コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『低気圧&高気圧注意報』更新】 ( No.524 )
- 日時: 2014/01/25 10:49
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)
◆
とても怖い夢を見た。
何時と同じような夢だと思う。ただ、さっきの夢は、今までより遥かに鮮明に覚えていて。
最後に、ワタシ自身が血まみれになる夢だった。
……ぞっとした。もう思い出さないほうがいい。
さっきの夢は忘れよう。そう心掛けるも、中々忘れてくれない。
そうしているうちに、喉がとても乾いてきた。ワタシは水道水をコップに注ぎ、ゴクゴクと飲む。少し、水が冷たかった。
思えば、要と出会ったのは夏だった。もう随分、秋が深くなっている。
そろそろ冷え込むだろう。ここの地域は盆地だから、冬はとっても寒いと思う。
「そう言えば、ユキは手芸得意だっけ」
ポツリと思い出したのは、ポニーテールが良く似合う友人の顔。
決めた。彼女にマフラーの作り方を習おう。セーターは手先が不器用なワタシには到底無理かもしれないが、マフラーぐらいは編めると思う。少々不細工でも、アイツなら喜んで受け取ってくれると思う。というか無理でも押し付ける。明日ユキに習いに行こう。
色はどうしようか。要は意外と黒が好きだ。でも、白でも赤でも似合うと思う。要らしく、優しい色にしよう。黄色なんてどうだろうか。
まだ決めたばかりなのに、考えれば考えるほど浮き足立ってきた。未来設計は随分と楽しいことに、最近ワタシは気づいた。
今日できなかったことが、明日出来るようになる。
明日が来るのだ。明日も、この家に居られるのだと。そう信じ込んでいるから楽しいのだと。
タンタンタン……と、足音が聴こえた時、気づかされた。
それは、まるで氷の棘が体中に刺さったように。
……要が帰って来た?
いや、もう一人の足音が聴こえる。
誰だろう? 友人の音じゃないような気がする。
でも、何故だろう。
何故かこの音を、ワタシは知っている。
「ただいま、千代っちー!」
ガタン、と扉が開かれた。
そこに居たのは、要と、——————。
「コンビニで千歳さんに会ーたけん、連れてきてしもうた! 俺ん先輩ちゃ!」
「わー、ホンマに美人やな、要!」
身体の中に巡っていた血が、急に落ちた。
「初めまして」
——違う。
「——大八木千歳ていいます」
——初めましてじゃ、ない。
「……千代っち?」
——ワタシは、知っている。この人を。
この人は、ワタシの、————————。
体制を思いっきり崩して、転びそうになって。
それでもワタシは、無我夢中に、弓を引くように、走った。
「千代っち!? どこ行くと!!」後ろで声が聴こえる。
ごめん、要。本当にごめん。
ワタシ、今、全部思い出した。
そうだ。
あの夢の続きを、ワタシは知っている。
要に会って、まだ、落ち着きようのないまま、眠りについた、あの夢の続きを。
何でも願いをかなえてくれた。
お金も、地位も、人も。
何の苦労もせずに、ワタシは欲しいものを手にしていた。
だけど、本当に欲しいものは、何一つなかった。
本来の親子だったら、望まなくても貰えるモノを。
可愛がるだけで、ワタシの義両親は、ワタシの目を見て話すことも、ワタシを叱ることも、なかったのだ。
ワタシ自身を、見てくれなかったの。
だから、千歳が生まれた時、ワタシの存在価値はなくなったの
(口裂け女は、逃走する)
(それは、あの日諷子が健治に幽霊だとバレた時のようで)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【第五部後半スタート!!】 ( No.525 )
- 日時: 2014/01/24 18:46
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)
昔昔、あるところに、貧乏な家で生まれた赤ん坊がいました。
貧乏すぎてもう暮らしていけなくなり、その赤ん坊は子供が出来ない、裕福な家庭の夫婦に養子として迎えられました。大金と引き換えに。
赤ん坊は女の子となり、やがて、誰もが見て振り向くぐらい、美しく可愛らしい少女になりました。
お金も、親も、美貌も、誰もが望むようなものを、少女は持っていました。
けれど、少女は何時も、満たされていませんでした。
両親は、少女を「可愛がる」だけで、愛してはくれなかったのです。
口裂け女 ムカシバナシ 1
「今日も可愛いわねえ、千代ちゃん」
「あ、はい……」
待ちゆく人たちに声をかけられながら、ワタシは重い足を引きずった。
そういわれることに慣れてしまったワタシは、出来ることなら聞きたくない言葉だった。
ぜいたくな悩みだと、人はいう。
自分でもそう思う。ワタシは誰よりも恵まれている。親もいるし、お金もあるし、病気もしていない。自分でいうのもなんだけど、綺麗な顔をしていると思う。少なくともブスじゃない。だから、こういう風に悩むのは筋違いで、とてもいけないことだとも思う。
だけど、学校に行けば、そんなの全然関係なくて。
『死ね』『キモイ』『調子に乗るなブス女』
ワタシが居る場所には、至る所にそんな字が書かれていた。読みににくい字じゃないけれど、綺麗とは絶対にいえない。
……またか、と思ってしまう。何時ものことだった。
毎日同じようなことが書かれていて。最初は悔しかった。次に悲しかった。三度目は辛いと思うようになった。けれどもう何百回も同じことを繰り返されては、慣れてしまった。陳腐な言葉ばかりで、それ以上のことはしてこない。
慣れている。こんなの、慣れている。だからワタシは、傷ついてなんか、ない。
グシャリ、と、陳腐な言葉が書かれた紙を、人知れず握り締めた。
いじめられているからといって、味方がいないわけじゃない。
教室で普通に話しかけてくる子は居る。友達だって居る。
それでも、教室は居心地が悪い。
仲の良い子と話していると、刺すような視線を感じて、思わず見てしまう。
見なければいいのに、その先には、必ず悪意を持って睨み付ける女子たちが居る。その目がとてもおぞましくて、吐き気がして、でもそんな弱みを見せるのは嫌だったから、気付かないフリをしている。なのに、気が付けば見てしまうのだ。
気づかないフリをしているのは、もう一つある。
「ねえ、大八木さん、今日一緒にカラオケに遊びに行かない?」
「ごめんなさい、今日は……」
「えー! 何時もそうやって断ってるじゃん。今日は来てよ」
そういった瞬間に、集まる男子たち。すっかり囲まれてしまう。
何とかしてその囲いを潜り抜けて逃げる。これって高校に入学してから何度目だ。
ワタシは男の子が嫌いだ。関わってロクな目に遭ったことがない。
小学校時代は散々容姿についてからかわれ(『目がでかくてキモイ』とか、『唇が真っ赤なのは血の色』とか)、中学校に入ると手のひらを反すように優しくしてくる。
しかしその優しさが全部、気持ち悪かった。
何というか、押しつけというか、「こうしたら俺と仲良くしてくれるだろ」という下心満載で。告白が始まったのもこの時からだったが、腹の腸が煮えたぎるのを抑えて丁寧に断っているのに、フラれたら男どもは「大八木は実はこういう奴なんだぜ」と、ないことを言いふらし始めた。そしてそのせいで女子ににらまれる羽目に。中学校時代は友達なんぞいなかったいわゆる『暗黒時代』。
以来ワタシは、男の子の好意も徹底的に無視することにした。
それでも、しつこい男というのはいるもので。何が一番性質が悪いって、中学校時代にはなかった『性欲』というのを全面的に出しているのだ。何だ、カラオケって。個室じゃないか。それも男数名が一名の女を囲んで誘うって、どう考えても誠実じゃない。冗談じゃない!
- Re: 臆病な人たちの幸福論【第五部後半スタート!!】 ( No.526 )
- 日時: 2014/01/27 21:45
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)
ワタシがまるで血も涙もない冷徹な人間だとフラれた男はいうが、ワタシはこんな態度を取るだけでも心苦しいんだからな! ワタシが男不信になった日にゃお前らのつけてるものちょん切ってやると誓っているワタシだ。
……なんて、怒れば怒る程、惨めになってくる。
「千代—、ごめーん。今日彼氏との約束があってさ……」
「あ、うん。気にしないで」
「ううん。ホントにごめん」
友人よりも彼氏を優先する。まあそれは仕方がないだろう。女と女の間には確執にせよ友情にせよ何かが残るが、男と女の間には、別れてしまえば意外と簡単に何も残らなくなるらしいから。本当かどうかは知らないけれど。その代わり男嫌いのワタシは今日の放課後が空いてしまったぞ。
このように、仲の良い友人は、大体皆男の子と付き合っている。
ワタシからしたら皆同じように卑しい顔をしているのだけど、友人がとても幸せそうな顔をしていたら、いうにいえない。
こういう悩みは、友人に相談したって本気にされない。
ワタシは異常なまでに告白されている。人から見たら羨ましいだけなんだろう。ちやほやされたい気持ちはワタシにもわかる。
だから、いっても「贅沢」なニュアンスにしか聴こえない。または嫌味。
けれど、ワタシにとってはぶっちゃけ先行きがとても不安なぐらい、本気で苦しんでいる悩みだ。
「(と、いうよりも……多分、誰も判ってくれないと自分で思っていることが苦しいのだと思う)」
……友人と共感できないこの悩みは、本当に苦しくて。
ワタシは、あまりにも誰かと一緒に共感することに資質がなくて、そして誰よりも共感したいという気持ちに飢えているのだと思う。
家庭のことも、いじめのことも、容姿のことも。数える程度には相談したことがあるけれど、いずれにせよ全部「気にしない」「うらやましい」としか返って来なかった。
新しい言葉がないから、退屈でつまらなくて。けれど、なんでだろう。何でか、聞けば聞くほど気持ちが重くなっていく。
それは、毎朝毎朝繰り返される罵詈雑言が書かれた紙を読むときと同じで。
……あの性格の悪いのと自分の友人を比べると、そんなこと考えちゃダメ、アレと一緒にしちゃダメと、今度は罪悪感が襲ってくる。そんなことを考えているうちに、大体一日が終わっているのだ。
今日もそれは例外ではなく、ベッドに飛び込むときには、身体は疲れていないのに、酷くだるくなっている。
人と付き合うのは、本当に疲れて、……自分が判らなくなる。
友人は悪くはないのだ。多分、ワタシが悪いのだと思う。男の嫌なところを全部無視すればいいのに、気付かなければいいのに、そういうところを細かく見てしまうのだ。そういう所が改善されれば、きっと、あの下駄箱にはひどくきたなく書かれた紙は入れられなくなる。
ワタシが悪いのだ。友人は全然悪くない。ワタシが友人の立場なら、同じようなことをいうしかないし。
……ワタシが、悪いんだ。
こんなことを、考えるから。
「……今日も、お父さんとお母さん帰って来なかったな……」
そろそろ日付が変わる時計を見ながら、ワタシは眠くない瞼を閉じた。
今日も両親は仕事で忙しい。でも、両親は悪くない。
悪いのは、ワガママを思うワタシなのだと、思う。
だるいのに、全然眠れないの
(「だから誰か、一緒に寝て」)
(「お父さん、お母さん。……助けて」)
(ワタシは必死に、この感情を汚いものだと思って、押し殺した)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【口裂け女のムカシバナシ】 ( No.527 )
- 日時: 2014/02/07 22:15
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)
「千代ー、どしたのそんな難しい顔して」
友人の言葉に、ワタシははっと我にかえった。
友人のハツは、何時もにもまして笑顔を浮かべている。昨日彼氏の家に泊まると言っていたが、いいことでもあったのだろうか。……勘ぐるのはやめよう。下品なことまで思いついたら、ワタシの㏋はゼロだ。
「……怖いよ、何時もにもまして」
「ごめん……ただの寝不足だから」
目をこすりながら、掠れた声で返すと、満面の笑顔から一転、ハツの顔に影が出来た。
「……また何か悪口書かれてた?」
顔を険しくして、低い声で聞いてくれる。さっきまで彼氏のことで頭いっぱいだった癖に、ワタシの為に、表情を変えてくれた。そのことが、ワタシにとって嬉しくて、にやけてしまった。
「ううん。それはいいの」
そういうと、ハツは訝しんだ。どうやら心配性の彼女は、ワタシの言葉が嘘っぱちに聴こえるみたい。
でも本当に、今日は違うのだ。
「実はね。……弟が、出来ちゃって」
口裂け女 ムカシバナシ2
「お、弟ぉ!?」
「うん、弟」
慌てるハツを見て、さっき自分が言ったセリフが、自分に子供が出来ましたとでもいったみたいだな、とふっと思った。
「ななななんでそんなフツーに……とととと唐突過ぎよ!? え、というか何歳差!? え?」
「十六歳差かな。学年は十七つ違いだけど」
そういうと、ハツの顔がゲシュタルト崩壊した。ワタシに弟が出来たことがそんなにも驚きだったか。
ハツが「何でお母さんが妊娠中の時にいってくれなかったの!?」と迫ってくるが、んな無茶な。ワタシだって、弟が出来たっていう知らせが届いたのは、高校二年の夏休み前だったし。しかもその時には病院から「生まれます」の連絡だったし。
「(ワタシも、聞いた時には驚いたけどさー……)」
終わってしまえば、あ、そう、って感じだった。
夫婦そろって娘には何もいわないのだ。というか、いう時は何時も大体遅い。例えば授業参観日が終わってから、その類のプリントを親に渡すことぐらいに遅い。
だから今回のことも、事の重大さがわからないまま過ごしてしまったのだ。
「名前なんていうの、弟君」
気にしていないが当日いわれてそれなりにショックだったことを思い出して暗くなるワタシに、子供好きなハツは、対照的に嬉々として、ウキウキと聞いてきた。
「千歳。なんか女の子みたいだからやめなさいって止めたんだけどさ、両親いうこときかなくて」
「えー、いいじゃん! 千代に千歳かあ。やっぱ姉弟って感じだね」
ワタシの家の事情を知らないハツの言葉に、ワタシは苦笑いをするしかない。
……そっか。ハツがさっき驚いていたのって、突然弟が出来たことだけじゃなくて、ワタシと弟の年齢の差が大きすぎることに違和感を感じたからかもしれない。お母さんとお父さん、頑張り過ぎって、傍から聞いたらそう思うだろう。
……ワタシが養子だっていうことを知っているのは、ほんの僅かで、仲の良いハツも知らないことだ。
まあ、それはとりあえずどうでもいい。そんなことよりも、ワタシはハツに愚痴を聞いて貰いたいのだ。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【口裂け女のムカシバナシ】 ( No.528 )
- 日時: 2014/02/11 18:21
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: T5S7Ieb7)
「親がさ、共働きでしょ」
「うん、フリーダムよね、アンタの親」
「そしたら、大体弟の世話がお手伝いさんかワタシに回って」
「そうなの。……え?」
ハツの表情が一転して強張ったが、気にせずワタシは言いつのる。
「でもお手伝いさんって、うちの広い家の世話で手一杯だし、若い人だから赤ん坊が泣くだけでオロオロしちゃってるしさ。何かヘマしたら減給されてしまうかもしれないしで、見ていられなくてね……」
「ちょ、ちょっと待って!」
物凄い形相でハツに止められたワタシは、はっとした。
「ごめん……愚痴聞かされるの、迷惑だった?」
思えば、ワタシはハツに「愚痴を聞いてくれない?」と前置きをしていなかった。急にこのような話をさせてしまった事実に、恥ずかしさと申し訳なさが胸の中に広がる。どうしよう、悪い気分にさせてしまったと思っているワタシに、ハツは首を横に振った。
「いや、別に愚痴ぐらいはいいのよ。そうじゃなくて」
「何?」
「お母さん、育児休暇貰ってないの?」
……育児休暇?
「……それって、貰えるものなの?」
「ハアアアアアアアアアアア!?」
思わず疑問を口にしたら、ハツに何言ってんのアンタは!? と返された。
「何? アンタ、ひょっとして育児休暇も知らない?」
「知ってるわよ失礼な」
育児の為に取る休暇でしょう。それぐらい知っているというと、ハツはなんだ、と安堵した。
「だったら、その意味の通りよ。その意味じゃなかったら一体その休暇は何時使うのよ」
「でも……うちの母はそれを取っているようには見えないわよ? 相変わらず夜遅いし」
「まあ、アンタが弟の世話をほとんど見てるっていうなら、そんなとこだとは思ったわよ……でもまだ小さいんでしょ? 夏休み前に生まれて、今十一月だから……まだ離乳も済んでないじゃないの!!」
「……お母さんは、ミルクで大丈夫だって。ワタシもそんな風に育てたらしいから」
「……それって、変だよ。おかしいよ」
そう言うと、ハツは冷えた声でいった。
「だって、家族が一人増えたのに、そんなすぐ普通に戻るわけないでしょう? 赤ん坊よ? 私たちと一緒なわけないのよ? 私たちには必要じゃないものが、赤ん坊にとってはとっても大事なのよ?」
「ハツ……?」
「千代にこういっても意味ないことぐらい判る。でも、そんなの、絶対おかしいよ」
ハツのお母さんは、シングルマザーの為、仕事をしている。だから、ハツは小さい頃から一人で留守番していた。
ハツには一人妹が居て、中々利発な子だが、たまに後先考えずに物事を進めることがあって、そんな妹を、よくハツは面倒を見ていた。けれどハツはそれをいやとは思っていないし、寧ろ喜んで妹の世話をしていた。妹からも好かれているお姉ちゃんである。
そして、ハツはお母さんのことを悪くいうことはしなかった。ハツ曰く「あまり母親とは接していないから、嫌いじゃないだけ」と澄ました顔で言っていたけど、嘘だ。本当はお母さんが大好きで、お母さんが自分たちの為に働いていることを知っているから自分もバイトを始めて、妹にテニスをさせるために部費を半分あげたり、弁当を作ってあげたりしているのも知っている。それに、何時もハツが持っているハンカチ。制服のシャツとかは自分でやっているが、ハンカチだけはお母さんがアイロンをかけていると聞いたことがある。「ホントにハンカチだけだけどね。うちの母もフリーダムでずぼらだから」とハツはいうけれど、皺ひとつないところから見て、良いお母さんなのだとわかった。
片親で子供を二人も育てるのは、子供であるワタシにもなんとなく、大変なのだと判っている。ワタシが思っている以上に、きっと大変なのだろうけれど。それでも、ハツは何時も笑顔だし、とても優しい。
そんなハツに、ワタシの家はおかしいといわれた。
「ましてや、アンタだけが弟の世話してるなんて……アンタ、ひょっとして眠ってないでしょ」
そのことがいいたくてハツに話を持ち掛けたのに、いう前にハツに見破られた。
何で判ったの、と聞くと、赤ん坊の面倒見るっていうのはそういうことなのよ、と返された。
「とりあえず、私がとやかくいうことじゃないけれど、アンタはちゃんと眠りなさい。弟が可愛く見えるかもしれないけれど、あまり構いすぎてもダメだからね。それと、両親が面倒見れないなら、ちゃんとお手伝いさんに頼みなさい」
ハツの言葉に、ワタシは頷くしかなかった。
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