コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【『間章』更新!】 ( No.134 )
日時: 2012/12/06 22:20
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


                       ◆


「……変わってないよ、わたしは。こっちが、本当のわたしなの」


 フウは、ポツリ、と話す。


「……あの時のわたしは、全部嘘なの。嘘。本当は、そんな事、微塵も思っていない」


 途切れ途切れに、何てことなくフウは話す。

 けれどその言葉は、俺にとっては青天の霹靂だった。


「憎んでもいいですよ。当然ですよね。だって、わたしは貴方を沢山騙した。沢山嘘ついた。勝手に居なくなった」


 クク、と喉を鳴らす。恐らく笑おうとしたのだろう。

 だがそれは失敗して、フウは鳴らすのをやめると、恐ろしいほどに冷静な声でいった。


「……判らないんです。もう、自分が何を望んだのか、どうしたいのか。ケンちゃんと過ごした時間はとっても楽しかったハズなんです。でも、……どんなことをしたのか、何が楽しかったのか、判んないし、忘れちゃった」


 忘れちゃった。そのいい方が、引っかかった。

 まるで、辛いものを、茶化しているように聞こえた。


「……だからもう、気が済むまで罵倒したら、帰って。わたしは帰らない。ううん、帰れないの」


 どうして、という前に、俺は気付いた。

 だらんと下がった手と、曲げた足の先は、水の中へと浸透していく。

 けれど、深い色をした透明な水面の上からは手足が見えず、それは水と同化しているように見えた。


「お前、手と足っ……!」

「この奥はね、本当の冥界にたどり着く場所なんだって。わたしとケンちゃんは、魂だけ出来ているけれど生きている状態……仮死状態だから、ここに一時的に居られる。だけどね、もう既に手足が動かないんだよ。このまま、沈めばわたしは死ぬ」


 手足が動かない。命令しても、動かないということは、生体電気が届いていないということ。

 つまり、脳死は刻々と迫っているということ。



 雪乃さんのいっていた意味が、今更になって判った。

 本当に、後が無い。時間も無いのだと。

 そして、ここで失敗すれば、もうやり直しは効かない。


 けれど、何を彼女にいえばいいのか、判らない。

 そもそも、彼女がこんなことをいうなんて思わなかった。一言二言いえば何とかなると甘く見ていた。


 なのに、俺には判らないんだ。

 彼女が何でここまで苦しんでいるのか判らない。

 だって俺は、幽霊だとバレて責められると思って苦しんでいるのだと、ずっとずっと思っていた。

 だから、謝ろうと思ったのに。幽霊だって気付けなくてごめん、でも俺は、フウが幽霊だと知っても、一緒に居たいと思っていたと。

 それにキミは生きているのだから、またあの日と同じように過ごせるのだと、そういおうと思ったのに。


 彼女は他にも、苦しんでいたなんて、知らない。

 あの日のキミのいっていたこと、笑っていたこと全てが嘘だったなんて、気付かなかった。



 理由も原因も、どうすれば彼女を救えるかも、判らない。

 俺が何かいえば、傷ついてしまうんじゃないかと思うと、迂闊な励ましも、安い慰めも、なにもいえなかった。


 彼女の痛みを何も知らない俺が、何かをいえる資格があるのだろうか。

 フウが望んでいる『死』を、止める権利はあるのだろうか。




 覚悟していたはずの重さは、今更になってのしかかってきた。


                     ◆


 ケンちゃんから責められるのは、当たり前だよなあと思った。

 だって、理由無く散々傷つけたり、振り回したりしたのだから。

 せっかく、ここまで来てくれたのに。わたしをわざわざ、助ける為に。


 チクリ、と胸が痛んだ。



「(まただ、また)」


 さっきから、胸が痛む。


 さっきから、おかしいよ、わたし。

 だって、死にたかったんでしょう? あの世界はもう、こりごりなんでしょう?

 死んでしまえば、楽しいことも、辛いことも、全部感じないようになるんでしょう?

 なのに、何で。

 そこまで思って、わたしは考えるのを無理やり止めた。


 とにかく、ここから立ち去って欲しい。


「もう、嫌なの。何もかもが嫌。どうせ、何時か人は死ぬ。死ぬの、どうせ」


 ほら、さっさと罵倒してよ。そして帰って。

 肺に無理やり押し込んだ黒い靄が、一気に放出されるようだった。


「楽しい時間がすごせても、人と分かり合えたと思っても、正しいと思っても、全部全部終わるの! 幸せな人も、辛い人も、悲しんでいる人も、どうせ何時か皆死ぬんだ! だったらも終わらせて!!」


 もう嫌。もう嫌。

 これ以上、キミの顔を思い出すのも嫌なの。


「わたしが悪いんでしょう!? 今わたしが苦しんでいるのも悲しんでいるのも、全部わたしが居たから! 父さんも母さんも兄さんたちもケンちゃんも、出会った人たち皆良い人たちだった、その良い人達を苦しめたんだから、わたしのせいだよ! だったら死なせてよ!!」


 死なせて。死なせて。

 嫌ってよ、お願いだから。

 ——全部、全部終わらせてよ。




『生まれなければ良かった』。

 あの日の父さんの言葉が、頭から離れられない。

 あの日を境に、わたしたち家族は、崩壊してしまったのだと思う。……ううん。あの日からじゃない。病弱なわたしが生まれた日から、家族が崩壊するのは、既に決定付けられていたんだ。

 全部、わたしのせいなんだ。



「もうあの世界で、わたしを知っているのはキミだけなんだから! わたしが死んだって、誰も悲しまないんだから!! キミだって思うでしょう、わたしのせいで!! だってキミは、何にも悪いことしてないのに、ただ、苦しいから死のうとしただけなのに、わたしの身勝手な思い込みや嘘のせいで、キミは死ねずにまた苦しまなきゃならなかったんだから!! わたしが幸せで居るよりも苦しんでいるほうが、精精するでしょうが!!」




 ねぇ、キミは何ていうのかな?

 わたしのこんな醜い姿を見て、どう思うのかな?


 きっと、嫌ってくれるだろうね。

 この姿を見て、諦めてくれるだろうね。


 そしてこのまま帰って、生きてくれるだろうね。



 そう、思ったのに。







「——ふざけるんじゃねえぞ!!」


 彼はあっさりと、間髪入れずに、わたしの期待を裏切ってくれました。

Re: 臆病な人たちの幸福論【『間章』更新!】 ( No.135 )
日時: 2012/12/06 22:24
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


                    ◆


 気付いたら、乱暴な言葉が出ていた。

 俺の怒号に合わせて、水面が震え、波立った。けれど相変わらず、俺とフウは沈んではいない。

 きっと俺たちが生まれた世界には居ない小鳥が、俺の怒鳴り声にビビって飛び立った。



「ふざけんなよ!! 何勝手なこといってんだ、何勝手に俺の価値観決め付けてんだ!!」


 本当は、こんなこといっちゃいけないのかもしれない。腹の底から声を上げながら、そう思った。


「自殺しようと決めて、それをお前に止められて、お前から仲良くして来たくせに勝手に居なくなって憎むなんて、そんなに俺はちっぽけな人間かよ!?」


 俺だってフウのこと、何も知らない。知らないのに、「助ける」とか、「救う」とか、偉そうなことばっかりいって。

 フウのことが、フウが苦しんでいることが、判らない。


「勝手に居なくなったのは確かに腹が立ったけれどさ!! でもそんなの、一言ごめんっていってくりゃいい!! たったそれだけのことじゃねえか!! なのに何もいわないで、こっちの気持ちも知らないで、何勝手に死のうってしてるんだ、そんなのただの逃げじゃねえか!!」



 判らない、けどさあ。

 知っていたよ。キミが、優しいのも、強いのも、よく笑う奴だってことも。

 ——よく泣くし、脆い奴だってことも、知っていたよ?




 俺は声を張り上げるのが、あまり得意ではない。

 喉は痛いし、本当に腹から声をあげたから、身体にだるさが残る。

 俺は、倒れるようにフウの身体を抱きしめた。


 いつもの俺だったら、恥ずかしくて出来なかった。

 けれど、今はそうしなきゃ、フウに届けられないと思った。



「アレが、嘘であってたまるかよ……」



 掠れた声だったから、ちゃんと届くように、耳元でいった。


 自殺しようとするまでは、本当に憂鬱で、苦しくて、辛かった。

 けれど、自殺する前に、キミが止めてくれた。

 キミと話す時間があったから、キミが居てくれたから、死ぬ気なんて失せた。



 あんな楽しかった時間が嘘だったなんて、俺は認めない。

 フウの笑顔が嘘だったなんて、認めない。



「気付けよ、お前。人は一つだけの感情じゃ成り立ってないんだ。楽しいって思うのと同時に、寂しいって思うのは当たり前なんだ。あの時笑っていたお前も、今苦しんでいるお前も、全部全部本当なんだ」




 ここまでいって、俺は判った。



 フウは、変わった訳じゃないんだ。

 あの時笑っていたことも本当で、あの時だって今と同じように、苦しいモノを抱え込んでいた。

 それが、表に出ただけで、変わった訳じゃないんだ。


「……怖いよな、自分が自分でなくなっていくのは」


 ポツリ、と俺は零す。


「何が苦しいのか判らなくて、でも、それをいったら心配されるか、否定されるかもしれないからいえなくて。……溜め込んで溜め込んだら、わけが判らなくなる」


 そういった俺は、一人でフウの見舞いを続けていた頃を思い出す。

 あれほど覚悟を決めたはずなのに、いざ一人で行動を起こすと、心細かった。

 ただ手を握って語りかけるだけなのに、一人でやろうとすると、本当に怖かった。


 そんな風に思っちゃだめだ、俺の覚悟はこんなものなのか、と自分を叱って。

 でもたった一言で、覚悟は一瞬にして砕けて、ふて腐れて閉じこもった。

 もう、どうにでもなれと。

 フウが死んでしまっても構わないと、あの時は思ったかもしれない。



「お前の気持ちが判るなんていえねーし、軽々しく励ますことも出来ない。多分、お前の気持ちは一生、俺には判らないかもしれない。……でも違うんだよ、そうじゃないんだよ!! 判らないからといって、お前がこのまま終わっていくなんて、見たくないんだよ!! お前は自分自身を見失って傷つけるのが怖いっていったけど、でもこのまま死ねば、お前はもっとお前自身を見失っちまって、それ以上判ることは無くなるんだよ!!」

「ケンちゃん……?」



 フウの震えた声に、俺は気付く。

 俺もフウも、泣いていた。

 喋っていた言葉に、何処に涙を流す理由があったのだろう。ふと思ったが、そうではないと思った。



「凄く薄っぺらい綺麗事だって判ってる、お前の傷を更に抉るようなことをいってるって判ってるさ! でも違うんだ、理屈じゃないんだよ!! お前に死んで欲しくないって思うのは、お前がどれ程苦しんでいたことを並べてくれても聞かされても、やっぱり絶対に心の底から思ってしまうんだよ!!」



 そう。そうだったのだ。

 フウのことを何も知らない俺が、何かをいう資格も権利も無ければ、助けたい理由も理屈もなかった。ただ、俺が『想った』ことなのだ。


 人を傷つけていい理由は、何処にも存在しない。

 けれど、人が傷つく理由も、何処にもないのだ。

 人が悲しむ理由も、人が笑う理由も、人が苦しむ理由も、人が無く理由も、人が怒る理由も、本当は存在しない。ただ、そうあっただけのことだった。

 そして、生まれる理由も死ぬ理由も、……何処にもないのだと。


 理由とか理屈は、『その人に都合がいいように作られた』モノ。つまり、解釈といってもいいと思う。

 ルールとか法律とか、そんなものも、『大人数が都合のいいように作られた』モノなのだから。そしてその理由と理屈は、大人数が納得をしているから、仕方が無いのだと皆が思う。



『考える』のではなくて、『思う』のだ。

『想う』のではなくて、『思う』のだ。



 軽く考えて、従うだけ。

 その方が、楽だから。それをちゃんと守っていれば、理不尽な出来事を防ぐことも出来る。



「(でも、だからこそ、理屈とかルールは人を縛る)」



 理屈が無ければ、理由が無ければ、人に共感してもらえない。納得してもらえない。

 だから、自分が判らなくなるという事は、他人に認められないのと同じことなのだ。



 そして人は、中々その『理屈』や『ルール』を、打ち破ることは出来ない。



「けど……けど俺は、あの世界にはそれだけの人間しか居ないわけじゃなかった。理由とか理屈とか、んなこと判らなくても、俺の気持ち全然判らなくても、助けようとしてくれる仲間が居た! 居なかったんじゃないんだ、俺が閉じこもって気付かなかっただけで!
お前も同じなんだよ。お前が気付かないだけで、お前を助けようと、何も知らないけどとにかくガムシャラに手を差し伸べている奴だっているんだ。お前が幸せにならなきゃ、助けようとしてくれる奴は何時まで経っても報われないんだよ!!」

Re: 臆病な人たちの幸福論【『間章』更新!】 ( No.136 )
日時: 2012/12/08 18:49
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode


 彼は、わたしを泣かせる名人だと思う。

 今まで何度も、わたしの頑な心をほぐして、泣かせてくれた。



 でも今回は、一番心に響いた。



「(何て、無茶苦茶な理論だろうな)」



 それこそ、あの穢れた世界でいえば、すぐに重圧で消されそうなちっぽけな言葉なのに。

 わたしを、その気にさせてくれる、なんて力強く、神々しい言葉なんだろう。



「……一つ、聞いてもいいですか」



 わたしは抱きしめられたまま、聞いた。



「何時からキミは、そんなにも強くてカッコイイヒーローさんになったの?」

「別にヒーロー気取りで来たわけじゃないぞ!?」



 ヒーローという言葉に反応して照れて、彼の体温が少し上がったのは、気のせいではないだろう。



「……別に、カッコよくなったわけじゃないし、強くもなってない。今だって、お前みたいに死にたいって、苦しいって思うことはあるし。……でも、フウに出会えたのは、あの汚くてどうしようもない理不尽な世界があったから。……だから、あの世界で生きとおしてみようって、そう思ったから」

「そっかあ……」



 何か、照れくさいなあ。

 でもキミは、わたしに生きてくれて良かったって、いってくれているんだね?



 人を傷つけてしまっても、役に立たなくても、未だに皆を憎んでしまっても。

 全部、良い所も悪いところも、わたしだっていってくれたね?



「ねえ、ケンちゃん」

「ん?」

「……わたし、今でも死にたいよ」

「知ってるさ」間髪入れずに彼は答えた。「お前、ヘタレだからな」

「THE・オブ・ヘタレキングにいわれたくなかったその台詞」

「ヘタレキング!?」



 何だかショックを受けているケンちゃんに、思わずわたしは笑う。


 わたし、泣けた。

 笑えた。

 たいした理由も無く、出来た。



 ……今思えば、何で彼に出会ったんだろう、なんて。

 どうして、彼には触れれたんだろう、って。


 どうして、彼を助けたのか。

 どうして、彼だけわたしの存在に気付けたのか。



「(……そっかあ。理由なんて、何処にもなかったんだ)」



 ただ、その出来事を幸運ととるか、災難ととるかで変わった。







「(……何、悩んでいたんだろうな、わたし)」



 ようやく、ふわふわと言葉に表せれないものが、判ったような気がした。



 わたしは、生きて良いよって、認められたかっただけなんだ。

 だから、上手くいかなくて拗ねて……子供のように、癇癪を起こしていただけなんだ。



 今でも、解消できていない苦しみもあるけれど、

 何となく、今ならそれもわかっていくだろうと思った。




                 ◆



「……たい」



 フウは、小さな声でいった。

 最初らへんが、聞き取れにくて。もう一度、といったら、ガバッと彼女は顔を上げた。



 少し、やつれた彼女の顔。

 でも、相変わらず優しいまなざしは、変わっていなかった。



「でも、わたし、生きたい……!!」




 ——そして、相変わらず泣き虫なところも。















        どうすればいいのか、判らないことだらけだけど、一緒に考えていこう


(多分キミは、沢山のことを考えて、一つの答えにたどり着いただけ)

(だけどまだ、答えは沢山あるよ)



(キミらしい幸福論を、俺も一緒に考えていこう)

Re: 臆病な人たちの幸福論【『第七章』更新!】 ( No.137 )
日時: 2012/12/06 22:57
名前: ゆーき (ID: 1aSbdoxj)

凄く素敵なお話ですね!!!!

超好きです!!!

あ、私、”ゆーき”と申します。

・・・文才ありすぎでしょあなたっ!!!!

凄く面白いですっ!!!!!

超 やばいですよっ!!!!!


頑張ってくださいっ!!

あ、あと、よかったら友達になってください★

私は現在、”キミと私の恋模様”というものを書いております。

よかったら、訪問してみてください★

Re: 臆病な人たちの幸福論【『第七章』更新!】 ( No.138 )
日時: 2012/12/07 16:54
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode

ゆーき様!!

はじめまして、火矢八重と申すものです。以後お見知りおきを。
ありがとうございます。 これからもそんな話が書けるよう、頑張ります。

いいですよ、お友達。よろしくお願いします。


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