コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.544 )
日時: 2014/03/17 18:48
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MTGEE0i4)
参照: コメント遅れてすみません!!!

あんず様!!

こんにちは、占ツクではどうもです。
そしてまさかの六花も読んでくださり、本当にありがとうございます!!
おお……そこまで考えられる作品になっていたでしょうか?
だとしたらとても嬉しいです。

ありがとうございます。どちらも更新頑張りますッッ!!


ルゥ様!!
可愛いい良い良い良い良い良い良い良い良い良い良いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!

よっしゃああああああああああ!! とにかくよっしゃああああああ!!

(※上手く言葉が見つからないので、上のゲシュタルト崩壊で察してください)

何時も素敵な絵をありがとうございます。レオの絵を見られるとは思いませんでした。可愛いよ吉樹。
ありがとうございます。というかトッドーさまナイス!!

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.545 )
日時: 2014/03/17 21:40
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MTGEE0i4)
参照: コメント遅れてすみません!!!





 中絶、麻薬、宗教、リスカ。
 世の中の生臭いことが、高校に入ると結構間近になってくる。
 そういうのは、ワタシは絶対に関わりないと思っていた。
 というか、そういうのに関わって、痛い目見るのは自業自得で、周りから見限られ見捨てられても当たり前だと、冷めた感情を持っていた。

 例えそれが自分の意思で関わったことではなくても、それは隙がある自分が悪いのだ。痴漢もしかり、強姦もしかり。



 ……そう、ワタシは、バカだったのだ。
 自分がこうなって、初めて気づいた。





      口裂け女のひとつの過ち




 ある日のことだった。


「ねえ君」


 駅前で、男の人に声を掛けられた。その時点で何時ものワタシは、警戒心を抱くのだけれど、今回は何故か、そう身構えることがなかった。


 顔はまあまあ。ルックスもまあまあ。
 ただ、男の人ではあまり見かけない、優しそうなたれ目が気になった。
 そういう男を世間では「なよなよした男」「優柔不断な男」と評されることが多いらしいけれど、そんなのはワタシは気にしなかった。



 どうしてか、酷く彼に惹かれたのだ。
 男嫌いだと強く想っていたこのワタシが。



「ちょっと、話をしてみないかい?」



 何時だって、男という性別を聞けば、嫌悪するワタシが、その時、その男の人を受け入れた。












 その人は山田さんと名乗り、ワタシを喫茶店に連れて行ってくれた。
 仏頂面で紅茶を飲むワタシと違い、山田さんはニコニコとブラックコーヒーを飲んでいる。
 本当に良く笑う人だった。


「いやねー、こんなかわいい女の子に声かけて、犯罪臭漂っているとは思うけれど、全然怪しい人じゃないからね」
「……怪しい人ほど、そういうことをいうって聞いたことあるけれど」
「…………だよねー。けれど結局、君と一緒にお茶が出来たからいいかな?」


 それだけワタシとお茶がしたかったのだろうか。
 確かにワタシは目立つ顔だちをしているけれど、そこまで他人の気を惹けるものなのか疑う。ワタシが男だったら、ちっとも笑わない愛想のない女なんて、目を合わせることもしたくないと思う。
 ……変な人だ、この人。


「……えーと、直球はちょっと哀しいっていうか……」
「あれ? ワタシ声に出してました?」
「うん、バッチリ」
「すみません」
「あ、うん。……イイヨ、全然キニシテナイカラ……」


 ……やっぱり、可笑しな人だ。


「それよりも、大八木さん」
「はい」
「何か、悩み事があるんじゃない?」


 思わず、山田さんを凝視してしまった。
 まさしく、山田さんに声を掛けられるまで悩んでいたことがあったからだ。



「いや。誰でも悩み事はあるものだけどね」


 慌てて山田さんが訂正する。……そうだよね。ビックリした。ドンピシャでタイミング良かったから心を読まれたかと思った。


「……なんていうんだろう。悩み方が高校生らしくないっていうか」
「それは遠まわしにワタシが老けているといいたいのですか?」
「ち、違うよ!! そうじゃなくて、こう……分別っていうのかな。悩んではいるけど、それはそれ、これはこれ、みたいな感じで。悩む時を選んでいるっていうか……何時も嘆いているわけじゃないっていうか……」


 ……本当にこの人は何ものなんだろう。
 それは確かに、今のワタシに当てはまることだった。

 嘆きっぱなしでは疲れてしまうということを人生十七年目でやっと習得したワタシは、悩む時間を決めたのだ。

 当初は大変だった。何せワタシ、融通が利かないというか、これと思ったことには一直線で、この悩みの答えが出るまでは悩み続けないと気が済まなかったからだ。切り替えようと思えば思うほど、答えを出さなければいけないと気が焦ってしまい、結構苦しんだ。

 けれど、最近はちょっと上手くやっていけているような気がする。ちゃんと悩むときとそうじゃない時に切り替えができるようになったのだ。それを他人が気づいた。



 ……かいつまんでいうと、ワタシは嬉しかったのだ。

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.546 )
日時: 2014/03/18 21:46
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: BDgtd/v4)

 自分が一生懸命している努力に、この人が気づいてくれたから。



 ……まあ、地味な努力なんだけど。結局自分の為だし、人様に役に立つようなことじゃないし。
 それに、この技術を身に着けなければやらなければならないことが出来ないというか。特に千歳の子守とか子守とか子守とか。


 今さっきまで悩んでいたことは、まさにそのことである。


 最近「開けて!」を覚えた千歳は、魔法の呪文「開けて」を使ってワタシに指示することが趣味になっている。それを唱えれば抱っこでもおんぶでも何でもしてくれることを覚えてしまったからだ。お蔭でワタシの腕は常時筋肉痛だ。

 ハツは「たまには放って置くこと」といっていたが、あまり放って置くとストレスが溜まるのか吐いてしまった。小さな妹の面倒を見ていたハツにどれぐらいなら放置しても大丈夫なのか聞いてみたが、妹は特に相手に要求することはなく、寝たら寝っぱなし、立ったら立ちっぱなし、座ったら座りっぱなしと、千歳とは正反対の性格だったので、あまり参考には出来なかった。


 気付いたら、そのことを何故か、ワタシは山田さんに話していた。
 こんな話をしても、この人若いし育児とか詳しくないだろ、と後から気づく。案の定、山田さんは困った顔をしていた。



「……なんというか、高校生が悩むようなことじゃないよね」
「それはワタシが異常ということですか」
「いやそうじゃないけど。……大変だね」



 ええそうなんです大変なんです。
 だから嘆く暇も辛いと思う暇も今のとこないんです。もうやばいんですよウッヒッヒ。やばい、思い出したら脳内にいるワタシが可笑しな人になってる。やめておこう、今現実を悲観するのは。もうちょっと楽しい事考えよう。よし。
 決意を固めて、ワタシは山田さんを見る。

 山田さんは、感心した、と口に出した。



「こんなにしっかりしているから、お父さんたちは随分と君を信頼しているんだね……」
「あ、いや。あの人たちワタシが弟の世話しているの知らないです」



 そんな、ワタシも両親も大層なものじゃないですよー、と、笑って両手を振る。



「両親は家に居ませんから。居てもほぼ家の中がどうなっているかなんて聞かないし。たまに弟の顔を見るだけで、世話なんてしないんです。母親が弟に母乳を飲ませているところも見たことない」

「えー、そんなバナナー」
「古いです。そのバナナは古いです」


 ケラケラと笑う山田さんに、ワタシはツッコむ。
 どうやら本気にされていないようだった。ちょっとム、としつつ、まあ、最初のハツも、カミングアウトしたら嘘でしょ、って顔に出してたからな。初対面の人が信じなくても別に不思議じゃない。





 ……それほどまでに、ワタシの家庭環境は異常だったのだ。
 今更その環境を変えようとは思わないけれど。けれど、他のみんなとワタシは違うのだと思うと、寂しかった。
 いや、棍本的なところから、ワタシと皆は違う。



 ……ワタシには、本当の家族は居ない。





 なんて、一人でシリアスな気分になっていると、山田さんが何だかオロオロしていた。




「……?」
「あ、いや、ご、ごめんね? 本当のことだとは思いもしなかったものだから……いや、それは失礼か。こんな見知らぬ僕に思い切って話してくれたのに、冗談だなんて思ってしまって……」



 彼の言葉に、ワタシはああなるほど、と思った。
 どうやら、ワタシのシリアスな態度は、話をまともに聞き入れて貰えないから落ち込んだと思われたようだ。
 確かにムッとはしたけれど、でも別に、謝罪する必要もないようなものだから、気にしないでください、と返しておいた。

 山田さんはもう一度、ごめんね、といった。


「……そんなに、君の両親は子供に無関心なのかい?」
「そうですねえ。別に、ワタシと弟のことを嫌っているわけじゃないんですけれど、優先順位は仕事だと思います。ワタシたちのことは、思い出したら顔を見に来るぐらいですかね」

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.547 )
日時: 2014/03/19 22:01
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: 3mln2Ui1)

 それでもまだいい方だ、とワタシは思う。
 酷いときには帰ってきても、その時は忘れ物があったり、必要なものを取りに来るだけで、ワタシと顔を会わせずにまた会社に戻っちゃうんだもの。家で食べたり寝たりなんてこともしない。会社かホテルかに泊まっている。あの人たちにとって、家というのは必要最低限のものでもないのだ。


 それでも、家を捨てないのは、ワタシと千歳が居るからで。
 もしも、ワタシたちがあの人たちにとって必要最低限でもなかったら、当に家を捨てているハズだ。……あの人たちにとって、ワタシと千歳は、それよりも上に優先順位があろうとも、取りあえず必要だとは思ってくれているのだ。
 それだけで、感謝すべきことだと思う。



 ——ワタシにとって、家とは、自分の価値を確認する為のモノなのだ。


 生活することよりも、生きることよりも、ワタシは、あの人たちに価値を認められないことが、とてもとても、悲しくて辛くて仕方がない。生きても死んでも、ワタシが『あの人たちの娘』という価値があるだけで、それさえ認められればそれでいい。



 キン、と頭痛がした。
 クワンクワンという音が頭に直接鳴っている。すると、キン、キンと頭痛も酷くなってきた。



 まるで、「そんなの嘘だよ。本当は寂しいんでしょ」と、身体が語り掛けてくるように。


(嘘なんて、いってない。この頭痛は、気のせいだ)


 寂しいなんてことはない。
 お父さんとお母さんに会えなくて、辛いということもない。
 ない。絶対に。ありえない。



 そんなワガママな感情、許されていいはずがない。



 これ以上、何を求めるというのだろう。
 ワタシは、充分生きていけるのに。
 ご飯が食べれて、寝れる場所があって、着る服もあって、高校にも行けて、お金にも困ってない。他の人には、ハツにないものがワタシにあるのに、これ以上求められない。


 ……これ以上、求めることが出来るだろうか?









「……嘘をついたらいけないよ」



 優しい、優しい声が、降ってきた。



「本当は、寂しいんでしょう?」



 ——寂しくなんてない。

 喉までその言葉は出ていたのに、声には出なかった。



「あ……」


 代わりに、熱い息が、漏れていく。
 どんどん、どんどん、それはワタシの意思関係なしに、ただただ口から出てくる。呼吸も出来ないぐらい、その息は、口から出ていく。


 暫くして、入ってきたのは、塩辛い液体。
 一滴、二滴と流れては、口に入ってくる。それが涙だと自覚した時、やっと、呼吸が出来た。


 呼吸をしたとき。
 悲しいのか、辛いのか、優しいのか、甘いのか。良く判らないものが、種類それぞれに現れて、体の中を攻め寄せて、そして、胸いっぱいにこみ上げてきた。




「う…………ああああああああああああああ————!」



 涙と一緒に、声が出ていく。それはもう、煩いぐらいに。千歳のように、赤ん坊のように、ただただ泣き喚く。
 赤ん坊が、親に何かを要求する為に、ひたすら泣くのと同じように。
 そんなの、仕事で家に居ない親が、そんなワタシの喚きを受け入れるわけがないと、幼い時から諦めていた。
 それこそ迷惑で、カッコ悪くて、……誰かの邪魔にしかならないことは、やっちゃいけないと思っていた。

 でも本当は、お父さんやお母さんに、こうやって泣き喚くことを赦して欲しかった。
 腹痛で悩む子供のように、「助けて、助けて、お母さん、お父さん」と。例え両親にはどうしようもない腹痛だけど、それでもひたすら名前を呼んで泣くことを赦して欲しかった。

 誰よりもワタシは、寂しくて仕方がない人間だった。


 ……そんなワタシの気持ちを、くみ取って許してくれた山田さん。

 山田さんは、迷惑だろうに、穏やかな顔で泣き喚くワタシの背中を撫でてくれた。
 こみ上げてくる嗚咽と呼吸の苦しみは、そんなのじゃ和らぐことはなかったけれど、それでも背中に手のひらの温度があることが、こんなにも安心するのだと判った。



 どうして彼は、初対面の子に、こうも優しくしてくれるのか。判らない。


 だからこそ、ワタシは、山田さんを信頼したのだ。


 理由もなく、利益もなく、ただ、困っている人を助けてくれる優しい人。
 いうならば、物語に出てくるヒーロー。

 正義の、優しいヒーローなら、信じていいと思ったから。

Re: 臆病な人たちの幸福論【瀬戸君、ご乱心】 ( No.548 )
日時: 2014/04/02 22:05
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: 3mln2Ui1)




 それからして、ワタシはよく山田さんと会うようになった。


 沢山の話をした。自分のこと、両親のこと、学校のこと、友達のこと。

 山田さんはワタシの話を真摯に聞いてくれる。それが新鮮だった。ハツは確かにワタシの話を聞いてくれるけれど、こんな風に、悩み事をぶちまけるようなことはしなかった。


 そうしたらきっと、ハツは困った顔をするだけだろう。


 けれど、山田さんなら、それを受け止めてくれる。随分と話していくうちに、最初は辛いことを思いだしては泣き出したというのに、今では心穏やかに話すことが出来るようになっていた。

 勿論、愚痴や悩みは尽きないけれど、最近では友達みたいに、このお店が美味しいなど、この本は面白いなど、そんな話が大半を占めている。
 気付いたら、随分と彼に心を許していた。


「え、山田さんって学校の先生だったんですか!?」
「ああいや、教育実習生だっただけで、結局教師にはならなかったんだけどね」


 これには少し驚いた。
 けれど、山田さんの言葉は、意外のようで、よくよく考えてみればそうでもないかも、と思う。話し方とか、視線とかを考えると、優しい先生と言うのが当てはまりそうな感じだ。


「山田さんみたいな優しい人が教師になったら、学校楽しそうなのに」
「いやー……そういわれると嬉しいけれど、優しいだけじゃ、先生にはなれないからね。結局思い直したよ」


 山田さんは笑っていった。そういうものなのだろうか。ワタシには些か腑に落ちない。

 優しい人間は、好かれるんじゃないだろうか。生徒に好かれる先生は、最高じゃないだろうか。
 そんな単純な職業ではないと思うけれど、でも、優しさ抜きで、何かを成し遂げることが出来るのだろうか。



「それで、今は何をなされているんですか?」
「うーん、今? そうだねえ……一言でいうのは難しいんだけど……」



 そうだ、と山田さんは言った。



「一度、僕の仕事場に来てみないかい?」








 空を見上げると、もう既に、日は落ちて茜色に染まっていた。
 炎が激しく燃えるように染まる空。情熱的で、儚げなその光景は、ただ、ワタシを無性に破壊行為に駆り立てるものでしかなかった。


 カアカア、とカラスが鳴く。
 ワタシの目の前で、ゴミを漁り、生ゴミをつつく。
 ワタシは、手元に持っていた鉈で、カラスの首を切り落とした。

 目の前には、ゴミ、ゴミ、ゴミ。
 その中には、人のシタイなんかも、混ざっていたりして。
 クビを切り落としたカラスの羽が、頼りなげに、異臭のするゴミとゴミの隙間に落ちていった。

 ここには、人は居ない。人が寄り付くあてもない。不気味で、異様で、無様で、汚らしい。
 だから、安心して、ワタシは素顔を晒すことが出来る。

 ただ、人よりちょっと口が大きいので、マスクを外したら唾液が漏れてしまうけれど。
 その異様さを責めるヒトは、居ない。

 人じゃないワタシの住処。バケモノのワタシの居場所。
 鉈でも鎌でも、持っているだけで命を切り取ることが出来る、バケモノ。




(バケモノなので、耳がいいです)


 コトコト、ガタガタ、ガサガサ。ガサ。



(バケモノなので、鼻もいいです)



 ——誰カガキマス。
 コレは、人間ノ匂いデショウか。こんなところに来ては、いけないというのに。
























「やあ、こんにちは。——人殺し」








 そして——その人間は、現れた。
 醜イ、ワタシの元ニ。



         よだかとバケモノと人間の話


(人殺し、ト呼バれルほど、ワタシは人を殺した)
(そして、何度も何度も、刻ミ付けた)

(身体が、赤く染まる程)


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