コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122



Re: 臆病な人たちの幸福論【間章更新!!】 ( No.94 )
日時: 2012/11/15 19:51
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)

ルゥ様!!

うわおまたまた来てくださった!? しかも爆弾並みのお褒め言葉を!?w

そそそそんなこといったって、何にもでないんだからね!!

……スイマセン。調子に乗ってツンデレ風にしてしまいました。
未だにテンションとキャラが定まらない。


四人……ですと!? 大家族ですね!!
それで女一つで育てるとは……お母様、凄い人ですね!


ですよね。
私の親友のお母様から話を伺ったのですが、仕事と子育てって、両立するのはとても大変らしいです。
なので、ご自分のお母様やお父様、つまり親友のお祖母様お祖父様に預けたり、学校の放課後クラブ的なやつに預けたりと、結構人に頼っていたようです。

こんな風に、近所の人や友人に、気兼ねなく気軽に預けられたらいいんですけどね。社会はそこまでまだ、行き届いていないし、人間追い詰められたら自分で何とかしなくちゃー、とか思っちゃいますもん。

更に受験、ですか……。受験時期って、受験生も、親も絶対大変ですよね。あと兄弟姉妹にゃとばっちりが来る(←経験者です。
私はルゥ様より一個下ですが……とにかく、お体だけは気をつけてください。

あ、何だか世間話になったw

最後になりましたが、コメントありがとうございますw 今後も、感情移入できるような話を書けるよう、精進します!!         多分。

それでは。

Re: 臆病な人たちの幸福論【間章更新!!】 ( No.95 )
日時: 2012/11/15 20:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)

第四章 平凡少女の行動


 最後の高校生活が始まって、二週間が経った。

 あと一週間程度でフウは死んでしまうかもしれないのに、フウはまだ目覚めない。

 俺は相変わらず、フウの病室に通っている。

 美雪さんと杏平さんは、春休みが終わった為、自分たちが通っている大学のある東京に戻ってしまった。今年一緒のクラスになった杉原は、あの日から来ていない。それどころか最近、学校にも来なくなった。

 たった一人で、俺は見栄えしない日常に焦りを感じながら漂っている。

 ただ、変わったことといえば。







 ——桜は既に、散ってしまったことだろうか。



               ◆



「今日はな、フウ。ちょっと面白いことがあったんだ」


 何時ものどおり、俺はフウに語りかける。

 何時ものどおり、フウは返事をしないけれど。



 やせ細った手を握りながら、ゆっくりと話した。


「ダメナコがな、相変わらずのサボリ癖で、とうとう校長に呼び出されたんだよ。

 お前はひょっとしたら知ってるかもしれないけれど、校長ってセクハラするので有名でな。それでも何で校長の職に就けているのかはわかんないけど……。

 まあ、とにかく、今回も懲りずに、説教しながらダメナコにセクハラしたらしいんだ。そしたらダメナコ、手元にあったマグをひっくり返して、中に入っていた淹れたてのコーヒーを校長の頭へ思いっきりぶっかけたんだ。丁度校長室に用があって入ったらブッシャアアアアアアアア!! だったからビックリだよ」



 思い出したら、噴出してしまいそうなところを何とか堪える。



「んで、更に宮沢賢治の本……『よだかの星』だっけ? その本の角で殴ろうとしたからさー、流石に止めたよ。本で人殴るって本への冒涜なのに……ホントアイツ司書なのかな。

 なあ、フウ。何で俺の周りの大人って、まともな奴いねーんだろーなー」


 ハッハッハ、と乾いた声で笑ってみせる。


「……」



 それでも、フウは笑ってくれない。

 きっとあの時だったら、転がって笑っていただろう。

 俺みたいに堪えることなんか出来ない素直なアイツは、それぐらい凄いから。



「あー……。

 何してるんだろうなあ、俺」


 でも、今は、答えてくれない。

 今の状況は、口がない人形に話しかけているのと同然だ。




 当たり前だと思っても、やっぱり辛い——。

















 ピクリ。





 ……今、気のせいだろうか。

 彼女の小指が、動いたように見えたのは。






 ピクリ。



「……!?」





 気のせいじゃ、ない!

 今、ちゃんと手が動いた!


 かっと、体温が上昇する。

 そのまま俺は迷わず、呼び出し音のボタンを押した。

Re: 臆病な人たちの幸福論【第四章 パート1更新!!】 ( No.96 )
日時: 2012/11/15 21:05
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)


                     ◆


「あー、そりゃ反射だね」

「……反射?」


 聞き覚え、というか、見覚えのある言葉だった。本やネットで、昏睡状態のことを調べたときに見た言葉だ。

 昏睡よりも軽い意識障害のことを、昏迷というらしい。昏迷の人は、何らかの強い刺激を与えると、一瞬だけ目を覚ましたりするそうだ。

 昏睡状態の人は、それよりもっと重度で、痛覚などはあっても、それを回避しようとする反応は失われているらしい。だが、そんな状態でも原始的反射運動、例えばさっきのように、動いたりすることはあるらしい。

 つまり、目覚めたわけではないのだ。


「……そう、ですか」

「そう気を落さんな」先生が、ポンと肩を叩いてくれた。


「意識障害で最も重いときは、反射すら出来なくなる。それが出来たってことは、ちゃんと目を覚ます見込みがあるってことだからね。

 それに、キミが看病する前は、反射なんて殆どなかったんだ。キミのお陰だよ」


 そうして、先生は、俺の頭を撫でてくれた。

 まるで、孫を可愛がるかのように、撫でてくれた。

 その様子に、俺は素直に、はい、というしかなかった。

 その様子に先生が、また何かあったらいってくれ、といい残して、病室を去っていった。


                        ◆


 何時もは八時ギリギリまで居るが、最近は何だか寝不足がちなので、今日はちょっと早めに切り上げることにした。

 春とはいえ、夜は寒い。冷たい風が、額に触ってくる。鬱陶しい前髪が、視界を遮ってくる。今の俺は、多分不機嫌な顔をしているだろう。


「……何だか、不甲斐ないなあ、俺」


 手を握って、話しかけることしか出来ない。

 そんな不確かな方法でしか、助ける手立てはないのだ。あの先生のように、医学知識も技術も持ってない。

 ……なんて無力だろう。


 そう考えると、胸の辺りがむしゃくしゃした。












 家に帰って真っ先に風呂場に行き(もう既にご飯は病院で食べて来たからだ)、上がって水を飲もうとリビングに行くと、そこにはバカ母が居た。

 座っているバカ母は、手元にア●ヒビールの缶を持って、俺に向ってニヤニヤと笑っている。

 気色悪い。俺は極力目を合わせないようにした。




「ねえアンタ、最近植物人間の看病しているんだってぇ?」



 何処で知った。この言葉がのどまで出てきそうだった。

 だが、一応バカ母もあそこに勤めている医者だったことを思い出す。精神科とは別の専門なので、一度も会わなかった。

 まあ、それはどうでもいい。バカ母は、ヘラヘラと笑いながら俺に絡んでくる。




「バッカじゃないのぉ〜。殆ど死体に話しかけるとか、アンタこそ精神科にいったほうがいいんじゃなぃー」


「……」

「ひょっとして、冷蔵庫にも話しかけてるのかなァ〜? プ、おっかしい〜。

 昨日見てみたけど、あんな子、すぐ脳死になるわよ。無駄だってこと、そんなことも判らないの? バッ」



 バンッ!! と、俺は机を叩く。その振動でコップが少し浮んだ。





 ビク、と、バカ母が肩を揺らした。



 酒を飲んで酔ったのか、顔を真っ赤にして、くしゃくしゃに歪んでいる。怒っているような、泣きそうな顔だ。そう、赤ん坊が泣き喚く一歩前のような。





「……何よ、逆らう気?」




 震えた声でそういうが、俺は無視して自分の部屋へ戻った。

 電気をつけずに、真っ暗のままベッドへ滑り込む。そしてそのまま、布団にもぐりこんだ。

Re: 臆病な人たちの幸福論【第四章 パート1更新!!】 ( No.97 )
日時: 2012/11/15 21:14
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)


 思い出すのは、バカ母のあの顔。

 あの顔が、一時期俺を縛っていた。でももう俺には効かない。

 効くわけがないんだよ。





『ねえアンタ、最近植物人間の看病しているんだってぇ?』

『殆ど死体に話しかけるとか、アンタこそ精神科にいったほうがいいんじゃなぃー』









『あんな子、すぐ脳死になるわよ。無駄だってこと、そんなことも判らないの?』










「……っ」




 頭の中で、汚い声が木霊する。


 違う、と俺はいえなかった。

 無駄なことじゃない、フウは絶対助け出してみせると心の中では思っていても、いえなかった。



 それは何処か片隅で思っていたから?







「……くそ!!」





 何がしたいんだあのアマ。

 何でトコトン人の神経を逆撫でるんだ。

 お前なんかに、何が判るっていうんだ!!




 躍起になりたくても、なれない。

 壊したいものなんて、この部屋には一つもないから。

 だから、暴れたい気持ちを堪えて、もう寝ようとした。






 けれど、その日は眠りにつくことは出来なかった。



                      ◆


 翌日、俺は熱が上がった為、学校を休むことにした。

 バカ母は仕事なので、お手伝いさんに粥を作ってもらい、一日中寝て過ごした。元々あんな奴に頼るつもりはないけど。

 動くこともだるくて、何だか頭がボーッとする。


「(風邪でも引いたか……?)」


 風邪なら、明日ぐらいで治るだろう。そう俺は思っていた。

 だが次の日も、そのまた次の日も、そのまたまた次の日である今日も、熱は下がったものの、だるさが取れず、頭がボーッとしているのだ。



 それは日に日に増してくる。



「(……あー、嫌だなあ)」




 学校に行くのも、病院に見舞いにいこうと考えるのも辛い。

 こうなっている原因は、流石に判った。





「ちくしょう……何であんな言葉に堪えてるんだよ、俺……」


 効くもんか、といっておいて効いてる。

 ああ、仕方がないほどヘタレじゃないか、俺。





 今、フウはどうなっているんだろう。

 もうすぐ、死期が迫る。更にやせ細っていないだろうか。





 ……想像するだけでも怖く、重かった。




 ひょっとしたら、もう皆諦めたんじゃないだろうか。

 美雪さんも、杏平さんも、連絡先を交わしたけれど、一向に連絡はこない。

 杉原にいたっては、あれから来ていない。



 それは、皆もう諦めたからじゃないだろうか。

 ……だったら、俺も諦めるべきか?


 フウはもうダメだと、諦めるべきか?





 諦めるもんか、絶対に救い出すとかいっておいて、なんだこの有様は?







 考えるだけで、体が重くなる。

 それを振り払うように、首を振った。



「……今日は、学校行こう」



 流石に今日は、行こう。



                     ◆



 行こうと決めたものの、やっぱり身体はだるくて、結局午後からいくこととなった。

 授業は殆ど受けられないが、いかないよりましだ。

 何だか妙に緊張して、ガラ、と戸を開けたその先は、










 ——誰も居ない教室でした。





「……あり?」






 ずっこけそうになった。

 一瞬、教室を間違えたかと思って、表札を見る。

 だが、やっぱり間違いではない。



 今日は体育だったか……? と思い、中に入ると、黒板に大きく字が書かれていた。




『三也沢健治君、来たのなら図書室に来なさい!! ……byクラスの皆』


「命令形ですか」


 思わず突っ込んでしまったが、教室には俺一人なので、聞かれることはなかった。



「(……ってか、図書室って)」



 一体何があるんだ?

Re: 臆病な人たちの幸福論【第四章 パート1更新!!】 ( No.98 )
日時: 2012/11/15 21:13
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)





 と思いながら、やってきました図書室。

 ドアの向こうには、ガヤガヤとした、そこまで五月蝿くは無いんだが、騒がしい声が聞こえる。

 何か妙にドキドキしながら、ドアを開ける(あれ、デジャヴ?)。



 ——ドアを開けると、そこは人と桜でいっぱいでした。



「……は?」




 一瞬、頭が真っ白になった。



「あ、三也沢君!」

「え!?」


 端にいる杉原の言葉に、クラスの皆が反応した。

 そして、一斉に振り向く(何か怖い)と、ワアアアアアアアアアア!!
 と、五月蝿くなった。


「うおおお! 三也沢じゃねーか!」

「大丈夫!? 三日も休むなんて、インフルにかかったんじゃないかって心配したんだよ!?」

「まあとにかく来い来い!」



 皆が一斉に話し出す。そのお陰で何いってんのか判らん。


 ……とりあえず。






「部屋、間違いました」


「「「待て待て待て待て待て待て待て待て」」」




 俺がドアに手を付けた途端、杉原の細い手が、俺の手を掴んだ。




「ちょ、待ってってば!」

「いや待て待て待て! 今俺の台詞!」



 あの遠い端から、一体0,何秒で着いたお前!! しかもなに、この握力!! 痛い、痛いって!!




「何? 何ここ? ここ図書室じゃなかったっけ? 何で本じゃなくて桜の花が咲いてるんだよ!?」

「三也沢君、落ち着いて! これ絵!! 絵だってば!!」

「……絵?」



 杉原の言葉に、目を瞬かせる俺。

 よく見ると、それは確かに桜の絵だった。



「……ほら、三也沢君、諷子さんに桜見せたかったなあ、とか呟いてたでしょ?」

「あ、ああ……」

「だからね、絵で表現してみようって思ったの。あたし、元々絵好きだったし、中学じゃ美術部だったからさ。で、本当は油絵にしたかったんだけど……」





 杉原がジト目で見つめる先は、キョドキョドしているチャラ女だった。



「いや、あの時はホントにゴメンって……」

「まあ、もういいんだけどさ……」




 ああ、ナルホド。おおよそのことは理解できた。

 そして杉原よ、「もういい」といいつつ目が笑ってないぞ、コワイ。




「そしたら、皆で書き直そうってことになって……せっかくの大人数だし、部屋いっぱいに絵を描いて、諷子さんが退院したときに、本当にお花見しようって話になったの」

「それで、図書室はこうなってるわけか……ダメナコならあっさりと許可しそうだけど、良く担任にも通ったな」




 誰だっけ、今年の担任。初老で、良い意味でも悪い意味でもテキパキやりそうな感じの男教師だったけれど……。

 その質問には、俺の直ぐ傍に居た男子生徒——確か、上田だっけ? が答えてくれた。




「ああ、何か『いいぞ! それでこそ青春だ!』とかいって、当分午後の授業は全部取り消しにしてもらったよ」

「何その熱血教師キャラ」



 ってか、アバウトだな。俺ら高校三年生なのに、んなことしていいのかよ。





「あ、でも桜の絵描き終わった後は朝補習放課後補習必須だってさ」



 さいですか。いや、そこまで都合のいい話は無いと思ってたけどさ。



「……にしても、綺麗な桜だな。絵がニガテなやつだっているだろう?」




 よくよく見ると歪な桜はあるが、遠めで見ると本物そっくりである。




「ああ、それは……」


「あたしのお父さんに、特別講師させてもらってるの」





 上田の言葉を、杉原が遮った。




「……へ?」


 何とも間抜けな声を出す俺に、クスリ、と杉原は笑う。

 杉原が視線を投げかけ、その先を追ってみると、ちょっとやせ細った体格の男が、パレットを持って指導していた。




「いやー、流石に最初はあんまりだったからさー。幾ら絵は自由だといっても、桜って思われなきゃアレだし……それにここまで来たらなら、ちゃんとやり遂げたいしさ!!」

「でも、何でか、本当になんでか、この学校には美術教師が居ないし(美術、音楽などは、教頭がたしなみ程度で教えています)……だから、あたしが冗談でいってみたのよね。あたしの父さん雇ってみませんかーって」

「……お前の親父さん、画家だったのか!?」

「も、あるけど、元々は高校の美術教師だったのよ。お母さんと結婚してからは、主夫として辞めたけどね。

 そしたら、それも通っちゃってさー……」



 衝撃な事実に、連続で驚きっぱなしである。

 俺の知らないところで、一体本当に何があったんだ。





「……まあ、とにかく、お絵かき三昧よ、これから午後は」



 大げさにため息をつく杉原。

 しかしながら、その顔は何処か、嬉しそうだった。



 きっと、今回のことで親父さんとの仲を取り戻したきっかけがあったのだろう。

 フ、と笑うと、杉原は顔を赤くした。照れ隠しのように、乱暴に俺の背中を押す。





「ほら、三也沢君も手伝ってってば!! 絵が長引けば長引くほど、補習の時間も長くなるのよ!?」

「ゲ、それは勘弁」



 その言葉を聞いたら立ったままじゃいられない。慌てて筆を探す。


「ほらよ!」


 上田が、パッと筆を投げてきた。それを掴む。


「あんまし詳しいこと聞いてないけど、大切な奴なんだろ、その諷子ってのは」




 ——大切な奴。






「……ああ」


 俺が返すと、上田はニッと笑っていった。



「だったら、盛大にお見舞いに行って、退院を祝ってやろうぜ!!」

「あのね、当番で、諷子さんのお見舞いにも行こうって話も上がったの! 大人数じゃ迷惑だけど、やっぱり出来るだけ多いほうがいいでしょう、お見舞いは?」




 続けて、杉原がいう。




「……見舞いに、来てくれるのか?」



 驚いた俺が、恐る恐る聞くと、上田と杉原、そしてその辺りで話を聞いていた奴らが、揃って笑っていった。





「あったりまえじゃないか!!」






 ——俺は、さっきどう思っていた?


 皆が諦めているから、俺も諦めるべき?

 どんなに頑張っても、助けられない?




 何がだ。何処がだ。

 誰も諦めてなんかいなかった。それ何処か、味方が沢山いた。

 これだけの人数が居るのに、俺は、一体何を見ていたんだ。

 もっと、声をかければよかったのだ。もっと、人を信じてみればよかったのだ。


 助け出す方法を、もっともっと考えればよかったのだ。

 判らなければ、人に聞けばよかったのだ。



 フウは大切な奴だと、俺は杉原にいった。


 だから必ず助け出すのだと、俺は誓った。






 その意味をちゃんと理解していたのは……俺じゃなくて杉原なんて、恥ずかしい。





 フウに話しかけることしか出来ない、不甲斐ない俺は、沢山の人に助けられている。


 フウを諦めずに看てくれる先生が居る。美雪さんや杏平さんがいる。


 一緒に助けようと、その意思に賛同してくれる奴が、こんなにも居る。



 大丈夫。



 まだ、間に合う。




 こんだけ沢山の仲間が居れば、大丈夫。





 目一杯広がる紙に向かい座ったとき、隣で杉原がこういった。




「絶対、諷子さんと一緒に花見しようね!」






 平凡少女の行動に、文学青年は救われる

(ああ、と俺は返事をした)
(ずっと溜め込んでいた感情が、胸の中でこみ上げてくる)

(俺は、あまりにも幸せものだ)


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122



この掲示板は過去ログ化されています。