イナズマイレブン~試練の戦い~ しずく ◆snOmi.Vpfo /作

第三章 新しい風の中で(十九)
ホイッスルが吹きならされると同時に、雷門は勝利の歓声を上げ、白恋は残念そうに、だが満足気味に項垂れていた。そして、『吹雪』の様子が変化する。
跳ねていた髪と吊り上った目は再びたれ気味に。優しい目つきへと戻り、また温和な印象を与える。ライオンのような威厳を秘めていたオレンジの瞳も、森の様な静かさを秘めた青緑へと戻っていた。試合前の、温厚で頼りなさそうな「吹雪 士郎」そのものだった。
その吹雪は、ふぅ……とため息をつき、円堂の近くに歩み寄ってきた。
「さすがだね、円堂くん。負けちゃったよ」
「そんなことないぜ! おまえの<エターナルブリザード>だって、すごかったぞ」
円堂と吹雪は、互いの手をしっかりと握り、互いの顔をしっかりと見据え、握手をした。吹雪も円堂も、力強く握っていた。
そこへ、瞳子監督が颯爽(さっそう)と二人の方へ歩み寄ってきた。吹雪は円堂から手を離し、瞳子を見つめる。
「吹雪くん、あなたイナズマキャラバンで全国を旅してみる気はない?」
「え? 全国ですか?」
瞳の口から出た言葉に、吹雪は驚きの色を見せた。
円堂が、いままでの旅の経緯を単純に吹雪に話す。雷門中学校はエイリア学園と戦うため、強いストライカーを探すためにこの白恋中学校まで来たと。
話し終えると、吹雪は納得した表情でうんうんと頷いて、
「なるほど。強いストライカーを探していて、ボクに白羽の矢(しらはのや)が立ったわけだね。面白そうだし……ボクはかまわないよ」
快諾してくれた。
染岡が露骨に嫌な顔をするが、円堂は気付いていなかった。すぐに次はどうするか? と言う方に考えが行ってしまう。
「じゃあ、これからどうします? 監督?」
「……そうね」
考えがないのか瞳子が宙に視線を泳がせていた時。 一人の白恋中学校の女子が、息せき切って階段を降り、瞳子の元へ走り込んできた。女子の顔は汗まみれで、呼吸も荒い。その子は数回深呼吸して息を整えると、慌てた素振りを見せる。
「た、大変だっぺ! 今、監督がエイリア学園から襲撃予告が来たって」
早口で口を開きながら、女子は一枚の茶封筒を瞳子に手渡した。表面に『雷門イレブンへ』と達筆な字であて名が書かれている。消印、切手はともになし。瞳子が封筒をひっくり返すと、差出人の名も書かれていなかった。
「エイリア学園からだって!?」
「あいつら北海道に来てたのか!」
雷門イレブンが手紙のことで騒ぎ立てると、瞳子が今から読むから静かにしなさい。と注意された。瞳子が中から四つ折りにされた便箋一枚を取り出す。
この場にいる全員が口をつぐみ、瞳子が読み上げる声だけを聞く。
「読むわよ。拝啓 雷門イレブンへ……」
『 拝啓 雷門イレブンへ
我々はエイリア学園、セカンドランクチーム『ジェミニストーム』なり。
雷門イレブンよ、貴様らが北海道の白恋中学校にいることは既に我らは知っている。唐突だが、今から3日後の正午……貴様らに再戦を申し込む。場所は知っての通り、白恋中学校だ。断わることなど許されない。断わったとしたら、白恋が雷門中のようになる。
せいぜい準備をしておくことだな レーゼ』
***
瞳子が手紙を読み終えると、白恋の生徒たちは不安げな面持ちで互いを見やり、ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。特に女子たちは、一斉に懇願(こんがん)するような目で吹雪を見つめた。
「白恋中学校が破壊されるって!」
「ふ、吹雪く~ん! 白恋を救ってほしいっぺ!」
女子に見つめられる吹雪を尻目に、アイリスはきっぱりと円堂と雷門イレブンを見渡しながら尋ねる。
「雷門イレブンのみなさん、どうするの?」
「もちろん勝負は受ける」
円堂はぐっと拳を作り、力強く頷いた。
もう雷門中学校のように破壊される学校を出してはいけない、とそう誓ってここまで来たのだ。今でもはっきりと思い出せる。壊れたがれきだらけの校舎、人々の泣き叫ぶ声。この世の終わりを見ているようだった。
だからエイリア学園と戦ってきたのだ。前に進んだら今更後戻りなんてできるはずはない。オレ達は、進むんだと円堂は小声でつぶやいた。豪炎寺もきっと帰ってくるはずだ。だから進み続けるのだ。
その決意が、円堂を動かし続ける。
「この白恋中学校を、雷門中のように破壊させたりはしない! オレたちの手であいつらを倒すんだ!」
「でも……豪炎寺さんなしで、勝てるんッスか?」
それでも雷門イレブンはまだ不安半分、期待半分と言った感じだ。
吹雪が加わることにより大幅な強化は望めるが、前回ジェミニストームにはぼろ負けだった。吹雪一人の力でジェミニストームと対等かそれ以上に戦えるかなど、誰も知らない。それに豪炎寺がいないショックからも、まだ抜け切れてはいなかった。
「大丈夫だ。明日には塔子と白鳥も帰ってくるし、今のおれたちには吹雪がついているじゃないか!」
そう円堂がみんなを力づけるように言って、この場全員の視線がいっせいに吹雪へと向けられる。吹雪は頬を染めてはにかんだ。白恋の女子たちから、黄色い歓声があがる。その歓声から話を切り替えるように、風丸が咳払いをする。
「そうだな。吹雪のスピードなら、やつらに太刀打ち(たちうち)できるかもしれない」
「だろ? 吹雪はどうする?」
「もちろん協力するよ、円堂くん」
にっこりと笑い吹雪は快諾してくれた。けど……と言葉を紡ぐ。
「けど、やりたいことがあるんだけれど、いいかな?」
「やりたいこと?」
「うん。実は――」

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