イナズマイレブン~試練の戦い~ しずく ◆snOmi.Vpfo /作



第一章「それがその始まりだった……」(一) ~宇宙人襲来!?



 朝だった。太陽は東の空に昇り、眩しく輝きながら大地をゆっくりと暖めている。
 そんな空の下にある住宅街に、一軒の家がある。長方形の、赤い屋根が目立つ一軒家だ。大きさは、辺りの家々と同じほど。その家の二階の部屋に、少年はいた。
 部屋はお世辞にも広くはないが、机やタンス、ベッドなど、生活に必要なものは一通り揃っている。
 机の上には数学のノートと教科書が置いてあり、青いグリップ製のシャーペンが数本、教科書の上に放置されていた。タンスの上には、白いYシャツと、群青色の学ラン、ズボンが吊るしてある。
 その服の主が、ベッドの上にいた。
 部屋の脇に置かれた木枠のベッドに、簡単なマットレスがある。その上でサッカーボールがファンシーに散りばめられた小学生が持っていそうな掛け布団にくるまって、顔を横に向けて寝ている。
 年のころにして、十代の半ばか。短い黒い髪は、今はしっちゃかめっちゃかに跳ねて炸裂している。少年は目を閉じて、小さく口を開けて、

「アニメイト~。東京に行ったら、行き放題だ~。まさにここは、夢の国~」

 意味不明かつ怪しい寝言を呟いていた。
 そんな時だった。家が細かく揺れた。地震かもしれないが、少年はお構いなしに、寝返りをうって顔を壁側に向ける。すーすーと静かな寝息を立てながら、幸せそうに寝ているのだった。
 しかし続いて、爆発音が聞こえたときには、さすがに目をパッチリと開けた。ゆっくりと上半身を起こすと、頭を左右に動かして、辺りが安全であるかを確かめる。その時、頭の位置にあるデジタル時計に目がいった。文字盤をしっかりと見つめる。

「はちじ……ごふん?」

 液晶画面にはそう表示されていた。
 途端少年は、弾かれた様にベッドから飛び出し、激しく手を動かしながら、着替えを始めた。まず上下のパジャマのボタンを大急ぎではずし、ズボンと共にベッドの上にそのまま投げ捨てる。続いてタンスの上にかかっているものを着用し、制服姿になった。最後に机の脇にかかっている白い肩掛けかばんを手にして、

「……やっべ。遅刻だ」

 壮絶な勢いで扉を開き、ドタバタと大きな音を立てながら、階段を下りていくのだった。


***


 大急ぎで階段を下り切った少年は、目の前にあるドアノブに手をかけ、思いっきり押した。すると4人掛けの机の上に広がる朝食が目に飛び込んできた。どれもまだ作られたばかりなのか、かすかに湯気が立っている。
 
「蓮! 遅いわよ」

 赤いエプロンをつけた母親に怒られ、あたふたしながら少年――蓮は、席へと着く。鞄を机の下に、投げ込む。いただきます、と軽く言うと目にも止まらぬスピードで、テーブル上の食べ物を次々に胃の中へと消し去って行く。

「お行儀が悪いわよ。誰に似たのかしら」
 
 母親は蓮の正面に座ると、呆れた顔で悪態をついた。

「らてひゃひひんへへっほっほ(訳・母さんが、起こしてくれなかったんだろ。僕は、朝は苦手なんだから)」
「ほら、早く。傘美野(かさみの)中学校に、行きなさい」

 ずっと下を向いて食べていた蓮の手が止まった。パンを左手に持ったまま、不思議そうな顔で母親に尋ねる。

「は? 僕がこれから行く学校は、雷門(らいもん)中学校でしょ。傘美野は、隣町だろ。やだなあ、母さん僕をからかってるの?」

 蓮は笑い飛ばそうとしたが、母親の顔は真剣そのものであった。渋い顔をすると、う~んと唸(うな)りながら腕組みをした。

「それがね、母さんにもよくわからないの。今さっき雷門中学校の方から電話が来て、急いでお子さんを、傘美野に向かわせてくれって言われたのよ」
「サギじゃない?」
「そうねえ。でも、時間も時間だし。蓮、傘美野まで道もわかるし、大丈夫よね」

 母親は立ち上がると、蓮の前にあった皿を片づけ始めた。扉の上にある時計に目をやると、既に8時15分――登校時間は8時30分だから、そろそろ出かけないと遅刻することは目に見えている。蓮は席を立つと、鞄を手に取り玄関へと走った。学校の指定靴……緑色で、かかと寄り少し右側に雷のマークがある上履きに履き替える。

「とりあえず傘美野に行く。遅刻したら、母さんのせいだからな!」

 転がりそうな勢いで玄関を出ると、蓮は家の前にある坂道を大急ぎで下って行く。鞄が左に右に激しく揺れ、蓮の邪魔をするかのように動く。

「ヤバイ! 初日から遅刻なんてありえないぞ……」
「…………」

 そう呟く蓮を見送る、一つの姿があった。
 黒いローブに身を包んだ人間。細いやせ形で背はすらっと高い。体格からして女性か。その人間はいつ現れたのか、蓮の家の屋根の上にのっかっている。動かず、騒がず、ただただじっと彼の背中を送っていた。