コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第五部開幕です!』】 ( No.454 )
- 日時: 2013/08/11 19:26
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
記憶喪失になってしまい、名前すら憶えていないワタシ。
そんなワタシは、現在。
「ご飯出来たばいー」
労働青年瀬戸要と、同居することになりました。
記憶喪失の口裂け女の話 二
「(ほんっとなんでこうなった!?)」
記憶喪失で住所も何もかも判らない——のを、介抱してくれたこの何も考えてなさそうな青年に拾われ、同居を勧められた。
いや、そのくだりが判らないわ! と心の中でツッコミつつも、悲しきかな。記憶喪失になってしまったワタシは、他の解決策が見つからないのでした。
「どうしたん? 食べんと?」
「あ、いや……食べマス……」
しかし、しかしである。
「きゅーのしゃーはきゃーのしゅーばいー(今日のおかずは貝の味噌汁です)」
この呪文のような言葉をニコニコと笑う男と一緒に暮らすのはどうかと思うんですけど!!
何? わざと? わざとだろ? たまにふっつーに喋ってるし、絶対わざと呪文呟いてるんだろ!?
どうやら佐賀弁を喋ってるが、たまに長崎とか博多の言葉も混ざってるし……ひどいときには関西弁も交じってるし……。
とにかく、助けられたからといって、信用しちゃだめだ。こんな顔をしている奴ほど、信用しちゃだめだ。ヘラヘラと笑っている顔の裏には、絶対に腹黒いことを考えている。
時を計らって逃げないと……そう思いつつ、ワタシは味噌汁をすする。
「……美味しい」
「ほんなー!?」
思わずつぶやいてしまった言葉に、瀬戸要はパアア、と目を輝かせて食いつきてきた。
少しワタシはたじろぐ。
「ま、まあ、お腹空いていたしね。空腹は最高の調味料っていうし? どんなものでも美味しく感じるでしょ」
可愛げがなく憎まれ口をたたいても、彼は子犬のように目を輝かせたまま。尻尾があったら扇風機か、と思うぐらいに振っていただろう。歳と体格に似あわない無邪気なオーラを見て、ワタシは後ろめたさと罪悪感を感じた。
「(美味しいってだけいえばよかった……)」
……いや、ダメだ。信用しちゃだめだぞ、ワタシ。
「それじゃ、俺はバイトに行くきん」労働青年はそういって、まだ会って一日も満たないワタシをこの部屋に置いていった。
……なんていうゆるさ。普通知り合って間もない人間を一人暮らししている部屋に置く? 家探しされてもおかしくないぞ?
だが、ワタシはお金なんかよりも、この部屋から出ていくことしか頭になかった。
「これって、このままこの部屋から逃げられるんじゃ……?」
時を計らってといったが、その時はずいぶん早くきたようだ。
善は急げ、という言葉もあるし、ここはもうそそくさと出ていくのが鉄則でしょう!
そう思って慌てて外に出ようとして、大きな鏡の前を通る。
それを見て、思い出した。
自分の顔が、というよりも口が——異様に裂けていることを。
「そうだった……! ワタシってば、外に出ていくこともできないからここにいるんだった……!!」
思い出して、ワタシはガクー! と姿勢を崩す。
バカだ、ワタシバカ過ぎる。
こんなバカさじゃ、例え記憶喪失じゃなくてもすぐに社会の荒波に揉まれるだけじゃないか。
この部屋から出ても出なくても、ワタシの人生はすでに終わっているのかもしれない……。
「……というか、怪しすぎるのよあの男」
むくり、と起き上って、ワタシは思った。
あの男の話を聞いていると、あの男には両親もおらず、たった一人でこのボロアパートに住んでいる。しかも高校生で、バイト二つもして。
切羽詰まった状態ではないようだけど、それでも、見知らぬワタシを養うほどの余裕があるとは到底思えない。
それなのに、あの男は、素性が良く判らないワタシを介抱して、その上この家に住ませた。
よっぽど懐が広いのか……それとも何も考えていないバカか。
「それとも、ワタシにいったこと全部嘘なのか……」
可能性としては、一番最後のがありえる。
おかしすぎるのだ。そこまでバカみたいに人に優しくしてくれる人とか。
「……なんて、記憶もないのにそう言い切れるワタシもおかしいか」
そう呟いて、また落ち込んだ。
違う。
この、モヤモヤとして黒い気持ちは、決して瀬戸要のせいではない。
この部屋から逃げたいと思うのも、変なことをされてしまうんじゃないかという恐怖心からでもない。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第五部開幕です!』】 ( No.455 )
- 日時: 2013/08/11 20:23
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
どうしてこうまで、人を疑ってしまうのだろう。
彼はワタシに対して、ひどいことはしてない。寧ろ、ワタシに対して沢山の善意をくれた。
二つもバイトすりゃ疲れてるハズなのに、たった一つのベッドを、ワタシに譲った。
人を呼んで、ワタシを着替えさせてくれた。
起きたワタシに、暖かいお味噌汁をくれた。
何も判らないワタシに、「ここに住んでいいよ」といってくれた。
なのに、ワタシは、あの無邪気な青年を信じられない。
記憶喪失のせいなんだろうか? ——そうおもったけど、違うような気がした。
「……というか、何でワタシは、記憶喪失になったんだろう」
ワタシはいったい、何をしていたんだろう。
何を思って生きていたんだろう。
この、何かが迫っていて怖いと思う感情は、一体なんのせい?
思い出してみようとしても、やっぱり思い出すことはできなくて。
……ヤバイ。泣きたくなってきた。
声をあげて、無性に泣きたくなってきた。
だけど、涙は全然出てこない。
代わりに出てくるのは、腹の中にある遺物を吐き出そうとする声。
やだ、考えたくない。
だけど、考えをやめると、それはそれで、怖くって。
何で、こうなったんだろう。
ワタシが、何をしたというのだろう。
だけど、誰かのせいにするには、ワタシは人と接していない。
接した人は、瀬戸要だけで。
だけど彼からは、沢山のやさしさを貰ってしまって。
彼のせいにするには、あまりにも、優しさを貰いすぎた。
どうして?
いったい、ワタシはどうしてこうなったの——?
それは、何でも願いをかなえてくれた。
お金も、地位も、人も。
何の苦労もせずに、ワタシは欲しいものを手にしていた。
だけど、本当に欲しいものは、何一つなかった。
何一つ——————。
夢を見た。
だけど、夢の内容は起きた途端に忘れていた。
「(いつの間にか寝ちゃったんだ……)」
うつらうつらとぼんやりとした感覚の中で、ふと、暖かくて大きなものが背中に当たっていた。
何だろう。そうやって後ろに目をやると、飛び込んできたのは男——瀬戸要の顔。
びっくりして、巨体を思いっきり蹴飛ばし殴ったけど、仕方がないよね。
◆
「ったく、信じらんない! 淑女が寝ている隣で寝るなんて!」
「いやあ、あんまりにも気持ちよさそうに寝とったから、つい……ごめんったい」
「といいつつ何でアンタは折り紙を折ってるのかなしかも千代紙!」
「そうギャーギャーギャーいわんでー!」
「三つ繰り返しやがった!?」
ホント、この男ふざけてる!
などといいつつも、ワタシも千代紙で鶴を折っていた。
「記憶喪失で名前すらおぼえていないのに、鶴は折れるとか不思議すぎるわ……」
「ほんなこつなー」
「というかアナタ大量に作ってるわね……千代紙って普通の折り紙より高いのに、何でこんなに……」
洗濯物か、と思うような折るスピードに、ワタシはいったい何のために折っているのか、と思わずにはいられなかった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第五部開幕です!』】 ( No.456 )
- 日時: 2013/08/11 20:25
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
「ああ、これなー」不機嫌な顔をしたワタシとは対照的に、その男は微笑みながらいったのだ。
「これは、俺の孤児院で亡くなった兄弟姉妹たちのための折鶴なんじゃ」
折る手が、止まった。
「死因は、それぞれなんじゃけどな? 病気だったり、事故だったり、様々な理由で死んじまう。それはこの世の中じゃ当たり前なんじゃけど、特に孤児院は、人の死が多い場所じゃと思う」
「……」
唐突の告白。
なんていえばいいのか判らなくて、ワタシは無言を貫こうとした。
「——何にも出来なかったわけじゃなかとになあ」
だけど、無理だった。
「何もしなかったわけでもなか。俺は、精一杯やった。頭ではわかっとるのに、全然理解できとらん自分がいてなあ……」
何で。
さっきまで、あんなにもバカみたいに笑っていたのに。
殴られても罵られても、全然平気な顔をしていたのに。
何で、今更そんな、切なそうな顔をするの。
ワタシが、「何のために折ってるの?」と聞いたのが悪かったの?
ワタシのせいなの? ——だけど、なんで。
「だからこうして、せめての冥福でお盆に折鶴折っとるんじゃけど……って、どうしたん?」
「……ワタシを、何で拾ったの?」
ワタシは、思わず直接訪ねた。
「——ワタシは、何の役にも、立つことないのに」
——今さっきまでの変な疑惑は、この彼の顔で晴れた。
ワタシが聞いてはいけないことを、彼は、切なそうに笑っただけで、 ワタシを責めなかった。ワタシは、彼に覚えていない名前を聞かれて、とてもイライラしていたのに。
もしかしたら、これも演技かもしれない。でも、ここまでの演技は、きっとしない。
彼は全部、全部、ワタシの為にしてくれたんだ。
だから、なぜ、と思った。
碌にお礼も言わず、散々疑っているのに、散々ひどいことしたのに、何で、この人は。
ここまで他人に尽くしてしまったら、信用してしまったら、裏切られたとき、とってもつらい目に合うはずなのに。どうして、ここまで。
「……別に、俺も誰でも彼でも助けるわけでもなかよ? あーたが倒れた時、助けるのが当たり前じゃと思った。それだけなんじゃよ」
彼は、未だに笑いながらいった。
「理由は上手くいえんけど……たった一言で表すんじゃったら、それは縁なんじゃろうなー、って思ったけん」
「……縁」
「きっと、良い縁と思ったけん。じゃから、これを逃すのはよくないなー、って思ったんよ」
きっと、良い縁。
瀬戸要は、まともに話してもないうちから、ワタシを信じて、ここまでしてくれた。彼のことだから、「信じる」というより、当たり前のようにしたことなのかもしれない。
彼は、ワタシに何かさせるために尽くしてくれたわけじゃないんだ。
なのに、ワタシは、尽くされても、彼を全然信用しなくて——。
ポロリ、と涙が出た。
「!? ど、どうしたと!? 何か悪−こといった?」
「違うわよ!」
出てくる涙が、止めようと思っても止めれなくて。
苛たって、彼の言葉を乱暴にさえぎる。
「自分のあまりにもバカさ加減に、あきれてるだけ……」
ホント、ワタシはバカだ。恥ずかしいぐらいにバカだ。
よくよく観察すれば、判ったハズなのに。
フワフワと気持ちいい布団。女物の衣服を貸してくれたこと。美味しい貝の味噌汁を作ってくれたこと。
すべてが、優しさで詰まっていた。
千代紙の上に、ポツリポツリ、とシミが出来る。
何てみっともないんだろう。異様に口が裂けている顔じゃ、もっと凶暴にみられるだろう。
でも。
「(泣いて、満たされるなんて)」
あれだけ貰った優しさが、やっと染みわたった。
あれほど嘘みたいに疑っていたのに、それは、ワタシが泣くことで、ようやく信じることができたのだ。——彼だけではなく、自分も。
怖かった。
信じて、裏切られることが。
だけど、信じないのも怖かった。
ワタシは、名前も過去もなにもなくて、顔もこんなので。
誰にも、認められないんじゃないかって。
口だけで、本当はみんなに「いなくなれ」って思われるんじゃないかって。
何も覚えてない、頼るものもないワタシは、自分という基準が、判らなくて。
要は、自信がなかったんだ。
だから、みんなの要望に合わせて「自分」を作れば、誰かには認められるんじゃないかって。
だけど、自分を殺すのも、怖くて。
こういう生き方は、記憶喪失だからというわけじゃなくて、もともとのワタシの性格なのかもしれない。
でも、彼は。
要は、「ここにいていい」っていってくれた。
認めてくれる人は、すぐ目の前にいるんだ。
「……千代」
「え?」
「ワタシの名前は、千代っていうの」
その言葉に、「え、思い出したと?」と彼が驚きながら聞いた。
ワタシはその時、ようやく笑うことができたのだ。
「ワタシがそういえば、きっとそうなのよ。きっと」
(これから、ワタシはどうなるか)
(それは、ワタシにすら判らない)
(だけど、何も判らなくても、完璧じゃなくても、きっと、この人なら受け入れてくれる)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第五部開幕です!』】 ( No.457 )
- 日時: 2013/08/20 10:20
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
- 参照: http://uranai.nosv.org/u.php/novel/hizen/
参照6000超えたあああああああああああああああああ!!!
本当にありがとうございます、ありがとうございます! これも一重にも二重にも読者の方々のお蔭です!
そして、コマーシャルです!
占ツクで、新たな新作が始動しました!(詳しくは参照を)
出来れば、ぜひどうぞ!
いつもいつもありがとうございます!
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第五部開幕です!』】 ( No.458 )
- 日時: 2013/08/20 12:08
- 名前: 東北(元:白月) (ID: P6IPfdWt)
- 参照: http://kingdomamaizing.blog.fc2.com/
お久しぶり&おめでとうございます!
あと、今第四部の大輝君編(って勝手に呼んでる)にいます。
いやー面白いですね!やっぱり。
あと六花メンバー出てるあたりにちょっと感動したり。
あと人って難しい…って心の底から思います。(特に第三部)
実は私も小6のときいじめられてたりしました。
こそこそ陰口たたかれてたり、おかげで被害妄想に走ったり…。
でも、休む気にはなりませんでしたね。わたし、負けず嫌いなので、
休んだら負けだ!とか思って毎日行ってたって言う馬鹿ですw
でも、あとがきにはすごい共感しました。
で、ここから個人的な話。結構関係ないかもです
結局、人間、分かろうとしても、自分の主観が入ってちゃんと理解したり出来ないんですよね。
不登校の子どもの親とか、先生とか。他にもクラスメートとか。
確かに行ったほうが、その人の将来とか考えると良いかもしれない。
でも、心は?心をないがしろにしてまで、行くことあるか?そう思ってしまいます。
というのも、友人に不登校の子がいたからなんですけど^^;
でも、そのこはがんばって登校したりしてました。えらいなぁって思います。
でも、その子の気持ちまで理解できているか。というと、私はできていなかったように思います。
でも、理解する努力はやめたくないです。
これが、私の不登校で無い側としての気持ちです。
脱線すみません!面倒だったらスルーでも良いですよ!というか長文乱文すみません!
一年前の書き込みに不登校とありましたが、八重さんは大丈夫ですか?
今年は受験ですし、身体に気をつけてくださいね^^夏休みからが結構受験の大事な時期だったりしますので。
では、改めて参照6000突破おめでとうございます!これからも無理せず頑張ってください!
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