イナズマイレブン~試練の戦い~ しずく ◆snOmi.Vpfo /作

第四章 闇からの巣立ち(三)
「ようやく気づけたようね」
円陣の向こうから瞳子の声がした。
やがて鬼道と春奈が道を明けるように左右に割れ、その間をゆっくりと瞳子監督が進んでくる。
「瞳子監督」
「実はな。お前が悩んでいるって、瞳子監督が教えてくれたんだ」
「え? そうなんだ」
蓮がびっくりしていると、蓮の目の前まで歩み寄ってきた瞳子に円堂は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、瞳子監督!」
自分のことでお礼を述べているのかと思えば、円堂の口から出てきたのは思いがけない言葉だった。
「白鳥のことも、ジェミニストームのシュートを止められたのも、監督のおかげです!」
「どういうこと?」
ジェミニストームのシュートを止められたのも、監督のおかげだという言葉がいまいちしっくりこなかった。
そういえば奈良でボロボロなった後、円堂はあいつらのシュートが見えたといっていた。野菜をたくさん切ると、そのうちきれいに切ることができるように、相手のシュートの『数』をこなすことで、受けることができるようになったのだろう。そのことなら合点(がってん)がいくと蓮は思う。あの時、瞳子が円堂をベンチに下げたりしたら円堂は強くなれなかったかもしれない。
「オレさ、奈良であいつらのシュートを受けまくたっだろ? その時、シュートが見えるようになって、今回やっと止める事ができたんだ。これも監督のおかげだ!」
円堂が自信満々に言い切った。監督を信じているんだな、と蓮は心の中でつぶやく。だからこそ、自分もこの監督を信じて仲間たちと進んでいくと改めて、心に誓う。流した涙で心は浄化され、すがすがしい青空のような気分だった。
礼を言われた瞳子はどこ吹く風と言った顔つきで、黙って円堂の話を聞いている。
「本当はそんな意図があったんですね」
何気なく瞳子に言ったが、瞳子はそうかしら? と素っ気無い対応をしてくれただけだ。でも、と蓮は目を細めて瞳子を見る。
(豪炎寺くんを外したのも、何か意味があるはずだ)
夕香が言っていた『怖いおじさん』。これがもし、豪炎寺の離脱に関係があったとすれば。瞳子はその『おじさん』の正体を知り、あえて豪炎寺を逃がしたことになる。そういえばあの日の豪炎寺は顔はどこか浮かないものだったし、シュートをはずすという彼らしくない失態を犯していた。『おじさん』に狙われた豪炎寺は、仲間に火の粉がかからないようあえて、チームから離れたのではないだろうか。
豪炎寺くんはどこですか? と無言の圧力で瞳子に問うが、彼女の目が揺れ動くことはなかった。ただただだんまりしたまま、静かに見つめ返してくる。
「吹雪」
そこへアイリスの声がした。見ると、吹雪の後ろに白恋のユニフォームを着た白恋サッカー部のメンバーが立っている。アイリス一人を先頭に、他のメンバーたちはアイリスの後ろに並んでいる。いつのまにか吹雪の周りにいた雷門メンバーはあちこちに散っていて、吹雪の周りから少し距離を置いた場所にいる。
「あ、アイリスちゃん」
「監督から聞いたわ。そろそろ出発の時間なのね」
アイリスが、名残惜しそうな顔で語りかけた。後ろにいるサッカー部のメンバーには、眦(まなじり)から涙を流しているものもいる。アイリスが泣いちゃだめよ、と白恋サッカー部をなだめ、みんなユニフォームの袖で目をごしごしと拭いた。
「でも僕がいなくなって大丈夫かな」
吹雪は心配そうな表情で白恋メンバーを見据えながら言って、アイリスの後ろにいた紺子が前に出てくる。紺子はにっこりと笑いかけ、
「大丈夫だっぺ。私とアイリスちゃんたちで、しっかり白恋中学校は守っていくっぺ」
「そうよ。だからしっかり宇宙人を倒してきなさい」
同時に背後の白恋メンバーがいってらっしゃい! 吹雪くんと声を揃えて大声を張り上げる。
驚いたようにぐるりと白恋メンバーを、吹雪は見つめると、最後ににっこりと微笑みかける。
「……うん」
「それじゃあ、そろそろ白恋中学を出発するわよ」
瞳子の声が合図で、雷門イレブンはぞろぞろと校門へあがる階段へと向かっていく。吹雪も別れが惜しいのかしばらく戸惑った表情で白恋メンバーを見つめていたが、円堂にポンと肩を叩かれると、踵を返し、蓮と円堂と一緒に階段へと走り去って行く。
最後に、青いポニーテールを揺らしながら、階段の方角へ進もうとする風丸を見つけ、アイリスは駆け寄る。
「じゃあね、一郎太」
「ああ、またな」
風丸はそれだけ言うと、早足で雷門イレブンを追いかけていってしまう。その瞳は陰り、少し俯いていた姿勢で歩いていた。
「無事でいてね」
アイリスは両手を組んで、小さくつぶやいた。
***
白恋中学校正門前には、既にイナズマキャラバンが止まっていた。雷門サッカー部のメンバーは、一番初めに来た瞳子を先頭に、ぞくぞくとキャラバン内に乗りこんでいく。風丸に先を譲り、風丸が先にキャラバン内へ入って行くのを見送っていると、視界に黒い物体が飛び込んできた。
「あ、ハト? それともカラス?」
イナズマキャラバンの昇降口の上あたりに、一匹のハトが止まっていた。
見た目こそ、神社や町中いたるところに出没するハトとなんら変わりはないが、その全身は黒。カラスと同じ色の体毛なのだ。しかも野生のハトにしては、その体毛は光沢があり、毛並みもいい。
そのハトは、太陽を思わせる金色の双眸で、静かにこちらを見下ろしていた。ただのハトにしてはずいぶん存在感を感じさせる。
「ハト? こいつはカラスじゃないのか?」
「え~でも、これはどう見てもハトだと思うなぁ」
円堂が首をかしげ、蓮が腕を組んで、ハトと睨みあいをしていると、ハトはプイッと横を向いた。
小さな翼を広げ、羽音を立てながらみるみるうちに大空へと消えていった。
二人は呆気にとられてハトを眺めていたが、やがて既にキャラバンに乗っているメンバーが窓から顔を出して、こちらを見つめているのに気がついた。二人とも、バツが悪そうな表情で互いを見やり、
「ところで吹雪くん、キャラバンはどう?」
「イナズマキャラバンは、すごいだろ?」
話題をそらすかのように、後ろにいた吹雪に話しかける。吹雪はにっこりとほほ笑むと、
「イナズマキャラバンって、思っていたよりも広いんだね。うん、これならみんなと楽しい旅ができそうだよ」
感慨深くキャラバンを見た感想を述べた。そっか~と言いながら、円堂がチームメイトの視線から逃げるように、そそくさと早足でキャラバンに滑りこんでいく。
蓮は吹雪と苦笑いをしながら、後に続く。むっとした車独特の匂いが鼻をついたが、もう慣れた。キャラバン内は、外に比べるとほんの少しだけ暖かい。蓮は自分の席に座ると、ジャージ上下を身にまとった。吹雪は蓮の席から数えて二列後ろの染岡の隣に座り、楽しそうに染岡と話し込んでいる。
「それで……瞳子監督。次はどこへ向かうんですか?」
ジャージを身に付けた蓮の横で、円堂が前の座席に座る瞳子に尋ねる。瞳子は立ち上がると、キャラバン全体に響くような大声で、
「まずは京都に向かうわよ。今、SPフィクサーズに頼んで、京都でエイリア学園から襲撃予告があった学校を探してもらっているところ。場所がわかり次第、そちらへ向かいます」
「それじゃあ、まずは京都に向かうことになるんですね」
「そういうことになるわね」
「よし。それじゃあ出発するぞ!」
古株の声が合図で、エンジンが唸り始め、同時に白恋中学校がどんどん遠くなり始めた。
(イプシロン……いったいどんな奴らだろう)
*
同時刻。
「”ジェネシス”の座は……”ガイア”のものです」
「わかりました。父さん」
「なっ! 父さん、何故オレたち”プロミネンス”ではないのですか!?」
「我々ダイヤモンドダストも何か……」
「ガゼル、バーン。聞こえませんでしたか? ジェネシスの座はガイアのものだと――」

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