二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスター 星と旋風の使徒
日時: 2017/01/28 12:25
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=22078

どうも、初めましての人は初めまして、そうでない人はこんにちは。パーセンターです。
えー、また始まってしまいました。四作目ですね。
今作は前作の完全続編となっております。
参照をクリックすれば、前作に飛びます。
レオの新しい冒険が、始まります。

※注意
・例によって例のごとくノープランです。
・パーセンターは大学生でございます。現在数々の課題に追われて更新頻度が非常に低いですがご了承ください。
・登場するポケモンが色々とややこしいです。詳しくは近々やるオリキャラ募集のときに説明しますが、簡単に言うと『プラチナのシンオウ図鑑に載っているポケモン+ベガでのみ登場するポケモン』となります。

これくらいですね。
内容としては、前作と同様、オリジナルの地方でのゲームのような冒険ものとなります。

それでは、よろしくお願いします。

登場人物
味方side >>25
N・E団side(ネタバレ注意)>>153
用語(ネタバレ注意)>>342

プロローグ >>1

シラハタウン&メガキタウン編
>>6 >>20 >>22
ハスバナシティ編
>>27 >>31 >>32 >>34 >>36
デンエイシティ編
>>39 >>40 >>41 >>42 >>45 >>46 >>50 >>53
アカノハシティ編
>>55 >>57 >>58 >>62 >>63 >>64 >>65 >>68 >>70 >>72 >>74 >>75 >>79 >>80
コウホクシティ編
>>81 >>82 >>83 >>84 >>87 >>88 >>89 >>93 >>94 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>106 >>107 >>108 >>111 >>112 >>115 >>116 >>117 >>118
ツクモシティ&スティラタウン編
>>121 >>122 >>123 >>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>133 >>138 >>145 >>152 >>157 >>158 >>159 >>162 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>171 >>172 >>173 >>175 >>176 >>177
シヌマシティ編
>>178 >>179 >>180 >>185 >>186 >>188 >>189 >>190 >>193 >>194 >>195 >>199 >>200 >>206 >>207 >>210 >>211 >>214 >>215 >>216 >>217 >>218 >>221 >>222 >>223 >>224 >>227 >>229 >>230 >>233
ヨザクラタウン編
>>234 >>235 >>236 >>242 >>243 >>246 >>247 >>248 >>251 >>254 >>255 >>256 >>257 >>258 >>259 >>260 >>261 >>264 >>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>273 >>274 >>275 >>276 >>277 >>280 >>281 >>283 >>284 >>285 >>288 >>289 >>290 >>291 >>294 >>295 >>296 >>297 >>298 >>299 >>300 >>301 >>303 >>304 >>305
テンモンシティ編
>>306 >>309 >>310 >>311 >>312 >>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>322 >>324 >>325 >>326 >>327 >>328 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>340 >>341
四天王&チャンピオン編
>>343 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>355 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>363 >>364 >>365 >>366 >>367 >>368 >>369 >>370 >>371 >>372 >>373 >>378 >>379 >>380
N・E団編
>>383 >>384 >>385 >>386 >>387 >>388 >>389 >>390

決戦編
零節 都市
>>391 >>392
一節 碧天
>>393 >>400
二節 緋天
>>394 >>401
三節 蒼天
>>395 >>404
四節 破天
>>396
五節 夜天
>>397
六節 輝天
>>398
七節 聖天
>>399


非公式(ベガ)ポケモン図鑑 >>5

Re: 第二百二十話 孤児 ( No.385 )
日時: 2016/09/13 10:17
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: 9yNBfouf)

碧天将直属護衛ロフトには、親がいなかった。
正確に言えば、生まれてすぐに親に捨てられ、知らない大人に拾われて孤児院で育ってきた。
保護された、と言えば聞こえはいいが、実際の孤児院の環境など最悪だ。
生きるために必要な食事、睡眠などは取れるが、それ以外の環境が悪すぎる。
特に人間関係。住まされている寮舎ごとに派閥が生まれ、その派閥でいがみ合い、職員に対しても心を開かず、ドロドロとした人間関係の中でロフトは育ってきた。
だが、食事と睡眠が保証されているだけでも、ここでの生活は充分だったのかもしれない。
なぜなら。

九年前のB・S団襲来により、孤児院の子供たちは住む施設すら失われることになったからだ。

多くの孤児たちが、黒づくめの組織に連れ去られた。
何とか逃げ出すことができたのは、ロフトを含めた数名だけだった。
それからの生活は、まさに地獄。孤児院にいた方がよっぽどマシだと思えるほどだった。
ロフトをリーダーとして、商店街から食べ物を盗み取ったり、路地裏に入り込んだ哀れな酔っ払いを襲撃し、金品やポケモンを奪い取ったり、そんな生活が何年も続いた、ある日のこと。
その日も、腕っ節の弱そうな男が一人、路地裏に入り込んできた。
ロフトたちは生きるため、その男を狙った。


「ここに入り込んだのが運の尽きだな」
「お前に恨みはないが、金目のものは全て置いて行ってもらうぞ」
片手にモンスターボール、もう片手にバールや鉄パイプなどを手にし、ロフトたち五人は瞬時にその男を包囲した。
「なるほど。商店街に住むならず者の集団がいるって聞いてやって来たんだが、お前らのことだな。丁度いいぜ、お前らに用があるんだ」
だが五人に囲まれても、その男は余裕を浮かべたまま辺りを見回し、懐からボールを取り出した。
「っ、舐めてるな……!だったら! 行け、マリル!」
「出て来い、プラズン!」
「頼む、ドーミラー!」
「やれ、モンジャラ!」
「お前もだ、ゴキブロス!」
五体のポケモンが、その男を取り囲む。
「力尽くで奪い取る! お前たち、行け!」
それぞれのポケモンたちが、一斉に男へと襲い掛かった。
しかし。

「サーナイト、サイコキネシス」

次の瞬間には、彼女らのポケモンは全て吹き飛ばされていた。
「……!?」
男の方を見れば、見たこともないような美しい人型のポケモンが男の横に立っている。
「襲撃には手慣れてる様子だが、まだまだ子供だな。そんなんじゃ、いずれは捕まっちまうぞ」
「ぐっ……!」
ポケモンがやられ、今度は手にした鉄パイプで襲い掛かろうとするロフトたちだが、体が動かない。
「ダメだぜ。お前らの体はサーナイトが操ってる。諦めて降参しな」
「うるさい! 貴様のような平和な世界の人間に、捨てられた私たちの何が分かる!」
唯一動く口を開き、怒声を浴びせるロフト。
対して、
「お前ら、何か勘違いしてねえか?」
その男は、ロフトたちを見回し、そう言った。
「俺も親がいねえんだよ。お前たちと同じだ。そんでもって、最初に言ったがもう一度言うぜ。お前らに用があるんだ」
そして、男はロフトの前まで移動し、しゃがみ込む。
「お前がこいつらのリーダーだな。その往生際の悪さ、俺は嫌いじゃないぜ」
「……何が言いたい」
男を睨みつけ、ロフトはそう返す。
「自己紹介がまだだったな。俺の名はセドニー。とある組織の一員で、今は頼れる仲間を探してる」
セドニーと名乗った男は、ロフトの目を真っ直ぐに見据え、こう言った。

「お前ら、俺に力を貸してくんねえか?」

「なに……?」
ロフトにはセドニーの言っていることが理解出来なかった。
正確には言っている言葉の意味自体は分かるのだが、そのような言葉が自分たちに向けられていることが理解出来なかった。
そんなロフトをよそに、セドニーは再び周囲の少年や少女を見回す。
「言ったろ、お前らに用があるってな。俺は一応組織の幹部みたいな立ち位置にいるんだがよ、リーダーシップってもんがねえから、俺をサポートしてくれる有能な部下が欲しいんだ」
そして、セドニーは再びロフトの方を向く。
「特にお前だ。こんな滅茶苦茶な環境の中で、仲間をまとめて生きてきたその統率力、すげえ事だと思うぜ。少なくとも、俺には出来ねえ」
ロフトには何となく分かった。
根拠はないが、この男は素直に自分の力を賞賛している。
「お前らだってそうだろ? こいつがしっかりしてるから、ここまで生きてこれた。そう思ってんじゃねえか?」
周りの四人にセドニーが言葉を掛けると、四人は黙ったまま頷いた。
「ほらな。お前たち五人は凄い人間だぜ。少なくとも、こんな路地裏での生活を強いられないといけないような人間じゃねえ」
そう言って、セドニーは立ち上がり、後ろで控える人型のポケモンに指示を出す。
そのポケモンが手を降ろすと、ロフトたちを操る力が解けた。
「まぁ俺の組織も世間に誉められるような組織じゃあない。もしかしたら俺は今お前たちを深い闇の底に引きずり込もうとしてるのかもしれない」
だが、とセドニーは続け、

「少なくとも俺の仲間になれば、今よりもずっといい環境で生きられる。それだけは間違いない。俺はお前たち五人を、俺の仲間に引き入れたい。来てくれるなら、立ち上がれ」

生まれて初めて掛けられた言葉だった。
今まで関わってきた人間とは違う。この男は、自分たちを一人の人間として見てくれている。
人から必要とされていると感じたのは、初めてだった。
男について行くかどうか、考える時間など、一秒もいらなかった。
「……あぁ!? ちょ、やめろって、おい!」
セドニーが素っ頓狂な声を上げる。
ロフトたち五人が涙を流しながら一斉にセドニーにしがみついたからだ。
今まで耐え続けてきた苦しみから、やっと解放される。殺していたはずの感情が、溢れ出したのだ。
「あー、分かった分かった! 分かったから! だから泣くな! おい! 聞いてんのか! サーナイト、助けてくれ! 動けねえ!」


その後、ロフトは努力の末にセドニーの直属護衛までのし上がり、他の四人は下っ端の中でも上位についた。
セドニーへの恩を、忠誠心を、彼女らは一時も忘れた事はない。
例えこの組織が闇の最深部を生きる組織だったとしても。
ロフトたちにとって、セドニーは、自分たちの人生を変えてくれた命の恩人なのである。



「サーナイト、十万ボルト!」
サーナイトが高電圧の電気を生み出し、強力な電撃を発射する。
「マリルリ、躱してアクアテール!」
跳躍して電撃を躱し、マリルリは尻尾に水を纏うが、
「そこだ! サーナイト、ムーンフォース!」
サーナイトが両手を構え、月光のように神秘的な純白の光線が撃ち出される。
月の光がマリルリを飲み込み、壁まで吹き飛ばした。
「っ、マリルリ!」
壁に叩きつけられ、マリルリは地に落ち、戦闘不能となった。
「マリルリ、よく頑張った。休んでいろ」
マリルリをボールに戻し、ロフトはセドニーの方へと向き直る。
「流石セドニー様ですね。やはり私ではセドニー様には及びません」
「まぁ仮にも天将の一員だからな。つかお前にポケモンでも負けたら、それこそ俺の存在価値がなくなっちまうよ」
冗談交じりにセドニーは笑う。
「そんなことありませんよ。私はセドニー様が上司だからこそ、ネオイビルでやって行けるのです」
真剣な表情でそう返し、ロフトはセドニーの元に歩み寄る。
「セドニー様、改めてお礼を言わせてください」
「いやいや、やめてくれよ。バトルに付き合っただけだぜ」
「いいえ、そこではなく」
「あん?」
頭に疑問符を浮かべるセドニーに対し、ロフトは深く頭を下げた。

「あの時、私たちを拾ってくださり、本当にありがとうございました」

それを見たセドニーの顔が、急に赤くなる。
「や、やめろって急に。恥ずかしいわ、お前今日本当にどうしちまったんだ? さ、さあ、バトルも終わったし、明日も早いし、部屋に戻るぜ。明日以降も作業は残ってるんだからな」
「はい、了解です!」
いつも寡黙で表情を変えないロフトが、珍しく微笑んで頷いた。


ロフトと別れ、セドニーは一人で自室に戻り、座り込む。
バトル前のロフトの言葉が、セドニーには衝撃的だった。

直接一戦交えれば、セドニー様の抱えている悩みが何か分かるかもしれません——

その言葉が、ずっとセドニーの頭の中に響く。
(部下にも見破られるくらい、顔に出てたってことか)
はぁ、とセドニーは息を吐く。
相当な苦悩がセドニーの脳内で渦巻いているのは、紛れもない事実だった。
(だけど、この問題だけは誰の力も借りられねえからな)
こればかりは自身の問題だ。
部下が力不足という意味ではなく、自分でしか解決出来ない問題。
二つのモンスターボールを取り出し、足元に置く。
一つは普通のボール、もう一つは二重の鎖の描かれたボールだ。
「こいつらを守るために、俺は、何が出来る……?」
セドニーの口から、言葉が零れた。
まるで、考えていたことが思わず口から漏れてしまったかのように。

Re: 第二百二十一話 紛争 ( No.386 )
日時: 2016/09/16 11:14
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: 5wdlXp6k)

(大切なポケモンを傷つけたくない、そう本気で思っているなら、どうしてお前はそっちの道に進んだんだ! 他に道はなかったのかよ!)

あの日以来、あの時戦った少年の声が、脳内にずっと響いて離れない。

(お前の過去に何があったかを僕は知らない。でもさ、不幸であることの辛さをよく知っているお前が、どうして人に不幸を与える側にいるんだよ。不幸を知る人間は、それを食い止めなけりゃいけないんじゃねえのかよ!)

自分の行動と彼の言葉、もはやどちらが正しいのかも分からない。
分かったことは、たった二つ。
少なくとも彼の道は間違っていないということ。
そして。
その彼に、自分の生き方を全否定されてしまった、ということ。

「……ねえ、僕はどうすればよかったの? どうすれば幸せになれるの? 誰か、教えてよ……!」




「失礼するぞ」
蒼天将ソライトが管理する、研究施設。
その一室に入って来た人物は、『軍神』こと輝天将トパズだ。
「いらっしゃいませ……おや、貴方がここに来るとは珍しい。てっきりシーアスが戻って来たのかと思いましたが」
トパズに気づいたソライトが振り向く。
「直接私の部屋まで来るということは、それなりに重要な要件なのでしょう。何かありましたか?」
「シーアスなら先ほどすれ違ったぞ。要件と言っても、完全に我個人の要件でな。忙しければ後でもいいのだが」
「構いませんよ。ちょうど休憩を取っていたところですし、人と話すのもいい気分転換になります」
そう言いながら、ソライトは手にしていた紅茶のカップを置く。
「そうか。ならば早速だ」
近くに椅子があるが座ろうとはせず、トパズは立ったまま要件を告げる。

「マツリの過去について、詳細を知りたい」

トパズの言葉を聞いたソライトが、小さく息を吐く。
「……やはりですか。正直、彼関係の話だとは思っていました」
「なら話は早いな。ヨザクラでライオの息子と戦った辺りから、マツリの様子が明らかにおかしい。おそらくバトル中に何かあったのだろうが、我も我でバトル中だったからな、その様子までは見れなかった」
「あの時ですか。一応、穴を開けた上空からバトル映像は撮っていますが、距離が距離でしたからね。全ての音声は拾えていないかと」
「あの精神状態では直接話を聞くことも出来ん。だからとりあえず、マツリの過去だけでも知ろうかと思ってここに来た次第だ。直属護衛があれでは、部下の士気も下がりかねん」
最近のマツリは、明らかに異常なのだ。
自室に蹲り、何かを呟きながら震えているばかり。
直属護衛どころか、単純な戦力としての任務すら出来ないような状態。
テンモンシティでの戦いでマツリを使えなかったのもそのためだ。金庫の鍵を奪う役としてブレイズに白羽の矢が立ったのも、マツリを動員出来なかったからだ。
「マツリを部下として拾った時、あいつは紛争地で一人露頭に迷っていた状態だった。過去を聞こうとしたのだがそれだけで震え上がった」
「なるほど。そうなれば、私が話すしかなさそうですね」
ふう、ともう一度息を吐き、ソライトはトパズの顔を見上げる。

「貴方がマツリを拾う少し前、彼は宗教団体の紛争に巻き込まれ、目の前で親を亡くしています」

トパズの表情が僅かに厳しくなる。
「その紛争は……確か我が軍が潰したものだな」
「ええ。過激派の宗教同士の紛争です。どちらも危険思想を持つ宗教団体でしたから、規模が膨れ上がると厄介だという理由で半年ほど前に貴方が鎮圧した、あれです」
その時のことはトパズもよく覚えている。
半年ほど前、星座神話を信仰するとある二つの宗教団体同士で紛争があった。
ネオイビルの目的はその星座神話を復活させ、神の力でもって世界を断罪すること。その規模が大きくなれば、ネオイビルの目的達成の障害になり得るとして、マターからトパズへと鎮圧命令が下されたのだ。
輝天隊はその紛争に割り込み、一般人への被害は最低限に抑えつつ、あっという間にその二つの宗教団体を壊滅に追い込んだ。
「ネオイビルにも家族を失ったものは多いですが、彼はそれだけでなく、環境も最悪だったのでしょうね」
「我やお前は自ら家族との繋がりを絶った人間だからな。我らには分からぬ苦しみというものか」
「それだけではありません。例えばセドニーも戦争で家族を失っていますが、彼には守るべきものがあった。ロフトは物心がついた頃にはもう家族はおらず、それが当たり前の環境。ガーネットには同じ境遇の仲間がいましたし、メジストに至っては家族がいなくなった方がより好き勝手できる力を持っていた。守りたいものも特別な力もなく、他に仲間もいなかったマツリにとっては、家族を失ったという現実は何よりも辛いものでしょう。貴方に拾われていなかったら、それこそ近いうちに野垂れ死んでいたことでしょうね」
ただ、とソライトは続け、
「思想的には、彼はネオイビル寄りです。マター様の目的は、アスフィアの力で全ての人間に裁きを下し、悪のない新世界を創造すること」
「……なるほど。戦争はまごう事なき悪。争いの絶えないこの世界を終わらせ、新しい平和な世界に変えてほしい、そういうことか」
「ええ。そして間違いなく、マター様とマツリの考える新世界は違います。マツリは全ての人間が幸福に過ごせる世界を考えているのでしょう。しかしマター様は、この世界の全ての人間を葬り去るつもりです。というか一年前実際にそうでした。世界を平和にするためなら平和を司るロイツァーの力を使えばいいはずなのに、マター様は恐怖を司るガタノアの力を狙った。貴方が加入する前の出来事ですので、貴方はあまり詳しくないかもしれませんが」
「世界を変えるではなく、新世界を創る、か。あの男にとっては、この世界など滅ぼす対象でしかないということだな」
「実際のところ、そういうことです。ネオイビルの目的は、自身を悪だと気付かないこの世界の全ての人間に裁きを下すこと。そして、自身を悪だと思っている人間など、ほんの一握りですからね」
「……常人では、到底その思考には辿り着かないだろうな。そもそも、自身を悪と認識してそれでも生きていける我らの方が異端なのかもしれないな」
さて、とトパズは続け、
「休憩中に済まなかったな。感謝するぞ、ソライト。我はマツリのところへ行く。話をする必要があるようだからな」
「いえいえ、このくらいお安い御用です。決戦の時はもうすぐですから、貴方もあまり思い詰めることのなきよう。あまりに思い詰めると、戦闘に響きますよ」
「我を誰だと思っている。『軍神』たる我に、戦闘に関する心配など無用ぞ」
「ふふふ、そうでしたね。それでは」
部屋を出て行くトパズを、ソライトは小さく笑みを浮かべて見送った。

Re: 第二百二十二話 紛争 ( No.387 )
日時: 2016/09/17 13:59
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: 5wdlXp6k)

輝天将直属護衛マツリは、治安の悪い区域に住んでいた。
法律があまり意味をなさず、小さな紛争ならしょっちゅう起こっているような、そんな不安定な環境の中で、マツリは両親とともに育ってきた。
マツリの家族は決して高い地位の一家でもなく、普通の家族に過ぎない。だから、彼らは常に紛争や犯罪から逃れるような生活を送ってきた。
元々気が強くもなく、曲がったことをあまり好まない少年であるマツリが、この環境の中で生きることが出来たのは、自分を育ててくれる両親がいたからだ。
しかし。
不幸なことに、その少年は、十代前半という若さでその唯一の心の支えを失ってしまうことになる。


真夜中だった。
大砲のような爆音でマツリは目を覚ました。
何が起こったのか分からず、部屋で呆然としていると、両親がマツリの部屋へと入って来た。
「ど、どうしたの!?」
「マツリ、早く起きるんだ! 今すぐここから逃げるぞ!」
酷く慌てた様子で父親に急かされ、マツリは急いで飛び起き、家を出た。
その瞬間、マツリの目に入ったのは。

炎に包まれた街と、激突する二つの軍、そして見たこともないような無数のポケモンだった。

「な、なんなの、これ……」
「分からない! でもこの村にはもう住めない! 逃げるしかないのよ!」
母親に手を引かれ、マツリも走り出そうとする。
だが。
体が、足が、動かなかった。
恐怖を目の当たりにし、体が強張り、動くことが出来なかったのだ。
そして。
戦争の波は、すぐそこまで来ていた。

「マツリっ!」

気づいた時には、既に遅かった。
流れ弾。
漆黒の衝撃波が、マツリの目の前に迫っていたのだ。
体が動かないマツリには、どうすることもできなかった。
恐怖に飲み込まれ、目を瞑ることしかできない。
一瞬後には、自分は意識を失い、二度と戻ることはない。
刹那。

戦地の隅で、炸裂音が響いた。

「……?」
おかしい。
いつまで経っても、自分は意識を失わない。
まだ体が強張っている中、マツリは恐る恐る目を開ける。
次の瞬間、目に飛び込んできたのは。

目の前で赤黒い液体を流して倒れる、両親の姿だった。

「父……さん? 母さん?」
マツリの口から、言葉が漏れる。反応は、なかった。
「嘘……父さん!? 母さん!?」
声を荒げても、体を揺さぶっても、両親の反応はなかった。
そこでマツリはふと気付く。戦争の炎が、かなり近くまで迫っていることに。
最早マツリに生きる気力は残っていなかった。
自分もここで親の後を追おう。このまま、戦火に飲み込まれてしまえばいい。
そう、考えたところで。

閃光、直後に大爆発。
天からの雷撃が、全てを吹き飛ばした。

それまで響いていた爆音や怒号、雄叫びが、一瞬で静まり返った。
マツリの耳に入るのは、僅かに残った炎が燃える音。
そして。
徐々に近づいてくる、二つの足音。
「……?」
マツリが顔を上げると、すぐ近くに人間がいた。
橙色の髪を無造作に跳ねさせ、軍服を着、背中に赤いマントを羽織った頑強な体つきの男。
その後ろには、片目の潰れた、刺々しい青色の獣のような大きなポケモン。その体には電気が迸り、火花が散っている。
「……子供か」
その男はゆっくりと口を開いた。
同時に、そのポケモンがマツリの近くに顔を寄せる。
怯えて声も出せないマツリだが、そのポケモンはマツリの匂いを確認し、すぐに顔を引っ込めると、男に向かって首を横に振る。
「そうか、この子供は奴らとは無関係か。ならば殺す必要はないな。堅気の子供を手にかけるほど落ちぶれたつもりはない」
そこでふと、男はマツリの目の前に目線を落とす。
動かなくなった二人の大人を見据えると、その瞳が僅かに険しくなる。
再びマツリに向き直り、男は口を開く。
「親か」
喋ることもできず、それでもマツリはゆっくりと頷いた。
その後ろのポケモンが進み出て再び匂いを確認し、もう一度首を横に振る。
男はそれを見て頷き、再びマツリに声を掛ける。
「これから、生きる当てはあるのか」
あるわけがなかった。
寧ろ、たった今死にぞこなったばかりだ。
悲しみと恐怖を通り越し、一時的に感情を無くしていたマツリは、ただゆっくりと首を横に振った。
「……そうか。ならば」
そんなマツリの様子を見ても、男はほとんど表情を変えない。
後ろのポケモンが唸り声を上げるが、男は気に留めない様子で淡々と言葉を続ける。

「生きる気力があるのならば、我について来い。いい環境かどうかはともかく、充分に生きられる環境なら得ることは出来るぞ」

マツリは動かなかった。
沈黙の時間が続いた後、それを破ったのはその男だった。
「……この状況で言われても、流石に立つことなど出来ぬか。仕方あるまい。間も無く警察が来るだろう、保護してもらうといい。マカドゥス、我らの任務は終了した。行くぞ」
男は踵を返し、マカドゥスというらしいその獣のポケモンを連れ、そのまま立ち去ろうとする。
が、直後、男はすぐに足を止めた。

少年が、男のマントを掴んでいたからだ。

「……いいだろう。マカドゥス、頼む」
振り返らず、男はマカドゥスに指示を出す。
マカドゥスがマツリに顔を近づけ、服の襟を咥え、その背中に乗せた。
そこでようやく。
「あの……名前……を……」
マツリが、ゆっくりと口を開いた。
「……我が名はトパズ。この世の戦争を無くすために、戦場に生きる者だ」
トパズと名乗ったその男は、やはり振り返ることなく言葉を続けた。
「精神状態が戻ったら、親の名を言え。この地に、立派な墓を建ててやろう」



そうして、マツリは輝天将トパズの配下となった。
マツリの知る由もないが、トパズが彼を直属護衛にしたのは、近くでいつでもマツリの様子を確認することが出来るからだ。
初めこそ直属護衛としてどころか、まともに戦力としても活動出来なかったマツリだが、徐々に自分を取り繕うことが出来るようになっていった。
変装と閉心によって本当の自分を抑えることを覚え、ようやくマツリは軍神トパズの直属護衛として、活動が出来るようになった。
しかし。

(俺は自信を持ってお前に言える。お前の生き方は間違ってんだよ! それを教えるために、僕は最後まで戦い抜くぞ)

ヨザクラタウンで戦った、要注意人物なる少年。
あの交戦の後、自分のやっていることに対しての疑問をどうやっても打ち消すことができない。
さらには、時々過去の記憶がフラッシュバックするようにまでなってしまった。
本当の自分を隠すために拵えた、生きるための自分。
その外殻は、既にボロボロだった。



バタン! と。
乱暴に、マツリの部屋の扉が開けられる。
「……! トパズ……様?」
真っ暗な部屋の隅で蹲っているマツリが、顔を上げた。
「マツリ、話がある。大事な話だ」
トパズが部屋の椅子に座り、口を開く。
「話……? なんですか……?」
弱々しい声で、マツリは聞き返す。
一瞬、トパズはかつて戦場でマツリを拾った時を思い出した。

「『ブロック』との決戦が終わったら、我はネオイビルを抜ける。お前も、共に来い」

「え……?」
呆然とした様子で、マツリは聞き返す。
「お前は全人類が平和に暮らせる世界を望んでいるのだろう。だとすれば、この組織ではそんな世界を創ることは出来ない。次の決戦、我らが勝てば戦闘専門の我は最早必要なくなる。負ければネオイビルは壊滅だ。いずれにしても、次の戦いが最終決戦となる。それが終われば、我はお前を連れてこの組織を去る。この組織にお前を引き入れたのは我だ。お前の人生を変えてしまった者として、少なくともお前が一人で生きられるようになるまでは、我はお前と共に生きることを約束しよう」
そう言葉を続けた後、トパズはマツリの反応を待たず、それ以降何も言うこともなく、部屋を出て行ってしまった。
「トパズ……様……」
マツリの目元に、再び涙が溢れる。
長い長い呪縛から彼が解放されるのは、そう遠くない未来だ——

Re: 第二百二十三話 懸念 ( No.388 )
日時: 2016/09/23 10:00
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Ds4zVFnx)

ネオイビルに残された最後の基地で行われている、最後にして最大の計画。
そのための準備も、ようやく最終段階を迎えようとしていた。


「これで……! よしっ!」
ネオイビル第五研究所、モニター室。
画面とにらめっこを続けていた蒼天将直属護衛、シーアスが、バッと顔を上げる。
「正常な動作を確認! ソライト様、こっちも上手くいきました!」
シーアスが振り向いたその目線の先にいるのは、上司ソライト。
「ご苦労様です、シーアス。それでは……」
シーアスの言葉を聞いてソライトもこちらを振り向き、少し考え込むような様子を見せる。
「そうですね、一旦休憩にしましょうか。とは言っても、恐らく残りの仕事は私でないと出来ないものばかりです。休憩が終われば私はまた作業に戻りますが、貴女は休んでいて構いません。決戦に備えて、準備をしてください」
「分かりました。もし他に仕事があればすぐさま駆けつけますね!」
ソライトとシーアスは、共に休憩室へと向かう。


「全体的な進行度は、どんな感じなんですか?」
「最初の計画よりは少しだけ遅れていますが、ほぼ順調です。三日か四日後には、浮上させられるでしょう」
休憩室で、シーアスとソライトは紅茶を啜りながらそんな話をしていた。
「……の割には何だか浮かない顔をしてますね、ソライト様。懸念材料でもおありですか?」
「……まぁ、そうですね。とは言っても計画自体には特に問題点は見当たりません。問題なのは、精神面です」
シーアスの疑問に、ソライトは素直にそう返した。
「精神面?」
「ええ。天将の中に、心に何か深いものを抱えた者たちが出て来ています。私としては、そこだけが心配です」
……と言われても、シーアスにはあまり実感が湧かない。
根底にマターの指示はあれど、ある程度独断での任務や行動が多い天将に対し、直属護衛は基本的にそれぞれの天将の指示を受けて天将のために行動する。
そのため、天将に比べて同僚や他の上司との繋がりがあまり多くないのだ。
「セドニーは最近特に考え込むことが多くなっていますし、ラピスは精神が全く安定していません。メジストに至っては一ヶ月ずっと抜け殻のようにぼーっとしているだけです」
「抜け殻? メジスト様がですか!?」
シーアスからすれば、それが一番驚きだった。
元々、シーアスは気が荒い人間や野心的な人間が好みで、平和主義を嫌う人間である。
それに一番合致するのが、まさに破天将メジスト。
「こうしちゃいられない! ソライト様、今メジスト様はどこに?」
「……はい?」
「メジスト様の場所です! 私が直接会って元気を出させてきます!」
「……メジストは今特に仕事はありませんから、自室にでもいるのではありませんかね。ただあの精神状態ですから、入れてくれないと——」
最早ソライトの言葉も待たず。
ダン! とシーアスは勢いよく立ち上がり、部屋を飛び出していった。


反応がない。
メジストの部屋の扉をいくら叩いても、人が現れるどころか声すら聞こえない。
「メジスト様ー! いるなら開けてくださーい!」
物凄い勢いでシーアスは扉を叩くが、やはり同じ。
「……かなり落ち込んでるのかしら、メジスト様。それとも、初めからこの部屋にいない?」
ここでようやくシーアスはその結論にたどり着く。
しかしそうなってしまえばお手上げだ。ソライトに調べてもらえば分かるだろうが、恐らくソライトはもう仕事に戻ってしまっているし、それを邪魔することはできない。
ソライトの話しぶりだと、メジストはかなり酷い精神状態にあるし、そうでなくてもメジストは天将の中でも癖の強い人間だ。彼の思考回路など、シーアスには到底分からない。
と、そんな時。
「なんだなんだ、メジスト様の部屋の前で騒いでるのはどこのどいつだ?」
「って、あら、シーアスじゃない。貴女がこんなところに来るなんて、珍しいわね」
隣の通路から男女の二人組が現れる。
シーアスはそちらを振り向くが、男は白黒の仮面で、女は黒い紙袋で顔を隠しており、顔が見えない。
「ソライト様からの伝令かしら? それなら私たちがメジスト様に伝えておくけど」
「メジスト様は今ここにはいねえぜ。ついさっき部屋を出て行っちまった」
表情の分からない二人が、シーアスにそう話す。
どうやら、メジストはやはり自室にはいないようだ。
「今回はあたしの個人的なメジスト様への私用なの。メジスト様がどこに行ったか、知らないかな?」
キキとケケにそう尋ねると、姉弟は顔を見合わせ、
「ああ、そうなのね。どういう用件だか知らないけど、メジスト様ならラピス様の部屋に行ったわよ」
シーアスが一番求めていた答えを、キキはあまりにもあっさりと返した。
だが、
「ただ」
ケケが姉の後に言葉を続ける。
「ここのところメジスト様は明らかに様子がおかしい。魂が抜かれちまったみたいにぼーっとしてる。飯も食ってるかどうか分かんねえような状態だ。会ったところでお前の目的が伝えられるかどうかは分からんぜ」
「私たちだって、さっきメジスト様が突然部屋から出て来てびっくりしたのよ。それまでまともに部屋から出てこなかったから」
姉弟の言葉を受けて、シーアスは考える。
シーアスの知っているメジストは、狂気染みた笑い声と共に天性の能力や圧倒的な実力で敵を叩き潰す狂人だ。
そんなメジストが、正気をなくしたように動かないというのだ。よほどのことがあったに違いない。
しかし。
ここでシーアスはやはり、自分がなんとかしないといけない、という思考にとらわれてしまう。
その結果。
「分かった。二人とも、ありがとう!」
キキとケケに礼を言うが早いか、シーアスはラピスの部屋まで走り去っていった。
「……なんだったのかしら?」
「さあな。正直、あいつに今のメジスト様と会話が出来るとは思えねえんだが」
「奇遇ね。私もそう思ってるわよ」
はぁ、とため息をつき、姉弟は通路へと姿を消す。

Re: 第二百二十四話 影響 ( No.389 )
日時: 2016/09/24 08:58
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: 7zVKYUQq)

「ああっ、もう!」

薄暗い部屋の中に、若い少女の苛立ちの声が響く。
その少女の瞳は紫色の光を放ち、口元からは一筋の血が垂れていた。
夜天のラピスは今、望んで『覚醒』したわけではない。
勝手に瞳が輝き、勝手に口から血が漏れたのだ。
ラピスの精神は、それほどまでに不安定な状態に追い込まれていた。
何故か、何故か分からないが、自身の力や感情を制御することが出来なくなってしまったのだ。
(いや……違う)
何故か。そう思いたいだけだろう。
本当は、その原因など分かりきったことだ。
『ブロック』との戦いで交戦した、二人の少女。
彼女らによって、ラピスの精神は大きく狂わされた。
(落ち着くのよ。あたしの名は夜天将ラピス。この世界への復讐のために生きる、ネオイビル七天将第三位の女。それ以外の何者でもない。あたしの名は夜天将ラピス! それ以外の名前なんてない。名前なんてない!)
必死に自分に言い聞かせ、暴走する力を何とか抑える。
ようやく瞳の光が収まるが、その瞬間に疲労がどっとラピスの体に押し寄せてくる。
「……はぁ」
全身の力が抜けたように、ラピスはぐったりと車椅子に深く腰掛ける。
他の天将と違い、ラピスには心の拠り所がない。
そもそも何を考えているのか全く分からないオパールは除外するとして、セドニーやメジストなど多くの天将は深い関係の直属護衛がいるし、唯一それに当てはまらなさそうなトパズは拠り所など必要ないくらいの強い精神力を持っている。
しかしラピスにはそれがない。直属護衛ジンはマターの人選によるものだし、そのジンも命令自体には忠実だがプライベートな会話をしたことは一度もない。
他の天将との関係は良好だが、それだけだ。
「どうしてこうなってしまったのかしら。自分の感情の制御も出来ないほど落ちこぼれたつもりはなかったんだけど」
答えが返ってくるはずのない疑問を、ラピスは小さく呟く。
だが。

「気付いてんじゃねえのか? そもそもこの組織が、お前には合ってなかったってな」

部屋の扉が開き、一人の男が部屋に上がり込んできた。
その男は全身を黒服で覆い、紋章の描かれた真っ黒なフードを被っている。
「……珍しすぎるお客様ね。せめてノックくらいしてくれると助かるんだけど」
破天のメジスト。
その言葉にいつもの覇気がないことは、ラピスにもはっきりと分かった。
「それにしても元気がないわね。いつもの調子はどうしたのよ」
「今のお前にだけは言われたくねえな。精魂尽き果てたみたいな顔してるぜ、お前」
「多分あんたもそんな顔でしょうよ。フードで見えないけど」
そんなことはどうでもいいわ、とラピスは続け、
「で、どうしたのよ。あんたがあたしの部屋まで来るってことは、それくらいには重要な用事があるんでしょ」
「俺様への態度だけは相変わらずだな。お前実は元気だろ」
序列三位と四位を争っていたこともあり、メジストとラピスの関係はそこまで良好ではない。どちらかといえば仲が悪い方に当たる。
しかし、
「悪いが、そんな大した用じゃねえよ。多分、お節介だって言われるだろうな」
「ふうん。ま、話くらいなら聞いてあげるわよ。どうせあんた暇なんでしょ」
今回に関しては、ラピスもメジストも状況が違った。
少なくとも、あまり好きではない人間と話していて落ち着きを覚えるくらいには追い込まれていたからだ。
「ケッ、ムカつく物言いだぜ。ま、お前が拒否しねえならこっちで勝手に喋らせてもらうぞ」
フードで顔は見えないが、恐らくメジストも今のラピスとほぼ同じような表情をしてあるのだろう。
そんなラピスの思惑は知らず、メジストは話し出す。

「お前、あの派手なガキに何か言われたろ。それこそ、お前の最も嫌いな過去をえぐるような事を」

ラピスの表情が途端に険しくなり、小さい舌打ちが聞こえた。
「……図星か。テンモンでの戦い以来、お前の様子が明らかにおかしいと思ったが、あいつの影響を受けたか」
「っ……だから何よ。あんたに関係ないでしょ」
苛立ちを込めた声で、ラピスはそう返す。
「悪いがな、あいつと関わってそうなったんなら、俺としては関係大ありなんだ」
「何でよ」
ラピスの言葉に対し、メジストはすぐに言葉を返した。

「俺も、奴の影響を受けてるからだよ」

メジストにしては極めて珍しいことに、彼はまっすぐな口調でそう返した。
「奴は一年前にこの組織の前身、イビルの幹部を務めていた奴だ。外部情報に疎いお前が知ってたか分からねえが、あいつは俺たちと全く同じ闇の中を歩んでいた人間だ」
「……通りで妙に言葉に説得力があるわけね。アジトで戦った子と違って、あの派手な子の言葉には変に重みがあると思ったけど」
「それだけじゃねえ。奴は一年で闇から抜け出し、『ブロック』側に付いている。信じられるか? 俺たちが今いるこの闇の最深部から、たった一年で光の世界に戻ってんだぞ? そんなことあり得るか? 奴の口調からすると誰かの力を借りて闇から抜け出したみたいな事を言ってたが、だとしてもあり得ねえだろ」
信じられないといった様子でメジストは語るが、ラピスは違った。
「……そういうことね」
小さく、ラピスはそう呟いた。
「あぁ?」
「何でもないわ。ただ何となく、あの子があたしに言った言葉の意味が分かった気がして」
怪訝な表情を浮かべるメジストだが、対照的にラピスは小さく笑っていた。
「ねえメジスト。あんたさ、この組織、この後どうなると思う?」
「分かりきったことを。『ブロック』に勝っても負けても、ネオイビルは終わりだ。お前だって気付いてんだろ? 『ブロック』に勝つってことは、マターがアスフィアの力を完全に手に入れたことと同じだ。そうなっちまえばあのマターのことだ。そこに俺たちが必要だと思うか?」
「いいえ、全く。でも、あたしのやることは変わらない」
「だろうよ。例え世界が終わるとしても、俺たち二人はこの世界への復讐を目指す人間だ」
最後の最後で、メジストとラピスの意見は一致した。
「ま、やりたいようにやれ。お前の心配をする気など全くないがな、お前がヘマすることで俺のやる事に支障が出ると困る」
「その言葉、そっくりそのまま返すわよ。あんたが最後に負けてもネオイビルを抜けてもあたしの知ったことじゃないけど、あたしに余計な負担を掛けないでよね。ああ、一つ言い忘れてたわ」
「あぁ? 何だよ」
表情の見えないメジストに対し、ラピスは小さく笑い、一言だけ告げた。
「お節介」
「ハッ、そりゃどうも」
フードの下から僅かに見えるメジストの口元が、少しだけ緩んだ。
その後の会話は特になく、メジストは無言で部屋を去っていった。


五分後。
「失礼します!」
またもノックなしに勢いよく扉が開かれ、ラピスの部屋に一人の少女——正確には女性が飛び込んで来た。
「何よさっきから騒がしいわね。今度は誰?」
「突然ですみません! ソライト様の直属護衛、シーアスです! メジスト様がこちらに来ませんでしたか!?」
「五分ほど前に出て行ったわよ。どこに行ったかはあたしも知らないわ、残念だったわね。ちなみに、メジストにはどんな用?」
「ソライト様からメジスト様の元気がないと聞いたので、私が励ましてあげようと思いまして……」
「それなら心配なさそうよ。妙に元気になってあたしの部屋を出て行ったから」
「そうですか……急にすみませんでした! 失礼します!」
声だけは威勢がいいがしょんぼりしたような様子で、シーアスは部屋を出て行った。


結局、どこを探してもメジストは見つけられなかった。
「おやおや、残念でしたね」
「うぅ……ソライト様ぁ……」
机に突っ伏しながらバタバタと両腕を振るシーアスを見て、ソライトはやれやれといった笑みを浮かべながら肩を竦める。
その時。
「失礼します」
音もなく、ソライトの背後から一人の女が現れた。
傍には、スプーンを手にしたエスパーポケモン、フーディンを連れている。
「おやオパール。貴女がここに来たということは、そろそろですか」
「ええ。主からの伝言です」
オパールが唇をソライトの耳に近づけ、小さい声で話す。
「分かりました。それまでには間に合うと、マター様にお伝えください」
「了解いたしました。それでは」
それだけ告げると、オパールはフーディンのテレポートで消えてしまう。
「何だったんですか?」
「決定事項の報告です。予定通りに浮上を行うと」
「ってことは、いよいよですね」
「ええ」



この日は。
ネオイビルと『ブロック』が雌雄を決する、実に三日前であった。


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