コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【3800突破感謝祭更新!】 ( No.324 )
- 日時: 2013/03/06 16:44
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
俺のとめる声も虚しく、フウは俺の頭目掛けてチョップをかまそう——としたが、あろうことかこけて、俺のほうに倒れてきた。
どてん、とそこまで大きい音はたたなかったが、思いっきり倒れたお陰で、背中が痛い。
「っつた〜……」
「あ、ご、ごめんなさい!」
上に乗っているフウが、慌てて立ち上がろうと身体を起こす。時だった。
ガラ、と、ふすまが開けられた。
「フウちゃん、健治君。ちょっと頼みごとがあるん……だ……」
開けた張本人である柊子さんは、俺たちの姿を見て、ピキリ、と固まる。
俺たちはというと、仰向けに倒れている俺の脚の隙間にフウが馬乗りのような座っているような体勢だ。
つまり——第三者から見たら、アレだ。どう見ても、フウが俺を襲っているようにしか見えない。
「……ゴメンノックスルベキダッタネェ」
暫く固まっていた柊子さんは、やがて、ギギギ、とロボットような手つきで、棒読みしながら、ふすまを閉めようとした。
この時、俺たちの顔は、青かったか赤かったか、はたまたはどちらの色もしていたのか、俺たちはまだ知らない。
けれど。
「誤解だあああああああああああああああああああ!!」
二人して思いっきり叫んだのは、紛れも無い動かぬ事実である。
その時少しだけ、セミの鳴き声が止んだ様な気がした。
◆
やっとの思いで、誤解を解いた……いや、うやむやになっただけかもしれない俺たちは、柊子さんの頼みで、大輝と一緒に山の中を歩いていた。
『今まで大輝君が人に視えないなんてことなかったの。だから、柊子の代わりに聞いてくれない?』
そういわれた俺たちは、大輝の後についていくことになったのだが、しかし、俺たちは一体誰に聞くのか知らないし、その誰かが居る場所も知らない。ただ、大輝にいわれるまま歩いていく。
そうやって着いたのが、ここ。
「……井戸?」
「珍しいですね。つるべ式です」
隣で、フウが何でか嬉しそうな顔をした。
いやそれよりも、どうして井戸? まさかここが到着地じゃないだろうな。
「ここだよ」
聞く前に大輝があっさりと肯定した。
呆気に取られる俺をよそに、大輝は慣れた手つきで井戸の水を汲み、そしてその水をまた井戸に入れた。
ますます判らなくなった俺は、大輝に聞いてみた。
「なあ、大輝。一体誰に聞くんだよ?」
「ああ。人魚さんさ」
「人魚!?」
大輝の答えと、その答える際やけにあっさりしている様子に、ダブルで驚いたのは俺だけじゃなくフウもだった。
「芙蓉おねいさんって、僕は呼んでいる。もう千年以上は軽く生きてて、物凄く物知りなんだって」
「千年以上……」
『くれぐれも、ババアというなよ』
……あれ?
「……今、別の人の声がしませんでしたか? 女の人のような……」
フウも、さっきの声が聞こえたようだ。
俺も大輝に声の主を訪ねようとした時『ここだ。ここにおる』とあの声が制した。
声がした方には——いつの間にか、井戸の枠に少女が腰掛けていた。
少女は、十四、十五ぐらいだろうか? 群青がかかった黒い髪は、二つに綺麗に纏めてあるものの、先はフワフワとパーマがかかっていた。蒼の狩衣を着ているが、下は何も無く——代わりに、人の足ではなく魚の尾びれであった。
成程。人魚だな。
「芙蓉おねいさん、こんにちは」
『久しいな、大輝。……してそこに居るのは、美雪が話していた、健治と諷子と呼ばれるモノか』
「美雪?」
「あ、杏平さんと美雪さんのお知り合いですか!?」
芙蓉、と呼ばれた人魚の口から出た名前に、俺は首を傾げるが、フウの言葉ですぐに思い出した。
あ、フウが入院している時色々お世話になった人か。俺とフウを引き合わせてくれた人でもあった。全然会わないものだから、すっかり忘れていた。
『初対面とはいえ、私はお前らを知っているから自己紹介はいらん。
その様子だと……息災で過ごしているようだな』
「あ、はい! あの二人には、本当にお世話になりましたっ」
ガバ、と慌てて頭を下げるフウに、芙蓉は眉間にしわを寄せたままこういった。
『そんなに畏まらなくていい。お礼をいうのなら私じゃなく、他に居るだろう。……それに今回の目的はそのようではなさそうだしな』
芙蓉の言葉に、俺ははっと我にかえる。
そうだった。初めて人魚に会ったり人魚が俺たちのことを知っていたりして、色々とビックリして放心状態になっていた。
「あ、そのことなんだが——……」
自己紹介はいらない、といわれたが、後から礼儀抜きで話してしまった、と俺は少し後悔した。やはり衝撃過ぎることが多すぎて、自分の中のルールというか常識といか、そういうものが定まらずにいたのだろう。だが、不機嫌な顔をしている割には、芙蓉は意外と真面目に聞いてくれたので、とても助かった。
——……が、聞いてくれたからといって、問題が解決するかといえば、そうでもなかった。
『無理だな』
キッパリと、芙蓉は答えた。
『確かにお盆だとこの土地は、そこまで霊感を持ってなくても霊が視えるようになる。けれど、それにだって資質が関係ないわけじゃない。霊感を持って無くても視える奴と、視えない奴に分かれる事だってある』
「無茶苦茶苦しい設定だなそれ」
『作者が何も考えてなかったんだから仕方ない』
おい芙蓉。おい作者。ここでメタ発言するな。
「……でも、なんとか出来ないんですか? 本当に」
『くどいぞ、諷子』
それでも食いつくフウに、芙蓉は不機嫌な顔を更に歪めて、こういった。
『人間と死んだ奴は、もう違うんだ。出会うべきではないとはいわないが、本来、人が別のものと関わるのは、ありえないことなのだ。今までそれで平気だっただけで、今それを無理にしようと思えば、必ず何処か捩れが生まれる』
その言葉に、グ、とフウは言葉を詰まらせる。
「……でも、別れの言葉ぐらい」俺がそう続けようとしたが、芙蓉は遮った。
『生きていれば死ぬ。出会えば別れる。その時、けじめをつけれる時とつけれない時がある。別れを告げれない別れなど、山ほどあるんだ——それに、別れをいう時の辛さというものもあるであろう』
——この言葉に、今度は俺が言葉を詰まらせる番だった。
芙蓉は畳み掛けるように、問い詰めるように、俺にこういった。
『別れの言葉ぐらい、とお前はいったが。姿を見れば関わってしまう。言葉を交わせば情が沸く。その時、別れを告げなければならない時、辛いのはどちらだ?』
夏の暑さに、突如、氷水を頭からかけられたような寒さが入り込んだ。
それほどまでに、芙蓉の言葉は、俺を揺さぶった。
そうだ。俺は知っている。別れをいう怖さを。
フウが、正体を俺に知られて、怖くて逃げ出したことを。
今が幸せだったから、すっかり忘れていた。
出会えば、必ず別れがあることを。その時が、とても辛いことを。
昔、いつも感じていた恐怖が、今更になって強く突き刺さったような気がした。
人間というのは、凄くわがままなモノだ。
会えないときに、会いたい、と思うくせに、別れが来たときは、会わなければ良かったと後悔する。
どちらが不幸せか。そんなもの、俺に判るはずがない。
「……芙蓉おねいさん、僕は、もう平気なんだ」
言葉を失っている中、大輝だけが笑顔でいう。
「確かに、視て貰いたかったし、話をしたかったけれど。もう、お母さんとお父さんに会えた。僕の元へ来てくれた。それでいいんだ」
その笑顔は、特に無理している様子ではなかった。
「それでいいんだ」本当に、心の底からそう思っているような言葉だった。
結局、俺たちは特に何もせずに、帰ることになった。
フウは、悲しそうな顔をした。大輝は一人、優しそうで穏やかな顔を浮かべた。
俺は、辛かった。仕方ないと理解していても、納得できなかった。
そんな想いでふと後ろを振り向くと——芙蓉の表情に、俺はまた、驚いた。
芙蓉は、唇をかみ締めていた。
大きな瞳が、潤んでいるような気がした。
「(……芙蓉って奴は、本当は、大輝とダメナコたちを会わせたいんじゃないだろうか)」
千年生きる人魚は、知っているのだろうか。
別れを告げない別れのつらさを。別れを告げても辛い別れを。その時必ず伴う後悔を。
だから、あんな顔をして、強くいえたのだろうか。
芙蓉は、知っているのだろうか。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【3800突破感謝祭更新!】 ( No.325 )
- 日時: 2013/03/06 17:04
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
まあ、そのような旨を柊子さんたちに伝えた。柊子さんは凄くがっかりしていたが、やはり仕方ない、と呟いた。
そしてその後、落ち込むことは判るが、事情を知らないダメナコたちを気遣う為に、いつもどおり元気に過ごそう、ということになった。
んでまあ、普通に飯を食って、風呂に入って、少し駄弁った——わけだが。
「……なあ、聞きたいんだが?」
「ん?」
俺の言葉に、じゃれあっていたフウと大輝が、動きを止めてこちらを見る。
ちなみに、時刻は午後十一時。もうそろそろ寝る時間だ。
——では何故、俺とフウは同じ部屋に居るのか?
全然疑問を持っていないのだろう、フウはキョトン、として、こういった。
「え? だって、虎太郎さんが——」
「おいこらジジイィィィィ——!!!!」
「誰がジジィじゃこらああああああああああああ!!!!」
バッターン!! と、大きな音を立ててふすまが開く——というか、踏み倒される勢いで、虎太郎が出てきやがった。
「アンタ何考えてるんだよ!?」
「あぁ!? テメェそれでも男か!? 柊子の話を聞いた限りでは、お前諷ちゃんに押し倒されていたじゃねえか!」
「まだ誤解されていたのかよチクショウ!」
「わたし押し倒してません!!」
「あれはただたんに、かくかくしかじかであーなっちゃっただけです!!」フウが突っ込んだ。突っ込めるのに、男女が一つの部屋で寝るということに何もいわないことを俺は突っ込みたいが。
「そういうことだ。だから別の部屋を——」
「あ、そういや忘れてた」
「話きけやこら」
虎太郎のマイペースっぷりに、イラ、と来た俺。だが、次の行動がその上を行くとは、この時思いもしなかった。
ゴソゴソと、ポケットの中を探って、突き出された右手。
「ほれ、手を出せ」そういわれて、ろくでもないモノだろうなと思いつつ、素直に従った。
のが、まずかった。
手のひらに乗せられたのは——避妊具。
「避妊はちゃんとしろよー?」
虎太郎の素晴らしいほどの爽やかな笑顔に、本気で殺気が沸いた。気付いていたら、足元にあった枕を投げる、もとい枕で虎太郎の顔を殴った。
「いって! 何しやがんだよテメ!」
「よっしゃオメェはとりあえず地獄に落ちろ——!!」
「あぁ!? やるかこら!!」
「ちょっと二人とも、今真夜中——」
死角で虎太郎に渡されたものが見えなかったんだろう、何も知らないフウは俺たちを止めようとしたが、ヒートアップした俺と虎太郎はそのまま枕投げ大会に持ち込んだ。
……が。
「ケンジクン、虎太郎クン。今は真夜中だよ?」
バズーカ並みの速さで枕を投げた柊子さんが現れて、俺たちは即座に止めた。
ちなみに、枕は俺と虎太郎の顔と顔の間を通って、壁にめり込んだ。
柊子さんは笑っていたが——後ろにオーガが見えた。凄く怖かった。
結局、俺の叫びも虚しく、この部屋で三人寝ることになった。
勿論、俺とフウを挟んで大輝が寝ることになっている。本当にどうしてこうなった。
無論、俺は事を起こそうという気はない。全く持ってない。なので、寝ることに務める。が、やはりというか緊張して眠れなかった。
逆に大輝は、既にスウスウと規則正しい寝息をたてている。
「……幽霊も寝るのか?」
「わたしは眠りませんでしたけど……この土地の影響で、眠れるようになっているのかもしれませんね」
そういうもんなのか、と俺は納得する。
そしてその後、少しだけ話が途切れた。
おけらが鳴く音が聞こえる。
川に落ちる水の音が聞こえる。
特に意識しなくても、案外聴こえるものだった。それは、全然居心地の悪いものじゃなくて。
「……フウ」
フウを呼んだが、返事は全くない。
寝たか、と思いつつも、俺は続けた。
「俺さ。自殺しようと思った時さ、何も感じなければいいって思ったことがあるんだ。そうしたら辛くもないし、何も求めないって。あのバカ母親に、何かして貰おうとか、認められたいとか、そんなこと思えないようになるって。でもどうしても、認められたいって思ってしまったんだ」
どうしてそう期待をかけてしまったんだろう。絶対、分かり合えるハズはないって諦めているのに。
今も、分かり合えると思ってしまっている自分が、憎い。
「……どうしてこんな風に思ってしまうんだろうって、思った。バカ母に認められなくても、フウとかが認めてくれるって判っているのに。でも、今日、ダメナコや耕介さんに視て貰えない大輝を見て、やっと判った気がした」
誰かに認められても、やっぱりどうしても、一番理解して欲しい人が居るんだと。例え応えてくれなくても、それでも求めてしまう人が居ると。
大輝は納得していたけれど、俺はダメナコたちと大輝に、ちゃんと会ってほしかった。
ダメナコを、大輝を、全部知るわけじゃない。でも、どちらも会いたいハズなんだ。
こんな会い方、会ったことにはならないって思った。
「どうして、見えてしまうんだろうな。ダメナコには見えなくて、俺たちには見える。本当は、逆の方がいいはずなんだってずっと思っている。でも、別れを告げたからといって、傷が癒える訳じゃないっていうのも判ってる。……だったら、感じなきゃいいのに、って思った。どちらも辛いなら、何も無ければよかったんだって」
そう思うんだけど、何処かそう思えないんだよなぁ。
そう呟いた時、急に眠気に襲われた。
夢を見た。
鉄道に乗った夢だ。
ガッコンガッコン、と、そんな音が響いていた。
窓際からは、星空と、ススキやリンドウの花が見えて。
それぐらいしか、覚えていない。
朝起きた時に、夕べ見た夢のことを考えてみた。
よく覚えていないし、良く判らないけど、哀しい夢だったと思う。
それでも、優しい夢だったような気がした。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【3800突破感謝祭更新!】 ( No.326 )
- 日時: 2013/03/06 17:58
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
「どうですか?」
「……凄い、女に見える」
「感想がそれですか?」
クルリ、と、浴衣を着たフウに一言いったら、フウがむっすりとした顔で返した。
いや、案外真面目にいったんだが。
白い下地に、朝顔が綻んだ浴衣は、フウに似合っていた。
今日は特に何も起きることなく、夕方になった。夕方から夏祭りが始まるので、フウは浴衣を着た。
俺も柊子さんにじんべえを薦められたが、普段着が良かったので丁寧に断った。その時凄く柊子さんは残念な顔をしていたが、見ないことにした。
ダメナコは耕介さんと一緒に屋台を周ることにしたらしく、俺たちとは別行動だ。ちなみに、大輝もダメナコたちに着いていった。——見えなくても、やっぱり一緒に居たいんだろう。
ドンドン、と祭囃子が聴こえてくる。喧騒騒ぎの中を、俺たちは歩いた。
楽しんでいる中、初めての夏祭りかもしれない、と思った。一人で居たときは、この中に混じることも億劫だったから。
周るたびに、楽しむたびに、楽しげな祭囃子を聞くたびに。
昔の悲しかったことや、寂しかったことが、ちらほらと思い出していく。
楽しいんだ。だからこそ、反動で暗くなってしまうのかもしれない。
芙蓉のあの言葉を聞いたから余計に、この時間はいつ終わってしまうんだろう、そう考えてしまう。
それは苦しいが、辛いわけじゃない。
寧ろ、あたたかい。
「……そっか」
「? 何かいった?」
心の中で呟いたはずだったのに、声に出していたようだ。
隣で不思議そうな顔をするフウに、「なんでもない」と返す。
余計に不思議そうな顔をするフウだったが、ヨーヨー釣りの屋台をみて、「あ、やってみたいです!」と目を輝かせた。
その姿は、小動物みたいで凄く可愛かったが——いわんでおこう。
カランコラン、と、下駄の音が喧騒から離れた夜道に響いた。
「いやー……楽しかったですねぇ」
「そうだなー」
帰り道、俺たち二人だけで、山道を歩いていた。危ないと思う人も居るだろうが、一応点灯がついているので安心だ。多分。
横では、のほのほと幸せそうに笑うフウが、楽しかったばかりいっていたが、口には出さないだけで俺も同じ気持ちだった。
「そういえば……この土地じゃ、そろそろ幽霊さんたちはあの世に帰らなくちゃいけませんね」
「……そうなのか」
「大輝君……寂しいでしょうね。ああはいっても」
フウの一言に、俺は黙った。
……寂しいと嘆くなら、感じなきゃいいと思った。
別れが辛いと思うのなら、出会わなくちゃいいと思った。
でも、今日、楽しいと思った時、反動に辛かった過去を思い出しても、何だかあたたかいものがこみ上げてきた。
その時、不意に思った。
自分は、幸せなのだと。
そう思ったら、一目散に走っていた。
「え!? ケンちゃん!?」
フウの呼ぶ声が後ろから聞こえたが、構いもせずに走った。
向かったのは、昨日いった井戸。井戸に向かって、俺は叫んだ。
「芙蓉! 居るなら返事しろ!」
『なんだ……。そんな五月蝿くいわんでも聞こえるわ』
井戸に向かっていったはずなのに、後ろから芙蓉の声が聞こえた。
暗くて良く判らないが、やはり昨日のように不機嫌な顔をしているな、と思った。
「芙蓉。大輝とダメナコを会わせる方法はないか?」
『お前もくどい。ないといってるだろう』
張り詰めた声。これ以上触れるな、という、神経質な声。
『それに、別れを告げたからといって——』
「それでも、会わせてやってくれ!」
『何でお前が偉そうにいうんだ。本人たちがそう望んだといったわけではなかろう』
「でも、見れば判る! 二人とも会いたがってる!」
『お前は何様だ——……』
辛辣な言葉を返されても、俺は引かないと決心した。
寂しいことは、悲しいことは、嫌なことだとずっとずっと思っていた。
それは、いつまでも変わらないだろう、とも思っていた。
けれど、今日を過ごして、辛かった想い出を思い出しても、そんなに嫌じゃなかった。
今が幸せだと判って思い出した時、嫌だった想い出は案外好きになっていたことに気がついた。
過去の受け取り方は、変わることが出来る。
傷は、ちゃんと癒えるんだということが判った。
それは、感じなきゃ判らないことだった。
やっぱり、俺はダメナコや大輝じゃないから、二人が何を考えているかは知らない。
けれど、あの二人なら、別れの辛さは辛くはないだろう。
何も知らないくせに、といわれたらそれまでだが。
俺は、そう二人を信じている。
『……あーもー!』
暫く会話は続いていたが、芙蓉が投げ出すように叫んだ。
『流石は、雪乃が進んで助けようとした奴だな。しぶとさと頑固さはあ奴にも負けん』
「……『雪乃』?」
聞いたことがある名前だった。
確か、元雪女だった人の名前だ。ひょっとして、芙蓉と雪乃は妖同士知り合いなのだろうか?
『私は黙っていたかったが——どうやら、蛍たちがいらぬお節介をしているようだ』
「あ……、居たぁ……!」
どういうことだ、と聞く前に、聞きなれた高い声が遮った。
「……あ、フウ!」
「もぉ……何で置いていくんですか……!」
ゼイゼイ、と荒れた息で不満をぶつけるフウ。
……しまった。フウを置いていってしまった。しかもフウは義足の上に、下駄であった! しかも走ったことがあまりないフウにとっては、とても無茶を強いてしまっただろう。
「ごめんフウ! というか、よくここが判ったな」
「ほ、蛍が……飛んでいたから、なんとなくここじゃないかなって」
「え……?」
蛍? そんなの飛んでいたか?
そう思った時、フワフワ、と、黄緑色の光が、飛んでいた。
「……ホントだ、蛍が飛んでる」
「時間的に……珍しいなあって、思った」
『ほれ、あっちを見てみろ、健治、諷子』
クイ、と芙蓉が親指で指した。いわれるまま、俺とフウは見に行った。
そこには、池があった。
「……うわ、凄い」
ただの池じゃなかった。ありえないほどの、無数の蛍が、水面の上を飛んでいた。その光が反射して、更に蛍の光が増えたように感じた。
その池に、人影が三つ。しかもそれは、知っているものの影だった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【3800突破感謝祭更新!】 ( No.327 )
- 日時: 2013/03/06 18:05
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
祭りもそろそろお仕舞いだから、耕介と一緒に帰路を辿っていた。
一応点灯はあるものの、夜なので結構暗かった。だから見つけられたんだろう、フワフワと黄緑色の光が見えた。
「……蛍?」
「珍しいな、こんな時間に」
もう時刻は十時近く。蛍は七時を過ぎると居なくなってしまうのに。
しかもその光は、山道を歩けば歩くほど、増えていった。
「……ねえ、ちょっといってみない?」
「……そうだな」
一体、この蛍は何処へ向かっているのだろう。気になった私たちは、蛍の後を追ってみることにした。
フワフワ、フワフワ、蛍はどんどん増えていく。
草木を掻き分けて、たどり着いた場所は結構大きな池。
そこには、沢山の蛍が集まっていた。
「……凄い」
ここまでの蛍の大群は、生まれて初めてだ。
夫も、死んだ目を少しだけ煌かせている。
「(出来ることなら……)」
この見事な蛍の大群を、大輝と一緒に見たかった。
なんて、叶わない想いをつい抱いてしまうのは、夏の暑さにやられているからだろうか。それとも、さっきの祭りの後だったからだろうか。
思わず自嘲が零れた、その時だった。
「……おい、見ろあれ」
耕介が、珍しく上ずった声を出した。
見ると、フワフワ、とした蛍が、ユラユラと、人の形を模してゆく。
「え……?」
ビックリした。
蛍の大群が、人の形をしてきた、だけじゃなくて。
その姿は、亡くなった息子の影にしか、視えなかった。
「……大輝?」
震えた声で、私は聞く。
すると、蛍の大群は、コクン、と頷くように首の所が動いた。
ビックリ、の次に、顔が紅潮した。
目の奥が熱くなって、じんわりと、涙が零れた。
「……会いに、来てくれたの?」
私が聞くと、蛍の大群は首を縦に振る。
こんな不甲斐ない母親を。
墓参りすら行かなかった母親を。
ずっと、大輝は待ってくれたのだ。
そう思うと、申し訳ない気持ちと、感謝の気持ちが、沢山溢れてきた。
ボウ、と下流の方に、灯篭の光が見えた。
そういや、この地方じゃこの日、ご先祖様はあの世に帰るんだっけ。
「……もういくのか?」
耕介の言葉に、大輝はコクン、と頷いた。
「……そう」
出来れば、引き止めたかった。
まだ、沢山話したいことがあるのだ。
守れなくてごめんなさい、今まで墓参りにすらいかなくてごめんなさい、貴方との想いでのモノを捨ててしまってごめんなさい。謝らなくちゃならないことは、沢山あった。
でも一番、いいたいことがあった。いわなきゃいけなかったことがあった。
「大輝」
何時もだったら、照れくさくて、中途半端に誤魔化そうとしただろう。
けれど、目の奥の熱さに押されて、素直にいうことが出来た。
「……大好きよ。愛してる」
リンドウの花を届けたかったのは、私が好きな『銀河鉄道の夜』に出てきたから。
それ以外の理由はなかったのだけど、今はそうしてよかったと、思ってる。
——暫く、私は、息子を亡くした悲しみから、逃れられないだろう。
大輝との想い出は、重い。哀しくて、耐え切れなくなる時も、やっぱりあるだろう。
それでも、私の中にある大輝の想い出は、これからも生きていくのだ。
私と、一緒に。
大輝は、蛍火とともに、銀河へ向かって旅立ってゆく。
空へ、空へといっていく。
大輝は私たちに向かって、「いってきます」といったような気がした。
そういえば、大輝は亡くなる年の四月に、入学式を控えていたんだ。
すっかり忘れていたわ。忘れたくない、忘れたいと思っているうちに、すっかり落としていた。
生きていたら、玄関で毎朝、「いってきます」「いってらっしゃい」といっていたかもしれない。
だから今は、こういおう。
「——いってらっしゃい」
救われたような気がした
(別に、これといったことはないんだけれど)
(まだまだ、悲しいし辛いけれど)
(少し、進めたような気がした)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【ダメナコルート完結!】 ( No.328 )
- 日時: 2013/03/07 17:16
- 名前: ルゥ (ID: f1FDgG3k)
ダメナコ先生の話、すごく良かったです!
僕に「○○は〜〜っていう思いを〜」的な感想の書き方はどうも性に合わないので、ただ単に「すごい!素晴らしい!!感動した!!!」 としか言えないのですが、本当にすごいお話でした!!
なんと驚いたことに、高校が決まってもその後も勉強しなくちゃいけないという地獄の日々が、この小説を読むことで一気に癒されますww
進路が決まってパソコンに向かえる日が増えてきたので、またコメントに来ますww
では今日はこの辺でwww
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