コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『杉原ルート』完結!】 ( No.364 )
- 日時: 2013/04/14 18:41
- 名前: ルゥ (ID: Osim3G6P)
この作品では、名言が生まれまくりっすねww
セリフすべて名言だww
ケン&フウの「誤解だぁああああああ!!!」の叫びも名言でいいんじゃないですか?←www
っと、まあくだらないこと言ってないで……
杉原ルート執筆お疲れ様でした!
相も変わらず素晴らしかったです!
嗚呼素晴らしきかな火矢八重様(=゜ω゜)ノ─♪
次は武田くんですね!
お疲れの出ませぬよう、気を付けて頑張ってください!
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『杉原ルート』完結!】 ( No.365 )
- 日時: 2013/04/15 16:43
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: 嬉しいんだけど皆杉原ちゃんの設定に突っ込んでくれない(泣
やったコメ二つぅぅぅ!!
エス様!!!
ありがとうございます!!!
いやあ、大変でした。この話を書く際、本当に自分の神経磨り減りそうでしたよ(ガハハハハ
私も優ちゃんみたいになりたいなあ、と思いつつ、
「うん、無理だな☆」と半分諦めていますがww
頑張ります!! あと、優ちゃんは第五部で更に活躍しますんで!!w
ルゥ様!!
何時もありがとうございます&読み返していて「うわ、青臭ッ」と自分に苦笑いしつつ。
でもいいんです。こういうのは、気合ですから!!(ドヤ
はい、今度は武田君です!! 武田君の話は、あの彼が!! 出てきますw
更新頑張ります!! ルゥ様もお体にお気をつけて!!!
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『杉原ルート』完結!】 ( No.366 )
- 日時: 2013/04/20 18:45
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: 嬉しいんだけど皆杉原ちゃんの設定に突っ込んでくれない(泣
(※第三部の後の、健治と諷子。珍しく三人称で)
意外にも、清潔で柔らかい光を灯している、光田家のトイレ。
そこに、あろうことか便器に座らず、健治はうずくまって床に座っていた。
彼がこうなっているのは、話は数十分前に遡る。
玲を家まで送り、とりあえず詳細はまた今度にしよう、という風に別れを告げ、健治は家へ帰ろうとした。
しかし、マナーモードにしていた携帯電話に、実の母親から一通。内容は辛辣にも「今日は帰ってくんな」。
「……随分辛辣ですね。しかも一言だけなんて」
ため息をつく諷子。当初は怒りを露にしていたが、今は呆れしか浮かばない。……けれどそれは、その時彼が戸惑いと悲しそうな表情を表したからだ。
その時、諷子は反省した。——同情は、この人にとっては辛いものでしかないと。
だから今は、彼がするように、呆れた顔をしている。勿論、何割かは本心ではあるけれど。
「まあ、あのバカがこんなメール送るのは、自分が家に帰ってこない場合だけどな」
健治はため息を殺して、諷子と同じように呆れた顔をした。
ため息を殺したのは、諷子に悟られないように。一度、実の母の話をして、気が緩んでその時の心情を顔に出してしまった時、諷子がとても心配しそうな顔で覗き込んできた。
潤んだ上目遣いを見て、健治は誓った。——もう絶対にコイツには心配させまい、と。
あんな目で見られたら、何もかもが持たない、心臓も、理性も。キスすらもしていない純情な高校生は、心の中でガッツポーズをとりつつも、穏やかではなかった。
「俺が、自分が居ないうちに勝手に通帳盗んじまうんじゃないかって疑ってんだよ」
「……なんですか、ソレ」
「だから、バカなんだよ、あの母親は」
怒りを隠しきれずに震えた声で聞く諷子に、健治は笑った。安心させるように。
健治は、自分の通帳の主導権を実の母に握られている。「私が稼いだお金なんだから私が管理する」と、ここだけ親の権利を主張しているのだ。
流石に、小遣いは貰っている。けれど、その半分は必ず、通帳に入れているのだ。
まあ三也沢家は金持ちで、実は半分だけで一ヶ月の小遣いにしては、充分だったりする。実の母親が一般的の高校生の小遣いの相場を知らなかったことに関して、健治はそこだけバカな母親に感謝した。
「(「——それで毎月苦しんでいると思ったら大間違いだバカやろう」……って、昔はあの母親が俺を苦しませたいがためにやっていると思っていたけど……)」
今は、別に考えていることがある。
けれどそれは、自分が大切に想っている人間には、いわないと決めた。
いいたくないわけではない。寧ろ逆だ。
けれど、健治は、心配になってくれるよりも、能天気に笑ってくれるほうが、ずっとずっと良かった。……バレてしまった時は、多分優しい彼女は悲しむと判っていても。
「しかたがないね」
諷子はため息をついた。そして、次にこういった。
「今日は、うちに泊まっていってください。今、芽衣子さんに相談したら、そういえっていわれたので」
◆
というわけで、健治は光田家にお邪魔することになった。
別に問題はない。寝室を一緒にするわけではないのだから。そんな期待もしてない。……多分、という言葉を、健治は必死で飲み込む。
「ケンちゃん手!! 手怪我してる!!」
「手? ……あ」
そんな風にモヤモヤと考えている最中、諷子の慌しい声で我に帰った。
「……ホントだ、怪我してる」
「きっと、玲ちゃん探す時木の枝とかで怪我しちゃったんだよ! しょ、消毒しなくちゃ」
「止めなさい!!」
あわあわと動き出す諷子に、健治は慌てて止めた。
「な、何で止めるんですかケンちゃん!?」
「あなたは最近のことも思い出せないのですか!? お前が保健室の留守番頼まれてた時、大怪我した上田がやって来て、慌てて消毒液を探そうとしたら何を間違ったのか熱々のコーヒーを持ってきて転んで全身擦り傷だらけの上田をコーヒーまみれにした挙句、ついでに傍で何故か開けっ放しだった三つほどの消毒液にコーヒーを入れて使える消毒液が全部台無しになったことを!!」
「あ、あの時は、慌てていたもん!!」
「その前に手先が不器用な諷子さんに消毒を頼むとか無理ですがな!!」
卑怯、と思いつつ、健治は落ち着いて、言葉を放つ。
「……まだ、指の先の麻痺、治ってないんだろ」
「……」
ギュ、と、何かを堪えるように諷子は黙った。
「もう殆ど治った」といっても、それを信じるほど健治は鈍くは無い。
時折、思い通りに動かない指先を見て悔しそうな顔をしている諷子を、健治は見ている。
「別にお前にしてほしくないわけじゃないんだけど。頑張ることと無理することは違うと思うからさ」
少し嘘をついた。けれどバカ正直にいえるほどの度胸はない。要はヘタレなのである。
「じゃあ」諷子は少し考えてから、こういった。
「手を使わずに、ケンちゃんの怪我を消毒してみせる!!」
「……お前ってそんなにお馬鹿だったか?」
キラキラと輝く笑みに、健治は口元を引きつかせた。
「嘘じゃないです! まあ一応、指を使った方が固定感はあるけれど。誰にでもできる治療法があります!」
「ほー。じゃあやってみろ」
できるわけ無い、と心底バカにしていた健治は、気付けなかった。
諷子の、次の行動に。
ペロ、クチュ、という音が、蝉はもう鳴かない静かな夕暮れには、やけに大きく聴こえた。
少し熱い温度と、ざらつきと濡れた感触に、ようやく健治は気付いた。
「……諷、子、さん?」
硬直した健治が、かすれた声で諷子を呼ぶ。けれど、諷子は口が塞がっているから言葉にできない。
傷が深くならないように、丁寧に。それこそ、割れ物を扱うように、そっと。
それがもどかしくて、健治の体温は上昇する。
「フウ! フウって!!」
「(だから口塞がってるんだってば)」
少しイラつきながらも、それでも傷を深くさせないように、舌へ神経を集中させる。
ペロ、と右手を一通り舐め終わった後、諷子はそれはもう、無邪気に笑っていった。
「はい、おしまい!! じゃ、次は左手出してください」
トクントクン、と何かが疼いた。
「……ませんでした」
「え?」
——けれどまあ、それに耐え切れるわけもなく。
「すいませんでした調子乗りましたぁぁぁぁ!!」
バ!! と、神業とも思える土下座をして、健治はその場を走って立ち去った。
「え、ちょ、ケンちゃん!?」
叫ぶものの、彼がトイレに行ったと判った諷子は、おいかけるつもりもなく。
ただ、何だろう、とキョトンとした顔で、諷子は考えていた。
その一部始終を見ていた、ダメナコもとい光田芽衣子は、ポツリと一言。
「青春ねぇ」
頑張りなさい、純情な青少年
(……いや、この場合、普通にヘタレかしら)
(にしても話すとどちらも無自覚に惚気るのに)
(へんなところで初々しいとか鈍感とか、止めて欲しいわあ)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第三部の後日談』更新】 ( No.367 )
- 日時: 2013/04/26 21:28
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: 嬉しいんだけど皆杉原ちゃんの設定に突っ込んでくれない(泣
皆さん、お久しぶりです。武田静雄です。
突然ですが、僕には悩みが二つほどあります。しかもそれぞれの問題が、ベクトルが違う深刻さを誇ってます。
……まず、最初の悩み。僕には、女友達がいます。皆さんもご存知でしょうが、名前は上田玲といいます。
別に、彼女が僕に何かをしたわけじゃありません。
ただ、彼女の環境が、少しばかり問題があるのです。
話は変わりますが、僕は剣道部に所属しています。長いこと剣道に打ち込んでいたので、腕も自信もそこそこあります。
そして、彼女の実の兄——ご存知でしょうが、最近二人の親が復縁し、兄妹として一つ屋根の下で過ごすことになった——も、元剣道部の、腕の立つ選手だったそうです。
ここまで来れば、聡い皆さんはお分かりいただけますでしょう。
「……んじゃま、よろしく頼むぜー? 玲の、男友達の、武田君?」
ビキビキ、と強面の顔に笑みを浮かべる姿は、とち狂ったあの山田(第三部参照)より怖い。
「……(あまりよろしくしたくないんですけど)はい」
そう。
ここのところ、玲の兄(シスコン野郎)に、毎日毎日毎日毎日、試合を申し込みされてくるのです。
とりあえず、今日も何とか隙をついて引き分けに持って行きましたが、何でか防具を身につけることを禁じられているので、何時頭をかち割られるか心配です。
夏休みなのに、何で毎日命の心配をしないといけないんでしょう。
……まあ、このことの心情をいうなら、一つ。
「夏休みなんて、くだらないモノですよ」「その発言とため息は全学生を敵に回すことになるよ、静雄君!?」
玲の突っ込みを傍で聞き流しつつ、もう一つの悩みを皆さんに打ち明けましょう。
「ねえ、さっきから誰にいってるの? 痛い人に見えるよ?」
「五月蝿い悩みその二の元凶が……」
貸切状態の図書室の中、僕は頭を抱えてる。
ちなみに、図書室に何時もの司書の先生——ダメナコ先生はいらっしゃらない。そもそも今日はお盆で、学校に入ること事態が一応禁じられている。
では何故ここに入れているのかというと、それはダメナコ先生が直接図書室に入る為に、緊急避難用の鍵を用意してくれたからだ。
その鍵を借りてまで図書室に入り浸っているのは、彼女の為である。
つい最近まで、不登校だった彼女だったが、ある一件で、それを克服しようとしている。
けれど、長いこと不登校だった彼女は、全く勉強していないのだ。
そこで、夏休みの間、何とか基礎だけでも叩き込もうと、僕は彼女に勉強を教えるために、意外と勉強が身につく本が置いてあるこの図書室に入り浸っているのです。
……ですが。
【例題一 サイコロの目が一になる時の確率を答えなさい】
『模範解答 1/6』
『玲の解答 20%』
「……玲。一体全体何でパーセントで表してるんですか? しかも全ッ然違うし!!」
「え、何かパーセントな気分だったから」
「パーセントの気分って何だよ!! センチメンタルな気分に近いんですか!?」
とか。
【例題二 『吾輩は猫である』の著者の名前を答えなさい】
『模範解答 夏目漱石』
『玲の解答 野口英世』
「何でだよ!! 何でですか何じゃもんじゃ野口さんは医者ですよそりゃ論文は書いてるでしょうけど!!」
「いや、ほら! 野口さんと夏目さんって、千円札だったからごっちゃまぜにしちゃって!」
「何でそんなマニアックなことは知ってるんですか……というか何だか友達みたいな言い方ですね」
とか。
【例題三 骨が無い動物をなんというか。また、その動物名を、二つ答えろ】
『模範解答 無セキツイ動物 動物名『例』(ミミズ)(ナメクジ)』
『玲の答え 骨が無い動物 動物名(刺身)(骨付きじゃないから揚げ)』
「まんまじゃないですかッッ!! これに至っては教科の名前である理化の『り』も生物の『せ』もないですよ!! しかも後半ッッ!! 動物名じゃなくてただ貴女が今食べたいものですよね!? 更に絵付き!!」
「いや、ついちゃっかり」
「アンタのついちゃっかりは一体どれぐらいのついちゃっかりなんですか!?」
……など。
まあ、珍答のオンパレードなわけで。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第三部の後日談』更新】 ( No.368 )
- 日時: 2013/04/26 21:31
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: 嬉しいんだけど皆杉原ちゃんの設定に突っ込んでくれない(泣
しかし、珍妙なのは、答えだけではなかったりする。
『例題一 次のうち、組み合わせの正しいものは何か。ア〜エから選べ。
ア 樋口一葉—みだれ髪
イ 板垣退助—学問のすすめ
ウ 福沢諭吉—坊ちゃん
エ 島崎藤村—たけくらべ』
「……え、これ……」
「ちょ、っと、これ、は……」
僕も彼女も、戸惑いを隠せない。何せ彼女に至っては、教科書を開いてまで確かめているのですから。
とりあえず深呼吸を置いて、確かめる。
「みだれ髪は……与謝野晶子ですし。学問のすすめは間違いなく、福沢諭吉ですし。坊ちゃんは、あ、手元にあった。夏目漱石ってちゃんと書かれてますし。たけくらべは、樋口一葉です」
「……きっと、ウのところに、『学問のすすめ』って書きたかったんだろうね」
「……」
「……」
「……まあ、問題を作る人も、間違えるというわけで」
「うん」
問題に答えが無かったり(というか、問題が間違っていたり)。
『例題二 ミミズは無セキツイ動物です。無セキツイ動物の名前を一つ答えなさい』
「……これ、答えいってるよね」
「……きっと、『他の』という言葉を抜かしてしまったんでしょうね」
「……どうする?」
「……まあ、意図は気付かない方向で。『ミミズ』って書いちゃいなさい」
「ええ!?」
問題の中で、とっくに答えをいっていたり。
ああ、でも流石に、大声で突っ込んだのは、これです。
『例題三 人は何で生きるの?』
「知るかよ!!!!!」
二人同時に突っ込んだ。
「何この問題誰が作ったなんなんだよこの問題!! しかも『生きるの?』だし!!」
「重いよ!! こんな重いのちっちゃな解答欄で書き終えれるかこの問題!! しかも『生きるの?』だし!!」
その後、『どうしてこの世からは戦争はなくならないの?』や、『どうして人は何時か死ぬのに死にたいと思うようになるの?』とか、真剣なんだろうけどどうしてもふざけてるとしか思えない問題が続き。
「……玲。この問題、燃やしましょう」
「そうだね。これあんまりにも役に立たない」
この問題集は、処分の方向へ向かった。当たり前だった。
◆
「……ねえ、武田君。そろそろお昼ごはんにしない?」
英語の書き取りをしていた彼女が、もう耐え切れないという顔でいいました。
「さっきからそればっかりですが……確かに時間も時間ですね」
時計を見ると、十二時十分。少しばかり早いですが、まあ問題もないと思うので。
「お昼にしましょうか」
そういうと、玲は神業とも思える速さで文房具を鞄に入れ、ほぼ同時に弁当箱を机の上に置いた。
「行動早いですねそれぐらい速かったらもう少し書き取りの速さも磨いて欲しいんですけど」
今までの勉強はそんなにもつまらなかったのかと思うと、凄くやるせなくて、思わず毒を吐く。
すると、彼女はむすー、と頬を膨らませて、
「むっむー。そういう皮肉をいわれると、ご飯が美味しくなくなるからやめて」
ピシャリ、とした言い方に、少し手が止まる。
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