コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122



Re: 臆病な幽霊少女【怠惰な女性司書編 三話更新!】 ( No.33 )
日時: 2012/10/16 19:14
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)

「……ったく、良く判らない」

「連呼しないで頂戴。地味に傷つくわ」

「アンタだけじゃねえっつの。……大人って、子供に何を要求するのか、さっぱりわからない」





 ——その、何気ない言葉が、私の胸を鋭く刺しました。




「こっちから話しかければ、『話しかけんな』っていってくるし。逆に話さなければ、『私を無視すんな』っていってくるし。ホント、どっちかにしろ」

「……誰にいわれたの?」


 私は聞いた。

 彼のいいたいことは、直感的にわかった。



 聞きたくない。

 でも、聞いた。聞いてしまった。













「俺の親だ」



 ——聞いてしまった。


「……昔はそれでも、声をかけていたんだけど。今は諦めて、いいたいことをいわせてる。

 昔と比べて、随分傷つかなくなっているけど……うんざりなんだよな」


 三也沢君は、冷めた目をしていた。


 ——その瞳が、あまりにも恐ろしかった。

 最初は、その瞳に興味を持ったのに、今はその瞳に怯えている。

 何で怯えているのか、自分でもよくわからなくて。

 わからないのが、更に怖くなって、暖房が入っているのに、凄く寒くなった。

 思わず、目をそらす。


 何か、いいたい。でも、私に何がいえる?

 何か、いわなくてはと思う。でも、本当にいっていいの?



 無意識に、ギュ、とスカートを掴んだ。


「……キミのお母さんは、今はそうだろうけど、昔は違ったと思うよ」

「……」

「だって、……半端の覚悟じゃ、産めないもの。子供のことを思わない親なんて、居ないと思うわ。すくなからず、昔はキミのことを想っているハズよ」



 遠い過去を思い出す。

 あの子を授けて、本当に嬉しかった。

 不可能っていわれ続けた私のお腹に、自分の血が流れている赤ちゃんがいたんだもの。

 主人も喜んでくれて、一緒に育てて。

 小さな手で、一生懸命私の手を掴もうとしてくれたときは、涙が溢れそうだった。


「……私も、五年しか子供を育てていないけれど、でも、たった五年でも、ずっとずっと息子のことを思っていた」


 同時に、私は憎んだ。

 息子を殺した外道も、息子すら守れず、のうのうと生きている自分も。

 息子を追放した、この世界も。


 全部、全部、憎んだ。



「キミが羨ましいよ」私は呟く。

「キミのお母さんが羨ましいよ」私は繰り返す。


 私だって、息子には生きて欲しかった。
 健やかに、のびのびと、優しい子に育って欲しかった。


 息子が見ていく世界を、一緒に見て行きたかった。














「じゃあ何で、息子の墓参りにいかないのか」


 あの子が、口を開いた。


「どうして、息子の冥福を祈らずに、周りを憎むんだ。

 アンタ、自分でいったじゃないか。子供を想わない親なんざいないって。……なら、何でおまいりに行ってやらないんだ。今日が命日なんだろ。命日ぐらい、いけよ」

「それは……」

 仕事があるからよ。こう見えても、忙しいんだから。

 そういおうとしたときに、バン!! と三也沢君が机を叩いた。


「三也沢君……」

「大切に想ってんなら、何で。
 ……どうして、会いにいってやらないんだよ! ちゃんと言葉にしないんだよ!」


 私は呆気にとられた。三也沢君の怒る姿なんて、初めてだったから。


「アンタ、羨ましいっていったよな!! 俺と、俺のバカ母が羨ましいって!!

 俺は逆にアンタが羨ましいよ! 死んでもなお、アンタに思われている息子が羨ましいよ!!」


 燃えていた。

 氷のように冷えた瞳が、燃えていた。


「周りを憎んで、何かのせいにすることを、アンタの子供は望んでいると思うか!? そんなわけねえだろ! いってやれよ!! 仕事なんて放りだしていけよ!! ちゃんとお母さんは覚えているよ、愛しているよ、っていってやれよ!!」






 ——その通りだった。本当に、その通りだった。

 私を、こんなにも苦しめている理由は、息子を失ったからじゃなくて。

 私が、弱かっただけなのだ。




 最初はとてもとても悲しかった。

 次に感じたのは、薄ら寒い『寂しさ』だった。

 ぽっかりと、心に穴が空いたそこから、冷たい風が吹いた感じだった。

 それが私にとって、一番の『恐怖』だった。


 ……同じ。同じなのだ。

 私も、三也沢君のお母さんも。

 自分のことに向き合わず、それを子供に押し付けているだけだったのだ。

 ……それを今度は、寂しさを埋めるだけに、三也沢君に押し付けようとしたのだ。

 それを認めるのが怖くて、私は三也沢君の瞳から逸らしたのだ。



 何て、醜いんだろう。


                      ◆


「お疲れ様でした、せんせー」

「はい、お疲れ様」

 雪が、ポツリ、ポツリと降ってくる。今年の初雪だ。

 雪ちゃんが去った後、私は奥の部屋へ行ってみた。

 開けてみると、冷たく、澱んだ空気が入ってくる。

 三也沢君にこの部屋の鍵を渡した後は、私はこの部屋を使っては居ない。













 あの日。

 もうそろそろ帰ろうとした時に、奥の部屋から三也沢君の声が聞こえてきた。

 最近、良く三也沢君が誰かと話している声が奥の部屋から聞こえてた。友だちでも作ったのだろうか、聞こえ出したときから、三也沢君は明るくなっていた。


 まだ居たのね、と思った私は、図書室の鍵を渡すために、奥の部屋へ踏み入れた。






 開けたとき、私は恐ろしさに固まった。

 三也沢君は、たった一人で、誰かに話しかけていたのだ。

 何か、嫌な予感がした。

 これ以上三也沢君を放っておくと、いけない。

 だから私はいったのだ。




「こんなところに一人で居ないで、早く帰りなさい」と。





 ……良く考えれば、あの日から三也沢君はここに来ていない。丁度良く、今期の図書委員の活動も終わっていたし。


 私は、間違ったことをしたのだろうか。

 余計なお世話だったろうか。

 彼を、傷つけるようなことをしたのだろうか。

 直接本人に聞けばいいのだけど、聞けなかった。
 ……確認するのが、怖かった。



「案外私も子供なのよね」


 ポツリ、と呟く。


 嫌なことから向き合わずに逃げて、間違ったことを誤魔化そうとする。

 ……大人になると卑怯になる、ってよく聞くけれど。


「私は、子供だわ」


 そう、子供なのだ。

 私は、臆病な子供なのだ。


 ただ、甘えたがっている子供なのだ。





         怠惰な女性司書は、紛らかす



(勝手に振り回して、無責任な言葉を吐いて、何も向き合わずに押し付けて)
(私たちは大人なのに、)

(子供に甘えるなんて、どうなのよ)

Re: 臆病な幽霊少女【怠惰な女性司書編 完結】 ( No.34 )
日時: 2012/10/19 16:04
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
参照: この小説は、雰囲気小説です(いや何時もだけど)。雰囲気でお読みください

『参照三〇〇突破記念 【私と彼と優しい物語】』


 あれは、わたしの正体がバレる二日前のこと。

 ストーブがつき始めた、十二月の初めでした。

 何時も彼が読んでいるのは宮沢賢治の著書が多かったのに、その日は別の本だったのです。

 別に珍しいことではありませんでした。彼も、宮沢賢治だけではなく、色々な本を読んでいるのですから。


 でもその本は、わたしの見覚えのある本でした。


「その本……」

「なんだ、知ってるのか、フウ」

「うん、小さい頃から読んでいたお話です」



 そう。わたしが、結核に悩まされていた幼い頃。

 実はわたしには兄が居ました。病気がちなわたしを、何時も支えてくれた、優しい兄が。

 兄は作家でした。中々売れませんでしたが、沢山の優しい物語を作っていました。彼が持っている本も、兄が書いた話です。

 私は、兄が作る話が、大好きでした。病気の時、何時も兄の話を読んでいました。


 ただ、彼の持っている本だけは、好きにはなりませんでした。



「意外だな、この本の作者無名なのに」

「マニアな知り合いが貸してくれて」


 とっさに嘘をつきます。

 このお話が出来たのは、彼が生まれるずっとずっと前です。一応、わたしは彼と同じ歳という設定になっていますから、「わたしの兄が〜」なんていっちゃったら、辻褄が合いません。


「……あの」

「ん?」

「その本、正直いって面白い?」


 わたしが聞くと、「んー」と彼は唸りました。













 この物語は、桜の精霊が主人公でした。

 その桜の精霊は、人を食うという、何とも恐ろしい精霊でした。

 ある日、桜の精霊は娘に変身し、人の村に行き、人を食べに行こうと思いました。

 しかし、精霊は一人の青年に恋をするのです。

 青年は貧しく、村の人々から酷い差別を受けていましたが、とても優しい人間でした。

 青年も精霊に惹かれ、何時しかふたりは、共に行動するようになりました。

 ところがある日、青年は見てしまいます。

 それは、青年の両親が死んでいたのです。

 そして、その隣には、両親の血でまみれた桜の精霊が居ました。



 青年は唖然としました。

 桜の精霊は、妖しく笑って、「バカめ」といいました。


「私は、桜の精霊だ。人を食う為に、この村へやってきた」


 精霊は自ら正体と目的を明かしました。

 すると家が、燃え出していったのです。


「最後にお前を、口封じに殺してやろう」


 熱で意識を失いかけたとき、恐ろしい言葉が、耳へ届きました。



 気付いたときには、青年は家の外に居ました。

 家はもう既に焼け、あの桜の精霊も居なくなってしまいました。


 周りが灰まみれになった空間に。

 季節はずれの桜が、ふわりふわりと散っていました。














 ……こんな感じです。

 何だか酷く、虚ろな話です。

 描写もかなり抜けており、意味ありげな伏線も回収されず、お世辞にも面白いとは思えませんでした。

 どうして兄は、こんな酷い話を書いたんだろう。

 他のお話は、皆ハッピーエンドで終わっているのに。



 しかもわざわざ、わたしの好きな桜まで使って。


 そう訊ねたとき、兄は決まって、


『もう少し大人になったら分かるよ』


 といった。

 けれど、大人って何時頃になるのか判らなくて、そんな時まで待てなくて、そしてこの物語が納得できなくて。

 わたしは好きじゃないのに、この本をすれ切れるまで読んでいました。




 結局、今でもわからない。




 ……でも、今じゃちょっと思うんだ。

 兄は、わたしを煩わしく思っていたのではないかと。

 思えば何時も、兄の手をかけさせてしまっていた。

 兄はもっともっと、上を目指したかったと思う。小さい頃から、兄は小説家になりたいといっていた。無名のままで、終わらせようとは思わなかったハズだ。

 ……でも、わたしの看病で、執筆時間を短くせねばならなかった。


 兄は、わたしを憎んでいたのだろうか。

 ……夢を奪った、わたしを。















「……面白い話とはいえないけど、優しい話だとは思う」


 彼の言葉に、思わず耳を疑いました。


「それは、どういう意味ですか?」

 勢いあまって、彼の顔に近づきます。ついでにイスも倒れました。


「いや、あの……もう少し離れて」

「知りたいんです!!」


 彼の声を、意識しないままわたしの声がかきけした。


「……知りたいんです。どうして、そんな哀しい物語を書いたのか。

 他のお話は、ハッピーエンドなのに。どうして、その話だけは……」


 知りたかった。

 何故ならば、その作品が出来上がった頃、わたしの病気が悪化したせいで、兄の作家活動は終わってしまったのです。


 だから、知りたい。

 最後の作品に、兄が、何を託そうとしたのかを。




「……わかった」


 彼は、ふう、とため息をついた。
 何も知らないのに、彼はまるでわたしの心を見透かすような動作をさりげなく取ります。

 彼は、話してくれた。

「……最初に、青年は桜の精霊の正体を、知らなかった。これが一番重要なことだ。

 ちょっと省いて、両親が死んでいた場面に飛ぶな。その傍には血まみれの人食い精霊がいた。かなり独特な設定なのに、とっつけたようにここで生かされている。簡単に考えると、両親は精霊に殺されたと思うだろう」

「違うの?」


 わたしの質問に、彼はしっかりと頷いた。

「精霊はな、殺したんじゃない。逆に、止めようとしたんだ。二人が、自殺することを」

「……え?」

 桜の精霊が殺した、と思っていたわたしは、虚をつかれました。


「大方青年の家族が差別に見舞われていたのは、両親が何かしでかしたからだ。つまり、両親が居なければ、彼も巻き添え食らうことはなかった。

 幼い時期だったら、両親に依存しなければならないけれど、青年って書かれているんだから、もうコイツ大人だろ? 一人立ちできる歳だ。両親のことを知らない場所に行けば、差別から解放される。安定した職につける可能性も高くなるだろう。両親はそれを望んだんだな。けれど、優しい青年は、そんなことは出来なかった。両親と一緒に幸せにならなければ、意味がなかった」


 無意識に、息をのむ。

 回収されてなかった伏線の意味が、じょじょに判ってきました。

「だから、精霊を呼び出して、『息子を頼む』とでもいったのだろう。精霊と恋仲だったことはしっていたようだし、何よりも唯一、青年を差別せずに受け入れた相手だ。両親は、例え自分たちが死んで悲しんでも、精霊がそばで支えてくれれば大丈夫、と思ったと思う。

 自分たちは心中し、青年が遺体を処理しなくてもいいように、自動的に火がつくように仕組んだ。——けれど、青年が優しかったように、精霊もみずみずと両親が死んでいく姿を見たくはなかったのだろう。……止められなかったけどな」

「……」

「で、運悪く青年が来てしまった。誤解されると判っていた精霊は、

——それを逆手に取ったんだ」

「……と、いうと?」

「今、家は火がつく仕組みになっている。なら、早く外へ出してやるべきだろう。

 だが、優しい青年の事だ。きっと命が助かっても、『どうして俺は止められなかったんだ』とか考えるに違いない。そんな風に生きて欲しくなかった桜の精霊は、自分が両親を殺したことにして、自分を憎んでもらうことにしたんだ」

「じゃ、じゃあ何で、桜の精霊は消えたの!?」

 思わず、声を荒げてしまう。

 わたしが読んでいた世界が粉々に砕かれたせいか、凄く動揺したのだと思います。

 けれど彼は、態度を変えずに続けてくれました。

Re: 臆病な幽霊少女【怠惰な女性司書編 完結】 ( No.35 )
日時: 2012/10/19 16:37
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
参照: この小説は、雰囲気小説です(いや何時もだけど)。雰囲気でお読みください


「……人は、食べ物を食べなくなってしまったら、どうなる?」

「そ、それは……死んでしまう」


 当たり前のことだ。

 何かを食べなければ、生き物は必ず死んでしまいます。


「そうだろう。それと同じで、桜の精霊は、人を食していた。

 考えてみろ。わざわざ娘に化けてまで、村へ足を運んだんだぞ? お腹が空いているに決まってる」

「じゃ、じゃあ……」

「……死が、近かったんだろうなあ」


 ……決定的な、打撃だった。

 あまりの衝撃な意図に、わたしはガクリ、と膝を崩しました。



 ……きっと、彼の解釈は正しかろう。

 でなければ、ここまで辻褄が合うわけがない。一見無意味な設定も伏線も、大切な意味が込められているという証明までしてみせた。


 でも。


「……そんなのって」


 唇を噛む。鉄の味が広がった。

 そうしなきゃ、声も震えそうで、涙が出そうだったから。


「そんなのって……あんまりにも残酷だよ」

「そうだな」


 間髪居れずに、彼は相槌を打った。

 でも、と彼は続ける。





「——とても、優しい話だと想う」



 彼は笑って続ける。


「確かにすれ違いは怖いけれど、さ。こんなにも想いあっていたんだ。

 憎まれてもいい、それで幸せになれるなら。……そんな風に人食いの桜の精霊が考えられたのは、優しい青年に出会えたからだと思う。

 ——って、ダメナコがいっていた」

「……へっ?」

「だから、ダメナコ。司書だよ、司書」

「……ああ、あのコーヒー先生ですね」


 最後らへんで、拍子抜けしてしまった。

 なんだ。自分で考えた意見じゃないんだ。

 ちょっと尊敬して損したよ。



「……ダメナコな、一度、この作者にあったことがあるらしい」

「え!?」



 本日二回目の驚き。



「もう晩年近かったらしいけどな。ダメナコもこの話の意図が気になって考えて、合ってるかどうか聞いてみたんだと。そしたら、充分に丸だって」



 ふ、ふぇぇぇぇぇ……。

 言葉に出来ない驚きです。

 お兄ちゃん、ちゃんと長生きできてたんだ……いやそういや、うちの敷地を売って学校にしたの、お兄ちゃんだっけ。そこらへんあんまし覚えてない。





「……この話はな」彼は続ける。


 わたしは、今日と言うこの日で、多分一番衝撃的なことを聞かされた。










「……作者の、病気がちな妹の為に、考えたらしいんだ」






 ああ、今日で何回。

 わたしは、思考が止まった?





「へ、へぇ〜、そうなんだ」


 それでも明るく、わたしは相槌を打つ。

 そう、彼は知らないハズだ。わたしが、この本を書いた人の妹だなんて、知るはずがない。

 けれど、あまりにもピンポイントだったので、わたしはバレたのかとドキドキした。


 ——でも、それ以上に。

 兄が、この本をわたしの為に書いてくれた、ということに驚いた。


「……『憎んで欲しかった』ってよ」

「……え?」

「『自分は妹の為に尽くしてきた。苦しむ妹の姿を、見たくはなかった。可能の限り、頑張ってきた。

 ……だが、聡い妹は気付いていただろう。私たちが、あの子を重荷に感じていたことを。

 けれど、優しいあの子は私を憎まなかった。何時も笑っていた。

 ……それが私、いや、家族みんなが、苦しかった。どうせなら憎んで欲しかった。

 だから私は。この話に、私の意思を託した』……て。

 ホントは、誰にも告げずに居るつもりだったけど、まだ読む人が居るとは思わなかったから、ダメナコに意図を教えようって気になったってよ」





 ——そんな。

 ありえないよ。

 だって、あんなにも必死に隠し通してきたのに。

 笑って、誤魔化してきたのに。

 なのに。どうして。


 憎まれるべきは、お兄ちゃんの夢を奪ったわたしなのに。




「……最後に、だ。季節はずれの桜が散っていた、とある。これは、涙だったんじゃないかって、僭越ながら俺は思ってる」

「涙……?」


 マズイ。

 彼が話す飾り気の無い言葉は、真っ直ぐにわたしの胸をつく。

 その途端、わたしは泣き出してしまうんだ。


 まだだ、まだ泣けない。

 まだ全て、聞いていない。

 彼は一呼吸置いて、いった。


「だって、そだろ? どんなに憎まれてもさ。どんなに憎んでいてもさ。……やっぱり、自分の本心を知ってもらいたいって思うんだよ。

 ダメナコも、自分も元親だったから、……青年の両親のその気持ちは、判るっていっていた。俺は、親から愛情を貰ってないし、親になったこともないから、この青年の両親の気持ちは判らないけど。わざわざ憎まれ役を買って出た桜の精霊の……判ってもらいたい、判りたいって気持ちだけは、判るんだ」


 そして彼は、泣き出しそうな笑みで、いった。


「そんなことをしても、傷つくだけだって、判ってるんだけどなあ。それでも、本心を隠しとおせない……だから、泣いたんだと思う、桜の精霊は」



 その言葉を聞いて、ついわたしは桜の精霊と、兄の姿を重ねた。

 わたしのことを思って自ら夢を捨てた、あの優しくて大きな兄を。



 ……兄だって、判ってもらいたかったんだ。自分の夢を、自分の想いを。

 だからわざわざ、こんなお話にして、わたしへのメッセージを贈ってくれたんだ。




 ああ、もう。


 彼は、わたしの心をあっという間にほぐしてしまう。

 勘違いと思い込みで埋めつくされていたわたしの心を、正直にしてくれるんだ。



「限界だ……」

「え、ちょ、何で泣く!?」


 ポロポロと、わたしは泣き出す。

 知らないよ。

 ただ、悲しくはないよ。苦しくないよ。

 嬉しくて、幸せで、零れてしまうんだ。


 ……ケンちゃんには、わからないでしょうけど。


 慌てるケンちゃんが面白くて、わたしはブンブンと首を振りながらいった。



「知らない知らない知らないもん! 全部、ケンちゃんのせいですから!!」

「え、俺!? だってフウが知りたいっていうから話しただけで……」



 面白いなあ。反応が。何て、若干楽しんでいた。



 ポスン。



「……え?」


 わたしの頭が、彼の胸にぶつかりました。
 


「……泣きたいときは、泣けばいい」


 うつぶせ状態になっているからか、くぐもった声に変わっている。

 トクントクン、と彼の心臓が聞こえてきた。




 羞恥は、結構ある。だって、抱きしめられていると同じでしょう?

 その中で、泣くなんて、すごく恥ずかしい。



 ……ああ、でも。



「(……やられちゃった、なあ)」




 何でか安心して、大声で泣き出せるんだ。









「うわあああああああああああああああああああああああああん!!」











 ……皆がわたしの為に尽くしてくれたのが、嬉しくて。
 自分を犠牲にしてくれたことに……わたしはとてもとても悲しかった。

 そこまでされるから、何時かバッサリ捨てられるんじゃないかと、心配したんだ。
 だから、怖かったのに。


 そんな皆は、わたしを心配してくれたんだ。


 ごめんね、お兄ちゃん。疑って。
 そして、ありがとうね。



 ごめんね、ケンちゃん。困らせて。
 でも、このままが嬉しいんだ。このままが、落ち着くんだ。


 だから少しだけ、時間をください。



 心の中で呟いたそれは、彼の右手が応答してくれたのを、わたしの髪が受信しました。





                     残酷だけど、優しい物語

(わたしが、幸せ者なら)
(きっと桜の精霊も青年も、幸せだったんだろう)

(哀しく残酷だけど、優しいハッピーエンドを、わたしは好きになれた)

Re: 臆病な幽霊少女【『参照三〇〇突破記念』更新!】 ( No.36 )
日時: 2012/10/19 18:06
名前: 金木犀 ◆x37FOGtDiI (ID: qzlbh8SM)

素敵…なんて素敵な物語だろう…

八重!君は天才だよ!こんな感動できる話がかけるなんて、尊敬に値するよ!

最近これなくてごめんね。

続き、たのしみにしてまっせ(^^)

Re: 臆病な幽霊少女【『参照三〇〇突破記念』更新!】 ( No.37 )
日時: 2012/10/20 10:56
名前: 陽 ◆Gx1HAvNNAE (ID: ixlh4Enr)
参照: 何もかも歪んだこの世界で、私は空に堕ちる。

お は よ う(・ω・。)
タイトルしか知らなかったからうっかりシリダクで検索かけちゃったぜ←

お久しぶりです陽でございますw
ずざざざあとしか読んでないのですが……

いい! すごくいい!!
ケンちゃんのツンデレがいいとかそういうところは置いといて((
登場人物一人一人の言葉がすごく胸にじんわりしました。
やっぱり最後に心が温かくなるのがいいよねb

おねーさんは来週で部活引退なので、それが終わったらいよいよアルデバランに本腰入れます←

でわでわ、そんな感じで陽でした。
更新待ってます(゜レ゜)


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122



この掲示板は過去ログ化されています。