コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『優の独白』更新】 ( No.514 )
- 日時: 2013/11/30 22:48
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
意味のあらへんものやとは、いわへん。
必要あらへんとは、いえへん。
いじめは確かに、醜くて、悲しくて、惨めで、本当にドロドロの沼のような、汚らしいものやけど。
それを全部取っ払った方がええとは、いえへん。
その中に、輝きを持っとう大切で尊いもんもあるから。それを見つける為に、必要な泥やから。
『いつか、それをいけないことやと判る為に』必要なものやと思うから。
せやけど、学校を卒業しても、大人になっても、誰かをいじめよう奴はおる。
泥から大切で尊いもんを見つけるんは、個人の意思なんやろう。
いじめる奴はそんまま誰かを貶めつつも、自分の品位も貶めとる。いじめられとう側はどうやろう。いじめとう奴みたいに、世の中すべてを憎んで自分を貶めとるかもしれへん。または、わたしが悪いんやと、ずっと自分の存在意義を否定しようかもしれへん。
それは、個人の強さと、運命や。
せやけど。
だからこそ、教育というんはあるのではあらへんのやろうか。
教育は、教えようだけやない。誰かを育てよるという意味がある。
育つために、必要な困難がある。
感情だけ突っ走れば、それはとても嫌なもんで、甘んじて譲受したくはあらへん。誰やってその困難を避けたがるんやろう。せやけど、それは大波のようなもんで、避けようても後退しようても、逃げ場があらへん。
その波を乗りこなして、波が収まるまで耐えきらんとならへん時がある。
誰だっていややろう。あたしだって嫌や。若いうちに苦労しとけと老人にいわれようても、やっぱり、面倒なことはしたくはあらへん。
せやれど、理性で、それを正しいと思わなければならへん。
現実を見ろ。少しの意見の違いで、こんなにも人を嫌な風にいえとる。少し違う外見で、こんなにも人を貶めとる。少しの不満が、小さく表れて、その小さな不満が、誰かに伝わるごとに雪だるま式で膨らんでいきよる。
ほんの小さなことで、人はこんなにも、こんなにも残酷になれよる。
それは醜くも、『社会』を成り立つ為の、副産物なんや。
小さな不満を解消する前に、大きな仕事が待っとる。
小さな疲労をいやす前に、闘争心に巻き込まれよる。
小さな生活を守るために、大きな存在に支配されんとならへん。
それは仕方がないことやと、生きるためにはそうせえへんと明日は来へん、誰もがいっとる。
例えば、校則を上げてみる。
生徒は学校では、校則やからと、好きな服も好きな格好も出来へん。部活でクタクタに疲れさせられようた後、大量の勉強が待っとる。にも関わらず、塾に行かせられよる子は多い。
教師は生徒のために何かをしたいと思ってなったんに、あまりにも多すぎよる仕事でそれどころではあらへん。生徒の気持ちはわかるが、あまり大きなことをしたり、クラスの成績を下げてしまうと目をつけられ、転勤を余儀なくされる場合が多い。
校長や教頭は、体裁を気にして、大きな問題を起こさへんよう起こさへんようにと、下の人間の自由を少しずつ減らしていきよる。
誰も、考えたことがあらへんのやろうか。
ずっとずっと疲労しっぱなしでは、たどり着く場所は、破滅しかあらへんということを。
少し考えれば、それを少し行動すれば、もう少し、楽しくて幸せな日々が送れよるかもしれへんのに。小さなことを、一つずつ、考え直していけば。
やれど、それを考えた人は、少ない。
いや、多分、みんな気付いてるんやと思う。思うけど……それを行動しよれば、少なくとも『今の状態』とは違うことになってしまう。
それは、幸せな日々なんやろうか?
それとも、今の状態より、もっともっとひどい日々なんやろうか?
……後者なのかもしれへん。
誰も行動せえへんから、そうなった後が判らへん。保証が判らへん。
あたしはまだ子供やから楽観的に考えとうけど、例えば教師とかは、生徒の責任を持つわけやから、簡単に動くことが出来へん。
会社も、また同じく。
やから「校則を守らへんで社会に行けよると思うなよ」とか、脅し文句を使うんやろう。
……これが、いじめに当てはまるんやったら。
「こんなことにも耐えきれへんで、社会に出られるとか思いよるなよ」
または、
「こんなことしかできへん人間なんて、社会に出せるわけがあらへん」
……やろうか。
いいたいことは判る。やって全部、正論やから。
せやけどそれは、あまりにも残酷で、無責任で、考えへんでも誰にだっていえよう。
「いじめはするな」「いじめられよる方も悪い」「いじめを見とう奴も悪い」
誰にだって言える。反論なんてできへんから。正論やから。考えへんでも、当たり前やから。
せやけどそこで留まってしまえば、進めへん。正論だけじゃ、人間関係のやりくりは出来へん。
……せや、あたし。考えたいんや。
自分がいじめられとうから、このままで負け犬になりたくあらへんのや。
あたしが闘っとうのは、あんなちんけな存在やあらへん。あれと闘いようてちゃ、キリがあらへん。人の心と闘いようわけやあらへん。人の心をどうにかしようなんて、出来ようわけがあらへん。
あたしが闘いたいんは、仕組みや。こんなみすぼらしい副産物を作りよった仕組みを壊したい。壊した後、少しでも良い日常が欲しい。
あたしは、いじめらようて判ったから。こんなの、間違っとるって判ったから。間違っとうなら、正したいと思いようたから。
……やけど、あたしのちっぽけな知識と考える力だけや、そんなの無理で。
そして、そうやって闘いようことに、疲れとうて。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『優の独白』更新】 ( No.515 )
- 日時: 2013/12/10 19:50
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
思い込むことに疲れた。
信じようことに疲れた。
このままどうにでもなれという、諦めと。「何を思い上がって行動しとるのや」と嘲笑しよる自分がおることに、ほんの少しの恥を持って。
せやけど、手放しようことも、怖かった。
怖い。
そう思えば、理性で押さえとうたざわつきが、一斉にうねるように動きよう。
怖い。怖い。
嵐のように、それは唐突に。そして、雪だるま式に膨らんで、あっという間に巨大化しよる。
「…………うわああああああああああああああああああああああああああああああああん!!」
叫び声を上げた。
思うがままに、近くのものを齧ったり、投げたり、殴ったり。
ワケが判らへんまま、怒って、泣いて、暴れて。
止めよう、こんなことしようてもどうにもならへんのに、と思いつつ、出しても出しても尽きないこの感情は、止まらへんかった。
まるで、台風みたいやった。
気分が重くて沈んで低くなりよる。
低気圧へ、どんどんと前向きな気持ちが吸い込まれていく。
外も、叩きつけようように、風と雨が、窓を揺らしとった。
ザアザア。ザアザア。
……ほんの少し落ち着いたあたしの耳に届きようたんは、ただただ、雨音で。
静寂のようで、静寂やあらへん。
沢山叫びようたにも関わらず、あたしの心は穴が開きよったように、何もあらへんようやった。
あれだけ激しかった怒りも、悲しみも。穴があるだけで。それが満ちへんのが、凄く違和感があって。
恐怖は、あるようで、あらへん。
誰か。誰か、助けて。
必死にそう思った。
誰でもええ。何とかして。穴を埋めれるんやったら、何とかして。
いつの間にか、外は真っ暗になっとうて、電気もつけへんまま、あたしはリビングまで手探りで歩く。
途中で、昔大切にとうた竹のおもちゃが壊れてとったことを知った。……あんだけ大切にしとうたのに。
それを見て、途方もあらへん無感情が穴をすり抜けよった。
いや、無感情やあらへんかもしれへん。壊してしまった悲しみと、そこから来る後悔と、どうでもええと思う諦め。
……せやけど、やっぱり、感情は無いような気がする。
リビングの明かりも消えとって、妹の気配もあらへん。何処か遊びに行ったのやろうか。両親は共働きなので、今日は一日おらへん。
誰も、おらへん。
助けて欲しい。誰かに。
無いものねだりで、とんでもあらへん我儘な気持ちが、腕と指を動かしとうた。
ゆっくりと数字を押して、……機械の音が流れる。
バカやなあ、あたし。
こんな時に、あの人にかけよるなんて。
一人暮らしをしとって、バイトもしとるあの人にとって、こんな時間の電話は、迷惑の何者でもあらへんやろう。ひょっとしたら、まだバイトから戻ってへんかもしれへんのに。
せやけど、切ることなんて、出来へんで。
『……もしもし? 瀬戸ですが』
繋がりようた途端、あたしは息をつきよる暇もなく話した。
あたし、何を言ったんやろう。
自分で気が付かへんほど、喋って喋って喋りまくった。そして話せば話す程、何だか涙が出てきとった。
鼻水と涙で顔はグシャグシャになっとうて。喉はカラカラで、痰が絡んで濁って、気持ち悪かった。
カッコ悪いな、と思った。
誰かを助けよう人間になりたい。
とても強い主人公にあこがれた。強くて優しくてカッコイイ主人公に憧れた。
頭のええ主人公に憧れた。綺麗な主人公に憧れた。
それに一歩でも近づきとうて、幼い頃はひたすら努力しようた。
勉強も出来て、運動も出来て、ファッションにも拘って、優しい人になろうと頑張って。
……そうして、それに近づきよれば近づきようど。
何故か、人は遠ざかって行った。
「目立ちがり屋」「キモイ」「ウザイ」
「自己中」「ブスが調子乗ってんじゃないわよ」「見下ろしてんだろ」
「近づかないで」「死ね」「消えろ」「汚れる」「穢れる」
……ああ。
あたしは何かしたんやろうか。
一生懸命になった。何事にも。それこそ周りが見えへんぐらい。
だからやろうか。その周りが見えない時に、あたしは周りを傷つけたんやろうか。
目立とうと思ってやったわけやあらへん。
気持ち悪いことをしたつもりもあらへん。
ずっと誰かに引っ付いた覚えもあらへん。
自分中心に物事を考えたつもりもあらへん。
調子に乗っとうつもりもあらへんし、自分がブスだとは思わへんかった。
頭がええことを理由に、誰かを見下ろしよるなんてこと、してへん。
……せやけどそんな自信は、だんだんと崩されていっとうた。
自分は自覚せえへんうちに、目立とうとしたんやろうか。気持ち悪いことをしたんやろうか。誰かにずっと引っ付いとったんやろうか。自己中やったのか。調子に乗っとったんやろうか。皆を見下ろしていたんやろうか。
自覚してへんだけで、心の片隅でそう思っとうて、それが態度に出てしまっとったんやろうか。
暗いトンネルを潜っとっていたようやった。
果てしない自問自答に溺れそうになった。
死んでしまいようたらええのかもしれへん。そう思った。
何もかも、自己否定しようと棄ててしまいそうになっとうた時、師匠にあった。
あたしよりも強うて、あたし以上にアクの強い方言喋って、あたしより優しくて、あたしより人のことなんか気にせえへんで、あたし以上に…………ずっと、ずっとつらい経験をしよった人。
あの日手を差し伸べられて、そしてあたしは、やっと自分を肯定できることが出来た。
……その肯定した矢先に、あたしは、今度はずっとずっとため込んどった不満や理不尽を、全て憎しみに変えようた。
中学校時代のいじめは、攻撃的やったあたしの言動や行動に触発されよって、後で先生に『問題児』扱いされて少し大人しくなったあたしに、今や今やと叩き潰しようチャンスを待っとったんやろう。
沢山沢山恨んだ。憎んだ。こんな目に遭わせた奴らを、本気で殺したいと思っとうた。死ね、と呟きようた。殺してやると呟きようた。本気でカッターを持って襲う姿を想像しようた。靴を隠してやろうと思いようた。大切なものを踏みにじって、ギタギタに刻んでやろうと思いようた。
……せやけど、出来へんかった。
あれほど憎みようたのに、あれほど絶望して悲しんで、あれほどあたしを踏みにじっとうた奴らやのに。……嫌われとうあらへんと思った。心の底から。
そんな風に思っとう自分が、たまらなく嫌いで嫌いで——やのに、どうしてか、捨てられへん。
捨てることが出来へんかった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『優の独白』更新】 ( No.516 )
- 日時: 2013/12/10 20:30
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
『……そいで、良かと思うったい』
電話越しに、師匠はいった。
『他人ん品性ば貶める奴は、自分の誇りすらも貶める。そーまでして得るものはなか。誇りあってこその人間だから。誇りちゃてなければ、そん金も地位も、ただん持ち腐れになっとうばい』
優っちは賢いんよ、という。
『そいが本能的に判っちいたから、楽になるかもしれん道ば捨てよった。憎しみば晴らすためにわざわざ自分がそーなるん必要なんはなかって、大切なものがちゃぁんとわかっちょったから、捨てた。……偉いんよ、優っちは』
「偉いなんてっ————」
そんな言葉で茶を濁さんで。
そんな言葉じゃ、苦しいだけやのに。
『……うんうん、優っちは偉かよ。じゃから、慰めの言葉なんてかけんばい』
「……っ!」
『慰めても、気ぃは晴れないと思うったい。そんに、それは多分、俺が解決できるものじゃなか。優っちが気づいた方が、優っち、きっとよかと思うから」
そういいようて、師匠は、電話を切った。
バイトがあるから、といって。
そんな。
それじゃ、今、どうすればええの? 師匠でも助けてくれへんの? 師匠、あたしを見捨てようの?
……自分勝手な思いが、彷徨う。それは、時間が経てば経つほど、憎しみに変わっていきよう。
バイトがありようから、あたしの電話を切るですね。
あたし、どうでもええ存在なんですね。
あなたにとってあたしは、気の重い奴なんですね。
……違うのに。バイトやから、仕方がないのに。
師匠のこと、好きなのに。恨みとうないのに。……なのに、思考は、全然、いいようこと聞かへんで。
どうしようもあらへんで、仕方がなくて。
パタリ、と意識が消えていきようた。
◆
気が付くと、リビングは明るくなっとって。
何や騒がしいなって、端から端を見ようと、妹と、今日会ったユキと、友人であるリナと、モエがおった。
……え、なんでおるん。
「……あ、やっと起きた!」
すぐ傍にいたリナが声を上げると、一斉に残りの三人がこっちを向く。
「ちょっと! アンタ大丈夫!?」
「おねーちゃん、リビングで寝とうたんよ!?」
「本当に皆びっくりしたんだからね!?」
「良かった、無事で」
一人だけ冷静にいうリナ以外は、勢いがあって思わず身体を縮ませていた。
「ど、どうして皆が……?」
「ここに来る前に、瀬戸君から電話がかかっていてね」
師匠から……? ビックリするあたしに、ユキは続けようた。
「『ちょっと、様子がおかしいから、見に行ってくれって』……あなた瀬戸君と知り合いだったのね。聞いてビックリした」
「ついでに、あたしたちもその場に立ち会っていたから」
「気になってついてきたんです。そしたら、妹さんが青い顔で『誰でもいいから入ってきて』って飛び出してきたものだから……」
「ちょっと、動転しとうて……あ、おねーちゃん、モエさんがラーメン作ってくれようたんよ! 風邪でもあらへんらしいから、普通に食べれようやろ!!」
……もう少しゆっくり喋ってくれ。
そう心の中で思いつつ、一生懸命みんなの言い分を聞いて対処しよううちに。
いつの間にか、あれほど大きな穴があったモノが、満たされてとった。
師匠、電話してくれたんや。
ユキ、それで来てくれたんや。モエも、リナも。こんな大雨ん中を。
妹は……心配、してくれたんや。
空いとうたお腹は、温かいラーメンで満たされていく。
冷え冷えとしとうた空気が、いつの間にか、軽くなっとう。
あれだけ重たかった身体も、寝たからやろうか。頭も、冴えてとった。
……それで、気づいたの。
あたしは、闘いたい。せやけど、今とても余裕があらへんのやって。
自分が悪いわけでも、傲慢でも、やりとうてもそんな力があらへんわけやないということも、判ったの。
余裕があらへんだけなんやって。
……余裕が出来れば、自分でそれを作れる力をつけれるようになれば、ええんやって。
何かをしたわけやあらへん。
せやけど、目が覚めれば、いつの間にか解決しとった。
……台風やってそうや。幾ら人の手でなんとかしようと思うても、台風は終わらへん。
せやけど、何時か過ぎていきよう。そして、自然と消えていく。
そうやって時間が解決することもあるんや。
不思議だ。
何故あの台風が終わった後は、こんなにも和やかになれるんやろう。こんなにも、満たされよう気持ちになるんだろう。
不思議で不思議で、たまらへんで。
「何? 急に笑って。いいことあったの?」
自然と、笑うことが出来るんや。
例え高気圧でも、晴れの日は、気持ちが良うて
(逃げとっも、また闘えること)
(過ぎ去っても、向き合うことが出来ること)
(……この出来事がすべてやあらへんけど。せやけど、転校しようこと、ちょっと考えてみようと、思うきっかけになったんや)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『優の独白』更新】 ( No.517 )
- 日時: 2013/12/10 21:26
- 名前: ルゥ (ID: GgqdNweE)
はい、ってことでババンと登場ルゥちゃんです←
いまだ考えがまとまってない、が、とりあえずはまくしたてますww
えっとですね、とりあえず……
あんたマジで神かっ!!!
神様なんかっ!!!!!
降臨致しましたかっ!!!!!??
もうほんっと…
八重様の小説好き過ぎて……
優ちゃんのそれに共感でき過ぎて………
僕の翻訳進まないのってやっぱ、やってるうちに感涙で前見えなくなるからであってますかね…?あってますよね?うん絶対そうだ間違えてる訳が無い(真顔)
でもほんと、今回は素敵すぎです…;_;
僕も小学校転校したんですよね…逃げたんですよね…
でも転校先の学校でも結局変わんなくて、というか悪化した状態になってしまって……
また逃げるように中学受験して……
でも受験失敗して、結局変わんないままだったんですね
だからかわかんないけど、僕、自分のことも他人事みたいに見る癖がついちゃって…
中学の時の先生曰く、「自分のことも傍観的に見過ぎてるせいで『どうでもいい、どうせ他人だし、とうなろうと知ったことじゃない、自分には関係ない』が自分自身にも適用されてる」らしく…
治せとは言われたんですが、3年経ってもいまだ治んないんですよね
別に二重人格みたいなじゃなくて、ただ、理解したうえで傍観的に見てるんです
たぶん僕には優ちゃんみたいに戦う勇気がなかったから、今になってこの癖が自分に向かってるんですよねww
将来の夢がないのも、やりたいことが見つからないのも、なんでも全部どうでもいい、どうせどうにかなるんだし、って見ちゃうのも、ダメってわかってても治らないんですよねw
だから、八重様の小説読んでると、こんな僕でも頑張ろうって、少しでも思えるんです
何が言いたいのかわかんなくなってきたんで強制終了ww←
とりあえず、八重様の小説に励まされてるんですよ僕は!←
なんというか………たぶん、言葉にするんなら「ありがとうございます」なんだと思います
ほんと、ありがとうございます
小説に励まされてるのもあるけど、今の僕の性格上“自分”が“他人”なので、おかしな話ですが、自分が自分に積極的に関わろうとしないんです
なので、ほんのちょっとでも頼ってくれる人がいると、「これは僕にやるべきこととして与えられたもので、他人のものじゃない」「これは僕がやることだから、これをやってる間は確実に僕が僕なんだ」って思えるんです
なので、そうゆう面で言って、今の僕にとって頼ってくれる人がすごく大切で大事で、励まされてるんです
ほんとに、いろいろ(勝手ながら)ありがとうございますと言わせてください
まだまだ、しばらくは頼っててくださいwwwwww
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『低気圧&高気圧注意報』更新】 ( No.518 )
- 日時: 2013/12/10 22:21
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: MuUNITQw)
まず一言。
翻訳、ありがとうございましたあああああああああああ!!
次に一言。
感想ありがとうございまああああああああああああああああっす!!
もう一つ一言。
ありがとうございまあああああああああああああああああああああああっす!!(感涙
ルゥ様
もう神とか降臨とか! ルゥ様ったらおだてるのジョーズ(ハート
……あ、今キモかったわ自分。ちょっと悪寒がした。
え、そうなんですか!? 結構早かったような!?
でも感動してくれたようで嬉しかったです!!
小学校……転校なされたのですか。
良く聞きますよね、「転校すればいじめられないんじゃない?」って。
でも、わたし、転校して虐められなくなったという人の話、聞いたことがない。
ルゥ様もまた、転校しても同じようなことになられたのですね……。
といいつつ、転校しようとするルゥ様の行動力に、かなり驚いたりw
私だったら「何処だって一緒でしょ」とか、「またいじめられる」とか、「メンドイ(笑)」とかいって、結局行動しなかったような気がする……ww
〜ちょっとしたおせっかい〜
つまり、ここという時はクールに対応できるということでしょう? どうせなんとかなる、っていう心構えも、人生じゃ必要だし。
私には持っていない技術なので、うらやましいです(´・ω・) 私の場合はそれが出来なくて、相手に同情しすぎて余計なおせっかいをしてしまったり、多少責められたことで自分を全否定されているかのように思って泣いてしまうことがあるから……。
自分のこととは関係ない、と自分で思うのは、時に心を壊さずに済む、とてもいい手段だと思うので。治す、というよりも、「人と積極的に関わる」「自分のことについて考える」みたいな技術を身に着ける、という感じでいいと思います(ああ、余計なry)
〜ちょっとしたおせっかい終了〜
優ちゃんの人間性は、本来ならばありえないかもしれません。
いじめられても尚、自分を否定せずに、しかも相手を憎むことを好まず、「社会の副産物」に真っ向から立ち向かうことは、わたしたちリアルの人間には、出来ないかもしれません。
でも、これらの断片的なことだったら、出来る可能性があります。
それも、一つ、また一つ乗り越えることが出来れば、全てできていた、なんてことになるかもしれません。
自分は正しいんだって、自己肯定すること。
嫌なことをされても、相手を憎まないようにすること。
社会の嫌なことから、真向に闘うこと。
これらは全て、簡単に出来ることではないけれど。……書くことで、目をそらさずに頑張ることを、わたしは何時もくりかえし頭に叩き込んでいるんだと思います。
自分を励ましている小説が、読んだ人を、ルゥ様を、また励ますことが出来たのなら。それは、とても幸せだなあ、と、本当にありがとうございます、と逆に励まされていることに気づくのです。
翻訳については、本当に嬉しかったです!
「自分の小説の為に、自分から何かこの小説の為に創作をしたり、手伝いをしてくれる」というのは、何だか本物の作家になったみたいな優越感と、本当にこの作品を好きでいてくれるんだな、と涙が出そうなぐらい嬉しかったw
こちらこそ、本当にありがとうございます。
つきましては、これからも。よろしくお願いします!!! 頼っちゃいますからね!?w
ノロウィルスとインフルにお気をつけて。では!! 優ちゃん編も書けたことで、いっちょ受験頑張ってきます!!(笑
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