コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.289 )
- 日時: 2013/02/13 17:15
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
「あ……」
「……三浦さん?」
顔を背けていた武田君が、こちらを向いた。
驚愕の事実を思い出したあたしは、グイン! と、思いっきり武田君の方に顔を向ける。
「そうだよ……思い出した! あたし、武田君と、ここで……一緒に、虹を見たこと!」
そうだった。そうだったよ。
あの時は、狐の嫁入りで、晴れていながらも雨が降っていて。
綺麗だな、って思いながら、いつの間にか見知らぬ土地に来ちゃったんだ。
それで、武田君と——しずお君と……。
「しずお、君……」
「——思い出したんですね」
あたしが震えた声でその名を呼ぶと、しずお君はしっかりとした口調でいった。
「——あの時、僕はお父さんと喧嘩したんです。遊ぶ約束を破られて、とても悲しくて、あのくぼみに入って、ふて腐れていました。その時、キミに声を掛けられた。キミにとってはほんの些細なことだったかもしれませんが、僕はとても救われたんです」
そういって、しずお君は、ぎこちなくも微笑んだ。
「『また会おうね』。その言葉を信じて、僕はずっと待っていました。二年前再び会ったとき、キミは覚えていなかったけど、でもやっぱり嬉しかった。そしてずっとずっと望んでいました。キミと、友人になれたらって。……確かにあの時、約束を破られてとても腹が立ったけど、……もう全然、怒ってません。寧ろ、何であの時、あんな風に怒ってしまったんだろうって、どうして意地張らずに別れを告げなかったんだろうって、時が経つにつれて後悔しました」
しずお君は、右手を差し出す。
「……こちらこそ、ごめんなさい。そして、こっちこそ願ったり叶ったりです。
もう一度、友達になってくれませんか」
——彼は、一体どんな気持ちで、あたしにいっているんだろう。
だって、約束を破ったあたしが、そしてちゃんと謝りもせずへらへらと笑っていたあたしが悪いのに。それを責めても良かったのに。
なのに……自分もごめんと、こちらこそ友達になって欲しいと。
更に、彼はずっとあたしを覚えてくれていた。あたしは、いわれるまですっかり忘れていたのに。沢山沢山、あたしは彼を傷つけたのに。
彼は、無表情で無口で良く判りにくい。
でも、そんな彼が、精一杯伝えてくる。
——あたしは、素直に喜んでいいのかな。
今まで、沢山沢山、酷いことしたのに。多分、バカだからこれからもするだろうに。
だから、失礼だけど、聞いてみた。不安だったから。
「あのね、玲はね……本当はね……。あの時武田君に話したのは、助けたかったからじゃないんだよ?」
「知ってますよ、そんなこと」
呆れたように、でも嬉しそうに、しずお君はいった。
「……けれど、それでいいんですよ。僕は。ほんの些細なことだったとしても」
一度区切って、しずお君はいう。
太陽の光が、彼の笑顔を照らしていた。
「僕にとっては、大切な、忘れられない想い出だったんですから」
アブラゼミとクマゼミが、鳴き続ける。
大きな時間を埋めるように、沢山沢山鳴き続ける。
それはまるで、空っぽだったあたしの時間も、埋めるようだった。
——変、だねえ。
悲しくなんて無いのに。辛くもないのに。寧ろ、恐怖と不安が取り除かれたのに。
嬉しくて、苦しんだ。けれどそれは、苦しくても身体の芯から満たされていくようだった。
変な時に発動する癖に、こんな時に限って、上手く笑えないんだ。
代わりに、涙が零れていく。
暑くても、やっぱりあたたかい涙が零れていく。
「……また泣くんですか」
武田君が、ため息をついた。
仕方が無いじゃない。止まらないんだから。
大人だったら、涙以外に表現できるのかな。
こんな溢れる想いを、どうやったら上手く表現できるのかな。
頑張って進んでみれば、何時かそれに、辿りつけるかな。
大人に、なれば。
何時かきっと、誰も傷つけず、誰かを癒す人間に、なれるかな。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.290 )
- 日時: 2013/02/13 18:03
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
「あ、もういいでしょうか?」
一通り泣いて落ち着くと、木の陰から、ひょっこり知っている顔の女の人が現れた。
——一度も会ったことないけど、新聞で見たから知ってる。この人は、長い間昏睡状態になって、最近起きた、あたしの先輩だ。
「おい、ちょっとタイミング悪いんじゃないか……?」
「まあ、一通り解決したと思うばい」
「大丈夫ダイジョーブだって。三也沢」
女の人に続いて、ひょこひょこと男の人(残る二人はあたしを探してくれた人)が現れていく。
「……覗き見していたんですか、先輩方。悪趣味な」
武田君が本気で、呆れていった(今さっきとは比べ物にならないほど)ので、先輩方はギクリ、とわかり易く固まる。
「ま、まあまあ! そこんとこは気にするな!」
「そこはバンドラの箱というわけでして、玉手箱のように開けちゃいけんったい!!」
「まあ、いいですけど……というか、何で宮川先輩と橘先輩がここに居るんですか?」
武田君は、確かに今まで見なかった男女二人(女の人は宮川先輩、男の人のほうが橘先輩らしい)に聞いた。
「ああ、実はね……」
「かくかくしかじかでな!」
「判るか」
思わず、あたしも武田君と一緒に突っ込んだ。心の中でだけど。
「まあ、そこは気にしないでくださいよ……っと、上田玲ちゃんですよね?」
宮川先輩に話を振られたあたしは頷く。
「とりあえず、自己紹介ですね。わたしの名前は、宮川諷子といいます。貴女のお兄さんには、良くお世話になってます」
「あ、はい初めまして! これはどうも、ご丁寧に」
畏まったあたしが慌ててお辞儀をすると、宮川先輩は、大層綺麗な顔立ちで、ふんわりと笑った。
……うっわ、メッチャ美人。男だったら惚れるところだわ。
とまあ、それは置いといて。宮川先輩は、持っていた本をあたしの目の前に突き出した。
「この本。貴女のお父様の本であり、最近学校の図書室で借りたものでもありますね?」
「あ、はい」
「え、そうなんですか?」武田君が隣で驚いたように(といってもやっぱり無表情だけど)いった。
「さっき、上田君に話を聞いたんです。この本は、本当は処理されるハズだったところを、お父様が譲り受けたものだと」
「……はい。あたしも、兄からそう聞きました」
「この本の有名な台詞に、こんなことが書かれてます。『鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという』」
パパが、しょっちゅういっていた言葉だとお兄ちゃんから聞いたことがある。
あたしも、パパが死ぬ間際、その言葉を聞いた。
「……ねえ、玲ちゃん。お父様、一体何を伝えたかったんだと思う?」
「え?」
「——なんて、実はわたしも、こんな風に人にいえる立場でもないんですけど」
そういって、宮川先輩は苦笑いした。
「生まれて出てくるには、卵を自分から割らないといけない。そして割ったら、今度は飛び立つ練習をしなければ、鳥たちは生きていけない。わたしたちもいえることですね。何時まで経っても、親のところにいちゃいけない。甘えちゃいけない。……でもそれは、焦らなくても何時か来るものなんですよ。焦らなくても、その瞬間は、必ず判る。焦っちゃ、瞬間さえ判らなくなっちゃいますよって、伝えようかなと。今なら、頼れる人間も居るはずですし。というか、お母様や上田君に頼ってもいいんじゃないかな、と。貴女には、その権限と義務があるハズだから」
「きっと、お父様も頼って欲しかったんだと思います」宮川先輩は笑う。
「じゃなきゃ、この本と言葉を残すはずがありません。わたしも、この本を全て理解したわけじゃありませんが……上手くいえないけれど、お父様は、娘である貴女に対して、何かしてあげたかったんじゃないかな……なんて、勝手ないい分ですけど。
でも、先輩として、わたしもいっちゃいますね。子供であるうちは、大人のせいにしちゃっていいと思いますよ。少なくとも、殻を割る前は、大人のせいにしちゃってください。殻を割ったなら——今度は、周りを見渡してください」
きっと、素敵なことが、沢山見つかるはずだから。
宮川先輩は、そう締めくくった。
「……」
渡された本を、あたしは抱きしめる。
古い、古い本。あまり読めない本の癖に、捨てられずここまでしぶとくたどり着いた。
「……ごめんなさい。あまりにも、変な説明と、失礼で身勝手な発言でしたね」
宮川先輩が不安げに聞いてきた。けれど、そんなハズはないと、あたしは首を横に振る。
そう、そんなハズない。
だってそうじゃなきゃ、あたしをあのモヤから助けたりしなかった。
今、この本を抱きしめているのは——パパが、助けてくれたから。
でも。
「……どうして、こんな回りくどいことしたの」
直球でいってくれたら、こんな風に苦しむことはなかったのに。
思わず毒ついたら、橘先輩と呼ばれた男の人が「そうだよなあ」と大げさに頷いた。
「ほんっと、父親って良くわかんないよなあ! 変な風に物伝えるし、自分はそうしたつもりでも、全然こっちには伝わらないし。おまけに頑固だし!」
「……苦労してるんだな、橘」
三也沢先輩が、同情の念を送った。
「そんなこといっても、たちばなっち。たちばなっちも、何時かはお父ちゃんになるとよ?」
「ちょっと待て! 俺はあんなオヤジにはならん!」
「どうかな、それは。遺伝子って凄いからな」
「いーや、ならないね!!」
先輩方の会話に、思わず笑みが零れる。
ホント……。
「ハッキリ伝えてくれなかったから、色々忘れちゃったじゃん」
返事はしないとわかっていながら、それでも本に声を掛けた。
そしたら、返事が来た。勿論、本は口を利かない。
いったのは、宮川先輩だった。
「それでも、忘れたくない想いは忘れちゃいけないし、だからこそ忘れないんです」
(そうだったでしょう? と笑う宮川先輩に)
(あたしはしっかり、笑って返す)
(……ありがとう)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.291 )
- 日時: 2013/02/13 18:06
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
休日、俺とフウは約束どおり、一緒に過ごした。
……といっても、俺はフウに町案内をしただけだが。
なぜかというと、行方不明事件解決後、フウが「ケンちゃんたちを追っかける為に走った時は気付かなかったけれど、そういやわたし、どの道をどう行けば何処にたどり着くか、ちゃんと把握していませんでしたー」とかいいやがったからだ。
「(まさか、フウが橘の自転車の荷台に乗ってまで追いかけてくるとはなあ……)」
あれを思い出すたび、少し肝が冷えた。
フウ曰く、「走っている最中、橘君に乗せて貰った」とのこと。つまり橘がこなかったら、義足がぶっ壊れるまで走っていたかもしれないということ。
取り合えず、ごたごたが終わった後叱ったが、これからも何か無茶しそうでコワイ。後、俺より男前になっている。
……ごめん、こっちが本音だわ。
まあ、とにかく。グダグダ感が否めないが、その件は一件落着。ちなみに今日は適当に町を歩いて、瀬戸が働いている喫茶店で食ったりしたぐらいだった。それでも、俺の隣を歩いている姫は大喜びだ。
夕暮れになったので、そろそろお開きにしようと話していたとき、フウがある方向に指を差した。
目で追いかけると、そこは公園。フウが指差していたのは、ブランコだった。
「あ、ブランコ」
「何ですか? あれ」
フウの質問に、驚く俺。だが、すぐに思い出す。
——そうだった。こいつは、今まで五十年以上も眠っていたんだ。
物心ついてからずっと床の上だったらしいし、幽体となっても、ずっと学校の中。学生や教師の会話から、世間についてのことは妙に詳しくても、ブランコとかは知らなかったんだ。
キラキラと、好奇心旺盛な目で聞いてきたので、俺は観念した。どうやら、お開きをするには、もう少し先らしい。
ブランコに座って、漕いでみせる。
「あ、振子の原理ですね!」
「そういうこと」
フウが納得してくれたので、ブランコを止める。
「これ、前や後ろに人が居るときはあまり飛ばすなよ。相手が怪我する」
「うん、判った」
俺が注意すると、フウはしっかりと頷いて、隣の席に座る。
そして、ゆっくりと漕ぎ始めた。
ゆらゆら、ゆらゆら。
スピードは遅い。限りなく遅い。だが、フウはそれで満足のようだった。
「うっわ〜……気持ちいい」
「……そうか」
フウの喜んでいる姿を見たら、もう何もいえない。
「そういや、フウ。あの二人、一体どうなったんだ?」
「ん〜……武田君と玲ちゃんでしょう?」
慣れてきたフウは、立ち漕ぎしながらいった。
「まあ……芽衣子さんから聞くには、玲ちゃんこっぴどく怒られたんだって」
「それは俺らにもいえるけど」
俺たちも、勝手なことして、と大人に怒られた。そりゃもう、凄い勢いで。
けれど俺たちも、そしてどうやら上田妹も、校長の一声で助かったのだ。
「『まあ、無事でよかったじゃないですかー』……ホント、変態だけど校長は色んな意味で懐広いな」
「ね。校長先生がいなかったら、ちょっと大変だったかも」
クスクス、と笑うフウ。
だがフウは、急に顔を引き締めた。
「……フウ?」
「……今回、何で行方をくらませたか、聞くことが出来たんですけど」
玲ちゃん、黒いモヤに追いかけられていたんですって。
その言葉に、俺は息を呑んだ。
黒い、モヤ。
俺も瀬戸も、見えた。黒いモヤが、二人を覆おうとした所を。
喋ったところを見ると、多分あの黒いモヤは、俺たちの常識じゃ預かりしてない現象だったのだろう。
「ここからは、わたしたちしか知らないんですけど」フウはそう前置きした。
「玲ちゃんは、その黒いモヤは知り合いの幽霊っぽいものじゃないかな、っていってました。あの森では、自殺者が集まって、遺体がよく転がっているらしいんです。それを集めていたカルト集団の一人が、儀式をする為に、わざわざ自分の身体を贄にしたと」
「……は?」
「あ、勿論、本当かどうか判らないって、玲ちゃんはいっていました。モヤに取り憑かれていた時、そんな記憶が流れ込んできたらしいんですけど、それもとち狂った自分の妄想なんじゃないかなって、本人は思ってるようです」
慌てて、フウが付け加える。
「でも……そのカルト集団の人が、あの森で自殺したことは確かです。昔、玲ちゃんは武田君から「あの森に入るな」って約束していたらしいんですけど、ちょっとした事情で破っちゃって、入ったところ、たまたまその遺体を見てしまって。それで、長いこと武田君とは仲違いしたと……武田君もいっていたでしょう?」
「確か、そんな風にいってたなあ」
俺は、もう一度ブランコを漕ぐ。
……多分、上田妹がいっていることは、恐らく真実ではないだろうか。自殺したカルト集団のことは武田に聞いていたので、俺も気になって調べてみた。ら、かなり有名な団体で、本当に生贄を捧げるレベルで黒魔術っぽいモノを行っていたみたいだった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.292 )
- 日時: 2013/02/13 18:09
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
……でも、何で。
「何がしたかったんだ、そいつ? 儀式ってことは、何かを成し遂げたいからするんだろう? なのに、どうして自分の命すらも使うなんて……」
変な話だと思った。それじゃ、本末転倒じゃないか。
そう思っていると、立ち漕ぎしていたフウが、座って話し出した。
「……それほど、追い詰められていたんじゃないでしょうか」
「……」
急に落ち着いた声で話し出したので、俺は口を閉ざす。
「その人がどんな人生を歩んでいたかなんて、わたしには到底想像できない。でも、彼のより所が、その集団だったんじゃないでしょうか。儀式を行ったのも、その為に命を捨てたのも……集団というものが本当に自分の全てだったからじゃないでしょうか。勝手に人の命を奪うことが悪いことなんて思わないのが集団の価値観で、だからこそ自分を見失っちゃったんじゃないでしょうか」
「まあ、やっぱり、真実なのかどうなのかは、わたしには確かめる術はありませんが」そうフウは付け加えた。
フウの言葉に、最近話題になっている「いじめ」のことを思い出す。
一人ぼっちが怖くて、だから強いリーダーの下に皆が集まる。そして、リーダーが気に食わない人間を、大人数で攻撃する。リーダーの下に集まっているモノたちは、やっている最中はそれを悪いことだとは思わない。寧ろ、当たり前のことだと思っている。
それは多分、自分の頭で考えてはいないんだろう。自分の価値観というより、「集団の価値観」だ。
まあ、人はそれぞれだし、いじめの発祥もそれだけじゃないんだろうが(元々意地悪な人も居るだろうし)。けれどそう考えると、いじめ等の、思春期の「歪み」は、ある意味仕方がないものなのかもしれない。
「(……いや、歪んでない人間なんて、居ないだろう)」
俺はそう思い直す。何故なら、俺も、昔はかなり歪んでいたと思うからだ。
自身を「歪んでない」と言い張る人物は、多分それすらが歪んでいる。
ひょっとしたら、間違えたら俺も、そいつの様になっていたかもしれない。
そいつのことを、酷く滑稽なやつだと思っていたが、思い直さないといけないな、と思った。
でも。
「……だからといって、人を傷つけていいわけじゃない」
思わず、口に出していた。
かなり突拍子な返事だったにも関わらず、フウは「そうですね」といってくれた。
「……そういえば、ケンちゃんはデミアンを読みましたか?」
「え? ……あー、そういや読もうとして、挫折した記憶が……」
フウの問いに返すものの、語尾が濁っていく。
……いやー、俺とドイツ文学とは、どうやら相性が悪いらしい。
フウも、「わたしも、実は読み通しただけでよく判らないんですけど」と返してきた。
「でも、『鳥は卵の中からぬけ出そうと戦う』っていう台詞らへんは、知ってるでしょう?」
「そりゃまあ……有名だし」
そういうと、フウはクスリと笑っていった。
「新●文庫版でわたしも読んだのですが、第五章のサブタイトルにもなっているんですよね。その中に、「神的なものと悪魔的なものを統合する」っていうのがあるんですよ。まー、説明はめんどくさいので割愛しますが、要は、人は善も悪も受け入れるようにならなければならない、って感じかな。『鳥は卵の中からぬけ出そうと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。鳥は神に向かって飛ぶ。神の名はアプラクサスという』……が、台詞というか、紙に書かれていたというか。あーもう、ここも割愛」
「なんじゃそりゃ」
「ま、まあともかく! そのアプラクサスっていう神様は、神様でもあるけれど、悪魔でもあるという、善でもあるし悪でもあるってことなんですよ」
フウは続ける。
「それを読んでいる時、何となく+と−の計算を思い出したんですよね。0を基点にするなら、+が大きすぎても−が大きすぎてもダメ。だって0は、+でも−でもないから。+の絶対値が大きかったら−を足したり、−の絶対値が大きいなら+を足したり。そうやって——削ったり、増やしたりしたりして、作っているんじゃないかなって。——ごめんなさい! わたしじゃ上手く説明できません!!」
「いや、いいたいことはよーく判った」
自分のイメージと比べると、上手く言い表せなかったんだろう。だが、何となく俺にも判った。
……それを説明するのは出来ないし、絶対にしたくないけど(絶対に疲れる)。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『結局、答えは』更新!】 ( No.293 )
- 日時: 2013/02/13 18:14
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
「まあ、そんな感じってところです!! それよりも、ケンちゃん!」
「うお!? 何だ!?」
自棄になったフウが、無理やり話を打ち切らせる。そして、こんなことを聞いてきた。
「何でケンちゃんは、玲ちゃんとは会ったことないのに、玲ちゃんの旧姓を知っていたんですか!?」
……あー。
「そのことかあ……」
俺は呟いた。そういや、武田に事の真相を聞くために、上田妹の旧姓をカミングアウトしたっけ。瀬戸が興奮して「何でしっとると!?」と聞かれたけど、その事に答える暇がなかったから、後回しにしたんだった。そうだ、すっかり忘れてたわ。
まあ、別に聞かれたって困らないんだけど。
「いやー……俺さ。上田たちの親父さんに会ってるんだよ」
「ふえぇ!?」
フウが驚きのあまり、立ち上がった。砂埃が回りに飛び散る。
……まー、そう来るよな。普通。
「親父さんが死ぬ直前、うちのバカ母の病院に入院してたからな。それで、用事があって病院に来たとき、暇つぶしに話し相手をしてくれたんだよ」
「知らなかった……というか、不意打ちを食らった気分です」
そりゃあ、そうだろうけれど。
俺だってビックリだよ。すっかり忘れていたことが、この事件に巻き込まれた途端思い出したんだから。縁というものは凄いものである。
「それで、なーんか妙に、自分の家族を話していたんだよなあ……別に嫌じゃなかったけれど。まるで、俺がこの事件に立ち会うのを予測していたみたいに」
——すると、フウがブランコを止めた。
「……ん?」
「……ぶっちゃけ、そうかもしれません」
フウがいう。
検討つかない俺は、この後、フウの爆弾発言に、大いに驚かされた。
フウが持ってきた本は、本当は図書室の本で処理されるハズのものを上田の親父さんが譲り受けたらしい。そしてその本は親父さんが亡くなった後、上田の手元へ。
だがしかし、図書室の本を返す時、間違ってその本も返してしまったらしいのだ。
そこまでは、フウたちから聞いていた。
しかし、謎が残る。
それは譲る時でも捨てる時でも、「バーコードと貸し出し本のデータは処理をする」ことをしなければならないことだ。
ダメナコは二年前に学校の司書を務めたらしいので、その前の人になる。その人がどんな人かは、俺たちには知る由もない。凄くずぼらな人だったかもしれない。だが、バーコードはともかく、本のデータすら消されていないのはおかしい。
あの事件の後、フウとダメナコは不思議に思って、あの本のデータを調べようとした。ら。
「……消されていたんですよ。綺麗サッパリ」
——なかった、らしいのだ。
「勿論、ダメナコせんせーも、武田君も、雪ちゃんも、パソコンのデータをいじってなんかいません。なのに、パソコンからは綺麗になくなっていたんです」
「……ええー」
「まだまだ、謎は残ります。どうして、玲ちゃんはわざわざ、あの図書室に足を運んだのでしょう? デミアンの本なら、市立図書館を使えば何冊か新しいのがあるはずです。それに、どうして、わたしたちはあんなに古い本を捨てようなんて思わなかったんでしょう? それどころか、直しようもないあの本を直さなければ、とすら思ってしまった。それは、偶然としては出来すぎてはいませんか?」
「……つまり、お前は、全て亡くなった親父さんがなんかしていたと?」
そんなバカな、なんて笑い飛ばすことは出来ない。
フウのいうとおり、あまりにも出来すぎている。これらの疑問を一つ抜かしていれば、全く別のことが起きていたかもしれないから。
不思議な力が、引き寄せたような気がしてならない。
「……全部が必然だとは、思えないけれど。全部が偶然だったというのも、ありえないような気がします」
そういって、フウは俺の前に立った。
「ケンちゃんは、今回の事件について、どう思いましたか?」
「え……うーん、まあ」
お騒がせな野郎だぜ。ぺっぺ。
「……ぐらいには思ったけど」
そういうと、フウは噴出した。
……なんだ、一体。
「そういうフウは?」
「あ、わたし? わたしは、不謹慎かもしれませんけど——とっても、素敵なことだったな、って思います」
素敵なこと?
どういう意味が判りかねない俺に、フウは続けてこういった。
「悪いことも怖いことも、悲しいことも苦しいことも。多分いっぱいあったんでしょうけど。でも結局、良い結末になったでしょう?」
「まあ、聞いている限りは」
「でもそれは、武田君も玲ちゃんも、決して自分だけの力じゃないと、理解しているはずです。直接助けられたわけじゃないけれど、見えないところで、知らない人や力が、引き寄せてこんなに良い結果になったんだと思います」
——見えない力が。見えないところで。
知らない人が。知らないところで。
それでも確かに、自分に影響を持たさしている。
今回も、きっとそうなのだろうと、フウはいった。
例えこの世を去っても、親父さんは、しっかりと父親の役目を果たそうとしたんじゃないかと。
「確かに、その追いかけたモヤの幽霊さん——は、はた迷惑でしたけど。玲ちゃんが家出しなければ、わたしたちも怒られずにすんだと思いますけど。でも、その悪いことと良いことが綱引きみたいに引っ張って、こんなに良い結末になったとしたら——」
「それはとても、素敵なことじゃありませんか?」フウは笑った。
なびく髪がうすく、茜色に染まる。綺麗だな、と素直に思った。
確かに、そんな風に人が繋がっていると考えられるなら。
それは、とても、フウがいうとおりに、素敵なことなんだろう。
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