コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.479 )
日時: 2013/09/17 22:28
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)








 ワタシの目の前に現れたのは、要の友達らしい。
 男の方は三也沢健治と名乗り、女の子の方は、宮川諷子と名乗った。
 男はどうでもいいけど、——宮川諷子を見ると、なんだか落ち着かない。
 何でだろ。綺麗でかわいい子とは思う。だけど、何だか、全然落ち着かない。記憶喪失と判った直後の時の、あのモヤモヤ感がある。


 ——……マスクしてたからギリギリこの口元も見られなかった。だけど、バレてしまう危険性があるから、こういう気持ちになるのかな。とにかく、心穏やかじゃなくなるから、早く帰ってほしい。
 そう思ったワタシは、いらだちで頬を膨らませていた。


「千代っち、謝ろ?」


 ——一方要は、何も気づかずに、優しくいう。
 さっきからこいつは、この男女を泥棒扱いしたワタシに謝れといってくるのだ。


「……ごめん、要。洗濯物ぐちゃぐちゃにして」
「いや、そこじゃなくて」
「何で!? 不法侵入したついでに人を泥棒扱いする人が悪いじゃん!!」
「いや、俺らも泥棒扱いしたけどさ? アンタが先に泥棒扱いしたじゃん」
「うっさいそこの男!」


 何でワタシが謝らなきゃならないのよ! 勝手にドア開けたのはアンタだし、そもそも鍵をかけ忘れたのは要じゃない! 勘違いしても仕方ないじゃないの!!



(……——要もこの騒動の原因の一つだというのに、ワタシは何故か彼には八つ当たりしなかった。そのことの意味を、ワタシはこのころ、気づいていなかった)


 今は、爆発しそうな怒りではないのに、何だかくすぶっていて、止められなくて。


「千代っち、謝ろ?」

 何度も繰り返してくるコイツもめんどくさい!!
 反射的に、ワタシはいやと返した。けど。


「千代っち」


 ——……まっすぐと、茶化すことも誤魔化すこともできないような視線が、ワタシの隋まで貫いた。
 要は怒っていなかった。名前を呼ばれただけだった。なのに、ワタシの怒りはあっさりと抑え込まれてしまって。
 沈下させるわけではなく、かといって暴れ馬を無理やり抑え込むわけでもなく。
 ただ、冷静に、ワタシの理性に語り掛けた。

 多少の驚きと、何故か悲しいものが、ワタシの理性を呼び起こす。



「……ごめんなさい」


 滑るように、その言葉が出た。
 要は、「よしよし、頑張りましたー」と、大らかに笑いながら、ワタシの頭をなでてくる。
 態度は変わらなかった。だけど空気は、さっきよりももっともっと優しいものに変わった。


 ……そうか、とこの時判った。
 こいつは、優しい、だけじゃない。
 厳しいんだ。とても、人に。
 笑顔で多重に包んで、尖った言葉と態度はとらないけれど。
 なのに、頭から離れられない。要の言葉は。

 ——どれだけオブラートに包んでも、この人は、厳しい。


 ……だけど。
 この撫でる手が、全てを包み込むようにしてくれたから。
 抑え込まれた怒りは、ちゃんと、何処かで昇華されていた。


                   ◆


「千代っち! 今日の晩御飯は肉じゃがじゃー!」
「……コンビニ弁当はどうするの?」
「コンビニ弁当だけじゃ悲しかろ? 一緒に食べればええんじゃ!」


 そういって、ニコニコニコニコ笑う要。
 ……ワタシは、何故か笑えなかった。



 この後バイトがあるから。そう要がいった時、宮川諷子が、慌てて紙袋から可愛らしいタッパーを取り出した。
 中身は、肉じゃがだった。

『おすそわけに……って。わたしは美味しいって思ったけど、口に合わないかもしれない……』
『ああああありがとう! これで食費が助かったばい! 口に合わん!? 愛情込めて作った料理がそんなワケないったい!!!』

 おすそ分けに、涙目になりながらそのタッパーを崇めるように掲げる。
 宮川諷子と要の顔を交互に見て——また胸が、激しく痛み出した。




「(……何で、こんなに痛いのかな)」


 今思い出しても、痛みは鈍くならないまま。気がどんどん萎んでいく。
 その気持ちのまま、ワタシは肉じゃがを口に放り込んだ。

 甘い。いい香り。柔らかい。
 けど、何でかな。

 どうしても、美味しいって、思えない。


「……千代っち? どうしたと?」


 要の心配した声にこたえるのも億劫なぐらいで。


「……今日、まさか人に遭うとは思わなかったから」
「……千代っち」


 そしてまさか、マスクを外して、この口元を晒すとは思わなかった。
 ——けれどそれよりも、さっきから、宮川諷子と要が一緒にいる姿が、どうしても頭から離れられない。


「いい人じゃったろ? ちよっちに、怯えてなかったじゃろ?」


 ……要の言葉に、ワタシは素直にうなずく。
 確かに彼らは、少し動揺していたけど、全然怯えていなかった。
 要の突拍子もない話も、すんなりと受け入れて、何もいわずに帰って行った。たぶん、ワタシの口元のことや要と同居していることを無暗にいいふらすことはしないだろうな、とも。


「な、千代っち。人と会いたくないのは判ったばい。けど、あの二人だけは、信用して大丈夫。な、千代っち。千代っちには、もっともっと、人と接しなきゃだめったい」


 少しずつでもがんばろ? ——そういうコイツは、優しいいい方をする。だけど厳しい。
 コイツのいうことは、間違ってなんかいない。


 このまま閉じこもるだけじゃ、ダメなんだ。
 だって、要とワタシは結局、赤の他人で。要から無償のモノを貰っておきながら、ワタシは返すものは全く持たない。
 ……洗濯物すら畳めなかったもの。宮川諷子のように、肉じゃがを届ける、なんてことも出来ない。

 自分の身すら守れないワタシは、一刻も早く、その術を身につけて、要の元を離れなきゃいけない。
 ……すっかり忘れていたんだ。要って、本当にやさしかったから。
 だけど、今日、要の厳しさを知って、このままじゃいけない、と思い知らされた。


 同時に、突き放されたような、疎外感。
 寂しい。……不安。怖い。

 記憶を失った時、自分が何なのか、そして、コイツを信用していいのか、それだけを考えてた。
 それで、この一週間、ワタシは要と話すだけ、出かけた要を待つだけの日々だった。
 そして今日。……要の友人が現れて。

 これから、沢山のことを考えなきゃいけないと、確信した。
 ……それが、怖い。
 考えることも、その日あったことを思い出すのも、覚えなきゃいけないことも、きっと、沢山増えてくる。
 それを、ワタシは要なしにこなせるのかな。



 この時、あのモヤモヤとした不安と、自分の気持ちに気づけたら、何かかわっていたかな。
 いずれにせよ、ワタシはいろんなものを見落として、勘違いしていたんだ。

Re: 臆病な人たちの幸福論 ( No.480 )
日時: 2013/09/18 22:07
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)

                    ◆


 あのね、ワタシね。
 昔、何もできなかったんだよ。
 何にもできなかった。できなくても、克服しなくていいやって、何処かで思っていたんだ。
 何処かで、努力しなくても、世界は勝手に回るからって。

 そう思いつつ、ね。
 辟易していたんだよ。不満を持ってたんだよ。

 いろんなものに満たされているくせに、
 心の中は、幸せじゃなかったんだ。

 だけど、ね。
 あの日、あの夏。キミがくれたやさしさと厳しさがね、変えてくれたの。
 ダメだと一線を引いてくれた厳しさが。踏み込まないといけないといった厳しさが。
失敗しても、褒めてくれたやさしさが。踏み込めれないとき、ただ、見守って待ってくれたやさしさが。

 ワタシを、沢山、かえてくれたんだよ。


                    ◆


 次の日。
 朝起きて、気が付いたら、ワタシ、料理をしていました。
 ……否。しているつもりでした。


「……何、コレ」
「何って……食パン」
「え、食パン!?」
「ちょっと焦げちゃったけど……」


 ……いや、ちょっとどころじゃない。
 これはどう見たって、灰だ。ダークマターだ。食への冒涜である。
 目玉焼きも……全然だめだった。


「……ごめん、要」
「……これ、千代っちが作ったと?」


 改めて要が聞く。ワタシは、羞恥と罪悪感で顔を俯かせた。要がどんな表情をしていたのか、判らなかった。


 ——ああもう、ワタシのバカ。この役立たず。そればっかりか、足を引っ張ってさえいる。
 何で今日、朝ごはんだなんて作ろうと思ったのよ!!

 そう思った時、ふと、あの肉じゃがと、要と宮川諷子の笑顔が頭をよぎった。
 けれど、何でかそれを認めてはならないように思えて、すぐ気のせいだと取り消す。

 ……。ワタシ、要から早く自立したいって思ったから作ったの。このままじゃいけないから。迷惑ばかりかけたくなかったから。

 ——だけどこんなマズいもん、誰が食べるっていうのよ!?

 っていうか洗濯物すらろくに畳めなかったワタシが料理なんて出来るわけないじゃない。何やってんだワタシ!

 呆れられた。きっと、怒ってる。
 そう思った時だった。

 バリ! という音と、香ばしいというよりむしろ焦げた匂いで、ワタシは顔を上げる。
 見るとそこに、小さなちゃぶ台の上で灰になった食パンをかじる、要の姿があった。


「って、ちょぉぉおぉ!?」


 慌てて止めてももう遅い。


「んー……ちょっと苦いったい……」
「いやちょっとどっこじゃないし! 早く吐き出して! 死ぬ、それはあまりにも身体に悪すぎるから!」



 血相変えて、慌てて止めても、要は笑うだけ。おかしいぐらいに、おかしいように。それで、食べることを止めない。
 まるで、本当に美味しいかのように、笑う。
 それを見ると、胸が痛いと感じられるように、なのに優しく締められる。



 泣きたくなった。
 昨日とは、別の意味で。

 昨日、「人とかかわらなきゃいけない」って厳しくしていたくせに。
……なんで、この人はこんなにも。甘ったるいぐらいに。




「……ワタシも食べる」
「え!?」


 ストン、と席に座って、灰になった……もう炭になったでいいや。それを口に含んだ。


「……うわ、ニガ! ニガ! ニガ! まっずぅ!!」


 のたうち回る程ではなかったが、それでも叫ぶぐらいには十分すぎるほどまずかった。


「ああ俺がいわんかった一言ば!!」
「——って、やっぱまずかったんじゃない!!」
「……うん、まずかった」


 その一言で、シン、とその場が静まる。



「……ブハア!」
「……な、何で笑うのよ…………アハハ!」


 噴き出していた。笑っていた。
 笑い声が絶えぬまま、ワタシは炭と化した食パンを食べる。

 不思議なんだ。絶対、絶対昨日の肉じゃがの方が美味しいはずなのに。


「……でも、昨日の晩よりも楽しかばい」


 要のいう通り、今日のごはんの方がずっとずっと、楽しくて。嬉しくて。
 失敗しちゃったのに、すごくすごく、嬉しくて。人の為に作れるって、こんなにも凄いことなんだって、こんなにも嬉しいことなんだって、初めて知った。
 一緒に居るって、こんなにも心躍るものなんだね。
 こんなにも、嬉しいことで。


 このやさしさは、決して無償なんかじゃ、ない。
 ……いつか離れなきゃいけないというのは、判るけど。


「……今度の休み、一緒に晩御飯ば作ろう?」

 教えるけん、と要は笑った。
 その笑みに、ワタシはぎこちなく返す。



 ——今だけは。今だけは、このやさしさに、甘えていいんだ、よね?



           厳しさよりも、甘いやさしさ


(瀬戸要。記憶を失ったワタシを拾ったのは、)
(厳しくて、それに比例するように、甘いほど優しい人)

(この人が居たから、ワタシは、ワタシの世界を変えられたような気がするの)

臆病な人たちの幸福論【口裂け女、労働青年とただいま同居中!】 ( No.481 )
日時: 2013/09/18 22:17
名前: ケビン (ID: d7b7GCUT)

なるほど、一理ありますな

Re: 臆病な人たちの幸福論【口裂け女、労働青年とただいま同居中!】 ( No.482 )
日時: 2013/09/20 19:04
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)

ケビン様!

コメありがとうございまあああああああああああす!! アンド初めまして火矢八重ですお見知りおきを!!
一理通じる話だったでしょうか!? 自分どこに向かってるんだかわからないときがあるので、そういうコメを貰うと心底安心します!w

ありがとうございます! 更新このいきで頑張っちゃいます

Re: 臆病な人たちの幸福論【口裂け女、労働青年とただいま同居中!】 ( No.483 )
日時: 2013/09/27 23:49
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)


 よだかは、醜い鳥だった。
 顔は、ところどころ、味噌をつけたようにまだらで、くちばしは平たくて、耳まで裂けて。
 足はまるでよぼよぼで、全然歩けもしない。役立たずの鳥。

 周りの鳥は、よだかを嫌った。
 よだかは、周りに嫌われる自分が、大嫌いだった。

 なのに、名前は。獲物を逃さない鋭い目と、見るものを慄くような爪とくちばしを持ち、颯爽と空を翔る鷹の名前に、似ていた。
 足で地を歩けはしないけれど、昊では、鷹と同じように強く飛べたから。

 それはとりえであったはずなのに、それが原因で、よだかは鷹に疎まれていた。






「……あ、それ、『よだかのほし』じゃないですか」
「あー……。瀬戸から千代は本が好きだっていってたからな。こういうのもいいかなと」


 普通の制服に着替えた際に借りたこの三冊は、ふと、目に留まったものを手に取ったものだった。

 その中に、『よだかのほし』があったのは、偶然だったのだろうか。それとも、これから先のことを暗示する、一つの予兆だったのだろうか。




第四章 それは、全てを変えるような






 トコトコと並んで歩く高校生ズもとい、瀬戸と約束していた俺とフウ、そしてついてきた杉原と星永は、瀬戸の住んでいるアパートに向かっていた。
 ……何故か、二学期に転校する星永も瀬戸と知り合いだとは思わなかったが。
 どんな知り合いなのか、フウが尋ねると。


「師匠と弟子かっこ自称や」
「……」


 ツッコミどころがありすぎる。
 しかもこの様子(いってドヤ顔している)だと、説明してもらっても判らないだろうと思った。……後で瀬戸に聞いてみよう。
 短時間で、フウと星永は仲良くなった。どれだけ仲良くなれたかというと、彼氏の俺を前に出して後ろで仲良く並んで喋りまくっているぐらいだ。
 フウに関しては全然驚かないが、星永がフウのような人間に対して案外普通に接しているのが、結構驚きだった。一目見た時に、星永からは、俺と同じような匂いを感じたからだ。
 人を疑うことに慣れて、辟易して、疲れ切った、そんな匂いに。
 ……黄色い声でしゃべる星永の顔は、そんなモノは全くないが。

 ちなみに俺の隣には杉原がいる。杉原は後ろの二人の方には全く向かず、しっかりとした足取りで前に歩いていた。
 特に美人というわけではないが、毅然とした横顔と、まっすぐ前を見る瞳と、しっかりと結い上げられたポニーテールは、とても映えて、普通に綺麗だと思った。


「……何?」


 視線を感じたのか、訝しげに杉原がこちらを向く。
 俺は嫌な思いをさせてしまったかと、慌てたまま口走ってしまった。


「いや、綺麗だなと」


 いってから、あ、しまった、と思った。
 思わず、フウの方を見る。が、フウはキョトン、とした表情をしていただけで。
「な!」杉原はさっきまでの凛とした表情とは打って変わって、顔を真っ赤にして情けないぐらいにあたふためいた。

 ちょっとまずい、と思った時、意外にも、星永との話を中断したフウの救いの声が降りかかった。



「あ、そうですよね。雪ちゃん、時折すごくきれいで凛としてるって思いますもん」
「な、フウちゃんまで!」


 …………話の矛先は、フウに向けられる。
 良かった、と思うのと同時に、少し残念な気持ちが俺の中にとどまる。
 フウは、俺が他の女の子に「綺麗だな」といっても、妬いたり怒ったりはしないのかな、と思った。
 ……いやそれが、フウの良いところなんだけど。


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