コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.174 )
- 日時: 2012/12/27 20:20
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
ルゥ様!!
おkです!! ご参加ありがとうございます!!
- Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.175 )
- 日時: 2012/12/27 22:53
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
わたしの願いは、極普通の生活だった。
極普通に、外に出て。
極普通に、人とであって、友達を作って。
極普通に、女学校に行って、極普通に話し、遊び、勉強し、時には人の為に動いて……そんな日々を望んだ。
それは、身体が弱かったわたしには、到底届かなかった願いだったけれど。
辛いことも沢山あって、悲しいことも沢山あったけれど。
優しい人たちに出会えた。
大好きな人に出会えた。
そして当たり前のように、日々を過ごしている。
大好きな人と、一緒に。
……そう、凄く大切な日々なの。
凄く、凄く楽しい日々なの。けど、けどね?
——……あんまりにも、辛すぎるよ、今。
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」
わたしがこの学校の生徒となって、三日が経った。
ケンちゃんとは一緒にいたいときに居られるし、わたしがこん睡状態の時しょっちゅう見舞いに来てくれた雪ちゃんとも仲良く出来た。友達いっぱい増えた。
凄く、楽しい日々。幸せな日々。けれど、やはり問題があるといえばあった。
——それは、わたしの学力。
病気の為、女学校もまともに通えなかったわたしは、凄く学力が低い。なのに高校三年生に編入出来たのは、多分校長の気遣いと懐の大きさだろう。
……校長と幾らか話しようとするたびに、セクハラされかけたけどね。保護者としてコーヒー先生もとい芽衣子さんが迷わず本を投げたけどね。司書なのに本を大切にしなくてもいいんだろうか……と思ったのは、いうまでもありません。
まあ、一応編入は出来たわけなのだけど、生憎わたしの学力だと授業にもついていけない。
——というわけで、成績は何時もトップレベルである(らしい)ケンちゃんに、勉強を教えてもらうことにしたのだ。
最初は嫌々だった彼も、最近じゃわたしより先に待ち合わせである図書室で待ってくれている。ケンちゃんだけじゃなく、図書委員である雪ちゃんにも教わっている。芽衣子さんは……「私殆ど学校で習ったこと覚えてないわよ」っていわれた。
まあとにかく、貴重な時間を削ってまで、二人を付き合わせているのだから、早く覚えなきゃ! って思ったのですが……。
——何で、こんなにも社会は用語があるのですかッ!?
しかも政治も昭和からかなり変わってるしッ!
生徒が漏らす、断片的な情報しか貰えなかったわたしは、今の政治がどうなってるかなんて、全然知りませんでした。歴史も本当に少ししか知らなかったし、地理なんてもっての他。
図書室の机の上に突っ伏す。あまりの知識量にわたしは頭が痛くなった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.176 )
- 日時: 2012/12/27 22:55
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「うー……歴史とか地理とか、量が多すぎです……」
「まあ確かに、小六からやろうと思えば、これは大変だな……」
ケンちゃんの、憐れみの声と視線が届いた。
そう。さっきいったみたいにわたしは、学校の勉強は殆どしていない。ので、小学校高学年から勉強しなければならなかった。
とはいっても、全く知らないわけじゃない。幽霊の身では、誰にも見えることはなかったので、勝手に授業を受ける(聴く)ことが出来たので、英語や理科などは、大体覚えています。国語は得意中の得意ですので、これも対象外。
——というわけで、一番の難関は、社会でした。
「……いくら何でも、これは自分でどうにかしないといけませんね」
教科書やら参考書やらの山積みを見て、わたしはため息を吐く。
英語や理科なら、文法とか公式とかあと少しの用語を覚えるだけで、大体大丈夫です。元々、物覚えはどちらかというと良い方なので、ちょっとぐらい多くても、三日ぐらいで覚えられます。……例えでいうのなら、教科書三冊分ぐらいなら、一日で覚えることが出来ます。
つまり、社会の暗記は、根気良くやるしか方法がない。
……それは判るのですが、この山を見るとやる気が削げます。
「……けどまあ、凄いよフウちゃん」
わたしの様子を見かねてか、本棚の整理をしていた雪ちゃんが声を掛けてくれた。
「フウちゃん、数学のテストで百点満点とっちゃったじゃない! 国語も百点だったし、英語と理科も九十点以上は取れてたし!! 陽子先生と田島先生、驚いていたよ!?」
「数学は公式覚えたら簡単じゃないですか……」
明るくいうためか、声が上ずっている雪ちゃんに、わたしは一言いい返すと、雪ちゃんは「フウちゃんには数学の出来ない子の気持ちが判らないんだ……」といじけた。そんなに難しいものではないと思いますよ、雪ちゃん。
何でわたしが、小テストの数学の成績でクラス一位になったのかが判らない。ケンちゃんも百点とってたから、実質二位なんですけど。
逆に社会の小テストは……0点って本当にあるんですね、驚きました。
自分でとっていて何いってるのお前、ってケンちゃんに突っ込まれたけど。でも、正直あれは本当にへこみました……。
「……まあ、とにかく覚えるしかないよな」
「ですよねぇ……」
歴史を深く知ったり、国のことを深く知るっていうのは、結構興味をそそられますけど。ただ覚えるんじゃなくて、歴史を物語のように読んだりとか、国の文化を調べるとか。
……生憎と今は、そっちを優先する前に、年号とか人物名とか国名とか、そっちを覚えないといけないみたいです。
「……うぅ……」
幽霊時代だった頃、テスト期間の生徒たちを羨ましく見ていた自分にいいたい。世の中そんなに甘くはないのだと。
- Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.177 )
- 日時: 2012/12/27 22:57
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
……でもまあ、今はいじけている暇はない。
何せ、高校三年生なのだ。現在のわたしたちは。
ある人間は大学へ行くために、ある人間は就職するために、夏休みを返上して勉強に勤しむ。
……今わたしは、ケンちゃんたちは、大きく変わらなければならない環境に居る。
何時まで経っても、子供では居られない。
ケンちゃんたちの成長を、妨げたり足を引っ張ったりしたくない。
だからわたしは、努力をしなければならない。
それは、なりたかった自分になる、一歩でもあるから。結果を出すには、努力しなくちゃ。
シャーペンを手に取り、また問題用紙と向き合う。
さあて、もう少し、頑張ってみましょうか。
◆
「……い、おーい、諷子さーん?」
ハッ、と気付くと、ケンちゃんが目の前で手を振って呼んでいた。
「あ、ごめんなさい。何ていってましたか?」
「いや、今の今まで手を止めなかったから……根を詰めるのもいけないし、お茶にしないか、ってダメナコが……」
そういうと、間髪居れずにカウンター席から、「ダメナコじゃないわ、光田芽衣子よ」と、芽衣子さんの言葉が飛んできた。
チラ、と時計を見ると、もう既に七時を回ってる。勉強し始めたのが五時の初め頃だから……うわ、もう二時間経っているのか。
「というか、ごめんなさい!! こんなに遅くまでつき合わせちゃって……」
必死に謝る。本当に、何で気付かなかったのだろうか。
二人にだって、勉強する時間や自由時間が必要なハズなのに。ケンちゃん……の家は無いだろうけど、雪ちゃんには心配してくれるお父さんが居るのに。お腹空いているはずなのに。
様々なことが想像できて、とっても申し訳なく感じた。
「あー、大丈夫だ。俺は十時まで平気だし。気にすんな」
「あたしも。今日は遅くなるから自分で作ってって、父さんに伝えておいたから。それよりも一緒にお茶しようよ」
けれど、二人は案外普通に答えてくれた。
それがちょっと驚いて、でもすぐ嬉しくなって、思わずクスリ、と笑う。
「わたしも、お茶したいです。お腹が空いちゃったの」
わたしがいうと、テキパキと机の上は整理された。
主に働いたのは芽衣子さんだ。
「……司書としての仕事も、それぐらい働いたらいいのに」
「同感だね」
「以下同文」
「ちょっと煩いわよそこな三人」
わたしの意見に賛成する二人。そして反論する芽衣子さん。
流れるように菓子を準備し、綺麗な動作で紅茶を注ぐ。もうちょっと早ければコーヒーを注いでいるところですが、わたしはこの時間にカフェインを取ると夜眠れなくなるので、紅茶にしてくれました。
……まあ、芽衣子さんは紅茶とは別に、コーヒーも注いでますが。
「……何で紅茶と一緒にコーヒーも注ぐんだよ。太るぞ?」
「今貴方熟女に対してとんでもなくデリカシーのないこといったわねしばくわよ」
「気にしてるなら二つも注がなければいいじゃないですか……」
「雪ちゃん。私はね、コーヒー飲まないと眠れなくなるのよ」
「あれ、逆じゃね?」
「というかそれ、殆ど依存症になってるんじゃ……」
「カフェインを多く摂ると、骨が脆くなりやすいですよ」
「……今いったの、フウか?」
ケンちゃんに尋ねられる。ですが、わたしじゃないです。
というか、この声は……。
- Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.178 )
- 日時: 2013/01/15 11:17
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「あら、武田君じゃない」
「あ、武田君」
芽衣子さんと雪ちゃんが反応した。
傍に居たのは、雪ちゃんと同じ図書委員の、武田静雄君が、そこに居た。
「こんばんは」
ペコリ、と礼儀正しく挨拶する武田君は、名前の通り静かで、しかし行動力と観察力は高い、良い意味で予想を裏切ってくれる後輩です。
身長は、平均の男子高校一年生より少し低く、目もたれ目で、雰囲気は穏やか。かと思いきや、文武両道でしかも部活は剣道部、腕っ節は全国レベルで通じる。真面目で正義感も強く、困った人は見過ごせない。そしてたまに悪ノリしたりもする。
そして何よりも宮沢賢治の話が好きらしく、話が良く合う友人でもありました。
「よ、武田。相変わらず真面目だな」
「部活で夏休みは潰れるし、帰りは遅くなるから、どうせなら図書委員の仕事もと思いまして」
「あら。じゃあ、一緒にお茶にしない?」
芽衣子さんが軽く誘うと、すみません、との言葉が返ってきた。
「今日、久しぶりに父が家へ帰ってくるんです。母が張り切って晩御飯沢山作るみたいだから、今お茶を飲んだら入らないと思うので……」
「そう。それなのに遅くまで、悪いわね」
芽衣子さんが、珍しくしぼんだ声でいうと、いえ、と武田君は返し、テキパキと返却された本の整理をし始めた。
「やっぱり、武田君は真面目で良い子ですね」
「ホント、仕事がはかどるわー」
「ああ、ここでコーヒー飲んでいる司書に見習わせたいぐらいにな」
わたしがいうと、雪ちゃんとケンちゃんの同意の言葉が添えられる。
「……何のことかしら。それに今はカウンター席で飲んでいるわよ」
「じゃ、訂正。『ああ、そこのカウンター席でコーヒー飲んでいる司書に見習わせたいぐらいにな』」
「訂正すればいいって話じゃないのよ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ……」
あ、また漫才始まった。
一日の間、どれだけ二人は漫才をしているでしょうか。『ギネス』というものに載ってもおかしくないのでは、としょっちゅう思います。
本当、芽衣子さんとケンちゃんの漫才は、見てて飽きない。
雪ちゃんも同じことを考えているようで、ククク、と喉を鳴らして笑っていました。
「……あの、この本、何処に整理すればいいですか?」
不意に、無言で本を整理していた武田君がいった。
珍しい。武田君は、どんな本が何処にあるかを全て暗記していると思っていました。そこまで彼は記憶力が凄いのです。
武田君が持ってきた本は、わたしも見たことの無い本でした。
とっても古そうな本で、所々傷やシミがついてます。
表紙に書いてある題名も薄れてて、なんと書いてあるか判りません。けれど、ラベルがはがれてある後を見ると、図書室の本ではあるようです。
「見たことないし、ラベルが剥がれているので、何処に整理すればいいのか、判らなくて……」
「本当ね……。わたしも気に留めてなかったから、何処に整理すればいいのか判らないわ」
「凄く古いね。コレ何時の本?」
「ってか、この本今日返却されたんだろ? こんなボロボロの本読む奴が居るんだな」
それぞれの反応は、言葉は違えど似たり寄ったり。
……わたしにも、知らない本があったなんて。新刊なら判りますが……。
おかしい。
こんなに古いのなら、わたしはいつか見ているハズです。
「この本、誰が借りたんだ?」
ケンちゃんの素朴な疑問に、芽衣子さんは思い出そうと必死に考える。
「えっと……ああ、珍しい子だったわね」
「珍しい子?」
きょとんと聞いたのは、雪ちゃん。
「そう。一年生だったと思うんだけど、あまり学校に来ない子で……」
「所謂、不登校って奴か」
全くオブラートに包まないケンちゃん。まあ、別に蔑む意味でいったわけじゃないと思いますが。
芽衣子さんも然程気にせずにいいました。
「そうなのよ。名前はパソコンで調べたら出るけど、プライバシーに関わるから調べなさんなよ」
「んなことしねーよ。橘じゃあるまいし」
けれどきちんと釘を刺すあたり、芽衣子さんはちゃんと大人だな、と思いなおせることが出来ました。
肩をすくめるケンちゃん。確かに、ケンちゃんはそんなことはしません。芽衣子さんもそれを判っていったのでしょう。
……真っ先にケンちゃんがあげた橘君だったら、注意したら天邪鬼のように本当にしそうですけど。
「……あの、この本」
「ああ! ……そうね。こんな古い本でも読む人が居るなら、修理しましょうか」
芽衣子さんの言葉に、そうですね、と武田君は返した。
「なら、僕が家に持ち帰って修理します」
「え、いいの?」
「どうせ先生はしないでしょう」
武田君の言葉に、「どうせは余計よ」と、芽衣子さんは口を尖らせていった。
……芽衣子さん、あんま可愛くないです。
というわけで、この本の修理は武田君が行うこととなりました。
本を鞄に入れて、武田君はそれじゃ、と図書室を後にする。
本棚を見ると、キチンと整理されていて驚いた。掃除までされていて、本当に彼はそつなくこなすな、と改めて感心したのは、また別の話。
——……でも、気のせいでしょうか。
本を鞄の中に入れた一瞬、彼が少し、顔を暗くさせたのは。
そんな風に思ったのは、どうやらわたしだけのようで。
気のせいか、とわたしはすぐに思い直しました。
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