イナズマイレブン~試練の戦い~ しずく ◆snOmi.Vpfo /作

第四章 闇からの巣立ち(十三)
「い、いなくなったね」
蓮は肩で息をしながら、無人のゴールを憎々しげに見つめた。まるで空気と同化したかのように、イプシロンの姿はどこにもない。ジェミニストームと同じで、宇宙人だから魔法の呪文でも唱えたと言うのか。雷門中の面々は注意深く首を左右に動かすが、イプシロンがいなくなりほっとしている漫遊寺の学生らしか見えない。
やがて漫遊寺の生徒は校舎に戻り始め、一部だが壊された校舎の残骸を拾ったり、無事に宇宙人が姿を消したことに手を取り合って喜んでいる。
「オレの技を見てびっくりして逃げたんだろ!」
うっしし~と得意げに笑う木暮だったが、雷門中サッカー部の空気はどこか重い。みな、顔が笑っていない。
そのことに気がついた木暮は、決まりが悪そうな顔で雷門中サッカー部の面子の顔を眺めた時、蓮がポツリと呟いた。
「これでエイリア学園の出掛かりはゼロだね」
その言葉に鬼道が顔を上げ、首を振る。
「いや。そうでもない」
どういうことだ、と問うように、みなの視線が鬼道に集中する。鬼道は、瞳子を軽く一瞥してから、雷門中サッカー部のメンバーに向き直った。
「一つだけだがわかったことがある。それは、奴らが言っていたエネルギー”と“チャージ”」
「つまり、エイリア学園はドーピングしているってこと?」
蓮が間髪いれずに鬼道の言葉を継ぎ、円堂たちから小さな驚きの声が漏れる。予想外の言葉なのか、円堂たちは戸惑う顔になり、続きを待つように鬼道を見つめた。
「やつらの強力な運動能力は、“特別な”エネルギー体による可能性が今時点では高い」
「エイリア学園は宇宙人じゃなくて、たんなるドーピング集団ってことかよ」
染岡が口を挟み、鬼道は腕を組んで小さく首を横に振った。
「やつらの話から察するに、だ。まだ断言はできない」
「じゃあ白鳥先輩が倒れなかったのは、その“エネルギー”がなかったから、なんですね」
春奈が何気なく呟き、蓮は疑問を呈する。
自分が倒れる理由は、エイリア学園が使う“エネルギー”体にあるようだが、何故そんな身体になってしまったのだろう。染岡が言うとおり『アレルギー』なのかもしれないが、実際には何かあったのではないか。
考えてみると、記憶が一部とは言え欠落しているのはおかしい。しかも欠落した部分は、施設で過ごしていた年月全て。偶然にしては出来過ぎている。今の両親も、施設のこととなると、決まって口を閉ざす。
「私はこれからエイリアの行方を捜しに行きます。今日一日、あなたたちの好きにしていていいわ」
蓮がふと我に返ると、瞳子が事実上の休日宣言を出していた。今までの真剣な空気はどこかへふっとび、雷門中サッカー部は浮かれ出した。自然と仲のいい人間同士が集まり、わいわいと騒ぎ出す。
「もしかして京都観光してもいいでヤンすか!?」
「じゃあオレはおいしい八橋(やつはし)のお店にいくっす~!」
観光地に行くと言ったり、食べ物を食べるといったり。誰もサッカーをやろうとは言わない。蓮はたまたま隣にいた塔子と話し込んでいる。
「なあ、白鳥はどこに行くんだ?」
「疲れたけど、ちょっと遠出しようかな」
「遠出? どこに行くんだい?」
「ちょっと清水の方に」
塔子を連れ立って清水まで来たものの、塔子はいつのまにかいなくなっていた。
パパに土産物を買うからあたしは好きなところを見てくるよ、待ち合わせはここ~と早口で言い残し、塔子は土産物屋街の中に消えていった。
困った蓮は、人の流れに乗り、いつのまにか教科書でもよく見る清水の舞台に来ていた。平日ながらも人はたくさんいて、写真撮ったり、遠くの景色を眺めている人がいるその中に、
「あ」
見知った顔がいて蓮は小さく声を上げた。涼野だ。見慣れた私服に身を包んでいる。手すりの上で腕を組み、ぼうっと視線を前に投げかけている。その横に、見知らぬ少年が手すりにもたれかかり、腕を組んで目を閉じていた。
刹那。蓮の頭は、熱でもあるかのように熱くなり始めた。記憶がざわめき、脳内にぼんやりとしたイメージが浮かぶ。楽しげな音……それは聞きなれたサッカーボールの音だ。辺りではきゃあきゃあと歓声が聞こえる。自分の声。いくよー! と高めな明るい声がし、続いて変な雑音。誰かの名前を呼んでいるのに、聞こえない。なんて名前? 誰だっけ? 暗転。
今度は鈍い光の反射。何かはわからない――が、まっすぐ自分の元へ振り下ろされる。ナイフのように煌くそれは自分の腕にどんどん近づいてくる。身をよじっても逃げられない。距離が縮まる。そして……。
「蓮?」
肩に手が置かれる感覚がして、蓮は我に帰る。
目の前には相変わらずの無表情で――でも心配しているような顔付きの涼野が、蓮の黒い瞳に映る。涼野の横では、赤い髪の見慣れない少年が蓮を見定めようとするかのようにじろじろ見つめてきた。
「風介。また会えたね」
「ああ」
蓮がにこりと笑って涼野との再会を喜ぶと、涼野もつられたのか、口元に柔らかい笑みを浮かべた。それから互いの近況を一言二言交し合ったが、蓮の心の中は暖かい懐かしさに包まれていた。
それは涼野の横にいる赤い髪の少年のせいであろう。脳細胞がこの少年も涼野と同じく知っている、と告げてくるものの名前も顔も思い出せない。ただ懐かしいという感情が込み上げて来るのみ。
「あれ、今日は友達も」
じろじろ眺めてくる少年に蓮は怖気づき言葉を切ったが、思い切って続ける。
「友達もいっしょなんだね。邪魔しちゃ悪いから退散するよ」
くるりと踵を返そうとすると、涼野が蓮のジャージの袖を掴んだ。安心させるようにわずかに笑って見せると、手を離し、赤い髪の少年のほうを向いた。非難するような鋭い目つきを伴った顔。蓮に見せていた穏やかな表情とはだいぶ異なる。
「晴矢、そう蓮をじろじろ見るな。困っているだろう」
「あ~わりぃわりぃ」
少年は軽く謝ると、涼野の脇を通り抜け、蓮の前に立った。
何度見ても、自信に満ちた金色の瞳は記憶の片隅をつつく。脳内の記憶と言う記憶がざわざわと騒ぎ、心は温かくなっていく。蓮は懐かしむように目を細めていた。横では、涼野が複雑な表情で蓮の顔を横目で見ていた。
「オレは南雲 晴矢だ。よろしくな」
南雲が自己紹介をした。
その名前もどこか聞き覚えのあるものだった。思い出せないもどかしさを胸に抱えながら、蓮も明るく努めて自己紹介をする。
「僕は、白鳥 蓮」
「おまえが蓮か。風介から話は聞いているぜ」
「どんな話?」
「階段から落ちて記憶喪失になったドジなやつだってな」
「風介。なんてこと言いふらしているんだ!」
南雲が茶化すように言って、蓮は涼野を怒鳴った。ただ、どうも(本気を出さない限り)怒っても蓮は大して怖く見えない。
涼野は子犬に吠えられた大型犬のように悠然と構えている。
蓮は取り直すように笑顔を作り、知り合ったばかりの南雲に声をかける。
「ね、キミのこと晴矢って呼んでもいいかな?」
「べつにいいぜ」
「じゃあ、よろしくな。晴矢」
本人が許可してくれたので、蓮は南雲を晴矢と呼んだ。
その時、耳の奥から声が突き上げてきた。晴矢、風介! と嬉しそうに叫ぶ自分の声。声の高さから言って、もっと幼い頃――忘れてしまった頃なのかもしれない。
蓮は、思い出した勢いそのままに、まくしたてた。
「晴矢、風介! 僕たち小さい頃にどこかで会ったことない!?」
南雲と涼野の瞳に一瞬、同様の色が走った。蓮はわずかな顔付きの変化を見逃さなかった。
問いただそうとするが、南雲と涼野はすぐに何でもないような顔を作り、
「ないな。キミと始めて出会ったのは、大阪のパーキングエリアだろう」
「オレもだ。今日始めてお前と会ったんだぜ? 気のせいだろ」
しっかりとした声音で言った。二人とも身体の後ろに回された手で、服をしっかりと握っていた。
初めの顔の変化は何だったのだろう、と心内疑いながらも、二人がそう言うのだから間違いないだろう、と考え、蓮は追求しなかった。
「なにかあった?」
南雲と涼野が暗い顔で俯いていることに気がついた蓮は、心配そうな声で話しかける。
すると涼野は自虐めいた笑みを浮かべて顔を上げた。手すりに寄りかかり、景色を見ながら息と共に言葉を吐き出す。
「以前、キミに私はとあるサッカーチームに所属していると言っただろう」
「ああ。地域のって言ってたっけ」
蓮は涼野の脇で軽くてすりに身体を預け、涼野の横顔を窺う。だいぶ涼野の表情が見分けられるようになってきた蓮は、涼野が難しい顔をしていることに気づいた。
「そこでは、どう表現すればいいのかわからないが……いわゆる、ランク付けのようなものがあるのだ」
涼野は真っ直ぐに景色を見据えながら、前髪を書き上げながら、説明しづらそうに言った。
「やるきを出すためだとしても、あまり僕は感心しないな」
「オレたちの監督の意向だ。仕方ねえだろ」
南雲が諦める様に呟き、蓮の横で手すりに背中を預け、そのままそっくりかえる。てすりを超えてオチやしないかと蓮は心配になったものの、南雲はすぐに体勢を戻し、手すりに寄りかかる。
「それで、二人とも一番になれなかった?」
南雲と涼野は同時に目を見開き、涼野はふんっと鼻を鳴らす。
「ふん。キミは恐ろしいほど鋭いな」
「風介と前に少しパス練習したからわかるさ。風介はとてもサッカーが上手いし、なにより自分のプレーに自信を持っていた」
北海道でのパス練習、あれで涼野の性格を蓮は少し悟っていた。
力強いパス。そして自分の力量を見定めるかのように輝いていた青緑の瞳。それらは、涼野の自信に満ち溢れた態度の表れだった。自信があるからあれ程強いパスが出せ、パス練習にも応じてくれたのだろう。自分のプレーに自信を持ち、フィールドで力強く輝く。蓮があこがれるプレイヤーの理想図そのままだった。
自分なら見慣れない人間に弱みを見せるのがいやで、どうしても知らない人間とのパス練習は渋ってしまう。ただ涼野なら弱みを見せても大丈夫と言う、自分勝手な自信でパス練習を頼んだのだった。
「落ち込むなんて、認められなかったとしか思えないんだ」
「少しのパス練習でそこまで見抜かれるとは」
再度自分をあざ笑うような笑みを見せると、涼野は景色に目をやりながら、
「ああ。そうだな。監督に認められずに2位どまりだ。所詮(しょせん)その程度の実力と言うことか」
自分を笑うように言った。横にいる南雲に目をやると、悔しそうに地面の板を睨んでいる。蓮は二人の悔しそうな顔を眺め、その“監督”に強い憤りを覚えた。
景色に視線を向けると、怒った声で監督を非難する。
「そんなことない。風介や晴矢を認めないなんて、おかしい監督だ」
「オレもか」
自分が含まれていることに驚いたのか、南雲が目を瞬かせる。
蓮はニコリと明るい笑みで南雲と涼野に交互に笑いかけ、言い切った。
「晴矢も風介もすごいプレイヤーだ。僕が言うんだから間違いないよ!」
「……ははっ! そういうことは、この南雲晴矢さまのプレーを見てから言うんだな」
南雲が楽しそうに笑い、涼野はくすぐったいような顔で小さく笑っていた。が、すぐに沈痛な面持ちに逆戻りし、重々しく口を開いた。
「それで……ひとつ問題があるのだ」
「え?」
蓮が強い調子で聞き返し、涼野はしまったという顔をして蓮から目線をそらした。
蓮の横にいる南雲も、何やら視線で涼野に非難するようなとげとげしい視線を投げかけている。
聞いてはいけないことを聞いたような気がして、蓮は話題を変えようと頭をひねって、
「そういえば八橋食べた?」
「私たちが一番になるには、“大切なもの”を壊す必要がある」
「お、おい! 風介!」
涼野は抗議する南雲を無視して話を続けた。
***
「壊す必要があるって、北海道で言っていた“大切なもの”のこと?」
「ああ、そうだ」
涼野が首肯し、蓮はなおも問いを重ねる。
「せっかく取り戻しかかっているのに、壊す必要があるの?」
「ああ、そうだ」
「風介はどっちが大切なの?」
「……わからない」
答えると、涼野は口ごもる。本当に葛藤している様子が傍目に取れて、蓮は心を痛めた。――その原因を知らずに。
「一位になりたいのは事実だな。だが、“大切なもの”を壊すのも怖いのだ」
「オレは……別に」
南雲は脇で言葉を濁していた。二人にとって大切な友人でもいるのかなと蓮は考え、
「その“大切なもの”、壊したらどうなるの?」
恐る恐る蓮が聞くと、涼野はしっかりと蓮を見つめ、落ち着いた声音で答える。
「恐らく、二度と元には戻らないだろう。永久(とわ)に戻ることはない。一位になるのはいつでも可能だろう。しかし、こちらは失ってしまえば永遠に帰ってこない」
蓮は頭の中で次にどんな言葉を紡げばよいか悩んでいた。
単なる人生相談ではないのだ。決定しだいでは涼野と南雲が大きく後悔するかもしれない。そう思うと、尚更(なおさら)下手なことは言いたくない。
「キミならどうする?」
「……え?」
いきなり話を振られた蓮はびっくりして現実に戻った。
涼野が青緑の瞳で蓮を見据えている。
その瞳にからかいや冗談といった類(たぐい)のものはなく、真剣な瞳そのものだ。そして瞳同様真剣な声で、
「目の前に見える利益と、自分にとって“大切な何か”。……表現が悪いな。こうならどうだ? 目の前に財宝がある。しかし、財宝をとるには仲間を殺さなければならない。どちらかを選ばなければならないとしたら、キミならどちらを望む?」
上手い答えが見つからず助けを求めるように南雲に目をやると、南雲も蓮の答えを聞こうとするかのように身を乗り出し、金色の瞳で蓮をじっと見つめていた。蓮は困った顔で交互に二人を見やると、仕方なしに自分の考えを述べ始める。
「えっと、僕なら、“大切な何か”を壊すのが怖くて、えっと仲間を殺すのが怖くて……きっと逃げてしまうと、仲間と共に財宝を捨てて逃げてしまうと思う。僕はそう言う臆病な人間だから」
苦笑すると、蓮は景色に目をむけ、手すりを掴んだ。風が吹いて、三人の前髪を揺らした。
周りにいる人間の顔振りはだいぶ変わり、男子中学生3人でなにやら話をしている光景は、明らかに浮いていた。外人らしい人間が興味深そうに三人を観察していた。
「けど、人は追い込まれると変わる。僕だって地理は大嫌いだけど、テスト前はかなり勉強して、赤点以上は取ろうとするしね。――それと同じで、例えば親から期待がかかっていてさ、レギュラーになれ、とか言われたらその“大切なもの”を壊すかも。あ、財宝で言うとだな。親が病気で大金が必要とかそう言う理由があれば、仲間をやってしまうかもしれない。人は状況によって、すぐに変わってしまうから」
昔、蓮は母を喜ばせようとして取ってはいけないと言われた公園の花を摘んだことがある。
あの年でやってはいけないと分かっていたはずなのに、悪いことをした。ルールを守る大人しい子が、一日でいたずら小僧に様変わり。このくらいなら軽いものだが、人が良くも悪くも簡単に変わることを蓮はよく知っていた。――そう、自分一人を置き去りにし、海に身を投げた親がそうなのだから。
親のことを思い出した蓮は、自然と表情が曇り始めた。三人の間には表現に困る重い空気。だが、そこへ空気を吹っ飛ばすような明るいノリの声が聞こえた。
「晴矢様ぁ!」
「き、灸?」
南雲がその人間の名を呼んで口をあんぐりと開け、涼野と蓮が瞠目する中、灸が観光客を左右に押しやりながら強引にこちらに近づいてきた。押しやられた観光客は少々迷惑そうである。
狐の瞳に似た白い瞳。中には黒い線がある。無造作に跳ねた赤い髪。戦国時代に出てきそうな赤い紐で一つにまとめている。走るたび、その赤い髪が揺れた。
もう少し手入れすれば可愛いのに、と蓮は内心で感想を述べる。Tシャツにジーパンと言うラフな格好で男のようだが、小さな胸のふくらみを蓮は見逃していなかった。灸はどかどかと南雲に近づくと、
「どこをほっつき歩いているんですか! むー……」
南雲に片手で口をふさがれた。さらにもう片方の手で抱き込むように身体を拘束された。状況が読めない蓮は呆然とし、涼野はいつものことだ、と蓮に説明をしていた。
灸は手足をばたつかせて抵抗し、南雲はそれをめんどくさそうに顔をしかめた。蓮に引きつった笑みを向ける。
「す、すまねぇな蓮! オレたち急用が……おら、帰るぞ灸」
「えー! 俺も蓮さんと話したいです!」
言いながら南雲は、嫌がる灸の両手を掴んで、かなり強引に引っ張っていった。駄々をこねる子供を無理やり引っ張る親のようだ。蓮は呆気にとられてただ見つめることしかできなかった。
「またすぐにでも会おう。すまない」
「あ、大丈夫だよ。また会おうね」
涼野が短く詫びを入れ、蓮は笑顔で遠ざかる三人の背中を見送った。
「壊さなければならない大切な人ってあの子かな?」
それから清水寺から離れた住宅街で大きな怒声が響いた。雷が落ちるような大音量で、散歩中の犬が哀れなことに気絶した。辺りの住人は窓の鍵を閉めるなり、耳を塞いだりする。
「こらぁぁああ! 灸てめーっ! 何しにきやがった!」
「すいません! すいません! 俺はただ、お二人を呼びにきただけですよぉーっ! 研崎が呼んでいるんです!」
今にも殴りそうな勢いの南雲を前に、灸はひたすら平謝り。言い訳をいくつ並べても、南雲には通じそうにない。南雲はますます目を吊り上げ、興奮して言い募る。
「空気を読め! オレと風介の正体が蓮にばれたらどうするつもりだ!」
「え、晴矢様が実はエイリア学園、マスターランクチーム『プロミネンス』のキャプテンで、風介様が同ランク『ダイヤモンドダスト』のキャプテンだってこと、言っていなかったんですか!?」
驚いて灸が零した言葉に、南雲と涼野は辺りを見渡す。幸いなことに蓮も雷門中サッカー部もいない。いるのは、黒いハト一匹。金色の瞳を輝かせ、じっと三人を見下ろしている。
「だから、でかい声で言うなって何度言えばわかるんだ!」
同時刻。清水寺の土産物屋と土産物屋の間に二人の少女がいた。こんな狭い場所にいるのも怪しいが、彼らの瞳はずっとある人物を追っていた。――土産物屋の前を駆け抜ける蓮の姿を。
「ねえ、レアン」
「なに、クララ?」
レアンと呼ばれた少女が不機嫌そうな声で尋ねる。あまり仲はよくないらしい。
「ガゼル様とバーン様の幼馴染……ちょっとムカつくと思わないかしら?」
クララが目の前を通り過ぎていく蓮を憎憎しげに見つめながら呟いて、レアンは鼻で笑う。
「ふ~ん。あなたとわたし。珍しく気が合うのね」
「嫌だけど、プロミネンスに相談があるのよ」
「なあに? ダイヤモンドダストさん」
クララは長いことレアンの耳に何やら耳打ちをしていた。
蓮は彼らの前で塔子と合流し、何やら楽しげに話しながらクララとレアンから遠ざかっていく。レアンはその背中を見つめながら、
「・・・・・・ふふ。面白そうね」
暗闇の中で笑った。
~四章完~

小説大会受賞作品
スポンサード リンク