白い雲の上に


 
 幼い葉を連想させる
 淡い緑の少女が、そこにいた。

Re: 最強次元師!! ( No.909 )
日時: 2013/05/12 12:09
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 2DX70hz7)
参照: 遅れました。

第241次元 恨みの矛先

 
 彼女はそこで、佇むようにして立っていた。


 彼は彼女を知っている。
 彼は、彼女を知っている。


 「————————?」

 何かを見つめたまま動かないレトに、ロティは首を傾げた。
 目を見開いたままの彼は、そこから全く動かなかった。
 ロティは、そんな彼の姿を睨む。

 「余所見……してんじゃねえーぞッ!!!!」

 大地から跳び上がった彼女はレトの許へ前進する。
 そして彼は、気付かない。

 「——————ッ!!?」

 足に衝撃を受けた彼は反応が遅れ、再び痛みをその身に感じた。
 掠れた視界の奥にまだ、彼女が立っていた。

 「ロ……ぅ、く……っ」

 (……? な、なんだこいつ……さっきから何見て……)

 ロティは拳を握り締め、ぐっ、と力を入れた。
 何があったかは分からない。
 然しこれ程の好機はもう来ない。
 彼女は大きく振りかぶった。


 「……————————————ロクッ!!!!!!」


 然し、彼女はそんな声に驚き、思わず退いてしまった。
 彼は今、何か叫んだ。
 その意味は分からないが、何かに気を取っていかれたようにずっと一点を見ていた。

 「ん……————、ッ!?」

 その時。
 レトは、その腕に力を入れ始めた
 血管が浮き上がり、塞いでいた小さな傷口からまた血が溢れ出る。
 にも関わらず、彼は何かを我慢するように、腕に全力を託していた。

 そして。

 「ぅぐ……っらぁ——————ッ!!!!」

 岩を、次元技を、ぶち破った。
 飛び上がった岩をも無視して、物凄い速さでロティの横を過ぎる彼。
 何が起こったのかすら分からず、ロティはただ固まっていた。
 漸く指がぴくりと動いて、咄嗟に後ろを振り向く。

 そこには。

 「ロク————————————!!!!!!」

 声を張り上げ、泣き出しそうな目で叫ぶ彼がいた。
 追いかけて、足引き摺って、溢れる血も止めずに走って。
 ただ、たった一人の少女を、見つめていた。

 空にいる彼女は口を開いた。
 声には出さず、口だけで何かを伝えようとしていた。
 ただ少しだけ、本当にほんの少しだけ、微笑んで。

 
 「———————————えっ?」

 
 彼女は、言葉を言い終わって笑ってみせた。
 ふわりと、蒼い空に呑み込まれてしまうくらい儚げな笑みを浮かべて。
 レトはずっと、そこで何も言わず立っていた。空だけを眺めて。

 「……」
 「……くッ……余所見をすんなって……————言っただろうがッ!!!!」

 そして忘れ去られていたロティが急反転し、レトの許へ走る。
 自分を忘れておいて、意味不明な事ばかりを起こす彼の許へ。
 レトは振り向きもしない。ロティがにやっと笑ったとき。

 「……な……————ッ!?」

 レトは、体を屈めロティの足を引っ掛けた。
 見事盛大に転んだ彼女を余所に、彼はまた走り出す。
 双斬に手を伸ばし、掴んだところでまた反転。
 すぐ目の前に迫っていたロティが操る、瓦礫と対峙する。

 「何見てたか知らねえが……余所見ってなァ相手に失礼だぜ? おい……!!!」
 「あぁ……わりいな」

 レトがふっと空を仰ぐと、そこに彼女はいなかった。
 幻だっただろうか。いいや、そんな訳はないと。
 何度も葛藤を繰り返し、そして、彼女の言葉を思い出す。

 「なぁ……ロティ」

 彼の声は普段よりも落ち着いていて、どこか安心のした声色だった。
 呼びかけるように、優しく諭すように放った言葉に、ロティが不機嫌そうに応える。

 「……あァ? んだよ」
 「お前は、本当に——————————ミルを恨んでんのか?」

 思わぬ言葉に、ミルもロティも驚愕の表情を作り出す。
 一瞬の間を置いて、ロティは少しだけ笑い飛ばした。
  
 「は……何言ってんのお前? さっきから散々言ってるけどなァ————」

 「————————お前が恨んでいるのは、“自分”なんじゃねーの?」

 レトの声が、妙に落ち着いている事に彼女は気付いた。
 そして、彼の放った言葉に、一瞬心が揺らいだ。
 何言ってるんだと、言う事もできずに。

 「目の前で、妹を助けられなかった自分に……腹が立ってるんじゃねーのかよ」
 「……ば、バッカじゃねーの……!!? ふざけた事抜かしやがって!!!」
 「お前も俺も多分一緒だ。妹一人助けられなかった自分が……情けなくて仕方ねえんだろ?」
  
 レトは思い出す。
 雨の中で、義妹が放った言葉を。
 雨の中で、振り払われた右手の虚しさを。
 
 自分の非力さ故に、助けられず、ロクの涙を見た自分を。

 「悔しさも悲しさも、全部全部ミルのせいにしたって————————何も解決しねえのに!!!」

 自分の悔しさも、悲しさも。
 全部全部、ゴッドのせいにしたって、何も変わりはしない。
 あの時、ロクを連れていった彼を恨んだって、何も解決しない。
 分かっていたから、気付いたから言える。
 同じ境遇にいるロティに、言える。

 「うるせえ……うるせーんだよ!!!!」
 「……!?」
 「お前とあたしが一緒……? 自分に腹が立ってる……? 何言ってんだてめえ!!!!」
 「いいかげん目覚ませって言ってんだ!!」
 「できるかよ!!! ハルの名前だって、知ったのはあいつが死んでからだ!!! どれだけ長い間苦しかったか知らねーくせに!!!!」

 ロティの岩が、レトの双剣を弾いた。
 傾く彼は後方に滑り、自分を睨むロティを見る。
 そんな2人の姿を、一言も発さないまま、一人ミルは眺めていた。
 
 「ああ……知らねーな、んな事」

 レトが双斬を握り締めるのと同時だった。
 ミルの心が、少しだけ跳ねたような気がしたのは。
 その背中が、その立ち姿が、何より綺麗だと思ったのは。

 「でも……俺は知ってる——————ミルの強さなら、知ってる!!!」
 
 「……————っ!?」

 「きっとあいつは——————お前の数倍苦しんでたんだ!!!」

 ミルは、小さな声を漏らした。
 彼女は震えて、乾いた頬にまた、滴を零す。
 その途端、ロティは走り出し、レトの懐に飛び込んだ。
 同時に空中でまわって、自分の足をレトの顔に叩き込んだ。
 反応に遅れたレトが横に飛ぶ。
 凹凸のある地面を転がり、小さな石にぶつかって少し跳ねそこで倒れ込んだ。
 ロティは、ゆっくり歩く。
 
 「はぁ……? ミルが、苦しんでた……? 何言ってんだよ……ぶっ殺すぞガキ!!!!」
 「大、事な……友達の、為に……あいつは、あいつは……十一次元を使う事を、決め……たんだっ」

 げほげほと砂を吐く。
 声を出す事さえ、口を動かす事でさえ激痛が走る。
 そんな喉で、彼は思いを言い放つ。

 「だ、誰も……誰の死も……——無駄にしない為にっ!!」
 「見え透いた嘘……ついてんじゃねーよ!!!!」
 「嘘じゃ……————ねえッ!!!!」

 立ち上がったレトは、ロティの体を斬り飛ばす。
 剣を取り巻く風の勢いと素早い太刀が、ロティを襲う。
 彼女は思い切り背中を打つ。
 そして腕に力を入れて、咄嗟に上半身だけ起こした時。

 「嘘じゃねーんだよ、ロティ・アシュラン」

 
 目の前には、レトがいた。


 「——————もう分かってんだろ? お前も、あいつと同じ“姉”なんだからよ」


 レトは剣を薙ぎ払う。
 あの日。恐ろしく恨んだ自分の右手で。
 まるで今までの罪を、哀しみを、苦しみを、消し飛ばすかのように。
 力の入らない腕に必死に血を通わせて、必死に全身の力をその右手に込めて。
 彼の景色が歪んでしまう程、全てが無に還った瞬間だった。


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