コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122
- Re: 臆病な人たちの幸福論【ついに……3000です!!(感涙】 ( No.269 )
- 日時: 2013/02/05 18:45
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
最近、昔のことを思い出しても、そこまで辛くならなくなった。
多分、ケンちゃんのお陰でしょう。
毎日が楽しくなって、明日を待ち遠しく感じる今、あの日々は何だか遠く感じてきた。
それでも。
『生まれなければ良かった——……』
父のいわれた一言は、忘れられない。
毎日が楽しいと感じれば感じるほど、昔の思い出は、容赦なくどん底に叩き落す。
それは恐らく、感受性がまともになってきたのだろう。
逆にいえば、昔のわたしはまともじゃなかったのです。
まともじゃいられないほど、わたしの生活は酷いものだったのだ、と最近気づくようになりました。
最近、夢を見た。父に殴られる夢を。母に罵倒される夢を。
怖くてみっともなく泣き出した。芽衣子さんに、真夜中に世話をかけてしまった。
どんなに時間が経っても、傷はいえない。
心の傷に、時効なんて存在しない。
憎んでいるわけじゃないんだよ。でも、赦せないんだ。
「どうして、あんなこといったの?」って、何度も問いただしたくなる。
——それを答えてくれる人は、もうこの世にはいないんだ。
◆
「……いっちゃいましたね」
「いっちゃったねえ……」
男子たちに残されたわたしたちは、保健室で優雅にハーブティを飲んでいました。いや、だって芽衣子さん看ること以外、やることないですし。
無論、上田君の妹——玲ちゃん、といってましたっけ、その子のことも心配ですが、ケンちゃんたちがいっているなら、まあまず大丈夫だろうと思いました。
彼氏に対して過剰な期待かもしれませんが——おっといけない、頬が緩みそう。うふふ。
まあ、そっちはあまり気にならないのです。そんなことより、気になるのが……。
「何でその玲ちゃんっていうのは、こんな古い本を借りたんだろうねえ……武田君が修理しても、やっぱりシミがついて読みにくいし……。ってか、良くこの本修理しようって気になったねえ」
「そういえば……武田君も芽衣子さんも、見ていたわたしたちも、何かこの本修理しようって気になってましたよねえ……」
「今思えば、不思議だねえ。何でこの本修理しようって気になったんだろ、皆」
雪ちゃんが、首をかしげた時です。
ゴソゴソ、と、ベッドから起き上がる音が聞こえました。
「! ダメナコせんせー!?」
雪ちゃんが叫び声に近い声を上げた時、シャー、とカーテンが開けられました。
そこに立っていたのは、つい先ほどベッドで寝ていたダメナコ……じゃなくて、芽衣子さんでした。
「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」
キリッ、と無駄にカッコつけた顔で、最早恒例会話になってきた台詞を芽衣子さんはいいました。
「芽衣子さん、大丈夫なんですか?」
「ええ。コーヒー用意してくれないかしら。今ならウル●ラマンになれる気がするわ」
「ウ●トラマンって……コーヒー飲んでも三分しか保てないってこと? マズイじゃん」
雪ちゃんがすかさずツッコミますが、そこじゃないですよ。
起き上がりにコーヒー飲むとか、どんな身体の構造しているんですか、芽衣子さん。
まあ、それは心の中に押し留めておいて、わたしたちはさっさとコーヒーを用意したのでした。まる。
氷を入れたとはいえ、まだ少し湯気のたっているコーヒーに一口口にして、芽衣子さんはこういった。
「これ飲んだら、上田君の家へいくわよ。多分あなた達も事情を知っているでしょうから、準備して」
◆
上田君の家へ向かっている途中、わたしと雪ちゃんは変わりばんこに、今までの経緯を説明しました。
「……ふうん、そうだったの」
芽衣子さんは、意外とあっさり話を理解してくれました。
「じゃあ、今武田君と三也沢君と瀬戸君が、その子が居るかもしれないっていう場所に向かっているのね?」
「うん。確信はあんまないって三也沢君いってたけど、多分そこなんだと思う」
「わたしも、そう想います。だから、きっと大丈夫です」
雪ちゃんの言葉に、わたしも同意の言葉を添えた。
芽衣子さんは、「そっか」とだけいって、目の前にあるインターホンを鳴らしました。
『……ダメナコせんせー?』
スピーカーから聴こえたのは、上田君の声。
「ダメナコじゃないってば。光田芽衣子よ」
「せんせー、今それどころじゃないって」雪ちゃんがすかさず突っ込みます。
『何で、ダメナコせんせーがまた……』
「……ちょっと、玲ちゃんのことで、ね」
伏せ目がちに、芽衣子さんはいった。
スピーカーからでも判るほど、上田君は息を呑んで驚いた。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【ついに……3000です!!(感涙】 ( No.270 )
- 日時: 2013/02/05 19:11
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
「……どうぞ。散らかってますけど」
「お邪魔します」
そういって、わたしたちは部屋に入りました。
……部屋の中は、かなり荒れていました。イスなんかは、全部ひっくり返っています。
……揺れているカーテンの下で、上田君のお母さんらしき女性が、うずくまっていました。
「……さっきまで、錯乱していて。玲を探すっていうこと聞かなくて、それでこの様なんだ。これでも綺麗にした方なんだけど……」
「……じっとなんて、してらんないよ」
女性が、ボソリ、と呟いた。
「……だって、あたしのせいで、玲は、玲は……」
「母さん、何時までそういってるつもりなんだよ。母さんがそんなんだったら、玲も何時まで経っても戻らないだろ」
「だから探しに行くっていってるじゃない!」
「その青い顔で、何が出来るんだよ」
かっと熱くなるお母さんを、上田君は冷静な声で制した。
「……『あたしのせい』?」
雪ちゃんがすかさず聞いた。
「……母さん、玲が出て行く直前まで、喧嘩したらしいんだ」
「あたしのせいよ!! あたしが、あんなこと、あたしの苦労はあんたのせい、なんて……酷いこといったから!」
そういって、彼女はワ、と泣き出した。
こういっちゃ、何だけど……彼女は、まるで子供です。
自分のせいだって判っているのなら、いわなきゃ良かったのに。それに、幾ら勢いでも、思ってもいないことは言葉には出来ません。
いってしまったのは、きっと玲ちゃんに向けての、憎しみがあったから。
『生まれなきゃ良かった——』
……昔、父にいわれた言葉を思い出しました。
あの時のわたしと、まだ会ったことのない玲ちゃんの姿を重ねてしまいました。
——そうしたらどうしても、この人を赦せそうにありませんでした。
思わず、こぶしを握り締める。
「……ごめんな、皆。客さんが来てるっていうのに、あんな感じで……」
「いいえ……仕方がないわ」
すまなさそうにいう上田君に、芽衣子さんはユルユルと首を振った。
「……判るから。あの人の気持ち」
「……」
芽衣子さんには、わかるのだろうか。
わたしには、身勝手で我侭をいっているようにしか見えない、あの人の気持ちが、彼女には判るのだろうか。
……親だったら、子供を憎んだりしてしまうことは、やっぱりあることなのか。
「とりあえず、こっちで話しましょう」
綺麗な上田君の部屋に案内され、「お茶を持ってくるから」と、上田君はリビングに戻っていきました。
「……そうですか」
さっきと同じ説明をすると、上田君もすんなり理解してくれました。
「それで今、三也沢君たちが玲ちゃんが居るんじゃないかっていう場所に向かっているんだけど……」
「多分、大丈夫ですよ。絶対、玲ちゃんを連れて帰ってきます」
芽衣子さんの言葉に、わたしはすかさず付け加えました。
すると上田君も、「うん、あいつならなんとかしてくれそうだ」といいました。
「……ねえ、上田君。私ね、その日より前に、玲ちゃんと会っているのよ」
「……え、何時?」
「最近よ。しかも学校の図書室」
「ええええ!?」
上田君が、心底驚いた顔をして声を上げました。
「あ、あの玲が……図書室に何でまた!?」
「それは、私たちも気になっていたのよ。その時、本を借りていたんだけど……随分古い本でね」
「どんな本なんですか? 題名は?」
「あ、この本だよ」
雪ちゃんが、持っていた登校鞄から、あの本を出しました。
すると、さっきとは比べ物にならない叫び声を上げたのです。
「な、何よ! 上田君!」
おっかなびっくりで、雪ちゃんが聞きました。
すると上田君は、とんでもない爆弾発言をいったんです。
「それぇ!! 親父の形見————!!」
……一瞬、わたしたちの空気が凍りました。
え、カタミ? カタミ? って、死んだ人の残したモノのこと?
って、親父? オヤジ、オヤジって、父親の、つまり上田君たちのお父さん、ってことですよね?
と、いうことは、この本は、上田君のお父さんのモノだった、ってこと……?
「……ええええええええええええええええええぇぇぇえええぇえ!?」
ワンテンポ遅れて、わたしたち三人は、上田君に負けないぐらいの叫び声を上げました。
「……つまり、三、四年前、丁度学校側が捨てる寸前だった、大好きだったデミアンの本を、OBであった貴方のお父さんが譲り受けた。そして、亡くなったお父さんの代わりに、貴方が譲り受けた。しかし何時だったか、図書室の本を返す際、間違ってこの本も図書室に返してしまった。そして、玲ちゃんがこの本を借りた。……そういうこと?」
雪ちゃんが、上田君の説明をかいつまんでいった。
上田君は、凄く驚いた顔をしながら、「俺もビックリだ……」といった。
通りで、見たことないと思いました……捨てられる寸前だったということは、きっと使わない本を置く倉庫に、ずっと置かれていたハズですから。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、上田君!」
そんな時、芽衣子さんが待ったをかけました。
「確かに私は二年前この仕事に就いたから、前の司書のことなんて知らないわ。捨てる際、バーコードすらハズすことを忘れちゃうほどずぼらな人だったかもしれない。でも、貸し出す本の情報をパソコンに残しておいたら、流石の前の司書も私も気付くハズよ!?」
芽衣子さんの言葉に、わたしはハッとしました。
確かにそうです。貸し出し期限をハッキリとさせる為、またどの本がまだ戻っていないかを調べる為に、貸し出された本は、何時、誰がどの期限までという情報が、パソコンにはあるハズです。
仮に、前の司書さんがデータを消去させることを忘れた程ずぼらだったとしても、貸し出されたとしての情報が残るはずです。でも、それは残っていなかった。
「……でもよ、せんせー。この、発行日が書かれた紙にさ、うっすらだけど「上田一二三」って、書いてあるんだよな。紛れもなく親父の名前なんだけど」
「小学生か……」
雪ちゃんが呆れたように呟きました。
でも確かに、うっすらと書いてあります。持ち物には名前を書く。良い心がけです。
「……でも、どうして? ひょっとして玲ちゃんは、ここに本があるってことを知って登校したの?」
「そんな、俺も知らなかったんだぜ?」
「それに、どうして無事返却と貸し出しが出来たのかしら……」
な、謎だらけです。
どういう、ことなんでしょう?
パラパラと芽衣子さんは、本を開いていました。けれど途中で、手を止めました。
「……芽衣子さん?」
「……卵は世界だ」
「え?」
「聞いたことない? この本の、有名な台詞よ。名言っていってもいいかな。『鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは』」
「『 一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという』」
途中で、上田君が言葉を繋ぎました。
「……貴方も、知っているの?」
「正直、その本は俺にはあんまりにも難しすぎて、最後まで読めてねえんだ。……でも、その言葉だけは、小さい頃から何べんも、親父に聞かされていたからな」
「玲もその言葉を聞いてデミアンに興味持ったんかもな」上田君はそういって、苦笑いをした。
「……ひょっとしたら、この事件、全部貴方のお父様が関わっているのかもしれないわね」
「え?」
「いや、こっちの話よ」
上田君が聞き返すと、芽衣子さんははぐらかした。
「この本に……お父様は、貴方たちに何を託そうとしたか、判る?」
「え? 判るって?」
上田君が、また聞き返した。芽衣子さんもまた、はぐらかした。
「破壊……それだけを聞くと、おぞましいものにしか聞こえないわ。でもね、時としてそれは、優しくて勇気付ける言葉でもあったりするのよ」
——その言葉に、わたしは、ようやく気付いたのです。
「いや、せんせー。あたしらには何をいっているか、さっぱり……って、フウちゃん!?」
雪ちゃんが、席を立つわたしに声を掛けました。が、気にも留めません。
「ちょ、フウちゃん何処に行くの!?」
「ケンちゃんたちを追います!」
「ええ!?」
雪ちゃんの言葉の裏側に、「無茶だよ」という言葉が隠されていることを、わたしは知っていました。
……確かに、既に彼らはわたしたちより先にいってます。それに、わたしは義足です。慣れてない義足で走るのは、自殺行為にも等しい。
——でも、わたしはこの言葉を、ちゃんと届けなければならないと感じました。
走れ、走れ、走れ
(ドン、とドアを開けっ放しにして、わたしはそこから飛び出しました)
(今まで抑えていた力を、思いっきり放出して)
(すぐにでも、伝えなきゃと思ったんです)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『卵は世界』更新】 ( No.271 )
- 日時: 2013/02/08 23:34
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
子供は、やっぱり生意気なんだと思う。
口先ばっかいって、行動力なんざありゃしない。それでも生きているのは、大人に守られているから。
けれどその分、子供は大人から与えられた選択から選ばなくてはならない。
大人は子供に「選ばせる」のではなくて、「選んでもらっている」のだ。
子供の選択が誤っていると感じるのなら、それは子供の責任ではなくて、大人の責任である。
——でも、それは子供が本当に弱いうちのこと。
卵を壊して雛が生まれるように、子供もその枠を壊す。
それは、かなり表立って出てしまうだろう(思春期のやんちゃな行動っていえば窓割り、って考えるのは古いかしら?)。
でも、それでいいのだ。決して褒められることじゃないかもしれないけれど、その人がやったことは殻を割ったことに過ぎない。
傷つけることも、傷つけられることも、
皆含めて、当たり前のことなんだから。
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」
雪ちゃんが不安そうな声を出したが、私はしれっと返した。
たった今、諷ちゃんが上田君の家を飛び出した。それは恐らく、私のいいたかったことを、理解したからだろう。
……私も、上田君のお父様も、こんなまどろっこい手段をとらなくたっていいのにね。
そうしてしまうのは、本好きの性か。それとも親バカだからだろうか。……どっちも、っていうこともあるかも。
いずれにせよ、あっちのことは、諷ちゃんに任せた。
私は、上田君とそのお母様とちゃんと話さねばならない。
「ねえ、上田君。玲ちゃんは、上田君にとってどんな存在?」
「大切な妹です」
キッパリと、上田君はいい放った。
「一人で留守番なんてしょっちゅうだった。あまりいいだせなかったけど、やっぱり退屈だった。世話する弟か妹が居たらなって、何となく思っていた。だから、凄く嬉しかった。玲が不登校だって聞いて、何とかしたかった。色々気を回した。…なのに!」
語尾を荒くして、上田君は叫んだ。
「どうしてなんだよ! 何処で間違っちまったんだ、俺は!? 俺は、アイツの、たった一人の兄なのにッ——!!」
堰が壊れたように思いを叫んだ上田君は、しかしすぐに口を塞いだ。
「……すみません」
「ううん、いいのよ」
気まずそうに俯く上田君に、私は首を振った。
けれど彼は納得してないようで、眉間にしわを寄せている。別に、悪いことじゃないのになあ。
——まだ子供なんだから、玲ちゃんも、上田君も。そんなに、気を負わなくて良かったのに。
もっと、寂しいって、つまんないって、不満をいい続けても良かった。
辛いことを、大人のせいにしたって良かった。
それをしなかったのは、それすら赦さなかったこの子と玲ちゃんの性格と、環境のせいなんだろう。
環境のせいで、そうならざるを得なかった子は、沢山居る。
でも、変わらずには居られない。
雛がやがて孵るように、彼らもまた、殻を割っていく。その変化はきっと、極端じゃなければダメだ。
それを、彼らは恐れている。
人に迷惑かかるんじゃないかとか、そんな風に。
「(……今回の事だって、多分その『極端な変化』なだけだろうに)」
責めるところなど、それに苦しむところなど、第三者である私には無いように見える。他人事のようだけど、でもそうにしか見えない。
だから、偉そうなことはいわないと決めた。
——昔私は、余計なおせっかいで三也沢君と諷ちゃんを傷つけたことがある。
その事実は本人たちの口から知ったが、薄々気付いていた。でも、ちゃんと事情を知った時にはもう遅い。後の祭りという奴だ。
大人は、子供に何かをさせようと思ってはいけない、ということがあの時判った。
出来ることは、道を示すことと、見守ること。子供の邪魔をしちゃいけないということ。これが第一なんだろう。
ただ、一ついいたいことがあった。
「確かに、どっかの誰かから見たら、貴方は兄失格かもね」
「……」
上田君が、何もいわずに私の言葉を真剣に聞いてくる。
その様子が何だかちょっとおかしくて(ホントに他人事だなあ)、私は口元に笑みを浮かべたまま、上田君の部屋を出た。
「でも、未熟な兄と、未熟な妹だったら、意外と相性いいんじゃないかしら」
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『卵は世界』更新】 ( No.272 )
- 日時: 2013/02/08 23:36
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
◆
ダメナコせんせーが、上田君の部屋を出た際にいった言葉に触発されて、思わずあたしも口を開いた。
「……そうよ、上田君」
「え?」
「そうなの、ダメよ、上田君。家族っていうのはね、気をつけないといけないけど、気を遣っちゃダメなのよ!!」
そう言い放った時、玲ちゃんが家出した理由が、やっと腑に落ちた。
……あたしも、そうだった。
まだフウちゃんが昏睡状態だった頃。そう、フウちゃんが起きた時に桜の絵を見せようとして、油絵を描いて、破られた時。
実は、あたしがショックで寝込んでも、お父さんは何もいわなかった。
いわなかったけど、ご飯はちゃんとあたしの部屋の前に置いてくれた。
その後、今井が謝りに来た。絵を破ってゴメン、と。
でもあたしは、謝られたってどうしようもなかった。
その時、お父さんが扉の向こうから、こういった。
『お前、絵を描くのが好きじゃなかったのか』
……そういわれて、とっさに『嫌いじゃないよ』と答えた。
『じゃあ、何で閉じこもってるんだ』
お父さんの問いに、『絵を破られたから』とあたしは返した。
『……折角描いたやつが、ゼロになったから』
そう付け加えると、お父さんは二つ呼吸を置いて、こういった。
『じゃあ、お父さんも手伝ってお前の絵を描こう』
……ビックリだった。
お父さんがそういうなんて。
お母さんとの離婚がショックで、絵を描くことすら嫌になってしまったお父さんが、そういうなんて思わなかった。
そして、なんやかんやで皆と絵を描くことになって、そのノリでお父さんが美術教師になって。
その時、ようやくあたしは、自分がお父さんを誤解していたんだと気づいた。
父さんに気を遣っているばかりに、父さんのことなど目を向けてなかったんだって、その時気付いた。
……ううん。きっと、気を遣っていると自分で思い込んで逃げていたんだろう。家族の癖に、話し合うこともしないで、勝手に決め付けていた。
お父さんは、ずっとずっとあたしより強かった。大人だったのに、あたしを育てた親なのに、弱いって何でかあたしは思ってしまった。
彼とあたしの問題は、根本的に違うだろう。あたしの場合は親で、彼の場合は妹だ。でも、気を遣いすぎて、本人のことに目を向けてなかったことも事実だ。
妹だから、と思うあまり、彼は玲ちゃんと接する方法がわからなかったんだろう(多分、普通の兄妹なら、妹だからなんてあんま思わない。寧ろ「妹の癖に生意気な」とか兄は思うって、何べんもクラスメイトに聞かされた)。
だから、玲ちゃんとは普通に砕けた話なんて、していないだろうなと思った(まあ玲ちゃんも引きこもりだったみたいだから、仕方が無いんだと思うんだけど)。
「今回の家出だって、そんなに性質悪くないわよ。喧嘩して家を飛び出してから、まだ一日しか経ってないのよ?」
「で、でも何かあってたら——」
「だーかーら、そんなに子供じゃないわよ! 玲ちゃんはもう高一でしょうが!」
話だけでもしたら、誤解に気付けたかもしれない。
玲ちゃんは、そんなに弱くないんだってことを。
心配すればするほど、相手を締め付けてしまう。
心配しないっていうのもアレかもしれないけれど、でも、玲ちゃんだってそんなに幼くないのだ。
だって、お母さんと喧嘩したんだよ? 立派に人間の一人じゃない。
人とぶつかることを恐れて不登校になった(と思われる)玲ちゃんが、ちゃんと人とぶつかったんだよ?
「上田君も、お母さんも、気を負いすぎ。そんなんじゃ、また見逃すよ」
上田君も上田君のお母さんも、玲ちゃんの家出は自分のせいだと思い込んでいるけど。
玲ちゃんの家出は、多分誰のせいでもない、と今気付いた。
玲ちゃんは、ちゃんと帰ってくる。
後は、三人が話し合えばいいだけだよ。
あたしが出来ることは、とりあえずこいつの気を紛らす為に、話し続けること。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『卵は世界』更新】 ( No.273 )
- 日時: 2013/02/08 23:38
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
◆
暑い。暑い。
痛い。痛い。
わたしは、どうしてこの足で走っているのでしょうか。
まだ慣れない義足で、どうして走ろうと思ったんでしょうか。
「った!」
ギシ、という不吉な音が立った。
……義足は壊れていないようです。「飛んだりはねたりしちゃダメ」っていわれたけど、意外と何とかなるもんですね。
でも、痛いことには変わりが無かった。
「(……どうして、こんな足になったかな)」
つい、自分の運命に毒吐きたくなる。
あの時、確かに足を切断すると選んだのはわたしです。それに悔いはありません。でも、これとそれとは話が全くの別物。何だかバランスが取れなくて、転びそう——。
「うわ!」
思ってる傍から思いっきり転びました。
ズテ、と火傷するようなアスファルトと、顔をぶつける。熱い。
「っつ——……」
痛い。
膝小僧は、擦りむいているだろう。持っていた本を庇って、左腕も思いっきり擦りむいたかな。
熱い。
仕方が無い。炎天下の道路の上に寝そべっているのだから。
苦しい。
多分、初めて走ったんじゃないかな。物心ついたときには、布団の上で寝ていたし。
「(……なんだ。わたしって、本当に何も出来なかったんですね)」
転んでから、やっと身に感じた。
寝てばっかりだった頃も、幽霊だった頃も、何も出来ないといっておきながらも、何一つわたしは判っていなかったんだ。
「(一つ、賢くなったかな)」
なんて、バカみたいなことを考える。
……ホント、今真面目にやっていることが、実はとんでもなくくだんないことなんじゃないかと思ってしまいました。
「(……いや、実にくだらないかも)」
他人の家庭事情に踏み込んだり、他人の問題に首を突っ込んだりして。
自分には関係ないのに、寧ろ全然、彼らの気持ちなんて、判らないのに。
それでも、何かしなければという気持ちが、消えていない。
昔、父から「生まれなければ良かった」といわれた。
その時、わたしは「わたしが居ないほうが、皆が幸せになれる」と思った。
どれだけ、あの時のわたしは臆病で、浅はかだったんだろう。仮にわたしが居なくなっても、本当に幸せになれるか居なくなったわたしには判らないのに(……いや、幽霊になればいいかも。あ、それでも居なくなったことにはならないか)。
わたしだって、あんな風に生まれたくはなかった。
もっと、ちゃんとした身体で生まれて育ちたかった。普通に、皆と一緒に過ごしたかった。
あの家族に、生まれたくなかった。
……までは、いえないかもです。
どうしても、どうやっても、憎むことなんて出来ないよ。
赦すことは出来ないけど、憎むことも出来ないよ。
好きだった人たちの家に、生まれなければ良かったなんて、やっぱりいえない。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122
この掲示板は過去ログ化されています。