コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 最強次元師!!【※新スレ作成におけるお知らせ有り】
- 日時: 2015/03/15 09:40
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: u/FYQltH)
- 参照: http://ncode.syosetu.com/n5050ci/
運命に抗う、義兄妹の戦記。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
基本毎週日曜日に更新!
※追記
実は、本作を一から書き直そうと思いまして別サイト様にて“完全版”を再連載し始めました。
やりたい話が多くて一度断念してましたが、やっぱり優先しようと思ってもう一度記載致します。
ご興味のある方はどうぞ! 上記のURLで飛べます*
とってものんびりと、更新する予定です。
Twitterの垢をつくってみました→@shiroito04
イラストとか宣伝とかを呟いてます!
※注意事項
・荒らし・中傷はお控え下さい。
・チェンメなんかもお断りしてます。
●目次
prologue >>001
第001次元 >>002第011次元 >>012第021次元 >>048
第002次元 >>003第012次元 >>013第022次元 >>050
第003次元 >>004第013次元 >>019第023次元 >>052
第004次元 >>005第014次元 >>020第024次元 >>055
第005次元 >>006第015次元 >>021第025次元 >>059
第006次元 >>007第016次元 >>025第026次元 >>060
第007次元 >>008第017次元 >>027第027次元 >>063
第008次元 >>009第018次元 >>030第028次元 >>065
第009次元 >>010第019次元 >>044第029次元 >>070
第010次元 >>011第020次元 >>046第030次元 >>071
第031次元 >>072第041次元 >>146第051次元 >>224
第032次元 >>077第042次元 >>169第052次元 >>230
第033次元 >>081第043次元 >>176第053次元 >>234
第034次元 >>082第044次元 >>179第054次元 >>241
第035次元 >>090第045次元 >>180第055次元 >>245
第036次元 >>097第046次元 >>189第056次元 >>260
第037次元 >>104第047次元 >>191第057次元 >>262
第038次元 >>108第048次元 >>203第058次元 >>264
第039次元 >>109第049次元 >>209第059次元 >>268
第040次元 >>138第050次元 >>216第060次元 >>274
第061次元 >>298第071次元 >>359第081次元 >>385
第062次元 >>300第072次元 >>361第082次元 >>388
第063次元 >>308第073次元 >>365第083次元 >>391
第064次元 >>337第074次元 >>369第084次元 >>393
第065次元 >>338第075次元 >>370第085次元 >>399
第066次元 >>339第076次元 >>371第086次元 >>402
第067次元 >>345第077次元 >>377第087次元 >>403
第068次元 >>346第078次元 >>378第088次元 >>413
第069次元 >>352第079次元 >>380第089次元 >>414
第070次元 >>353第080次元 >>383第090次元 >>417
第091次元 >>420第101次元 >>448第111次元 >>480
第092次元 >>421第102次元 >>450第112次元 >>484
第093次元 >>422第103次元 >>458第113次元 >>489
第094次元 >>427第104次元 >>459第114次元 >>495
第095次元 >>431第105次元 >>467第115次元 >>499
第096次元 >>432第106次元 >>472第116次元 >>501
第097次元 >>433第107次元 >>475第117次元 >>502
第098次元 >>436第108次元 >>477第118次元 >>504
第099次元 >>444第109次元 >>478第119次元 >>507
第100次元 >>445第110次元 >>479第120次元 >>508
第121次元 >>509第131次元 >>544第141次元 >>558
第122次元 >>510第132次元 >>546第142次元 >>560
第123次元 >>511第133次元 >>547第143次元 >>563
第124次元 >>512第134次元 >>551第144次元 >>564
第125次元 >>520第135次元 >>552第145次元 >>565
第126次元 >>521第136次元 >>553第146次元 >>576
第127次元 >>528第137次元 >>554第147次元 >>590
第128次元 >>533第138次元 >>555第148次元 >>595
第129次元 >>534第139次元 >>556第149次元 >>608
第130次元 >>536第140次元 >>557第150次元 >>623
第151次元 >>631第161次元 >>683第171次元 >>759
第152次元 >>632第162次元 >>711第172次元 >>760
第153次元 >>633第163次元 >>719第173次元 >>762
第154次元 >>637第164次元 >>726第174次元 >>764
第155次元 >>643第165次元 >>739第175次元 >>766
第156次元 >>655第166次元 >>749第176次元 >>768
第157次元 >>659第167次元 >>753第177次元 >>769
第158次元 >>664第168次元 >>754第178次元 >>770
第159次元 >>665第169次元 >>755第179次元 >>771
第160次元 >>680第170次元 >>758第180次元 >>772
第181次元 >>773第191次元 >>788第201次元 >>813
第182次元 >>775第192次元 >>789第202次元 >>814
第183次元 >>776第193次元 >>792第203次元 >>826
第184次元 >>777第194次元 >>793第204次元 >>832
第185次元 >>778第195次元 >>794第205次元 >>835
第186次元 >>781第196次元 >>795第206次元 >>841
第187次元 >>782第197次元 >>798第207次元 >>853
第188次元 >>783第198次元 >>802第208次元 >>854
第189次元 >>784第199次元 >>803第209次元 >>855
第190次元 >>785第200次元 >>804第210次元 >>858
第211次元 >>862第221次元 >>883第231次元 >>897
第212次元 >>868第222次元 >>884第232次元 >>898
第213次元 >>873第223次元 >>888第233次元 >>901
第214次元 >>874第224次元 >>889第234次元 >>902
第215次元 >>875第225次元 >>890第235次元 >>903
第216次元 >>876第226次元 >>892第236次元 >>904
第217次元 >>877第227次元 >>893第237次元 >>905
第218次元 >>878第228次元 >>894第238次元 >>906
第219次元 >>879第229次元 >>895第239次元 >>907
第220次元 >>882第230次元 >>896第240次元 >>908
第241次元 >>909第251次元 >>929第261次元 >>955
第242次元 >>913第252次元 >>930第262次元 >>956
第243次元 >>914第253次元 >>933第263次元 >>957
第244次元 >>915第254次元 >>947第264次元 >>958
第245次元 >>916第255次元 >>948第265次元 >>959
第246次元 >>917第256次元 >>949第266次元 >>960
第247次元 >>918第257次元 >>951第267次元 >>961
第248次元 >>919第258次元 >>952第268次元 >>962
第249次元 >>921第259次元 >>953第269次元 >>963
第250次元 >>926第260次元 >>954第270次元 >>964
第271次元 >>965第281次元 >>977第291次元 >>988
第272次元 >>966第282次元 >>978第292次元 >>989
第273次元 >>967第283次元 >>979第293次元 >>990
第274次元 >>968第284次元 >>981第294次元 >>991
第275次元 >>969第285次元 >>982第295次元 >>992
第276次元 >>970第286次元 >>983第296次元 >>993
第277次元 >>973第287次元 >>984第297次元 >>994
第278次元 >>974第288次元 >>985第298次元 >>995
第279次元 >>975第289次元 >>986第299次元 >>996
第280次元 >>976第290次元 >>987第300次元 >>997
※第301次元〜は新スレにて連載予定
●おまけもの●
●資料集など
皆のプロフィール1 >>218
皆のプロフィール2 >>278
皆のプロフィール3 >>287
皆のプロフィール4 >>288
皆のプロフィール5 >>289
皆のプロフィール6 >>503
主な登場人物 >>852
さいじげテスト。 >>843
最強次元師!! について >>58
●番外編
キールアの想い >>41
メイド喫茶祭り① >>327
メイド喫茶祭り② >>331
メイド喫茶祭り③ >>341
友達の証① >>492
友達の証② >>493
友達の証③ >>494
疎外少年と次元少女① >>810
疎外少年と次元少女② >>811
疎外少年と次元少女③ >>812
蛇梅隊DE☆大集合!! >>829
E FIEDLA >>941
英雄と妖精 >>945
●外伝
第001時限 >>942
第002時限 >>943
第003時限 >>944
●キャラ絵(1人)
奏様が描いて下さったルイル >>116
奏様が描いて下さったティリ >>105
奏様が描いて下さったロク >>119
奏様が描いて下さったロク(舌出しVer.) >>185
奏様が描いて下さったロク(ポニテVer.) >>523
奏様が描いて下さったキールア >>127
奏様が描いて下さったアリル >>141
奏様が描いて下さったリリアン >>148
奏様が描いて下さったミル >>154
奏様が描いて下さったフィラ副班 >>162
奏様が描いて下さったレト >>168
奏様が描いて下さったレト(メイド服Ver.) >>329
奏様が描いて下さったガネスト >>304
奏様が描いて下さったガネスト(メイド服Ver.) >>318
奏様が描いて下さったアルア >>460
●キャラ絵(複数)
奏様が描いて下さったレト、ロク、キールア >>693
奏様が描いて下さったエン、ミル、リルダ >>737
☆奏様には毎度ご感謝しております!!
すごく似ていて、イメージ通りです
キャラの絵が分からない場合には奏様の絵を見て下されば納得します!!
これからも描き続けてほしいですね、是非とm((黙
●お知らせなど
* 2009 11/13 執筆開始
* 2013 09/01 執筆中断
* 2014 01/17 執筆再開
* 2014 10/19 別サイトにて再連載開始 >>980
* 2015 03/15 新スレ作成におけるお知らせ >>998
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- Re: 最強次元師!! ( No.975 )
- 日時: 2014/05/18 22:38
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Rts1yFTc)
第279次元 英雄達が生きた時代 後編
それは突然の事だった。
男に何故止めなかったんだと迫っていた双斬の耳に届く轟音。
その音に、誰もが顔を向けた。
『え……————?』
風が、一気に炎を巻き上げる。
台風の域は超えていた。
国中に溢れる炎を風に乗せて、天へ天へ、高く風の柱は昇っていく。
豪風は、天気までもを変えて————一斉に暴れだす。
たった、一瞬の出来事。
巻き上げられた炎を、風は覆い包んでいく。
国の天上へ広がり、平らになった風が回転の速度を上げて、横に凪いだ。
しゅるるるっという激しい音で、炎は見事に掻き消えた。
国中を巻き込む程の大火が、煽るだけのはずであった風の力で、消えた。
『き、え……た……?』
『奇跡だ!! 奇跡が起こったぞーっ!!』
『神様なんていないと思っていたけど……風の神はきっといるんだわ!』
『願いが叶ったぞォっ!!』
違う。
そんな筈ない。
神でも、それは奇跡でもなんでもない。
英雄大六師が良く知る————ただの少女の面影が過ぎる。
『リール————————!!』
双斬は急いで、燃え尽きた国の中へ駆けた。
生きている人が何人もいる。死んでいる人は、いなかった。
良かった、奇跡だと、口々に国民は言葉を涙と共に零す。
でも、いくら探しても風皇はいなかった。
『ど、どこに……』
双斬は、ふと思い出した。
風皇と、遠い昔に話した事を。
『へえ……ここが、教会?』
『そうだよ! 女の人と男の人が、ケッコンとかするんだって』
『そうなんだっ』
『うん、お祈りもするんだよ! あとここの教会はね……』
『?』
『レイチェルの、丁度真ん中にあるんだ! だから……——』
“——レイチェルを、全部全部見渡す事もできるんだよ!”
教えなければ良かった。
もし言わなければ、確かに死人は出ていたかもしれない。
でも、君が死ぬ事はなかった。
君が、灰になる事は、なかったんだ。
『り、ぃー……る……?』
見つけた。
彼女は、教会にいた。
2人で、誰にもバレないように階段を上がって、見渡した景色。
2人で見た夕焼けを、今でも双斬は忘れていない。
綺麗で、儚くて、泣いてしまいそうな程、切ない景色。
『……り、ー……ひっ……っくぅ、りー……るぅ……!』
鐘の目の前で、彼女は息を引き取っていた。
『リールゥ————————!!!』
煙を、吸い過ぎた代償だった。
既に彼女は倒れていて、返事はしなかった。
何度も体を揺さぶった。何度もその名前を叫んだ。
でも彼女が、彼に笑いかけなかったから。
どんなに辛くても笑っていた彼女が、笑わなかったから。
死んだのだと、気付かされた。
『なんで……? 何で、よォ……リー、ルぅ……ぼ、僕は……——っ』
まだ“好き”だって、言ってないんだ。
君に全部、伝えてないんだよ。
『リール……っ』
彼の涙は、無情にも、彼女に届かなかった。
閉じた瞳。凍った体。
動かない、軽い肢体。
二度と、その目が開かれる事はない。
二度と会えない。二度と伝えられない。
もう、何もかも、遅すぎた。
その後、双斬は百槍に油庫の居場所を問い質したドルギースの主将を無残にも斬殺。
雷皇と炎皇はレイチェル以外の国をドルギース軍の手から全て守り切る。
裏で動いていたドルギース国軍の暗殺部隊を一人残らず片付けた、光節。
百槍はドルギース軍を欺き、内側から軍全体をたった一人で殲滅。
風皇がレイチェル国民を救い上げ、何百もの兵を救った事から、彼女も栄誉を称えられた。
メルドルギース再戦から1年。
戦争はドルギースが降伏し、幕を閉じた。
そして双斬達は、“英雄大六師”という称号を国から授かる事になった。
レイレスを始めとする4人と、戦中で命を落としたリールを含めて。
戦争が終戦を迎えた朝。
とても儚くて、寂しい朝だった事を双斬も覚えていると言った。
「そうか……風皇、いやリールが……」
「うん……戦争は勝ったけど、それも停戦状態でね……」
「へえ……」
「色々ごたごたしてたけど……あっという間の一年だった」
国に帰った双斬達は、また悲劇をその目に見たといった。
本当に心休まる日はなかった。
裏切り者として、百槍はメルギースから追放された。
英雄大六師の称号を受け取ると共に彼女は姿を消した。
最も、苦しかったのは彼女本人で。
自分が風皇を殺したのだと、酷く悲しんでいた。
その後、メルギース屈指の二大英雄アディダス・シーホリーが悪魔の血を覚醒させ死去。
それも同じく英雄として彼女と肩を並べていた、レイチェル王国の王子が手を下したと聞く。
ポプラ・エポール。彼はアディダスの幼馴染でありながら、暴走した彼女を止める為に刺殺。
その光景を見ていた百槍はポプラを殺しにかかるが、出来なくて。
ポプラには非難の声は上がらず、よくやったと国中が嬉々としていた。
人を殺めて、殺められてが何年も続く。
双斬は、目を細める。
「気が付いたらもう……神人世界大戦の直前だったよ」
「確か0032年、だったか?」
「うん……」
英雄大六師は、歯も立たなかったという。
当時元魔はいなかった。然し神族を相手にしただけで、全滅した。
後にゴッドが力を解放して、人類は4割程人口を失ったと言った。
何故だか精霊として蘇った双斬達は、千年後に現れるレト達を待っていた。
理由は分からない。ただ直感的に、この人だと決めていたのだろう。
「随分長く話し込んじゃったけど……まだまだ、こんなもんじゃないよ」
「長いんだな……本当に」
「うん、長かった」
「……辛かっただろ」
「……うん、辛かった」
双斬が、泣いたように見えた。
大切な人たちが、次々に倒れていく時代だった。
死んでいく。屍はただ、増えるばかりで。
涙を流したって、死人は戻ってこないのだと教わった幼少時代。
何度足掻いたって、過ぎた時間は戻ってこないのだと痛感させられた少年時代。
たった十数年の人生だった。
あっという間に恋をして、護って、戦って、血を流し続けて、死んだ。
息つく暇もない程、日々は駆け足で過ぎていった。
やっと双斬、レイレスは、へらっと笑った。
「ごめんね、こんな暗い話」
「いや、俺こそ……こんな簡単な事で、弱音なんて吐いて」
「レト……」
「自分が恥ずかしいよ……まだ俺は、ロクを失ったわけじゃないのに」
「……」
「後悔しない……俺は俺の戦い方で、強くなるよ」
時間は戻らない。過ぎた時間を欲しがったって、もう手に入らない。
悔いのないように、また剣を握るよとレトは言う。
もう諦めないから、そう笑った。
「双斬の話、聞けて良かったよ」
「うん、僕も何だか懐かしくて……思い出せて良かった」
「ありがとな……きっと次は————俺達の番なんだ」
「うん……信じてるよ、レトの事も、皆の事も」
双斬は虚空に消える。
泣きたかっただろうに、幼い彼は泣く事もしなかった。
レトはふわぁ、と口を間抜けに開いて、欠伸をした。
よし。力を、入れ直して。
日は昇った。
長い夜は終わりを告げる。
レトは早朝から既に別荘から姿を消していた。
戦乱の時代は終わった。
誰かを裏切って、殺して、泣いて、喚いた時代はもう過ぎた。
双斬達の、レイレス達の涙を乗り越える為にも、レトは踏み出した。
強くなる。諦めたりしない。
もう、迷ったりしない。
レトは、荒れた獣道を、駆け入っていった。
- Re: 最強次元師!! ( No.976 )
- 日時: 2014/05/25 09:12
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Rts1yFTc)
第280次元 神、再び
「——くらァ!!」
双剣は吠える。
切り裂かれた巨体は、その場に倒れ砂と化した。
レトヴェールは、ふうと一息をつく。
完全に隊服を脱ぎ捨てた姿で、森の中をうろついていた。
(凄いやレト! 今日だけでもうじゅ……12匹?)
「13匹な。……はあ、疲れた」
(元力は使ってないけど、体力は相当持ってかれたんじゃない?)
「そうだな……」
朝から正午を過ぎて、昼頃。
元力を使わず剣術のみで元魔と戦い続けたせいか、大分状況には慣れたレト。
然し未だに第二覚醒の意図は掴めず、がむしゃらに元魔を斬り続けてきた。
一体こんな事のどこに意味があるのだと、飽きれ始めた頃。
(————レト後ろ!!)
双斬の声が心の中でわっと広がった。
後ろを向く。迫る元魔の腕。
次の瞬間————————元魔の喉元に細い何かが突き抜けた。
「え……!?」
レトの頭上を影が覆う。ゆらりと、元魔が倒れ込んできた。
横へ跳んで、ドンという衝撃が大地を揺らす。
土埃は舞った。
「——大丈夫? レト」
元魔の大きな背中の上で、槍を片手に少女は立っていた。
よっ、と元魔から降りると、金髪を靡かせて彼女は笑みを零す。
「キールアお前……えげつないな」
「そう? 割と普通じゃない?」
「元魔がそろそろ動く……ちょっと離れてろ」
「うん。……レト、見つけた? 第二覚醒のヒント」
「ん……まだだよ」
起き上がる元魔が、太陽を隠す。
剥き出しの牙。開かれる大口。
腕は、伸びた。
「ウアア————!!」
「————うらァ!!」
だっと駆け出して、一撃。
難なく元魔の体を斬りつける。飛び散るは鮮血。元魔はよろめいた。
続いてキールアが、くるくると器用に槍を回して、
「はァ——!!」
しっかりと、握りしめて。
切っ先はレトが傷をつけた腹部に向けられた。
槍は突き出された。
「ウガアアア—————!!」
地面を叩く腕。2人は衝撃で吹っ飛んだ。
土埃は舞う。レトは咄嗟に顔を防いだ。
その時。
(しまっ——!?)
元魔の両腕が、自分を覆った。
「————レト!!」
刹那。
元魔の野太い両腕が、レトにのしかかる直前。
一本の槍が、上から迫る両腕を下から押し返していた。
キールアは、苦しそうな表情で元魔の腕を抑える。
「キール……っ!?」
細い腕が震える。力を抜いて一瞬、元魔を押し返した。
「大丈夫!? レトっ!」
「え、ああ……」
キールアの表情が柔らかく綻んだ。
安心して、レトも立ち上がる。
(俺が……俺がしっかりしないと……)
双斬を握る手に、力が入った。
起き上がる元魔に切っ先を向ける。
「うらァ!!」
元魔に斬りかかる。斬る。貫いて、一撃、元魔の巨体は九の字に折り曲がった。
鮮血を浴び、彼はぐるんと回って、双斬を振り上げた。
斬りかかろうとした所で、不思議な“声”が、それを妨げた。
「楽しそうな事やってんなァ————————レトヴェール?」
鋭い刃を、止めた指先。
その指から伸びる、長い長い爪と。
無造作に伸び切った黒髪を、適当に束ねた髪型。
肌を曝け出した、涼しそうな格好に、口から零れる牙。
レトは、驚いて退いた。
「は……? ————あ、アニル……!?」
動物の神、【ANIL】。
彼女はにやっと口元に笑みを浮かべて立っていた。
「死んだ、はずじゃ……」
「バーカ。第一神族は転生できんだよ、意識もそのまんまになァ?」
「そうじゃねえ! 何でまた……っ」
「ここは“有次元”……神の生きる世界だぞ? 人間界にこそ行けねーが、ここでは生きられる」
「何だと……?」
「お前何も知らねェのな。……はぁ、ったく何でこんな奴の為に……」
アニルはぶつぶつと何か言葉を零しているようだった。
しかし、レトはそれどころではない。
一度、二度、負けた相手。
彼女が生きている間に、彼女に勝てた事が一度もないレトは、悔しさに奥歯を噛み締めた。
「ほら、この腕輪が見えんだろ」
「腕輪?」
「これは、人間界に行く事を禁ずる為の“枷”だ。マザーの奴につけられてよォ」
「マザーが?」
「今神族でこれがついてんのは3人。このアニル様と、グリンと、ワルド、ってな」
「じゃあ残りの2人も有次元に!?」
「ああ。マザーは、神族の転生自体を止める事はできねェからな」
「……生み続けるだけ、って事か?」
「そ。まあその代わり、こうやって人間界へ行かせなくする事はできるみてェだけど」
金に装飾された腕輪。それを、アニルはつまらなさそうに腕を回して示した。
それはマザーの元力によって、神族達を抑圧する為に最近開発したものだそうだ。
もし神族が転生をしても、人間界へ行かせないようにと。
「じゃあゴッドとデスニーは……?」
「あいつらはまず、ここに戻ってこねェからなァ……難しいんじゃねェ?」
「……なるほどな」
「んでんで? 何やってたワケ? レトヴェール」
「ああ? 単に、次元技を使わないで元魔を倒していくっていう修行だけど……」
「修行だァ? ……ふーん、そゆことねェ」
アニルの猫目が、じろじろとレトの顔色を這う。
彼女は、なるほど、と呟いて、楽しそうにまた笑った。
「あいつが言ってたのはこの事か……楽しそうじゃん!」
「? あいつって?」
「気にすんなっ、どの道関係ねェから」
「?」
「という事でその修行、混ぜろよ」
は、とレトの頭は真っ白に還る。
彼女の爪が、ぎゅいんと、伸びた。
地に滾った猫のような目が、一瞬レトを捉える。
「な、何言って————っ」
「うだうだしてたら死ぬぞ——!!」
爪は伸びた。5本の針のようなそれは、レトに振り掛かった。
それでも掠めた。瞬間の判断で、レトは横へ跳んだ。
近くで茫然と立ち尽くしていたキールアがはっとして声を上げる。
「レト!!」
「キールア!! お前は下がってろ!!」
「で、でも……」
「良いから早くしろ!!」
アニルの爪は、再び薙ぐようにレトの視界を踊り映る。
獣のような動き。鋭く速い、風の如く軽く駆け抜けるアニル。
動物の神たる彼女の体は柔軟に空を跳ぶ。
レトが双斬を振るう。彼女は脚をバネにして、また跳んだ。
「くっそ……っ」
「動きが荒いなァ? レトヴェール!!」
肢体は軽い。跳ねて、駆けて、彼女の爪は鋭くレトの目に映った。
爪を地面に刺し、レトも跳んで腕を引く。反動で、左手はすぐに向いた。
右の爪で双斬を難なく止めたアニルは、にやりと笑って、両足を揃えた。
前に、突き出す。
レトの腹部に直接蹴り込みは入り、衝撃波を呑み込んで、ドン。音は鈍く響いた。
数十メートル後方、遥か遠くの景色に呑まれたレトを見たキールアが声を上げた。
一瞬にしてレトが視界から消えた。ただ、一直線に跳んだ道を見ると、木々は薙ぎ倒されていて。
ただの衝撃が、ここまで地形を変えるとは。
間接的に周りのものが崩れていくのを初めて見た。
キールアは急いでレトの跳んだ方へ駆けた。
「レトーっ!!」
口元に手を当てて、キールアは叫んだ。レトの名を、何度も。
返事はなく、森の中を彷徨い歩き、忙しく首を回して彼を探す。
腹部に強い衝撃を受けた彼の事だ。何処かで蹲って、苦しんでいるに違いない。
そう、思った時。
「————!?」
驚いたのは、アニルの方だった。
キールアの事を、背中から狙っていた。
それも気配を、意識を、殺して。
動物が放つ殺気までも押し殺し彼女に近づいたはずだった。
然しどうだろう。
キールア・シーホリーに、一瞬、睨まれたような気がしたのだ。
今や爪と槍は対峙している。
たった刹那の間に、彼女はアニルの気配に気づいたというのだろうか。
獣以上の嗅覚を持っていないとできもしない事だと、アニルは心底驚きを隠せずにいた。
(この女、こんな武器持ってなかったよな……一体、何者なんだ?)
アニルは、ここに来て初めて飛び退いた。
槍から爪を離して、キールアが槍を構えた。
いいや、そんな事ではない。
武器がどうとか、その構え方がどうのという話ではないのだ。
アニルには、何となく気付かれていたのかもしれないが。
この時は、誰も知らない。
まだ明らかになってはいない、彼女の事。
彼女のその“瞳”に眠る、“×××”は、まだ誰も。
- Re: 最強次元師!! ( No.977 )
- 日時: 2014/06/04 21:49
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Rts1yFTc)
- 参照: またもや遅れた←
第281次元 「お前は弱い」
アニルを置いて、ただ一人キールアは再び駆け出した。
背中はガラ空き。然し、アニルは狙う事をしなかった。
きっと彼女は何度不意打ちを狙っても、振り返ってその槍を振り回すであろうから。
けっ、と唾を吐き捨てる動物の神。アニルも、彼女を追った。
「レトー!! 大丈夫—っ!?」
岩に体をぶつけていたレトヴェールを、キールアは見つけた。
がくんと頭の位置は下がっている。返事はなかった。
ゆっくりと近づいて、息を整え、キールアはレトの肩を軽く叩いた。
「レト?」
「……んっ……? き、キールア……」
「良かった……気が付いて」
「! あ、アニルは!?」
「ああ、それが……」
言いかけた、ところで。
アニルは不機嫌そうに、歩み寄ってきた。
コキコキと首を鳴らす。アニルは、爪を下げた。
「おいレトヴェール……忘れんなよ」
「……?」
「お前等みたいな貧弱な人間、いつでも殺れるって事」
アニルはそうとだけ言って、体の向きを変えた。
歩き出した方向は、レトを辿ってきた道で。
やけにあっさりと身を引く彼女に、レトはぽかんと腑抜けた表情をしたまま。
おかしい。それだけを思い感じた。
「アニルの奴……何で……」
「え?」
「俺の事なんて、すぐに殺せるはずなのに……そう、しなかった」
「!」
「一体何が……」
一度目は、腕試しにレトヴェール達を襲ったアニル。
ただあまりにも実力差がありすぎて、殺すのも面倒だと彼女はレトを生かしておいた。
デスニーから、レトとロクは殺すなと命令を受けていた、というのもあったらしいが。
二度目は、確実にレトを殺す気でいたが、それを神として目覚めたロクに邪魔をされ。
挙句の果てにロクに返り討ちを食らうという始末で終わってしまったのだ。
然しそのどちらにも、レトやロクに対して手加減というものをしなかった。
それがどうだろう。アニルは三度目である今、レトを意味なく殺さなかった。
デスニーに言われているからではない。彼女自身が、それを止めた。
楽しそうに笑っていた彼女の顔が忘れられない。レトはそう思った。
「何考えてんだ……あいつ」
「なんか、楽しんでるみたいだったもんね」
「ああ……」
レトも、キールアも、そんな不可思議な現象に疑問を抱いたまま。
アニルは言った。すぐに殺せる事を忘れるな、と。
今は生かしておいてやるという事なのだろうか。
あまりに納得のいかないレト。彼は立ち上がった。
「まあ、そんな事考えていてもしょうがないか」
「そうだね。今は、第二覚醒の事を考えていないと」
「おう」
縒れた隊服を翻し、レトは歩き出してた。それに、キールアもついていく。
知らない事は多い。神族についても、自分達についても。
我ながら情けないなあと、悔しさをまた胸に、一歩ずつ。
確実に、前に進む。
「おーい! ……何だ、返事がねェな……おーい!! ————“フェリー”!!」
名前を呼ばれた彼女は、振り返った。
黄緑の髪は相変わらず踵まですっと伸び切っていて、風に揺られて空を舞った。
閉じた右目。無機質な瞳に、笑みを差す。
「どうだった? アニル」
「どうだかなァ……ま、英雄なだけあってちっとはやるようになったんじゃん?」
「そっか……ありがとう」
「やめろよ。相変わらずお前、気色悪いな……」
「『ありがとう』って言われるのが気色悪い? ふふ、やっぱりそうなんだ」
「どういう意味だよ」
「何でもないよ……——さて」
着慣れない黄土色のコートに身を包んで、一息。
彼女は歩き出す。
「おい、何処行くんだよ」
「ちょっとね……アニルは引き続き、よろしく」
「けっ! 自分を殺した奴に言われてもなァ……」
「でも素直に聞いてくれるじゃん、ありがとう」
「だァーっ! 気持ち悪いっつの!!」
「ははっ……んじゃ、またあとでね」
「あ、おい!」
「? 何?」
「お前、何でわざわざこんな事……」
無機質な瞳。歪みを見せない口元。
黄緑の彼女は、フェリーは、目を細めて、微笑みかける。
「だって——————強くなってもらわなきゃ困るからね」
愉しむような笑みだった。
フェリーは、言い捨てて消えた。
アニルはボサボサの髪を掻き上げて、溜息を零す。
何であんな奴に、とまた愚痴は絶えず。
日は落ち、またレト達は小屋へと戻ってきた。
今日も収穫はゼロ。フェアリー・ロックは、それを聞いて笑った。
何故笑うと疑問を抱く英雄の一同に、彼女は一言。
「悩みがあって、それに一心になる姿は、美しいからかしらね」
また訳の分からない事を言葉にしていた。
時間はない。そう言ったのは彼女の方だった。
史上最美の女性とまで謳われた彼女はそのまま寝床へ。
疲れ切った傷だらけの体を動かし、まるでゾンビのようにうろつく4人も同様に。
幾日も幾日も。
次元を頼らない、人間としての強さを振るい続けて日々は過ぎていく。
(さて……彼らはいつ“真実”に辿り着くのかしらね……)
あどけない表情で眠りにつく英雄達を見て、妖精は微笑んだ。
幼い顔を見ると、千年前の事を自然に思い出す。
若い彼らは、一体どこまでやれるのだろう、と。
日が昇り翌日。造られた太陽の光は今日も眩しい。
朝早くから小屋を出ていたレトヴェールは、双斬と2人で森の中へ。
元魔も朝が弱いのかなかなか姿を現さない。立ち止まって、辺りを見渡していた、その時。
妙に嫌な殺気が、彼の心に刺さる。
「————アニル!!?」
爪は伸びた。獣のような瞳、柔軟な体は空を舞う。
瞬間、避けたレトの手元には既に双斬が握られていた。
アニルの楽しむような表情も、もう慣れた。
「反応早いなーっ! 流石……場数踏んできてるな、お前」
「こんな朝早くから何の用だよ」
「まあまあ……折角“担当”になったってのに、つれねえなあ」
「た、担当?」
「そういうこった! ————楽しませてもらうぜっ!!」
長い長い爪は再びレトの視界に広がった。
その筋を知っているレトは容易にそれを交わし、距離を取った。
然し、それも一瞬。既に目前にまで迫っていたアニルの膝がレトの頬を打撃。
弾丸の如く飛んでいく体。木の幹に強く打ち付けられた背中がずるっと落ちた時。
アニルの爪は頭上の幹に突き刺さった。
見上げると同時に、右の剣で空を薙ぐ。刹那、アニルは落ち着いた面持で後方へ跳んだ。
起き上がる。
「くっそ……! 第七次元発動————!!」
ここ数日。全くとして使わなかった次元技。
光輝く剣を、アニルは迷いもせず自身の爪で————薙ぎ払った。
「……!?」
「おいおい、使わないっていう修行じゃなかったのか?」
疾い。直感的に脳に叩きこまれた感覚。
レトは茫然としたまま、アニルはまたにやりと笑っていた。
「あれは元魔相手の話だっての……!!」
「そうか? 神族になら使っていいってそれ……甘いんじゃねーの?」
「!?」
カランと地面を転がる双斬。もう片方のそれは、左手の中でガタガタと震えていた。
目の前にいるのは、嘗て二度も殺されかけた相手、動物の神アニル。
その鋭い爪に幾度体を引き裂かれた事か。人間とはまるで違う力を持つ、神の一族。
ロクと、同じ血を持つ者。
「甘い、だと……っ」
「なあ、レトヴェール……お前何の為に、こんな所まで来やがった」
「……! そ、れは……」
「知る為か? 神がどうして生まれ、人間を憎むのか……知ったんなら帰りゃいいだろ」
「……」
「フェアリーの修行も嫌々かよ? 言われたからやってるんじゃ————幼ぇガキと一緒だ」
まるで幼子を扱うような戦いぶりも、分かっているつもりだった。
神族は人間で遊んでいるようにしか見えないのも。
その先に、どんな想いがあろうとも。
すれ違い続けた人間と神が今、顔を見合わせ会話を成しているのも不思議な光景であった。
「レトヴェール、お前は弱い」
「……っ!?」
「——————そんなんじゃ、フェリーになんか敵いもしねえよ」
ロクと並ぶ為に、神となった彼女と同じ場所に立つ為に。
英雄になる事を選んだレト。
幼い頃にロクが神族だと知ってしまった彼の、昔からの願いも叶えたというのに。
神はいつも嘲笑うばかりだ。
人は、弱い生き物なのだと。
- Re: 最強次元師!! ( No.978 )
- 日時: 2014/06/15 08:50
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Rts1yFTc)
- 参照: またもや遅れた←
第282次元
弱いという言葉はとても鮮明で的確なものである。
その人物を装飾するには十分なほどに。
正に人間と神の存在の違いを明らかにしているような言葉でもあった。
「お前に……お前には関係ねえだろっ!」
「あーそうかいそうかい。じゃあ知らねェよ? 神様に敵わなくてもよ」
「!?」
「“真実”に辿り着けないなら————ここにいる意味もねェよ!!」
疾風の如く、駆ける彼女が言った言葉が胸に刺さったまま動けなかった。
肩に刺さる、爪が食い込んでいるのにも気づかない。
レトがはっとした時、既に肩から溢れだす赤い液体は地面を這っていた。
「うぐ……っ」
「動きが鈍いっつってんだよ!!」
アニルはその長い足で、レトの体を横へ蹴り飛ばす。
背中に衝撃が走る。荒れた木の肌に刺さった体が、ぐったりとしたままだった。
人間を超える力。
次元師を超える、力を。
改めて目の当たりにする。
敵わない、そう、思わせられるように。
「……もう諦めんの?」
「ん、な……わけ、ねえ……だろっ」
「はっ……ホントお前、いっつもさ————威勢だけはご立派だよな?」
「……!!」
「英雄だがなんだか下らねえもんぶら下げてるみたいだけどよ……結局この程度なんだろ?」
「お、前に……お前に何が分かんだよ!!」
「……あァ?」
震えていた左手で、剣の柄を握りしめた。
木に、背を預けたまま。
アニルの顔の前に、その矛先を向ける。
おっと。驚くアニルは少しだけ顔を反らす。
「俺達は今、遊んでるんじゃない……暇なら消えろよ」
「おーコワいコワい。“第二覚醒”のヒントも掴めてねえから……気ィ立ってんだろ」
「!? 第二覚醒を知ってるのか!?」
「まあな……教えてやろうか? どうせ“暇”だしな」
レトは、剣を下した。
それでも睨んだ瞳はずっと、アニルに向けているままで。
第二覚醒の事を知っていると言うアニルの様子を、じっと伺う。
「そう睨むなって。『早く教えろ』って……言わんばかりの表情だな」
「……俺はただ、知りたいだけだ」
「知識欲も、旺盛だと厄介だな……いいぜ、教えてやる————ただし」
一層、鋭さを増す、爪先。
「——————このアニル様に一撃でも喰らわせられたらなァ!!!」
爪は、レトの顔を掠める。
木に突き刺さるそれが、彼の真横でギラリと輝いた。
咄嗟に回ってきた足を、頭を伏せて彼は避ける。
足の勢いに乗って、アニルは身軽に、それも自然に爪を木から引き抜いた。
レトはというと、アニルの少し先で既に矛先を向けていた。
神に、抗うように。
もう、手は震えていなかった。
「おらよ!!」
駆ける、突き刺す、避ける、薙ぐ、そうして回る。
神の力に、屈しない意思。誓い。
諦めないと誓った、彼女に、会う為に。
たったそれだけの為に、魂を燃やすように剣を振るう彼。
今までと動きが違う事にアニルも気が付いた。
(こい、つ……!)
「うらァ!!」
アニルの足取りが、軽い筈のその肢体が、今。
ぐらりと、景色を回した。
(————しまった!!)
レトの矛先に一瞬圧倒され、そのまま地面に背中を打つ。
間もなく、剣の矛先はアニルの首元で輝いた。
一瞬、動いたらやられる。
「……流石、だな」
「褒めの言葉が欲しいわけじゃねえ。吐けよ、第二覚醒について知ってる事全部」
「おいおい……せっかちだな」
「……何?」
「まだ————終わらねェんだよ!!」
いつも通りだ、アニルの口元は厭らしく歪む。
爪も足も、押さえつけられている訳じゃない。
とんだ甘ちゃんだなと笑った、正にその瞬間。
(————死ね!!)
伸びた爪を、レトが避けたと同時に駆け出す。
未来は読み取れた。シミュレーションも完璧だ。
弱肉強食の自然界、その神との戦いに勝つなど無謀同然だと。
呆れ笑っていたのは、一瞬だった。
レトは、避ける事をしなかった。
「————“一撃”、与えれば良いんだろ?」
鮮血。爪が、肉を破って突き刺さる。
驚きのあまりに動けなかった一瞬の隙を、彼は決して見逃さない。
何の為に、ここまで来たと思っているのだと。
金の瞳が————燃える。
「————うらァ!!!」
右の剣が、アニルの喉元に突き刺さった。
思い切り。それも、ブレなく、完全に。
アニルが、雄叫びをあげた。
「うあああああ!!!!」
暴れ狂うアニルの腕に叩かれるレト。
アニルは、喉を貫いたままの剣を、叫んだ後で漸く引き抜いた。
荒い息が、汗ばんだ全身が、ゆっくりとレトの方へ向く。
「はは……て、めェ……良い度胸、してんじゃ……ねェかよ……」
「そりゃ、どうも」
「あーもう……いってェな……ちくしょォ……」
時間がないと言ったフェアリーの言葉を、レトは少し前に思い出していた。
確かに、今、アニルとやりあっている時間はないのだ。
それなら、いっそ体を犠牲にしてでも第二覚醒のヒントを見つけねばと思ったのだ。
おかげで左の腕はぶらんぶらんな訳だが。
「……殺しはやめだ」
「へ?」
「今日は休め、明日から本格的にやんぞ、修行」
「は、はい……? ちょ、第二覚醒は!?」
「“言葉”は意味ねェんだよ、これ」
「はァ!?」
軽くアニルは手をぶらっと振って、その場から退散。
1人、腕に太い爪を刺されて出血の止まらないレトを置いて。
完全に腑に落ちない彼も、休養を兼ねて一時撤退。
碧い草木を掻き分けて、一人で小屋まで戻ってきた。
「……? あら? どうしたのレト君」
「いや、ちょっと……」
「?」
「あ、アニルに、会って……それで……」
「!?」
ぴくりと動いた眉。
表情から察するに、どうも、彼女もアニルの存在に気が付かなかったらしい。
レトは、真っ赤になった腕をひょいと持ち上げた。
「やりあってこの様だ……あー、情けね……」
「……それで? どうだったの?」
「修行を、つけてやるって」
「え!? あ、ああアニルが!?」
「うん……俺も何が何だか……」
アニルは一体、何を考えているのだ、と。
静かにフェアリーも考えていた。
過去2回程レトヴェールを殺そうとした張本人でもあるというのに。
「アニルがいるって事は……他の神族も有次元に?」
「ああ。グリンとワルドはいるみたいだな」
「そう……」
「今日はしっかり休めってさ。まだ昼間だけど、俺もそうしたいと思ってたし」
「……アニル、何を考えているのかしら」
「さあ……奇妙だよな、やっぱり。……なんか、今までと違うっていうか」
何があったのかは分からない。
然し、明らかに態度が一変していた。
全然違う、知らない、全く別の何かに変わってしまったかのようだった。
口調こそあまり変わらないが、その言葉一つ一つに、柔らかさと感じた。
これでもレトは相当戸惑っている方なのだ。
何せ、目が、違うのだから。
「じゃ、そういう事だから。俺、先に寝るわ」
「ええ……ゆっくり、休んで」
「おう」
レトが部屋に戻る。バタン。音が響いた、その後。
もう一度、扉が開いて閉まるような、風が舞い込むような、音が聞こえた。
夜。造られた満月が今日も夜空を照らし輝いていた。
英雄達が静かに寝息を立てる、その傍で。
湖に姿を映す彼女は、ふっと顔を上げた。
「……見つけた」
大人びた声が、小さい彼女に声をかけた。
振り向く妖精の顔は、変わらずそこにあった。
閉じた、右目。
「やっぱり……貴方も来ていたのね————“ロクアンズ”ちゃん」
もう会う事はないけれど。
いつか自分が、彼女に言った言葉を思い出した。
2人の妖精は、じっと相手の顔色を伺うばかりであった。
「……あたしに、何か?」
「とぼけないで。神族達を使って、何をしているの?」
「“迷わないで”————貴方が言った言葉を、覚えてますか?」
「……何のつもり? 自分が一体何をしているか、分かっているの?」
両者揺るがない、心と心のぶつかり合いだった。
黄緑が、ざあっと、湖に溶ける程揺れ動いた時。
彼女は、フェリーは、確かに言葉を紡いだ。
「あたしは、もう迷わない」
強い、強い、言葉だった。
一瞬だけ、昔の彼女に、戻ったかのような、瞳。
妖精は、姿を消した。
暗い暗い、景色の中へ消えた。
- Re: 最強次元師!! ( No.979 )
- 日時: 2014/09/01 16:01
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Va4IJVQE)
第283次元 正解に辿り着け
何度目かの夜明けが訪れた。
創られた朝がぼんやりと景色を覆う中、少年は頬に汗を滲ませ駆ける。
びゅんと、追いついた風が、彼の持つ剣と対峙した。
「遅い遅い! そんなへっぴり腰じゃ面白くねェぞ!!」
鋭い爪。細く柔軟な体は叫んだ。
涼しそうな肌の露出した格好に、ボサボサの髪を一つに縛って高く上げていた。
重たい体。圧し掛かる体重に、少年レトはぐっと力を入れて押し戻す。
今度はレトが先に斬りかかる。
ひょいと避けて、咄嗟に退いて、逆に爪を交わす。
攻防戦は続く。
「……っ、は……ぁ……はあ……っ」
「ったくもう息切れってかァ? これだから人間様はよォ……」
(こ、こんなただの体術勝負が……第二覚醒の修行とは思えねーな……)
昨日。
動物の神アニルから、修行をしてやると言われたレト。
肩に深く爪を食い込ませ、腕もぶらんぶらんしていた為に昨日は丸々休んだのだ。
そして今日、早朝からアニルと次元技なしで戦っている彼には、勿論の事違和感があった。
人族の代表たる彼を抹殺し、神族を優位に立たせるどころか修行に付き合ってくれている。
今までの状況から言って人殺しに長けた神族が、人間の為に力を振るうのは可笑しいと判断。
昨日からずっと悩み耽っている彼を他所に、アニルは楽しそうに爪や腕を振り回す。
無邪気な子供のようにしか見えないその姿に、レトはそんな疑問を抱えている訳で。
「どうしたァ? 来ねェならこっちから殺しにかかんぞオラ」
「えっ? ああ、いや……」
「変な奴だな、お前」
「お前の方が変だろ……一体何企んで——」
「——その答えもお預けってこった!!」
刃で爪を弾く、ただそれの繰り返しだった。
体力に余裕のあるアニルは、今日も軽快に空を舞い、大地を駆け、柔軟に体を使う。
「お前さァ、それで本気か?」
「!」
「次元技なしだと……案外地味だな」
「……何が言いたいんだよ」
「つまりだ! 次元技に頼りすぎねェ、全く新しい“次元の力”が——第二覚醒なんだよ!」
次元技に、頼りすぎない。
つまりは体術や剣術といった根本的な能力の向上を図れ、と。
そういう事なのだろうか。
「そ、それじゃあただ元力が増えるだけなんじゃ……」
「まァ増やした方が確率は上がるけどな」
「?」
「第二ヒントだ。お前ら“元霊持ち”は、他の次元技と比べて第二覚醒がしやすい」
「は?」
「適当に考えろ。答えはそこにあらァ」
言って、一瞬。飛びついて爪が、空に痕を残して滑る。
閃光が走ったかのような鋭さに、レトは身を引いた。
考える時間が欲しい。
率直にそう思って、彼は駆け出した。
「あららァ? なァーんだつまんねェな……追いかけっこでもやんのかァ?」
我らが神と。逃げられない鬼ごっこならぬ神ごっこをしよう。
アニルはまた楽しそうだ。笑って、細い足で地面を蹴る。
(レト! さっきのアニルの話って……っ)
「ああ……多分、お前にヒントがあるんだと思う、けど……!」
(でも僕、第二覚醒した事ないよ!?)
「……くそっ……わけわかんねえ!」
考えろ、考えろ。
レトの脳裏を駆ける言葉が、彼の脳一体を埋め尽くす。
何故元霊にヒントがある。第二覚醒なんて、史上誰もやってこなかったものだ。
何も知らない元霊。千年前の時代を生きた英雄。
今、レトの次元の力として、感情を持つ元力として、レトの中に棲み続けている存在。
「思い出せ……! あの時、確かに俺、何かを感じたはずだ……っ」
(な、何か?)
「なんか、“重なる”、みたいな……」
上手くは言えない感情。
初めての事で、追いついていかない思考。
(それ……——僕も感じたかも)
心で響いた言葉に、レトは思わず足を止めてしまった。
(レト前!!)
「!?」
「——おっせェよ!!」
爪の閃光。鋭い音と確かな金属音。
振り返ったら、アニルがいた。
「……チッ、すばしっこい奴」
「あぶねーな……おい」
「んで? 逃げてる間に分かったかよ? 第二覚醒」
「……ちょっと、な」
「フーン……言ってみろよ」
あっているかは分からない。
ただ、さっきの双斬の言葉が、大きな一手となった気がした。
息を吸う。
「第二覚醒って……本当に次元技の、“その先の力”……か?」
「……」
「お前言ったよな、“全く新しい次元の力”だって」
「まァ……言ったけど?」
「……う、上手くは言えねえんだけど……つまり……」
「次元技が、何らかの理由で形を変えた——それはお前だけの力じゃない」
「!」
「大ヒントだ」
アニルは重ねて言う。
あの時お前は、何て言ったのだと。
答えは、そこにあると。
「あの、時……?」
「そうだ、第二覚醒をした時、お前何て言った?」
「え、と……」
たった数日前の出来事。思い出せる範囲に記憶が置かれている。
必死で、勝とうって、英雄になってやるんだって。
思った事は覚えていた。
「“次元の扉”……————“発動”……?」
アニルの口元が、漸く歪んだ。
「——少し惜しいが、合ってるぜ、それで」
「えっ?」
「ここまで解いたんならもう分かんだろ? ——答えがさ」
いつの間にか、お互い落ち着いた物腰で。
レトの力になるような、そんなアニルの誘導の上。
彼は考える。それはもう、沢山考えて、考えて。
導き出す。
「お前は経験あんだろォが————“新しい次元の力”ってもんによォ!」
アニルの爪が、再び動いた。
対峙する双剣。鬩ぎ合う金属と爪先が、静寂な空間に色を挿す。
レトは、思い出した。
「まさか、それ……って……」
「思い当たる節があんなら、そうなんじゃねェの?」
あの時、確かに自分は言った。
次元の扉、発動と。
然し、答えは少しずれた視点にある。
それは。
「アニル、もう一回だ」
「お? 再チャレンジか?」
「これで間違ってたら、笑っていいよ」
剣が、爪を弾いた。
両者の間にある距離と空間を越えて、今。
少年の声が、未来へ繋がる。
「『俺の事も————信じてくれ』——か?」
残念だけど正解だ。
アニルは、そう言って笑った。
「その言葉は、誰に言った言葉だった?」
「……」
「多分、合ってるぜそれで————やってみるか?」
何度も失敗した。今ではもう恐れているくらいに。
でも、それは少し前までの話。
今の自分は、何だか。あの時の。
絶対負けられない、自信と勇気のある自分に戻っているような気がした。
「いくぞ……——双斬」
体中が、熱を帯びる。
誰かと何度も、重ねてきた心。
自分は良く知っていたのに、何で気付かなかったんだと。
悔しさのあまり——自然に笑みが零れるようだった。
「第二覚醒——————」
「……!」
「——————“双天斬”!!!!」
心が叫ぶ。声が跳ぶ。
弾いた感情と重ねた心が——形と成る。
「……やっとできたか」
真っ赤な紅と銀の刃が、太陽と光る。
「で、きた……のか……?」
「大正解だ……ま、お前にしちゃ、上出来かもなァ」
「すげえ! で、できちまった!」
「……ガキかよ」
「だってこれで——お前らと渡り合えるんだろ!」
上等だ。今度こそ本気で。
お前の相手をしてやる、と。
動物の神と人間の代表は、お互いの力をぶつけ合い始めた。
漸く、一つの駒が進む。
「……んで? それどういう事なのフェリー」
「言った通りだよ。グリンの担当はキールア・シーホリーだって」
「……嫌よ、何で英雄最弱の次元師なんかと」
「最弱? はは、そう言ってられるの、今のうちかもよ」
「どういう事?」
遠くから見える、動物の神様と金髪の少年が戦っている姿。
やっと出来たかと、アニルと同じ事を呟く妖精は今、自然の神と対談中であった。
妖精は楽しそうにまた笑って言う。
「キールアは————“化けたら”あの中で一番強いよ」
確信しているかのような笑みだった。
金髪揺らぐ少女の後姿を、そんなバカなといった顔で、自然の神が目で追った。
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