二次創作小説(紙ほか)

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ポケットモンスター 星と旋風の使徒
日時: 2017/01/28 12:25
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: VYLquixn)
プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode=view&no=22078

どうも、初めましての人は初めまして、そうでない人はこんにちは。パーセンターです。
えー、また始まってしまいました。四作目ですね。
今作は前作の完全続編となっております。
参照をクリックすれば、前作に飛びます。
レオの新しい冒険が、始まります。

※注意
・例によって例のごとくノープランです。
・パーセンターは大学生でございます。現在数々の課題に追われて更新頻度が非常に低いですがご了承ください。
・登場するポケモンが色々とややこしいです。詳しくは近々やるオリキャラ募集のときに説明しますが、簡単に言うと『プラチナのシンオウ図鑑に載っているポケモン+ベガでのみ登場するポケモン』となります。

これくらいですね。
内容としては、前作と同様、オリジナルの地方でのゲームのような冒険ものとなります。

それでは、よろしくお願いします。

登場人物
味方side >>25
N・E団side(ネタバレ注意)>>153
用語(ネタバレ注意)>>342

プロローグ >>1

シラハタウン&メガキタウン編
>>6 >>20 >>22
ハスバナシティ編
>>27 >>31 >>32 >>34 >>36
デンエイシティ編
>>39 >>40 >>41 >>42 >>45 >>46 >>50 >>53
アカノハシティ編
>>55 >>57 >>58 >>62 >>63 >>64 >>65 >>68 >>70 >>72 >>74 >>75 >>79 >>80
コウホクシティ編
>>81 >>82 >>83 >>84 >>87 >>88 >>89 >>93 >>94 >>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>106 >>107 >>108 >>111 >>112 >>115 >>116 >>117 >>118
ツクモシティ&スティラタウン編
>>121 >>122 >>123 >>126 >>127 >>128 >>129 >>130 >>133 >>138 >>145 >>152 >>157 >>158 >>159 >>162 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>171 >>172 >>173 >>175 >>176 >>177
シヌマシティ編
>>178 >>179 >>180 >>185 >>186 >>188 >>189 >>190 >>193 >>194 >>195 >>199 >>200 >>206 >>207 >>210 >>211 >>214 >>215 >>216 >>217 >>218 >>221 >>222 >>223 >>224 >>227 >>229 >>230 >>233
ヨザクラタウン編
>>234 >>235 >>236 >>242 >>243 >>246 >>247 >>248 >>251 >>254 >>255 >>256 >>257 >>258 >>259 >>260 >>261 >>264 >>266 >>267 >>268 >>269 >>270 >>271 >>272 >>273 >>274 >>275 >>276 >>277 >>280 >>281 >>283 >>284 >>285 >>288 >>289 >>290 >>291 >>294 >>295 >>296 >>297 >>298 >>299 >>300 >>301 >>303 >>304 >>305
テンモンシティ編
>>306 >>309 >>310 >>311 >>312 >>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>322 >>324 >>325 >>326 >>327 >>328 >>331 >>332 >>333 >>334 >>335 >>336 >>337 >>340 >>341
四天王&チャンピオン編
>>343 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>355 >>356 >>357 >>358 >>359 >>360 >>363 >>364 >>365 >>366 >>367 >>368 >>369 >>370 >>371 >>372 >>373 >>378 >>379 >>380
N・E団編
>>383 >>384 >>385 >>386 >>387 >>388 >>389 >>390

決戦編
零節 都市
>>391 >>392
一節 碧天
>>393 >>400
二節 緋天
>>394 >>401
三節 蒼天
>>395 >>404
四節 破天
>>396
五節 夜天
>>397
六節 輝天
>>398
七節 聖天
>>399


非公式(ベガ)ポケモン図鑑 >>5

Re: 第三十話 『ブロック』 ( No.80 )
日時: 2013/08/15 13:53
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

犯罪団体壊滅組織、『ブロック』。
ホクリク地方の中では規模の大きな組織で、全ての町に支部がある訳ではないものの、支部の無い町の隣の町には必ず支部が作られている。
ちなみに一番大きいのは、このアカノハ支部だ。
レオはリョーマに連れられ、カンタロウと共にアカノハ支部の建物へ来ていた。
「ま、座れよ」
レオとカンタロウは応接室へ案内され、二人はソファへと座る。
リョーマも向かいの椅子へと足を組みながら座り、その横にはテレジアが秘書のように控えて立っている。
「俺達『ブロック』は、さっきも言ったけど犯罪集団を叩き潰すために作られた組織だ。警察とはまた違った組織の類で、あくまで犯罪組織を壊滅させるための組織」
「ですから、私たち『ブロック』が出来ることは、犯罪組織の壊滅だけなのです。その構成員の逮捕などの権限は、与えられていないのですわ」
「そ。つっても、取り押さえて拘束することは出来るわけだし、逮捕の権限なんてあっても無くても変わんねえんだけどな」
軽い口調でリョーマは説明する。その軽い態度があまり好きではないのか、テレジアは後ろからジロリとリョーマを見据える。
(この子も子供なのに子供っぽさがないよなあ……)
ウチセトのジムリーダーにも子供っぽさの無い子供がいたなあ、とレオは思い出す。
「リョーマ様。そろそろ、N・E団の説明を——」
「あ? ああ。もうちょっと待ってくれ」
テレジアの言葉を遮り、リョーマは言葉を続ける。
「現在、『ブロック』総統率は二代目。副統率の俺も二代目。もともとは俺が副統率とアカノハ支部をやってたんだけど、流石に辛くてな。そんな時にそこのテレジアがやってきた」
「私は諸事情あって、いろいろと裏社会については知識がありますから、その知識を買われて、このアカノハ支部の統括補佐の地位をいただいたのです」
「俺は副統率としての仕事を優先してるから、実質のアカノハ統括はテレジアなんだけどな」
さて、とリョーマは話題を切り替え、
「それじゃあN・E団についての話をしようか。これ以上無駄話してるとテレジアに怒られちまう」
「いちいちそんなことを言わないでください」
テレジアの言葉を無視し、リョーマはレオとカンタロウに質問する。
「まずは事情聴取といこうか。君たちは、N・E団についてどこまで知ってる?」
「僕は七天将のうち三人を知ってます。さっきの二人と、あとはデンエイ炭鉱で緋天のガーネットという女に会ったことがあります」
「オラはさっきの二人だけだ。N・E団なンつー組織さ知ったのも最近だしな」
たびたび思うが、カンタロウは誰に対してもタメ口で話している。
別に話し相手が不快そうではないから構わないのだが、それにしてもレオは気になってしまう。
「へえ、緋天将に会ってんのか。直接的な対戦は?」
「いえ、してません。ユカリさんとママルさんも一緒にいたので、あいつ逃げていきました」
「緋天将は、序列も上位にいたはずだ。えっと——」
「三位です」
後ろにいるテレジアが代わりに説明する。
レオの表情が僅かに引きつった。
もしあの時ユカリとママルがおらず、正面から戦っていたら、ボッコボコにされていたに違いない。
しかもあの性格のガーネットが、負けた相手を放っておくとも思えない。
「N・E団七天将は、現在七人のうち六人判明している。だけど、あと一人の情報及びボスの情報がまったく無いんだ」
「N・Eの意味も分かっておりませんしね」
「そう。加えて、組織の目的がまったく掴めない。ある意味最も厄介な類の連中だよ」
どうやらN・E団は、結構謎だらけの組織のようだ。
イビルの奴らは、レオが初めて七将軍と会ったときに重要な単語を口にしていたのをレオは思い出す。
「と、N・E団についてはこんな感じだ。ここからが本題」
そして、リョーマは二人の顔を見つめて、言う。
「君たち二人を、『ブロック』にスカウトしたいんだが。どうだ?」
「ええ!?」
思わずレオはソファから身を乗り出していた。
「はは、そんなに驚くなよ。君の親父さんは、ぜひ入れてくれって言ってたぜ」
「親父さん……僕の父さんを知ってるんですか?」
「ああ。ライオ博士だろう? ホクリクじゃ有名な博士だぜ。その博士が言ってたんだ。息子はN・E団に確実に関わるはずだ、正義感の強い息子を止めても聞かないだろうから、『ブロック』に入団させて、力になってくれないか、ってな」
父親が有名な博士だということを、レオは知らなかった。
「入団するっつっても、いろいろ縛りがつくわけじゃない。どこか指定の場所にいないといけないわけじゃない、自由に旅を続けてくれてオーケーだ。ただN・E団のような組織の行いを許さない、っつー考えを改めて持ち、壊滅に協力してくれればいいだけさ」
「え、でも……」
「オラは入るべ」
レオが迷っている横で、カンタロウは親指を突き立て、ニヤリと笑う。
「オラはN・E団みてェな、人に迷惑さかける組織が大っ嫌いなンだッぺ。縛りとかねェなら、是非入らせてくれ」
「お、言うねえ。よし、じゃ決定だ。副統率の俺の権限で、カンタロウ、君を『ブロック』に入団させてあげよう」
リョーマは笑みを浮かべ、胸につけているものと同じバッジをカンタロウに渡す。
「さあ。レオ、君はどうする? 年齢で悩んでいるのなら心配はないぞ。何しろそこのテレジアはまだ九歳だからな」
「人を指さした挙句、個人情報をばらまかないでください」
レオは真剣に考えていた。N・E団壊滅、自身の不安、父の思い……。
それらすべてを考え、レオは結論を出す。
「僕も、入団します」
強い意志を持って、レオはそう言った。
リョーマはニヤリと笑い、
「その返事を待ってた。よし、決まりだ。『ブロック』の証のバッジを渡そう」
レオに、同じバッジを渡す。
「そのバッジは好きなところに付けてくれて構わないぜ。別に胸のところに付けろという強制は無い。あと」
リョーマがテレジアに合図を送ると、テレジアは頷き、紙袋を持ってきた。
「お土産だ。アカノハ名物の金のハチミツ。木に塗っておくとポケモンが寄ってくる、運が良ければ珍しいポケモンに会えるし、普通に食べても美味いぜ」
リョーマは二人に、瓶に入ったその金のハチミツなるものを渡し、
「それじゃ、俺達からの話は以上だ。なんか聞きたいことや言いたいことはあるか?」
二人へと質問する。
「いいえ、ありません。ありがとうございました」
レオの言葉と共に、カンタロウも首を横に振る。
「そうか。じゃあ、『ブロック』の名に懸けて、頑張ってくれな」
「はい!」
そして、リョーマとテレジアに別れを告げ、レオたち二人は『ブロック』アカノハ支部の建物を後にする。


「カンタロウは、この後どっちに行くんだ?」
「オラは先にデンエイシティ方面さ行くべ。お前は?」
「僕はデンエイジムは突破したから、あっち、えっと——コウホクシティだな」
「そォか。そげなら、ここで一旦別れンだなや」
「そうみたいだな。カンタロウ、頑張れよ」
「互いにな」
そしてカンタロウは、レオへと手を振り、デンエイシティへ向けて歩いて行った。
レオも、次の町、コウホクシティを目指し、歩き出す。

Re: 第三十一話 虫王 ( No.81 )
日時: 2013/08/15 13:54
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

アカノハシティからコウホクシティまでは、山道となっている。
歩くには少々険しい道だが、山道ゆえ、当然道には木が多い。
つまり、
「どの木がいいんだろうか……?」
レオは、先ほど貰った金のハチミツを塗るのに最適な木を探していた。
詳しい説明は聞いていないのでよく分からないが、木にも当たり外れはきっとあるだろう、という考えて、レオは自分的にいいなと思う木を探している。
「なるべく大きな木がいいと思うんだよなあ。よく分かんないけど……」
そこでレオはある木を見つける。あまり大きな木ではないのだが、何だか他の木よりもいい香りが漂っている。
「これにしてみるか」
とりあえずレオはその木に適当にハチミツを塗りたくり、一旦アカノハに戻ることにする。


三時間後。
ライブキャスターのミニゲームの力を借りて三時間を過ごし、
「どんなもんだろうか……」
レオは先ほどの木に戻り、様子を見に行くと。
「おぉ?」
結構な数のポケモンが集まっている。
カンタロウが持っていたムクバードの進化前、ムックル。草木で作られた蓑を纏ったミノムシのようなポケモン、ミノムッチ。アスカも持っていると言っていた、イチゴのような姿のポケモン、ララベリー。
しかし、今一つ珍しいポケモンという感じがしない。
とは言え、見た感じハチミツはまだ結構残っているため、もう少し待ってみてもよさそうではある。
だが、その時。

ブロロロロ……

鈍い重低音を響かせ、上空から何者かが飛んできた。
そいつはミツの一番濃いところを見つけると、角を振り回してその場にたかるポケモンを払いのけ、その濃いミツを独り占めするように吸い始める。
「! これは……!」
レオの心にどストライク、すぐに図鑑を取出し、そのポケモンのデータを呼び出す。
その強靭な肉体を持つ、青いカブトムシのような姿をしたこのポケモンの正体は。
こいつの名はヘラクロス、一本角ポケモン。虫・格闘タイプ。
「こりゃゲットするしかないよなあ! 頼んだぜ、ポッチャマ!」
すぐにレオはポッチャマを繰り出す。
ヘラクロスは気づいていないようで、ミツを吸い続けているようだ。周りのミツの薄いところでミツを啜っている小さいポケモンたちが実に不憫である。
「ポッチャマ、水の波動!」
ポッチャマは水の力を凝縮し、波動に変えて撃ち出す。
気づいていないヘラクロスの背中へと直撃するが、ヘラクロスの表面の羽は硬く、思ったほどのダメージは通らない。
そして、ヘラクロスは邪魔者の存在に気づき、素早く振り返り、こちらをギロリと睨み付ける。
食事の邪魔をする者は許さない。ヘラクロスは羽を広げ、重低音を羽ばたかせながら、角を突き出してポッチャマへと向かってくる。
「来たな! ポッチャマ、躱してアクアジェット!」
ヘラクロスがポッチャマの上から角を振り下ろすが、ポッチャマは素早く横に逸れてその一撃を躱し、横から水を纏って突撃する。
しかし、ヘラクロスは向かってくるポッチャマへと腕を振るい、意外に鋭い爪でポッチャマを切り裂き、吹っ飛ばす。
「今のは辻斬りだな。ポッチャマ、冷凍ビーム!」
ポッチャマはすぐに体勢を立て直すと、冷気を込めた光線を発射する。
ヘラクロスは宙へと飛び上がって光線を躱し、上空から勢いよく角をポッチャマへと振り下ろす。
「だったらぶつかるぞ! ポッチャマ、ドリル嘴!」
ポッチャマは嘴を伸ばすと、ドリルのように回転しながら跳び出す。
角と嘴が激突するが、回転する嘴はヘラクロスの角を弾き飛ばす。
「っし! ポッチャマ、アクアジェット!」
すかさずポッチャマは水を纏って突撃、体勢を崩したヘラクロスへと激突し、吹っ飛ばす。
「まだ押してくぞ! ポッチャマ、冷凍ビーム!」
さらにポッチャマは冷気の光線を放つが、ヘラクロスは大きく飛び上がって光線を躱すと、そこから羽を大きく広げ、一瞬のうちに一直線にポッチャマへ襲い掛かる。
「燕返しか! ポッチャマ、アクアジェット!」
ポッチャマも体に水を纏って跳び出し、ヘラクロスを迎撃する。
お互いの技の威力は互角。しばらく競り合った後、双方が後ろへと飛び退く。
その直後、ヘラクロスは再び飛び上がり、頭上からポッチャマへと角を振り下ろす。
「攻撃が単調だぜ! ポッチャマ、躱してドリル嘴だ!」
ポッチャマは後ろに飛び退くと、そこからすぐに嘴を構え、回転しながら突撃する。
このヘラクロスはパワーにおいてはかなり優れているが、トレーナーの指示がないため、どうしても攻撃が単調で直線的なものになってしまう。
対して、ポッチャマはレオの指示を受けて、より力を引き出すことができる。この辺りが野生のポケモンとトレーナーのポケモンの違いだ。
ドリル嘴は飛行タイプの技。虫・格闘タイプのヘラクロスには非常に大きなダメージを与えることができる。ヘラクロスはその一撃を喰らい、大きく吹っ飛ばされる。
「今だぜモンスターボール! こいつをゲットするぞ!」
そのチャンスを逃さず、レオはモンスターボールを投げる。
倒れているヘラクロスの額にぶつかり、モンスターボールが開き、ヘラクロスはボールの中に吸い込まれる。
ボールは閉まり、地面に落ち、赤い光を点滅させながら揺れる。
「やったか……?」
緊張の瞬間。そして、
カチッ、と音がし、点滅と揺れが止まる。
「よっしゃあ! ヘラクロス、ゲットだ!」
ボールを手に取り、天高く掲げ、レオは叫ぶ。ポッチャマも胸を張って自慢げに鳴く。
ヘラクロスがいなくなったことで、隅に追いやられていたムックルやミノムッチたちが、ミツの中心部へと戻ってきた。
「ヘラクロス、これからよろしくな」
とりあえず、レオは一旦アカノハシティのポケモンセンターに戻り、ヘラクロスとポッチャマを回復させると、改めて次の町、コウホクシティへと向かう。

Re: 第三十二話 破天将 ( No.82 )
日時: 2013/08/15 13:54
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

アカノハシティからコウホクシティまでの距離は、言うほど遠くない。
「このペースなら、日没までには着けそうだな」
山道なので、少々歩き辛かったりするが、特に問題はないだろう。
特に珍しいポケモンにも遭遇せず、アカノハとコウホクの中間地点くらいまでやってきた、その時。
レオの視界に、何かが入った。
「?」
目を凝らしてみると、少し離れたところに、通行者を遮るように人が立っている。
「何だ、こんなところで。何してんだ?」
不思議には思いつつも、レオはその人間のほうへと歩いていく。
だんだんとその人間の姿が見えてくる。
そして、
「……!」
次の瞬間、レオの表情が一瞬で変わる。
その人間は、真っ黒なフードを被っていた。かろうじて口は見えるが、目や鼻がまったく見えない。
服も完全に真っ黒で、両腕は無数の切り傷が刻まれている。左腕には、蛇のようにも見える不可思議な模様の刺青が刻まれており、身長はそこまで高くないが、全体的に不気味なオーラを放っている。
しかし、レオが戦慄を覚えたのはその姿からではない。
その原因は、

顔を覆うフードに大きく描かれた、N・E団の紋章。

「ここは通行禁止だ」
そのフード人間が、口を開く。声からして男のようだが、この男、とんでもない威圧感を持っている。
レオでさえ、押しつぶされそうな威圧感を。
「……お前、誰だ」
その男から発せられる恐ろしいほどの威圧感にレオは押し負けそうになるが、何とかそれを押しのけ、レオは質問する。
するとその男は残忍な笑みを浮かべ、
「貴様になら名乗ってもいいだろう。天将の何人かにも会っているようだしな」
「誰だと言ってるんだ」
「破天のメジスト」
そのフード男は、あまりにもあっさりとその正体をばらした。
破天のメジスト。それがこのフード男の名前らしい。
「ってことは、天将の一人か。序列は」
「さあな。貴様には教える必要もない」
不気味な笑みを浮かべ、メジストはレオの質問を一蹴する。
「お前は、ここで何をしてるんだ?」
「見ての通り、通行止めだ」
何の為かは知らないが、このメジストは、ここから先に進む者を追い返す役割を与えられているようだ。
「話し合いで分かるような相手じゃないと思うけど、ここを通してほしいんだが」
「どんな返事が返ってくるかくらい分かってんだろ」
「……ああ。だったら力づくで通らせてもらう」
そう言って、レオはボールを取り出す。
すると、
「ギャヒャヒャヒャ! いいねえ、そうこなくちゃ始まんねえよなあ! だけど、お前が勝ったらここを通らせるのに、俺が勝っても何もなしってのは、少々つまんねえよなあ?」
下品な笑い声をあげ、メジストは人差し指を突き立てる。
「賭けをしようぜ。お前が勝てば、俺は道を譲るとしよう。でも、俺が勝てば、こっちの命令を聞いてもらうぜ」
命令、と聞き、わずかに身構えるレオだが、
「ギャヒャヒャ! そんなに身構えなくたっていいだろうがよ。同性のガキを弄ぶ趣味なんざ俺にはねえしなあ。こっちの命令は簡単だ。アカノハに引き返し、明日の昼になるまでコウホクに来るなってことだよ」
そして、メジストもボールを取り出した。
「悪い話じゃねえだろう? バトルは一対一だ。文句ねえな?」
「その賭けならどうってことないぜ。勝負だ!」
その言葉を引き金に、二人はポケモンを繰り出す。
「頼んだぜ、ポッチャマ!」
「叩きのめせ、グライオン!」
レオのポケモンはエースのポッチャマ。
対するメジストのポケモンは、大きな羽を持った紫色のサソリのようなポケモン。牙が鋭く、両手の大きな鋏、尻尾の先も短い鋏状になっている。
グライオン、牙サソリポケモン。地面・飛行タイプ。
「地面タイプか。それならこっちに分があるぜ。ポッチャマ、冷凍ビーム!」
まずはポッチャマが先攻。ポッチャマは冷気の光線を発射し、効果抜群を狙う。
「グライオン、躱しな!」
対して、グライオンは尻尾で地を蹴り、風に乗って飛び上がる。
「だったらアクアジェット!」
水を纏って、ポッチャマは地を蹴って跳び、一直線にグライオンへと襲い掛かるが、
「馬鹿め! グライオン、捕まえろ!」
ポッチャマの水を纏った突撃を、グライオンは左の鋏で食い止める。
そしてすかさず、グライオンは右の鋏を突き出し、ポッチャマを挟み込み、捕えてしまう。
そして、

「決めちまえ! グライオン、ハサミギロチン!」

ポッチャマを挟んでいる右の鋏が光り、まるで断頭台の刃のように大きく伸びる。
次の瞬間、鋏が容赦なく閉じられ、ポッチャマはその刃に切り裂かれる。
「!? ハサミギロチンだと……!?」
ハサミギロチンは一撃必殺技。つまり、当たればどんな状態の敵だろうと一撃で戦闘不能に追い込む技。代わりに命中率が低いのだが、捕まっていたポッチャマには、避けられるはずもなかった。
勝敗など、わざわざ確認するまでもない。
「くっそ……ポッチャマ、よく頑張った」
地に伏したポッチャマを、レオはボールに戻す。
「ギャヒャヒャヒャヒャ! まあ仕方ねえよなあ、何たって一撃必殺だもんなあ。あー楽しい、こういう一方的なバトルはたまんねえなあ!」
天を仰ぎ、破天のメジストは大声で笑う。
「僕の負けだ。アカノハに引き返す。だけど、最後に一つだけ質問していいか」
「あぁ?」
「お前は、序列何位だ」
先ほど突っぱねられた質問を、レオはもう一度聞き直す。
「ギャハハ! そんなに気になるのかよ、俺がどれだけ強いかがよ。だったらしょうがねえ。教えてやる」
破天のメジストは凶悪な笑みを浮かべる。フードが少しずれ、右目が見えた。まるで猛獣のように、鋭い眼光を放つ右目が。

「俺の序列は。この破天のメジスト様は、七天将第二位だ」

N・E団七天将第二位。破天のメジスト。
一瞬で叩きのめされ、レオはアカノハに引き返す。
圧倒的な実力差を、感じさせられながら。

Re: 第三十三話 能力 ( No.83 )
日時: 2013/08/15 13:55
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

「ちくしょう、完全に警戒が足りなかったな……」
アカノハに戻った頃には、日が傾きかけていた。
正直、先ほどの破天のメジストとの勝負は、油断していたわけではないが、完全に警戒が足りなかった。
あのグライオンの技をハサミギロチンの他に見なかったので一概には言えないが、一撃必殺を警戒していれば勝てたかもしれなかった。
それだけに、先ほどの敗北は悔しいものがある。
「そうだ。父さんに、ソライトの正体を教えてあげないといけないな」
リョーマの話を聞いたときに、父親に連絡しようと思っていたのだが、すっかり忘れてしまっていた。
レオはライブキャスターを起動し、父の番号にかける。
すぐに通話がつながった。画面が開き、見知った父親の顔が画面に映る。
「おお、レオか。旅は順調か?」
はずだったのだが。

画面に映り、いかにも親しげに話しかけてきたのは、見たことのない金髪の男だった。

「……?」
思わず硬直するレオ。
無言で通話を切り、再び父親の番号にかけなおす。
今度はすぐにつながった。やはり見知らぬ金髪の男が画面に映る。
「どうしたんだ、レオ。さっきは急に通話が切れたが、何かあったのか?」
レオはもう一度目をこする。画面に映る人物は変わらない。
「……父さん……?」
「何だ? その私が誰か分からないような言い方は」
「……あ……確かに声と顔は父さんだね……」
怪訝な表情を浮かべるライオだが、レオはそれどころではない。
レオが大声でリアクションしないのは、驚いていないからではない。驚きすぎで逆に声が出ないからである。
「……あのさあ、何で金髪なの?」
よく見ると、ライオの髪型はただ金髪なだけでなく、まるでライオンの鬣のように髪を立たせている。
「あ? ああ、もしかしてそんなことで驚いていたのか?」
ようやくレオの微妙なリアクションの理由に気付いたようで、ライオは笑いながら言葉を返す。
「私はこっちではいつもこの髪型だよ。ウチセトでは、せっかく近所の人たちが見送ってくれるのに、こんな軽い恰好は出来ないだろう?」
「そりゃあ、そうだけどさ……」
と、話題がずれてきたところで、
「ところでレオ、私に連絡してきたということは、何か理由があるのだろう?」
ライオが話題を元に戻す。
「あ、そうだった。ソライト博士が、実はN・E団の一員だったんだ」
それを聞き、ライオの表情が途端に険しくなる。
「……そうか。通りで最近メガキの研究所が開かないわけだ」
「でさ。父さんがソライトにあげたデータって、何のデータだったの?」
レオはそれが一番心配だった。もしも伝説のポケモンなどの機密情報を渡していれば、それがN・E団に悪用されてしまう。
しかし、
「それなら心配いらない。私が送ったデータは、ポリゴンという人工ポケモン製作のデータだ」
「ポリゴン……確かソライトがポリゴン2を使ってたから、そこに利用したのかも」
「おそらくそうだろう。だから私が送ったデータについては安心してくれ。また何かあったら、連絡を頼む」
「うん。母さんによろしく伝えといてね」
そしてレオは、ライブキャスターの通話を切り、次は『ブロック』アカノハ支部へと向かう。


「おや、レオ。どうしたんだ?」
支部に入ってすぐ、リョーマとテレジアに会った。
「実はさっき、コウホクシティへの道の中腹辺りで、破天のメジストとか言う天将と戦ったんですけど……」
レオは何気なくそう言ったが、
「何ッ!?」
途端にリョーマの表情が険しくなる。テレジアも驚いた表情を浮かべ、
「それで、それで貴方は……無事なのですか?」
「え? あ、はい。普通に無事ですけど……」
その言葉を聞き、リョーマとテレジアは顔を見合わせる。
そして、
「レオ。君、もしかして——失礼なことを聞くようだけど——速攻で負けたってことか?」
「はい。グライオンがハサミギロチンを持っていると知らずに突っ込んで、すぐに負けてしまいました」
「なるほど。それは、幸運でしたね」
テレジアが呟く。その言い方に少々レオは苛立ちを覚えるが、
「いいか。よく聞け。気を悪くしたら申し訳ないが、君が破天のメジストにすぐに負けたのは、本当に幸運なんだよ」
「言ってる意味が、よく分からないんですけど……」
レオは首をかしげる。リョーマとテレジアが言っていることが、純粋に分からない。
「よく聞け。破天のメジストは、理由は不明だが、天性の能力を持っているらしい」
「その能力が、戦っている相手の精神力や戦意を徐々に奪っていく、というものなんです」
「……え?」
正直、レオには二人が言っている意味はよく分からない。
だが、二人の言葉には、聞き捨ててしまうにはあまりにも重い内容が含まれている気がする。
「破天のメジストは、N・E団に入る前は凶悪な犯罪組織の長として俺達『ブロック』や国際警察に指名手配されてたんだ。その組織は俺達が潰したんだが、破天のメジストだけは逃亡し、N・E団に入団した」
「問題は、なぜ、メジストを捕らえられなかったのか、という理由なのですわ」
「そう。奴と戦ったものは皆、精神力や戦意を尽く奪われ、地に伏してしまった。その中には、戦意の喪失が酷すぎて、トレーナーを引退してしまった奴も何人かいたのさ」
「ですから、貴方は力を奪われる間もなく負け、心に重傷を負わずに済んだのですわ」
ようやく、レオは理解した。そして、それを理解した瞬間に、背筋が凍った。
「僕はそんな危険な奴と戦ってたのか……」
「破天のメジストは、N・E団で最も危険な男とも言われている。奴と戦って無事なのは、強い精神力を持った者か、決して自分のペースが乱れない者だけだ——ここのジムリーダーなら大丈夫だろうな」
最後の呟きは、レオには聞こえなかった。
「ところで、何であいつはあんなところにいたんでしょう?」
「そうだ。そのことだが、こっちでもコウホクシティへの通信がつながらないんだ。丁度俺達もコウホクへ向かうところだった」
「コウホクシティで、何かが起こっていると考えた方がよさそうですわね」
「そう言えば、あいつは明日の昼までコウホクシティには来るなって言ってました」
「……やはりコウホクシティで何か起こってるな」
とりあえず、日も暮れている。
その後、レオはリョーマとテレジアと別れ、ポケモンセンターに戻った。
コウホクシティで何が起こっているかは分からないが、とにかく明日こそはコウホクシティに出発である。

Re: 第三十四話 制圧 ( No.84 )
日時: 2013/08/15 13:56
名前: パーセンター ◆AeB9sjffNs (ID: Q1X0ZXes)

アカノハでレオは一晩過ごし、次の日を迎える。
十時頃には、既にレオはコウホクに向かって歩き出していた。
この時間に出発すれば、昼ちょいにはコウホクに着くからだ。
丁度正午ごろに、レオはアカノハとコウホクの中腹に差し掛かる。
既に破天のメジストはそこにはいなかった。人影は全く見当たらない。
「よし、行くぞ。おそらく、コウホクでは何か起こってるぞ」
気を引き締め、レオは歩き続ける。唐突に、ライブキャスターが鳴る。
「レオか。今どのあたりだ?」
相手はリョーマだ。
「ちょうど中腹あたりまで来ました。人影は全く見えません」
「そうか。すまないが、緊急の仕事が入っちまった。そっちに行くのは、少々遅くなる」
「分かりました。任せてください。仮に危険な事態に陥ったらさっさと引き返します」
「そのほうがいいな。決して無理はするなよ」
最後にもう一度、すまねえ、とリョーマは言い、通話は切れる。
再び、レオはコウホクシティ目指して突き進む。


コウホクシティ。
アカノハと大きさは同じくらいだが、かなり賑やかな町だ。
商店街はいつでも賑わい、ビルが立ち並んでいる。
そして、町の中央にはジムとポケモンセンターが並んでいる。
平日や休日を問わず、いつでも町はたくさんの人でにぎわっているらしい。
しかし。
現在、コウホクシティには人がまったく見えない。
「どうなってやがんだ……? 何が起こってる?」
コウホクシティに入り、レオが呟いたその瞬間。
「誰だお前は!」
「まだ逃亡者がいたのか!」
怒声と共に、家の物陰から五人ほどのN・E団の下っ端が跳び出してきた。
「……ッ! 出て来い、ポッチャマ、トゲチック!」
素早くレオはポッチャマとトゲチックを出し、戦闘態勢に入る。
「ちっ、まだ抵抗するだけの力を残した奴がいたのかよ」
「コウホクの制圧は完了したと思ったんだがな」
下っ端はレオを見据えながら、会話をしているが、
「制圧……!? それ、どういう意味だよ……」
突然出て来た、制圧、という言葉を、レオは聞き逃すわけにはいかなかった。
「ああ? 特に深い意味もねえよ」
「単純に、この町を制圧したってことだよ。殆どの住民をひっ捕らえたぜ」
「つっても、厳密には完全に制圧しきれてねんだがな。ジムリーダーを中心とする実力者気取りの数名が、ポケモンセンターに立てこもってやがる」
「そ。まあそれでも、メジスト様が到着すれば俺達の勝ち。制圧完了も時間の問題だ」
本当によくしゃべる奴らだ、とレオは思った。レオが知りたい情報を、ほとんど教えてくれた。
「そうかよ。それさえ知れば十分だ! 出て来い、ルクシオ、ヘラクロス!」
さらにレオはルクシオとヘラクロスを繰り出し、
「ポッチャマ、水の波動! トゲチック、神通力! ルクシオ、メガショック! ヘラクロス、瓦割り!」
慌てて下っ端五人衆がポケモンを出そうとするが、それより早くレオのポケモンたちが動く。
五人の下っ端のうち、一人は水流に吹っ飛ばされ、一人は念力によって地面へと叩きつけられ、一人は痺れてその場に崩れ落ち、一人は強烈な打撃で吹っ飛ばされる。
「やるか?」
レオは残り一人の下っ端を睨み付ける。
「ぐっ……」
残された下っ端は表情を引きつらせ、後ずさりする。
しかし、その時。

「何をしていたのかと思えば、子供一人に苦戦していたのか」

下っ端の後ろから聞こえた、低音ボイスの男の声。
「!?」
「誰だ!」
下っ端とレオは同時にそちらを向く。
そこにいたのは、黄色に染めた髪を無造作に跳ねさせ、橙色の軍服を着た、非常に体躯のいい、長身の男。背中には赤いマント。
「お前は、元からここにいた者ではないな。お前のことは知っているぞ。確か、レオと言ったか」
「何で僕の名前を知っている」
「ソライトから聞いた。N・E団の者は全てお前の顔と名は把握している」
「で、お前は誰だって言ってんだ」
「我が名は輝天のトパズ。N・E団七天将、第四位である」
その男は、すぐに自分の名前と序列を名乗った。
「抵抗は無意味だ。我は闘いにおいては天将第四位。しかし、戦いにおいては、N・E団一位だ。ここを切り抜けようと、すぐに我が軍がお前を捕らえる。我はN・E団に入団する前は、軍隊の指揮官を務めていた。戦場では、軍神と恐れられた。もう一度繰り返す、抵抗は無意味だ」
感情のこもらない声で、輝天のトパズは告げる。
「そうかよ。だったら、この場で司令塔のお前を直接ぶっ倒して、強引に突破してやる」
強気に出るレオだが、トパズはびくともしない。
「ほう、このトパズにバトルを挑むか」
「軍神だか輝天将だか、そんなの知らねえよ。とりあえず序列四位ってことが分かれば十分だ。てっとり早く一対一だ!」
「いいだろう。この軍神トパズが相手になってやろう!」
その言葉を引き金に、トパズとレオは同時にボールを取り出す。
「頼んだ、ポッチャマ!」
「占領せよ、チリーン!」
レオのポケモンはエースのポッチャマ。
対するトパズのポケモンは、白を基調とし、体のところどころに赤い模様のある、風鈴のようなポケモン。
風鈴ポケモンのチリーン、エスパータイプ。
軍神の名を持つトパズには、とても似合っていない気がする。
「さあ、お前のその力を我に見せてみよ!」
「上等じゃねえか。行くぞ!」
双方の怒声と共に、バトルが開始される。


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