コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.104 )
日時: 2012/11/19 19:09
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)

曇り空様!!

え、アタリですか!? 良かったぁ……(汗
いや、千里眼なんて持ってませんw
ただ、あなた以外にパスを忘れてしまった人が思いつかなかったのでしたw
消去法だったけど、アタリでよかった…(ホッ

更新頑張ります!!

Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.105 )
日時: 2012/11/21 23:59
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)

第五章 揺らぐ文学青年


 絵の作業は、今日のところはひとまず終わり、俺と杉原は直接病院に向っていた(後の奴は病院や学校に家が近いので、荷物を置いてから来るらしい)。

 カラカラ、と回る車輪の音があたりに響く。冬は既に去ったのか、まだ日は高く、寒くはなかった。

 なのに、俺の隣では、顔を真っ青にして自転車を押している杉原が居る。



「……うん、誰だって一つは苦手なことあるけどさあ……なんなの、あの絵」

「うるせ……元々、絵は上手くないっての」

「いや、上手い下手の次元の話じゃないよ!! なんなの、桜の絵から『地獄に落とされて鍋にグツグツと煮えている罪人とその姿を見ている鬼』の絵に変わってたじゃない! しかもやけにリアルに描いてたから、トラウマ覚えたよ!!」

「お前の説明の方がリアルで恐ろしいわ!」



 やけになってツッコむ。

 そう、俺は昔から絵が下手だった。というのも、もっともっと描き込もうとテンションが上がり、結果、恐ろしい絵に変わってしまうのである。自覚はしてるさ、一応。



 隣でハア、と杉原は盛大にため息をついた。







 ……あんな絵を描き始めたのは、確か小学校上がる前か。

 バカ母に暴力を振られて、ふてくされた俺は、腹いせにバカ母の顔を、思いっきり変に描こうとしたんだ。

 笑ってしまうほど、ガキらしい発想だったと思う。

 そうだ、ガキらしくて良かった。
普通が良かった。

 冗談のつもりで描いていたバカ母の絵は、だんだんと恐ろしい絵に変わってき、





 ——般若の姿になっていた。


 何度、描いても同じだった。

 どんなものでも、恐ろしい絵になっていた。そしてそれを、悦として感じている自分も居たかもしれない。

 思えばあの時から、俺の人格は歪んでいたのだろう。

 そして、それは、今でも変わっていない。



「結局、あたしたちが担当しているパーツは、描き直さなきゃならないし……って、聞いてる?」

「あ、ああ」

「滲んじゃって色で重ねて誤魔化すのは難しそうだし……油絵だったら削り取れるんだけどなあ」

「……そっか」


 俺のせいで、最初っから描き直さなければならなくなったのか。

 何だか、申し訳ない気分になった。

 折角、俺のワガママと、フウの為にしてくれているのに。

 頑張らなくちゃ、と思った途端コレかよ。 みんなの足引っ張るなんて……。

 落ち込んでいる暇は無いのに、やっぱり落ち込んでしまう。ダメ過ぎるぞ、俺。




「だからさー、明日、絵の練習に、あたしが付き合うよ」


「……はっ?」




 意外な言葉に、俺は抜けた声をだした。



「何、その驚きよう。
 まあ、絵にコツはないけれど、練習ぐらいは付き合えるよ?」

「いや……あのさ、俺は……」

「うん?」


 キョトン、とした目で俺を見てくる。



「……俺は、居ない方がいいんじゃ」



 多分、あの画力じゃあ、俺は役に立たないだろう。

 そう続けようとする前に、杉原が遮った。

Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.106 )
日時: 2012/11/22 00:01
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)


「なにいってるの? 居たほうがいいに決まってるじゃない」



 あっけらかん、と言い放つ杉原に、俺は目を丸くした。




「だって、三也沢君が諷子さんの為に行動したから、皆が居るんだよ? 皆が三也沢君についていきたいと思ったから居るんだよ。三也沢君が居なくちゃ、話にならない」


 そういって、ニパ、と杉原は笑う。



「多分、三也沢君は気付かなかっただろうケドさ。でも、ちゃんと三也沢君のことを見ていてくれる人が居るんだよ。……あたしも、今回はそれを考えさせられた。

 ほら、今井が、あたしの油絵を破ったって話したでしょ」


「今井……あ、ああ」



 あのチャラ女の名字か。



 杉原は懐かしむように、目を細めて語ってくれた。




「あたしね、小さい頃、画家になりたかったの。お父さんみたいな画家に。

 ちっちゃい頃は、お母さんにも褒められていたから、もっと上手くなりたい、もっと描きたいって思って、頑張ってた。……でも、二人が離婚して、お父さんが落ち込んじゃって。そんなお父さんの前で、描くのは躊躇って。お財布もすっからかんだったしね。

 ……でも、夢は捨て切れなくて、丁度美術部だったからさ、完全下校時刻ギリギリまで部室に閉じこもって描いていた。クラブメイトたちも、あたしの為に筆とか、絵の具とか貸してくれた。うん、あの時は友達は沢山居たんだ。

 ……だけど、うちの財布が、キツクなっちゃって」



 入りたい美術学校に入れなかったんだ、と杉原はいった。




「推薦も沢山来たの。特待生で入れる自信もあった。

 ……でも、そんなことをしたら、お父さんは辛そうな顔をするんじゃないかって。

 特待生ってことは、本気で画家になるつもりじゃないとダメだ。画家で食っていくには、とても大変な道を選ぶことになる。その辛さを知っているお父さんは……反対はしないだろうけど、……古傷を抉るようなことになるんじゃないかなあ、って思った。だから、美術とは無縁な、安くてあたしの学力でも入れるような、この高校を選んだの」

「……そうだったのか」



 夢。

 今の俺の夢は、フウを起こすことだ。

 昔の俺じゃ考えられなかった手間も暇も、希望を抱く力となる。手を握って話すことも、俺にとっては意味のあるものだと思える。



 ……けれど、やはり怖いのだ。

 覚まさなかったらどうしよう。このまま死んでしまうんじゃないだろうか。

 前向きに考えれば考えるほど、その不安や恐怖は色濃くなる。



 良く判った。

 杉原の気持ちが、良く判った。




 夢も、希望もあるのだ。

 頑張ろうと思えば、何処までも頑張れる。



 けれど、やはり躓いてしまう。

 怖くなってしまう。

 夢や希望に、裏切られてしまうんじゃないかと。

 情けないほど、打ちのめされてしまう。





「……て、思ってたんだけどさ。違うんだよねー」


Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.107 )
日時: 2012/11/22 00:09
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)


「……は?」

 まさか彼女がそんな言葉をいうとは思わなくて、俺はビックリして立ち止まる。



「あのね、三也沢君が諷子さんが桜好きで、見せてやりたいっていった時、思い出したの。あたしが、お母さんの誕生日の為に描いた、見事な桜の油絵を。

 毎年ね、お母さんやお父さんの誕生日に絵をあげていて、その時、二人とも凄く喜んでくれたことを思い出して、素人が取った写真よりも、あたしの得意な桜の絵の方が喜んでくれるんじゃないかって、思ったの。

 絵を描くって、昏睡状態の人の目を覚ますのには役に立たないけれど。でも、あたしが出来ることで、諷子さんを喜ばせることが出来るのなら。そんな風に思った。

 その絵は、まだ未完成で、折角だから、それを描き上げて渡そうと思って、ダメナコせんせーに頼んで、あの奥の部屋で放課後、描いていた。

 そして完成間近ってところで、今井が来て。最近あたしが放課後居ないから、付き合い悪い、生意気っていわれて、ちょっと突かれた。その拍子で……」

「絵、破けちゃったのか!?」



 驚いた俺に、苦笑いで杉原は頷いた。



「……すっごく、悔しかった。喜んでくれるかな、と思って描いた作品だったから、裏切られた感じがした。

 ショックで、家に閉じこもっていたの」

「あー……」


 だから、中々見かけなかったのか。

 何だろう、この思い当たる節は。シンクロシティ?



「もう、何もかもイヤでイヤで。部屋に閉じこもった。布団に閉じこもった。

 とにかく、嫌な事から離れたくて……でも、嫌な思いは、益々増えていった。とっても辛かったし、悲しかった」


 心当たりが多すぎるがな。



「でも……お父さんや、今井経由で話を聞いた皆が、あたしの家に来て、扉を叩いてくれた。引きこもるあたしに一生懸命はなしかけてくれた。三日も。

 その時、あたし気付いたの。……何してるの、あたし? って」


 その言葉に、俺は息を呑んだ。
 彼女の笑みに、ハッ、と気付かされた。


「何で、皆がここまでしてくれるのに、あたしは引きこもるしか出来ないの? 辛い、悲しいのままなの? ……どうして、あたしは、皆がここまでしてくれるのに、一人で何にも出来ないくせに、何一人で何とかしようとしてるの? ううん。違う」



 自分で自分の言葉を否定して、ゆるゆると彼女は首を振った。

 そして、穏やかな声で、こういったのだ。





「——どうして逃げているだけなの? ……て」






 けれどその言葉は、どんな暴力の言葉よりも、ずっとずっと鋭かった。

Re: 臆病な人たちの幸福論【『ラジオ番組』企画発進!】 ( No.108 )
日時: 2012/11/22 11:06
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)

「あッ……」


 口を開ける。上手く言葉に出来なかった。

 杉原は、まだ続けてくれる。

 ひたすら笑いながら、俺に語りかけてくれる。


「判ったんだよ、判ったんだよ、あたし。

 あたしはね、傲慢だったんだ。自分だって弱いくせに、お父さんを弱いと見下していた。守らなくちゃと思って、信用してなかった。そんな自分の傲慢さが、自分の首を絞めていただけなんだって。

 人を信じて頼ることも出来ないあたしが、それどころか自分すらも信じられなかったこの傲慢者が、一体どれほどのことを成し遂げれるというのか。

 ——それだけのことだったんだ。夢が、あたしを裏切ったんじゃない。夢が裏切ることなんて、絶対になかったんだよ」



 ブワアア、と、暖かい春の風が吹く。

 茜色に染まった彼女の髪が、風と共に揺らいだ。



「今思えば、あの時、もっともっとお父さんと話していれば良かった。クラブメイトたちに、相談すればよかった。

 方法は考えてみれば、幾らでもあったんだよ。協力してくれる人は、沢山居た。見つけられなかったのは、あたしがそれを信じられなかっただけ。

 絵が破られて、悔しさとか悲しさとか思い出したとき、やっとこさで気付いたのよ。……バカだよね、あたし」


 杉原は、エヘヘ、と笑いを零す。






 ……これは、慰めではない。

 けれど、彼女は、同情してくれるのだ。

 俺の弱さを、肯定してくれるのだ。






 その上で、彼女は俺を否定して、助けようとしてくれているのだ。







 ……そうだ。あの桜の絵を見て思ったじゃないか。

『もっと、人を頼ればよかった』と。



 ……昔は、心配してくれる人は居なかった。

 迷惑はかかってることは、知っていたけれど、心配してくれる人のことは、知らなかった。



 杉原は、心配してくれているのだ。

 そして俺は、そんな人の気持ちを、知りもせずに、自暴自棄になって……。



 一瞬、ゴメン、といいそうになった。

 けれどやめた。

 それは、違うような気がしたから。





「……ありがとう、杉原」





 代わりに俺は、お礼の言葉を呟いた。


 そういうと、彼女は嬉しそうに、笑った。

 それが何だか、無性に嬉しかった。


                   ◆




 そんな話をしているうちに、ついてしまった病院。

 病院は、なんだが騒がしい。



「……どうしたんだろう?」



 杉原が、不安そうな顔でいう。

 俺も、何だか嫌な予感がした。けれど、それを考えるのはやめた。

 さあ、と判らないフリをして、その予感を振り払う。



「とにかく、フウの病室に行くか」

「そだね」




 その時だった。





「あ、三也沢君!」


 東京に居るはずの、杏平さんが飛び込んできたのだ。



「杏平さん!?」

「や、やあ久しぶり。だけど、話すのは後だ!」

「ど、どうしたんですか、そんな息切れて……」



 杉原が、どんな表情をすればいいのか判らない様子で聞く。

 杏平さんは、俺と杉原を交互に見て、至極落ち着いた声でいった。




「今、諷子さんが——」



                  ◆





 杏平さんの後の続く言葉は、諷子の危篤状態であった。

 その後、杉原は杏平さんに連れて行かれ、俺は院長先生に連れて行かれ、先生の部屋にお邪魔した。

 院長先生は、一通りフウの現状を俺に説明した後、お茶でも飲んでいて、といって、出て行った。きっと、フウの元へ行ったのだろう。




 それが、何の結果をもたらすかは知らないけれど。






 ……頭が、真っ白になっている。

 だが、考えてみれば、フウが生きていると知ってから、一ヶ月近く経つのだ。今、危篤状態だとしても、おかしくはなかった。




 院長先生がいうには、まず人は脳死が先で、その間は生きてるようにあたたかいという。……だが、脳死になってしまえば、もう助かる見込みはない。

 結局助けるといって、……手遅れだったのだ、俺は。







 何で、あの時グズグズと悩んでしまったのだろう。

 あの三日間は、今思えば勿体無く思えた。


 あんな奴のいうこと、一々真に受けなくて良かった。

 悩む暇なんてなかった。迷う暇なんてなかった。


 どうして、自分は大切なモノを、幾つも見落とすんだ。

 落としたと気付くのが、何で何時も遅いんだ!






 今回ばかりは、誰も助けることは出来ない。

 どんなに手を合わせても、叶わない。

 どんなに祈っても願っても、誰も救ってはくれない——。














『——なら、ここで諦めますか?』
















 ——え?





 女の人の声が聞こえた。

 けれど、何処か聞いたことがある声だった。



 その時、ブワアア、と、風が吹いた。

 その突風に、思わず目を閉じる。風と共に来たのか、甘い香のにおいが鼻腔をかすめた。



 突然の出来事に驚きつつも、思考ははっきりとしており、俺は今、ありえない現状を整理できた。




 ——……今の風は、窓から入ってきたんじゃない。

 窓は、閉めてあった。







 あの、突風は、部屋の中心から勝手に湧いていた……!?







 やがて、突風も収まってきて、恐る恐る目を開ける。

 突風が吹いた、その場所には。






 俺と同じくらいの、少女が居た。


 少女は、たっぷりとした黒くて長い髪を綺麗に結い上げ、白い髪飾りと、白と銀の綺麗な花のかんざしをつけていた。

 海のような、深い樹海のような、青とも緑ともつかない、綺麗な瞳を持っていた。

 やっぱり、何処か見たことあるような綺麗な顔立ちで、けれど、古代の中国を連想させる着物を身につけているせいで、違和感を感じ、何処か浮世離れしていた。



 そして、その違和感と浮世離れした原因は、それだけではなかった。

 何せ——その少女は、透けて、漂うように浮んでいたのだから。








        揺らぐ文学青年の、とある奇跡



(これが、文学青年の周りにいる、様々な人々の結果)

(さてさて、文学青年は、一体どの結果をもたらすのであろう?)


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