コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 臆病な人たちの幸福論【第五部完結】
- 日時: 2016/03/05 21:35
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: AO7OXeJ5)
臆病な幽霊少女は、思い出す。
人を疑いながらも、好きだったわたしを。
泣き虫な文学少年は、後悔する。
せめて、言葉にして伝えたかった。
怠惰な女性司書は、紛らわす。
子供に甘えるなんて、どうなのよ。
憂鬱な平凡少女は、自身を罵る。
どうしようもないなあ、あたし。
——愛。
それは彼らに共通したもの。
カタチは違うけど、彼らを繋ぐ。
繋がりの中で彼らは……何を見つけるのだろうか?
黒雪様の【あなたの小説の宣伝文、作ります!】に頼み込んで、作ってもらった素敵な紹介文です!! ありがとうございました、黒雪様!!
お知らせ!!>>485
ご報告!!>>198
5000いけました!!!>>390
【皆おいで! オリキャラ投稿だよ!! ついでにアンケートもだよ!】>>165(本気と書いてマジと読む。どうかよろしくお願いします!)
はい、全然完結させてない八重です。
…今回は、ちゃんと完結させるつもりでございます。…多分。
約束守れない人って、情けない…。
注意
・低クオリティ。何かありきたり。
・幽霊が出てきます。
・最初はとんでもなく暗いです。
・中傷など、常識やルールを守れない方はすぐにお帰りくだされ。
・恋物語です。でも、糖分は低めです。
・瀬戸君の佐賀弁が似非っぽい。
・宮沢賢治のお話がちょろちょろでます。
・批評大好物なので、バッチコイ! あ、でもあまり過激なモノは…(汗
・宣伝は常軌に外さなければおkです。ただ、宣伝だけはおやめください。お友達申請? カモンです!!w
・誤字脱字あったらすぐにコメを!!
では、よろしくお願いします!!
この小説に欠かせない大切な方々の名前一覧!>>430
目次
登場人物>>54(ネタバレあり。本作読むのが面倒な人はここを読んで置くのがオススメ。大体の話の筋はわかるから)
〜第一部〜
臆病な幽霊少女…>>01(挿絵>>231)>>02>>03>>08(挿絵>>431)(長いこと関わらなかった幽霊少女が恋慕を抱く話)
泣き虫な文学少年…>>14>>15>>16(挿絵>>549)>>19(一人を望んだ文学少年が『独り』になることに恐怖を抱く話)
怠惰な女性司書…>>30>>31>>32>>33(怠惰に過ごす女性司書が一人の少年を見て我が身を振り返る話)
憂鬱な平凡少女……>>39>>40>>41>>42(日常を憂鬱に過ごしている平凡少女が弱さを知る話)
【自戒予告〜字が違うよ次回予告だよ〜】>>50(ふざけすぎた次回予告です)
〜第二部〜
間章または序章>>55>>56(幽霊少女と、『声』の話)
第一章 春を迎えた文学青年>>60>>61>>62>>63(文学青年と平凡少女が、非日常に巻き込まれる話)
第二章 困惑した文学青年>>64>>67>>68>>69(幽霊少女の真実と奇跡が、垣間見えた話)
第三章 前進する文学青年>>73>>74>>75>>76(幽霊少女の周りの環境が、だんだんと変わっていく話)
間章 >>87(閉じこもってしまった幽霊少女が、やがて狂っていく話)
第四章 平凡少女の行動>>95>>96>>97>>98(諦めかけた文学青年と、行動を起こした平凡少女の話)
第五章 揺らぐ文学青年>>105>>106>>107>>108(平凡少女と、文学青年と、臆病少女は)
第六章 踏み出す文学青年>>118>>119>>120>>121(イレギュラーが入り込む話)
間章 >>128>>129(混乱する臆病少女の前に、文学青年は)
第七章 どうすればいいのか、判らないことだらけだけど>>132>>133>>134>>135>>136(泣き虫な青年の答えに、臆病少女は)
最終章 やっと、春を迎えました>>141>>142>>143>>144(さあさあ、春と修羅が始まります)
後書き>>149(とりあえず読んで欲しい)
【次回予告〜今度はまじめにやってみた〜】>>157(第三部の次回予告)
〜第三部〜
「モテたいんだ」「「「……はあ?」」」>>161>>162>>163>>164(とある男子高校生の会話)
「えっと、『おぶなが』と『たかだ神殿』が『長しその戦い』で戦って……?」「『織田信長』と『武田信玄』が『長篠の戦い』で戦った、だ」>>175>>176>>177>>178>>179(とあるリア充の話)
「あ、ダメナコ先生じゃなかー!」「ダメナコじゃない。私の名前は光田芽衣子よ」>>187>>188>>191>>192 (とある元引きこもりと不登校少女の話)
間章>>196>>197(とある不登校少女は逃走する)
「何時もより早く登校したら、校門の前にパトカーがあった」「誰に話しているの? 三也沢君」>>214>>215>>216>>217(とある文学青年が、踏み入る)
「——そこに居るのは、誰ですか?」「だあれ、君……?」>>223>>224>>225>>226(不登校少女と、やさしい想い出と苦い想い出と)
「……玲ちゃんの家は、一度離婚してるったい」>>239>>240>>241>>242(第三者が語る、不登校少女の姿)
「どうして、ないてるの?」>>252>>253>>254>>255(無表情少年と不登校少女)
間章>>258>>259(不登校少女と、不登校少女の父)
「何でこんなあつー日に走らんといけんと!?」「全くだ!」>>265>>266>>269>>270(少年少女の試行錯誤)
「い、行かせて平気なんですか!?」「平気よ」>>271>>272>>273>>274(怠惰な司書と平凡少女と臆病少女の他人事と共感と)
『この世界は、嫌なことだらけだ。悲しい事だらけだ。でもだからこそ、お前なら、小さな幸せを見つけることが、出来るはずだろう?』>>281>>282>>283>>286(結局のところは)
「……で、結局どうなったんだ?」>>287>>288>>289>>290(大団円を迎えたよ)
「きっと、何とかなるよ」>>291>>292>>293>>294(第三者だった、文学青年と臆病少女の考察)
小話>>366(第三部の後日談)
後書き>>305(とりあえず読んで欲しい)
【自戒予告〜反省なんて言葉は無いんだよ〜】>>311(シリアスばっかだったから〜…)
〜第四部〜
蛍火の川、銀河に向かって【前編】>>312>>313>>314>>315
蛍火の川、銀河に向かって【中編】>>316>>317>>318>>319
蛍火の川、銀河に向かって【後編】>>323>>324>>325>>326>>327
【あの日を誇れるように ぱーとわん】>>335>>336>>337>>338
【あの日を誇れるように ぱーとつー】>>339>>340>>341>>342
【あの日を誇れるように ぱーとすりー】>>353>>354>>355>>356
【あの日を誇れるように ぱーとふぉー】>>358>>359>>360>>361>>362
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその一」>>367>>368>>369>>370
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその二」>>384>>385>>386>>387
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその三」>>393>>394>>395>>396
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその四」>>402>>403>>404>>405
「今年の夏休み……ふざけてますよね」「だからその言葉は以下略のその五」>>407>>408>>409>>410>>411
『思い出と後悔のこの町は、また今日も』>>415>>416>>417>>418>>419
【低気圧&高気圧注意報】(方言監修:ルゥ様)>>510>>513>>514>>515>>516(Battle of youth)
〜第五部〜
序章>>426(口裂け女と労働青年の邂逅)
第一章 健全なる高校男子の昼食事情>>433>>434>>435>>436(口裂け女の噂と高校生の話)
第二章 労働少年の秘事>>440>>441>>442>>443(労働少年の家と隣の口裂け女)
記憶喪失の口裂け女の話 一>>447>>448>>449
記憶喪失の口裂け女の話 二>>454>>455>>456
第三章 文学少女と文学青年>>460>>461>>466>>469(女子トイレと橘と後輩と)
口裂け女と労働青年の日々 一>>471>>474>>479>>480
第四章 それは全てを変えるような>>483>>484>>486>>493(ぐらつく足元)
口裂け少女のたまに見る夢>>496>>497
【第五部後半 予告編】>>503(こういうの結構楽しく書ける)
口裂け女の終焉の始まり>>521>>523>>524
口裂け女 ムカシバナシ 1>>525>>526
口裂け女 ムカシバナシ 2>>527>>528>>529
第五章 瀬戸少年の意外な面について>>530>>531>>532>>536(キレる瀬戸君、笑うフウちゃん)
口裂け女のひとつの過ち>>545>>546>>547>>548
口裂け女のひとつの過ち その2>>551>>552>>553>>554
第六章 少しずつ忍び寄る>>559>>560>>561>>562(怪異と妖怪と幽霊と)
第七章 元幽霊少女と現怪異少女>>563>>564>>565>>566(諷子と千代)
口裂け女ノ邯鄲ノ夢>>567>>568>>569
第八章 間違っていること、正しいこと>>570>>571>>572
口裂け女の初めてのデート>>573>>574>>577>>578>>581
第九章 それは何も変わらず>>584>>585>>586>>591
よだかの星になった少女>>592>>593>>594
終章 泣き虫な文学少年と、憂鬱な平凡少女、臆病な元幽霊少女の>>598>>594>>604
番外編・企画・もらい物>>470(これまた多くなったので引っ越し!)
履歴>>332(多すぎてスクロールするのがめんどくなったので引越し!)
その2>>539(その2まで出来ちゃった……本当にありがとうございます!!)
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- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第七章』更新!】 ( No.139 )
- 日時: 2012/12/07 17:11
- 名前: エストレア ◆p0imGsDc06 (ID: dFTsrC3s)
ケンちゃん、あなたは何故そんなに、私を感動させてしまうんだい?
…っと、問うてみたいエストレアです!
すごすぎて、感動で言葉が出ません…。
という訳で感想を。
そうです、諷子さん。あなたは生きるべきだ。
この世界には、あなたを想う人がたくさんいるからね!
楽しい事、いっぱいあるからね!
そして、ケンちゃん。
早く元の世界に返って来てください。
クラスのみんなが待ってますよ。
体調に気を付けて、執筆頑張って!
ではでは。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第七章』更新!】 ( No.140 )
- 日時: 2012/12/08 17:16
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
エス様!!
まさかまさかの感想コメ!!
ありがとうございます!!(感涙
色々表現不足なところが多かったと思いますが、いかがでしたか?
一応、いいたいことを詰め込んだので、伝わっていれば良いな、と思います。
はい、体調に気をつけて更新頑張ります!!
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第七章』更新!】 ( No.141 )
- 日時: 2012/12/12 22:26
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
最終章 やっと、春を迎えました
あの日から数えて、一週間。
その前に一ヶ月間俺はここに通っていた。そのお陰で殆ど間取りを覚えてしまったと思う。
だが、一週間ぶりにここを訪れると、何だか久しぶりに訪れたように感じた。
ドアを開けると、何の汚れもない真白なベッドとカーテンが、目に焼きつく。
その真白な背景のせいか、色がついたフウは、何処か浮世離れしているように感じた。
「久しぶり、ケンちゃん」
穏やかな風が流れた。サラサラとカーテンと共に、濡れ羽色のフウの髪が揺れる。
楕円型の瞳は、やはり何処か寂しげな色を伴って、フウが綺麗に笑っても儚げにしか見えない。
「手術、成功しました」
そういったフウの足は、もう無い。
その事実を改めて知らされた時、何かがポカリ、と抜けた。
確かに、世界は辛いものだけじゃない。
けれど現実は、そう甘くはなかった。
◆
目が覚めたとき、俺は入院している患者さんが使うベッドの上に寝転がっていた。
辺りを見渡せば、ここは個室のようで、傍には紫と淡いピンクの着物を着た、見たことの無い上品なお婆さんがパイプ椅子に座ってる。
見たことは無かった。だが、知っているような気がした。何だか、不思議なおばあさんだった。
ここまで確認出来たとき、今までのことは夢か? と思った。
だがそれは、すぐに否定される。
お婆さんが小さくも良く通った声で、「お主が待っている人は、たった今意識を取り戻したそうじゃよ」といってくれた。
お婆さんが指している人がフウだと判るまでに、そう時間はかからなかった。
お婆さんに、俺は軽く礼をいって、慌てて集中治療室に駆け込んだ。
「……やれやれ、慌しいこと」
そうお婆さんが呟いたことを、俺は知らない。
廊下は走ってはいけない。
そんな常識はすっかりどこかへいってしまうほど、俺は興奮していた。
走れ。
走れ。
もっと、もっと早く。早く、早く。
辿り着いた場所には、杉原、杏平さん、そして——。
「フウ!」
目を覚ましたフウが、そこに居た。
杉原たちは、フウを囲むようにして立っている。
その姿を確認したとき、ゆっくりと、全身が熱くなった。
走ったせいか、それとも興奮しているせいか、心臓がバクバクと鳴っている。いや、心臓だけじゃない。体中に巡っている血管全てが、脈を激しく打った。
——全部、全部終わったのだ。
最高の、ハッピーエンドに終わったのだ!!
あれほど、焦がれていた終わりが、今目の前にある。
何ともいえない嬉しさは、しかし、すぐに終わりを告げた。
「……痛い」
フウが、呟く。
そして、——彼女は、叫んだ。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第七章』更新!】 ( No.142 )
- 日時: 2012/12/12 22:29
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
◆
「まさか、あの時足が腐っていたなんて、気付かなかったですよ」
ケラケラとフウは笑う。
それを横目に、俺は持ってきた花を花瓶にさして聞いていた。
「あんな痛み、生きてて中々味わえないもんです」
「しょっちゅう味わってたら、おま、何処の軍人? って聞きたいわ」
俺が突っ込むと、フウは面白そうに笑った。笑い事じゃないっての。
あの後、フウは足が腐っていることが判明。手も、麻痺しており動かない状態だったが、リハビリをすれば元に戻ることが判った。だが、腐ってしまった足は、切断するしかなかったのである。
それから一週間、俺は院長先生から面会を拒否された。ようやく、許可がもらえたので花を持ってやって来たと、こういうわけだ。
「でも、笑えるよね。幽体時代の時は足があったのに、肉体に戻った途端足が無くなったって」
「笑いたいが笑えねえ事実だ、ダアホ」
……コイツ、ダイジョウブか?
足が無くなって、ショックを受けたと思ったら、この明るさ。ショックのあまり頭のねじが何処かへいったのか?
そんなことを考えていると、フウがジト目で見つめてきた。
「ケンちゃん……失礼なこと考えているよね?」
「ケンちゃんいうな」
だが、失礼ないことを考えていたのは謝罪しよう。
そういったら、「そんな気ないでしょ!?」と突っ込まれた。何故バレた。
フウはゆっくりとため息をつく。
息の音が、風の音に紛れた。
「……何となく予想はついていたんです」
「予想?」
俺が聞き返すと、フウは苦笑いで返した。
「……ほら、夢想の世界で、わたしの手足、池に突っ込んでいたでしょう。底が冥界に繋がっている池に」
「……あ」
そういわれると、成程、と思った。
確かに、足と手が沈んでいた。そして、手よりも足のほうが深く沈んでいた。
池に沈めば、その分だけ死に近づくと、あの時のフウはいっていた。
つまりあの時点でもう、フウの足が切断されることは決まっていたのだ。
——間に合わなかったのか、と俺は思った。
どんなに綺麗ごとをいっても、どんなに頑張っても、結局俺はフウを思うように助けることが出来なかったのだ。
もっと、早く助け出せば。
もっと、早く動けば。
ぐだぐだ悩んでいるうちに、フウの足はもう戻らなくなってしまった。
取り返しがつかないことがあると、今ようやく思い知った。
……足がなくなるということがどれ程大変か、俺には想像がつかない。
けれど、人と同じようなことが出来なくなってしまうというのは、怖いことだと思う。
手も、リハビリすれば治るっていうが、その過程がとても痛く辛いものだっていうことは、何となく判った。
今まで辛い思いをしたフウに、また辛い思いをさせなければならないなんて、何て俺はバカなん……。
「ケンちゃん」
「っへ?」
落ち込んでいると、フウがドアップで写っていた。どうやって、と思ったが、器用にベッドの上を移動したようだ。
……いや、そんなことはどうでもいい。それよりもこの指の構えはッッ!!
「でや!」
ピンッ! と、フウは人差し指を弾く。
——やっぱデコピンだった!!
「いだあああああああああ!!」
しかもこのデコピンは本当に痛い。三分ぐらい転げまわってないと辛い。
やはりというべきか、俺は不衛生な床を転げ回った。
「あのさあ、ケンちゃんわたしを見くびってない?」
フウが大げさにため息をついた。話し声も若干棘があるし、目元には影を作っている。しかもどこぞのヤがつくお仕事の人のように、腕を組んで仁王立ちしている。
……何か、いや、確実に怒ってる。
「足がなくなったぐらいで怯えるほど、わたしは弱くないの。ってか元々、わたしは病気持ちだったんだよ? こんぐらいでガタガタいうほど、子供じゃないです」
「いや、足がなくなった事実は、『こんぐらい』の一言で済ませることでは……」
「異論は認めません。わたしが決めたことですから」
キッパリとした口調で、フウは遮った。
「生きようって決めたのも、足をぶった切ったのも、全部わたしが選んだ選択です。例えそこにケンちゃんの助言があろうが、足をぶった切るしか方法がなかろうが、結局選んだのは自分自身ですから。自分が選んだ責任ぐらい、自分で取れます。バカにすんな」
……お、おおう。
怖い。背後にオーガが。鬼が見える。
「……ですが」フウは顔を緩めた。
今さっきまでのギスギスした空気が、嘘みたいに霧散される。
「わたしを助けてくれたケンちゃん、そして見守ってくれた皆さんには、ちゃんとお礼をいわないとね。ありがとう」
「あ、いや……気にすんなよ、俺何いったか覚えてないし」
「わたしは覚えています。ってか、自分の言葉忘れるとか、どんだけ無責任なんですか」
「す、すいません」
とりあえず謝った。ってかまたか。
あれ、フウすれてない? 何だか若干、Sっぽいんだが。あの純粋なフウは何処にいってしまったんだ。
- Re: 臆病な人たちの幸福論【『第七章』更新!】 ( No.143 )
- 日時: 2012/12/12 22:32
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
「……ああ、でも」
フウは、躊躇う様に目を伏せる。
両手を突き出して、動かない指を何とか動かそうとしながら、それでも動かないけれど。
何かを決意した表情で、彼女はいった。
「……わたしも、何を悩んでいたのか判らないの。あんなに苦しかったのに、どうしてあそこまで何もかも壊したいって思ったのか判らない。
どうして、逃げてしまったんだろう。どうして、憎んでしまったんだろう。
今思えば、わたしはあの時、正常じゃなかったんだ。きっと、自分で何とかしようと思う度に、歪んでしまったんだと思う」
そういって、フウは自嘲気に笑った。
「パソコンだって、昔じゃ考えられないくらい色々出来るけど、ウイルスが入り込めば専門のソフトを取り込んで撃退しなくちゃいけない。一人でどうこうしようとする度に、ウイルスは更に悪化していく。
苦しいから閉じこもるなんて、一人崩れた洞窟の暗闇の中で発狂することを自ら望んでいるようなもの。そんなことすら、わたしは気付かないほどの弱虫で臆病者だったんだ。……ううん、本当は判っていたの」
ゆるゆると首を振って、フウは自分がいっていたことを否定する。
「……独りが寂しいことぐらい、誰かに気付かれないのが怖いことぐらい、とっくの昔に知っていたのに。それを否定して、忘れようとした。
でもね、ケンちゃんがいってくれた。忘れているから、いうね?
ケンちゃんはわたしに、『それでいいよ』っていってくれたんだよ?
弱くてもいい、憎んでもいい。悲しんでもいい、辛くてもいい。
傷つく理由なんて、何処にもない。だから、それらの感情に理由は存在しないから、素直のままでいいって、……そういってくれたよ」
「……忘れたなあ、そんな言葉」
「やっぱり?」
俺の言葉に、ちょっと苦笑するフウ。
「……生きているってことは、闘うことだと思うの」
ポツリ、とフウは詩人がいいそうな事をつぶやいた。
「逃げても逃げても、やっぱり何処かで闘わなければならない。それは自分の弱さだったり、コンプレックスだったり、わけが判らないものだったり。
意識を取り戻す前に、一瞬だけ見えたあの世界も、本当に素晴らしい世界だったのに。目を開けても、傷つくものなんて存在しない。永遠のものだけがある。一生春のような本当に綺麗な世界だったのに、わたしはそこすら怖かった」
あの夢想と呼ばれていた世界は、確かに凄く綺麗な場所であった。
俺でも思う。あんな世界に住めたらな、と。
けれど、本当にこの世界を捨ててまで住もうとは、どうしても思えなかった。
「本当の安全地は、きっと何処にも存在しない。例え、それがどれ程綺麗な世界でも、傷つく場所ではなくとも」
そして、彼女も、恐らくそう思ったのだろう。
どんな場所でも、傷つかない苦しまない場所などない。
何の痛みもなくなればきっと、人間は本当に自分が存在しているのか不安になって、確かめる為に自分で傷をつけるだろう。
……人間というのは欲の底が尽きない。
けど、とフウは続けた。
「けど、……肩の力を抜けれるのなら。ありのままの自分を受け入れることが出来て、そしてそれを認めてくれる人が居たら。それは、素晴らしい安全地だと思うの。例えどんなに怖いことがあっても、辛いことがあっても。きっと、前に進める。何とかなるって思える」
だから大丈夫だよ、とフウはいった。
「ケンちゃんが傍に居てくれれば、多分、わたしは何処までもいける」
足が無ければ、義足でも何でもつけて、それで訓練して歩く。
手が動かないのなら、沢山頭から指の先に命令して動かしてみせる。
その努力を見守ってくれるのなら、きっとわたしは何処までも頑張れる。
そんな、気がするの。
そういって、フウは微笑んだ。
憑き物が落ちたような、そんな表情だった。
サアアアア、サアアアア。
今日で何回目の風が吹いただろう。
その中で俺は、フウの身体を抱きしめた。
カーテンが、ひらりひらりと、揺れる。
花の匂いにつられたのか、窓からモンキチョウが入ってきた。
「……ケンちゃん?」
何か、デジャヴだね、とフウが耳元でいった。
けれど嫌がる様子は無くて、むしろ嬉しそうな様子だった。
——ああ、これが。
「(愛おしい、という感情なのか)」
改めて想った。
その感情を肌で、感じ取る。
トクントクン、と心臓の音が聞こえた。
彼女の身体全身から、脈が打つ音が感じられる。
たまに、どうして息をしなければ生きていけないのだろうと思った。
息をするのが、面倒くさいって思ったことも、まああった。
それと同じに、どうして人は悲しまなければならないのだろう、と思った。
皆が皆幸せなら、悲しむことなんて無くなると。
——けれど、その意味が、ようやく判った気がするんだ。
弱弱しいから、愛おしいと思うのだ。その中で頑張ろうとするから、輝くのだ。
その光に焦がれて、憧れる。
正しく生きようとするのに憧れて、どうしようもないと思っている姿に、愛おしく感じて。
——そうやって人は、頼って、支えあって、生きている。
確かに俺は、好きでこの世界に、あのバカ母に生まれたわけではない。
でもきっと、こんな生い立ちじゃなければ、そしてこの世界に生まれなければ、フウと出会うことは無かったのだから。
今までの不幸がなければ、今、この時の幸せを感じることなど、出来やしないのだから。
傷つく理由は、存在しない。
そして、この一瞬の幸せの理由も、存在しない。
だからこそ、言葉にするのは、とても難しくて、フワフワしているけれど。
「……なあ。フウ。俺さ——」
だからこそ、ハッキリと言葉にしたい。
あの日、いえなかったことを、ちゃんと言葉にして伝えたい。
風が流れる。
モンキチョウが、今日持ってきたサクラ草の花びらに、止まった。
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