コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『玲の過去』更新!!】 ( No.239 )
- 日時: 2013/01/27 18:06
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992
熱かったハーブティは、氷によって冷めただろう。あれだけ入れていた氷は、ほとんど解けていた。
溶けるまでの時間は、それほど経っていなかったハズだ。だが、俺たちにとっては、長く感じた。
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」
瀬戸が、説明を始めた。
「それは、玲ちゃんが生まれる前のことだったらしか。玲ちゃんは母ちゃんの元に、うえっちは父ちゃんの元で暮らすようになったい。だから、うえっちも玲ちゃんも、最近まで父親の顔とか、妹が居るとか、兄が居るとか、全く知らんかったとよ」
——父親の顔を、知らなかった。
俺はその言葉を、声に出さずに唇だけで、何回か繰り返した。
……俺も、父親の顔を知らない。俺も、物心つく前に、両親は離婚したから。あんなに明るい上田も、その妹も、俺と同じような環境で育ったんだな。
彼女らに対する親近感と、幼い頃持っていた悲しさと寂しさを、思い出してしまった。
ひょっとしたら、俺の父親も。どこかで再婚して、新たな家族を作って——血縁上ではあるけれど——知らないところで、妹か弟が居るかもしれない……。
「……」
知らず知らずのうちに、こぶしを握り締めていた。
だが、今は話を聞くのが優先だ。思い出さないように、考えないように。瀬戸の言葉を、俺は一心に聞くようにした。
——その時、杉原も同じようにこぶしを握り締めていたことを、俺は知らない。
◆
あれは、剣道部の助っ人に呼ばれた去年のことったい。
無事試合に勝って喉が渇いたうえっちと俺は、お茶を買いに近くのスーパーに寄ったさ。
そしたら、入り口の近くの弁当コーナーに、少し抜けた茶色ばセミロングの長さにした、あまり飾りっけの無い女の子がおったんよ。
それが、玲ちゃんやった。
「……あれ、玲じゃんか」
「あ……おにいちゃん」
うえっちが声ば掛けると、玲、と呼ばれた女の子は、ぎくしゃくした声でいった。
「珍しいな、お前が外に出てるなんて」
そういって、うえっちは弁当の方に視線を移し、「お腹空いたのか?」と聞いた。
玲ちゃんはそこで、おどおどと話した。
「あ……ママが、パパの病院に行ってくるって。仕事もいくので、夜遅くになるかもしれないから、おにいちゃんの分とあたしの分のお弁当を買いなさいって……」
「ハア!? そんなの、俺が作るからいいのに!」
「おにいちゃん……ご飯作れるの?」
驚いて思わず声ば上げたうえっちの様子に、玲ちゃんが目を瞬かせたったい。
「作れるも何も、今まで俺が飯作ってたし……とにかく、弁当は買わなくていい。でも確か、冷蔵庫の中身空っぽだったよな。俺が買い物していくから、お前はここに居ろ」
「え!? でも……」
「瀬戸、玲を頼むな」
「え、ええけど……」
まさか話を振られるとは思わなかったけん、了承する言葉が、裏返ってしもうた。
「頼むぞ!」といって、うえっちは手際よく買い物籠を取り、颯爽と主婦の戦場に突っ込んでいった。
「……行ってしまいました」
「すごかー、うえっち」
がばいすごかスピードで去ったけん、残された俺たち二人は感嘆の声ば漏らした。
「……えっと、うえっちの……」
「あ、初めましてこんにちは! 妹の上田玲です! よろしくお願いします!」
「あ、瀬戸要ったい。お兄さんには、お世話になっとる。よろしくったい」
玲ちゃんの勢い余る自己紹介に乗せられて、俺も深々と頭ば下げた。
——弁当コーナーの前で。
「……こんな所で、真剣に自己紹介は似合いませんね」
「あー……うん」
数秒して、今さっきとは打って変わっての玲ちゃんの声に、何かが一気に冷めた。
「……今日は、剣道の試合があったんですよね」
試合、どうでしたか? と尋ねてくる玲ちゃんに、俺は勝てたばい、と答えた。
最初はちょっと暗い子じゃな、と思たけど、案外お喋りな子だったけん、少しホッとした。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『玲の過去』更新!!】 ( No.240 )
- 日時: 2013/01/27 17:44
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992
「……それにしても、ビックリしたったい。まさか、うえっちに妹がおったなんて」
「アハハ、ビックリするのも当たり前です」
話しばしていくうちに、だんだんと玲ちゃんも打ち解けて敬語が砕けて来た。
中々話し上手やったけん、俺は思わずこういったんじゃ。
すると玲ちゃんは、あっけらかんとこういった。
「だって最近まで、あたしもおにいさんが居たこと、知らなかったんですから」
「え……?」
——意外な回答に、俺は聞き返していたったい。
「離婚したんです。うちの両親は、あたしが生まれる前に。で、パパが肺がんを患って、余命一ヶ月なんですよ、もう。だから、せめて最後は看取ってやろうって、ママとパパは復縁したんです。その時に、おにいちゃんと初めて顔を合わせました」
すらすらと、何てことなく玲ちゃんはいうが、俺は冷や汗ば止まらなかった。
その、……あまりにもヘビィやったけん。
けれど、いっちょん気にして無いわけじゃないやのうて、玲ちゃんはこう続けたったい。
「……あたし、ちょっとしたお荷物なんですよね」
「お荷物……?」
玲ちゃんは、ちょっぴり自嘲気に笑うた。
「こんな大変な時期に、しかもあたしは受験生だっていうのに……不登校なんですよ、今。学校も行かないどころか、まともな生活も送れてない。ビックリするでしょうけど、あたし何時もはトイレに閉じこもって腹痛と闘っているんですよ?」
「なんや。意外と普通ったい」
あっけらかんと、俺は答えた。
玲ちゃんは、目を丸くする。
……いや、普通じゃなか。後からいーて俺は後悔したったい。でも、俺の中じゃ意外と「普通」やったけん。
「俺も、不登校の時はそうやったったい。お腹ば壊したり、夜眠れなくなったり、食事もまともに出来んかった」
◆
「ちょっと待て! おま、不登校だったのか!?」
「ああ、そうやけど。小六の時に、ちょっと言葉がきつか担任に当たってな。他んは大丈夫みたいじゃったけど、俺はかなり体調崩しもうて。小六の秋ごろから、中二の冬まで不登校やったんよ」
「何ね、そんなに珍しか?」目を瞬かせる瀬戸。こっちがそうしたいったい。あ、口調移ってる。
「人は……」
「見かけによらないね……」
フウたちも驚いたようで、目を点にしていた。
「……話、続けてよか?」
「あ、うん……」
「どうぞったい」
教訓、人は見かけによらない。無防備に接していると、ヘビィな過去をあっさり明るく丁寧に説明される。すると、あまりのショックにその人の口調が移ってしまう。
この現象を、瀬戸ショック、と名づけようか。
◆
「……瀬戸さんにも、そんなことがあったんですか」
玲ちゃんが、戸惑いば隠さずいった。
「ごめんなさい、瀬戸さんだって辛い目にあったのに、こんな愚痴……」
「あ、気にせんどいて! 俺も、聞いてもらいたくていってるだけけん」
玲ちゃんが深々と頭ば下げる勢いで謝ったけん、俺もちょっと慌ててしもうたばい。
ちょっと、失敗してしもうたか。けれど、是非とも聞いて貰いたかったばい。
「……最初なあ、俺は、自分が悪いと思ってたんよ。先生が怒っとるんは、俺が失敗しとるせいで、先生は悪くないって。今傷ついているのは、自分の我慢が足りんせいって」
「……」
「でもなあ、だんだん、学校にいきたくなくなったばい。いかなきゃ、と思うていこうとすれば、頭が真白になって。そのうち、腹痛に悩むことになって。
もうダメだ、と思って、俺のこう……お母さんに、いったんよ。学校休みたいって」
後見人といいそうになって、言い直したったい。
……流石に、施設出身です、なんていったら、卒倒モンったい。
「……でもなあ、その人も中々厳しい人で、『学校は行くものです。それでも学校を休みたい理由を説明なさい』って、キツイ口調でいわれたんよ。
その時、また頭が真白になって」
……どう話せばいいのか、判らなくなったったい。
だって、今までされてきた具体的なことが、一気に忘れてしもうたけん。
なのに、悲しいって思ったことは、いっちょん消えん。
涙が、こぼれそうになったったい。だから、その場で『学校に行きます』と答えた。
その姿を叩かれると思った。あの担任の先生のように、
——慕っとる人に、『泣くなんて甘ったれ』って、見捨てられると思ったけん。
……そう、やっと思い出したばい。
俺が今まで、いわれてきたこと。
あの先生は怒鳴り声がすごか人やった。怒鳴り声なんてもんじゃない。罵声も含まれていたったい。
その中に、『叱られただけで泣くなんて、何て甘ったれなの。人間以下よ。親の顔が見てみたい』といわれたったい。
……その後、あざ笑いながら『ああ、貴方には親は居ないもんね。施設育ちだもの。人間以下に育っても仕方がないわ』といわれたったい。
悔しかった。悲しかった。
けれどそのままぶつかれば、きっと俺はひーたれながら怒鳴っていたったい。……そしたら、同じことになってしまう。相手が傷つくかはどうかは知らん。そやけど、自分がされて嫌なことをしたくはなかった。
傷つけられたからといって、傷つき返したくはなかった。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『玲の過去』更新!!】 ( No.241 )
- 日時: 2013/01/27 17:48
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992
今思えば、上手く説明できずに引き下がったのは、あの人に心配ば掛けたくなかったというのも、あったと思うったい。
「……でも、ついに我慢の限界が来てな。腹痛はすごか、頭痛もすごか、耳鳴りもすごかで、ついに精神科の病院に連行されたばい」
「うわあ、あたしと見事一致ですね、それ」
「やっぱり、玲ちゃんもそうやったんね。まあそこで、俺は綺麗に白状してな。今までのことも、学校に行きたくないことも、全部話したったい。そしたら、……」
——……そしたら。あの人は、俺ば抱きしめて、ひーたれながらいった。
「ごめんなさい」と。
貴方の傷の痛みに、気付いてあげれなくてごめんなさい。貴方がせっかくいおうとしてくれたのに、責めるようないいかたをしてごめんなさい。
私は、親失格ですね。ここまで傷つけて追い詰めて、貴方のことも考えずに一方的なことをいって、本当にごめんなさい。
本当に、ごめんなさい。そして、ありがとうね。
ちゃんと、自分のことを話してくれて、ありがとうね……。
「……謝って、くれたったい」
「え……?」
「感謝も、していたったい。……そしたら、とっても、心が軽くなったばい」
判って、くれたのだと。
自分の傷を、判ってくれたのだと。
嬉しくて、優しくて、涙が零れてきた。
……あの人から見れば、仕方がなかったことじゃろう。
だって、学校はいくものやけん。義務教育で、それが義務付けられてるけん。それが、一般論で、あの人にとっては常識やったけん。
——それでも、俺のことば考えてくれたけん、がばい嬉しかった。
「その後、その人は学校にいって、担任と話合った(ことになってる)ばい。そして、保護者を集めて、緊急会議を開いたったい。その中で、何人かの生徒が、俺と同じ状況になっとるってことが判明したったい。俺は療養中ということで学校ば休んだ。卒業式だけはいった。担任は卒業式が終わった途端、先生を辞めたったい」
あの人、新聞見て怒っとったなあ。こっちは慰謝料貰いたい気分なのに、卑怯者!! って。
毎朝いっとったけん、俺の朝は苦笑いから始まっとったなあ。
「中学校を上がっても、すぐには学校にいけんかった。体調はよーならんかったし、なにより俺の事情を知らん奴からは、『卑怯者』『えこひいき』ってしょっちゅういわれたったい。……それで、更に追い討ちをかけるようになったんやけど……。ある日な、救世主が現れたったい」
誰だと思う? と聞くと、玲ちゃんは即座に「わかんない」と返したったい。
……もうちょっと、考えて欲しか。
「それがな、うえっちなんよ!」
「え、おにいちゃんが!?」
俺の言葉が意外やったんじゃろう、玲ちゃんはビックリした声ば上げたったい。
「ありゃあ、二年の秋じゃった。毎朝うちに押しかけてきてな。どんなに腰を置いても引っ張られたし、それが例え遅刻しても、『いくほうがましじゃ!』っていって、俺ば引きずって……。じゃから俺、根負けして学校に来れるように頑張ったばい」
そしたら、お腹の痛みも殆ど消えとった。
身体のだるさしか残らない日常は、だんだんと充実感と疲れが残る心地よい日常になった。
そのうち陰口も消えて、普通に学校に来れるようになったったい。
「最初は、授業がいっちょん判らんかったけど、皆が勉強教えてくれて、嬉しかったよ。うえっちも成績はいまいちやったけん、一緒に補習ば受けたったい」
「それでやっと、毎日が楽しくなったんよ」と俺が笑うと、玲ちゃんも笑った。
「だからな。……無理して、学校にいく必要はないと思うったい」
「え……?」
「玲ちゃんは今、心の傷を癒しとるんよ。その為の期間じゃ。今身体が休め、ていうとるから、心も休んでるんったい。体の傷も、心の傷も、治る期間は人それぞれやと思う。それに、今玲ちゃんは考えんほうがいいと思うばい。いったん頭を真白にして、上から楽しいことや嬉しいことを、書き足していかんといけん」
「……そう、でしょうか」玲ちゃんが俯いて聞いた。
「そうったい」俺が返すと、玲ちゃんは更に俯いた。
「……あたしが本格的にこうなったのは、友人と喧嘩しちゃったからです」
ポツリ、と玲ちゃんがいった。
「昔はたいした事をしてないって思ってたんですけど、その子が凄く傷ついた顔をして、やっと事の重大に気付きました。でも、謝る前に、その子引っ越しちゃって。……あの子も、あたしと同じように傷ついているんじゃないか、引きずってるんじゃないかって思うと、自分だけが楽しい想いをしていいのかなあって、考えると……」
速い口調でいったせいか、所々噛んでいる玲ちゃん。それでも気にせんのは、苦しい想いがそのまま言葉として溢れたからじゃろう。
ちょっと落ち着かせるため、俺はあえてゆっくりとした口調で聞いた。
「うーん……俺は当事者じゃないけん判らんけど。友人、やったんじゃろ?」
玲ちゃんは、コクン、と頷いた。
「なら、喧嘩するのは当たり前ったい。そんなの、俺とうえっちの間にだってあるったい!」
「……そう、なんですか?」
「そうったい!」
玲ちゃんが、あんまりにも驚いた顔ばしたけん、思わず俺は声を大きくした。
「でも、仲直り出来たら、もっと仲良くなったけん。それでいいったい。バカなことも、傷つけることも、後で修正できるけん、安心して心を開け。これは、院ちょ……じゃなくて、俺の第二のお母さんな人がいったんじゃけど……玲ちゃんのお母さんには、これと似たようなことはいわれんかった?」
院長といって、モロ施設のことば自分でばらそうとした。危ない危ない。
「……いわれませんでした。誰にも。だから、人の接し方も、良く判らなくて、何時も失敗して、……人が怖くなりました」
「……そう、ったい」
この時、俺はてっきり、「友人というものは〜」のことを、親から聞かされているものだと思ったったい。だから、玲ちゃんが何故ここまで苦しんでいるのかが、良く判らんかった。
だったら。
「……だったら、俺が教えてやるったい!」
「……え?」
「友人とか、人との接し方が判らんかったら、誰かに聞くのが一番じゃ! な、ええじゃろ!?」
そうだ、判らないなら聞けばいいったい。
聞いてくれたら、教えてあげれる。判らなかったら、一緒に考える。
人の接し方も人それぞれやとおもうけど、参考にはなるハズったい。
これから少しずつ、学んでいけばいいんじゃけん。
俺が明るくいうと、玲ちゃんは少し、嬉しそうな顔ばした。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『玲の過去』更新!!】 ( No.242 )
- 日時: 2013/01/27 17:59
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: l6pfUsAS)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_l/view.html?103992
「……ありがとうございます」
でも、と玲ちゃんは続けた。
「……でも、もう、貴方には会いません」
……予想外の言葉に、俺は思考が止まってしまった。
「……人と話すのは、今も好きです。……でも同じ傷や境遇を持つ人だからこそ、もう会いません。だって、このままいたら、また傷つけるかもしれない」
ゆっくりと、けれど息ば切れることなく、玲ちゃんは話を続ける。
「判ってるんですよ。あたしが苦しいのは、ただ臆病なだけなんだって。……失敗を恐れない勇気さえあれば、こんなにも苦しむことはないです。でもあたしは、逃げるほうがらくだから」
そういって、玲ちゃんは笑って断言した。
「もう、会いません。あたしは、貴方を忘れます。だから貴方も、あたしを忘れてください」
その後、俺たちは一言も喋らんかったったい。
今の時間、セール中で騒がしいハズなのに、俺の耳には、全然届かんかった。
「……ほら、おにいちゃん帰ってきました。これでお別れです」
こっそりと、玲ちゃんが耳元で告げた。
「ごめん、遅くなった」
ほいお茶、とうえっちが俺にお茶を渡してくれた。
貰ったお茶の製品名は、『お〜●、お茶』だったばい。俺は綾●派やけど。
「いいよ、おにいちゃん。あたしが全部持って帰るから、おにいちゃんはお友達と遊んできて」
「え、いや俺が」
「いいから。こんぐらいなら持てるし。じゃあ」
玲ちゃんは、うえっちから買い物袋をひったくった。
そして止める間もなく、外へ出て行ったったい。
「……いっちゃったな」
「まったく、似とる兄妹じゃなあ」
一人が慌てて去っていく姿も、一人がその姿にあきれる横顔も。
本当に、よく似ていたばい。
「……聞いたのか、玲から」
「うん、一応。色々と」
俺の色々がどんな意味を指すのか判っとるうえっちは、そっか、といった。
それだけで、後は俺に何も聞かんかった。
「あいつはずっと、あんな風に笑っているんだ。おかしいぐらいに……」
けれど、独り言は口に出しとった。
笑っていた。ばってん、笑顔には暗く、辛いもんが裏に隠されとることを、俺は知っているったい。
後から思ったんやけど、俺はこの時、玲ちゃんに対してとても無神経なことをいっとったかもしんない。
あの人が、俺に不登校ば許さなかったのと同じで、俺の言葉は彼女には、悩むことば許さないようにしか、聞こえんかったかもしんない。
そのことが気がかりやった。ずっと。
◆
「だから、喫茶店に来た時、本当に驚いたんよ。……本当に、玲ちゃんは俺のことば忘れとったみたやけど。それでも、ひーたれた玲ちゃんば見たら、放っておけんかった」
「だから、ダメナコに頼んだのか」
俺が聞くと、瀬戸はコクン、と頷いた。
「……でも、代わりにダメナコ先生がああなってしまった。俺も、失敗ばっかったい」
「瀬戸君……」
フウが、遠慮がちに名前を呼んだ。
瀬戸はニコリ、と人の良い笑みを返し、少し疲れた顔で俺に聞いた。
「なあ、みやっち。玲ちゃんは、どないしたんやろうか。
あの時、ダメナコ先生に何か話そうとしてやめた時、あの怯え方は尋常じゃなかったったい」
「……さあな、そこまでは判らん」
俺は探偵でもエスパーでもないので判らない。
けれど。
「それはドアの所でボサッと立ってる奴が、知ってるんじゃないか?」
「……えっ?」
俺がいうと、バッ、と、視線が集まる。
閉められたハズのドアの前に、……あのボロボロな本を持った、武田だった。
一瞬、三人の動きがフリーズする。
「え、え、え!?」
「い、何時から居たの!?」
困惑するフウと瀬戸に、俺は「『玲ちゃんの家は〜』って話している時にはもう居たぞ」というと、「ほぼ最初っからじゃん!」杉原が突っ込んだ。
「まあ、フウと瀬戸はドアに背を向いていたから気付かないのも仕方ないけど、杉原、お前は気付くはずだろ」
「……全然、気付かなかった」
マジか。
「……で、武田」
「あ、僕居たんですね」
悲しいことをいわんでくれ。
「……武田、お前……上田玲って奴を、知っているだろう?」
「何のことですか?」
武田が、すっとぼけたような声で聞いた。
……ふざけていった感じでは、ない。嘘をついている感じでも、ない。
ただ、本当のことをいった感じでもなかった。
「……正しくは、三浦玲だけどな。知ってるだろう?」
瀬戸が驚いて立ち上がった。
「な、何でみやっちが玲ちゃんの前の名字ば知ってるったい!?」
「ねえ何で!?」興奮して今にでも首を絞めようとする勢いで聞く瀬戸に、「どうどう、落ち着け」というと、「俺は馬じゃないったい!」……逆効果だった。
「あー、それは後で説明する。……で、知ってるのか、武田」
その問いに、武田は何もいわなかった。
ただ、しっかりと頷いた。
瀬戸は、息を呑み、フウと杉原は、成り行きを一歩離れて見ていた。
第三者の次は、当事者
(瀬戸が立った時の衝撃のせいか)
(冷たいハーブティーが、波立った)
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『瀬戸と玲の話』更新!!】 ( No.243 )
- 日時: 2013/01/27 18:57
- 名前: ライアー ◆4gulet/d9g (ID: j553wc0m)
やばいったい。瀬戸君が不登校なんて想像つかんかったったい。
本当、人は見た目によらんばい・・・。
・・・はっ、これが瀬戸ショック!!w
ということで、ライアーですw
玲ちゃんの心の傷は相当深いものですね。
そしてついに、当事者である武田君の登場ですか・・・。
彼が何を語るのか。それがどう物語を動かしていくのか・・・。
この事件?の真相を見届けたいと思います。
応援しております!! ではでは、お身体にはどうかお気をつけて。
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