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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な人たちの幸福論【『健治と諷子ss』更新!】 ( No.359 )
日時: 2013/04/13 22:23
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)




 ……でも、そんな日々にも飽きてきた頃、三也沢君に会って。
 初恋というのを実感した時に、あたしは既に彼には振り向かれないのだろうと判った。
 そう、頭では理解していても、納得はしてなくて……。

 三也沢君が好きなフウちゃん。フウちゃんは桜が好きだと知ったときに、あたしはあの絵を見せたいと思った。
 ……いや、違うな。
あたしは、三也沢君に振り向いてもらいたかったから、行動を起こしたんだ。
認めてもらいたかった。せめて、「何かが出来る人間」に。
 下心で、不純な理由で、あたしは行動を起こしたんだ。





 そして、やっと、未完成のままだった絵は完成しようとした。
 時間も惜しかったから、あたしは学校でも描ける様ダメナコせんせーに相談して、図書室の中にある小さな部屋を貸してもらった。
 勿論家でも描けるように、学校が終わったら、キャンバスを抱えて、家に帰っていた。

 ある日、帰り道、今井に声を掛けられた。


『杉原! お前、今日カラオケ行くよな?』
『え? あたし行くつもりないよ?』


 絵を描くつもりだし、という言葉は、今井の言葉に遮られる。


『……なあ、杉原。お前最近、付き合い悪いよな?』



 その声は、何だか挑発的で、あたしも思わず挑発的な態度で返した。
 そこから口げんか勃発。その時何をいったのか、何をいわれたのか、あまり覚えていないけど……。


 酷い事をいったような気がする。
 酷い事をいわれたような気がする。


 具体的な説明を求められたら説明出来ないけれど、思い出そうとすれば、辛くなる。だから、傷ついたということだけは、理解できた。




『もう、帰らせてよ!』



 いい加減にして、うざい、という気持ちを込めて、パシン、と手を振り払った。



『おい、待てよ!!』



 グイ、と今井があたしの身体を引っ張った。


 ——それが原因だった。
 不吉な音を立てて、精一杯描いた絵が、破れたのは。


                 ◆


 キュ、と、栓を閉めて、あたしはため息をつく。
 あの時のことを思い出すと、上手くいえないが……死にたい気分になるのだ。




「(……まあ、それが原因で、今井とも仲良くなれたわけなんだけど)」



 悪いことばっかりではないことは、重々承知だった。
 判ってるの。
 今が幸せなことぐらい。そして、そんな幸せな中の不幸を嘆いて、一緒に、幸せなことも恨むことが、どれだけ罰当たりなことか。



 絵が破れた後、ショックで引きこもっていたあたしに謝りに来た今井。今井の話経由で、皆でその桜の絵を描こうという話になって、その指導を、父さんが任された頃。
 あたしはふと、父さんの横顔が、誰かに似ていることに気付いた。


 かなり、頬がやせ細って、青白いけど。
 髪はボサボサだけど。
 目つきも、ずっとずっと鋭いけれど。


 でも、その「似ている人」は、誰だか判らなかった。




 父が任されて数日、連続で休んでいた三也沢君が、登校して来た。
 図書室中桜の絵で驚いた彼の顔を見て、あまり顔に出さない父が、かなり驚いた表情になった。



『……彼は?』
『え? 三也沢健治君だよ?』


 あたしがいうと、父は更に驚き、目を見開いた。
短い沈黙を置いて、そうか、と、頷き、そして、かすれた声でいった。

Re: 臆病な人たちの幸福論【『健治と諷子ss』更新!】 ( No.360 )
日時: 2013/06/02 14:20
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)







『……大きくなったなあ』


 その言葉を、あたしは聞き逃さなかった。
 父に、その意味を尋ねようとしたけど、父は口に出したつもりはないようだったから、止めた。
 代わりにあたしは、三也沢君に聞いたのだ。






『三也沢君のお父さんって、どんな人だった?』



 朝早くにそんな問いが振ってくるとは思いもしなかっただろう。彼は目を瞬かせ、何の感情を込めることもなく、知らない、と答えた。



『俺が父親と顔を合わせたのは、物心つく前だからな』
『……どんな人かも判らない?』


 本当は、彼のお母さんの話が聞きたかった。
 けれど、彼は母さんを嫌って——いや、憎んでる。
 彼の古傷に直接触って、嫌われたくは無かった。——嫌な女、あたし。
 よく覚えていない父親のことを聞くことすらが、そもそも酷い行為なのに。



『……あー、母親の罵詈雑言の中にあったな。俺にそっくりで、画家だったんだと』
『……画家?』


 ピクリ、と何かが動いた。
 ひょっとしたら、父と三也沢君のお父さんは、友人関係だったのかもしれない、と。


『ああ。それ以上は聞いたことないけど……『折角私がお金を出してあげたのに、あの男はあの女の下に転がり込んだ!!』とか、何とか聞いたことがあるな』


 ——一瞬、そうやって笑った三也沢君と、








 父の顔が、重なった。



 あたしはまさか、まさか、と、その事実を否定しながらも、内心動揺した。



『……へー。でもそれにしちゃ、三也沢君って核兵器並に酷い絵描くよね』
『う、うるさいなあ!』



 けれどそれを悟られたくなかった。明るく、茶化すような口調で、あたしは続けた。








 ……気になってしまったあたしは、父の経緯を調べた。
 といっても、あたしじゃ情報の限りがある。そこで、ある店で知り合った情報屋(まがいなことをしている)に、お願いした。
 今思えば、あそこで止めておけば良かったのかも知れない。
 それでも、事実を知っておかないと、心穏やかに過ごせないと思った。



 ……あたしの父は、母さんと結婚する前に離婚していた。
 会ったこともないあたしの祖父母たちは、バブル崩壊時期で多大な借金を持っていた。調子こいて、会社の経営に私財を詰め込んでいたらしい。
 そこで、ある資産家に婿入りして、借金を返したそうだ。
 だが、僅か五年で離婚。そして、あたしの母さんと結婚している。
 その情報屋は、いっていた。


『どうやら、君の両親と、その資産家の令嬢は、幼馴染だったみたいだな。随分仲が良くて、幼稚園の頃から高校の頃まで仲が良かった。特に、君の両親は、学生の頃から噂が立っていたようだ』



 その言葉に、あたしは違和感を覚えた。
 父さんと母さんは、仲がよかった?
 ……だって、父さん、その前に結婚して別れているのに。母さんは、浮気してあたしと父さんを捨てたのに。
 そんな二人が、昔から仲がよかった?


『調べて……こんな、事実、子供の君には聞かせたくないんだが。依頼、だしな。それに君には、借りを作ってしまっている』



 その人は強面の顔を伏せて、痛々しくいった。
 あたしは、その言葉の続きは予想できなかった。けれど、何をいわれても、既に覚悟していた。
 続けてください、とあたしがいうと、その人は大きく深呼吸をして、こういった。



『……実はその資産家の家庭は、円満とは程遠かったようだ。近所の人から聞いた話だが、令嬢にはよく、痣などが見られたらしい』


 そこまで聞いて、あたしも……いや、その令嬢の周りの人は、誰もが気付いていた。
 児童虐待。同じ資産家の人間である三也沢君も、それと同じような扱いをお母さんから受けてきたのかもしれない。
 金があるからといって、幸せになれるとは限らないのだな、と遠い気持ちで思った。


『しかし、気付いていながら、誰も通報しなかった。かなり大きな家だ、仕打ちをすることなど簡単だろう。周りは恐れ、令嬢は孤立した。
 けれど、二人だけ、令嬢の境遇を受け容れず、立ち向かった。——それが、君の両親だった』



 それを聞いて、あたしは、遠い御伽噺を聞いている気持ちになった。
 あたしたちを捨てた母さん。死人のような顔をしている父さん。
 そんな二人が、人を助けようとしたなんて。
 それが言葉に出ていたのか、その人はいった。

Re: 臆病な人たちの幸福論【『健治と諷子ss』更新!】 ( No.361 )
日時: 2013/04/14 11:29
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)



『……ここで、フィクションだったら、幸せな結末になっていたかもしれない。が……』
『どうなったんですか?』


 話の続きをせがむと、その人は随分唸った。
 でも、すぐに降参して、こういった。



『……君のお父さんは、その令嬢の父親に、鈍器で頭を殴られた。そして、記憶喪失になった。
 その頃、君の祖父母にあたる方が急に亡くなった。残った多大な借金は、彼に押し付けられた。
 だから令嬢は考えた。——その借金を、自分が背負うのはどうかと。
 しかし、赤の他人同然の人間が無償で背負うのは、周りが反対する。なら、赤の他人にしなければいい、と考えた。そしてその数ヵ月後、君のお父さんと令嬢は結婚した。
 運がよく、彼は記憶喪失だ。——恋人が居たことも、忘れていた』




 ……呆気に取られるあたしに、その人はさらに続けた。





『その頃、彼の恋人だった娘の腹には、赤ん坊が居た。勿論、彼との子供だ。
 令嬢に脅されたのか、はたまたは泣き落とされたのかは知らないが、娘は、記憶喪失になってからの彼には、会わなかった。両親が既に居なかった彼女は、遠い血縁の知り合いが居る北国で、赤ん坊を産んだ』


 そういって、彼は少し笑って、


『それが君だよ、雪君』


 そういった。
 その笑みに、何かが詰まっていたあたしの心が、少しだけほぐれた。
 何てこと無いんだけど、何だか嬉しかった。
 けれど、今は、話の続きを聞かねばならなかった。



『そして、その数ヵ月後、令嬢と彼の間に、男の子が生まれた。
 一年ぐらいは円満だったらしいが、徐々に彼の記憶が戻ってな。彼は君のお母さんを探していた。そのせいで、だんだんとその令嬢とも悪化して……。結局、離婚した』
『そして、母さんと結婚したんですね』


 あたしは言葉を繋げ、教えてください、と懇願した。



『その令嬢は、名字は何なんですか?』




 ——そういうと、彼は言葉を失くした。
 その様子で、もう、殆ど確信した。




『……三也沢。代々医者として有名な、三也沢家だ』
『……じゃあ、やっぱり……』





『君と、その健治君とやらは、母親が違う姉弟になるね』



                   ◆


 ……母が違う、姉弟。
 昼ドラのような世界に、あたしはまだ、現実だと理解できていない。
 でも、あの人の情報は確かだ。間違いない。

 つまりあたしは、実の弟を弟と認識せず、恋心を抱いていたんだ。




「(……そんな事実があろうがなかまいが、きっとあたしは、あの人に振り向いてもらうことはない)」




 だって、三也沢君が好きなのは、フウちゃんだ。
 そして、フウちゃんも三也沢君が好きなのだから。
 もう既に、あたしは叶わない恋だと知っていたのに。




「(……どうして、)」




 こんな目に遭うなら、いっそのこと、あの時轢かれていれば良かった。
 さっさと死んでいれば、こんなことにはならなかった。
 そもそも、三也沢君も、赤の他人を助けるからこうなるんだよ。……赤の他人じゃなかったけど。




 でも、こんなのは、酷いよ。



 考えるだけ、苦しくなる。
 でも放っておくと、怖くなる。「今悩んでいること」が、あたしの存在する意味で意義だったのだ。
 だから、考えないと、自分が消えちゃいそうで、怖い。


「……いっそのこと、消えちゃおうか?」


 服を着て、そう呟いた。
 あのまま轢かれても、死ななかったかもしれない。
 でも、死ねたかもしれないんだ。




 そんなとき、

 三也沢君と、フウちゃんの笑顔が、頭を過ぎった。







 あたしは、外を飛び出した。
 走った。

 夏とはいえ、夜明け前は寒い。
 でも、今のあたしは、とても暑くて、夜風で冷やしたかった。
 こんなわけの判らないことを考えたくなかった。だから、考える隙間をなくす為に、走った。

 死ぬ? そんなの、出来るわけ無いじゃない。
 だってあの二人は、もっともっと辛い想いをして、死にたいって想っても、踏みとどまった。
 そんな二人に対して、あたしはくだらないことで自殺するの?

 それはダメだと想った。
 それだけは、あたしの意地が許さなかった。
 確かに不純な理由だったけど、下心あったけど、でも、でもそれでも! あたしは、あの二人の背中を見てきたんだ!!

Re: 臆病な人たちの幸福論【『健治と諷子ss』更新!】 ( No.362 )
日時: 2013/04/13 22:30
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)



                      ◆

 ……そうやって走って、どれぐらい経っただろうか。
 足が疲れて、立ち止まって、その後だんだんと肺とわき腹が苦しいと訴えてきた。



「(そういえば、急に走るのを止めちゃいけないって、体育の先生に教わったような気が……)」



 理由は忘れたけど、危険だから止めなさい、という声が、脳裏に蘇る。
 痛さにふらりと立ちくらみ、バタン、と倒れそうなところを——誰かに、支えられた。




「うおっとっと……だ、大丈夫!?」
「……あー」



 平気です、と掠れ声だったが、聞こえただろうか。



「いやあんま平気にはみえへんけど……って、アンタは!?」
「……えー……あー……」


 相手が、あたしの顔を見て叫んだ。ひょっとしたら、知り合いなのかもしれない。
 けれど視界がかすんで、誰だか認識できない……というかその気力すらないあたしは、言葉にならない返事しか出来なかった。



「ちょ、ま、待って!! 今水こーてくるからぁぁぁ!!」




                   ◆



 ベンチに座らされて、やっと、霞が消えて、普通に見えるようになった。
 といっても、息は荒いし、まだ苦しいけれど、それでもさっきよりかはましだ。
 ……ってかあたし、本当に後先考えないな。


「(支えてくれた人、凄く迷惑だったろうなあ……)」


 そう思うと、更に顔色が悪化しそうだった。
 ちょっとして、支えてくれた人の声が聴こえた。


「とりあえず水こーてきたんやけど、お水飲める……」
「ありがとう……って」


 ジャージを着たその人の顔に、見覚えあった。
 昨日、かごめリンチになっていた、あたしは紹介されてないけど——星永優さんだ。


「おー、やっと気付いてくれたわ。……にしてもアンタ、よー、倒れるなぁ」


 その言葉が、凄くいたたまれなくて、あたしは笑って誤魔化した。


「あ、アハハハ……それよりも、奇遇ね。こんな所でまた会うなんて」
「……まあな。眠れんかったから」
「おや、理由も同じだわ」



 あたしの隣に座る優さんに、思わず笑う。
 しかし、それ以上話しかけられなかったものだから、あたしは貰った水を飲むことにした。
 飲み終わった頃に、優さんはいった。



「……昨日は、ほんまにすまんかったなあ」
「ん?」
「……あー、アンタは気ぃ失ってたか」



 その言葉に、全てが合点した。


「ひょっとして、今井にいったこと? 気にしないでよ、今井が出すぎたこといっただけだし」


 まあ今井は落ち込んでいたけどね、とはいわなかった。余計相手を気負わせる。
 流石にそこまで空気読めないわけじゃないよ。
 けど、そういっても、彼女は納得していないようだった。まあそうだよね。普通、「気にしないで」っていわれても相手の心情は判らないから、穏やかにはなれないよね。
 そっとしようと、もう殆ど無いペットボトルに口をつけ、飲んだフリをしたその時。



「小三の時……やったと思う、始まったのは」




 突然、優さんが話し始めた。




「最初は、悪口だけやったのが、悪ふざけ半分で、鉛筆のキャップを鼻に突っ込まれた。勿論、反撃したんやけど……運悪く、そこだけを担任に見られて。幾らいっても、話は聞いてくれん。それが弱みで、うちはいじめられることになった。聴こえる様に、悪口いわれたり、いきなり笑われたり、折角友達が出来ても気に食わん奴に取られた。残ってくれた子もおったけど、誰かが『あんな奴に付き合ってて、可哀想だな』っていい始めて、女子とかに散々悪口いわれた。うちが使ってるものは『汚らわしい』『感染列島』っつって、触ったらうちに見せ付けるように、机とかに触った」




 堰が壊れて、あふれ出した川のように、優さんは話し始める。
 その様子と、その言葉に、あたしは絶句した。

 目の当たりにするいじめは、大抵「気のせい」とか、「ポジティヴにいけばどうにかなる」とか、そう思っていた。
 だって、無視とか悪口とか、そんなぐらいなら、黙っていればすぐ終わるものだと思ったのだ。暴力行為や、モノを盗まれることは、その中で異例のことなんだと思っていた。
 けれど、どうだ。今井といい、優さんといい、とても、「いじめ」という言葉で片付けられるとは思えない。
 殆ど、犯罪に近い行為じゃないのか。しかも、今日のことを見る限り、小学校から続くいじめは、まだ終わっていない。
 彼女は、校則のジャージを着ていて、あたしが通っているトコとは近い高校に通っていることがわかった。つまり、彼女は高校生だ。
 学校も変わっているはずなのに、それでもまだ、いじめは終わっていない。




「……どうして自分がこんな目に、って思わなかった?」
「思った。でも、そのうちどーでも良くなったわ」



 思わず聞いたあたしに、叫ぶように、優さんはいった。
 ポロポロと、涙が零れていた。



「あいつらは、何があっても、うちがどう変わっても、結局うちが気に入らんのや。うちに関わりたくないんやったら、そもそも関わらんよーに距離を置くわ、良識ある人なら」



「性格が悪いから」「暗いから」「あいつが悪い」。
 いじめる側の人は、そういって主張すると、優さんはいった。
 そして結局、「優さんが悪い」と決められ、いじめはもっと酷くなった。


 でも、違う。
 それは、あたしにも判った。
 確かに、優さんにも欠点はある。それは、誰だって等しくある。
 けれど、だからといって、優さんが受けているいじめには、正当性もなにもない。あるわけがない。
 気に食わないから、そして見たくないのだ。だから、抹消しようとしている。

 間違っていると、一目でわかる。
 でも人は、周りに責め立てられると、見覚えの無い罪を認めてしまうことがある。いじめという、過酷で孤独な立場だったら、尚更。





「でも、うちは負けん!!」




 けれど、彼女は言い切った。




「うちには、沢山応援しとってくれる人がおって、そういう人たちの為にも負けへん!! あんな奴らに、負けてたまるか!!
 だから学校も、いってやる!! 小説家になって、あいつらの悪口かいたる!! そんな地獄でも、優しいことや楽しいことはあるって、伝えるんや!!」





 そう、言い切る彼女の姿が。
 泣きながらも、訴え続ける姿が。
 こんなにも、自分を見失わないということが、どれだけ大変で、どれだけ神々しいか。
 ただ、ただ、あたしは、その姿に、跪くしかない。



「あ、ご、ごめん! こんなこと、アンタには関係ないのに、泣き出したり、怒鳴ったり、いみわかんないこと……」




 慌てて涙を拭おうとする優さん。
 あたしは、その手を止めた。



「……え?」
「……あなた、本当に凄いよ。本当に、凄いよ」




 自分は、異母姉弟といわれて、とてもショックだった。
 誰かに、「お前がしているのは間違っている」といわれているようで、苦しかった。
 誰かにいわれたわけじゃない。でも、あたしが感じてきたことは、全部間違いだったのではないかと、それを受け容れなきゃいけないのだ、と思って……。

 殴られるような勢いだった。
 それほどまでに、衝撃で、激しくて、とてもとても、勇気ある言葉だった。



「ありがとう」



 朝陽が、昇る。
 いきなり感謝を述べられたって、彼女には判らないだろう。
 でもあたしは、とてもとても救われた。

 人って、不思議ね。
 間接的に傷つくこともあれば、間接的に救われることもある。
 こんな、風に、赤の他人同士だったとしても。



「あたしの名前は、杉原雪。
 よければ、あなたの友達になりたい——!」




             初めて、自分から友達になりたい、といえた


(頭の隅から、五臓六腑、指の先まで、)
(勇気が、じんじんと脈を打つ)


(そんなある日の、あたしの夏の朝)

Re: 臆病な人たちの幸福論【『杉原ルート』完結!】 ( No.363 )
日時: 2013/04/14 17:49
名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 6U1pqX0Z)


杉原ルート執筆、お疲れ様です!
優が、まるで自分自身を見ているようでした…(人はそれを鏡という)

私も、優みたいなあんな風な子になりたい、と思う半面、なれんのかな…という不安があります。
だって私、ネガティブ思考に走りやすいねんから!!(!?

…すみません、自重します。

「地獄でも、優しい事や楽しい事はある」
…この言葉に、胸を打たれました。自分には、こういうの何時か言えたらええなと、思う次第です。

体調に気を付けて、執筆頑張ってください!





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