イナズマイレブン~試練の戦い~ しずく ◆snOmi.Vpfo /作



序章 ~I will~



「……なぜだ」

 誰かが泣いていた。
 泣こうと思って泣いてるわけではないのに、自然と涙があふれてくる。もう自分では止められない。ひねっリぱなしの蛇口のようにとどまることを知らない。 大好きだったあの人に裏切られ、大好きだったあの子を傷つけた。もはや自分を支えてくれる人などこの世にはいない。あの人に裏切られることはまだいい。納得がいく。でも、あの子を傷つけてしまったことだけは許せなかった。作り上げた氷は、轟音と共に崩れてしまった。後には、残らなかった。空虚だけが……心を覆う。
 その誰かの横でやっぱり誰かが、涙を滂沱のように流している。喉を震わせ、しゃくりあげている。

「あいつを……取り戻したい。オレたちには、あいつが必要なんだっ」
「私もだ。珍しく意見が合うね」

 二人は顔を上げた。
 思い出が走馬灯のように蘇る。悲しいかな、あの子が笑う顔ばかりだった。からかうといじけ、むくれる。綺麗なものをみるとすぐにはしゃぐ子供っぽさ。不思議な子だった。でも、その先にはいつも笑顔があった。パッと周りを明るくするあの笑み。宝石や――大好きなあの人よりも大切な宝物。だが、どんなに望んでも、あの子は決して自分たちには見せてくれないだろう。
 二人の瞳は潤んでいるが、その先には異様すぎるほど強い眼光が宿っていた。同じことを考えているのだろう。もう戻れない、と言う強い決意のぎらめき。

「これなら……きっとあいつを取り戻せる力をくれる」

 一人が何かを手に取った。
 それは彼の手の中で激しく点滅している。
 
「得られるのか?」

 もう一人が尋ねる。

「ああ。絶対に」

 一人が頷いた。もう一人は覚悟を決めたような顔で一人の手の中の”あるもの”を見つめる。

「……私の身など滅んでしまってもいい。取り戻せるのなら――」
「あいつを絶対に取り返してやる!」

 二人は……まがまがしい、空間を切り裂くような光に包まれていった。

「……ん? 今日は雨かな?」

 少年はバスの窓から手を伸ばし――静かな雨へと指先を伸ばす。その先の思いなど知りもせずに。