コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄ルート』完結! オチはない!】 ( No.414 )
- 日時: 2013/07/10 16:19
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
ルゥ様!!
お久しぶりです!!
オチもヤマもないこの物語、いかがでしたでしょうか。……と、いいたいところですが、実はこの話、結構重要な話、なのかもしれません。
……と、無茶振りな伏線は止めましょう。
いやしだなんて! そんな!w
嬉しすぎてます。嬉しすぎて変な汗出てますww
はい、身体に気をつけますので、ルゥ様も多忙のようですが休み休みでお疲れの出ませぬよう!
それでは、お待たせいたしました。第四部、最後の物語です。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄ルート』完結! オチはない!】 ( No.415 )
- 日時: 2013/10/19 20:44
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
夏は、嫌いじゃ。
じめじめして、その上気が狂うぐらいに暑い。
外に出たくなかぐらいに暑い日があれば、叩きつけるような雨が降ってくっと。
何故か夏になると、無性に怖くて、先が見えなくなって、頭を抱えて、迷ってしまう。
自分が、よく判らなくなるけん、夏は嫌いじゃ。
夏は荒々しく来て、ドタバタとめまぐるしく動いて、静かに去ったと思ったときには、自分が実は何も成果ば出していないということが判ってしまうけん。
……この町も、嫌いじゃ。
夏になれば、この町は生傷をまだ抱えていると、良く判ってしまうけん。
だけど、ここにこない夏も嫌いじゃ。
自分と向き合わない自分も、大嫌いじゃ。
◆
長崎は、坂の町ばい。
急な坂が沢山あって、夏じゃけん暑い中を歩かんといけん。
既に店ば休んでまで着いてきた千歳さんが、数十歩後ろでくたびれておった。
「……おーい、まだなんかー?」
「もう終わりったい、千歳さん」
灰色の鳥居ばくぐり、俺は久しぶりにあの子の姿ば確認した。
「あら」
長い赤い髪に、青い瞳。
純潔な日本人ならありえないその女の子の顔は、東洋人らしい顔立ちだった。
その女の子は俺の背丈の半分しかなく、じゃけんど顔立ちは大人びておった。
夏めく青い、空。
せみの声と、かすかに木々の葉がこすれた音が聴こえる。
町の風景が見えるここは、まるで空を飛んでいるようで。
大きな、大きな、楠の前で。
「また、今年も来たのね」
今年もまた、変わらずに、あの子は待ってくれた。
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』
「今年は別の人をつれてきたのね」
カチン、と氷が割れる音が響く。
神社の中で、俺らは麦茶とカステラを振舞われた。
「……いっつも思うんじゃけど、ホントに神社で食べてええの?」
「平気よ。だって私神様だもの」
ケロリ、と答える女の子。
何も知らない人は、この発言ば聞いても子供のたわごとだと、笑うだけじゃろう。
まあ、何も知らないでここに来る人は殆どいないんじゃけど。
「……なあ、要。この女の子が神様なん?」
「うーんと……」
そういや、千歳さんには『神様に会いにいくんじゃけど千歳さんはどーじゃ?』しかいっておらんかった。
まあ、来る時も半信半疑じゃったしなあ。そもそも、神様とそんな気軽に会いにいっていいのかという時点で、俺も疑っとるし。
どう説明すればいいか悩んでおると。
「あ、いうけど本殿の神様じゃないわよ。私の祠は、楠」
「楠!?」
千歳さんの瞳孔が大きく開く。
その様子を見て、ケラケラとおかしそうに笑った。——意地が悪いというか、人を脅したり気味悪くさせるのが大好きなのだ。
「まあ、神っていうより、妖精に近いかしら。わたしはその上の、神霊だけどね」
「ということは、ここはあーたのおうちじゃないってことじゃろ?」
俺の言葉に、「ピンポーン!」と嬉しそうな顔で親指を上げる。その顔を見て、「祟られるゥッ!!」と、千歳さんが発狂した。
……相変わらず、性格変わってないなー、この人。人じゃないけど。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄ルート』完結! オチはない!】 ( No.416 )
- 日時: 2013/10/19 20:53
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
「……そいぎ、千歳さん。自己紹介ば」
「は、初めまして。大八木千歳いいます」
「私の名前は坂上木之南姫命」
「うわ、何や気軽に呼んだらアカンような立派な名前ですね……」
どや顔で名乗る女の子に対して、軽く怯えかかってる千歳さん。
おお、いかにも素晴らしい笑顔を浮かべている。
「貴方には特別に、上南姫って呼ぶことを許すわ」
「は、はい! 上南姫様!!」
年下にはいつも兄貴らしい態度で接する千歳さんが、子供のような顔で怯えてる。
まあ、でも……。
「ただ単に、『坂の上にある楠』って意味なんじゃけどねー」
「だまらっしゃい」
思わず漏れてしまった突っ込みを聞かれて、ポカンと殴られた。
「……とまあ、こんな感じじゃけん、祟られる心配はせんでええよ、千歳さん」
「……っちゅうても……あー……」
ハア、と神様は思いっきりため息をついて、どうでもよさそうな顔で(というかまさしくそうであった)、こういった。
「めんどくさいから、もう南でいいわみなみで。要からもそう呼ばれているし」
「南?」
キョトン、といい年こいて子供のような仕草で、千歳さんは首を傾げた。
「私あだ●充ファンなのよ」
「まさかの『タ●チ』からの!?」
「後、高●みなみファンでもあるわ」
「神様って意外にオタクなん!? っちゅうかテレビあるん!?」
カルチャーショックを受ける千歳さん。
その後、南っちが神主さんの家で飯を食わせてもらっているとか、その際にアニメを観ているとか、好きな漫画は何か、有名になりそうな作品はどれかなどで盛り上がっとった。
◆
同じオタク仲間ということで、あれだけ祟られないか心配していた千歳さんは、一時間後には南っちと打ち解けておった。
「……にしても、要がここに来て、もう七回目になるのか」
南っちの声に、俺は覚醒する。
……とんでもないオタクの会話についていけなくて、意識が何処か遠くへいっとった。
「そうじゃなあ、小五年の時にここに来たけん」
「小六でしょ」
「え? 計算があわんじゃなか?」
「七回目よ、七回目。今から順に遡って数えてごらんなさい」
南っちにいわれて、指折りで数えてみると、確かに最初会ったのは小学校六年生の時になる。
「ホントじゃ……」
「あの時の要は、お父さんの故郷を求めて、ここに来たのよね。そしてそれが丁度、終戦日である今日だった……」
「あ……」
「どうしたと、千歳さん」
「あ、いや……」
歯切れ悪くいう千歳さんだったが、グ、と意を決して、こういった。
「そういえばここは……原爆が落ちたところでもあったなぁ……って」
それは、日本の誰もが知ることだと思う。
第二次世界大戦で、二つの県に原子爆弾という恐ろしいものが落ちたこと。
それはモノや人を破壊するだけではなく、かろうじて生き延びた人々の健康も蝕んでいたということ。
……勿論、全然健康に育った人も大勢おる。けれど、被爆場所で育ったというだけで、差別された人々もおった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄ルート』完結! オチはない!】 ( No.417 )
- 日時: 2013/10/19 20:55
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
なんて、クラスメイトとかに話すと、皆は決まって、「そんな難しいこと、瀬戸には似合わなーい!!」と笑う。
クラスメイトたちには、世界の大事件のこととか戦争のこととか、昔あったことは、皆「遠い出来事」だと思っているようじゃ。
けれど、決してそんなことはなか。
そればいってしまえば、俺の境遇も「遠い出来事」になってしまうけん。
被爆の話は、俺の境遇と重ねざるをえない。
俺は、確かに孤児院で育った。親はなく、居たのは親代わりの教員たち、そして多くの子供。
皆、とても優しい。今も昔も。
両親が恋しくて泣いた日もあったし、沢山嫌なことはあったけど、決して不幸ではなかった。
立派な人間になったとはいわないが、一般と比べてもしっかり育ったと自負しとる。
それでも、社会に出れば、そこで『孤児院』と判れば、そんなことは関係ない目で見られる。
小学校低学年の若い女教師には、問答無用で『可哀想』といわれ、また、逆に潔癖な初老の女教師には、『愛情がないからきっと荒れるだろう』という目で見られたこともあった。もっと酷かったのは、男子体育教師がそれを強調して、あえていじめを煽らせることもあった。
今じゃ、孤児院育ちと知って驚くだけになったけど、多分これからも、そういう目に遭うこともあるじゃろう。
覚悟はしとる。それでも、慣れるとは思わない。——……慣れようとも思わない。
「……広島でも落ちてるけどね。それでも、長崎はとても不安定だわ」
南っちの曖昧な言葉の意図に、俺は気付いた。
……玄海灘には、原子発電所がある。
「2011年の地震だって、原発がなければもう少しマシだったでしょうね」
「……なんで人間はそないな厄介なモノを作ってもうたんか、と俺は思わずには居られへん」
「あら。その厄介なモノから恩恵を授かっているのは誰かしら?」
シブい顔ばする千歳さんに、南っちは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「電気を使うのも金を使うのも人間だけだわ。原発を薦めているのは政治家だけど、その政治家に投票したりなんやしているのも人間だし。急に原発を止めろといって、電気すら作れなくなって困るのは人間でしょう」
「いや、原発だけやなくても、世の中には太陽光やら水力発電やら風力発電と色々あって……」
「太陽光は夜や雨の日には作れないでしょ。水力発電をするにはダムだって必要だわ。自然に与える被害を人間はどう償うというの? 風力発電だって、あの羽が壊れて何処かへ落ちたら悲惨よ」
「……いや、後半らへんは考えすぎじゃ……」
「考えすぎかしら? 台風とか竜巻とか、日本には絶対に訪れるものがあるというのに。風力発電の羽じゃ、竜巻に運ばれてもおかしくない。飛んでいった先に、人が居ないなんて考えられる? そんなことないでしょう?
原発も同じで——この国は、地震があって当然の国であるというのに、お偉いさんたちはそんなことも予想せずに作ったというのかしら?」
一方的な言葉の数。
千歳さんには、反論させる隙もなく。
南っちは、意地悪く笑みを浮かべながら、こう締めくくる。
「答えはNO。人間たちは繁栄の代償を知っていて、それを見ていないフリをしているだけよ」
——何かば得るには、何かを犠牲にしなければならない。
当たり前のことだった。
『美味しいモノを食べたい』と思うのなら、動植物ば犠牲にしなければならない。
『勝負に勝ちたい』と思うのなら、自分以外の人間に負けば押し付けなければならない。
『何かを成し遂げたい』と思うのなら、沢山の時間ば犠牲にしなければならない。
『誰よりも幸せになりたい』と思うのなら、誰かば不幸にしなければならない。
……皆、気付いているのに、それば無視している。
そして、いうのだ。『どうしてこんな目にあわなきゃならないの』と。
『何で、自分たちの土地だけ、爆弾が落ちたのか』
『どうして、生きのびてもなお、爆弾のせいで苦しまなければならないのか』
『自分は健康なのに、どうして『もうすぐ死ぬ』という目で見られなければならないのか』
『どうして俺のお父さんたちは死ななければならなかったの』
自業自得だと、因果応報だと、誰かが囁く。
自分だって、誰かが犠牲になることば目を瞑っていたくせに。
「今、『原発反対』とか色々いってるけど、そうなったら、原発で働いている人たちはどうなるかしらね。職も無くなるし、何よりも差別の目で見られるんじゃないかしら。『何故人に迷惑がかかるような職についてんだ』ってね」
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『静雄ルート』完結! オチはない!】 ( No.418 )
- 日時: 2013/10/19 20:57
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
『原発反対!』って皆いうけど、多分、危険区域として故郷ば追い出された人たち以外は、又聞きだったり、事情ば良く把握していない人が多数じゃと思う。
自分たちはよいことばしている、正しいことばしている、と思い込むだけの人間は、かなり酷いことばいっていることがある。
自分がそういったせいで、何ば犠牲にしていることも知らずに。
二人が死んだのは、車に轢かれたせいだった。
勿論、それは相手がルールを守っていなかったからだけど。
けれど、車ば使っていたのは、両親もだ。
車がなければ、あんな事故が起きることもなかった。
……なんていっても、人々からは変な目で見られるだろう。
だって、車は便利じゃから。
車がなければ、出来ないことも多くあるけん。そんなことは、考えなくても身に染みているけん。
でも、例えば、もしもの話で。
車に轢かれたせいで、沢山の人が死んでいて。
残された遺族や、事故に遭うのが怖いと思う人たちが、声ばあげて、車ば作ることを反対したら、きっと、もう事故で死ぬ人は居なくなる。
車がなければ、きっと俺は、二人と慎ましく暮らしていたと思うばい。
そいけど、そうなれば、とても大変な目に会う人もいる。
車がなければ、会いたい人に会えない人も居る。救急車もパトカーも消防車も使えなくなる。車がなくては、間に合わないことが沢山ある。
戦争だってそうじゃ。原爆だってそうじゃ。
勿論、アメリカが長崎や広島に原爆を落としたことは、落とされたことは、許されることじゃなか。
けれど、もしも。仮に、二つの県に原爆が落ちずに居たら。悲惨さを味わっていないまま、威力の犠牲を軽く見るどころか見てみぬフリをして、アメリカのように、日本もどこかの国に原爆を落としたかもしれん。
日本は、戦争を止めずに、まだ他の国を虐げておったかもしれん。
そしたら、今流れるこの平和もなかったかもしれん。
他の国に、沢山沢山恨まれていたかもしれん。
……ご先祖さまたちが、他の国にとっても酷い事をしたということに、気付かずに、寧ろ当たり前のように過ごしておったかもしれん。
……そんな未来も、とっても恐ろしか。
どれをとっても、どうあろうと願っても、結局、誰かは、何かは犠牲にならなければならない。
「(原始時代に遡ったら、人は戦争もせんし地球温暖化問題も資源問題も政治問題もお金問題もなかとに……)」
結局、どんなに時が過ぎても、人間は愚かなだけじゃろうか。
それとも。時が流れるだけ、人は、悪い方向へしかいけんくなるんじゃろうか——————……。
「……それは、違うわ」
穏やかな顔で、南っちがそういった。
どうやら、声に出してたみたいじゃ。
「昔のほうが豊かだなんて、そうは思わないわ」
「……どうしてそう思うん?」
「だって、大大大昔には、緑茶とカステラがないから」
ドヤ、と答える南っち。
「……それだけなん?」千歳さんがなんとも形容しがたい表情で聞き返す。
「まさか」南っちは答えた。
「後、漫画もないしテレビもないしそしたらアニメも見られないしパソコンもないしそうしたら2ちゃん見られないしニコニ●動画見られないし……」
「……神様ってこんなんでええの?」
千歳さんが呆気になって呟く。気持ちは判るばい。
「……この地は、原爆が落ちた場所だけじゃない。キリスト教の人々が多く死んだところでもあるわ」
「……」
「反面、この町は、外国との貿易も盛んだった。唯一許されたのが、出島だったからね。そして、美味しいお菓子や、外国の文化、医学、科学、陶芸やガラス、様々なものが取り入れられ、ここで発達していった」
——そこに。
そこに、沢山の血が流れたとしても。
ひょっとしたら、自分も殺されてしまうかもしれなくても。
そこで知った知識が、何かを犠牲にしてしまうモノだとしても。
それでも人々は、宗教の自由を、医学の発達を、広い世界に出て、勉強できることを、沢山のことを選べることを夢見て、信じていた。
そうしてやっと、長い鎖国が終わって、日本人は、沢山の文化を取り入れ、自分たちのモノにしてきた。
「過去は、自分の誇りにするもの。今は、自分がなにをしたいかを決めること。……未来は、夢を見るもの。
だから、現在よりも過去のほうが豊かだなんて、思わなくていいのよ。未来がとっても悪い方向へ進むなんて、そんなことはないのよ。
未来は、より良い方向へ進む。……私は、そう想うわ」
サラリ、と優しく小さな手が、俺と千歳さんの頭を撫でた。
その様子は、まるで母親のようで、俺と千歳さんは、子供のようで。
俺は、未来に期待してはならない、と何処かで思っていた。
期待するということは、未来に縋るという意味だと思っていたから。縋るだけで、今努力することを放棄しそうだったから。そうしたら、何だかとても、失礼だと思ったから。
因果応報、自業自得。
それでも、やっぱり。戦争で、沢山の人が死ぬことや、交通事故で、あの二人が死ぬことは理不尽だと思う。
繁栄の裏には、目をあわせられないほど痛々しい犠牲がある。
繁栄を目指さなければ、何も変わらなくなってしまう。そうなってはいけないから、痛々しくても犠牲を受け容れなければならない時がある。
どんなに時が進んでも、全員が幸せになることは、ない。
判りきっていたことだった。
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