イナズマイレブン~試練の戦い~ しずく ◆snOmi.Vpfo /作

番外編 遊園地でこんにちわ!~学園キ●一部パロ~
ある日……ハードな練習が終わった後、バーンはいつも通り自室のベットでうつ伏せになって倒れていました。プロミネンスのユニフォーム姿のままです。部屋の描写はめんどいので割愛(かつあい)。ま、書く日が来たら書くことといたしましょう。と、そこへ。
「バーン様バーン様バーン様バーン様バーン様バーン様」
どたばたと騒々しい足音とバーンの名を連呼する声がドアの外でしたかと思うと、灸がかなり乱暴にドアを開けてバーンの部屋に躍り込んできました。 開けたと言っても、下品にも足でドアをけっ飛ばしながら入ってきたのですから、ドアを『蹴破った』の表現がどうにもしっくり来ます。ドアは木製とはいえ、それなりに強度があるので痛いはずですが、灸の顔色は全く変わらず。すごいですね。
「……うっせえ。あんだよ灸」
うるさそうに顔をしかめながら、バーンはゆっくりとベッドからだるそうに身を起こしました。
ふあーっと欠伸をしながら灸の方を見やると、灸は何やらユニフォームのポケットから取り出しまし、バーンの顔に近づけます。それはチケットでした。二枚あります。青いチケットで、観覧車の写真が載せられています。
「『ウリミヨランド』御優待券……あんだ? これ?」
チケットに書かれている文字を読み上げた後、バーンはしげしげとチケットを眺め、疑問の言葉をこぼします。
どっからどう見ても遊園地のただ券です。上の方に「フリーパス」とか小さく印刷されていますし。
それを何故灸は持って来たんだ、と内心疑問に思っていると、灸は自信に満ちた笑みで笑います。皇帝ペンギンのごとく胸も張って見せます。
「懸賞で当てたんです! オレの天才的くじ運にかかればらっくしょーですよ」
「そうか。で、これを俺にどうしろって言うんだよ」
バーンは聞かずにはいられなかったことを、はっきりと尋ねました。
すると灸はよくぞ聞いて下さいました! と言わんばかりに急に声がハイテンションになります。
「このウリミヨランドに行きましょう」
その言葉でバーンはプロミネンスの仲間を思い出します。
エイリアでの生活は、ひたすら練習に明け暮る日々。最後に休んだのはいつだったかわからなくなるくらいに、身をすり減らして練習を続けてきました。そろそろチームメイトにも疲労の色が見え始めた昨今(さっこん)。そろそろ休みの日を作ってやんねぇと、と逡巡(しゅんじゅん)していた時です。なんというグッドタイミングで舞い込んだ話でしょう。バーンはお、いいなと身を乗り出します。
「まあ、たまには休むのもいいかもしんねぇな。で、メンバーは?」
「ただいまオレとバーン様を入れて二人です」
チケットは一枚で二人まで入場可能。それが二枚あるってことは、四人まで行けると言うことです。バーンはもう一枚のチケットを睨みながら、う~んと唸ります。
「チケットもったいねぇし、後二人、プロミネンスの中から誘うか。ヒートとレアン――」
「待って下さい! オレ、ガゼル様と一緒がいいです」
サイデンかバーラでもいいかなと言いかけた時、灸が大声でその言葉を遮りました。一緒に行きたい相手がプロミネンスメンバーならまだしも、大嫌いなダイヤモンドダスト、しかもキャプテンであるという嫌な二重構造の言葉にバーンが露骨に嫌な顔を作ります。困ったように額に手を当てながら、盛大なため息。
「なんでガゼルが出てくるんだよ」
「オレが行きたいからです」
揺るぎない声で灸がはっきりと答えながら、バーンの横に腰かけます。じっと懇願(こんがん)するような瞳でバーンを見据えますが、バーンは静かに首を横に振るのです。
「ダメだ。許可できねぇ。プロミネンスメンバーの中らにしろ」
要求を突っぱねられた灸は不満そうに口を尖らせました。だがすぐに何か思いついたような顔になり、ポンと手を叩きます。
「だったら蓮さんは?」
蓮、とバーンは寂しげにつぶやくと俯きました。下を向いたまま体育座りになり、指でベッドのシーツをいじり始めます。なんか空しいです。空虚です。
「もっと無理だ。あいつは雷門イレブン。ウリミヨランドがある町より、ずっと遠くにいる可能性がたけーよ」
まるで自分に無理だと言い聞かせるかのように、バーンは呟きます。その声には哀愁が漂っています。顔も何だか憂いを帯びちゃってます。ですが、悲しいですが事実です。
蓮は雷門イレブン所属ですから南船北馬(なんせんほくば)、毎日のように日本中を旅しています。一つの町にいたかと思うと、もう別の町へ。まるで四季がすぐに移ってしまうかのように、蓮はすぐに別の町へと消えていきます。四季が移るのを待たないように、蓮もまた待ってはくれません。どんなに手を伸ばしても、するりと抜け遠くへ遠くへ去って行くのです。
「バーン様、諦めちゃだめです! 蓮さんにメールしてみたらどうですか?」
落ち込んでいるバーンの気持ちを察したのか、灸が明るく言います。その言葉でバーンは指先でシーツを弄る(まさぐる)のを止め、顔を上げます。
そこに、灸が思いっきり顔を近づけてきました。二人の鼻先が触れ合うほどまでに近づけてきました。まるで観察でもするかのようにバーンの金色の瞳を、見つめてくるのです。目には「さっさとメールしろ」オーラが嫌と言うほど漂っています。嫌と言うほど心に訴えかけてきます。
しばらくは睨みかえし、にらめっこを続けていましたが、とうとう心にかかる重圧に耐えきられなくなったバーンは、
「わかった。わかった」
白旗を上げました。実際は上げてませんけどね。
ベッドから飛び下りると、机の上に放置してあった携帯電話を手にとります。ぱか。ふたを開けました。
「メールすりゃあいいんだろ」
「はい!」
ベッドからちくちくした視線を投げかけられては、どうしようもありません。バーンはしぶしぶ携帯電話のボタンをタイプしていくのでした。ところでバーンって絵文字とか使うのでしょうか? 気になります。
***
ぶーぶー。しばらくしてベッドが小さく揺れます。音の震源はベッドに置かれたバーンの携帯電話です。
ちょうどベッドに腰かけていたバーンは手を伸ばし、携帯電話を起動。横から灸が覗き込んできます。
履歴を見ると「新着メール一通」の文字。震える手でバーンがメールのボタンを押すと、差出人はやはり蓮からでした。今の時間なら夕食でも取っているかと思えば、どうも時間があったようです。結構長く打ってくれていました。
内容を要約すると、蓮は偶然にもウリミヨランドがある町の近くに来ているらしく、電車を一時間ほど乗りつけば来れるとのこと。なんなら瞳子監督に頼んでみて、許可がもし取れれば行ってもいい。こんな趣旨(しゅし)のものでした。なんか偶然にしては出来すぎていますが、この世は超次元だから気にしちゃいけない。
メールを見た灸は嬉しさのあまり、座ったまま跳ねます。当然下はベッドなので灸の身体は深く沈み、それなりにベッドは揺れます。ベッドの縦揺れに身をまかせながら、バーンは嬉しさ半面苦さ反面と言う微妙な顔でメールを見ていました。
「決定ですね! よっしゃあ!」
そう高らかに拳を宙に突き上げる灸に対し、
「待て。ガゼルのやつが行くと言うかわからねぇぞ」
バーンはどこまでも現実的でした。
それからバーンは嫌々ながら当事者である灸を引き連れ、ダイヤモンドダストの宿舎の廊下を歩いていました。
すれ違うたび、ダイヤモンドダストの人々は睨んできたり、こそこそと小声でなにか言ってみたり、わざとらしく目を合わせ、すぐに逸らしてみたり。これでもかと言うくらい嫌がらせのオンパレードを食らわせてきました。バーンはその都度ぶんなぐろうとか黒い感情が頭を走りますが、大好きな蓮と出かけるためだと必死に自分を鼓舞し、素知らぬふりで歩いていたのでした。ちなみに灸はどこ吹く風で完全に無視していました。
で、ガゼルの部屋を訪ねてみると、話すことはないと扉越しに会ってやらないぞ通知。その言葉にドアを<アトミックフレア>で蹴破ってやろうかと思ったバーンですが、平静を務め蓮のことで話があると言いました。すると静かにドアが開き、ガゼルが顔を出します。ダイヤモンドダストのユニフォーム姿なり。
「……入れ」
ぶっきらぼうにガゼルが促し、バーンと灸はガゼルの部屋に足を踏み入れます。ガゼルは仏頂面で腕を組み、椅子に座っていました。机の上には飲みかけの紅茶が入ったマグカップが置かれ、ほんのりと立つ白い湯気が空気の中に消えていきます。
「で、何だ蓮のことで話があるとは?」
バーンは、部屋のベッドに座りながら、かなり手短に遊園地のことを説明。
どうせこの態度じゃ断わられることは目に見えていますが、灸の熱いまなざし(もとい希望の眼差し)に負けたバーンは、事務的にですが教えてやるのでした。
話が終わると、ガゼルは眉根を寄せます。普段冷静なだけに表情の変化は乏しいですが、今回ははっきりとわかるほどに顔をしかめました。
「…………」
ガゼルは黙っていました。バーンと灸も黙っていました。部屋は静けさに包まれ、風がガラスを揺らす音だけが響きます。
「……いいだろう」
ややあって、ガゼルが口を開きます。腕組みを解きながら立ち上がると、バーンの横に腰かけます。ただし嫌らしく30cm程距離を置きましたが。
「蓮が行くと言うのならば、私も行くこととしようではないか」
こうして計画はスタートしたのです……

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