コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ぱーとつー』更新!】 ( No.354 )
- 日時: 2013/04/03 18:39
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
聞いた後、思わず、聞かなきゃ良かったと後悔した。
今井が抱えているものは、とても重くて、暗くて、冷たいものだった。
今井もまた、いじめられたことがあった。
遡って、始めにだした出来事は、小学校二年生の頃の話だった。今井は同級生の男子から徹底的にいじめられた。
理由は、「匂い」。もう既に、今井の両親が離婚して、おばさんがラーメン屋を開いて数ヶ月のこと。
染み付いたラーメンの匂いを指摘されて、男子たちがそれを「くせえ」とからかったことが原因だった。更にそれは、今井の生まれつき肌が少し黒いことも関わってくる。
「くせー、豚骨女!」「やーい、ブタ女!」「黒豚—!」
「うるさい!! とっととどっかにいってよ!!」
今井が叫んでも、からかいの声は止まらない。寧ろ、更に悪化した。
教師に相談すると、「こういうのは、反応を見せると、更に面白がるの。だから放っておきなさい」としか、いわれなかった。
でも、黙っていても、からかいの言葉は続く。
辛かったのは、給食のとき。
「うわ、バイ菌だ」「くんじゃねーよバイ菌」「バイ菌がよそったものなんて食べれるかよ」そういわれ続けた。
しまいには、「バイ菌なんだからこんなの置いていいよな」そういって、ハエなどが乗った食べ物を、カメムシの死骸を、今井の机に置いた。
今井が触れたモノは、誰も触らなかった。授業中に発言する時まで、「空気を汚すな」といわれた。
二年の担任は、何もいわなかった。
二年生が終わった後、担任は入院したという。
けれど、もっと辛かったのは、四年生の頃だった。
三年も相変わらずだったのだが、四年は更に酷かった。
なんと、担任までが、「バイ菌」と呼び始め、いじめに加わったのだ。
「お前が、そんな臭いをつけてくるからだろ。肌だって、日焼け止めを塗ればいいじゃないか」
そんな無茶で無責任なことをいって、担任は平気で今井をいじめた。
おばさんに相談は出来なかった。
おばさんは、空君のことで頭がいっぱいだったから。
おばさんのせいでいじめられた、なんて口が裂けてもいえない。空君だって頑張っているのだと、今井は思い直した。
五年と六年は少しだけ収まったが、今井が荒れるには充分すぎる時間だった。
「(なんで、こんな目に遭わないといけないの)」
「(あたしのせい? んなわけない)」
「(あいつらは、難癖をつけて、あたしをおもちゃにしているだけだ)」
「(なのに、あいつらはそれを「当たり前」のようにあたしに押し付けて、あたしの短所や弱みだけを突きつけてくる)」
ザワザワと、腹の底が騒ぐ。
それが余計に気持ち悪かった。
ふざけるな、と声を上げた。
その時、溜まっていた怒りが、爆発を起こした。
中学校に上がって、今井はツッパリグループに入った。
そして、自分がいじめていた奴を探し出し、全員に復讐をした。
「自分がした事を忘れていなかったら、まだ赦せたかも知れない」今井はそういった。
そう、今井をいじめた奴は、今井にしたことを全く覚えていなかったのだ。
今井が暴力を振るっている間、今井をいじめている奴は、皆こう叫んだらしい。「——何故、こんなことをするんだ!」と。
「(何故って、あんたら覚えていないの!?)」
「(あたしが今している悪いことが判っていて、なのに自分がしてきた悪いことは全然気付かないの!?)」
自覚のない奴は、自覚のないままで、人が何をいっても、やっても気付かないままだと、その時今井は知ったという。
それが、腹立たしくて、辛くて、怒りと憎しみは徐々に、自分が見ている世界そのものに向けるようになった。
こうなったのは、母親がラーメン屋を開くようになったせいで。
その原因となったのは、父と離婚したからで。
さらにその離婚の原因となったのは——空だ。
空は何もかもを、あたしから奪おうとしている。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ぱーとつー』更新!】 ( No.355 )
- 日時: 2013/04/03 18:42
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
「……良く、あたしは人を殺さずに済んだよ。ホント」
ポツリ、と今井はいった。
「自分の部屋ですやすやと寝ている空を見て、首を絞めて殺そうって考えたこともある。流石に、そう思った自分が恐ろしくなって、空の傍を離れたけど……」
——そんなことを考えるまで、彼女は、追い詰められていたのだ、とあたしは思った。
前、三也沢君がいっていた。「人は、苦しすぎると、大切なものもどうでも良くなって、苦しいことから『逃げる』ことしか頭に無いんだ」と。
その為には、手段なんて問わない。元々、苦しいことから逃げる方法がわからないから、更に苦しむのだ。
そんな人間は、極端な方法しか取れなくて、しかもその時、「本当にこれでいいのか」と冷静に考える余裕も既にないのだと。
それほどまでに、今井の過去は、地獄だったのだ。
聞いているだけのあたしには、それがどんなに痛いのかも想像できない。
「……ねえ、雪。あたし、どうすれば良かったの?」
今井が、苦笑して、——何かを求めるような目で、こういった。
「判ってる、こんなの雪に聞いたって意味が無いことくらい。原因だってわかってるんだ。怒っちゃだめだったんだろうな。憎んじゃダメだったんだろうな。だって皆、辛かったんだから。
でも、あたしも苦しかったんだよ。辛かったんだよ。誰かに助けて欲しかったんだよ……でも、どうすればいいのか、わかんねーんだよ、今も……どうやったら、全部丸く収まったのか、って判んないんだよ。あの復讐は、正しかったって、どうしても自分を正当化しちまうんだ……」
そして、もう一度、今井は聞いた。
「本当に、どうすれば良かったんだ……? 空の時も、雪の時も、星永も……行動すればするほど、あたしは誰かを傷つけてしまうの……?」
『首突っ込まんといて!!』
そう、優さんは叫んだと、佐藤はいった。
きっと、今井は、沢山辛いことがあって、でもその分自分なりに考えたのだ。
でも、一生懸命考えて取った行動は、何時も裏目に出て。
「(きっと、あたしの絵を破ってしまった時も、今井は苦しんでいたんだ……)」
あの時は、自分のことに手一杯で、今井の事なんて考えもしなかった。
つまりは、そういうことなのだ。今井が、ヤンキーだった時に取ってきたことは。
あたしも、今井と同じようなことを、無自覚にも、無責任にも、取ってきていたんだ。
だから——どうしても、その問いだけには答えたかった。
答えたかったのに、言葉が出なかった。
確か、頭の中には考えていたことが沢山あったハズだ。でも、いざいおうとした時、喉には何かが詰まって、言葉に出来なかった。その間に、考えていた言葉は、消えてなくなってしまった。
食事の間、本当に、静かで。
その間も、あたしは必死に考えた。
何ていえばいいのか、どんな言葉だと今井を傷つけず、励まして、慰めることが出来るのか。
料理の味が判らないほど必死に考えたのに、あふれ出てくるのは、痛みにも似た感情だった。
そして、完全に暗くなる前に、あたしと佐藤は今井の家を出た。
少しだけ、熱さが和らいだ帰り道を一人歩いて、やっぱり考えることは、今井にあの時なんていえばいいのか、それだけで。
「(自分から「話していいよ」といっておいて、聞かなきゃ良かった——……なんて)」
本当に無責任な話だと、あたしは思った。
だって、考えればすぐに判ることだった。弟のことを聞くときに、もう既に判っていたはずだ。
今井にも、とても重くて、辛くて、悲しいことがあったことぐらい。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ぱーとつー』更新!】 ( No.356 )
- 日時: 2013/04/03 18:44
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
しかも、あの話はきっと、ほんの一部分でしかない。
佐藤はいっていた。「まだ、落ち込んでいるんだし」と。
辛いとき、人は言葉を省いて、保身に走る。
「泣くな」と教えられた。「怒るな」と教えられた。
つまりその感情は、否定されているわけで。
いじめられている人間は、自分そのものを否定されているのだ。それを表して、その感情すら否定されたら、どうなるかぐらい、目に見えている。
だから、嘘をつくのだ。
自分は平気だと思う為に、辛いことを認めたくないが故に、言葉を省いていくのだ。
今井は話してくれたけど、きっと、あたしを心から信用しているわけじゃない。
実際、その判断は正しかったんだと思う。だってあたしは、その一部分しか聞いてないのに、こんなにも聞いたことに後悔しているのだから。
こんな人間がいるから、いじめは無くならないのだ、と今ようやく気付いた。
だって、そうでしょう?
よく、いじめの特番で、「まずは周りの人に相談して」なんていうけれど、こんな人間ばかりじゃ、絶対にそれは無理だ。
一部分だけ聞いて、「いけない」とただ叫んで、満足がっているなら、尚更だ。それで判ったつもりになってしまったら、もうそれは、更にその人を追い詰めていることにしかならない。
「人」として真剣に話を聞いているわけじゃなく、「可哀想なモノ」と決め付けて、ろくに話を聞かずに、自己満足に陥っちゃ、相談なんて無理だ。
人と向き合う。
簡単なようで、とても難しい。
そしてそれは、とても辛くて、苦しいことなのだ。
人と向き合う為には、まず、「辛いことを無視しては」いけないのだから。
自分のやましさと苦しさから、逃げてはいけないのだから。
ふと、三也沢君と、フウちゃんの後姿を思い出した。
あの二人は、赤の他人とはいえないけれど、殆ど何も知らない、上田君の妹を助けた。
とても凄いと思った。
三也沢君は、お母さんと上手くいってない。でもその恨みを誰かにぶつけることなく、それどころか、他人であったあたしを助けるほどの余裕があった。
フウちゃんも、家族と上手くいかないまま、死んだことにされて、半世紀以上幽霊として、人と接することが出来なくても、自殺しようとした三也沢君を救った。
あの二人は、ヒーローのような存在なんだ。
だから、あたしもああなりたいって思ったんだ。やれることは、やってみせると決めたんだ。
そして、真似しようと思って、やってみて、判った。
あたしはだからダメなのね。
だってあたしは、辛いことがあれば、「心がなければよかった」と思ってしまうぐらいに、弱い人間。
鈍感であれば、迷惑をかけないと、見捨てられないと、そんな風に怯えて、臆病になって。
何も出来ないでいる、そんな人間。
きっと、テレビとかでいっている言葉じゃ、今井を助けることは出来ない。
それを見て悲しんでいる佐藤を、励ますことも出来ない。
なのに、それを完全に無視することも出来ない、中途半端な存在で。
何時も、何時も考える。
どうすれば、好かれる人間になれるのだろうと。
どうすれば、嫌われない人間になれるのだろうと。
そうなれれば——あたしは、あの二人に何かしてやれたかもしれないと思った。
そんな風に、努力もしないで、ないモノねだりをする自分に、腹が立った。
「(——大人だったら、こういう時、なんとか出来るのかな?)」
そう思ったけれど、すぐに否定した。
あたしみたいな人間は、何処にでも居る。
辛いことから目を離して、その罪悪感から逃れたいから、正論をいって満足にしている人間は。
それは子供も大人も関係なく、沢山いる。
じゃなきゃ、いじめを苦に自殺する人は、絶対に少ないもの。
『どうすれば良かったの?』
今井の、弱弱しい言葉が、頭に響く。
「あたしだって、聞きたいよ……」
泣き言を、一人呟く。
友達なんて、知らない——そう思っていたあたしが、今、友達の為に何とかしてやりたいと、そんな風に思う自分がバカみたいで、それでも、何とかしてやりたかった。
あたしの悩みを何とかしようとして、今日一日中連れまわしてくれた二人を、何とかしてやりたかった。
沢山、いろんなことがあって
(身体も心も疲れていて、)
(とても足取りが重くって、帰ってきたとき、倒れるように眠った)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ぱーとすりー』更新!】 ( No.357 )
- 日時: 2013/04/06 22:36
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
『参照4444突破記念 ss』
(※『蛍火の川、銀河に向かって』のその後)
夏祭りの喧騒は、すぐ隣にあったはずなのに。
ただ、そこには、川の水の音だけがあった。
「いってしまった、な……」
「うん……」
『……全く、どいつもこいつも、世話焼きが多い』
蛍の大群を見届けた俺たちは、静かに、ほっと息をついた。
少し後ろでは、千年も生きた人魚が、棘のあるような口調で呆れていた。
「でも、アンタもわざわざ見届けてくれたろ」
じゃなきゃ、そそくさと帰ってるはずだ。
ありがとう、と続けると、芙蓉は少し間を置いてから、長いため息をついた。
『……これだから、人というのは面倒くさい。……関わろうと思わなくても、関わってくる』
「……」
『それを不幸と思ったり……そうではないと思い直されたり……そんな年月が、幾度過ぎて気付いた。そういうものなんだろうと』
千年生きた人魚は、語る。
水面に写った満月と、その傍で、泣き崩れている夫婦を見て。
『そうやって私は、まだ、ヒトに振り回され、喜ばされ、……突き放されるのだろう。
動じぬことなど、できやしないさ』
悲しむことも、嬉しさを覚えることも、きっと、これからも、そう感じていく。
どんなに年月が過ぎても、自分も、ヒトも、懲りることなく、それを繰り返してゆく。
「……そうか」
『ああ、そうだ』
俺がいうと、力強く、芙蓉は返した。
そして、一言別れを告げ、闇に溶けていった。
暗い、暗い、闇の中。
ここにあるのは、水の音と、辛そうに、それすらもくるめて暖めてしまうような、そんな優しい微笑みを浮かべている少女。
どうして、彼女が辛そうな顔を浮かべているのか、それは判っていた。
フウは、優しいのだ。自分の幸せは頭には無くて、なのに他人の幸せの為に翻弄して。
何故彼女がそうするのか、俺には判っていた。
彼女は、優しいから、寂しさを紛らすことが出来ないのだ。
「寂しい」と素直にいえば、人を困らせてしまうことを、フウは感じていた。病弱だったフウは、それはとても重要だったのだ。
家族に沢山の苦労をかけたと感じていたフウは、「寂しい」などいえなかった。
そして、苦労の原因である自分が「生きる」ために、少しでもみんなの役に立ちたかった。
彼女は、好かれようと、愛されようと思ったわけではない。
嫌われないように、憎まれないように生きたい、と思ったのだ。
それは、フウの美点ともいえるところだろう。
……でも。
「(そんな風に、笑わなくて良かった)」
そんな風に、無理に、笑わなくても、
誰も、褒めも責めもしないのに。
誰かに好かれることも、嫌われることもないのに。
「……ケンちゃん?」
ソプラノの声で、はっと、我に帰る。
やっぱり、心配している顔で覗き込まれていた。
今、俺は何を考えていた?
何を求めていた?
「……いや、なんでもないよ」
何度、フウに対していっただろう。
何度、自分にいい聞かせるようにいっただろう。
なんでもないわけ、ない。
今俺は、確かに、想っていた。
そんな顔をしないで。
そんな顔をして、また消えないで。
折角掴んだのに。もう離さないと想ったのに。
やっと、フウを——自分のモノにしたと、想ったのに。
「(……とんだ、情けない男だ。俺は)」
フウは、自分のモノではない。
フウの人生は、思考は、身体は、フウのモノだ。
判っている。本当は、判っているのだ。
フウが、大輝のような、愛されていても逝かねばならなかった人間に対して、負い目を感じて同じように逝こうとしても、逝かなくても。
結局は、何時か、離れてしまうことぐらい。
どんなにその時を先延ばし出来ても、来てしまった時、先延ばし多分悲しい想いをすることぐらい。
「(……こんな想い、フウには知られたくない)」
そう、強く想った。
そう想うなら、フウの気持ちも、判るハズなのに。
どんな想いで、彼女が辛くても笑っているのかを、知っているはずなのに。
想いは、伝えるつもりもなかったのに、ただ、身体はフウを求めた。
しがみつくように、みっともなく、フウを抱きしめる。
「……ケン、ちゃん」
耳元に、彼女の息がかすかにかかった。その時、熱さと、全身が心臓のように脈打つ。
血管が、引きちぎれんばかりの速さで。
でも、それでも、フウの身体を離すことは出来なくて。
いわない、伝えない、と決めたのに。
本能のままでいれば、きっと、色んなことが判ってしまう彼女には、何もかも悟られてしまうのに。
けれど、フウが身体を固めながらも、そっと、俺の背中に手を回してくれたことが、その指先から伝わる体温が、どうしても。
どうしても、離したくない、と想った。
ほてった身体を、夏の夜風が冷まそうと
(そんな風に、吹いていた)
(でも、)
(その風が吹くたびに、脈は大きく速く打つ)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『健治と諷子ss』更新!】 ( No.358 )
- 日時: 2013/04/17 23:05
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
それは、雪のように真白な世界だった。
いや、これは、雪なのかもしれない。
ただ、あまりにも真白で埋め尽くされていて、あたしには、どうしても、雪には見えない。
どっちかといえば、そう。お通夜の、白布のような。
『雪ちゃん、ほら、雪ちゃん』
そんな時、もう、うろ覚えでしかない、母の声が聴こえた。
母の顔は、影があって見えなかった。それでも、口元は笑っていることがわかった。
『ほら、——ちゃんと遊んでおいで』
名前のところだけが、聞き取れない。
『しっかりなさい、お姉ちゃんでしょう?』
——お姉ちゃん? あたしが?
そう想って、後ろを振り向いた時。
『お姉ちゃん!!!』
三也沢君を幼くしたような子が、そこで笑っていた。
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】
は、と目を開ける。
飛び込んできたのは、カーテンの隙間から漏れた光。どうやら、家の前を通った、車の光らしい。
ゆっくりと、重くだるい身体を起こして、あたしは頬を拭った。
全身は熱く、汗でびしょぬれだった。
まだ、外は暗い。時計を見ると、午前五時近くである。
二度寝する気分じゃないあたしは、汗を流す為に、風呂場に向かった。
「(夢にまで見てしまう、なんて……)」
上から降ってくる大量の水を浴びながら、あたしは心の中で、自嘲する。
どうやら、本当にあたしはどうかしているのだ。
——いや、本当にどうか、しているのだ。
◆
事の始まりは、目を覚まさないフウちゃんの為に、油絵を完成させようとしたのがきっかけだった。
それも、母さんの為に描いた、未完成の桜の絵。
母さんの名前は、桜だった。
そしてその名の通り、桜が大好きだった。
仕事が忙しい母と、二人だけで桜を見に行ったことがある。
だだっ広い草原に、ぽつんと立った、大きな枝垂桜。
仕事の疲れなのか、頬がやせ疲れきった母の横顔を、綺麗に引き立ててくれた、あの綺麗な桜。
思えば、あれが最後の、母との想い出だった。
『お父さんには、内緒だよ?』
そういって、笑う母と過ごせることが、あたしの胸の鼓動を早くした。
あの時に、あたしはもう一度、戻りたくて。中々会えない母さんと、あの時一緒じゃなかった父さんと、三人で。
だから絵を描こうと思った。勉強も運動も人並みだったあたしが、唯一褒められたのが絵を描くことだったから。
それだけは、あたしの、唯一の誇りだった。
ある日、桜の花びらを描く為の油絵の具が、底をついた。
仕方が無かったあたしは、一人で買いに行くことにした。その時には、母さんはいた。
買いに行って帰ったとき、父さんは泣いていた。
どうしたんだろうと、お父さん、と声を掛けようとして、止めた。
父さんが座っている席には、紙があった。
あの時は難しい字が多くて、よく読めなかったから覚えていない。
けれど、最初に大きく書かれていた『離婚届』という字だけは、わかってしまった。
親が離婚してから絵を描くことを止めたのは、お金が理由でもある。
でも、もう一つは、悟ってしまったのだ。あたしには、何の力も無いんだと。
唯一、褒められたのは、絵。
でもそれが一体、なんの役に立つの?
お金になることは殆ど無い。寧ろ、お金を減らしてしまうモノ。
この特技は、何の役にも立たない。
誇れるものが、あると思っていた。でも、違った。
元々から、誇れるものはなかったのだ。
そう想ってしまえば、もう、何もかもが灰色になった。
辛いことも、嬉しいこともない日々になった。だるさが残る日々ではあったけど、まあ、それぐらいは、と思った。
おかげであたしは、泣きたくなることも、悩むこともなくなったのだから。
早く自立しよう。父さんを見て、そう思った。
自立して、父さんを楽にさせるんだ。子供の心配なんてさせないように、あたしがしっかりするんだ。
そうやって、中学校生活は過ごしてきたのだ。
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