イナズマイレブン~試練の戦い~ しずく ◆snOmi.Vpfo /作



第三章 新しい風の中で(十八)



「あれが……吹雪!?」

 円堂が絶句すると、アイリスが当然だと言わんばかりの顔つきで、驚愕(きょうがく)する雷門イレブンに淡々と説明を入れる。

「吹雪は――なんというか、試合の時になると『人』が変わるの。まるで別人みたいでしょ?」
「ああ。驚いたぜ」

 風丸が頷き、染岡を除いて雷門イレブンはうんうんと頷く。
 何故か染岡は人が変わろうが、あいつが豪炎寺の代わりになんてなるかよ……と吹雪をどこまでも拒絶していた。

「あれは、試合の時にだけ出てくる『吹雪』。あんな荒っぽい吹雪、学校じゃ見たことないもの」

 アイリスが話していると、DFの位置にいた『吹雪』が、白恋メンバーの先頭――すなわちFWの位置に躍り出て来た。右腕に青いキャプテンマークをし、不敵に雷門イレブンに笑いかける。

「フットボールフロンティアの優勝校か。少しはオレを楽しませることが出来んのか?」

 不敵というか、それは挑発に近い笑いだった。
 また染岡がぎりぎりと歯ぎしりをし、目をみるみるうちに逆三角にして、吹雪に食ってかかる。

「おい吹雪! オレたちをバカにしてんのか!」
「バカになんかしてねえよ。それに実力の違いは、試合で見あおうじゃないか。北海道の猛獣さんよぉ? よそ見してると、また凍らされるぜ?」

 完全に『吹雪』に見下された態度をとられた染岡は、軽くぶん殴ってやろうと『吹雪』に詰め寄ろうとした――ところで。鬼道に、身体を叩かれる。

「……染岡、少しは落ちつけ。バカにされたのなら、試合で見返せばいいだけの話だ」
「言われなくてもやってやるぜ!」

 敵意をこめた眼で『吹雪』を睨むと、向こうは怯むことなく強い光を宿した瞳で見つめ返してくる。『吹雪』はくるりと白恋サッカー部の方を向き、

「今日もバンバン点を取ってやるから安心しろよ!」

 と自信に満ち溢れた一言を放ち、白恋サッカー部は盛り上がった。
 ここでホイッスルが鳴り、白恋ボールで試合が再開される。『吹雪』はボールが渡された瞬間―ー彼は、それこそオオカミのように単騎で突っ込んできた。白恋メンバーは、己のそれぞれの位置から動かない。どうやら『吹雪』一人任せにしているようだ。
 早いスピードに染岡は抜かれ、ぎりぎりで一之瀬が追い付き、『吹雪』に体当たりを仕掛ける。が、『吹雪』も負けじと身体をぶつけ、ぶつけ合いが続いた。

「おらあっ!」

 雄たけびを上げて、『吹雪』は片手で一之瀬をなぎはらった。一瞬一之瀬がひるみ、そのすきに先に進まれてしまう。

「くっ! なんて突破力だ!」

「てやあっ!」

 今度は風丸と鬼道がスライディングでボールを、二人同時に足で押さえつける。だが『吹雪』の苛烈な動きは留まらない。力で押し返され、風丸と鬼道が弾き飛ばされる。
 ボールをキープした吹雪は、そのまま円堂へと迫る。

(……すごい! すごいぜ! 吹雪)

 『吹雪』が一歩近づくたびに、円堂の心臓の鼓動も呼応して早くなる。風が冷たさを増し、また波となって襲い掛かってくる。だが円堂の心は、寒さよりも強くマグマのような熱い闘志が燃え上がっていた。

「決めるぜ! <エターナルブリザード>!」
 
 噂に聞いた<エターナルブリザード>が来る。
 『吹雪』は、両足でボールを挟み込むと、そのまま片手を地に着き前に屈みこんだ。するとボールは、上空に浮かぶのだが、その周りを冷気が囲い始めた。冷気はボールを中心として回転しながら、かなりのスピードでボールを急激に凍らせていく。近くにいるとわかるのだが、ひゅう……と獣が唸るような風の音がして、それなりの威圧感を与えてくる。そして吹雪は凍りつづけるボールに向かって跳び上がると、2回程回転し、3回目の回転途中でボールを蹴った。凍りついたボールが、円堂の元へと一直線に襲い掛かってくる。

「<ゴッドハンド>!」

 対する円堂は、片手を大きく天にかざした。すると彼の手の何倍もあろう黄金色の手が、かざされた手の上に現れた。そして円堂は、拳を作って、すぐにぱっと開いた。黄金色の手が、円堂の手と重なりあい、『吹雪』の凍りついたボールが手のひらにぶつかる。 すごい力で、円堂はじりじりと押される。やがて重なっていた黄金色の手が、ガラスが砕けるように割れてなくなり、凍りついたボールがゴールに突き刺さる。円堂は、しりもちをついていた。

「へっ! どうだ、オレの<エターナルブリザード>はよぉ!」

 得意げに胸を張った『吹雪』を見て、円堂はにっこりと笑いかける。

「すげえな! お前のシュート! でも……オレたちだって負けないぜ!」

 すぐに頭を切り替えた円堂は、アイリスへとボールを投げた。
 また『吹雪』がアイリスに近づき、タックルを仕掛けてくる。

「アイリス! 今日は喘息の方は大丈夫なのかよ?」
「心配してくれてありがとう」

 全然ありがたみがこもってない口調で『吹雪』に礼を言うと、アイリスは一度立ち止まった。

「今日は敵同士だし、遠慮はしない。……<ヘブンズゲート>!」

 その言葉で、アイリスの真後ろに白い鉄扉の門の様なものが現れた。ゆっくりとぎぃぃと軋んだ音を立てながら開くと、その中は暗闇だった。そして中から強い空気の流れ起こる。手招きをするように、辺りのものを飲みこみ始める。進行方向は、門の中で『吹雪』の身体は、みるみるうちに、浮き上がり、門の中へと吸い込まれていった。門は消え、空中から『吹雪』が落下してきて、地に叩きつけられる。

「ちっ。油断してたぜ……アイリスとは、いつも2TOPを組んでいるせいか、慣れないかんじだ」

 悔しそうに『吹雪』は、ボールをキープするアイリスを見つめ続けていた。

「アイリスちゃんが来たっぺェ!」
「止められないっぺ!」

 仲間であるが故か、アイリスは白恋メンバーのDFをさくさくと縫うように進んでいく。弱点などを熟知しているのか、背後から来ている風丸と上手い連係プレーをしながらどんどん攻め上がって行き、ついにはゴール前に来ていた。

「吹雪がいない今なら、得点のチャンスよ」
「ああ、オレも手伝う!」

 アイリスが声をかけながらボールを宙に蹴りあげ、風丸とアイリスが当時に宙に舞い上がる。

「<氷炎トルネード>!」

 ボールの前に来た二人は、同時に足をひく。すると、風丸の足に炎が渦をまいて宿り、アイリスの足には冷気が渦を巻いて現れる。二人は引いた足を同時に伸ばし、一緒にキックをした。ボールを中心に、炎と氷が混ざりあい、渦となってゴールへと進む。例によって白恋のGKは泣きそうな顔で、ゴールから逃げ出し、無人のゴールに炎と氷を宿したボールが入った。

「やったな、アイリス」
「……あ、ああ」

 少し荒い息を吐きながら、アイリスは風丸とハイタッチをした。
 風丸は、不安そうな顔でアイリスの表情を伺う。

「おまえ、喘息の方は平気なのか? 無理するなよ」
「悪いけど、これからは行動するのを控えるかも」

 ちょうどその時、試合終了を告げるホイッスルが吹きならされた。