コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【杉原ルート更新!】 ( No.339 )
- 日時: 2013/03/29 18:55
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
小さい頃の、とてもとても辛いことといえば、自分の感情を否定されることだった。
『そんなことで泣くな』
『泣くなんて甘ったれ』
ねえ、あたしは甘ったれなの?
『泣いて許されようとか、思うんじゃない』
そんなこと思ってない。
そんなこと、思うわけないじゃない。
だって、ただ、ただ、ただ苦しいだけなのに。
辛くて悲しくて苦しくて、止められないだけなのに。
『泣いて媚を売るとか、最低ね』
媚なんて売ってない。
出来ることなら、あたしだって泣きたくなかった。こんなみっともない姿、したくもなかったし見られたくもなかった。
こんなことならいっそのこと、
——何も感じない人間でありたかった。
【あの日を誇れるように ぱーとつー】
「……ら、……はら!」
「雪ちゃん、雪ちゃん!!」
二人の声で、あたしは悪夢から覚める。
ぼんやりと、視界は曇っていたが、二人の心配している様子は判った。
「あれ……? あたし」
「アンタ、熱中症でぶっ倒れたのよ、覚えてない?」
「だ、大丈夫!? 凄くうなされていたから、思わず起こしてしまったけれど……」
濁った視界を凝らしてみると、ここはどうやらラーメン屋。
そうだ……あたし、今井と佐藤と一緒に買い物して、その途中でリンチと遭遇して、それでお水飲んでないと思いながら倒れて……。
「おや、起きたのかい?」
ここのお店の人と思われる美人なおばさんが、人の良い笑顔で聞いてきた。
「あ、はい! すみません、いきなり押しかけて……」
「いいんだよ、佐奈ちゃん。最初は何事かと思ったけど、友達が熱中症で倒れたなんて……というか、萌、アンタ佐奈ちゃんの他に友達居たんだね?」
「ちょ、母ちゃんそれ失礼じゃね?」
「……え、母ちゃん?」
「あ、二人とも初対面だね」
呆然とするあたしに、佐藤がニコニコとこういった。
「この人、萌ちゃんのお母さん!」
「初めまして。萌がお世話になっているねぇ」
「……え」
ええええええええええええええええええええ!?
「……そんなに驚くこと?」
「驚くわぁ!!」
「そんなにあたしと母ちゃんは違うか……?」
うーん、と首を傾げる今井。
「……まあ、驚くのは判らなくはないけど。でも叫ぶ前に、挨拶挨拶」
「あ」
佐藤の言葉に、我に帰る。
「すみません、杉原雪といいます」
「雪ちゃんね。中々良い名前だね」
ニコニコと、ただ笑うおばさんは、やっぱり今井のお母さんだとは思えなかった。
不意に、おばさんがかけている眼鏡を見て、あたしは思い出す。
「……あ、あの子は? ほら、かごめリンチに遭っていた」
「あー、優ちゃんね」
「……優ちゃん?」
「星永優ちゃんっていうんだって、あの子」
どうやらあたしが倒れている間、自己紹介をしあったようである。……フレンドリー過ぎる佐藤のことだから、とっくに友人になっているかもしれないが——と思っていると、佐藤が少し目を伏せて、こういった。
「最初こそ、普通に自分の名前をいってくれたけど——なんであんな目に遭ってたの、って聞いたら、凄く怒っちゃって……」
「え?」
「アンタが聞いたんじゃないだろ。聞いたのはあたしだ」
咄嗟に庇うように、今井がいった。
……今まで気付きもしなかったが、濃い化粧を付けた今井の顔が、泣きたいような表情に歪んでいる。
要領が得なかったので、詳しい話を求めると、二人がそれぞれ話してくれた。
あたしが倒れた後、あの場に居た三人は凄く驚いて、ひとまず今井の家であるこのラーメン屋に運んだ。そして一息ついて、とりあえず自己紹介をしあった。
楕円形の赤眼鏡をかけた女の子——優さんは、あの場を助けてくれた二人にお礼をいい、そのお礼にあたしが覚めるまでここに居る、とまでいってくれたらしい。そこまでは友好的だった。
けれど、今井が「何であんなことになっていたんだ?」と聞くと、優さんは黙ったらしい。
顔を伏せて暫く何も話さなかったので、「おいって」と肩を掴むと、思いっきり払われた。
呆然とする今井たちに、怒りで顔を真っ赤にした優さんは、店いっぱいに響くほど怒鳴った。
『なんや!! んなこと、あんたら関係ないやん!! 首突っ込まんといて!!』
そういって、荒々しく、店を飛び出した——らしい。
「……無神経過ぎたよな、あたし」
ポツリ、と今井が零した。
「そんな……私だって気になったよ。どうしてあんな目に? って、心配するよ」
佐藤は気遣うようにいったが、今井は、声は出さず、唇だけ動かし、そして階段を走っていった。
「萌!」
「……ごめん、ご飯になったら教えて」
慌てておばさんが今井を叱るような困ったような口調でいったが、次にきた頼りない今井の声に、おばさんはスウウ、と諦めたような表情になった。
「……ごめんなさいね、萌が」
「あ、いえ……」
そんなことは、とあたしがいうと、困った顔をしていたおばさんが、苦笑いとも微笑みともつくような笑みで、こういった。
「お詫びといっちゃ何だけど、今晩御飯一緒に食べていって?」
- Re: 臆病な人たちの幸福論【杉原ルート更新!】 ( No.340 )
- 日時: 2013/03/25 19:59
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
◆
トポポポ、と、優しい緑茶の香りが広がる。
緑茶のお供に添えられたのは、香ばしい黒豆ボーロ。
「ごめんなさいねえ、こんなものしかなくて」
「い、いいえ! 凄く美味しいお菓子です!」
おばさんは申し訳なさそうにいったが、うちと比べたら天と地の差です。うち、お客さんを招くことが出来ないほど茶菓子なんてありませんから。そもそも父さんが料理下手っぴだしね。お茶出せないしね。
パリパリ、と食べながら、思い出すのは今井の苦しそうな顔。
激昂した優さんにいわれた言葉は、あたしが聞いた以上の言葉もあったかもしれない。
でも、それでしょげるなんて。
「今井らしくないなあ……」
ポロ、と出た一言に、佐藤とおばさんが固まったのを、あたしは知らなかった。
本当、どうしたのだろう。そんな、言葉だけで傷ついて、へこむなんて。刺々しくて、何時もの変態で無神経でデレカシーのない今井とは思えない(酷いいいようである)。
そう思っていると、コトン、とおばさんが、茶碗を置いた。
「……さて、そろそろ買い出しに行かなくちゃ。お店はもう閉めてるし、ゆっくりしてね」
「あ、はい。お気をつけて」
あたしがそう答えると、行ってきます、とおばさんは出て行く。
おばさんが出て行ったのを見計らって、佐藤は、こういった。
「……雪ちゃん」
「ん?」
「雪ちゃんは知らなかったと思うんだけどね……萌ちゃんには、弟が居るの」
佐藤の言葉に、へー、とあたしは返す。
まあ、弟がいるのはそんなに珍しくはない。けど、あんなのでも、姉やってられるんだなあ(酷いいいようその二)。
「……いや、居るっていっちゃおかしいよね」
「え?」
あまり気にせず、ボリボリと食べているあたしの方を見ず、佐藤は目を伏せていた。
「……死んじゃったの。その子」
その言葉に、あたしは手に持っていた黒豆ボーロを、落とした。
◆
春休み、道端で、杏平さんと美雪さんという二人組の大学生にあった。
その二人は何故か、三也沢君を知っていて、二人はあたしに『三也沢健治君って知ってる?』と聞いてきた。怪しいと思ったあたしは咄嗟に嘘をつこうとした時、丁度三也沢君に会って。
二人は三也沢君と、何故かあたしも拉致って、病院に連れてきた。
よく判らないまま、たどり着いたのは、真白の世界で横たわっている少女。
顔を見た時、時間が止まったように感じた。
濡れ羽色の髪は、光の加減で、優しく、濃くあって。
白磁のように、でも生きている人間の頬に持つ赤みは少なく、寧ろ青白かった。
死んでいるように眠っていた少女は、息を呑むほど、とてもとても美しかったのだ。
三也沢君は、そっと、その人の手を取った。
まるで、騎士がお姫様の手の甲に口付けを落とすかのように。
その様子をみて、ズキン、ズキン、と全身が痛んだ。息をすることも苦しくて、出来ればその場で暴れて紛らわしたかった。
でも、その痛みがどんな理由で出てきたのか判らないから、出来なくて。
ただ、ただ、痛みと苦しさに耐えて、耐えて。
その人が、三也沢君の好きな人、フウちゃんだった。
◆
あまりにもショッキング的なことを佐藤がいったので、あたしは疑った。
「それ、どういうこと?」と尋ねる前に、佐藤は口を開く。
「萌ちゃんの弟の空君はね、病弱だったの」
その言葉を始めとして、佐藤は、話してくれた。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【杉原ルート更新!】 ( No.341 )
- 日時: 2013/03/25 20:01
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
今井の弟、空君は、本当に身体が弱い子だった。ふとした発作でも命に関わるような、常に気を遣わねばならない状態だった。
入院と退院を繰り返し、学校に行く暇は殆どない。それでも、彼は学校に通いたくて、頑張って行こうとした。
ところが、どんどん、彼は学校に行くといわなくなった。けれど、誰も彼の変化に気づくことはない。
何故なら、今井家はその頃、家庭崩壊をしていたからだ。
今井は、弟ばかり構われるから、拗ねて母親の言葉を聞かなくなった。
父親は空君が病気でお金がかかるからと、新しい女の人を作って、家を出てしまった。
更に、拍車をかけるように、空君の病気が悪化していく。
おばさんは、お金を作るために、そして空君を見るために、ラーメン屋を開いた。朝から晩まで働いて、一生懸命お金を稼いだ。
忙しくて、今井は益々構われなくなった。中学校に入ると、今井はツッパリ(懐かしい名前だあ)グループに入り、非行に走った。
『また、学校の先生に呼び出されたわよ』
『……』
『今忙しいのに、なんでこんな困らせることするの!?』
『うっせーなババア!!』
毎日のように、テーブルを叩く音や、怒鳴り声が響く。
今井も母親も荒れてしまい、空君をちゃんと見る人は、居なくなってしまった。
そうして空君は、今井が中学校を卒業するかしないかで、息を引き取った。
今井が奇跡的に高校に入れた。
しかしその分物が多くなったため、弟の部屋に自分の荷物を置く為に、弟の部屋を整理することになった。
その時、一冊の日記を、見つけることになる。
——日記? あいつ、そんなことやってたんだ。
そう思いながら今井は、その日記を開いた。
その日記は、怒りと悲痛の言葉のみが、語られていた。
『もう嫌だ!! 僕が何をしたっていうんだ、何でこんな苦しみを何時まで持っていればいいんだ!!』
『学校でもいじめられるし、家では姉ちゃんと母さんが怒鳴ってる。誰も僕の目を見て話してくれない!!』
『なんでいじめられなきゃいけないの? そう聞いたら、『性格が悪いから』って。何で!? 性格悪いのはそっちじゃないか!!』
『病気で苦しんで、何で心も苦しまなくちゃならないんだよ。『お前遅刻するぐらいなら学校にくんな』って。僕だって、こんな身体じゃなきゃ、まともに行こうって思ったよ!!』
『ふざけんな! 『死ね』『殺す』って、僕は生きるか死ぬかの瀬戸際なのに。何でそんな言葉、軽々しくいえるんだ!?』
『先生にいっても、『貴方が協調性がないからでしょ』っていわれた。どうして!? 僕も、皆と一緒にあんな言葉を使わなくちゃいけないの!?』
- Re: 臆病な人たちの幸福論【杉原ルート更新!】 ( No.342 )
- 日時: 2013/03/25 20:05
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
激しい怒りが、前半で綴られる。
けれど、後半からになって、怒りの言葉はなくなっていた。
ただ、ただ、自分を卑下にするだけの言葉だった。
『僕が悪いんだ。こんな病気で、母さんたちの重荷になるだけ』
『姉さんだって、いつも寂しがってた。僕ばかり、母さんに構われていた』
『ごめんなさい。ごめんなさい』
『僕が悪かったのに。何で怒ってしまったんだろう』
『ゴメンナサイ』
『生まれなきゃ良かったんだ』
『そうしたら、姉さんも母さんも、もう少し楽に生きていけたのに』
『早く、死にたい』
ペラペラと、めくる手は、どんどん重くなっていく。
だんだんと今井は、弟の気持ちが、判ってきたような気がした。
『空は、どれほど辛かったんだろ。
病気だけじゃなくて、孤独とも闘っていた。自分より、何倍も、何十倍も。でもそれを、一言もいわずに、抱え込んで逝ってしまった。
全然、気付かなかった。弟がいじめに遭っていたなんて。こんな気持ちを、抱えていたんだって。
あたしは好き放題やって、母ちゃん独り占めしている空を憎んだりして、周りに八つ当たりしたのに、空はそんなことしなかった——……』
「……凄く、泣きながら、泣きじゃくって、私に告白したの、萌ちゃん。
凄く、後悔したって。憎んだことも、八つ当たりした事も、気付いてやれなかったのも、全部」
佐藤の大きな目が、潤んでいた。
「何で、あんなことしたんだろう。人を傷つけることばっかしたんだろう。そもそも、空君に嫉妬して拗ねなければ、お母さんを困らせずに済んで、家庭の中では落ち着いていられて、きっといじめのことも話してくれたんじゃないかって……」
だったらきっと、私も同罪だね、と佐藤が続ける。
その言葉があまりにも抽象的過ぎて、よく判らなかった。でも、聡い佐藤は、鼻をすすってから、何でもないようにこういった。
「私ね、萌ちゃんが怖かったの。中学校に入って、不良になっちゃった萌ちゃんが、じゃなくて。『もうあの子に関わっちゃダメ』っていった大人たちが、怖かった。良い子ちゃんぶって、親友っていってた癖に……いざとなったら、ただの臆病者」
親友なら、親友らしく、話だけでも聞いてやればよかったのに。
そう呟いた佐藤は、明るいはずなのに、……いつもどおりのはずなのに、弱弱しかった。
「だからきっと、優ちゃんに思わず聞いてしまったのかもしれないね。萌ちゃんは。空君のことを思い出して」
どうして人は、苦しいとき、苦しいといえないのだろう。
佐藤を見て、思った。
苦しいときに限って、言葉を省いたりしてしまうのだろう。
苦しいとき、苦しいままに伝えられず、なんでもないようにしかいえなくなってしまうんだろう。
誰かが何もいわなくても求めなくても、いってしまうほど苦しくて辛いことなのに。
でもそうしないと、伝えられないのだ、きっと。
そうやってきっと、佐藤は生きてきた。
「(……本当にあたしは、今井のことも、佐藤のことも、知らなかったんだ)」
第一印象とは、程遠い彼女らの気持ち。
あの第一印象は、守るための「嘘」だったのかもしれない。
刺々しい雰囲気を纏わなければ、何も考えないようなキャラクターを演じなければ、心が折れていた、二人なのだと思う。
そして、空君のこと。
激しい、怒りと悲しみ。
それは、あたしにも心当たりがあった。
激しく怒ったり、溢れるほど涙したり。
でも、怒りや悲しみは、いけないことだと教えられてしまった。
大人たちに、そう囲われて。
今井も、佐藤も、あたしも、空君も、
その囲いを壊せるほど、強くもなかった。
意識を失っていたときの夢を、不意に思い出した
(そしてその囲いに潰されてしまったのかもしれない)
(あたしは、そうなってしまったのかもしれない)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『ぱーとつー』更新!】 ( No.343 )
- 日時: 2013/03/27 23:10
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: 6U1pqX0Z)
…なんか、複雑な話だと思ってしまうのは、自分だけ…と思ってしまう、エストレアです!
まず最初に。
優を出していただき、ありがとうございます!(ペコリ
あの子は、私とそっくりなところがちらほらと出てるので、動かしにくいと思います;
言いたいけれど、嫌われると思うから言いたくない…。
だからあんなに、つっけんどんな態度で返してしまうんやと、私は思います。
そんな私の子に、一言。
あなたは誰かに頼れる権利があるんやから、頼りなさい!
…はい、すいません。調子のりました;
では、体調に気を付けて、執筆頑張ってください!
P.S.誤字、発見しました
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