イナズマイレブン~試練の戦い~ しずく ◆snOmi.Vpfo /作

クララとレアンの暴言パラダイス⑧――無意識の加害者
「「蓮!」」
二人ぶんの名前を呼ぶ声と共に、ドアが乱雑に開かれれ、南雲と涼野が蓮の部屋に入ってきました。二人とも目がつり上げて、蓮を睨んでいてなんだか怖い。……ですが、蓮は中でまさかのお着替え途中。ベッドの上にはパジャマが上下畳まれ、上半身はすっぽんぽん。体が細くて筋肉がむだなくついてるとか描写はめんどいんでパス。こら、そこ数行前の描写読んで興奮しない。
蓮は、片手にファドラの赤いシャツを握り締めたままの体勢で硬直しています。南雲と涼野も固まりました。微妙な沈黙が三人の間に流れます。やがて蓮は、二人とまともに目があった瞬間、湯沸し器のごとく顔を真っ赤にして、
「ノックくらいしろ!」
怒りに任せ、身近にあったジャージの上と枕を南雲と涼野に投げ付けます。人に枕とジャージは投げてはいけません。涼野は素早くしゃがみました。涼野の頭上をまず枕、ややあってジャージが通りすぎて、ちょうど涼野の真後ろに立っていた南雲に襲い掛かりました。まず南雲は先にとんできたジャージに顔を覆われ、続いて枕が彼の顔面にクリーヒット。ごうと声にならない悲鳴が上がり、はらりとジャージが剥がされます。枕もジャージも、そのまま南雲の足元に落っこちました。ですが南雲は、ぼうっとしません。目を吊り上げるとすぐさま反撃にでます。
「蓮、何しやがる!?」
足元に落ちていた枕をお返しと言わんばかりに、蓮に向かって投げます。が、俊敏性が売りな蓮にはあっさりとかわされてしまいました。南雲は、舌をならし、蓮は交わして、あたまからすっぽりと赤いシャツを被りました。着替える間は結構あった気がしますが、それはそれ。
「もう、朝から何の騒ぎ?」蓮は、むすっとしながら南雲と涼野を見て問いかけます。朝から騒ぎを起こされるのには慣れっこなので、いつも通りの対応と言えるでしょう。慣れるって怖いね。
その言葉に、二人は思い出したように「あ」と声を出して、蓮に詰め寄るのです。そして、おもむろに南雲に腕を掴まれ、
「いいから来い!」
「はーなーせー!」
反論することも許されないまま、かなり強い力で部屋から引きずり出されたのでした。
*
南雲が蓮を解放したのは、食堂の窓際でした。そこには、一本の笹が立て掛けてあります。カラフルな短冊が緑のなかに彩りを作り出しています。笹は、アフロディがAmazo○で購入した模造品ですが、実によく出来てます。茎の色や細かい笹の葉が本物そっくりに再現されていますね。ちなみに短冊は、ファドラの皆さま方が書いたものですよ。「今年は日本式にした方が美しいと思わないかい?」と、やっぱりアフロディが提案して、みなさんで短冊を書くことになったんです。ちなみに笹に短冊飾る文化は日本独自のものだそう。間違っていたらごめんなさい。
「蓮、これはどういうことだよ!?」
お怒りの南雲は、笹の下の方に飾られていた一枚の短冊をビシッと指差します。蓮は、首をかしげながらその短冊を手ですくうように持ち上げて、読み上げました。
「えー『馬鹿な晴矢と風介に、サッカーで勝てますように 白鳥 蓮』って、えぇ!?」
書いた覚えのない短冊に、蓮は絶叫。明らかに他人の字で願い事と名前が書いてあります。蓮は爪があまいじゃなくて詰めがあまい犯人に笑いかけます。自分ならわからないようにパソコンで打つか、脅迫文みたいに新聞の文字を切り抜くと考えましたがみなさんは真似をしないように。
蓮の頭が回り始めます。頭の中では、情報が忙しく駆け巡ってます。短冊の綺麗な字体には、見覚えがありましぞ……と頭の引き出しを片っ端から開けていく漣じゃなくて蓮。南雲と涼野が「馬鹿とはどういうことだ」と詰問しても、全く聞こえていない様子。ものすごい集中力です。しばらくすると、蓮は手を伸ばし、一枚の短冊を笹から外しました。そこには、似たような字で『ボクがさらに美しくなりますように』と書いてあります。名前は書いていませんが、こんなことを書く奴はファドラに一人しかいません。一人いれば十分です。
「アフロディったら、またイタズラして……」
蓮は、実にいい笑顔で優しく呟きました。優しい声ですが、顔には血管が浮かび上がっていますし、アフロディの短冊をくしゃっと握り潰してます。と、そんなことを全く知らない南雲と涼野が蓮に近付きます。
「蓮、オレに喧嘩を売るとはいい度胸だな。龍に食われる覚悟はできているか?」
「蓮、見損なったぞ。凍てつく龍の瞳に脅えるがいい」
蓮が振り向いた瞬間、彼らが頭を下げたのはゆうまでもありません。後、アフロディが翌日粛正されたのはまた別の話。蓮がファドラ内で、『微笑みが最も龍に近い男』と呼ばれるだけはあります。
「あのねえ、短冊ちゃんと見てよ! 僕の字じゃないでしょ」
それから蓮は、握り潰してぐちゃぐちゃになった短冊と、問題の短冊を二人に差し出して一生懸命に説明。南雲と涼野は、怪訝な顔付きで両方を見比べていましたが、やがて納得したらしく、
「これは私たちを陥れようとした罠だったのか」
普通気付くよね。と蓮は、内心で思いましたが言いませんでした。
「……だよな。アンタの字にしちゃ綺麗すぎると思ったぜ」
と南雲の皮肉混じりの言葉を、
「晴矢より雑じゃないもん」
嫌みで返す蓮。当然短気な南雲は、食って掛かってきます。
「あんだと!?」
「だって事実じゃないか」
「言ったな蓮」
「ああ、言いましたけど何か?」
「落ち着け、二人とも。それでは、アフロディの思う壺だぞ」
低レベルな争いが繰り広げられそうになるところを、涼野がなだめます。獣レベルのいがみ合いです。二人は、黙ってにらみあいますが、渋々と言った感じに喧嘩をやめました。南雲と涼野の喧嘩も、蓮と南雲の喧嘩もあまりレベルが変わらないのは、仲良しな証拠でしょう。
ここで、そういえばと南雲が呟きました。

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