コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
日時: 2016/03/05 21:35
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)

臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。

泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。

怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。

憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。

——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?





 黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!





お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390

【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)



 はい、全然完結させてない八重です。
 …今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
 約束守れない人って、情けない…。



 注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!

 では、よろしくお願いします!!


この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430



目次

登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)

〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)

【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)



〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)

間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)

第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)

間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)

第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)

後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)

【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)




〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)

間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)

「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)

間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)

「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)



小話>>366(第三部の後日談)

後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)


〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327

【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362

「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411

『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419


【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)

〜第五部〜

序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497


【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)


口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529

第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)


口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554


第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594

終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604



番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)


履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)

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Re: 臆病な幽霊少女【臆病な幽霊少女編 完結 コメ欲しいです…。】 ( No.13 )
日時: 2012/10/09 19:26
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)
参照: http://www1.x-feeder.info/hotaru/

な、なんとッ…!!
お客様が、お二人…だと!?


金木犀さん!!
初めまして!!&こんばんは! 八重とでもお呼びくださいw
…な、なんですと……!? そこまで言ってくださるのかッ…!?(感涙

いいんですか、金木犀さん!? あんまおだてると私調子に乗っちゃいますよ!? いいんですか!?((

…ごめんなさい、落ち着きます。


おお!? ここにも「注文」ファンが!?(なんじゃそれは

いいですよー!!w 是非!! お友達になってくださいませ!!
こちらこそ、ありがとうございます&よろしくお願いします!!w



さくらさん!!
初めまして!!&こんばんは! 八重とでもお呼びくださいw

あ…あんまりいうと、調子に乗っちゃい(ry

…すみません(汗 落ち着きます。

まだまだ未熟者ですので、文章や構成に関しては、ビシバシ言ってもらうと助かります!!

友だち? 勿論おkですよ!! よろしくお願いします!!^^ww




さて、お友達申請をしてくださった方々(キリッ
よろしければ、参照をクリックしてくださいまし。私が管理ってるチャットルームへ飛べますので。
あまり深夜に起きれないタイプなのですが、土日はちょっと遅めまでいられるので!w

Re: 臆病な幽霊少女【臆病な幽霊少女編 完結 コメ欲しいです…。】 ( No.14 )
日時: 2013/01/26 10:36
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)

               泣き虫な文学少年

 人気のない、図書館の鍵を開ける。
 その奥には、俺専門の読書部屋がある。
 電気が最低限の為、カウンターよりは暗いし寒い場所だ。
 その戸を開けると、


「ケーンちゃんっ」


 何時もニコニコ笑っている、アイツの明るい声が、聞こえるはずだった。


                       ◆


 俺がアイツに出会ったのは、今から一年前の、冬が近い秋。
 あの時俺は、自殺をはかった。
 理由は特別にない。しいていうのなら、死んでもいいだろう、って思っただけ。
 屋上からの飛び降り自殺を選んだのは、それが一番手軽に出来たから。
 別に立ち入り禁止ではないのだけど、何時も誰も入らない屋上。
 何でも、ここには俺と同じように考えた女子生徒が飛び降りたって噂がある。その女子生徒が悪霊として屋上をさ迷い、ここに来た生徒を道連れにする…という噂だ。
 その噂の真相は、確かではない。だが、意外と皆が信じている噂なので、興味本位でここに来る奴らはいない。

 まあ、噂が本当かどうかなんて、俺には関係ないことだ。
 死ぬ、俺には関係ないことだ。


 その日は、良く空気が澄んでいて、大きな満月や星が、とても良く見えていた。
 さびついたフェンスを掴む。ザラっとした感覚と、キンッ、と冷たい金属の温度。
 それをよじ登って、俺は辺りを見渡した。
 街の光が、良く見えた。
 きっと、俺が居なくても、この光は一つも失うことはないだろう。
 そう思うと、何処か安心することが出来て。——若干、チクリとした痛みがあったけれど、俺はそれを無視する。

 そうだ。俺が死んだって、誰も悲しむことはない。
 死体の処理とか葬式とかの『迷惑』はかかってしまうだろうが、『心配』はかけないだろう。

 たったそれだけのことだ。

 お金のことなら、問題ない。だって、俺の家は金持ちだから、葬式ぐらい容易いことだろう。

 もう、この世界に未練はない。
 躊躇無く、一歩を踏み出した。


 …ハズだった。
 俺の右腕に、誰かの細い腕が掴んだのだ。
 グイ、っと引っ張られ、思いっきり体が後ろに傾く。そしてそのまま、誰かの上に倒れた。

 その、引っ張った張本人こそ、アイツだった。

 黒い長い髪を赤いリボンで軽くあしらっており、きちんと着た制服。平均よりも小さい身長だが、普通の少女だった。

 あの、冷たい瞳以外は。
 温かい眼差しを放しつつも、氷のような、凍て付く瞳に、俺は惹かれたのだ。
 俺の下敷きになったアイツは、しかし逞しく、ボケーっとしていた俺を退けて自力で立ち上がった。そして、「死にたかった」と呟いた俺に怒鳴り散らしてきた。


「死にたかった、だから死ぬんですか!? 人間、本当は死に方を選んじゃダメなんです!! 人間が選べるのは、生き方だけなんですよ!?」


 この言葉だけしか、覚えていない。
 その後も何かいわれたけれど、あまりの勢いに俺は、意識と記憶がほぼ吹き飛んでしまった。
 
 そう、これが出逢い。

 嵐のように現われて去った。アイツが何年何組なのか、何故あれほど恐れられている屋上に、しかも夜に居たのか、何故助けたのか判らないまま、俺はフラフラとした足取りで帰って、一睡もしないまま次の朝を迎えたのだ。

Re: 臆病な幽霊少女【泣き虫な文学少年編、スタート!】 ( No.15 )
日時: 2013/01/26 10:41
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)




 数日後。何時も通り、俺はここで本を読んでいた。
 この部屋は、俺の引きこもりには丁度良い場所だ。俺は人と関わるのが大の苦手で…というか、面倒くさくて、教室に居るのは億劫だったから、休み時間はここで本を読んでいる。
 何時もだったら、ドアを閉めて読んでいたのだが、その日は埃が酷くて、空気を入れ替えなきゃとても居られなかったので、そのままドアを開けっ放しにして読書に没頭していた。

 そしたら。


「……」


 顔を半分出して、こちらを覗きこんでいるアイツが居た。


「……」
「…………」


 ……うん、これどうしよう。
 無視しようかと思ったんだが、ずっと見つめてくる。
 何で、俺に構ってくるんだ?
 俺はアイツのことなんて知らない。制服を着ているとなると、この学校の生徒ではあるようだが、名前も、学年も、組も、顔すら見覚えない。
 なのに、アイツはあそこから動こうとしなかった。

 ふう、とため息をつく。

 俺が声をかけない限り、アイツはずっとあそこに居るつもりだろう。ちょっと目障りだ。
 観念した俺は、本を閉じて、アイツに向けて手招きをしてみた。
 すると、アイツは嬉しそうに笑って、俺の隣に座ってきた。
 俺はまたすぐ本を開く。


「何読んでいるの?」


 キラキラとした目で、聞いてきやがった。
 鬱陶しい、と思う。そんなの、背表紙見てわかれ。ってかそもそも、聞いたところで読まないだろ。
 心の中で悪態をついた。普段だったら、口に出していたはずなのに。


「注文の多い料理店」


 スルリ、と返答が言葉として現われた。


「宮沢賢治の話が好きなんですか?」
「…ああ」


 そう返すと、更にアイツはキラキラとした目で「わたしも!」と、つらつらと自分が好きな作品を述べてきた。
 それに、ちょっと俺は嬉しさを感じた。誰も、宮沢賢治の話が好きな人は居なかったから。
 俺の父は、宮沢賢治の話がとても好きだったらしい。
 俺の名字は母方から貰った、「三也沢」だ。しかも、父親は婿養子だったので、ふざけて「健治」にしたそうだ。
 …ふざけて決めるなよってツッコミたいところだが、でもまあ、そのお陰で宮沢賢治に興味を持ったわけだし、文句はない。



 その後、アイツとはかなり話し込んだ。
 といっても、一方的にあっちが話して、こっちは適当に相槌を打って本を読んでいただけだが。
 その話の中で、お互いに名前を教えあって、日が暮れだした頃にお開きとなった。


 アイツの名前は、宮川諷子。
 俺は、フウ、と呼ぶことにした。




 その、次の日も。そのまた次の日も、アイツはここに遊びに来ては(一方的に)喋ったり、本を読んだりした。
 何時も、無駄なほど明るい。フウは、飽きないのだろうか。こんな、自分から話すこともしない、何時も本ばっかり読んでいる俺と話していて、何が楽しいんだろうか。

 何てことを聞いてみると、フウは不思議そうな顔をして聞いてきた。


「ケンちゃんは、わたしと一緒にいて、楽しくないんですか?」
「ケンちゃんいうな」


 条件反射で返してしまった。
 小さい頃から「ケンちゃん」と呼ばれた俺は、その渾名が大っ嫌いだ。一応フウにもいっておいたんだが、どうやらこのまま定着させようと目論んでいるらしい。


「…楽しい、ねぇ」


 俺は背もたれに体重をかけた。
 …ぶっちゃけ、あんまり考えたことなかった。


「…え、楽しくないんですか?」
「んなことはいってないだろ」


 少し顔を暗くさせるフウに、俺は突っ込んだ。
 ああ、もう、面倒くさいなあ。


「ってか、何で疑問を疑問で返してくるんだ、お前は」
「や、だって」


 俺の質問に、フウは、苦笑いしながらいった。


「ケンちゃんが楽しくなきゃ、つまらないよ。わたしはケンちゃんの隣にいるだけでも楽しいけれど、ケンちゃんに迷惑かけてるなら、嫌だし…」


 そういって、シュン…と身体をちぢこませる。
 その後、何とも言いがたい沈黙が、俺にのしかかってきた。

 …ヤバイ。どうしよう。
 この沈黙、耐え切れない。



「い、いや、別に迷惑なんて思っちゃ居ないぞ!?」


 ガタ、とイスから立ち上がって、俺は必死に弁解した。


「いや、ただな、俺何時も相槌うってるだけで、後は本読んでるだけじゃないかっ?」


 なにやってるんだろう、俺。


「なのに、お前何時もヘラヘラ笑ってるからさ…」


 どうして、こんなにも必死になってるんだろう。
 誤解されることなんて、何遍もあった。だからもう、慣れっこだったハズで。
 誤解を解く事なんて、面倒くさくなって、ほっとこうって思っていたのに。

 なのに。


「何がそんなに楽しいんだろう、って…」


 コイツがしぼんだだけで、何でこうも慌ててしまうんだろう。
 もう、人なんてどうでもよかったのに。自分のことさえ、どうでもよかったのに。


「俺は…別に、楽しくないわけじゃないんだけど、でも、何でこんな俺に話しかけてくるのかな、って…」


 ——コイツだけは、どうでもよくはなくなってきてるんだ。



 ガタン、と、イスがひっくり返った。
 目の前には、フウが立ち上がって、俺の口元に人差し指をたてている。


「…そんなこと、いわないでよ」


 泣きそうな顔で、フウは笑った。


「こんな俺、なんて卑下しないで。
 ケンちゃんが居ないと、わたしは楽しくないよ。
 ケンちゃんが居ないと、わたしは寂しいよ」


 ね、とフウは満面の笑みに変わった。
 泣きそうになった顔は、あっという間に霧散した。
 それからフウは、驚かせちゃってごめんねー、と苦笑し、倒れたイスを立ち上がらせ座った。
 そして、何時も通りに一方的な会話が始まったのだ。


 見たことなかった。
 何時もニコニコ笑っていたフウが、こんな顔をするなんて、知らなかった。


                      ◆


 家に帰って、何となくベッドの上でゴロゴロと転がる。
 ポツリポツリ、と思い出すのは、アイツの泣き笑い顔。
 ——……結局俺は、アイツがなんなのか、よく知らない。
 知らないから、気になるんだろうか。あの笑みが。

 何を思って、アイツはあんな風に笑ったんだろう。



『ケンちゃんは、楽しくないの?』



 アイツが贈った質問の答が、見つからない。
 楽しい? ……わからない。
 楽しいなんて感じたこと、思い出せないほど昔のことだ。


 だけど。
 今、アイツが俺から離れたら。
 アイツに嫌われたら……。


 俺は爪が食い込むほど、真っ白なシーツを握り締めていた。

Re: 臆病な幽霊少女【泣き虫な文学少年編】 ( No.16 )
日時: 2013/01/26 19:41
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)

                      ◆

 その一ヵ月後。


「ケンちゃんは」
「ケンちゃんいうな」


 何時も通りの場所で、何時も通りの会話。
 けれど、今日は少しだけ、様子が違っていた。


「どうして、あの時、自殺しようって思ったの?」



 その問いに思わず、俺は手を止める。
 何時もヘラヘラと笑っているフウは、真顔で居た。
 ……冷たい瞳が、俺を捕らえる。

 あの時と、同じ。
 自殺をはかった、あの時と同じだ。


「…人と付き合うのが、怖くなった」


 一呼吸置いて、俺はいう。


「俺は、臆病だから」


 それ以外の理由もなかった。
 この言葉以外、ふさわしいモノはなかった。


 俺の家は旧家で、今もまだ地元に影響を与えている。
 俺が物心ついたとき、両親は離婚していた。恐らく、大喧嘩したのがきっかけだろう。顔なんてもう忘れていて、父親なんて居ないも同然だった。
 母親は仕事で忙しくて、顔を合わせるのは一ヶ月に一回。しかもその際に、罵声を浴びさせられる。顔が、父親似だからそうだ。
 育てられたのは世話係の人たちで、叱られることはあっても、褒められることなんてあまりなかった。


 話しかければ、「話しかけてくるな」といわれ。
 俺が失敗すれば、「わたしたち忙しいんだから」といわれ。
 だから、もうあの時から、人と関わるのは止めようと。
 人に頼るのは止めようと。

 そう、幼心に誓ったんだ。




 ……けれど。学校に上がると、案外、周りの奴は、気の良いやつらだった。
 無愛想な俺に、何度も何度も断られても、何度もしつこく遊びに誘ってくれたし。
 誰が見てもどう見ても陰険の塊にしか視えない俺なのに、いじめられることはなかった。
 けれど、踏み出せる勇気が、俺にはなくて。

 結局、知り合い以上、友だち未満で終わった。

 高校生になると、知り合いは一人も居なくて。
 俺は一人が楽だって思って、一人を選んだ。

 …いや、違うな。
 一人が楽だって、思い込んだんだ。

 一人になって、やっと『独り』が、
 必要とされていないという事実が、怖いことに気付いたんだ。


「…わかるよ」


 フウが、口を開いた。


「その気持ち、良くわかるよ。わたしも、そうだったから」
「…え?」


 フウは、うっすらと笑いながらいった。


「わたしもね、怖かったの。人と付き合うのが。
 何時か、捨てられるんじゃないかって。捨てられたら、わたしの生きてる価値ってなんなんだろうって。
 …ずっと、怖かった。だから、迷惑かけないように、心配かけないように、…捨てられないように、笑い続けた。ごまかし続けてきた。
 怖かったよ。……そう、死にたいほど怖いんです」


 そう、苦笑いしながらいうフウの姿は。
 ——まるで、自身を見ているようだった。



 でもね、とフウは続ける。


「でも、それだけじゃない。ちゃんと、ありのままの自分を見てくれる人がいるってことを、わたしは知りました。
 心配も迷惑も、わたしの弱さも、全部受け入れてくれる人が居るって。全部じゃなくても、わたしのほんの少しだけでも、周りの人たちはわかってくれているって。
 ——だからわたしは、この世界は捨てたもんじゃないって思っています」



 そこで、フウは満面の笑みに変わった。
 冷たい瞳も、少し、温かく感じた。


 ああ、コイツは。
 どうして、俺が期待した言葉をいってくれるんだろう。


「…なあ、フウ」


 いわないと。
 ちゃんと、言葉にしないと。


「俺はさ、この世界が何もかも嫌で嫌で仕方が無かった。
 だから、死のうって思った。今でも、ひっそりと思っているかもしれない」


 俺は、フウのことは何も知らない。
 フウも、俺のことは何も知らない。
 でも。


「『生き方は選べる』。フウはそういってくれた。
 その言葉で、俺は少し前向きになれたんだ」


 あの日、満月の綺麗な夜。
 フウは自殺を止めてくれた。
 何も知らないのに、コイツは俺に話しかけてくれたんだ。


「——ありがとな」


 ポン、と頭に手を置いて、俺は笑った。

 やっと、いえた。
 やっと、笑えた。
 自分がこんな風に、笑えるなんて思えなかった。
 こんな風に、お礼をいえる日が来るなんて、思えなかった。
 少し嬉しさを感じた、その時だった。


「っう」


 フウが、小さな声を上げて。


「うわあぁぁぁーぁん!!!」
「!?」


 ——思いっきり、号泣した。


「え、え、え、なんで!?」
「ご、ヒック、めんヒック、あれ…ヒック、涙が、ヒック、止まらないよぉ……」


 俺は慌てる。けれど、あまり人付き合いをしてこなかった俺には、どうすればいいのか判らなくて。
 フウは泣く。俺はどうにかしようと思うだけ。考えても、現状を打破する策は浮かんでこない。ああもう、なんて役に立たないんだ。

 ——結局、フウが泣き止むまで待つことにした。





「……落ち着いたか?」
「…うん、ごめんなさい。いきなり泣いて」


 ばつの悪そうに、フウがいった。


「……いやこの場合、泣かした俺が悪いんじゃ……」
「ううん、ケンちゃんは悪くないよ。…今まで溜まっていたものが、綺麗に出て行ったみたい」


 俺の言葉を否定して、照れくさそうにフウは笑った。
 フウの笑顔も、何処となくスッキリしている。


「ケンちゃん」
「ケンちゃんいうな」


 この会話も、もう恒例だ。けれど、毎度のことながらフウは気にしない。ちょっとは気にしてくれ。

 フウは、赤くなった目を細めた。まだ少し涙が残っているせいか、瞳が潤む。透明な涙が反射して、煌いたように見えた。


「……ありがとうね」
「……ん」


 照れくさくなって、俺は視線を少しずらす。
 でも、悪くない、と思った。

 こんなむず痒さと暖かさなら。

Re: 臆病な幽霊少女【泣き虫な文学少年編】 ( No.17 )
日時: 2012/10/10 18:43
名前: 金木犀 ◆x37FOGtDiI (ID: qzlbh8SM)

いい話しですね…

あ、友達認定ありがとうございます!

私も霊感強で、霊も見えるには見えるんだけど話せたことは一度もありません。

タメokですか?


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